宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
(長いと思ったので)
戦闘無しのインターミッションっていう回です。
玄関と外の世界 前編
《ここまでの話》
地球衛星軌道ドックより発進したWunderは太陽系を進み、自身の力を確認し自らのものにして、準備運動を進めてきた。
そして、太陽系の最果て、冥王星にある前線基地を壊滅させたWunderは、太陽系の内外を隔てる境界線である『ヘリオポーズ』に向かっている
《第4章 星屑と命の輝き……》
母なる星、地球を発ってから1週間が経とうとしていた。
作戦の成功もあってか艦内の空気も明るく、現在のところ順風満帆の航海である。
そして、目と鼻の先に外宇宙が広がっている。この先は未知の海域で、ルートも手探りの航海となる。
必然と、艦内の空気も引き締まる。
「アスカ、EURO2の運用データは?」
「これです」
そう言いながら、アスカはタブレット型端末を赤木博士に手渡す。
アスカは今、赤木博士の研究室でEURO2のデータを提出していた。宇宙での実戦を終えたEURO2は、事前に行ったシミュレーションと実際の飛行データとの間に大きなズレが見られた。
そのズレを少なくして、アスカの好みに再調整するために研究室に来ているのだ。
「……ふぅ、ここまでの高機動でも問題なかったのね」
「?」
アスカは疑問に思った。自分の体と機体は問題なく動いていたはずだけど…。
「これほどの高機動を従来の機体でやると、1回出撃する事にオーバーホールしないといけないのよ?」
「? じゃあなんでEURO2はなんともないんですか?」
「それを今から調べるの」
そう言いながら赤木博士は、タブレット型端末と自分のパソコンを繋ぎ、解析ソフトに流し込んだ。
EURO2のみならず、艦載機にはミッションレコーダーが内蔵されている。エンジン出力はもちろんのことだが、どれほどの角度、スピードで旋回したか、ミサイルをどの種類何本消費したか、機銃の操作などなどの操作が全て保存されている。
それを解析することで、最適な訓練プログラムを作り出すことができるし、機体調整や新武装の開発も可能だ。
「……エンジン出力が規定値を上回ってるわ。でも機体が耐えることが出来たのは……恐らくサイコマテリアルの影響ね」
サイコマテリアル……。生物の意志を拾い、時に増幅する特殊な金属素材であり、その素材から生まれたシステムが「インテンション オートマチック システム」であり、「NT-D」である。
しかしその製造はそこまで難しくはなく、ナノサイズのコンピュータチップを金属焼入れ時に封入することで、この摩訶不思議素材が完成する。その気になればWunderの設備でも製造することは可能である。
ここまでの説明だと、「意思を拾う金属」という印象で終わってしまうが、この金属素材には摩訶不思議な点が存在している。
1つは「発光する」ということ。
サイコマテリアルは見た目は灰色の金属だが、試験運用時に赤く発光する異常現象が発生している。これは開発者の意図していないことであり、解析が行われたが「原因不明」であった。光り輝くのは運用上問題ないのではと思われたが、戦闘機などに使用する際、発光する特性は敵に位置を露呈することに繫がってしまう。
2つ目は「体積が増加すること」である。
サイコマテリアル発光時には、体積が増加してしまう。これは大した問題では無いと思われたが、基礎フレームにこの素材を使用する際、体積増加で機体が変形、破断する可能性があった。故にEURO2の装甲板には細かな継ぎ目が彫られていて、体積増加時に展開することで機体の破断を防いでいる。
3つ目は、「発光時に硬度が跳ね上がること」である。
サイコマテリアルは、前述した発光現象が発生すると、硬度が通常時よりも格段に跳ね上がる。通常時は基本的な装甲材と変わらない硬度を示すが、発光時は至近距離からの爆発にも耐えるほどだ。これは機体の異常加速によるフレームの耐性向上に一役買っている。そのため、これに関しては特に問題はないとされている。
4つ目は「
EURO2は試験パイロットを乗せて飛行した時、暴走して自らNT-Dを発動させた。その結果、思考制御に対して試験パイロットが強烈な抵抗を示した結果、精神が崩壊した。それで事が済めば良かったが、暴走したNT-Dの殺人的な機動力で内臓が潰れるほどの惨事となってしまった。
すなわち、EURO2はパイロットを殺した機体である。
これ以降EURO2は、アスカという乗り手が現れるまで厳重に封印されてきた。
「……サイコマテリアルの方からエンジンに干渉したらしいわね、それでエンジン出力が限界まで上がった感じね」
「それって、私がそう願ったからですか?」
「十中八九そうでしょうね。人の意志を拾うオリハルコンが使われてる以上、ある意味考えすぎは良くないわ。あとはやっておくわ、結果が出たら連絡する」
「お願いします、博士」
そう言い、アスカは研究室を後にした。
(さて、問題はコレね)
赤木博士は解析を機械に任せて、自分はとあるシステムの概念図と向き合った。
NT-D……New Triumph Dominatorの略称だが、これは表向きの意味で実際には違う。
New Type Destroyer……それがあのシステムの真の名称であり、本来のあるべき姿だ。
(NT-D……。こんな非人道的なものが実装されていること自体おかしい……でも、ユーロの開発局が単独でこの素材とNT-Dを生み出せたの?)
そう思いながら、赤木博士はミッションレコーダーの解析を進めた。
「今日の夕食は……これかな」
今回のリクの食事は「太陽系脱出記念 木星オムライス」だ。名前に違わぬボリュームで、デミグラスソースが木星のあのシマシマを見事に再現した至高の一品である。
慎重にテーブルに運んで手を合わせる。
「いただきます!」
そこからは早かった。どんどん減っていく。山盛りオムライスが端からどんどんリクに吸い込まれていく。その勢いは半分に達するまで衰えることは無かった。
もしも惑星を貪り食うような謎の物体がいたら是非ともリクの食べっぷりを見せたいものだ。
「彼をお手本にしろ」と
「リク、なんだかすごいの食べてるね……」
横を見ると、ユリーシャが美味しそうに見ていた。その手には、和食が乗った配膳プレートがあったが、もうそれどころでは無さそうだ。完全に目が巨大オムライスに行っている。
「スプーンあるならちょっと食べてみる?」
「食べたい!」
ユリーシャは目を輝かせながら自分のスプーンを構えた。
そして一口。その数秒後、溶けたような顔をしていた。
どうやらご満足頂けたようだ。
「サーシャ姉様にも食べさせたいわね」
ふと漏らしたその言葉は少し寂しげな感情が含まれていた。
「ユリーシャ、サーシャさんの容態は?」
「サド先生の話だと、生きてるけどいつ目覚めるか分かんないって、でも脳死の確率はゼロって言ってたよ」
「そうか……でも、確かに生きているんだ。こっちでも一応挨拶しに行っておくよ」
「ありがとう」
そこからは各自で黙々とモグモグしていたが…
「リク……? それ木星オムライスじゃん……」
ハルナもやってきた。夕食は中華のようだ。
「お? ハルナも休憩に来たの?」
「ううん、全部終わったからご飯食べに来たの。」
「凄いじゃん、僕まだ終わってないぞアレ」
「まあ……量は少なかったから…」
そういうとハルナは少し俯いた。気になったのかユリーシャが覗き込んでみると「頬がほんの少し赤い」のだ。しかし、それを言う程野暮ではない。そこは宇宙広しと言えども共通なのである。ここはぐっと我慢して1人でニタニタ我慢をする。
その視界の端にマリがいることにユリーシャは気づいた。
その光景をお供にして食後のお茶をニタニタしながら飲んでいる。
マリもユリーシャに気づいたのかウインクする。
「そうだ、それ1口ちょうだい」
「いいよ~スプーンとかあったっけ?」
「……ない」
(いや、どーすんの…)
「ねぇねぇリク~、こういう時は自分が使ってたスプーン使っちゃえば?」
「?! ゲッホゴッホゴッホッ!」
ユリーシャの爆弾が見事に命中。リクが盛大にむせる。
「……私は別に気にしないけど?」
(いやいやハルナっち。それは、ある意味気にする人の言い方にゃ)
「いや箸でも食べれるでしょ?」
「むう……」
そういうとハルナは膨れた。マリは背を向けて何事も無かったかのように茶をすするが、内心爆笑している。
「……仕方ないな、ほら」
仕方なく自分のスプーンで一口すくう。膨れた顔はすぐになくなりリクが差し出したスプーンに食いつく。
「ん~! 美味しい!」
「よかったよかった」
(ハルナは何がしたいんだ?まあ子供の頃にやってたからいいけどさぁ)
ああなんと残念な事だ、リクは向けられてる好意には「ハルナ限定で」すごぶる鈍くなっている。
これは、2人が火星時代からの長い付き合いなのも影響している。
そんなリクの行動は無自覚ながら、周囲の空間に暖かい空気を充填していく。それを見て、にやけながら茶をすする者もいれば、若かりし頃の自分を思い出し微笑む者もいる。
また別の所では「兄弟姉妹だなぁ」と思い平然を装う2人組もいれば、1人で血の涙を流す者もいる。
そしてそんな光景を食堂の入口で偶然見ていた真田はこう供述を残した。
「君たち、周りに気をつけようか……」
その後真田が飲んだブラックコーヒーは、ブラックなのに少し甘く感じてしまった。
そのころ、新見は自室でパソコンと向かい合っていた。
「ヘリオポーズを抜けてからは様々な恒星系が存在している。そこが狙い目だけど……」
パソコンには一つの恒星系のデータが表示されている。それは太陽系の配置図ではなく、地球から4.22光年先のプロキシマケンタウリ星系のものだった。
人類が生存するためには、水と、適度な濃度の酸素、ちょうどいい温度が必要で、これらがそろうためには、その惑星が恒星からちょうどいい距離の位置を周回していないといけない。
このちょうどいい位置というのが「ハビタブルゾーン」であり、この領域内を周回する惑星には水と空気が存在している可能性が高く、水と空気があるなら生命が存在している可能性が高い。
「ダメだ、データが少なすぎるわ」
そういいながら椅子の上で新見は伸びをする。
その机の上には、「Project Buße」と印字されたマグカップが置かれていた。
「本当ですか?!」
航海艦橋で太田が喜びの声を上げる。
「ああ、ヘリオポーズを抜けると、ヴンダーは強力な銀河放射線によって地球との通信が困難になる。そこで、ヘリオポーズを抜けるまでに限り、希望する者には地球との通信を許可することにした」
「だが、そのヘリオポーズの影響が出始めているんだ。今、司令部との通信を接続しようとしているが、安定的に通信を行うためには、更なる改良が必要だ」
真田と相原、赤木博士が超空間通信の接続を試みているが、極東管区司令部とうまくつながらない。もともと開発中の技術であり、ここまで距離が離れた状態での通信は行ったこともない。
「通信データ量を下げれば繋がる可能性がありますが、映像通信の場合解像度が低下しますしタイムラグが発生するかもしれません」
「超空間リレーはまだ開発中よね? ちょっと見せてくれないかしら」
「はい、こちらです」
そう言って、相原はタブレットを操作して超空間通信の概念図と開発中の超空間リレーについての資料を呼び出した。
「……興味深いわね、通信波を超空間を経由して送るのね。超空間の正体は恐らくワープ時の空間ね。でも超空間リレーはまだまだ未完成か……」
「あの……超空間通信には空間の裂け目をごく小規模に作成してそこに通信波を通して通信波をワープさせているんですが、その仕組みを本艦のワープシステムで再現できないでしょうか?さすがに無理かと思いますが……」
「できなくはない。要はワームホールとワープ空間経由で通信しているからな」
「相原君、それ名案よ。早速やってみましょう」
仕組みとしてはこうだ。超空間通信は、通信波を超空間経由で送り主に届ける。
通常の通信は距離が離れるとタイムラグが発生し、宇宙空間での長距離通信ならそれが最も顕著に表れる。
しかし、ワープ空間を経由すれば、タイムラグが0に近くなる
従来の地球艦は、地球~冥王星間の通信が確立していた。
しかし、ヴンダーが今いる位置は、実質その圏外ギリギリなのだ。
まだ不安定な技術なので、映像が白黒でノイズ交じりでも、繋がれば御の字だ。
「ワープシステムのパラメータは大体この値で、発信装置はヴンダーのアレイアンテナで信号強度は最強にしておくわ」
「ワープアウト座標を確認、地球静止軌道上です」
ワープシステムを転用するため、気象長の太田がワームホールの出口を確認する。
「よし、通信回路接続。信号強度最大、発信試験を開始する。短文を送れ」
「はい、《こちら国連宇宙軍、恒星間航行宇宙戦艦Wunder、我冥王星基地を殲滅せり。繰り返す、我冥王星基地を殲滅せり》」
空間と時間を飛び越えたそのメッセージは、地球に届いたのだろうか……。メッセージ発信から15分、相手はその呼びかけに答えた。
「地球からメッセージが届きました!! 《こちら極東管区司令部、貴艦からの朗報を受信した。よくやってくれた》です」
「うむ、成功だな」
「やったわ」
「この方法なら、通信は可能です!」
「相原、その方法を使用して司令部との映像通信は可能か? 儂は通信に詳しくはないが、減衰しにくい周波数に変更すれば可能だと思うが……」
「ハードル高いですね、艦長。ですが艦長の案の通り減衰しにくい周波数を使用すれば安定的な通信が可能です。宇宙空間でもそれが可能かどうかは、試してみなければわかりません」
相原が艦長の案を肯定して作業に取り掛かる。
「試してみてくれるか?」
「もちろんです、試験で送信した短文で状況は伝わりましたが、やはり人の顔を見て話したいですね」
それから20分後、艦橋メンバーとリクとハルナ、マリと赤木博士が揃って中空スクリーンを見ていた。
「地球からの信号に同調完了、映像通信入ります!」
ずっと透明のままだったスクリーンに藤堂長官と芹沢軍務局長の姿が映る。
ノイズ混入は避けられなかったが、確かに映像と音声が入っていた。
『こちら、Wunder計画本部、Wunder、聞こえるか!』
「こちら宇宙戦艦Wunder、現在太陽系外縁部、ヘリオポーズ付近を航行中です。」
『そうか……もうそんなところか。君たちから冥王星基地陥落の一報を受け取った時、人類はまだまだ耐えることができと希望が生まれたよ。こちらの環境は相変わらず厳しいが、冥王星陥落の報を市民に報告して、まずは、遊星爆弾がもう落下してこないことを理解してもらわなければな』
「よろしくお願いします。それと長官に一つ、お願いしたいことがあります。」
『私にできることなら何でも言ってくれ』
「ヘリオポーズ通過後は、ヴンダーは強力な銀河放射線によって地球との通信が困難になります。そのため、乗組員に家族との最後の通信をさせたいのですが、そちらで乗組員の家庭との通信回線を開いていただけないでしょうか」
『お安い御用だ。準備にかかろう』
「ありがとうございます」
『では、これから我々は作業に入る。ひとまず、これで通信を終了する』
「了解しました」
距離と時間を超えた通信が終了し、艦橋に安堵の声が漏れる。
「真田さんあれどうやったんですか?」
ハルナが興味深そうに質問する。
「さっきの超空間通信のことかな? あれは通信波をワームホールに飛び込ませていたんだよ。ヴンダーのアレイアンテナとワープ航法がなければ不可能だったよ。ちなみにこれは相原の発案だ」
まさかこんな使われ方があるなんて、ハルナは微塵も想像していなかった。
あくまで観測用のはずなのに、それで映像通信を双方向で行ったり、ワープ航法用のワームホールを通信に使ったり、自分では思いつかないことを閃いた相原と実行してしまう真田と赤木博士をすごいと思ったハルナであった。
「それから、ヘリオポーズを通過するまでは太陽系赤道祭も開催する予定だ」
「赤道って、ここ宇宙ですよ?」
古代が疑問をのぞかせる。どこに赤道があるの?と思ったのだろう。
「かつての大航海時代では、船乗りたちは赤道を越える際に航海の無事を祝って赤道祭を催した。その故事に習うのだよ」
「赤道祭ねえ、今が戦争中なのに呑気ではありませんか?」
「乗員の士気を高めるためにも必要だと沖田艦長は仰っていたわ」
「なるほどぉ、祝勝パーティーという訳ですか。それはそうと、希望する乗員には家族との通信が許可されたようですが、あなたも誰かに報告しておいた方がいいのでは?」
「……保安部は詮索好きね」
「騒ぎが起こらないと暇な部署ですからねぇ」
「最後の交信ですか、徳川機関長は話したい人はいますか?」
当直の真っ最中の山崎が徳川機関長に聞いた。
「儂は、最後に孫のアイ子と話したいなあ」
「お孫さん、確かまだ4歳でしたね」
「目に入れても痛くない子でな、地球に帰ったらすぐに抱っこしてやりたいもんだ」
「交信って言っても、私たちはもう家族いないもんね」
「あの時から時間は止まったままだ。でもまあ寂しくはないや、家族みたいな人がいるから。そうでしょ?」
「それもそうだね。姉と弟みたいな関係だし」
「兄と妹じゃなくて?」
「あら? いつからお兄ちゃんになったのかしら?」
「いや、復活時期から考えるとこっちが上なんだよね」
「大した差じゃないでしょ?」
「まあ一年、いや10か月位の差だからなあ。」
「交信かにゃ……久しぶりに先生と話すかにゃ」
《2日後》
「ええ~!!」
太陽系赤道祭当日、メイン会場である左舷展望室に原田の叫び声が響き渡る。
「赤道祭は仮想するのが伝統だって太田さんから聞きましたー!」
現在の原田の服装はなぜかメイド服、これは太田のガセネタを鵜吞みにした原田が用意した渾身の一作だ。
「ありゃ~のせられちゃったね」
その光景を見ていた篠原がにやにやしながら見る。
「どこだぁ!太田さん!!」
しかし、太田のガセネタを鵜呑みにしたのは、原田だけではなかった。
そう、僧侶が会場にやってきたのだ。
お坊さんといえばお寺。お寺が実家といえば加藤。
そう、加藤である。
「そっちものせられちゃった?」
実家がそうだといっても似合い過ぎている加藤を見るなり、篠原は苦笑いする。
「まあ、似合ってるんじゃないのか……?」
素直じゃないほめ方をする加藤に、原田は嬉しそうだ。
そして、篠原は見逃さなかった。
しめしめといった雰囲気で、その場を去ろうとする太田の姿を。
この後、太田は篠原に説教を受けることとなった。
「諸君らの活躍によって、メ2号作戦は成功した。今日は存分に英気を養い、存分に楽しんでくれ。これが終わったら地球を振り返るな、前だけを向いて進み続けるのだ。赤道祭の成功を願い、乾杯!」
「「乾杯!!」」
会場がどっと沸き赤道祭が始まった。
今回のために用意された料理に一斉に手が付けられ始め、各々が料理を楽しむ。
今回だけアルコール類が解禁されたので、酒を飲む乗員もいる。
「古代くん、お疲れ様」
「森くん?」
ジュースのコップを持って現れたのは森だった。
「まさか、古代君が戦闘機に乗るなんてね」
「防大の時に戦闘機の操縦訓練を取っていたからね。」
「でもあれピーキーな機体ってハルナさんから聞いたけど、ちょっとすごいわ」
「そんな……誰かに褒められるのは慣れてないな」
「私も操縦してみたいけど、訓練とってないからなぁ」
「シミュレーションはこの艦にあるから、やってみたら?教わるなら僕より式波二尉の方がいいと思うな。彼女は戦闘機一筋だから」
「それもそうだけど、私はコスモゼロに乗ってみたいの。だから教わるなら古代君の方がいいかなあって」
「非番の時ならシミュレータで教えようか?」
「やったぁ」
その光景を一人で見つめる影が一つ
(ふふふ、くっつけくっつけ。ハルナ&リクに続いて古代君&森さんの完成だにゃ)
「あーんたはなーにやってんのかなあ? マリ?」
「んにゃあ?! びっくりしたにゃあ姫!」
「尋問の時間だよぉ」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
この後、マリはアスカにこってり絞られたのであった。
「ふぃ~きつかったにゃ」
アスカのお仕置きタイムから解放されたマリは、交信室に向かっていた。赤道祭の目玉の一つが、地球との交信だ。皆、家族との交信を心待ちにしていたのだ。
すでに交信室には長蛇の列ができていて、船務科お手製の整理券を皆手に持っている。
「えーと真希波・マリ・イラストリアスさんですね。こちらが整理券です」
「サンキューにゃ」
船務科の岬百合亜が整理券を手渡して、長蛇の列を作る人たちにアナウンスをする。
「ではこれから交信室への入室を許可します。交信は一人5分です。公平を期すために、自動的に切れるように設定されています。話残すことのないように、各自で話すことを事前に決めておくようにお願いします」
最後の交信ということもあって、出来ることならこのまま話していたいと思う人もいるかもしれない。しかし、時間というのは非情だ。最後の交信で、地球を守る決心がつくのはいいが、里心がついてしまうのは今後のためにもあまりよくない。
そういうこともあり、時間制限が設けられたのだ。
「ではまずは徳川機関長ですね」
「儂じゃ」
一番乗りだったのはなんと徳川機関長だ。孫のためなら一番乗りで並ぶこともサラッとやってしまう。孫大好きおじいちゃんだ。
整理券を手渡し、徳川機関長は一人交信室の中に入っていった。
『じいじだ!』
「おおアイ子か! 元気にしとったか?」
「うん! でもおなかすいた~」
「じいじがお土産もって帰ってくるからな。太助、そっちは状況はどうだ?」
『こっちは配給の量が日に日に少なくなってきてる。だから、その……』
「何じゃ?」
『母さんが、闇市で……』
「太助! あれ程闇市はダメだといったじゃないか!」
『でも……こうでもしなければやっていけないんだ……』
現実はよくない。どれだけ理想を語っても、どれだけきれいな道を進もうといっても、その通りにはいかない。なりふり構ってられないのが、今の地球の状況だ。
『じいじ……おめめからお水出てる』
孫に言われて初めて、徳川機関長は自分が泣いていることに気が付いた。
自分が向こうにいれば今すぐ家族の生活をなんとかできるはずなのに、今は画面の向こうで恐ろしく距離が離れている。
ただ声をかけるしかできない。
「太助、もう時間もない、よく聞くんじゃ。わしらは必ず人類を救う。それまでしぶとく生き抜くんじゃ。それが太助、お前の戦いじゃ。母さんを守るんじゃぞ」
『わかった……こっちは任せて! じいちゃん』
「約束じゃぞ」
《通信終了しました》
最後にモニターに映ったのは、孫のアイ子の笑みだった。
『あ! 兄ちゃんだ!』
「次郎! 元気にしてたか?」
『こっちは元気だよ!』
「母さんは?」
『今配給に行ってるよ』
「そうか……次郎、あまり長くは話せない。よく聞いてくれ。兄ちゃんは父さんの遺志を継ぐ。異星人とも分かり合えると父さんは言っていた。それを証明して、必ず帰ってくるからな」
『うん……』
「泣くな次郎。お前が母さんを支えるんだ」
『……! 泣いてない!兄ちゃんも泣きそうじゃん』
「泣いてないぞ!」
『(ただいまぁ次郎?)母さん!大介兄ちゃんだよ!』
「……!ダメだ! もっと時間をくれ! 母さん!」
『大介!』
《通信終了しました》
島は悲しんだが、最後の1秒で母親の顔を見ることが出来たことを喜んだ。
各々が笑顔で話し、泣き、最後の通信はまだ続いていく。
後編に続く……
超空間通信ってどうやっているのかひたすら考えてみました。
通常の通信はどう足掻いても光の速度は超えられない。
ならば、どうするか?
wikiで色々見てみたら、過去に向かって進む通信波とかタキオン通信とかぶっ飛んだ通信が沢山ありました。
タキオンはさすがにムリそうなので、今回は通信波をワープ空間経由で地球に飛ばすことにしました。
地球からの通信が遅かったのは、「この方法に気づくまでに少しかかったから」ですね
ではでは、後編に続きます