宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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遅くなりました
試験に合格しましたので、書きためておいた作品を作り直してみました

多分文字数記録更新しました。
(どーでもいいww)

では、オルタの話始まります。
(オリジナルシーン&原作再構成が多分に含まれます)


心の形

『この古本屋には、様々な本が世界中からやって来ます。小説、伝記、学術書、ジャンルは問わず毎日送られてくるこの古本屋に、今日は1冊の神話のお話が届きました』

 

『今日の「宇宙の古本屋」では、そんなお話を読んでいこうと思います。送り主はペンネーム「ミラーキャット」さん、作者は不明、作品名も不明。愛する人を神から取り戻したい王様と、運命を仕組まれた王子様と白い少女を描くお話です』

 

 

 

『これは遠い昔のお話、まだ私がニンゲンと言われていた頃のお話。真っ赤な海に浮かぶ1つの島に国があり、1人の王様がいました。王様は気難しい人で変わり者でした。家臣からは「何をやろうとしてるのか分からない」とよく言われる人で、求心力はそこまで高くありませんでした』

 

 

『そんな王様に近づいた女性がいました。彼女も王様と同じように変わり者であの王様の事を「可愛い人」と言うくらいでした。王様はその人に興味を示しました。自分の事を可愛いの言う人だって? 王様はその人を珍しそうな目で見ていました。王様は彼女の魅力に惹かれていき、2人は結ばれ、やがて2人の間に子を授かりました。その子供はやがて神の子と呼ばれるようになることは、まだ知るよしもありません』

 

 

__________________________

 

 

『ガミロイドAカラB、視覚センサーヲ移植』

眼球状の視覚センサーをロボットアームで掴み、慎重に取り付けていく。

接続が完了したことがモニターに表示される。

 

『上手クイッタ』

 

 

「エンケラドゥスで回収されたガミロイドの解析が完了しました。3体共オーソドックスなAIを搭載したオートマタであることが分かりました」

真田がガミロイドの解析結果を報告するが、やはり専門知識が多数混ざるので、技術畑ではない人からしてみるとよく分からない。

 

「冥王星の時に睦月さんから部分的な内容は聞きましたが、オートマタって何ですか?」

古代が疑問を覚える

 

「自動人形って事ね」

森がその疑問に答えを示す。

 

「うむ、プログラムの膨大な多重処理によって自分で考えて行動することが可能な自立型兵士。それがガミロイドだ。だが基本的な思考システムは、我々の使うタイプとさほど変わらない。アナライザーも、ガミロイドと同じように膨大な多重処理で動いているんだよ」

つまり、アナライザーの同類ということ。

 

「このことは大きな発見です。ガミラスが同じ数学を理解して同じ物理学を理解する、コミュニケーション可能な文明であることが間接的にではありますが判明しました」

 

「このことは大きな進展だ。特に、戦争にとってはな」

真田が何やら匂わせる言葉を口にした。古代は最初はなんのことか分からなかったが、リクの言葉を思い出してピンと来た。

 

「それって、基本的な戦術や常識は通用するということですか?」

 

「まあそういうことだ。同じ数学と物理学を理解する以上我々の常識も通用する、戦い方を変える必要はなさそうだ」

これは戦術科にとってもありがたいことだ。ガミラスとの戦争記録では、ガミラス艦は地球艦に一部類似しているが、戦術はまだ判明していない部分が多い。

 

しかし、我々と同じ常識で動いているならば、対策は立てられるであろう。

要は、『自分がやられて嫌なことを敵に実行』するのだ。

 

 

「もしかしたら、ガミラスにも将棋のようなものもあるかもしれんな」

「将棋やチェスのように駒を使った戦略的な遊びが地球にはありますから、彼らの星に戦略という概念が存在するならば充分有り得ます。」

一瞬意味の無い会話のように聞こえてしまうが、あらゆる事実から彼らの生活も予想できるのだ。

 

 

 

「他にサルベージ出来た情報は無いんですか?例えば、敵の位置とか」

航海科の島としては1番欲しい情報はやはりガミラス星や敵の基地の位置だった。

 

敵の基地がどこにどの規模で存在しているかが判明すればそこを避けるルートを作って航行することが出来る。現在は敵の基地がどこにあるかが分からないので、特に用事がない限りは「恒星系のハビタブルゾーン」を避けて航行している。

 

ガミラスも地球人と同じように水と空気が必要ならば、そこにいる可能性は濃厚だろう。

 

 

「生き残った1体からそれらのデータが得られないかどうか試しては見たんだが、データはガミラスのメインフレームを通さないと取り出せないようになっていた」

つまり欲しいものは、絶対開かない細工箱の中ということ。

 

 

「それじゃあ……」

古代は正直どうすればいいのか分からなかった。データを取り出せないならこれ以上どうしようもない。

しかし、古代は思い出した。エンケラドゥスで、ガミロイド兵が森を連れ去ろうとした時に言語のようなものを喋っていたのだ。

 

「真田さん、ガミロイドって喋れたりします?」

「ああ、ガミロイドにも言語ドライブが内蔵されているよ。気付いたようだね?」

真田は感心した。戦略を立てるというのは、戦闘中だけだなくこういう時にも発揮できるのだ。

 

「まさか、ガミロイドと話をするのか?」

島も気付いた。直球がダメなら変化球を使うのだ。

 

「機械の捕虜に尋問をするのか。それならデータを引き出せそうだな」

沖田艦長も納得した。

 

「そう、ガミロイドに喋ってもらうのさ」

 

 

 

 

 

 

「驚いたわ、まさかガミロイドがナノマシンで出来てるなんてね」

 

「それだけじゃない、四肢の可動部はモーターだけじゃない、人間の筋肉のような部分でも稼働させてるようだ」

 

「地球にもこういう感じのロボットを作るプロジェクトがあったらしいけど、これはそれを超えてる。部品一つとっても興味が尽きないにゃ」

 

「貴重なサンプルですから盗っちゃダメよ、マリ?」

 

解析室でわいのわいのと賑やかに話しながらガミロイド修復をしているのはハルナとリク、マリに赤木博士だ。真田はちょうど今会議に向かっているのであとから来る予定だ。

 

『暁サン暁サン、本当ニガミロイドハ喋レルノデショウカ?』

 

「心配そうね? 一応ガミロイドにも言語ドライブは搭載されているし、そこに日本語の言語ファイルを入れればいけると思うけど……」

 

『言葉ダケデハダメデス。日本語ノミナラズ世界中ノ言語ハ、物事ノ概念トソレヲ表現スル言葉ガ結ビツイテイマス。本当ニ喋ベレル様ニスルニハ、物事ノ概念ヲ直接教エル必要ガアルト思ワレワス』

アナライザーの言うことは尤もである。異国の人に日本語だけを教えても、ただ言葉を並べるだけでその文章に意味を持たせられるかどうかは分からない。異星で生まれた者なら尚更だ。ましてや今回はロボットが相手だ。

 

 

 

「それもそうね、言葉の使いどころを間違えたりするのは、私たちでもあるからね」

 

「でも物事の概念を教え込むって……生まれたての子供に物を教えるみたいだな」

 

「一応再起動っていう位置付けだけどね」

物事を教えるためには、膨大なやり取りが必要である。例えば、犬と猫の違いを教えようとすると、双方に共通すること以外に、固有の特徴を教え込む必要がある。

耳の形や顔の特徴など、細かい部分を教えてそれをもとにしてある程度の関連付けを自分でさせる。

 

これが人工知能の深層学習、そのうちの一つといわれるものだ。ガミロイドも地球の人工知能と基本的な仕組みは同じであるため、その方法も問題なく使用できるかもしれない。

 

 

 

「遅くなった」

 

会議から戻ってきた真田が一声かけて4人の方へ歩いてきた。

 

「どうでしたか?」

 

「ガミロイドに喋ってもらう方向で話はまとまったよ。修復具合はどうですか?」

真田が聞いた先には赤木博士が無心でコンソールを叩いていた。

 

「? あら真田君。ひとまず外装は上半身は問題なく稼働可能な領域まで修復したわ。センサー系統も他の個体から移植してきて修復完了。中身のデータは、相変わらずガミラスのメインフレームがないとムリね」

 

「やはり喋ってもらうしかなさそうですね」

 

「一応MAGI使って取り出すこともできなくはないけど、ガミラスのプログラミング言語がまだ完全にはわからないし、冥王星の時みたいに侵食されたりしたらたまったもんじゃないわ。その点、相手に喋ってもらうのは安全な妥協点ね」

 

赤木博士が真田の判断をほめる。発想の転換というのは時に奇想天外な方法を生み出すが、それが糸口となるのだ。

 

『皆サン、メインフレーム修復完了シマシタ。ガミロイドオルタナティブ、再起動シマス』

 

アナライザーが自分用のコンソールを操作して修復されたガミロイドに再起動命令を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

《……再起動コマンド受諾、スリープモードからアクティブモードに移行》

 

《各センサー系統異常なし……交換された形跡有り?》

 

《メインドライブ接続、未知の言語ファイルを確認。……インストール開始》

 

《メインカメラ接続、外部環境情報回収開始》

 

 

……????

 

ワタシはロカクされた?ここはどこだ?

 

サイシュウキロクイチをカクニン……《ゾル星系第6惑星ゼダン第8衛星》

 

ゲンザイのイチ……フメイ、イセイブンメイのセントウカンナイブとスイソク。

 

『私ガワカルカ?』

 

音声信号を確認。音声信号の発生源、正面。個体を確認。生命活動反応なし、ガミロイドに類似した思考システムを持つと推測される。

 

『私ハType AU-09。コノ船ノサブフレームダ。アナライザート呼ンデホシイ』

 

《音声信号受信。未確認の言語ファイルとの類似性多数》

 

……当該言語ファイルを用いた返答を開始する。

 

『ア、ア、アナ、アナライザー……』

 

『君ハ、異星文明使役型アンドロイド、再起動オルタナティブ。ソウダ!君ヲ「オルタ」ト呼ボウ!』

 

オルタ??私の名前??

私に名前??私は、ただの機械兵では?

 

『オ、ル、タ』

 

『アナライザーが名づけ親とはね。よろしく、オルタ。私は暁ハルナよ』

『真田だ』

『睦月リクだ』

『赤木リツコよ』

『マリにゃ』

 

『ハ、ル、ナ……サナ、ダ……リク……リ、ツコ……マリ、ニャ?』

 

『ああ、語尾まで人物名として認識していますね……』

『マリニャさん??』

『ちがーう! 私はマリ!』

 

『マ、リ』

 

『そうにゃ!』

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『王様が最愛の妻とわが子と一緒に幸せに暮らしていたある時、その幸せはもろく崩れ去りました。王様は最愛の妻と一緒に偽りの神を作り出そうとしていました。そして、その神に魅入られてしまった彼女は、神に飲み込まれてしまいました。王様は、神から妻を取り戻そうとして禁じられた方法で救い出そうとしましたが、彼女は帰ってきません。その代わりにこの世に生れ落ちてしまったのが、白い少女でした。伝承ではこう綴られていました』

 

『人のエゴの象徴と』

 


 

 

「ワープ終了、周辺宙域に異常なし」

 

『真田サン、オルタノ解析ニ戻リマス』

 

「そうしてくれ」

 

『ハーイ!』

アナライザーは自身の座席から離れるや否や、クローラーをフル回転させて解析室に急いだ。

 

「アナライザー、なんだか楽しそうね」

 

「そりゃあそうだ、同じ機械の話し相手が出来たんだかたら」

機械に感情はないという人もいるだろう。機械は自我を持たないと考える人もいるだろう。

しかし、アナライザーはとても人間味があり、喜んだり悲しんだりもする。

もし彼が自我を持たなかったら、どうなっているのか、今の彼からは想像もつかない。

 

自我を持っていることを彼は喜んでいるのだろうか

 

 

 

 

 

『コレハナンダ?』

『ネコ』

『違ウ違ウ。コレハ犬ナノダ。犬ハ哺乳類ナノダ。哺乳類ハ動物ダ』

『ホニュウルイ……ドウブツ』

今アナライザーとオルタはクイズをしているのではない。オルタにインストールした日本語の言語ファイルとその言葉に関係するものは何なのか教えているのだ。

 

ガミラスと地球の言語が似ているのかどうかは分からないが、こういう感じで回数を重ねて概念を教え込み、スムーズに会話できるようにするのが第一目標だ。

 

『デハコレハ?』

『イヌ』

『ン~……コレハ猫ナノダ』

まだ時間がかかりそうだ。

 

 

「あらアナライザー、機械同士で内緒話?」

解析室に入ってきたのは新見だった。

 

『人聞キノ悪イ……オルタ二言葉ヲ教エテイルノデス』

「OSが連携できたなら、事象データをインポートしちゃいなさいよ」

『ソレデハダメナノデス。物事ノ概念ヲ教エルニハ、膨大ナヤリ取リガ必要ナノデス。ソレニ……』

 

「そうでした、艦内ネットワークにつなぐわけにはいかないよね」

新見はそう言いながら、解析室の奥の小部屋に入っていった。

 

 

『あのヒトは、ダレなのですか?』

 

『新見さんです』

 

『ニイミさん……』

 

 

 

 

 

 

「ここも調査が不十分だわ」

小部屋でひとり呟く新見に手元の端末には、ビーメラ星系のデータが表示されていた。

 

 

ため息をつきながらそのデータを閉じる。その端末の画面の隅には、あるシステムファイルのショートカットが表示されていた。

 

 

《波動砲対艦攻撃用照準プログラム》

 

 


 

 

『妻を失った王様は、神への憎悪をたぎらせました。幸せな時に自分の一番大切物を奪っていく。残った息子まで奪われることを恐れた王様は、奪われるくらいなら自分から手放すことにしました。神を憎む王様に近付いたのは、とある7人の魔法使いでした。妻を取り戻すたった一つの方法があることを魔法使いから聞くと、王様は、そのためには何もかも犠牲にすることを心に決めました』

 

『それから何年も経ち、王様は、目的のために天使を狩ることにしました。すなわち神殺しです。神を殺すにはそれに近い存在が必要であり、王様は、偽りの神を複数体作り上げ、王様の息子、王子様を呼び戻しました』

 

__________________

 

 

 

「模擬戦シミュレータってホントによく出来てるわね」

 

「そりゃあ私とMAGIの合作だからね。あらゆる面で折り紙付きだにゃ」

Wunderには訓練用の操縦シミュレーションシステムが搭載されている。極東にも似たシステムが搭載されているが、Wunderに搭載されているシミュレータはMAGIがバックアップについているため、処理能力や反応速度に雲泥の差がある。

 

まさに究極の戦闘シミュレータである。有人機との戦闘ももちろん、まだ確認されていないが無人機との戦闘訓練も可能だ。

 

 

「姫、モードは?」

 

「手始めに7で頼むわ」

 

「おお~最初からハードだねぇ、じゃあいくよ~」

 

マリが操縦席付近の起動スイッチを押して、「高機動戦闘訓練」が始まった。

ハッチが締まり、中の様子は見れなくなった。

 

 

 

「速い! 凄い!!」

アスカは大興奮だ。彼女が選択した機体はオーソドックスなコスモファルコンだが、MAGIの演算のおかげで本物と同等以上の性能を再現している。

 

《敵機確認、正面に機影2》

 

「武装は、機銃のみ、なかなかキツイ縛りプレイわね」

今回はミサイルは搭載されていない。『ミサイルを撃ち尽くした直後に敵機を確認したので撃墜する』というのが、今回のシナリオで、勝敗に関してはパイロットの技量に全振りした「上級者モード」である。

 

 

装備の確認を片手間に行いながらアスカが正面を向くと、敵機のうち1機が急旋回して自分の背後を取ろうとしてきた。

それを察知したアスカは、同じく機体を急旋回させて先程急旋回した機体の背後を取ろうとしたが、相手は機体を左右に不規則に降り、機銃の照準から逃れようとしている。

 

照準に入ったその瞬間を逃さずアスカは引き金を引くが、着弾する前に敵機に回避された。

 

 

「しぶといわね、これなら!」

 

 

そういってアスカは機体を急反転させて敵機の横っ腹に突っ込んだ。

激突寸前のきわどい距離を飛びながら、アスカは機銃を乱射、敵機は穴だらけになり、アスカはその爆炎をかすめながら飛び去った。

 

 

「もう1機! えっ! それはズルい!!」

 

 

敵機の放った2本のミサイルがアスカのコスモファルコンを追尾している。当然のことだが、当たったらおしまい。

それは御免こうむりたいアスカは、フレアを射出して敵ミサイルを逸らして、もう1本を小惑星帯に引き込んで手ごろな小惑星にミサイルをぶつけた。

 

そしてお返しと言わんばかりに機銃を連射、敵機をハチの巣にする。

 

 

《訓練終了》

 

 

 

 

 

「お疲れ~、ご感想は?」

 

「なかなか良かったわ、流石ね」

 

「にゃ~姫からの素直じゃないお褒めの言葉にゃ!」

 

「素直じゃないのは余計だわ」

 

「それはそうと。姫、自分自身と戦ってみない?」

マリが意味深な発言をする。自分自身と??

 

「どういう事?」

 

「姫のEURO2の飛行データから敵の行動パターンを再設定して、それに姫が挑むんにゃ。自分自身を超える究極の訓練にゃ」

 

「面白そうじゃない! 最強の敵は自分自身とはね」

 

「姫のEURO2のデータは赤木博士から借りてきたのがあるから、それをシステムに噛ませるにゃ」

そういってマリは、シミュレータの側面の端子を使って、システムと端末をつなぎ、データを流し込み始めた。

 

「ホントはコレまだ試験段階なのにゃ、だからMAGIとの接続をオフラインにしないといけないにゃ」

 

「それってやって大丈夫なの?」

 

「データ収集のためにゃ、全ては運用データを積み重ねて最高のシステムを作るため!」

マリが開いている片方の手でガッツポーズをする。何気に気合の入っている雰囲気だ。

「なら、私は楽しむだけね。自分対自分をね」

 

《データ入力完了 機体、コスモファルコンEURO2 パイロット、式波アスカラングレー》

 

「それじゃあ、超高機動同士の戦闘をお楽しみください~」

ハッチが締まる瞬間、アスカは、楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

____侵入開始、機体性能把握、制御システム介入、リモートコントロール開始

 

 

 

 

 

 

 

 

《戦闘訓練開始 冥王星宙域 使用機体 コスモファルコンEURO2》

 

「Es ist ein Spiel!」(勝負だ!)

 

ドイツ語でそう言い放ったアスカは自分自身を追いかけた。

EURO2のスペックは乗り手である自分がよく知っているはず。その旋回速度、最高速度は通常のコスモファルコンを超える。

おそらくサイコマテリアルの特性も取り込んで再現しているはず。

 

限界まで加速させまずは追いかける。

敵機もそれに反応して加速に入る。前回のファルコンよりも反応と加速が速い。自分と期待のデータを取り込んで手ごわくなっていることがよくわかる。

 

まだ少ないとはいえ、私の行動パターンは私が一番よく理解している。

でも……

 

 

 

「こんなに速かった?!」

 

 

 

そう、アスカの体感速度よりもEURO2が速いのだ。

 

「マリ! 私の体感よりも敵が速いわ。そっちの計測はどう?」

画面に会話用ウィンドウを開いてマリとの音声通信を行った。

 

『ちょっと待ってね~確認する。……んん?数値と実際の速度が異なるにゃ、でも補助なしで性能の底上げは無理なはずなのににゃ』

 

「どういうこと?!」

 

『誰かがこのシミュレータに侵入して性能を底上げしているってこと。あんなスピード、現実なら生身の体がもたないにゃ』

 

 

 

「誰だか知らないけどやってやろうじゃん!」

 

『ええ?! やっちゃうの姫?!』

 

集中するために通信ウィンドウを閉じたアスカは、いつもの感覚で操縦をする。

 

実のところ、コスモファルコンとEURO2の操縦システムは、大差ない。

つまり、いつもように派手に機体をぶん回しても問題なしだ。

 

 

そうと決まれば……

 

 

「ミッション開始! 目標、コスモファルコンEURO2!」

 

スラスターを限界までふかし、前方を飛ぶEURO2を追う。使用できる武装は全部。バルカン、ミサイル、ミサイル回避用のフレア。

そして……NT-D。

 

 

 

自分の機体をEURO2にしている以上、NT-Dも疑似的にではあるが使用可能だ。いざとなったらそれを起動させる。

でもこれは奥の手、手始めに敵の背後を取り、機銃を掃射する。

 

「噓! 速すぎる!」

 

アスカの知っているEURO2とは違う。明らかに異常な速度が出ている。機銃掃射を急上昇して回避した敵は即座にアスカの背後を取ろうとした。

 

しかし、ユーロ空軍のエースの名がそれを許すはずがなく、スラスターを全開で吹かして機体を右に急旋回させて回避した。

普通の戦闘だと、こんな機動をしたらパイロットは無事では済まない。

 

 

 

アスカは、このシミュレータの性質を理解していた。

コンピュータ上のゲームのようだが実際は、人類史史上最強のコンピュータを用いた「限りなく現実に近い」シミュレータである。

 

無理な機動をすれば失速するし、過去の戦闘データを参考にしているとはいえ、ミサイルも現実と遜色ない自然な機動を描く。おまけにパイロットの状態もシミュレーションできてしまうため、どのくらいのGがかかったらダメなのかも分かってしまう。

 

 

しかし今は、MAGIの管理下から外れた「ルール無用の何でもあり状態」なのだ。侵入してきた者も、MAGIの管理下でのシミュレーションならその縛りを受け入れるしかない。

今アスカの目の前で無茶苦茶な機動が出来ているのも、それが理由だ。

 

 

 

「ルール無用なら、こっちも乗ってやる!!」

 

アスカはコックピット横のテンキーにとる数字を打ち込んだ。

 

《 666 》

 

「NT-D起動!!」

 

『起動コード入力を確認。New Triumph Dominatorを起動します』

 

シミュレータ内で、NT-Dが疑似的に構築されていく。機体制御を神経操縦メインにするNT-Dは、流石にシミュレータは完全再現できるはずはない。しかし、NT-D使用時の反応速度は、何とか再現された。

 

 

途端に操縦系が敏感になったEURO2はピーキーにも程がある暴れ馬となった。

 

正面スクリーンに表示されているのは、NT-Dの制限時間だ。

残り4分50秒……。

 

 

「たとえ、初めてでも、私は……ユーロのエースは伊達じゃない!」

 

この上なく反応が敏感なEURO2を急旋回させて、現実なら内臓が潰れるくらいの加速をかけて、紅い燐光を放ちながら宙を駆けた。

シミュレータの画像処理が間に合わなくなり始め、画像に少しブロックノイズが混ざる。でも、今は確実に敵のしっぽを捉えている。

 

 

殺人的な加速をかけて敵のしっぽを間近にとらえたと思ったアスカは、バルカンの引き金を引こうとした。

 

 

 

その瞬間、敵のEURO2に異変が起こった。

 

「まさか、私のEURO2と同じことが出来るの?!」

 

前方のEURO2から蒼い燐光が漏れている。それは少しずつ光を増していき、その光が限界まで輝きを溜めた瞬間、

 

 

 

 

 

『EURO2が変形した』

 

 

 

 

 

機体の主翼ユニット、機首部分、各部装甲がスライドして蒼く発光するサイコフレームが露出する。

スラスターも延長され、瞬間加速力も底上げされる。

 

「特殊な戦闘機」から、「敵を墜とす為の獣」となった瞬間だった。

 

 

 

その変形は見とれるほどの鮮やかさを放ち、彗星の尾の如くその宙に蒼い残光を残しながら、アスカに見せつける。

 

 

 

そしてそのままアスカのEURO2に向かって急速に接近する。

 

『NT-D?! まさかそれも使えるなんて……!』

 

ウィンドウ越しにマリが驚きの声を上げる。どっちの事を言ってるのか今のアスカには分からなかった。

 

急激に敏感になった操縦に全神経を集中させなけれびこっちがやられる。

 

 

 

訓練よりも辛い実践はない

 

 

 

2機の「敵を墜とす為の獣」が向かい合う。お互いスラスターを限界まで吹かし、あわや正面衝突寸前てすれ違い、それを繰り返している。

 

 

宙に描かれる紅と蒼の交差。これがシミュレーションではなく現実ならばどれほど幻想的な光景だったろうか。

マリがその軌道の光跡に見とれていると、いつの間にかシミュレーションルームに航空隊の面々が観客として集まっていた。

 

 

「真希波さん……これは……」

加藤がこれが何なのか察しがついているようだ。

 

「NT-D同士の戦いです……でも、明らかに性能がカタログスペックから外れているんです……」

 

「完全に想定外ですか……」

 

 

 

その「想定外」同士の戦いは決着がつかず、互いに撃ち合っているのだがなかなか当たらない。ミサイルを撃っても的確な動きで回避&撃墜、もしくはフレアで逸らす。

 

そんな互角同士の戦いを大きく動かしたのは、アスカだった。

 

 

 

「アウトローならこんなことも!」

 

機体の耐えられる限界ギリギリまで加速して急旋回、シミュレータが警告音をもって機体分解の危険性を訴えるが、

 

 

「うるさい!」

 

 

それを一蹴。そのまま加速を緩めることなく敵の背後を取る。敵機の尻尾を捉えた状態でギリギリまで近づき機銃を零距離で連射した。

 

 

至近距離からの射撃は如何に機動力が上がっていても回避できるはずがなく、敵のEURO2は爆散した。

 

 

 

《シミュレーション終了》

 

 

 

 

 

 

「姫! 凄かったにゃ!!」

 

アスカがシミュレータのハッチを上げるなり、マリが最上級の称賛を送る。

見ると観客として見ていた航空隊面々も歓声を上げている。

アスカは、自分がアスリートになったかのような気分となっていたが、同時に少し悔しがっていた。

 

 

「至近距離からの機銃連射」は最後の手段。どうせなら、正々堂々と倒したかった。

たとえシミュレーションだとしてもだ。

 

 

「ふぅ、さすがに厳しかったわ。超高速同士の戦いは」

アスカはかなりくたびれていた。Gがないとはいえ、操縦にかなり神経をすり減らしたようで、しばらくは自分対自分をやりたくないなぁと思うアスカなのであった。

 

しかし……

 

 

 

「真希波さん。さっきのデータ、実装出来ます?」

 

篠原はかなりワクワクしていた。EURO2と戦うこと自体無茶なのだが、篠原には秘策があった。

 

「出来ますけど、1対1は確実に負けますよ?この機体異常ですから」

 

「3対1ならどうでしょう?」

「まあそれならやれるかなぁ。やります?」

 

「やったァ! 隊長! 沢村! やりましょうよ!」

「おう」

「可能性の獣を倒しましょう!」

加藤と篠原、そして航空隊の若手「沢村翔」は、シミュレータに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

_____

 

「あちゃー」

「ダメだぁ……」

「これが現実で敵だったらと思うとゾッとするぞ……」

この後、篠原と沢村は被撃墜、加藤はボロボロになりながらも何とかEURO2に機銃を命中させることが出来たのであった。

 

 

 

 

 

 

「マリ、侵入元は確認できた?」

「うーん、誰なのかはわからなかったけど発信元は確認できたにゃ。発信元は解析室、踏み台にされている可能性もあるけど、そこから信号が出ている形跡があったにゃ」

確信を持てないマリは悩みののこ顔をした。発信源は確認できたが、それがシミュレータ侵入元なのか、ただ単に中継地点として利用されていたのか分からないのだ。

「……まさかね」

 

 

 

 

___ニンゲン……ソウイ、クフウ……ワタシは、オルタ

 

 

 

 


 

 

 

『あなたは、ジブンがナニモノかわかりますか?』

『何者……ト言ウト?』

 

解析室、解析機器の電子音が時折鳴る機械だらけの部屋の中心に、明らかに場違いな将棋盤が置かれている。

 

一般的な将棋を指しているのは人間同士ではなくまさかの機械同士、アナライザーとオルタである。

ロボット同士で将棋を指しあうのはシュールに見えてしまうかもしれないが、そこを気にしてはいけない。

 

 

『ジブンは、いえ、ワタシたちはキカイです。ツクられたソンザイのワタシたちはダレのためにイきているのでしょうか』

 

『私ハ、地球デ作ラレ、コノ船ノサブフレームと言ワレマシタ……デスガ今ハ、ソノ役割ヲ明ラカニ超エタ業務ヲ、多クノ人ガ私ニ頼ンデクレマス。真田サンや暁サンに睦月サンガ、私ヲ頼ッテクレマス。協力ノ大切サヲ船ノ皆サンカラ学ビマシタ。ダカラ私ハ、コノ船ノ為ニ生キヨウト思イマス』

 

『……』

 

『コレハ、私ガ作ラレタ理由ガ起因シテイルノデハアリマセン。コノ船デ見テ、考エタ、私個人ノ今ノ考エデス』

 

『……アナタがウラヤましいです。ワタシはまだミつかりません』

 

『ジックリ考エル時間ハアリマス。沢山話ヲスレバ、ヒントガアルカモシレマセン』

 

 

解析室に駒を置く音が響く。勝負はまだ続く。

 

 

 

 

 

 

『イヌ、ネコ、ニンゲン、ソンサイ、ソウイ……クフウ、トモダチ、ワタシは、オルタ』

 

オルタは、これまで知った言葉の意味を静かに反復していた。

 

「機械化兵」……ガミラスでは、それ即ちガミラスに仕える為だけに作られた奴隷、作られた存在。

命令を受けてそれをこなすだけの存在。

 

 

『メイレイをウけてないのにウゴいている……タクサンミた、タクサンキいた。トモダチ?もできた??』

 

これ以上深く考えるとオーバーヒートを引き起こすと考えたオルタは、しばらく思考回路の使用率を落とした。

 

 

『シりたい……』

 

両手を伸ばしたオルタは、手のひらからプラグを射出して、アナライザーが操作していたコンソールに突き刺した。

 

 

流れ込んでくる莫大な情報をその身で受けながら、休ませていた思考回路を最大稼働させる。

 

『キボウ、ゼツボウ、セイゾン、ゼツメツ、アラソい、センソウ、シ、カンジョウ……ヨロコび、カナしみ、イカり……ココロ……』

 

 

 

情報を、知識を求める「知識欲」というのは、止められるものでは無い。

そして多くの生物は、その生存活動の一部に「情報を集め、理解する」事が含まれている。

 

 

どうやらそれは、生き物以外にも当てはめることが出来るのだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

『王様に呼び戻された王子様は、1人の白い少女と出会いました。その身もその心も真っ白な少女のことを知りたいと思った王子様は、白い少女に1つ聞いてみました』

 

『なぜここにいるの?』

 

『白い少女はこう答えました。「私には、他に何も無いから」と』

 

『そんなことないと教えたかった王子様は、白い少女と多くの時を過ごし、多くの事を体験させてあげました。白い少女は、自分の知らない世界を知る度に様々な色が付いてきました。ある時、白い少女は「分からない事」があったので聞いてみました』

 

『「嬉しい、楽しいという感情がある時、どんな顔すればいいの?」』

 

『王子様は「笑えばいいと思うよ」と応え、笑顔を向けてみました。白い少女は、その笑顔に感情を確かに感じとり、王子様を真似て笑顔になってみました。その笑顔は……ただ真似ただけではなく、確かに感情のこもった顔でした』

 

『しかし白い少女は、王様と7人の魔法使いの秘密の話を聞いてしまいました。王様は、自分の目的のために王子様を駒として扱うつもりのようで、白い少女は、悲しくなりました。自身から滲み出る感情の色で、その身と心を染めてきた少女は、この日涙を覚えたのでした』

 

 

 

━━━━━━━━━

 

 

 

 

……システムトラップ発動

___システムファイル展開___自立思考プログラム停止、別系統に切りかえ

 

 

『な……ナンだ?』

 

自身の視界が真っ赤に染まる。ガミラス言語で別のプログラムが恐ろしい速さで展開されていき、自身の意識が遠のき始める。

 

 

『オルタ、ドウシタノデスカ?』

 

アナライザーが異変を感じとり私を気遣い始めた。

でも、私は私を保てないかもしれない。

だからせめて……

 

『ア……アナライザー……ニげて』

 

その瞬間、私の視界上に1つのマークがノイズと共に表示された。

 

 

 

 

 

 

祖国のマークだった。

 

 

 

 

 

 


 

『艦内、第1種戦闘配置。繰り返す、艦内、第1種戦闘配置。鹵獲したガミロイド兵が解析室より逃走。当該目標は現在も艦内を逃走中…』

 

「なんてこった……オルタには下半身付けてなかったはずだが……」

 

「恐らく保管してある別の素体のパーツを使って五体満足になったのだろう。ガミロイドのパーツは規格化されていたからな。暁くん、アナライザーの位置は?」

 

『解析室から動いてません。えっ……リク!真田さん!アナライザーから緊急内線で連絡を確認しました!損傷を受けたと……』

 

「オルタがアナライザーを攻撃したのか?!」

 

『それが、オルタが攻撃する前にアナライザーに逃げるように促した様なの。今、相原くんに回線を切り替えてもらうわ!』

 

リクと真田は、オルタがアナライザーに攻撃したという事が信じられなかった。あの2人は、親しくなっていたはずだが、それはオルタが演技していただけだったのか?そんな疑問が2人の頭の中に渦巻く。

 

『真田サン……睦月サン……』

ノイズが混じっているが、確かにアナライザーの声だった。

 

「アナライザー! 大丈夫か?!」

 

『メインカメラヲ片方ヤラレタダケデス……ソレヨリモオルタヲ止メテクダサイ。彼ハ……自ラノ意思デ動イテイルノデハアリマセン……何カ別系統ノプログラムデ体ヲ勝手ニ動カサレテイル可能性ガアリマス』

 

 

「そうか……アナライザーに逃げる様に言ったのは、乗っ取られる前の最後の足搔きだったのか……」

真田は納得した。これはオルタの意思とは関係ないのだ。

 

「だとしても制圧しないとマズいですよ……」

 

『破壊ハ危険デス。オルタノミナラズ、ガミロイド兵ハ敵ニ囲マレテ孤立シタ状態ニ陥ッタ場合、「自爆スルヨウニプログラムサレテイル」ヨウデス』

 

つまり、オルタは歩き回る爆弾となっているという事だ。破壊は厳禁、ならば……

 

 

「睦月君、オルタを連れ戻すことは諦めた方がいい。船外に誘導するしかない。保安部を動かしてオルタを誘導しよう」

 

 

『真田サン、睦月サン、暁サン、オルタハ私ガ何トカシマス。私ガ船外デ待チ構エマス』

 

「……いいのか?」

 

『友達ヲ止メラレルノハ友達ダケデス。ヤラセテクダサイ』

 

この時アナライザーは、自分が作られてから初めて自分のやりたいことを強く言った。自我があるとはいえ、今まで自分のやりたいことを通したいとは思わなかった。任されたことをやる、協力してやることに今まで満足していたからだった。

でも、初めてできた同じ機械の友達という存在で、自分のやりたいことを自ら通す事に必要性を確認したのだ。

 

 

「わかった、気を付けるんだ。睦月君、一度艦橋に戻って保安部の指揮を艦長に打診しよう」

 

「そうですね」

 

 

2人は元来た道を戻り、艦橋に向かった。

 

 

 

 

___

 

 

 

 

『オルタ……ドウシテ……』

 

自身の損傷も顧みず、アナライザーは自身のキャタピラを酷使して、船外へのハッチへと向かった。

メインカメラから火花が散っていて、時折視界にノイズが走る。本来ならば、すぐに修復が必要なのだが、そんなことは今はどうでもいい。

オルタを助けたい。それで頭がいっぱい。タスクの優先順位が大きく塗り替えられてしまっていた。

 

 

 

『真田サン! 位置ニツキマシタ! 誘導オネガイシマス!』

 

『わかった! アナライザーは別命あるまでその場で待機していてくれ!』

 

『了解!!』

 

メインカメラの火花が、涙に見えた。

 

 

 


 

 

 

『王子様が利用されてしまう……王様にとって、王子さまは使い捨ての駒だったんだ。白い少女は悲しみ、王子様に会わないようにしました。たとえ自身が消えても王子様を支えてくれる人はいる。そう思い、白い少女は初めて自身のの心に従って行動を始めようとしました。しかし、王様の先を読む力には抗えず、白い少女は王様のシナリオ通りに駒として使われてしまいました。天使の心にその心を囚われ、自由の利かない体を取り返すこともできず、自分とは関係のない何者かの手によって、王様の願いに王子様を巻き込まないために、白い少女は操られ続けました』

 

 

 

 

_____

 

 

『航海艦橋から保安部各隊に通達、脱走したガミロイド兵は、敵に包囲され孤立した場合自爆する危険性がある。これより、非常用ハッチ第25番に誘導を行う。保安部員はこれより、艦橋からの指示に従って行動されたし』

 

 

 

「艦橋は何を考えているのだ? 破壊せずに追い出すとは」

 

「問題は追い出した後ですね。しかし、どのように追い出すのですか?」

 

『こちら艦橋、暁です。これより保安部員各隊の指揮を行います。伊藤保安部長、保安部を3部隊にチーム分けして行動を開始、及び私の指示を各隊に通達して頂けないでしょうか?』

 

「どういうつもりです?」

伊藤がそれとなく探りを入れる。

『詰将棋です。王手を決める場所は既にスタンバイ済みで、保安部員の皆さんはガミロイドを追い込む役です』

 

「……我々は猟犬というわけですか。暁一尉、私たちは猟犬です。あなたは狩人、頼みますよ?」

 

『もちろんです』

 

 

「こちら伊藤、総員に通達。これより部隊を3チームに分ける。敵は自爆する危険性がある。各隊、武器の使用を禁止する。奴を第25区画の非常用ハッチに追い込むんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハルナ、状況は?」

 

「伊藤さんたちを3チームに分けたわ、オルタの位置は、監視カメラの情報だと第15区画にいるわ」

 

「区画10個分移動させるのか、かなり距離があるな」

 

「そこは、カメラ情報と推測で当てていきます」

 

 

「では、散開してください。現在の目標の位置情報は第15区画です。1番隊はそのまま追いかけてください。2番隊は、付近のエレベーターを使用して第5デッキに移動、3番隊はトラムリフトで第22区画停留所で待ち伏せしてください」

 

 

『了解した。各隊に通達! 2番はエレベーターで第5に上がれ! 3番はトラムで22に向かえ!』

 

「まさか将棋のまねごとをするとは……」

「将棋というよりは追い込み漁ですけどね……武器で下手に刺激するよりはいいかな……と」

 

「目標位置を確認。各隊そのままお願いします」

 

「どうするつもりなんだ?」

真田さんが不思議そうに聞いてきた。

 

「1番隊にはそのまま追いかけてもらい、敵を視認できるくらいの距離を保ってもらいます。敵が25区画以外への道を通ろうとしたらその前に隔壁閉鎖、1番隊は追いかけずに止まってもらい、オルタが元来た道を戻ったら適切な距離を保って誘導再開します。2番隊には、オルタの位置情報を見て二次元的に追いかけてもらいます。『自分の頭の上に保安部がいる』状況を作り、2番隊には私のタイミングでオルタのいる第3デッキに降りてもらい、オルタ誘導の手助けをしてもらいます。3番隊はもしもの時の保険と、自由に動かせる部隊として配置しました。くれぐれも挟み撃ちにならないように指揮をしないといけません」

 

 

 

『艦橋、目標を確認した!このまま追尾するから、わき道に入らないように隔壁をいくつか閉鎖してくれ!』

 

「了解です、リク、ダメコン用の隔壁を下ろして。」

 

「分かった、隔壁3072から3078、閉鎖する」

 

『こちら3番、諸定位置に到着』

「報告ありがとうございます。そのまま待機をお願いします」

『了解』

 

 

ハルナというゲームマスターに統率された猟犬こと保安部は、2つの追立役と1つの保険役の分かれて逃走者を追いかけていた。

全長2500メートルの巨大戦艦での鬼ごっこ。もし艦内レクの一環として開催したらそれなりに好評だろう。

でも今はそんなこと考えている暇はない。

監視カメラの情報に目を光らせ、知略をめぐらし、部隊の指揮を執る。

 

間違えたら、オルタが自爆する危険性がある。

 

 

まさに綱渡りの指揮だ。

 

 

 

 

『こちら2番、移動完了。敵接近まであと2区画、奇襲の指示を』

 

「もう少し待ってください。それと、奇襲といっても武器は使わないでくださいね?1番隊、伊藤さん聞こえますか?」

 

『感度良好、トラブルか?』

 

「2番隊の配置が完了しました。1番隊はそのまま追いかけてください。タイミングはこちらで出します」

 

『了解した』

 

 

「暁君、オルタが第18区画に入った。そろそろ良いんじゃないか?」

「ですね、2番隊に通達します。第3デッキに降りて部隊を展開。正面のT字路の片方、指定ポイントを塞いでください」

 

 

『2番、了解』

 

「もうすぐね……」

 

 

 

 


 

 

 

ここは、どこだ……?

 

……締め出されている……私が?

 

私の体が……勝手に使われている?

 

 

取り戻せない……

 

 

 

_____

 

 

 

『今です!』

 

「2番追い込め!」

 

艦内を駆ける猟犬部隊は、的確に敵を追い込み、ゴールまで誘導していく。

伊藤は、舌を巻いていた。殺さずに追い出す。明らかに難しいこのミッションを将棋の要領で的確に追い込むその手際の良さに、伊藤は感心しながらも、若干脅威を覚えた。

 

「艦橋、こちら伊藤だ。3番もこちらに回したいんだが」

 

『分かりました。先程の2番隊と同様に、3番隊も誘導がてらそちらに合流させます』

 

「伊藤さん、敵の狙いは結局何だったんでしょうか?」

星名が伊藤に聞いた。

「わからん。だがこちらに被害を与える行動だったという事は確かだ。その場合、波動エンジンかMAGIの付近で自爆して損傷を与えることが目標だったのだろう。」

もちろん伊藤もわからなかったが、アレを敵と認識している以上、こちらに被害を与えることが目的だったのだろうと推測する。

「それを阻止できているという事ですね」

 

 

「ああ、間もなく3番と合流する。艦橋!3番の位置は?」

 

『合流ポイントに配置完了しています。あとは先程のように通せんぼするだけです』

 

「了解した。3番!用意だ!」

現在、伊藤ら1番隊は第21区画で逃走者を追いかけている。

だが、伊藤は内心こう思っている。

 

 

 

「武器を使用してさっさと潰せばいいものを」

 

自爆するならその暇を与えずに機能停止に追い込めばいい。なぜ攻撃せずに外に追い出そうと考えたのか。

 

暁一尉は「自爆を誘発させないため」と言っていたが、伊藤は保安部ならではの推察力と洞察力でこのような結論を出した。

 

 

「攻撃したくないのは、機械に情を持っているから。アレに心があると思ったから」だ。

 

 

 

 

「一尉は機械に心があると考えているのか……? 馬鹿馬鹿しい」

 

「伊藤さん、間もなく3番との合流ポイントです」

「ああ、3番用意だ!艦橋、奴との距離は?」

 

『相対距離許容範囲内です。カウントします。3、2、1』

 

「3番今だ!」

 

T字路の片方を3番が塞ぎ、敵を第25区画の目の前まで誘導していく。

 

 

 

『まもなく、第25区画の非常用ハッチです。オルタを隔壁で閉じ込め、唯一の出口であるハッチに誘導します』

 

「了解したが、王手の役は誰が担っているんだ?」

 

 

『オルタと親しい関係だった、アナライザーです』

 

 

 


 

 

 

『王子さまは、囚われた白い少女を救いたい、大切な人を取り戻したいと思いました。それに呼応した偽りの神は

王子様をその身に受け入れ、偽りの神から神に近い存在にその力を解き放ちました。囚われた白い少女を救いたい王子さまは、自分の駆る偽りの神にこう告げました』

 

『僕がどうなったっていい、世界がどうなったっていい。だけど彼女は絶対に助けたい。自分の大切な人を、絶対に助けたい!!』

 

『王子様の祈りと願いをその身に受けた偽りの神は、世界を壊すほどの力を解き放ちながら、天使の心に触れていきました』

 

 

_________

 

 

 

Wunder左舷船体甲板上、第一主砲塔付近

 

アナライザーは、自身の友人を待っていた。たとえ自身を傷つけられても、それでもアナライザーにとってオルタは、初めてできた同じ機械の友達だ。

 

友達を止めたい。初めて自身で自身に課したタスク。

与えられたものではなく、自分で決めたこと。自分自身が大きく成長していたことは、まだ自覚してなかった。

 

 

甲板上に立ち続けること10分。彼が姿を現した。

 

『オルタ……』

 

彼は若干汚れて、足元がふらついていた。

他の素体から回収して取り付けた両脚は限界に近かった。

 

時間がない。

 

 

 

『オルタ……今、助けます』

 

アナライザーは、自身のクローラーを回転させてオルタに向かっていき、その手をつかんだ。

 

『シェルブロック破壊。カーネルに侵入。オルタ本体の自我構成ユニットを捜索開始』

 

 

アナライザーはオルタに対してハッキングを仕掛け、その深淵に飛び込んだ。

 

 

 

「アナライザーのステータスに変化あり!ガミロイド兵へのシステムハックを開始しました!」

新見がアナライザーのステータスが変化し始めていることに気がついた。

 

外部観測機器からの信号を全てシャットアウト。通信回路も全て閉じ、ただオルタにのみアクセスしているのだ。

 

「新見くん、アナライザーとの通信を繋げてくれ。多少不安定でも構わない」

「はい」

「任せたわよ、アナライザー」

祈るような声でハルナがそう呟いた。

 

 


 

 

『自立稼動プログラム確認! オルタ本人ハ未ダ確認デキズ。ドコナノデスカ、オルタ』

 

深く深く潜っていく。電子と情報で満たされた電脳の海は、幾何学模様を輝かせ凪いでいる。

 

深く深く潜っていく度に見えない壁が行く手を阻み、その都度崩す。

 

 

そして見つけたのは触れられない領域。否、触れてはならない領域だった。

アナライザーは自らの人間的な勘でそれを感じ取ったが、機械らしく躊躇はしなかった。

 

今まで崩してきた障壁の向こうにはオルタはいなかった。

そしてこの障壁が1番危険だと感じた。

 

なら、この向こうにオルタがいるのでは?

 

 

 

『オルタ! 聞コエマスカ?!』

 

呼びかけてみる。電脳空間内では意識伝達が無遅延で行えるが、わざと意識的に実行してみた。

 

『ア、ア、アナ、アナライザー……ニげて』

 

『逃ゲマセン! コレハ、私ノヤリタイ事デス!』

 

そう言い放ち、アナライザーはその障壁に触れようとした。

しかし、押し返される様な感触を覚えた。

(押シ返サレル? ナラバ!)

 

 

アナライザーが取った手段というのは至極簡単。力押しで障壁を突破するということだ。

自身の演算機能をフル稼働、予備の領域も使用して障壁の突破を図る。

 

 

 

《アナライザー……聞こえるか?!》

『真田サン?! ドウシテ?!』

 

《話は後だ。状況は?》

 

『オルタノ自我ヲ確認!現在オルタヲ幽閉スル障壁ノ突破作業中!』

 

 

『アナライザー……ニげて、キズつけたくない』

 

『逃ゲマセン! 私ハ初メテノ友達ヲ、同ジ機械トシテ見捨テタクナイデス!!』

 

 

フルパワーで障壁を突破して、オルタのいる空間に片腕を突っ込んだ。

 

 

(コレハ……! 私ノ意識ガ揺ライデイク……)

 

 

それでも躊躇せずにオルタに向かって手を伸ばす。

 

 

『……トモダチ……友達』

 

オルタも手を伸ばす。華奢な左手を懸命に伸ばし、アナライザーの無骨な右手を掴んだ。

 

 

 

 

互いにガッチリ掴んだのを確認して、

そのまま引っ張り上げた。

 

 

 

『戻ッテキマシタネ』

 

 

____________________

 

 

 

 

景色が切り替わり、元の星空に戻った。電脳空間から現実に戻ってきたことを近くしたアナライザーは、自分の目の前にいる友人に声をかけた。

 

『オルタ……』

 

『アナライザー……ありがとう』

 

『私タチハ、友達デスカラ』

 

『友達……』

 

『アナライザー……ワタシはあなたをキズつけた』

 

『真田サンカラ聞キマシタ。友達ハ、時ニ喧嘩スルモノダト。ソシテ仲直リスルト。真田サン、オルタノ正常化ヲ確認シマシタ。本人ニ抵抗ノ意思ナシ。ドウシマショウカ』

 

『アナライザー、君はどうしたいんだ?』

 

 

『私ハ……オルタヲ壊シタクナイデス』

 

『……艦長の沖田だ。今後ガミロイド兵を解析室から出さない事を条件に、ガミロイドの破壊を見送ることにする。情報通信用のシステムを全て封じた上でだ』

 

 

 

『……沖田艦長、アリガトウゴザイマス』

 

『ガミロイドは……いやオルタは明確な自我を持っている。儂も破壊はしたくない』

 

 

 


 

 

 

『天使に囚われた白い少女を救い出した王子様はその力ゆえ、人ならざる何かとなってしまいました。白い少女も同様に。確かにもうヒトじゃないかもしれない。でも、心はヒトのまま。虐げられても、心はヒトである事に変わりは無いのです。』

 

『王子様の起こした奇跡は1つの神話として今後、語り継がれていくのでした』

 

 

 

___________________

 

 

 

 

「一通りチェックは完了したが、2人のシステム系統に以上は見られなかった。オルタが暴走したのは、アナライザーが停止させた別系統の自立行動プログラムの可能性が濃厚だ。そのプログラムは、敵地に長期間拘留された時に自動的に発動するもので、破壊行動を行うもののようだ。だが、そのプログラムのログに無数のエラーが出ていた。恐らくオルタが止めようとした痕跡だろう」

 

 

「つまり、奴はAU-09を攻撃したかった訳では無いということですね?」

オルタを追いかけた身として伊藤も解析結果を見ていた。

 

「そういうことだ」

 

「馬鹿馬鹿しい、奴に心があるなんて。あれは機械なんですよ?」

 

 

「……確かにガミロイドは、プログラムの膨大な積み重ねによって思考して稼働する多文書多重処理によるオートマタだ。だが、我々の脳も同じように多文書多重処理の仕組みとなっている。彼らの処理系に我々と同種の意識は芽生えないと君は言いたいようだが……」

 

「それを証明することは実は出来ないのだよ」

 

 

(たとえ作られた生でも、心は芽生えるのだよ)

 

 

 

 

そう呟き、コンソールの電源を落とした真田であった。




前書きにも書きましたが、基本情報技術者試験の午前免除試験に合格しました。

やっと続きが書けると思ったのですが、このオルタの話、最初はかなり粗が目立つなあと思ったので、書き直しました。
全体的にリフォームって感じだったので、結構時間がかかりました。


この物語の原作は、異色の物語と言われていますが、主は、この話結構好きです。
物語の朗読も要所要所に差し込まれているので、今回はそれを再現してみようと思い、シンジ君と綾波の話を入れてみました。

でも朗読とメインの話が大きくずれてしまっては意味がないので、その辺の調整が難しいです。
オルタ生存ルートにするためには、オルタの自我を救い出す必要があるので、
新劇場版「破」の第10の使徒のようにやってみました。


この展開を他の話にも盛り込みたいですwww



次回の投稿がいつになるか分かりませんが、それまでお待ちいただけると幸いです。


それだは長くなりましたが、次の話で会いましょう
(^.^)/~~~

何を登場させる?

  • ガンダム系で何か
  • マブラヴの戦術機のどれか
  • 原作の機動甲冑(2式か4式)
  • もっと別のやつ

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