宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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夏と言ったらスイカです。

スイカと言ったら加持さんです
そう、今回はスイカ畑の話です。

もうそろそろメルダともお別れです。次の話で101部隊 は近隣の恒星系でガミラス基地から補給を受けます。

ガミラスに帰るのはしばらく先になります。


スイカ

 

 小マゼラン外縁部、その一角。

 

 ガミラスの本土防衛を担うこの重要な戦場を任されているとある戦闘団が、侵略者の進撃を食い止めていた。

 

 

 ガトランティス……ガミラスからは野蛮な民族と言われている彼らは、ガミラスのホームグラウンドとも呼ぶべき大マゼラン星雲に侵入しようと、日々小規模な戦闘が行われていた。

 

 目的は不明。多文明を制圧して、領土を拡大しようとする思想が彼らにあるのかどうかも分からない。だが、ガミラス艦と対等に、もしくはそれ以上に渡り合う事が可能かもしれない艦艇を持っている。

 

 目的が分からない以上、尚更本土に侵入させるわけにもいかず、ガミラス国防軍は、この宙域にそれなりの数の艦艇を駐留させなくてはならない。

 

 そして今この時、ガミラス側からの攻勢作戦が展開されていた。

 

 

 _____

 

(サレザー恒星歴1000年)デスラー紀元103年3月12日

 

 

 

 宙を駆ける魚雷の群れは、ガトランティス艦隊に突っ込み、一瞬の恒星を作り出した。

 

「全弾命中を確認。前方宙域に突破口の形成を確認」

 

「第7戦闘団は前へ、高機動戦闘を開始。楔を打ち込め!」

 

 彼は、エルク・ドメル。若くして中将の地位にまで登り、優秀な部下を集め第6空間機甲師団を組織、先のアリステラ星系では第666特別編成戦術戦闘攻撃軍を指揮、Type nullの戦線投入に大きく貢献した。

 その後、ガル・ディッツの指令を受け、この小マゼラン外縁部に艦隊を展開、ガトランティスに対しての防波壁として活躍している。

 

 

 彼の指揮で、ガミラス艦隊は高機動戦闘を展開する。ガミラス艦はどの艦にも共通する特徴として、魚雷発射管が異様に多い。そしてかなり機動力がある。

 

 あのガイデロール級でさえ、350メートルの戦艦であるにもかかわらず魚雷発射管が大量に存在する。

 艦種に差異はあれど、どの艦も雷撃戦をある程度意識した構造となっている。

 

 高加速と多数の雷撃戦装備、高機動雷撃戦闘を十八番としたガミラスの割り切った構造の戦闘艦は、戦闘出力を一気に開放して、ガトランティス艦隊に突撃していく。

 

 

 ガトランティス艦隊は急襲に対応すべく速射輪胴砲塔を放ち、ガミラス艦の撃沈を図るが、速度に乗ったガミラスには当たり辛く、ビームで暗い宙を彩るくらいの事しかできない。

 

『たいらげろっ!』

 

 第7戦闘団から魚雷、VLS、陽電子カノンが放たれ、確実に目標を撃沈していく。

 

 

 ミサイルを突き刺し、艦載機を潰し、陽電子カノンで風穴を開け、陽電子カノン薙ぎ払いで上半分と下半分を泣き別れにする。

 

 戦力よりも戦略を重視しているようだが、これは圧倒的というか一方的な掃討作戦だ。

 

 その戦域からやや離れて位置にいるのがドメル中将の専用艦、『改ゼルグート級一等航宙戦闘艦 ドメラーズ3世』である。

『こちら第7戦闘団バーガー少佐。敵艦隊の7割を殲滅、奴らしっぽを巻いて逃げ出していきます。ガトランティス、恐れるに足らず』

 

 彼はフォムト・バーガー。ドメル率いる精鋭である通称「ドメル幕僚団」の最年少であり、こちらも若くして少佐の立ち位置にいる第7戦闘団の指揮官だ。血気盛んな部分がまだ残っている。

 

「敵を侮るな」

 

『はい……』

 

「第7戦闘団は引き続き敵残存艦艇の掃討戦に移れ」

 

『ザーベルク!』

 

「バーガー、まったく。でもまぁ、これで奴らもしばらくは仕掛けて来ないでしょうな」

「そうだな、貴様も楽しみがなくなるな」

「まったくです、ハッハッハッハ」

 ドメル幕僚団の親爺とも呼ぶべき古参、ヴェム・ハイデルンが豪快に笑う。

 叩き上げの軍人である彼は古くからドメルに付き従ってきた老練な参謀である。

 

 

 

「ドメル司令、本国から通信です」

「バレラスからか?」

「いえ。航宙艦隊司令、ディッツ提督からです」

 

「提督から? 繋いでくれ」

 

 改ゼルグート級艦橋のメインスクリーンに映し出されたのは、髭を生やした厳格そうな男性だった。

 航宙艦隊司令のディッツ提督だ。

 

『元気そうだな』

「閣下もご壮健そうで何よりです」

『うむ。ドメル、君に召喚命令が下った。総統府から君に、特一等デスラー十字章が授与される』

 

「……お言葉ですが、この宙域は本土防衛の要、そのようなことで指揮官が離れることなど……」

『君の懸念することもよくわかる。だがこれは政治的なパフォーマンスだ。君のカバーでリントの第8軍がそちらに移動中だ。第2師団もそちらの宙域に到着する予定だ。彼らなら問題なかろう』

 

「……了解しました。両軍の到着を確認次第任務を引継ぎ、バレラスに帰投します。それと、1つよろしいでしょうか?」

 

『どうした?』

 

「例の第101部隊は本国に帰還したのでしょうか?」

『……そのことか。これは音声通信では伝えるには危ないからな……彼らからの報告書が私の手元に届いているから、それを送信しよう』

「感謝します」

 

『では式典で会おう』

「ザーベルク」

 

 通信では直接話しにくい内容は、ドメルにはなんとなく見当がついた。何かトラブルにあって何とか脱出したというたぐいだろうと思い、提督から送信されてきた報告書を読むと、自分の想像力が足りていなかったことを思い知った。

 

 

 

《ゲルバデス改級は現在、テロンの宇宙戦艦ヴンダーと共に行動中》

 

 


 

 

 その同時刻、こちらでは更迭に怯える者がいた。

 

 銀河間空間、バラン星にあるバラン鎮守府にて

 

「更迭される?! この私がですか?!」

 

『貴様は総統の作戦に泥を塗ったのだァ。ヴンダー問題を解決しなければ、貴様を銀河方面司令長官に推薦した我輩の立場も危うくなァる。現にィ、マゼラン内で「鋼の翼運動」という名の反体制派運動が広まり始めているのだァ』

 

『だが、貴様がヴンダーをここで撃沈すれば貴様は更迭を免れる。吉報を待っておるぞ、ゲールゥ』

 

 上司であるヘルム・ゼーリックの怒鳴り声を耐え抜いたゲールは、くたびれた様子でヴンダーの推定現在位置を表示させた。

 

「現在、ヴンダーはこの宙域を航行中かと思われます」

 

「私が陣頭指揮を執る! 艦隊出撃!!」

 

 ゲール指揮下の艦隊がバランから出撃し、焦りを背負いながら討伐に向かうのであった。

 


 

「植物工場?」

 

「といっても、ただの農園なんだけどね。毎日リクと私で面倒見てるんだけど、試作艦対艦ミサイルの調整が大詰めでそっちまで手が回らないのよ。お願いできる?」

 

「興味あるんで、行ってみます。あ、他にもいろいろ誘ってもいいですか?」

 

「いいよ~多分人手もいるし」

 

「??」

 

 

 この船に植物工場があるのは、アスカは一応知っている。でも、そこがどんなとこかは分からない。

 確かに全長2500メートルの船だから、そういう施設を艦内に組み込むことは可能だろう。だって艦内工場があるくらいだから。

 

 でも、船の中に畑というのは想像もつかなかった。

 

 1人でいこうか迷ったが、人手がいるとのことなのでまずは山本を誘うことにした。

 

 _____

 

 

「農園?」

 

「そう。なんか今日は面倒見れないって言ってたから私がやることになっちゃって……手貸して欲しい」

 

「船の中にそんな施設あるなんてね……興味あるね。あ、メルダも誘う?」

「ニヤリ」

 

 

 _____

 

 

 

「船の中に農園があるのか?!」

 

「そうなの。そこを管理している暁さんと睦月さんが今日は手が離せなくて、変わるに私たちがやることになったの」

 

「それで手伝って欲しいと」

 

「「お願い!」」

 

「……いいだろう、この鉄の床もいい加減見飽きたからな。それと、ユリーシャ様も誘っていいか?」

 

「もちろんよ」

 

「少し待っててくれ」

 

 

 _____

 

 

 

「ユリーシャ様、この船には果物が栽培されている農園があるそうです。ご一緒にどうでしょうか?」

 

「果物? 美味しいの?」

 

「実際に食べられるかどうかは分かりませんが、部屋で本を読むのもそうですが軽い気分転換になるかと思います」

 

「メルダ、行ってみよ?」

 

「お供します」

 

 

 _____

 

 

 

 そんなこんなで再び集まった異星人女子会四人組はその農園の場所に向かって歩いていた。

 

「この船は何でもありなのか?」

「実際何でもあるからね、最悪この船だけで生活できそう」

「それでは心が死にそうになるけどね」

「はいはい着いたよ」

 

 到着した扉の前には、「暁・睦月の実験農園」と書かれたプレートがぶら下がっていた。

 

「実験農園……? ただの農園では無いのか?」

「多分……普通の農園では無いのは確かね。品種改良とか」

 

「ん? 何コレ……『暑さに注意』? 開ければわかるか」

 

 そう言ってアスカが自動ドアを開けると、およそ宇宙船の中とは到底思えないほどの熱気が4人を強襲した。

 

「暑っ! 夏?!」

「作物の成長のために温度を変えているようだが、まさかここまでとは」

「あづいあづいあづいあづい……」

 

「……着替えた方が良さそうね」

 アスカがそう判断したことでドアが閉まり、熱風の猛襲は完璧にシャットアウトされた。

 

 

「主計科に聞いてみよ」

 

 

 


 

 

 

「タンクトップと作業用ツナギ?」

 平田はキョトンとした。こんな艦内でなんでそんな格好をと思ったのだろう。

 

 だが、アスカがあの農園のことを話すとすぐに納得した。

 

「あの農園の手伝いだね。ちょうど甲板部のあまりが何着があるから見てみてくれ。タンクトップは余るほどあるぞ」

 

 平田に連れられて衣類保管庫に入ると、様々な艦内服が綺麗に整頓されていた。

 

「確か甲板部のやつは……あった、コレだな」

 平田ぎそう言って取り出したのはオレンジ色のツナギだ。

 右肩に「NHG-01」の数字とWunderの翼がワッペンとして付けられていて、左肩には国連宇宙海軍のワッペンが付いている。

 

「それと、これがタンクトップな」

 ツナギとシンプルなタンクトップを受け取った4人集はお礼を言って保管庫から出ようしたところを平田によびとめられた。

 

「あ、ちょっと待った。あの部屋は暑いし太陽の代わりのランプで眩しいから帽子もな」

 

 そう言って平田は、これまた甲板部の作業用帽子を渡した。

 

 

「「ありがとうございます!」」

「ありがとう!」

「感謝する」

 

 甲板部の作業用装備一式を受け取った4人組は、着替えなければと思ったが女子更衣室がかなり遠いことに気づいた。

 

 

「その場で着替えるのは……流石にな、マズイか」

「保安部に公然わいせつで捕まりそう」

 

「ねえ、服を脱いでも大丈夫な場所にすれば?」

 

「「それだ(です)!」」

 ユリーシャのヒラメキに山本とメルダがハモり、ちょうど近くにあった奇跡の湯の脱衣場で着替えることとなった。

 

 

 

 

 10分後━━━

 

 

 

 

 ユリーシャがツナギの着方が分からなくて、多少時間はかかったものの全員仲良くオレンジになった。

 

 ということで準備万端だ。

 

「メルダ……大胆ね」

 だが、何故かメルダはツナギを下だけ着て、上は袖を腰あたりで結んでいた。いわゆる腰巻き状態だ。

 

「こうすれば暑くないだろう? 長袖は余計に暑いと思うが」

「まあそうなんだけど……いっか」

 

 

 上半身タンクトップというのも少々刺激が強いかもしれないが、軍人であるメルダに羞恥心は少ないようだ。

 

 


 

 

「……開けるよ」

「ああ、やってくれ」

 

 再び農園のドアを開けると、やはり熱気が襲い掛かって来るが、万全の格好をしたためダメージは少ない。

 

「やっぱり暑いね」

「私のように耐暑仕様にするか?」

「……男いないからいっか」

 山本も腰巻にして暑さを和らげる。暑さに慣れてきたとこで周りを見てみると、そこはとても艦内とは呼べない光景だった。

 

 

「これは……!」

「すっご」

「草がいっぱいだ!」

「うん、草一杯だけどこれから果物とかできるよ」

 

 そこには少し底深になった床面に腐葉土がふかふかに敷き詰められ、なんだか分からない謎のつるが足元を埋めていた。でも人一人が通れる道はできている。

 

「こっちに仕切りがあるが、向こうは何だ?」

 横を見ると、半透明の壁の向こうに何かあるように見える。

 扉を開けてみると、そこには無数の金属ラックの上で成長しているレタスがあった。

 

「こっちは涼しいな……」

「紫っぽいライトで栽培しているみたいだけど、何でだろ」

「土が見当たらないけど……これって水耕栽培?」

 そう、この涼しい区画は水耕栽培でレタスを効率的に育てている区画だ。実際に土の畑で作るレタスよりは小ぶりだが、それは確かに瑞々しい葉を持っている。

 

「土がなくても栽培可能なのか……ガミラスでは見ない物だ」

「ねえアスカ、暁さんから何か指示もらってるんでしょ?」

 

「そうそうコレコレ。ハルナさんからノート借りてるんだった」

 そう言って取り出したのは一冊のノートだ。

 それにはこの農園について様々なことが書かれている。作物の種類、栽培方法、管理方法、病気、その他もろもろのことが書かれた攻略本である。

 

「すいか?」

「スイカって、あのスイカのこと?」

 

「スイカ、黒と緑の縞々の果物。でも中身は真っ赤になっていて黒い種がついている。食べると甘いよ」

「ユリーシャ様、物知りですね?」

 メルダが驚いたような顔をした。イスカンダル人がテロンの果物について知っているのが不思議でたまらないのだろう。

「ふふーん。マリの本たくさん読んでたの!」

 ユリーシャが胸を反らして自慢そうにする。

 

 航海科に呼ばれること以外は暇なユリーシャは、マリのアーカイブやこの船に保存されているアーカイブ本を読み漁っている。

 

 と言ってもユリーシャはイスカンダル人、地球の言語は読めない。そこで、日本語の勉強から始めた。簡単な物語から読み始め、日本語の辞書を併用しながらだんだんと難しいものを読んでいく。

 イスカンダル語はフランス語に近いということもあり、フランス語も参考にしたりと、船の中で猛勉強していたのだ。

 

 そして、日本語をある程度読めるようになったユリーシャは割と広いジャンルを読んでいるのだが食べ物系の本がやや多いようで、メルダが誘いに行った時には何故かは分からないがイタリア料理の本を読んでいた。

 

「それで、何をするんだ? その本に書いているのだろ?」

 

「えーっとね……ハダニの除去……? なんかコーヒー使うみたい」

 

「これの事か? そこの冷却保管庫に入っていたんだが」

「あ、それだね。これを吹きかければいいみたい」

 

「なになに……? 『葉っぱにハダニがついていることがあるので、コーヒー霧吹きを噴射してハダニ退治をしましょう』って書いている」

「害虫駆除か。他には?」

 

「『黄色くなっている葉や白っぽい葉は病気になっているサインだから取っちゃいましょう。手遅れになる前に急ぎましょう。土の水はけが良いかどうか確認しましょう。程よく湿っているのがちょうど良いです。水のやりすぎは却って良くないので水やりはほどほどにしましょう。やりすぎると病気になります』……他にもメチャメチャ書いてあるね」

 

「ガミラスにもこれに似た作物はあるが、ここまでデリケートとはな。だがこうしないと美味しくできないのだな」

 

「早速作業しようか」

 

 


 

 

 役割分担でいろいろ揉めたが、とりあえずアスカがコーヒー霧吹きをやって、ユリーシャが水やり、山本とメルダが葉と茎のチェックをすることになった。

 そして暑いので必ず水分補給を欠かさない事。

 イスカンダルとガミラスにも春夏秋冬はあるようだが、ここまで暑いのは初めてという事みたいなので水分ボトルは常備だ。

 

「ねえ、ガミラスにもこういう作物があるって言ってたけど、実際ガミラスの自然ってどんな感じなの?」

 

「機密に触れない程度なら……ズピストの浮遊大陸基地にあった植物は見ただろ? この船が跡形もなく消し飛ばしたあの大陸だ」

 

「ああ……あの大陸かぁ。あんなのが生えているの?」

 

「そうだ。食べられない種類が多くてな、食べれる物でも下処理がいるのだ」

 

「毒抜きとか?」

 

「そういうわけじゃないんだが、美味しくないのだ。だから大抵濃い味にして誤魔化しながら食べる」

 

 

「まさかメルダって野菜嫌い?」

「そうではない! だが、ここの艦内食堂は野菜は不味くない。別の味で誤魔化している感じもない」

 

「問題はどう造っているかなんだけど、メチャメチャ新鮮なのよ、この船のご飯の野菜。都市伝説になっていくらいだから」

「詳しい人に聞いていた方がいいな」

 

 

 ____

 

 

 

「まさかコーヒーの使い道がこんなとこにあったなんてね……」

 山本とメルダの会話を聞きながら、黙々とスイカの葉にコーヒーの液を吹きかけていく。

 

「地道ねぇ……どわぁ!」

 突然横殴りの放水を受けたアスカはビッチョビチョ放水してきたのは一人しかいない。

 

「……ユリーシャぁ?」

 

「あわわわわ……ごめんなさい」

(やっちゃった……)

 慌て顔で申し訳なさそうにしているユリーシャが大急ぎでタオルをアスカに被せた。

 

「……着替えてて良かったわ。パイロットスーツは汚したくないからね」

「寒くない?」

「こんだけ暑かったらそのうち乾くでしょ。なんなら後2人にも放水したら?」

「流石にわざとやらないわ!」

 赤くなったユリーシャは膨れ上がった。本当にイスカンダルの姫君なのか? 

 

 

 

 

「作業ご苦労様」

 灼熱の空間に入ってきたのはリクとハルナだった。

 

「アカツキとムツキじゃないか。もういいのか?」

 

「最大戦速で終わらせた」

 

「さっすがぁリクハル」

「リクハルって……どこぞのカップリングみたいにしないでよぉ」

 赤くなるハルナをみてニヤニヤ意味深な顔をするユリーシャに何かを察したメルダは知らないふりをした。

 

 

「ところで、何作っていたんですか?」

 

「ん~良い物。といっても兵器なんだけどね」

「どんな物なんですか? って聞いても応えてくれないと思いますが……」

「私は『聞かザル』をしておくから問題ないぞ?」

 メルダが某「耳をふさぐサル」のように耳をふさいだ。多分ユリーシャに教えてもらったのだろう。

 

「それはね……ゴニョゴニョ」

「マジですか?」

 

「不殺の兵器ってことなの」

 

「私たちの目的はイスカンダルまで航海することですからね」

「一ついいか? そこでアスカが水浸しになっているのだが何かあったのか?」

 

「ああ、ユリーシャの放水攻撃を受けたんだと思うよ」

「えへへ……やってしまった」

 

 

「ところで、何でこんな区画があるんですか?」

 

「メンタルケアのためかな……金属の床ばっかりだと気分が滅入るでしょ? 水上艦艇なら外に出て潮風にあたってリフレッシュとかできるけどここは宇宙だからね、メンタル的にもきついものがあるの。だから、こういう作物も育てられるようにしたの。ここはね、元々この船が『Buße』の頃からあった設備なの、作物の自給自足のためにね。Wunderへの改装時に何とかして残したかったから、リクに無理言って設計変更時に残したの」

 

「それで毎日面倒を見ているんですね」

 

「ああ、たまに古代君にも手伝ってもらっているわ。彼生まれが地球だしこういう作物も見たことがあるから。あとは力仕事要員としてかな~なんかたま〜に森さんとやってるみたいだしね」

 

 

「古代さんが……」

 

 

「もしかして……古代くんの事気になるの?」

「気になる……と言ったらそうですね。私が戦闘機に乗れるようになったのはアスカと古代さんが働きかけてくださったのが大きいですし、感謝してます」

 山本の顔は複雑そうだ。

 

「でも、森さんと古代くんはなんか互いに意識しちゃってるんだよね……恋は論理では表せないから定義ってものが存在しないのよ。アタックしてもいいし、このまま森さんと古代くんを応援するのもいいと思う。私も好きな人がいるけど、どうすればいいのかね……分かんないの」

 

 

「暁さんもいるんですか? 好きな人」

 

「いるよ、内緒だけど。もし何か察しても何も言わないでね」

 山本はもうわかっていたが、何も言わないでおいた。

 

(睦月さんの事かな……さっき顔赤くしてたから)

 

 

 

「ハルナ。一通り葉と茎の確認は終わった。山本さんとメルダが全部確認してくれたから異常なし、オールグリーンだ」

 

「じゃあ4人にお礼しよっかな」

 

「「「「??」」」」

 


 

 

 

「これは?」

 

「試験栽培していた物の1つで、パイナップルだよ」

「あのパイナップルですか?」

 

「そう。あのパイナップルだよ。時期的にもうそろそろ採っていいかなって感じだったから試しに1つね。試食したい人は手を挙げて〜」

 

「はい!」「はい!」

 

「パイナップル食べたい!」

「ユリーシャ様、まずは私が!」

 食べても大丈夫かどうか、メルダはいわゆる毒味を買って出た。

 メルダ自身、毒はないことは分かっていたが、信仰対象のイスカンダル人がいるのでそうするしかないのだ。

 

「そういうメルダは真っ先に食べたいだけじゃない?」

「そうでは無い!」

 山本がメルダを茶化すとメルダは頬を膨らました。

 

「ハイハイちゃんと4人分あるからね」

 そう言いながら研究室備え付けの簡易キッチンでパイナップルを切って1口サイズにする。

 

「他の人には内緒だからね。ここでスイカ以外の果物育ててるのみんな知らないから」

 

 

 皆でパイナップルに小さいフォークを刺して、

 

「いただきます!」

「いただきます? 食前のお祈りか?」

 

「まあそんなところ。自然への感謝の気持ちを表すって感じかな」

 

「じゃあ私も『自然に感謝していただきます』」

 口にしたパイナップルは酸っぱすぎず甘すぎず、絶妙のバランスを保った最高の甘味であった。

 

「美味しい」

「久しぶりに食べたかも……新鮮な果物」

「何か舌がひりひりする……」

「舌がですか? 私はしませんが……」

 1人だけ舌がヒリヒリしているユリーシャは口の中をもごもごしていた。

 

「ああ~ほんはひほひほってほうなるひほはいふほ(何か人によってそうなる人がいるよ)

 不思議そうにしているメルダに豆知識を披露するリクはひたすらハイナップルを頬張っていた。

 

「ああ~! もうこんなに減ってる!!」

 

「リ~クぅ?」

 

「すまん……」

 口いっぱいにパイナップル頬張りながら申し訳なさそうにしているが、久しぶりの自然のフルーツに若干にやけ顔だ。

 

「も~う……少しは自重してよ。木星オムライス早食いで太田さんギブアップさせたの忘れた?」

 

「忘れてない……あの時佐渡先生にこっぴどく怒られたからね」

 

(くぉらぁ! 何やっとんじゃあ!!)

 鬼神の如き行われた集中砲火オーバーキル説教を思い出し若干青ざめるリクをよそに、女性一同は残りのパイナップルを平らげるのでした。

 

 

「もう一個切ろうかな」

 

 そうのんきに考えていたその時、艦が揺れた。

 

「何?!」

 

「睦月です! どこからですか?!」

 

『右舷前方2時の方向にガミラス艦確認! 第21区画装甲板に被弾です』

 備え付けの内線から相原の報告を聞き、リクは顔を引き締める。

「負傷者は?」

 

『確認中ですが、現在曳航中のガミラス艦に損害はない事は確かです』

 

「ごちそうはお預けか。メルダ、ユリーシャを安全区画に誘導してほしい。ハルナ、持ち場に行こう」

 

「ええ」

 

 

 

 


 

 

 

 

「ゲール司令! ヴンダーを捕捉しました!」

 

「フン、簡単に見つかったじゃないか。砲撃用意!」

 

「しかし、ヴンダーが101艦隊を曳航しています! このまま撃てば当たります!」

 

「なら当てないように撃つんだ! 万が一当たったら向こうが撃沈した事にすれば良いからな。全艦砲撃用意!」

 ガイデロール級の陽電子カノン砲に赤い光が灯り、放たれた。

 

 

 ______

 

 

 

「敵艦隊の総数は?」

 

「10隻です。その中に旗艦と思われる超弩級戦艦1隻を確認」

 森が注視しているレーダーには、Wunderの2時方向に10個の敵艦反応が表示されている。

「……ガミラス艦をくっつけている以上攻撃は厳しいと思ってたが、器用にWunderだけを撃ってきたな」

「我々が下手に動けば曳航中のガミラス艦に当たる。向こうからしてみれば、我々が殺したという事にもできるのだろう」

 

 

「このまま避けたら彼らに当たります! 迎撃を!」

 南部が火器の使用を進言するが、それは弾かれた。

「いや、撃沈はしない。無力化するだけだ。艦長、試作した艦対艦ミサイルの使用許可を下さい」

 

「……許可する。南部、舷側短魚雷発射管開け、LCM装填」

「LCH? 何ですかそれ?」

 

「Lightning Cluster Missile、通称カミナリサマ。EMP攻撃用のユニットを多数装備したクラスターミサイルだ」

 

 Lightning Cluster Missile、ガミラスへの対抗兵装として艦内で造られた特殊なミサイル。

 

 これは、かつてグリーゼ581で受けたビルケランド電流から発想を得て造り出された物で、殺さずに無力化する兵器の最初の一つである。

 

 敵艦を撃沈することを目的とせず、無力化させることを主観において設計されたこのミサイルは、多数の超高出力EMP発生装置を内蔵したクラスターミサイルとして誕生した。

 

 MAGIシステムの誘導で敵艦隊の中枢に侵入して、外装をパージして内蔵したEMP発生装置をばら撒く。

 

 ばら撒かれた発生装置は互いに間隔をとり、一斉に放電、敵艦の航法システム、レーダーや通信を根こそぎ潰す。

 

 

 

 

 

「LCM発射!」

「撃てぇ!」

 

 

 南部の号令で、左舷の短魚雷発射管から3発のミサイルが放たれた。

 その特殊なミサイルはゲール艦隊に殺到する。ゲール艦隊もミサイル迎撃のために砲火を始めるが、ミサイルはそれを巧みに避けて敵艦隊の中枢に乗り込んだ。

 

「外装パージ! ユニット射出!」

 リクの操作でLCMの外装が勢いよく外れ、中から球体状のEMP発生装置をばらまいた。

 

 その直後、凄まじい電流がゲール艦隊に襲い掛かった。

 

 ショックカノン一発に使う分の電力が放たれ、なすすべもなく電流の檻に捕まったゲール艦隊は全ての艦の機能が停止してしまった。

 

 

 

 

 

 

「何だ?! 何が起こった?!」

 

「超高出力の電磁パルスです! 慣性制御システム、航法システム、レーダーダウン!」

 

「何だとぉ?! 動ける艦はいないのか?!」

 

「ダメです! 全滅です!!」

 たった3発の、しかも艦に命中すらしないミサイルを見て、ゲールはヴンダーをバカにしていた。

 しかし今は、そのミサイルから放たれた電磁パルスに艦のシステムを壊され、青ざめていた。

 

 

 宇宙空間を航行する戦闘艦は、宇宙空間で発生する考えうるあらゆる天体事象に対応できるように設計されている。

 

 スペースデブリ、放射線、高温低温、恒星からのコロナ……それらの過酷な環境に耐えることが出来るようになっているが、ここまで高出力の電磁パルスに対しての対策は何らなされていない。

 圧倒的な量の電力に任せた雷光は、ガミラス艦を物言わぬ鉄の棺桶にした。

 

 

 

『こちら宇宙戦艦Wunder。艦長の沖田十三だ。我々は現在、一時協力関係にあったガミラス艦隊の曳航中である。貴官らの攻撃から身を守るため、やむを得ず貴艦らのシステムを落とした。今なら、本艦の攻撃力で貴艦らを撃沈することも可能だ。だが、儂はそれを望まない。黙って我々を行かせてほしい』

 

 

「うぬぬぬぅぁ……、システムの復旧を急ぐのだ、生かしておくかぁ……!」

 

 


 

 

「ガミラス艦隊の無力化を確認、航法システムもダウンしているものと思われます」

 森が注視しているレーダーに映るガミラス艦の表示はピクリとも動いていない。

 陽電子カノンも魚雷も飛んでこない。

 

「本当に無力化するとは……暁さん、これって……」

 古代はそのミサイルの特異性を確かに感じ取っていた。決して誰の命も奪わない兵器は、本来ならば兵器としての意味と相反している。

 でも、一種の戦術として使えるという事を「戦術長として」感じ取っていた。

「量産すれば無敵のミサイルだよ。でも数撃てないからね、さっきので研究用の弾頭以外撃っちゃったからあと1発しか撃てない」

 

「隠し玉ってことですか……大艦隊が来たら厳しいですね」

 

「あら島君、その辺については何とかなりそうよ。マリが変なシステム組んでいるから」

「真希波さんが? どんなものなんですか」

 

「この船の設計限界まで武装を酷使するシステム、戦術科が興奮しそうなね。あの子らしいといえばあの子らしいんだけど、ほんとに良かったの?」

 赤木博士がリクとハルナの方を見て心配そうにする。

 

「マリさんから聞いたときは驚きましたが、設計限界に収まっているのでOKかなと。でも甲板部が泣きそうです」

「できれば……ね、使って欲しくない」

 

 異口同音に「できれば使って欲しくない」と感想を述べる2人は苦笑いを浮かべる。

 

 

 

 

「まさか高出力電磁パルスによる電子攻撃とは……峰打ちという事か」

 

「メルダ、この船はイスカンダルに向かうのを目標にしているだけなのよ? この船の武装はあくまで身を守るためのもの、さっきのミサイルが彼らの答えなら、スターシャ姉さまに胸張って報告できるわ」

 

 航海を見届ける……「レフェリー」としての立ち位置にいるユリーシャは、姉に良い報告が出来ることに安心したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 デスラー紀元103年 3月20日

 

 帝都バレラス バレラスタワー前中央広場

 

 その広大な広場に押し掛けた人たちが一目見ようとしていたのは、国民に人気の高い軍人、エルク・ドメルだ。

 

 特一等デスラー十字勲章の授与式には多くの閣僚が来席し、栄えある軍人の名誉を称えている。

 たとえその腹の中は違う色だったとしても。

 

 

「……止めろ」

 不意に車を止めるように指示した。窓の外には幼い少女が弾む息と共に花束を抱えていた。

 

 路上警備の兵を手で制して、少女に向き合ったドメルはしゃがんで優しい笑顔を向ける。

 

「我らが将軍!」

 

 その少女の行動はとても勇気のある行動であった。このような式典ではテロ行為だと疑われてもおかしくない。

 

「……ありがとう」

 

 その花束を受け取った。ガミラス特有の青い花びらの美しい花は、心を映しているようだ。

 

 

 ______

 

 

 

「総統、このような場に私を呼んだのには、何か問題があったからなのでしょうか?」

 

「君は勘が良いね。君も知っているように、テロンからの宇宙戦艦がこちらに向かっている。プラードの前線基地、シュルツ君を撃破し、そしてゲール君が、たった3発のミサイルで艦隊ごと無力されたとの報告を受けた」

 

「まさか……そのようなことが本当に可能なのですか?」

 

「そうだ。時間を与えればその分進化する戦艦、手遅れになる前に君に撃沈を頼みたい。事は深刻だ。帝国領土内では反体制運動が活発化している。それを収めるためにもあの船を沈めなければならなくてね、やってくれるかな?」

 

 

「ご命令とあらば」

 

 勲章授与を受け、壇上から去るドメルが受けた命令、それはWunderの撃沈。

 宇宙の狼と異名を持つ彼の目は、狩人の目。

 

 それが獣の目となるかどうかは分からない。

 

 受勲式後に彼が総統府に提出した作戦の通称は、「神殺し」だった。

 

 

 




スイカ食べたいです

これだけ大きな船のなかなら畑くらい造れるだろうということで、今回登場させました

あのスイカはイスカンダルに到着する頃には食べ頃です
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