宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
この話は、今後出さなければならない話の前座となっています。
今までの作風から少し離れているかもしれませんが、「次につなげるための話」です。
途中で重力に関する記述がありますが、とある読者の方に協力をいただきました。
ありがとうございます
では、お楽しみください。
「生存者2名確認! まだ息があります!」
「何でこんな状態で生きてられるんだ……?! とにかく医療班に連絡!」
「分かりました! 捜索班から医療班に連絡! 生存者2名発見!」
「こいつ、背中に……」
「こりゃひどい、細かい破片がブッ刺さっている。出血箇所も多い」
「……あ……あなたは」
「まだ意識があるのか……! 君、分かるかい?!」
「はい……僕、どうなって」
「出血箇所が多いからとにかく喋らない方がいい。医療班を呼んだ、気をしっかり持て!」
「ハルナは……ハルナは無事なんですか……?」
「ハルナ……? とにかく、君の抱えている女性は外傷が少ない。きっと助かる」
「そっかぁ……安心しま……し……」
「おい! しっかりしろ!!」
「医療班現着! 負傷者をこちらに!」
・・・・・ ・・・・・
(あれから40年か……まだ目を覚まさんのかい?)
(あの時の生き残り、極東からは秘密にするようにと言われてますが、目を覚ます確率なんて0ですよ)
(じゃが、息をしているし脳死でもないんじゃ。このまま生きていられるのなら、儂はこの子たちの主治医をしていようかと思う)
・・・・・・・・・ ・
(音が聞こえる……人の声、ピッピッピッて音がする。呼吸音……?)
(目は……閉じているな、でも外が明るい……?)
(そうか……あの時僕は安心して気を失って、あれからどのくらい経ったの?)
光の方に手を伸ばしてみたら、そこは知らない天井だった。
たくさんの機械に繫がれて、規則的な心電図モニター音に支配された空間から、ここは病室だと察した。
「知らない天井だ……助かったのか、僕は」
「睦月さん~機器のチェックに来まし……えぇっ!!! 睦月さん?! 分かりますか?! 今先生呼びますからね!!」
唐突に入ってきた看護師さんはどうやらオバケでも見たかのように飛び上がってそのまま駿足で病室から飛んで行ってしまった。
どうやら僕は1年以上は寝ていたのだろう。
さっきの看護師さんの反応もそうなのだが、まず体があまり動かせないのだ。
いや、ギプスとかでガチガチに固定されているわけではない。ホントに拘束なしの状態で動かせないのだ。自分の体じゃないみたいだ。鉛みたい。
でも肌の感覚はあるから少なくとも神経がやられているのはなさそうだ。となると筋肉が全体的に弱っていたという事か。
起きたばかりで処理速度のガタ落ちした頭でそんなことを考えていると、「驚愕」という2文字を顔面に張り付けた医師らしき人が大慌てで入ってきた。
「君、分かるかい?!」
「……はい。あの、ここは?」
「中央大病院だ。君は火星出身のようだが、ここは地球。君は移送されたんだよ。それと、名前は分かるかい?」
「睦月リク………歳は、21」
「最後に何があったか、覚えているかい?」
「……ハルナを庇って、それで死にかけて……あの、ハルナは? 目を覚ましているんですか?」
「……まだ目を覚ましていない。でも生きているよ。君が身を挺して守ってくれたおかげだ」
「はぁ……生きてた……良かったぁ」
嬉しい時にも涙は流れる。「そんなことあるの?」と思っていた時期があったんだけど、それは確かに零れ落ちた。
「それよりも、起きてからすぐここまで話せる君の方が異常だよ。でもその分だと、色々話せるから助かったよ」
「……教えてください。僕が眠っていた間に何があったんですか?」
……40年分の歴史だった。
まず、今は西暦2195年という事。
ここから僕は、40年間眠っていたという事が分かった。
次に、地球と火星間での戦争があったという事。
一般的には内惑星戦争と言われてるみたいで、80年代に戦争は終結した。
地球側の勝利で、火星に住んでいる人は強制的に移住させられたという事。
ここから、何で僕とハルナが地球にいるのかが分かった。
最後に地球外からの侵略者がいたという事。
コレは比較的最近の事で、科学力の違いで地球は劣勢だという事。
それと、発見時の状況を聞かされた。
僕は背中に無数の細かい破片が刺さっていたらしい。大量出血、それによる昏睡。ひどい有様だ。
今眠っているハルナの方は頭を強く打って脳機能に障害が出て昏睡。これが現状らしい。
一応脳細胞復活用に幹細胞投与オペをしたようなので、ハルナの回復力にかかっているらしい。
「はぁ、頭痛い……」
情報に数の暴力を行使されたことで頭がパンクしそうになった。
でも、その量が、「本当に40年経っていること」をいやでも実感させに来る。
ちなみに、今僕たちの担当をしているのは、「佐渡先生」と言う人だ。
まだベットから起きれないけど、腕なら動くから医療用ベットのリモコンを操作して背もたれを操作した。
目線が高くなったことで周りが見えるようになった。その視界の端に、自分が命懸けで守った人が静かに眠っていた。
「ハルナ……」
酸素マスクを付けられ、点滴を無数に付けられ、多数の機械に囲まれて、オブジェのようにピクリとも動かずにそこに横たわっている女性を、見間違うはずはなかった。
白銀の髪、整った顔立ち、少し長めのまつ毛。
でも、髪の色が一部変わっていた。灰色っぽい。
40年間寝たきりなので髪が伸び放題になっている。前は母さんのまねしてポニーテールにしていた。
……よくよく考えていたら、僕の髪も伸び放題になっている。
とりあえず看護師さんに頼んでヘアゴムの代わりになりそうな物持ってきてもらお。髪は体動くようになってから切ろう。
・・・・・・・・・ ・・・・・
「これでは落ち武者だな……」
束ねてもらった髪型を見ながら苦笑する。ラプンツェル……のようではないけど、とにかく髪が長い。
髪を束ねてもらった直後、ベットごと病室から出されてそのまま検査室に連れていかれた。そこで一通りの検査を問答無用でされたから部屋に戻るころにはもうクタクタになっていた。
残念なことに、復活したばかりで一般の人と同じ食事が出来るわけがないので、しばらくは胃腸に負担をかけない病院食……味気のない流動食を食べる羽目になりました。
オマケにお代わりなしのためお腹がすきます。おのれ……白飯が恋しい。
検査結果次第では、筋肉をもとに戻すためのリハビリが始まるそうです。
ならなおさら食べた方がいいのではと思いましたが、主治医に怒られそうなので我慢です。
「ん?」
車いすでこっそり売店まで買いに行ったゼリー飲料を飲みながらふとハルナの方を見ると、一瞬だけ指先が動くのを見ました。
「ハルナ……? ハルナ! 分かるか?!」
目覚めるかもしれない、そう思った僕は大急ぎでナースコールを押した。
1分も経たずに看護師と主治医の人が飛んできて、ハルナの瞳孔を確認した。
「微弱な反応がある、光の動きに反応しているんだ……! 睦月君、目を覚ます可能性は0じゃない」
「先生、これって……?」
「脳細胞が復元しているんだ……睦月君! ちょっと手を握って見てくれ!」
「えぇ?! わっ分かりました!」
そう言って、眠るハルナの左手を取って両手で握ってみた。
「え……」
その華奢な手が握り返してきた。
本当に本当に弱い力だが、確かに手を握り返してきた。
「ハルナ! 返事しろ!!」
昏睡から復活するのはそう簡単なことじゃない。
昏睡に陥る要因と言うのは多数ある。僕みたいに出血多量で脳機能が低下したり、ハルナみたいに脳細胞の一部が死んだりすると起こるらしい。
そして昏睡になって脳が死ぬ、つまり脳死が起こると植物状態となる。心臓は動くけど脳が動いてない。何も感じないしピクリとも動かない。
でも、目の前の大事な人は手を握り返してきた。
主治医の人が同じようにやってみたけど、なぜか握り返さなかった。
僕がやった時だけ反応があった。
「ダメです……意識レベルが元に戻りました。まだ……起きることは無いでしょう」
「……睦月君、暁くんが意識を取り戻す可能性があるのは君だけだ。君が手を握って何度でも呼び掛けてやって欲しい」
・・・・・・・・・ ・・・・・
リハビリの甲斐もあって杖ありで歩けるようになった。
佐渡先生はあきれ返っていた。
「君は人間かい?」
「人間ですよ。バリバリの人類です」
「まず骨密度がえらい上がり様なんだけど……」
40年寝てて半年でここまで回復するのは「様々な観点から見てありえない」らしい。
いやぁ人間の底力ってものは分かった物じゃないね。このころになると通常の病院食をおいしく食べれるようになった。お代わりしていいから、美味しい白飯をお腹いっぱい食べている。
実を言うと毎食一合は食べてたみたいで、食事を持ってきてくださる看護師さんが少し青ざめている。
入院当初のことだけど、地球に移送されたということを聞いて懸念していたことがあった。
それは、地球と火星の重力は大きく違うということだ。
自転速度やそもそもの惑星のサイズが関係してくるんだけど、地球の重力は、火星の2.6倍くらいある。
つまり、今僕の体には火星の時の2.6倍の重力がかかっている。
目覚めた時は47キロ体重があったけど、火星では47キロの体にたった18キロしか負荷がかかってなかった。
何を言いたいかというと、「重力が小さい影響で、体重に対してかかる負荷が結構小さかった」ということだ。
それは「骨も筋肉も弱い」ということ。
火星で育った僕の体は、筋力とか骨密度とか……とにかく耐久性に難ありで地球で暮らすには弱い。
転んだら骨折するかもと内心不安だった。
だけど昏睡中に体が適応しようとしていたのか根性なのかはわからないけど、飛躍的な筋力増加と信じられないほどの骨密度の増加によって体が地球用に頑丈に成ろうとしている。
よく食べてよく動いてよく寝たためか、今体重は結構増えている。
ぶっちゃけ牛乳飲みまくっていたのもあるかもしれない。
余裕で50キロ突破だ。今大体55かな。
……佐渡先生が僕のことを人間かと確認しているのも納得だ。
だが、ハルナがどうなるかはわからない。
僕みたいな適応力があるかどうかは分からないや。
時折ニュースでは、「地球環境の深刻な問題(主に遊星爆弾と言う兵器についてだが)」について話していて、どうやらこれらの食事は、合成で生み出しているみたいだ。
合成でご飯を作るのか……という事は、この白飯も鮭も合成……
……本物のご飯が食べたい。
とまぁそんなのんきな事を考えている日常が増えてきた。
もう院内生活は半年を越えた。こんなこと言うのはあれだけど、院内の看護師や佐渡先生と親しくなってしまった。
リハビリ病棟は僕の庭……なんちゃって
ハルナは相変わらず目を覚まさない。けど、本当に徐々ではあるんだけど、強く握り返してくるようになった。
その時だけ意識レベルが上昇するみたいで、1回だけ復活寸前まで上昇した時があった。
その時は皆さん大慌て、僕は半泣き、病室は混沌としてた。
「ハルナ、ただいま」
そういっていつもの病室に帰ってきた。
ハルナの様子は相変わらず変わらない。
実を言うと1日1回リハビリ棟の人に来てもらって足と腕を動かしてもらっている。
これは寝たきりによる筋肉の収縮を回避するためだ。
これは僕の方も40年間やってもらっていたようで、僕の回復力はリハビリ棟職員皆さんの、世代を超えた努力のお陰でもある。
徐にハルナのベットの横に行き手を握って今日会ったことを話してみる。
人肌の温かさを感じ、自分もハルナも生きているという事を再確認する。
そして、握り返してくる。
「ねぇ……こうやって握り返してくるんだから、本当はもう起きているんじゃないのか?」
「……。」
「そうなら返事してくれよ……。このまま……死んでしまうってのは……冗談でもやめてくれよ」
「……。」
目を覚まさないまま手を強く握ってしまう。
僕にとってハルナは、姉のような妹のような存在だ。
あの日、命が止まりかけたあの日……僕はハルナの事を守るって決めた。
だから庇った。だからハルナが生きていたことに涙した。
そして今、静かに涙を流していた。
手の甲に雫が落ち、それは震えていた。
そのまま幾分かの時間が過ぎ、手を放そうとしたとき……
死んだように深く眠るその手が、震える手を握ったまま離さない。
握っていないほうの腕も動いていた。開いていたはずの手が握りこぶしになっていた。
そして、瞼に蓋をされた目が、こちらを向いていた。
「ハルナ……? 分かるか! ここにいるよ!」
ありえない、ありえないのだ。今この場で一般論をぶち壊しに来た。
ここまで意識がはっきりしだしたのはあの時以来だった。
今まで動く気配すら見せなかった右手を必死に動かそうする。たまらず右手も握ってみると、目も右を向いた。
「ハルナ!! 戻って来い!!!」
藻掻いていた
足掻いていた
溺れそうな程深い海……星の輝く幻想で、私は波に揉まれていた。
目の前に島がある。何とかその島にたどり着きたい
泳ぐ、泳ぐ、足が攣りそうになる
水を掻く、息継ぎをする、脚を必死に動かす
人影が見える、何かを叫んでいる、聞こえない
白い髪、男性だ
私は、その人物を知っている
「リク!!」
たどり着きたい、そこが何なのか分からなくても
たとえそこが彼岸だったとしても
体が沈む
彼が手を伸ばす、私も手を伸ばす
そして、手は繋がれた。
彼が私を勢いよく引っ張り上げて、私は銀色の砂浜に体を打ち付けた。
押し寄せる高波に包まれて、私は意識を手放した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目を覚ましたら、白い天井だった。
私はこの天井を知らない。
「ハルナ……生きて……る……!」
良く響く少しだけ低めのアルトな声、良く知っている声。それも涙声。
手は……握られてる。熱い……
強い強い思いが込められていた。
「先生! 目を覚ましました!!」
「暁君! 分かるかい?!」
この人は……お医者さん?
白衣を着てとてもビックリしている。
それ以上に気になるのが、私の視界に移る彼だった。
必死に泣くのを我慢していた。私を砂浜に引っ張り上げた時のカッコいい感じは少なくなっていて、子供みたいに我慢していた。
でも、私が溺れそうになった時に、確かに彼が助けてくれた。
だって、ずっと胸が熱いから。
「リク、私、リクが呼んでくれたから、手を繋いでくれたから戻って来れたの。分からないけどこれだけは分かるの、ずっと握ってくれてた……!」
震える声が紡いだその言葉は、狭間でハルナが感じていたものだった。
「暁君、君、半年間睦月君が手を握ってくれてたのを覚えているのかい?!」
「はい、朧気ですが……でもその手が私を引っ張り上げてくれました」
起きたばっかりなのに必死に体を動かす。リクに手を伸ばすが、体にうまく力が入らずにベットから転げ落ち……る寸前でリクが受け止めてくれた。
久しく見てなかった現世の光景に目元が熱くなる。
「ハルナ……ああっ……!」
私を抱きしめ、声を殺して泣き始めた。
想いは堤防を結界させて、涙に姿を変えてゆく。
彼が助けてくれた。
私が狭間にいた時に、島から呼びかけてくれたから、こっち側に戻ってこれた。
「リク……私は戻って来たよ」
彼の胸に手を当てて、そのまま私は喜に染まった涙を零した。
2195年 睦月リクの意識の回復を確認
2196年 暁ハルナの意識の回復を確認
「2人とも戻れて良かったわね、しばらくは狭間の海に来てはいけないよ。来るならホントに人生に満足した時だけ。私みたいに来るのはもっての外よ?」
狭間の海、その深海で一人の白髪の女性がそう口にした。
今回この話を書くにあたって昏睡に関する資料をいくつか集めてみました。
昏睡になる条件は結構あるようで、今回は「出血多量による脳機能の低下」と、「頭を強打して脳機能に障害が出でしまったから」という事にしました。
もし読者の中に医療関係者がいらっしゃったら、昏睡に陥る状況はこれで合っているのかどうか意見を頂けないでしょうか?
サイドストーリーもバンバン書いてきましたが、この話だけは付与させた意味が違います。
それは第6章で分かります。
では、第6章でまた会いましょう
ドメル艦隊との戦闘を書きましたが、相当長いようです。