宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
ドメル艦隊との戦闘の前の話として書く事にしました。
少し重いところもあるかと思いますが、お楽しみください
では、第六章第一話です
水色と橙色
「そうか、テロンの船にイスカンダル人が2人も……」
「ミレーネルが命を賭して最期に私に……」
総統府の一室でその事実を伝えたセレステラの目元は少し濡れていた。
ジレル人は宇宙全体で見ても「滅亡している」種族だ。
その生き残りだったのは、ミーゼラ・セレステラと、先の作戦で精神を殺されたミレーネル・リンケだった。
ジレル人……古代アケーリアス文明の直系の子孫であるその種族は、コスモウェーブを用いた精神感応を用いたテレパシーが可能だ。その能力は個人差はあれどジレル人なら皆が持つ種族特有の能力。
しかしその能力が災いして、「相手が考えていることが分かってしまう」ので、他の種族に対しての不信感が大きくなり、その種族的な特性が他種族に流れてしまい、魔女として忌み嫌われてしまう。
そして、俗にいう「魔女狩り」。ジレル人狩りによって種族の人数は大幅に減少してしまい、滅亡してしまった。
生き残りが他にいるのかどうかすら分からない。
「私は、ジレル最後の生き残りとなったとしても、あなたに忠誠を誓い続けます」
「忠誠か……」
一人ぼっちの種族となってしまったセレステラの支えは、デスラー総統だった。
同胞のミレーネルを失ったことで、種族的な支えは無くなった。
それでも忠誠を誓い続ける。
それは、あの日、忌み嫌われた種族として軟禁されていた私とミレーネルを救い出してくれた総統の姿があったから。
《ノルド大管区 属州惑星オルタリア》
「原住民の反乱1つ鎮圧できずに、あなたは逃げてきたという事ですか」
「彼らは首都を占拠して手の施しようがなかったんだ。頼むギムレー長官、首都に残留している移民団の保護を!」
「ふむ、この星は焼き尽くしましょう」
しかし、そんな願いは最悪の形で拒絶されてしまう。
「帝国と総統に反旗を翻す国は、大ガミラスの版図に存在してはなりません。もちろん、総統への忠誠に欠けたあなたもですよ。ドロッペ総督」
「そんな……! 同胞を見捨てるというのか?!」
「何か分かっていないようですね総督。なんでこのような辺境に移民が行われたのか、なんで自分がこの辺境の星の管理を任されているのか、ちょっと考えればわかることです」
その言葉を最後にして、ドロッペの意識は消失した。
それは親衛隊員の銃撃に心臓を撃ち抜かれたからだった。
「冗談は嫌いです。私が聞いたこと、向こうでしっかり考えてください」
流れる血の匂いに気分を害されそうになったギムレーは、飲んでいた紅茶をカップソーサーに戻すと、声高らかに宣言した。
「さぁ! 殲滅のメロディを!」
そこからは地獄だった。
惑星間弾道弾複数による都市部への攻撃、親衛隊所属艦艇による地表への艦砲射撃、ポルメリア級による大口径レーザー照射、メランカ部隊による対人への機銃掃射。
その星は青い海に緑の大地が美しい星だった。しかし、見るも無残にグズグズに爛れてしまった。
【side ハルナ】
「うん、まぁ、予想はしてた」
「でも、これは出したくなかったね」
「カロリーメイトもオムシス製だからな、しばらくは我慢か」
「栄養補給を重点的に考えているから美味しくはないわね」
「せいぜい野菜がついているだけありがたいと思うにゃ」
「ポトフが食べたい……!」
「これ……食べ物なの?」
オムシスが不調です。理由は一つ、オムシスに使用する有機物が枯渇しかかっているんです。
そんなこんなで苦肉の策としてあらかじめ用意していた「とある食事」を引っ張り出す羽目になりました。
美味しくない、美味しくないです。
栄養補給を重点的に考えて、味の方は結構犠牲にしてます。
従って食感、風味はそんなにない、量はみんな同じ。
量産型定食、通称「ディストピア飯」です。
「オムシスのありがたみがよ~くわかるわ。こうも味気ないと活力が湧かないじゃん」
アスカがぼやきながらスプーン片手に頬杖付きながら食べる。
「申し訳程度だけど、あの農園で作っていた水耕栽培レタスとパイナップルはつけた。すまない、我慢してほしい」
申し訳なさそうにレタスをかじるリクを横目にさっさと食べてしまおうとスプーンを動かしていると、ふとリクの雰囲気が気になりました。
……疲れている? それも結構……
「そういえば、あの艦内全体催眠騒ぎ。何だったんにゃ?」
「佐渡先生いわく、全員一番大切な記憶を見ていたらしいよ。でも艦内限定で、100式で亜空間ソナーの試験稼働をしていた森くんと古代は問題なかったみたいだ。それでも、艦内に入ったとたんに催眠にかかったらしいけどね」
真田さんが軽く説明をする。どうやら何者かの手によって精神攻撃をされたみたいです。そもそもそんな攻撃を想定しているわけがないので、乗員もれなく全員攻撃を受けてしまった。
幸運なことに、100式で古代くんと森さんは外に出ていたので、全員精神攻撃受けて抵抗のしようがないという最悪の状況は回避することが出来たという感じみたい。
「幸せな夢か何かですか?」
「そんなところだ。幸せな夢から覚めたら敵に捕縛されている。趣味の悪い方法だ」
幸せな記憶かぁ、幸せな記憶といったら火星でリクのお母さんと過ごした日常かな。
あれ……もしかしてリクが見たのって
【side リク】
(リク! 母さんにかまわず逃げて)
(リク! 母さんにかまわず逃げて)
(リク! 母さんにかまわず逃げて)
「うるさい!!!!」
頭に残る記憶を隅に追いやるように自らに向かって怒鳴りつけた。
心が本当に壊れるかと思った。
あの様子だと、ハルナは問題ないみたいだ。真田さん曰く「幸せな記憶を見ていた」らしいので、しばらくは大丈夫だろう。
とりあえず、みんなの前では平然をギリギリ保てたみたいだ。
研究室備え付けの洗面所に映る顔は、ひどい顔だった。
顔に水を叩きつけて、心を叩き直した。
何とかしてハルナを支えないと、それあの日に決めたこと。
「リク、まさかとは思うけど、あの催眠騒ぎの時に何を見たの?」
「……昔の記憶だ」
「あの時の……あの日の記憶?」
「違う、もっと別の事だ」
「リク、嘘ついてない……? ……さっき物凄い声聞こえた」
「……悪い噓ついた、あの時相当キツイもの見せられた。それでダメージ食ってた」
「何ですぐ話してくれなかったの」
「自分で何とか出来る範囲だったから」
「ねぇ、これは自分一人で抱えられる問題じゃないのよ。だから頼って。私、弱くなんかないよ?」
「……ああ。また何かあったらそうする」
その直後、警報が響き渡った。
「また?!」
「威力偵察か……いこう!」
「ええ」
重い心を引き摺って航海艦橋に向かいました。
「5時方向に敵駆逐艦2隻を確認。距離8000、近づいてきます!」
「全艦第一種戦闘配置! 航空隊スクランブル準備!」
「またいつもの威力偵察か?!」
「敵さんに聞いてくれ」
このやり取りから分かるように、もう既にこの威力偵察は何度も遭遇している。敵がギリギリまで近づいてきて……
「敵艦反転!!」
このように反転していく。一度も攻撃することなく、いや……精神的に摩耗させに来る。
「クソっ! こう何度も何度も出たり入ったりじゃ身が持たないぞ」
「敵さんはこっちを消耗させたいんですよっ!!」
一発一発怒りを込めてアスカが、「吊り下げられたサンドバック」を殴りつける。
この威力偵察が始まったころ、イライラした「加藤隊長の拳」と「山本とアスカの蹴り」によってロッカー数台の尊い命が失われた。
そのような無用な被害を抑えるために、ロッカーを供養した主計科の一手で「全ての怒りを一手に引き受けるサンドバック」が、航空隊に配備された。
それ以降、今のところロッカーたちの犠牲は出ていない。
オマケに筋トレにもなるため航空隊各員には好評だ。
ロッカーを壊した山本と加藤隊長も、たまにストレス発散にサンドバックを殴っている。
「式波ちゃん……相当ストレス溜まってるね~」
篠原が茶化すようにパンチを放つふりをする。
「そりゃそうですよ! オムシスは止まるし! 敵はいやがらせしてくるし! 出たり入ったりで疲れます!!」
拳に覇気でも纏っているのだろう。圧倒的な初速を放ったアスカの怒りの拳はサンドバックに突き刺さり、大きく揺れた。
それだけでは足りず、追撃で回し蹴りをお見舞いする。
ストレスのエネルギーを纏わせて肘打ち、裏拳、回し蹴り。特撮じみたスーパーパワーを持っているはずがないのだが、サンドバックが派手に揺れ、吊り下げてある金具がジャラジャラと音を立てる。
最後に大きく振りかぶって最大出力で一発ぶん殴る。
その瞬間、サンドバックをぶら下げていた金具がその役目を終えてしまった。
KO、勝者、式波・アスカ・ラングレー。
「フゥ、スッキリしたわ!」
サンドバックの金具一つを生贄にしてアスカのフラストレーションを抑え込むことが出来たのは僥倖だろう。
だが、その怒りの連撃フルコースを目の当たりにした航空隊各員は、アスカとの近接格闘訓練をも恐れるようになった。
「ところで何書いているの?」
連撃を観戦した篠原の目に留まったのは、山本が書いている一冊のノートだ。
「ゼロの改良案です。暁さんと真田副長が改良してくださるみたいなので、それのオーダーを頼まれているんです」
「なぁるほど、あのゼロをね。自分専用機にしてもらうためか」
篠原が見た紙面には、夥しい量の調整箇所が書き込まれていた。
(情が深いねぇ)
「ユリーシャ・イスカンダル……98年にイスカンダル製航宙連絡艇に乗って地球に不時着。彼女の姉と思われるスターシャ・イスカンダルからのメッセージを渡した。その後、次元波動エンジン設計に関わった……これが正規の記録ね」
「一応正規の記録ではあります。ですが、伏字にされた部分もあるんですよ?」
「伏字?」
「これですよ」
そういって、伊藤が差し出したタブレットには、とある画像が映っていた。
「地球で生活していたユリーシャ・イスカンダルは、波動砲使用制限条約を結ばせていました。2人の火星出身者を唆してね」
「まさか……そんな」
「そう、そのまさかです。芹沢さんから聞いていないんですか?」
「……どうやってこの画像を?」
「こっそり監視カメラをね。1年前から準備は始まっていたんですよ?」
「……ストーカー?」
「それは芹沢さんに言ってください。僕の案じゃないですよ? さて問題、なんで結ばせたか分かりますか?」
「……話によると、イスカンダルの犯した愚行を繰り返さないためと聞いているわ」
「……もう一つは、ガミラスがこちらを捕縛、もしくは撃沈しやすくするためですよ」
「イスカンダルをガミラスがグルという確証はないわ」
「証拠はありません。ですが、噂は時に事実にも変わりますよ? 拡散すればね」
「……既にそういう考えが定着している人はいるわ。次の目的地はビーメラよ」
「それまでに一人くらいは上層部を引き込んでおかないといけませんね? 当てはありますか?」
「いるわ」
__________
(航海日程から20日程の遅れ……これ以上は致命的だ)
航路図をにらむ島の顔は深刻そうだった。
地球からイスカンダルを1年以内に往復する全人類の命がかかっているタイムアタックである「Wunder計画」に失敗は許されない。
(さて、どう巻き返すか……機関の負荷を許容しても強行ワープをするか?)
その時、不意に航海科室の自動ドアが開き、島の横にコーヒーの入ったマグカップが差し出された。
「林か? 航路情報の提出は既にやったが……あれ?」
差し入れをしてきたのが、新見だった。
「差し入れ」
「あ、ありがとう」
少し苦いコーヒーの入ったマグカップは暖かく、多少は心配事が薄らいでいく。
「どう? 日程の方は? 計画通りに進んでいる?」
その声は心配しているような声をしているが、その陰には怪しげな笑みが隠れている。
「まっ順調さ、何とかなるさ」
貼り付けた笑みで島がそう返すが、新見には見抜かれていた。
「嘘が下手ね……私、カウンセラーよ?」
そしてマグカップを手近な台に置き、島に迫っていく。
いつもと違う新見の行動に狼狽える島を他所に、新見はさらに迫っていく。
「この航海の成否は貴方に係っているのよ。賢明な判断を規定しているわ」
その状況から何とか脱出できた島が艦橋に向かおうとしたとき、一人の人物が接触してきた。
「航海長、お時間頂けますか?」
【side リク】
「疲れた」
解析室のコンソールに突っ伏していた。メンタル的に大分やられたので、やる気も落ちていた。
今僕とマリさんはこの船の武装を十二分に動かすシステムの構築中だ。
仮称「コード777」。波動エンジンとショックカノン、MAGIシステムフル活用での完全遠隔操作のミサイル、いつか起こるであろう大艦隊との決戦に備えて作っているもの。
「お疲れにゃ」
そう言ってマリさんが僕の横に置いたのは、暖かいココアだった。
実はコーヒーとかの苦いもの飲むのが苦手だからありがたい。
「リっくん、私は伊達に君たちより少しだけ長く生きているわけじゃないよ? 何か過去にあったんだなぁってのは分かるにゃ」
「……僕隠すの下手ですから」
コーヒーを啜りながら言葉を紡いでいくマリさんの横顔は穏やかでした。
「抱え込んだらどっかで壊れてしまうにゃ。でもこっちから無理に聞き出そうとすると壊してしまう。だから私からは聞かないことにするにゃ」
「意外です。「聞いてあげるから話してにゃ」とか言うと思ってました」
「人生経験豊富ですからね~まだ20代だけどw」
「リっくん、これだけは伝えておくにゃ。もし本当に辛くなったら誰かにすがってもいいんにゃ。そして誰かに聞いてもらうのもいいにゃ。私はね、それが出来なくて心が壊れてしまった人を見たことがある。だから君にはね、同じ道を絶対に辿って欲しくない」
マリさんはそう言いながらコーヒーをすすり、空いた手でくしゃくしゃと撫でてきた。
「なんか、落ち着きます」
「地球にいた時はね、極東の冬月先生の家で先輩の子と一緒にいた時があるの。そういう時はこうしてた」
「前に話してくれた綾波ユイさんの息子さんですか」
「そう、碇シンジ君。ゲンドウ君とユイさんが結ばれてシンジ君が生まれたんだけど、その数年後にユイさんが死亡扱いになって、ゲンドウ君もその苦痛で心を壊してしまった、発狂状態にも近いかな。冬月先生は、ゲンドウ君が何をしようとしてるのかは知ってるらしいけど、私が聞いても教えてくれない」
淡々と過去を話すマリさんの目は、どこかここではないどこかを見ている、そんな感じがあった。
冥王星の時に聞いたけど、マリさんとゲンドウさん、そしてユイさんは学友らしい。
恐らく結構親しい仲だったのかもしれない。
友達が狂ってしまって、苦しかったのかもしれない。
マリさんって、いつも楽しく振舞っていろんな人を弄っている印象が強い。だから、そんなマリさんの悲しむような顔を見たことがない。
「ユイさんが亡くなってから、ゲンドウ君は狂ってしまい、シンジ君を捨ててしまった。それは見過ごせなかったから私と冬月先生が引き取った。その頃は母親を失って父親をも失ってしまったから、シンジ君は愛情に飢えていたの。その時は、私も母性発揮してたにゃ」
「マリさんなら、シンジ君も安心したでしょうね。会ったことないので詳しくは分からないんですが、シンジ君と何か近しいものを感じます」
「今は極東の避難都市で冬月先生と同居しているにゃ、一応保護者は冬月先生という事になっているから問題なし。父親の状況は彼なりに理解しているし、自分なりに強く生きようとしているよ」
一息に話し終え、またコーヒーに口をつける。
「……君は守りたい人がいるみたいね。でも、自分のせいでその人を苦しめてしまう事もあるよ。そうならないように、今は静かに見守っているにゃ」
マリさんはそう言って、コーヒーのお代わりに行きました。
少し温くなってしまったココアを飲んで、少し暖かくなりました。
【side ハルナ】
今日の作業も終了して、いつもの研究室に戻りました。
リクの方はもう少しかかるみたいで、マリさんが共同でやってるので私がヘルプに入ることはなさそうです。
パジャマに着替えてベットに横になろうとしました。
その時ふと目にとまったのは、チェーンペンダントでした。
あのペンダントの石、水色と橙色の石は地球と火星の友好を願って当時限定品として作られたものです。
それを仕事始めのリクと私が初任給で何とか買って、風奏さんにプレゼントしたものです。
風奏さんが亡くなったあとは、リクが持っています。
傷がちらほら付いているけど定期的に綺麗に拭いているので、まだ装飾品として現役の顔を保ってます。
思い出す前に元の位置に戻してベッドに入って寝ることにしました。
なかなか眠れなかったんですが、やっとウトウトしてきました。
そのまま寝ようかと思ったのですが、ちょうどリクが帰ってきました。
さっさとスウェットに着替えて歯磨きしてたので、こっちも熟睡の為にゆっくり目を閉じました。
その数分後、自分のベットの横に何か大きいものが乗ってきた感触がありました。
「ふぇっ! どうしたの……?」
「ゴメン、ちょっとだけ、居させて欲しい」
疲れた声が聞こえ、リクはそのまま背を向けたまま話し始めました。
……少しドキドキしますが
「あの時、母さんが死ぬ光景を見た」
それはあの催眠騒ぎで見たものでした。
私の予想は大体当たってました。あの時見たのは風奏さんが死ぬ光景、皆が幸せな思い出見てる中で、1人だけ死んだ方がまだいい光景を見ていたんだ……。
「手を伸ばせば届きそうな距離で何度何度も死んでしまう、そんな光景だった。とても、怖かった、とても……苦しかった」
こっそりリクの方を向いてみたけど、背を向けたままでした。
でも、震えてました。
ホントに小さいけど、泣きそうな声でした。
「これはね、あなたの思い出じゃないの。あなたと私の記憶なの。決して一人だけのものじゃないから、思いは……共有できる」
少し、思ったことがあります。
リクの心は、あの時から止まったままなのではと、今思いました。
前に彼がそう口にしていたことがあって、その時は意味を掴みかねていたのですが、もしかしてと思いました。
実際には復活した日にちの違いでリクの方が半年分年上です。
でもリクには申し訳ないけど、この時だけは弟のように見えるほど酷く弱ってるように見えました。
「ねぇ、こっち向いて」
そう私が言うと、リクは恐る恐るこっちを向きました。
さっきまで眠たかったのですが、急にリクがベットに入って来たので目が覚めてしまいました。
そして酷く疲れてしまった弟が目の前にいます。
(これじゃ風奏さんみたいだけど、少しでも落ち着いてくれると嬉しい)
寝転がったまま、その白髪を優しく撫でました。
そのまま撫でていると、小刻みな震えが少しずつ収まってきました。
「落ち着いた?」
「……うん。ハルナ、そのまま撫でててほしい」
心の傷は簡単には治りません。
何かを失った。日常を粉々に壊された。
何かしら皆心の傷は持っていると思います。
そして、たとえ克服したとしても突発的に傷が開いてしまう事があります。
私とか、そんな感じです。
前にあの日の事を思い出した時は,私かなり酷いことになりました。
たしか地表のライブ画像を見たときに火星のクルジス跡地みたいに見えてしまったんだと思う。
……かなり錯乱して、その後吐いちゃったんだよね……
錯乱していたってのもあって、リクに思いっきり引っ叩かれて正気に戻りました。そのあとめちゃくちゃ謝られたけど。
それ以来、リクと一緒にいることが少し多くなりました。
めちゃくちゃ気にかけてくれている事も知ってます。
でもそれで、リクが自分自身の心を殺してしまうことになってしまうのは、絶対に嫌です。
自分勝手に聞こえてしまうかもしれないけど、私は彼を想っています。
そのままリクが寝息を立て始めるまで、少し幼い雰囲気の頭をなで続けました。
ありがとう
【side リク】
「オムシスの修理にはまだ時間がかかります。どこかで水と有機物を補給しなければ、備蓄が底をつく恐れがあります」
状況は最悪、オムシスの不調はまだ続いている。ディストピア飯で今は繋いでいるけど、それでも一週間しか持たない。
ぶっちゃけると、あのディストピア飯は美味しくないのでメンタルはちょいちょい削れる。
まぁ、アレに比べると些細なレベルだけどね。
あの夜誰かにすがりたくて、ハルナのベットに横になってしまった。
1人で抱え込むのも限界気味、ハルナに「頼って」と言われ、マリさんに母性発揮されたところで、「他人でもわかるくらい落ちているんだな」と理解した。
僕が寝てしまうまで撫でてくれてたみたいでハルナが少し寝不足気味なのは気がかりだったけど、雰囲気的には、あの催眠騒ぎで僕が何を見たのかはわかってたみたい。
「ハルナ、昨日はありがとう」
素直になり切れない変な感じがあったけど、そう感謝を伝えた。
「リクは弟だからね」
「……いや、誰が弟だ?」
「あら? 実際には私のほうが年下だけど精神年齢は上よ?」
「そこは同じくらいだろ」
「いやいやこっちにはユリーシャや真田さんと言う立派な証人がいるのよ」
ちょっとしたこそこそ話で始まったはずだが、盛り上がってしまって声が大きくなってしまった。
「お2人さん、私語なら後にしてくれ」
沖田艦長に注意されてしまった。
気の所為かもしれないけど、咎めるような目ではなく何か面白いものを見るような目だった。
もしそうだとしても、気にしないでおこう。沖田艦長には申し訳ないけど、気にしたらロクなことにならないと思う。
「補給と言われても、こんな銀河館空間に恒星系なんて流石に……」
「あるわ、バランまでの航路上に恒星系の存在を確認したわ。恒星の名は、『ビーメラ』」
「ビーメラ?」
「観測によると、このビーメラ恒星系のハビタブルゾーン内には地球型惑星が幾つか存在していて、その1つのビーメラ4には水と大気の存在が確認されているわ」
生物が生存するために必要なものとして挙げられるのは水と大気……厳密には酸素などだ。
他にも大気圧や重力や恒星からの放射熱、そして地表面が適温であることが挙げられるが、最低限水と大気があれば、どんな形であれ生命の存在は期待できる。
地球は「生命が存在して尚且つ繁栄している星」で、奇跡的なバランスが保たれていると言われている。
だが、銀河規模で地球のそっくりさんを全力で探してみると、実は思ったよりいるのだ。
「ありがたい。有機物と水の確保され出来れば生命維持が可能だ」
「じゃあ有機物ゲットすればディストピア飯とおさらばじゃん!」
それは嬉しい。あの美味しくない物と早い事おさらばしてサッサとオムライスを食べたいよ。
「地球圏から抜錨以来、狭い艦内で、乗員の多くがストレスを抱えています。メンタル面での上陸も望ましいかと」
緑を見たら少しはストレスも緩和されるんじゃないのかという事か。
それ以外にも何かありそうな感じがするんだけど……何考えているのかな?
「島、航海科としてはどうなんだ?」
「ん? まぁ」
「スケジュール的には問題ないか?」
「……大丈夫だ。と言うよりも航海云々以前に、食糧は死活問題に繋がる。まずは腹を満たさないと先には進めないぞ」
「至急、ビーメラ恒星系への進路を取ります」
一方、ビーメラ恒星系に転進したWunderに何かピンときたドメルは、おなじみ幕僚団とゲールを集めて作戦会議を始めていた。
だが、そこに飛び込んだ一報により、ゲールはそれどころではなくなった。
「総統が視察にいらっしゃる?! このバランにですか?!」
「ディッツ提督の話によると、どうやらお忍びらしい」
「それではお出迎えの準備を……!」
「総統に忠誠を示したいのであればまずはあの船を討つことです。副司令?」
ハイデルンが軽く諭した。そしてその後に続く肩書「副司令」
はらわたが煮えくり返りそうだが我慢。
「偵察艦隊の報告によると、ヴンダーはビーメラ星系に転進したと」
「おいおい、こっちに来るんじゃないのかよ?」
血気盛んなバーガーが疑問を覚える。
「いや、大マゼラン方面に向かってきているというのは確実だ。だがここまでの記録によると、Wunderは一定の期間を開けて航路上の近隣にある恒星系に向かっている。恐らく何らかの方法で食料と水を補給しているのあろう」
「? あいつら異星の植物食っているんですか?」
「流石にないだろう。植物と言うよりかは有機物を補給してそれに何か手を加えて食料にしているといったところだろう。私だって変なものは食べたくない」
ゲットーが冷静に爪の手入れをしながらツッコむ。
「我々の威力偵察で随分疲弊しているはず、それにこのタイミングで恒星系に転進。精神的にも備蓄的にも今はピンチという事だな」
クライツェ的には、敵が疲れている今ならチャンスありと考えたようで、
「叩く頃合いだな」
バーガーもそれに賛同する。
「そうだ。そしてビーメラ星系までの航路上には、この中性子星カレル163が存在している。このポイントでジャンプした場合、カレル163の重力勾配によってゲシュタムアウト座標に誤差が生じて……」
正面のスクリーンに表示されたのは、カレル163周辺の宙域図だった。
中心に中性子星、そして5か所の座標が表示されている。
「この5つの宙域のどれかにゲシュタムアウトする。我々はこれら5つのポイントに艦隊を配置してこれを、叩く!」
「「ザーベルク!」」
ドメルの顔は自信のある顔だった。
「偵察隊の帰還を待ち、我々はヴンダーへの攻撃行動に移る。作戦コード名は、『神殺し』だ」
【side マリ】
「ロマンロマンとは言ったものの、ここまで大変だとは思わなかったにゃ」
ども、絶賛脱力中の真希波・マリ・イラストリアスにゃ。
Wunderの火力を十二分に生かすための戦闘システムの構築に忙しすぎても―大変。
この船武装が多いから統括管理するのも一苦労にゃ。
まぁー16万8000光年を旅するうえでどんな攻撃来るかは分かったもんじゃないから仕方ないけど。
昨日はリっくんダメージ食らってたからシンジ君の時みたいに母性発揮してみたら回復したみたいにゃ。
そんでさっき2人が幹部会議から帰って来たんだけど、調子良さそうね。雰囲気っていうのがね、万全とはいかないけど割と回復していたの~安心安心。
あの後リっくんがどう行動したのかは分からないけど、多分ハルナっちに聞いてもらったのかな?
ハルナっちはリっくんのお姫様かな? それともリっくんはハルナっちの王子様? 結ばれろ~!
「今何か変なこと考えてました?」
「さぁ~何にも考えてないにゃ」
おっとっと、感づかれるとこだったにゃ。
さてさて、今日からハルナっちも増援に来てくれたからペースが上がるにゃ。
バッカみたいに規模が大きくて工数も気が遠くなりそうだけどこれなら何とかなりそうにゃ。
「コネメガネぇ~? あんたの考える事はロクな事じゃないからね?」
「姫! ご勘弁を~!」
「懲りないね、尋問の時間と行こうか~」
「にゃにゃにゃぁぁぁ!」
「あ、あとやっておきます~」
解析室からリっくんの声が聞こえるにゃ、はぁ、無事に帰ってこれるかにゃ?
「百合亜ちゃん! 今時間ある?」
保安部の美少年星名はどうやら岬百合亜に気があるみたいで、たまによく一緒にいるみたいだ。
今日も誘おうとしているのだが、今日は様子が違っていた。
「ミサキ? ユリア? 誰の事ですか?」
「えっ? 君の名前だけど……」
「……ユリーシャはどこですか?」
「ユリーシャさん? だったら解析室かいつもの部屋にいるのかも」
「ホシナ、連れてってください」
「あら? ……えっと星名くんだったかな? どうしたの?」
本の山に埋もれて一人本を読んでいたユリーシャは顔を上げた。
「えっと、百合亜ちゃんが会いたいみたいで」
「……ユリーシャ、今までよく頑張りました」
その佇まいにどこか覚えがあったユリーシャは、不意の彼女の正しい名前を呼んだ。
「……お姉さま? サーシャお姉さまなの?!」
「ええ、私はイスカンダルのサーシャ」
サーシャ・イスカンダル。イスカンダル第2皇女にして、地球に波動エンジンの起動パーツたる波動コアの「2つ目」を届けた人。火星で意識不明のまま地球に搬送されて、意識不明ままでこの船に乗艦していた。
それが今、岬百合亜の体を借りる形でこうやって自由に動いて喋っている。
その後、サーシャは岬の体を借りたままで艦長室に直行し、沖田艦長に今の自分の状態を説明した。
体はまだ動かせそうにないが、こうして憑依する形で活動が出来る事。
憑依させてもらっている岬の体には何ら問題はない事。
先の艦内催眠騒ぎに対してこっそり行動していたこと。
そして人類が波動砲とどう向き合うのかという事。
「国際波動砲使用制限条約……波動砲を対艦対惑星攻撃に使用しないという事ですね」
「はい。人類はこの力を持つには早すぎたという事は自覚しています。ですが、この力がなければ現にここまで来ることはできなかったという事も事実です。正しい力の使い方を考える必要のあった我々人類は、数人の技術者から生まれたこの条約に判を押しました」
「数人の……? 誰なのですか?」
「この船を設計した暁ハルナ一尉と睦月リク一尉、そしてユリーシャさんです」
「! ……あなたも関わっていたのね」
「この力を恐れた2人なら、この力を預けることが出来るかもしれないと思ったの。だから私は波動砲の装備と運用を容認した。この条約が力の暴走を抑える鎖となるなら、その力を持ってイスカンダルの愚行を地で行うことは無いわ」
「ユリーシャからすでに伺っているかと思いますが、かつてイスカンダルは、地球の方が波動砲と呼ぶ兵器を用いて大マゼランを地で染めた過去があります。もう数千年も前の事なので正確な記録ではありませんが、一斉射で人の住む惑星を塵に変えたとも伝えられています」
イスカンダルの過去はいまだに不明な点が多い。
地球からみたイスカンダルの印象は、今のところ「元祖波動文明国家」でしかない。
その背景に何があるのかはいまだに分からないが、何かまだあるというのは沖田艦長の勘はそう告げていた。
しかし、そこに深く足を踏み込むのは危険と判断したのか、それ以上聞くことは無かった。
この話は、元々20000文字以上の話です。
それはいくら何でも長すぎるなぁと思ったので、前回やったみたいに前編後編って感じに分けることにしました。
さて、新章ということでエンディングテーマを決めようと思いました。……決めました。
宇多田ヒカルさんの『桜流し』です
2202のようらんか結構好きなんですが、これも似た感じだったので戦闘系のある次章まではこれで行こうと思います。
次回はそう期間を開けずに出すつもりで考えています
ドメル艦隊との戦闘を書いたら……遂に……出すことが出来ます
何なのかは言いませんが、かなり大事な話を出します。
ここまで8か月掛かり、やっと原作の半分くらいは行けたかなと思います
あと半分! 頑張ります!