宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

42 / 139
赤木博士は化け物です

今回はもっと化け物になります
アインシュタインも真っ青です
ではではお楽しみください


アンケートの結果、デウスーラの形状はNHG艦でいきます


越えられない壁と越えるもの

 

 解析室にタイピング音が静かに響く。

 

 艦内時間午前1時、ほとんどの部署が深夜シフトに切り替わったのにも関わらず、赤木博士は何かのシミュレーションを進めていた。

 

 難解な数式が画面上を埋め尽くし、画面上に映るのは同心円の図形。

 そして火星の地表面と謎の場所。

 

 一定のリズムで刻まれるキーボード音が止み、赤木博士は期待一杯の目でコンソールを睨みながらエンターキーを押した。

 

「今度こそ……今度こそ頼むわよ」

 

 開始されるシミュレーション、コンソールに置かれたメモ用紙には、沢山の「正」の字が書かれていた。

 その数20個。つまり赤木博士はこのシミュレーションを少なくとも100回は繰り返している。

 

 コンソールの放り出されている大量の紙の束。論文らしきそれの表紙には、英字でタイトルが書かれている。

 

「A Smooth Exit from Eternal Inflation?」と書かれた論文は1枚1枚に夥しい量の書き込みがなされていて、数式の殴り書きが論文の余白に所狭しと並んでいる。

 シミュレーションはエラーを吐くことなく順調に進んでいき、20分以上のシミュレーションの末《complete》の文字が表示された。

 

 

「遂に……やったわ。これなら、説明可能ね」

 シミュレーション名《Spatial displacement simulation》。それが、赤木博士の仮説の最後のピースとなった。

 

 


 

 

 

 

 

 


 

 

 

「我々の航海日程は、現在31日の遅れを出しています。ですが、ビーメラから2.6光年の位置の亜空間ゲートを使用することで、行程を一気に短縮することが出来ます」

 

「ゲートを管制するシステム衛星がその近傍に存在します。これを攻略できるかどうかが鍵となります」

 

 島が表示した周辺の宙域図に示されたマーク、その上には《subspace gateway》という文字が表示されている、直訳すると「亜空間ゲート」と言うそれは文字通り、亜空間を経由して大宇宙を旅する宇宙の近道。

 

 通常宇宙を「一般道」とするなら、亜空間ゲートは「一切の渋滞無しでスイスイ進める高速道路」と言うべきだろう。

 

「まさかここにもあったとは……私が把握していたのはバランのみのはずだけど」

「大宇宙を旅するなら、比較的様々な位置にあることは想像に容易いわ。もう少し考えるべきです、ユリーシャ」

「はぁい」

 

 未知の近道の存在が確認されたことで、沖田艦長と古代と島、真田とハルナとリク、ユリーシャと「岬に憑依したサーシャ」が話し合いに出ていた。

 ビーメラから帰還した岬とサーシャは話し合い、出入りする時は一旦断りを入れることを決めた。

 

「あまりにも長く憑依が続けば岬本人の意識が消失する可能性もある」というのが、専門外なりに推察した佐渡先生の見解だが、そう決めたことでしばらくは大丈夫だろう。

 

 こうして憑依での行動が出来ているのは人類側から見てもあり得ないことなのだが、「宇宙人だから出来るのだろう」とどこかで納得してしまう。

 

 

「この波動コア、便宜上『ビーメラコア』と呼称しますが、ビーメラコアには、ゲートを作った種族の他に、ゲートを使用していた管理者とも呼ぶべき種族の存在も記されていました」

 

「ビックリしましたよホントに、でも彼らが使うほど便利だという根拠がゲットできてよかったですよ」

「そうそう、でも昔のことだから今でも動くかどうかは別問題です。こればかりは直接出向いて確認しないといけません」

 

 ビーメラコアの解析に関わったハルナとリクは、沖田艦長と古代に思わせぶりな笑みを覗かせる。

 

「勿体ぶらないで教えてくださいよ」

「ちょっと待った。儂が当ててみようか」

 反乱組の尋問を漸く終わらせた沖田艦長がハルナとリクに乗った。

 

「では沖田艦長、答えをどうぞ」

 

 

 

 

「……ガミラスだな」

 

 

「「大正解です!」」

 


 

 ガミラス本星、帝都バレラス

 

 大ガミラスで最も栄えているその帝都で、一つの軍事裁判が開廷された。

 

 

「私は帝都防衛に多くを捧げて、あと一歩でヴンダーを撃沈できたのです! それなのに、これはいったい何の茶番ですか?!」

 本星に緊急招集されたドメルを待っていたのは犯罪者の烙印だった。

 

 覚えのない罪状、剝奪された権限。そして活動を凍結された第6空間機甲師団の面々。

 唯一安堵したことと言えば、今のところ師団の方は活動凍結で済んでいるという事。長く戦場を共にしてきた幕僚団の面々は無関係となっていることだ。

 

 

 しかし、その安堵は、ヒス副総統の発言で吹き飛んだ。

 

「未明に、総統の乗艦された船が、何者かの手によって爆破された。デスラー総統が暗殺されたのだ」

 突然の訃報に驚愕するドメル。デスラー総統の計らいで、ディッツ提督経由で精鋭艦隊の派遣を優先的に受けていた時期もあり、総統には感謝をしていた。

 その総統の訃報は、心に堪えるものがあった。

 

「総統の視察を把握していたのは2人。1人は航宙艦隊総司令ディッツ提督。そしてもう1人は貴方。貴方を総統暗殺の容疑でここに告発します」

 

「馬鹿な! なぜ私がそのようなことをする必要があるというのだ!」

 

「あなたはディッツと共謀して総統を暗殺し、総統の死亡で空席になった席に滑り込む。そして大ガミラスを手にしようとした。ですね?」

 

 

「下らん妄想に付き合うつもりはない!」

「妄想? なるほどなるほど、それでは親切に良いことを教えてあげましょう。奥様は拘束されていますよ?」

 

「エリーサが?! 妻が一体何をしたというのだ?!」

 

「ご存じないのですか? 彼女は反政府運動に加担していたのですよ?」

「何かの間違いだ」

 

「ドメル将軍? 帝国の繁栄のために必要なものとは何でしょうか? それは忠誠心と秩序です。忠誠で体制を盤石なものにして、秩序を正すことで長期的な安寧を約束する。宇宙広しと言えども国と言うのはそう言うものです。それを実行するには、『疑わしきは罰せよ』です」

 

 

 正論とも受け取れてしまうその思考に、ドメルはぐうの音も出なかった。

 

 

「表決を取る。陪審の諸君」

 薄暗い法廷に浮かび上がる陪審員の表情は一様険しかった。

 

 

「死刑」「死刑」「死刑!」「死刑……」「死刑」「死刑」「死刑」「死刑……!」

 

 

「当軍事法廷はドメル上級大将に死刑を言い渡す」

 


 

「ガルが更迭?! どういうことだ?!」

『分かりません……私はディッツ提督の側近として付いていましたがそのような行動は一つも……ですが、デスラー総統が暗殺されたとの一報が入っています』

 フリングホルニの艦橋、その通信画面に噛り付くクダンの顔は憤りを通り越した顔だ。

 

 

「総統が……?! ……暗殺容疑を吹っ掛けられたか?」

『現在究明中ですが、親衛隊の圧力がかかったのは確かです』

「あの強権部隊が……! ドメル将軍を死刑にしてガルを更迭するとは何を考えている……?!」

 

 現在ミルベリア星系の補給基地で補給を受けていたクダン率いる第101試作人型戦術機動兵器打撃部隊の第1軍は、突然の総統の訃報とドメル上級大将の死刑判決、そしてディッツ提督の更迭に大きな動揺を覚えた。

 

「兎に角もっと情報を集めてくれ、必要なら私の名を使ってもいい! 頼んだぞ!」

『ザーベルク!」

 

「叔父様、父上が……更迭と言うのは、本当ですか……?」

「……ああ、事実だ。一体全体何が起こっている……これではまるで仕組まれているようだ。テンポが綺麗すぎる」

 

「それと、総統が暗殺されたというのは……」

「総統なら心配ない。多少窮屈かもしれんが事前にあそこに身を隠しておられれば命の危険とは無縁だ。何処の誰でも手出しできまい。それよりガルを何とかしなければな」

 

 

「叔父様……いえ、クダン司令。この艦隊には、停泊地の基地から無条件で補給を受けられる権限が与えられていますよね? ならば、父上の収監先の基地に向かって、奪還することも可能では?」

 

 

「……我々に宇宙海賊になれというのか? だが、権限は使いようだ」

「はい!」

 

「ガルの収監先はガルの側近に特定を頼んだ。位置情報が確認でき次第補給名目でその星に向かい、ガルを救い出す」

 

 ______

 

 

「フッフッフッフッフッフッ……ハッハッハッハッハッハァ!!!」

 ゼルグートの艦橋に低く響く高笑いは、ヘルム・ゼーリックのものだ。豪快な笑い声を響かせて広々とした豪華な装飾の艦橋の豪華な椅子に座る。

 

「観艦式への準備が整いました。何か、良いことでも?」

 

「ドメルに死刑判決が下ったァァ」

「おめでとうございます!」

 

「全艦発進せよ、目標、バラン!!」

 

 自らの権威のために建造したゼルグート級1番艦のゼルグート2世が飛翔し、バレラスを後にする。

 その後を追うのはゼーリック旗下の艦艇多数。

 向かう先は宇宙の灯台バラン星だ。

 

 

 __________

 

 

「あれが亜空間ゲートかぁ。死んでいるように見えるけど、本当に動くのか?」

 

「ビーメラコアの中には運用記録が入っていたらしいから、少なくとも数十年前までは使われていたらしい」

 

「あれが使えたら、60000光年をひとっ飛びですね」

「甘く見るな、こいつは、敵のワープステーションなんだぞ?」

 

 

「それにしても、古代さんは護衛としてなんで睦月さんと暁さん、赤木博士を連れて行ったのかな?」

「人数多ければ何とかなるからじゃないですか?」

 

 

 

 

 

 

「真田さんどうですか?」

「ブービートラップの類はなさそうだ。基地としてはだいぶ前に破棄されたものだろう。だが、このガミラス機は使えそうだ。あとで回収しよう」

 何故か大人数で行くこととなったため、またまたシーガルを使ってシステム衛星に侵入した。

 

 

「でも不思議、廃墟じみているのに慣性制御があるわ。基地としての機能は完全に消失しているわけではなさそうね」

 基地の床面を踏みしめながら赤木博士が欠伸をする。

「珍しいですね赤木博士が寝不足なんて」

 

「ちょっとね。重要なシミュレーションをしてたから最近寝不足なのよ。100回はやり直したわ」

「「100?!」」

「驚きすぎよ? そもそもこの宇宙で起こるかどうかも怪しい突飛なものだから、MAGIでも厳しいのよ?」

 

「赤木博士にMAGIなんて、『鬼に金棒持たせて翼生やして火を噴けるようにする様なもの』なんですけど、それでも厳しいんですか?」

 

「厳しいわ、でも私バケモノみたいに言われているけど気のせいかしら?」

「気のせいです気のせいです」

 

 

 

「君たち二人を連れてきたのはちゃんとした訳があるからだ。歩きながら話そう。古代、君もWunderに乗る以上聞いておいた方が良い。あの船が一体何なのか……そして40年前にいったい何が起こったのか」

 

「2人が話してくれた過去も基にして、40年前に火星で何があったのかを真田君とマリと一緒に仮説を立ててみた。だが物的証拠があまりにも少なすぎるうえ、推測も多い。それでも良かったら聞いてほしいわ」

 赤木博士の目はヘルメットのテクタイト越しにでもわかるくらい真剣だった。

 

 

「聞かせてください」

「目に見えて強くなってるわね、2人とも。わかったわ。でもゲート起動しないといけないから歩きながらね」

 

 

 


 

 

 

「ここから先は、国連安保理の最重要機密事項に抵触する。安保理の内でもごく限られたものしか真実を知らない。念のため、通話記録のスイッチをオフにしてくれ」

「はい」

 

 知られてはまずいことは、隠したり情報操作をするものだ。かつてアメリカが宇宙人の存在をはぐらかし、エリア51の存在をごまかしたように、知られたくない事は大抵誤魔化される。

 しかし、この話は一つの国が隠してきたことではなく、世界中の国をまとめる組織が隠してきたことだ。

 

 

「結論から言うが、44年前に君たち2人が遭遇した災害は、災害ではなく事故だ」

 そう切り出した真田の顔は、確信した顔だった。

「……」

「今から話す真実は、MAGIシステムの中に秘匿されていた記録と、我々の推測、赤木博士の行ったシミュレーションを交えた話だ。だから、一部真実とは異なる部分があるかもしれない」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。なんでそんな記録がこの船のMAGIに残されていたんですか?!」

 

 そのような重要機密がこの船のコンピュータに残されていることは普通ではありえないことだ。ハルナが驚くのは当然だ。

 

「もともとMAGIシステムは国連本部に設置されている物で、そこにあらゆる機密情報が数千文字にもなる暗号として保管されている。解読できるのはMAGIシステムのみ。そして、本艦のMAGIシステムは、国連本部のシステムを『丸ごとコピー』した物である「極東のMAGIシステム」を『丸ごとコピー』したものだ。つまり、国連本部に記録された『情報の写しの写し』が本艦にあるという事だ」

 

「残されていた記録は、システム上は存在していないものとして扱われるように設定されていた。つまり、私達がいくら探しても見つからないようになっていた。管理者権限でも見つからないその記録は、MAGI設計者の母さんの残した裏コードから入れる『開発者モード』でなければ確認すら不可能だった」

 

「つまり、データは見えないようになってただけってことですか?」

 

「ああ。人類史上類を見ない事故という事もあり完全な極秘にする必要があった……でも記録は残さないといけないから、見えないようにしたのだろう。問題はその内容だ。……君たちに辛い思いをさせるかもしれない」

 

「大丈夫です。リク、手握って。少し怖い」

 

「ああ。僕もついているから、大丈夫だ。真田さん、お願いします」

 リクはハルナの手を固く握った。

「……分かった。あの日何があったのか、我々は知るべきだと思う」

 

 

 

 

 ──―真実開放──―

 

 

 

 

「まず、君たちの過去の話によると、クルジスのあたりでも、同心円の拡大現象が確認出来ていたようだね?」

 

「……はい。あの円は、すごい勢いで広がっていきました」

 

「……あの円を展開した張本人は、国連の極秘研究施設『ガリラヤベース』と呼ばれる施設だ」

 

「……国連はいったい何を考えていたんですか?」

 

「分からない。何の意図があって起こされた物なのかは記されていなかったが、その事故の数日前に「葛城」という人物がガリラヤベースを訪れていた。そして、ガリラヤの巨人に対してとある実験を行った」

 語りだした真田の目は閉じられたままだった。

 自分でも信じられないことであり、推測の域を出ないのだろう。

 

「実験……ですか?」

 

「ガリラヤの巨人に人間の遺伝子を投入する実験だった。そこから事故までの記録は残されていなかったが、恐らくそれが原因であの事故に繫がったのだろう。生存者は1名。だが、その人物名は記載されてなかった」

 

「隕石の衝突というのは、国連の真っ赤なウソでしたね。隕石が落ちて十字架が立って同心円展開とか絶対に発生しませんから」

 

「アレを隕石の衝突として情報公開する国連も無理がある」

 それもそうだ。隕石衝突で空に同心円が出来るなんて聞いたこともないのだから。出来るとすればキノコ雲くらいだ。

 

 

「現在爆心地には、高次元宇宙空間が展開されている。それだけならよかったのだが、あらゆる生物は爆心地に入ることが出来ない。未解明の結界の作用により、爆心地に侵入した瞬間、生物は自らの形状を保つことが出来なくなり、橙色の液体に変化してしまうことが確認されている。だが、その爆心地に侵入した人物が1人確認されている」

 

「その人は、人のまま入れたんですか……まるで神ですね」

 スケールが急に大きくなったことについていけないリクの呟いたことは、解明されない現実にあきらめをつけそうになる言葉だった。

 

「その通りなのかもしれない。彼は大型の巨人Mark6と共に突如月面に出現したとの記録が残っている。その後、彼の協力でガリラヤベース跡地の調査が行われた」

 

「跡地からは、何か見つかったんですか?」

 

「ああ、これまたとんでもない物だ。ガリラヤの巨人の肉片、当時の映像と音声記録、未解明の半永久稼働機関の資料。魂の実在を証明する観測記録……正直言って、私は魂の存在については否定的だった。だが、そこに確かに記録として存在している以上、無かったことにはできない」

 

 

「待ってください、そんなものを回収して何になるんですか?」

 

「そこなんだよ。肉片で何か出来るわけでもないが、1つ分かったことがある」

 

 

 真田が思わせぶりな顔を浮かべる。

 

「もったいぶらないで教えてくださいよ」

 

「……ガリラヤの巨人とMark6、Wunderのアンノウンドライブ構成元素は同じだ。分子構造に多少の差異はあれど、同種の物と見て間違いなさそうだ。つまり、あの巨人とアンノウンドライブは同じ種族の生き物である、もしくは同じ文明の手によって造られたものであるという事だろう」

 

 

「つまり、あの巨人を作った種族がどこかにいるという事ですか?」

 

「いいえ、私たちの仮説が正しかったらこの世界にはいないと思うわ」

 ハルナの回答に対して、赤木博士は首を横に振った。

「この世界にいないって……ほんとに神様が創ったんですか?」

 

 

 

「……並行宇宙、越えられない次元の向こう側に住まう何者かだ」

 真田の口から出た言葉は、「ありえない」ことだった。並行宇宙からあれ程巨大な物体がどのようにしてこちら側にやって来たのか、2人には見当もつかなかった。

 

「……! そんな、突拍子もない事……」

 

「順番に説明していこう。アンノウンドライブに残されていたマーキングの事は知っているね?」

 

「はい。赤木博士から聞きましたが、地球の数字で書かれていたなんて意味が分かりませんよ」

 

「私もそう思った。あのマークを解析した結果、塗料の劣化具合からおよそ170年前に塗布されたものだと分かったわ。人類が火星に降り立ったのは2050年の事、170年前……つまり2020年代に人類が火星に到達した記録は残っていない。だが、君たちの体験した事故にヒントがあった」

 

「あの事件と、何か関係があるんですか?」

 

「いや、直接的な関係はない。だが、あの同心円が展開された真下は高次元宇宙空間が展開されている。恐らく、2点の空間が丸ごと入れ替えられたのだろう。これを小規模……ちょうどアンノウンドライブがギリギリ収まる範囲で発生させた場合、空間置換と共にアレをこの時空間に転送することも可能なはずだ。ガリラヤベースに謎の結界が展開されているのは空間置換が直接的に関わっていないと仮定すれば、アンノウンドライブが結界に汚染されていないのもそれで説明がつく」

 

「私も馬鹿げていると思ったわ。でも、事故調査の資料から数値を割り出して方程式の特定、当時の現象をMAGIのフル稼働で何とか再現することが出来たの。あれは間違いなく、空間の入れ替え。波動エンジンの様に余剰次元を展開しているのではなく、特定の範囲を丸ごと置き換えているのよ」

 

 

 

 赤木博士が行っていたシミュレーション、それは例の同心円の再現。そして多元宇宙間で2点の空間を入れ替えることだった。

 100回リトライしてようやく成功した人類初のシミュレーションは「赤木博士の睡眠不足」と言う最小限の犠牲の上で成功した。

 

 その犠牲の上での成果は、200年以上前の宇宙物理学者「スティーブン・ホーキング博士」の生涯最後の論文【A Smooth Exit from Eternal Inflation?】の間接的な実証。

 

 

 彼が唱えた多元宇宙の存在を間接的ではありながら確定させ、多元宇宙との門となったあの同心円の仕組みを解明した。

 分かりやすく説明すると、赤木博士はアルベルト・アインシュタインやスティーブン・ホーキングと肩を並べたという事だ。

 

 つまり、「空間の入れ替えによってガリラヤベース跡地は高次元宇宙空間に置き換わった」という事で、この原理を用いれば「ある二点の空間点を入れ替えること」も可能だろうという事だ。

 

 

 

「その空間置換を使ってアンノウンドライブは並行宇宙からやってきた……」

 

「そうだ。そしてその現象を向こう側の世界で起こしたのは、我々と同じ地球人かもしれない、生み出したのは別の種族かもしれないが、あの骨格を運用していたのは地球人と私は考えている。アレを何らかの形で運用していたならば、運用段階や整備でマーキングを施す必要も出てくる。どのように運用していたかは不明だが、施されたマーキングが地球の言語であることから、地球人の仕業という結論が出た。空間置換と言っても、高次元宇宙空間以外とも置換は可能なはずだ」

 

「並行宇宙からやってきたんだ、あの骨格……」

「あくまで仮説だ。半分以上が状況証拠からの推測だから、信憑性は低い。だが、私とマリ君、そして赤木博士で考えた結果、この結論にたどり着いた」

 

 

「真田さん。国連はこの事を隠し続けますよね」

 

「ああ、隠し続けるだろう。これは自然災害ではなく、人為的な災害だからな。死者が大量に出ているのに誤情報で丸め込んだから、公表されたら国連は大ダメージを受けるだろう」

 

 沈黙が続き、ここから何を話したらいいのか分からなくなってしまった。

 

 

 

 

「ここまで探った結果、最後まで分からなかったことがある」

 

「何ですか?」

 

「国連の裏に何かがいる、何かは分からなかったが、安保理の意志を簡単に捻じ曲げられる程強大な何かだ。Mark6の解析を目的とされてタブハベースと言う基地が月面に建造されたが、かなり恐ろしい勢いで建造されていた。地球外にそのような広大な施設を作るには莫大な時間と資金が必要だ。時間は建造期間の調整で解決するだろう。だが資金はそうはいかない。規模と工数、機材と労力から見て……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。国連と言えども、そこまでの金額を投入できるとはとても思えない」

 

 急に口を開いた真田の口から語られたものは、ある懸念だった。

 これ程のことが出来てしまい、これほどの金額を投入できてしまう以上、国連以外の存在が必要。

 そしてMark6の解析を目的としたタブハベースの建設は、「何を用意すればいいのかが分かっていた」かの様に手際が良く作業したという事が、工事記録から推測できる。

 まるで「来るのが分かっていた」、「元から近いプランがあった」かの様に。

 

 

「裏の組織……という事ですか?」

「そうだ。世界を裏から操れるくらいの組織。この推測を地球で立てなくてよかったと思うよ、地球だとその組織に息の根を止められそうだ」

 息の根を止められる。その一言で2人はゾッとした。

 何やらとんでもない秘密に足を踏み込んでいることに気づいたその時、この説を地球で唱えたりしたら死ぬんじゃないのかとも思った。

 

 

「これ、地球では絶対に言っちゃいけませんね……」

「ああ、地球で言ったら即座に国連か謎の組織に拉致されるのがオチだろう。だから通話記録を切った。念のため艦外で伝えることにしたのもそこから来ている。そして、ここまで話してきて君たちに聞かなければならないことがある」

 

 

「私たちの推測と記録が正しければ、君たち……」

「危ない!」

 

 真田が何かを言おうとしていたが、突然警備用の旧式ガミロイドに背後から襲撃された。

 古代が真田を伏せさせ、アサルトライフルでハチの巣にする。

 

「古代、すまない」

「無事で何よりです。あれがいる以上、長居は出来ませんよ」

 

「長く話しすぎたようだ。2人とも、大事なことは帰ってから聞くことにするよ。では入るとしようか、システム衛星の制御区画だ」

 

 


 

 

「ガミラス語……ではない」

「そうね、もっと古い言葉かしら。言語関係は専門外よ?」

 

 システム衛星の制御室の隔壁は固く閉じられ、真田と赤木博士は隔壁のロックと現在格闘中。ハルナとリクは真田と赤木博士とマリが組み上げた仮説を受け止めようとしていた。

 

「暁さん。真田さんたちの仮説が正しかったら、お2人のお母さんは殺されたようなものと言えます」

「うん。真田さんと赤木博士、マリさんの仮説には否定できるような要素がない。私から見たら、それは現時点で限りなく真実に近いと思う。でも、復讐なんて愚かしいことして誰が喜ぶのかな」

 

 

「僕は、メ号作戦で兄さんが殺されて、頭に血が上っていました。もしお2人に会っていなかったら、復讐心を持ったままでここまで来ていたと思います」

「古代くん、皆が皆復讐嫌いではない。でも、誰かに対する復讐心を持っていたら、それ以外のものは一緒に持てないと思う。君は、お兄さんを殺した彼らを憎んでいる?」

 

 

「兄さんを奪われたのは許せるものではありません。ですが、ガミラス人も地球人とそう変わらない。同じ人間だと分かると、それを超えて分かり合えると思えてきます。可笑しいですか?」

 

「そんなことないわ、星間戦争という巨大なスケールではあるけど、実際は内惑星戦争の再演だと思うわ。同じ民族なのに意見の食い違いで喧嘩する。上から目線に聞こえてしまうけど、人類は何度も間違えているわ」

 

 

「それでも、手を取り合おうとするべきでしょうか?」

「火星間では失敗した。でも地球だけに限れば、内戦や世界規模の戦争が今のところ一つも無い。一応上手くはいってるのよ。それと、メルダやクダン司令と会ってどう感じた?」

「何か特別な憎しみや恨みも持たない、僕らとそう大して変わらない人でした」

 

 

 

「なら、そういう事だと思うよ」

 

 

 

 それと同時に、制御区画の隔壁が床面を震わせながら解放された。

「ふぅ、ようやく開いた。では、入ろうか」

「私は異星言語にはあまり触れたことがないの。経験者さんは来てくれる?」

 

「経験って……向こうのプログラミング言語に触れたくらいですよ?」

 

「それでも地球にとってはあまりにも貴重な人材よ? でも入口の確保くらいはしておかないとね」

 

 

「ハルナ、僕行ってくる。入口の方は任せる」

 

「分かった。何があるか分からないけど、入口はどうにかするわ」

 

「うん」

 

「では行こうか」

 

 そう言って、リクと真田と赤木博士は制御室に入り、ハルナはコンソールにPDAを無線接続した。

 解放された隔壁を踏み越えたその瞬間、隔壁は長年動作を辞めていたのが嘘のような勢いで閉じられた。

 

「真田さん! 聞こえますか?!」

 

「リク! 応答して!」

 

『大丈夫! 感度良好!』

 

「よし、通信は大丈夫ね。古代くん大丈夫よ! 通信は良好よ!」

 

『今のところこちらでは何も起こっていない。一先ず作業を開始する。そちらで隔壁を開ける処理を進めてくれ』

 

「分かりました。作業にかかります!」

 

 

 ___________

 

 

 

(思った通りだ。このシステムを再起動すれば、亜空間ゲートを再起動させることが出来る)

 

 PDAからの操作で制御システムの概要を確認した真田は、赤木博士とリクのアシストで凄まじい速度でのシステム解析と掌握、そして再起動準備を進めることに成功した。

 

(これが再起動概要か……。っ!)

 

「睦月君、赤木博士。これを……」

 

「冗談じゃないわね」

 

「一回動かすごとに犠牲者が必要だって言うんですか?!」

 

 

「冗談じゃないぞ……でもそれを回避して再起動は無理だ」

 船外服越しに頭を抱えたリクの目線の先にはシステム衛星のコア、コンソール。そして慣性制御に従順な水が張られていた。

 

 

「水……? そうか!」

 

 

『リク! 隔壁開けるよ!』

「まった! そのままストップ!」

『どうしたの?!』

 

「真田さん、コレ、本当なんですよね?」

「ああ、確かだ」

 

「2人ともよく聞いてほしい。どうやらこのシステム衛星を再起動させたら、亜空間ゲートは使える。だが、再起動時に即死級の中性子放射が発生するみたいだ」

 真田が通信で語ったのは、ある意味命と引き換えで稼働するシステムの概要だった。

『え……即死……?』

 

「そっちに居れば安全だから、こっちはこっちで何とかする!」

 

『ダメです睦月さん! やめてください!』

『リク! 聞こえるわよね?!』

 

「うん!」

 

 

 

 

『100%生き残れる方法、あるんでしょ?!』

 

 

 

 

「……あるよ。3人とも無事な方法、ちゃんとあった」

 

 __________

 

 

 

 

 

 

『……あるよ。3人とも無事な方法、ちゃんとあった。そっちはシールド張られている。だから安全だ』

 

「……わかった。中性子放射が完全に終わったら隔壁開ける! 信じてるよ?!」

 

「暁さん! いくら何でも!」

 

「大丈夫! リクが私に嘘突き通した事、一度もないから!!」

 

 

(本当に凄く信頼しているんだ。暁さんと睦月さん……)

 

 

「暁さん。互いに信頼できるのは、何故なんですか?」

 

「生きているからよ。私だいぶ前に死にかけたけど、その時リクが護ってくれたの。勝手かもしれないけど、それからすごく信頼してる。私はリクを全力で支えるし、もし護れるなら、全力で護るわ」

 

 その言葉を紡いだ瞬間、隔壁の一部が緑に怪しく輝いた。

 

 

「……制御室内に、中性子が発生した。何もしなければ、確実に死んでいる」

 落ち着いているように聞こえるハルナの声とは裏腹に、PDAを握る手は震えていた。

 その怪しく輝く死の光はしばらく続き、数十秒続いたのちに光は収まった。

 

 

「終わったわ。隔壁開けるわ!」

 ハルナの操作で隔壁が解放され、PDAを投げ出して制御室内に駆け出した。

 

「誰も倒れてない……リク! 真田さん! 赤木博士!」

 彼らを呼ぶその声は、やはり震えていた。

 遺体がそもそも無いことがハルナの不安をより掻き立て、声の震えは無視できない領域まで上昇していく。

 

「ねぇ、答えてよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その微かな声は確かに相手に届いた。

 

 

 

「ふぅ、水がなかったら死んでた」

「先人が用意したのだろう。ありがたいことにな」

「宇宙で水浴びすることになるとはね」

 

 

 

 隔壁の向こうで作業していた3人が近くの水面から浮上して、そのうち1人は元気に手を振った。

 

 

「言ったでしょ? 100%助かる方法があるって」

 

「もう、心配したんだから」

 そう言って、ハルナは自分の船外服のヘルメットをリクにぶつけた。

 

 

 その光景を見ていた古代は何かを感じて、ハルナと一緒に真田さんと赤木博士を引っ張り上げた。

 片方が死の危険にあるのにも、向こうを信頼する。果たしてそれが本当に自分にもできるのだろうか。

 

 システム衛星から帰還した古代は、それを深く考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

「あの時に、聞きそびれていたことがあった」

 

 システム衛星から無事に帰還した真田は、アレイアンテナ基部の観測室に2人を呼び出した。

 

「私たちの推測と記録が正しければ、君たちが巻き込まれたあの災害は人の手によって起こされたものだ。それが正しいと仮定した場合、君たちの母親は国連に殺されたようなものだ。それを恨み復讐に走らないことを、ここで誓って欲しい」

 

 真田最大の懸念は、2人が復讐に走ることだった。母を失い、それを起こした原因と言うのは国連。つまり天災ではなく人災とみることが出来てしまう。

 人災によって母を失っている以上、「人殺しにあった」と見ることも出来てしまう。

 

「……弱い者ほど相手を許すことが出来ない。許すということは、強さの証だ」

 真田の願いにハルナが返したのは、ある言葉だった。

「それは?」

 

「マハトマ・ガンジーの言葉です。人を許せないのは、心が弱かったり狭かったりするからなんです、今なら分かります。そして最後にものを言うのは、腕っ節の強さや知識ではなく、ここなんです」

 

 

 そう言って、ハルナは右手を自身の胸に当てた。

 復讐の「ふ」の字すら見えない顔から、復讐の兆候など微塵も感じられないだろう。

 

 

「たとえ復讐に走って、何が得られると思いますか? 答えは、『何も残らなかった結果』が得られます。昔本で読んだんです。親友を殺されてそれから犯人を追い詰め、法の外で(かたき)を殺して母国の外で生きるしかなくなった兄妹の話。手元に残ったのは、全て失ったという結果。復讐して後悔するくらいなら、それを蹴とばしてハルナと楽しく生きますよ」

 

 そう言ってリクはハルナの肩を抱いた。突然だったのでハルナは少し驚いたが、すぐに少し嬉しそうな顔になった。

 

「でも、全部が全部飲み込めた訳ではありません。時間はかかりますが少しずつ受け入れていきます」

 

 

 

 

 

 

 

「赤木博士。私は、いらぬ心配をしていました」

「あの2人が復讐に走る可能性の事? 一応私も懸念はしていたわ。でも真田君の様子だと、復讐なんてものは起こりそうもないね」

 解析室に戻った真田は、赤木博士と密談をしていた。

 

「ですね。あの2人は、心よりももっと深い場所で繋がっている。そう思います」

「あの2人はね、単純な足し算掛け算では説明できないのよ。2のn乗の様にどこまでも大きく、地道に一歩一歩強くなれると思うわ」

 

 n乗ということは無制限に累乗が出来てしまうという事になり、自分の懸念していたことが本当にしょうもなく思えて、呆れて笑った。

 

「n乗……制限無しですか」

「外から制限なんか付けたら面白くないわ。人間の心に限界はない。論理(ロジック)では到底表せない以上、無理矢理表そうとすると、必然的にn乗や∞という数を用いるしかないわよ?」

 

 

 

 

 

『諸君、ゲートは使用できる事が分かった。これで大マゼランまでの行程の内、およそ6万光年を飛び越えることが出来る。その後、バラン星のゲートを経由して大マゼランに向かうことが出来るだろう。以上だ』

 

 

 

 起動した亜空間ゲート。死んだように眠っていたその巨大なリングは息を吹き返し、あたかも新しい扉の様に見える。

 背中合わせの信頼。

 航海艦橋でゲートを見つめる古代が出した答えがそれだった。

 それを見つめる古代は、自分の先を征く2人を一つの目標にしたのであった。




赤木博士はスティーブン・ホーキング博士を超えてしまった……

多元宇宙の話はスティーブン・ホーキング博士の最後の論文から発想を受けて作り出したものです。
火星のインパクト跡地の同心円が多元宇宙との門としたならば、そこから多元宇宙に行ける門としても機能するのではないかと思いましたので、Wonderのアンノウンドライブ=並行宇宙からの落とし物としました。

実を言うと、新劇場版が公開されていた頃には、「新世紀」と「新劇場版」は平行世界ではという仮説があったんですよ
結局は外れてしまった仮説ですが、それなりに形ができていて「(*'∀'*)ヘェ~!」ってなった時期もありました

問題なのが「この説はあっているかどうかという事です」
その辺りの答え合わせもします

ではまた次回お会いしましょう
(@^^)/~~~
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。