宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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ちょっと新しい表現を組み込んでみました


星の海、その先へ

「ゲートの機能復旧、よくやってくれた」

「いえ、でもこれで、近道が出来そうですね」

 

「お2人の力添えで、ゲートコントロールシステムの複製も進んでいます。偵察任務当日には、形に成るかと思います」

「ご協力に感謝します」

 沖田艦長が感謝を述べるその先にはユリーシャと、岬に憑依したサーシャの姿があった。

 

「あなた方の航海の先を見てみたい。何を成し何を残すのか、私は、それを見届けたいと思います。これはそのための協力と受け取ってもらえたら幸いです。そして、この船の搭載されている波動砲……前にもお伝えしましたが、私は、肯定しているわけではありません。ですが、それを身を守ることにしか使っていないことをユリーシャから聞いて、王族の意志と関係なく私個人の意思で見守ろうと思います」

 

 岬の身体を借りて話すサーシャの言葉は、地球人、波動砲搭載艦のWunderに対して比較的好意的な言葉だった。

 スターシャが波動砲に対して苦い顔をするかもしれないが、大昔のイスカンダルの様に力の使い方を決めている。少なくとも、大量破壊兵器として使わず、身を護るためだけに使っている。

 

 98年にあの設計者とユリーシャが考案した波動砲条約が、確かに生きている事が分かった。

 

「バラン偵察の人選は?」

 

「人選は航空隊長に一任。要員が決まり次第、報告します」

「……かなり危険な任務になるな」

 

 

 


 

 

 

「あー……お前ら聞いてくれ。亜空間ゲートが使えるといってもバランがどうなっているかは分からない。という事で、向こうの状況把握のためにうちから偵察員を送ることになった。危険な任務だが、志願するやつはいるか?」

 

 航空隊控室で皆を前にして加藤はそう切り出した。未知の宙域に亜空間ゲート経由で行ってくるという少々度を超えた危険な偵察。おまけに未知の空間を経由することになるので、帰ってこれる保証はない。

 

 

(いないなら俺が行くしかないか……)

 

 

 内心そう思いながら立候補を待っていたが、1人のパイロットが手を挙げた。

 

 

「自分が行きます」

 篠原が、手を挙げていた。

 

「いいのか? 未知の宙域に1人で放り出されるようなもんだ。帰ってこれるかどうかは怪しいぞ」

「問題ありません」

 

「おいおい篠原おいしい役回り持っていきやがって」

「ドジるんじゃないぞ?」

「はいはいさらっと帰って来るって」

 

 偵察に立候補した篠原の口調は軽く、皆からのイジリを軽く捌いている。

 

「……分かった。上には篠原が行くって伝えとく。偵察にはシステム衛星で鹵獲したガミラス機を用いるから、左舷第3で機体見とけよ」

「了~解」

 その後集会はお開きとなり、篠原は、1人控室に残った。

 

 

 

 ……隠していたが、少し震えていた。

 

 未知の宙域に一人旅。聞こえはいいかもしれないが、状況によっては敵のど真ん中にこっそり侵入するようなものになる。

 

 自らを静かに鼓舞して、その場を立ち去ろうとする。

 

 

 

 

「意外ね、偵察なんて志願するなんて」

 気配を消して最後まで残っていたのは、山本だった。

 

「……昔さ、まだ訓練生だった頃の事なんだけど、すっごい綺麗に飛んでいる機体を見たんよ。超高機動とか正確無比な射撃とかそういうのじゃなくて、ただただまっすぐ力強く飛んでいく機体だった。その機体見てから、ああ良いなぁって思った。こう見えて俺偵察志望って……あれ?」

 

 

 振り返ると姿が見えなくなっていたのを不思議に思っていたら、すでに控室の自動ドアの前に山本がいた。

 

「一つ忠告。偵察は戻ってくるまでが任務よ」

 そう言って、山本は控室から立ち去って行った。

 

 

 

 __________

 

 

 

 

「これさ、メルダの機体とそっくりじゃない?」

「と言うかそれそのものだ。機体の役割としてはうちのファルコンに近いようだ」

 

 第3格納庫に搬入されてきたガミラス機に興味を示したハルナとリクは、アスカと篠原の見学を受け入れてガミラス機の調査とゲートコントローラーの設置を進めていた。

 

 

「できれば私が行きたかったけど、EURO2に慣れすぎてしまっているから。篠さんには重い役割背負わせてしまったわ」

「そう気になさんな。ちゃちゃっと帰って来るから」

 

 飄々としている篠原の顔は明るそうだ。

 

「うん、操縦系はファルコンとそう大差ない。右に推力レバー、中央に姿勢制御の操縦桿だ。ちょっと座ってみて?」

 

「はいはい~」

 そう言って篠原は、ガミラス機の操縦席に座ってみた。

 

「お~結構馴染むね」

「問題なさそうかな?」

「問題なさそうだ。景気よく飛ばして帰ってこれそう」

 

「そりゃあよかった。ところで、この機体飛ばす上でIFFとコールサイン付けないといけなくてね。コールサインは自由に決めれるけど、どうする?」

 

「それじゃあ……」

 

 

 

 

 

 

『ゲルガメッシュ離床。バラン星大気圏を突破します』

 

 バラン鎮守府から1隻のガイデロール級が離床する。

 ドメルが死刑判決となり、入れ替わりでゲールが司令に返り咲き、ゲールとしては、今が上手くいっているタイミングだ。

 そのタイミングでのバラン星での観艦式。上へ上へとのし上がるためには、良いタイミングだった。

 

 

『まもなく、国家元帥閣下が到着される。まもなく、国家元帥閣下が到着される』

『到着艦艇は、指定ポイントに移動せよ。繰り返す、到着艦艇は、指定ポイントに移動せよ』

 

『ゲシュタムの門起動、5秒前。3、2、1』

 

 亜空間ゲートの何もない虚空を突き破り白煙とともに現れたのは、ガミラス史上最大級の一等航宙戦闘艦。ゼルグート級の一番艦。『ゼルグート2世』だ。

 

『時空変動、異常なし。国家元帥閣下座乗艦「ゼルグート2世」の到着を確認』

 

 自らの威厳と嗜好をつぎ込んで、ドクトリンに沿わない大艦巨砲主義を実現したその船は、正面にバランが望める位置でゲルガメッシュとランデブーに応じた。

 

 

 

「これはこれは元帥閣下。斯様なこの地へようこそおいで下さいました。今回は、この地で、かくも大規模な観艦式を開催して頂けること、このゲール誠に光栄の至りです。今も各方面から続々と艦隊が集結中であります」

 

 上官には下手に出るのは、ゲールの常とう手段。万人に効くようなものではないが、ゼーリックのような「貴族で崇められたい」様な人には、良く効くのだ。

 

「この未曽有の困難に際し、帝国を一つにまとめ上げる……! それこそが! この私に課せられた使命なのであるゥ!!」

 

 物凄い癖の強い顔で拳を握るゼーリックの顔は、真剣そうに見えるが、腹の底に何があるのかは伺い知れない。

 バラン星の赤黒い大気、集まる艦隊。ゼーリックは何を考える……。

 

 

 


 

 

 

「3時間?! バラン宙域の視察とマゼラン側ゲートの確認を、たったの3時間で?!」

 

「本人も納得済みだ。もしあのゲートと言うのが使い物にならないなら、一刻も早く先に進まないといけないからな。俺達には致命的なまでに時間が足りないんだ」

 

 航海日程はまだ注意域の遅れだが、これ以上日程に遅れが発生するとWunder計画そのものを本当に中止にしなければならない可能性が発生する。それこそ、「地球を捨ててそのままほかの星に行こう」という贖罪計画が正しかったんだという事にもなりかねない。

 

 それを避けたいようで、所定時間を過ぎたらそのまま次へ進むことが決定された。

 

 

「だからって! 時間になったらそのまま置いていくって言うんですか?!」

『ソードスリーからコントロールへ。発艦準備完了』

 

 耳に覚えがあるコールサインに、加藤が微かに反応した。

 

「コントロールからソードスリーへ。発艦許可。繰り返す、発艦許可」

『ソードスリー、ラジャー。サクッと行ってきます』

 

 

 

 

 

「ゲートコントローラー、フェイズ1始動!」

『フェイズ1始動。突入!』

 

 ゲートコントローラーが起動し、篠原は亜空間ゲートに飛び込んだ。

 

「ソードスリーの物理反応消失。通常空間から隔絶されました」

 

「航海長、迂回航路を提出」

 

「収容時間を超過した場合、本艦はソードスリーの帰還を待たず、現宙域を離脱する」

 

 

 __________

 

 

 

「あのコールサインって……」

「ああ、睦月さんから聞いたが、本人の希望らしい。343航空団に所属していた偵察機の一機に付けられていたコールサインだ」

 

「……」

 

「こんなとこでまた聞くことになるとはな。あいつ、偵察任務に憧れていたからな。これをつけたがるのは分からなくはない」

 

「……偵察は戻ってくるまでが任務、そういったのに」

 343航空団の偵察機の一機、それは、玲の兄である山本明生のコールサインだった。

 兄と同じコールサインに何かを感じ、そのコールサインで散った兄の様になってしまうのではないか想像してしまう。

 

 

「篠原なら帰って来るさ。必ずな」

 

 ___________

 

 

 雷、竜巻、吹き荒れる風。

 ここが異空間という事を強引に実感させに来る。

 

 

「……なんか変な空間に来ちまった感じ」

 気を抜かなければ風にあおられることはなさそうだが、気の抜けない状況だ。

 亜空間、通常の物理法則が通用しないと仮定されているが、こうして偵察機が問題なく飛べていることは、少なくとも航行は可能なようだ。

 

 ふと、視界の上に見知った艦が映った。

 

「……ガミラス?」

 

 それはだんだん薄くなり、霧のように消えてしまったが、確かに散々遭遇してきたガミラス艦だった。

 

 ふとレーダーを確認する。案の定、レーダーとスキャナーは画面がひどく乱れて使い物になりそうにない。

「レーダーとスキャナは使えないと。頼りになるのはこいつだけか」

 そのなかでも搭載されたゲートコントローラーは、一切の機能障害を起こすことなく行き先を示し続けている。

 

 

「……竜巻に突っ込むと変なとこに飛ばされそうだな」

 操縦桿を握り直し、もう一度気を引き締め直した篠原は、いまだゴールが見えない亜空間を駆け抜けていく。

 

 


 

 

「フッフッフッフッフッハッハッハッハッハッハァァ!! 何と壮大な事か! この数! この偉業! これこそがガミラス!!」

 

「ゲール閣下、参加艦艇がまもなく延べ10000隻を突破します。ですが、防衛上大きな穴をあけてまでここまで大規模な観艦式を行うその真意をお聞かせ願えませんか?」

 

 ガミラスがいかに大国とはいえ、10000隻という数は少なくない数だ。

 今現在も様々な方面から多くの師団、艦隊が集結してくる。

 それゆえ、集結させれば防衛上の穴ができる。

 普通ならばその穴をカバーするための艦隊を配置するが、10000隻分のカバーが出来るような余裕は流石のガミラスでも無い。

 

 

 それなのに、これほどまでに艦隊を集めた理由がゲールには分からなかった。

 

 

「それは時期にわかるゲールよォ。全ての艦艇が集まり次第、このゼルグートから吾輩が全ての同志に呼びかける。気持ちが逸るのはよぉーく分かるゥ。だがそれまで……その時まで待つのだァ」

 

 

 __________

 

 

 

『ゲート接近、フェイズ2へ移行』

 それは本当に唐突だった。亜空間を飛び続けて30分程、荒れ放題の景色にそろそろ慣れてきたというところで、いきなり高速道路を降りろと命令してくるのだ。

 

 

『衝撃に注意してください』

「嘘だろおぉぉおおっ!!」

 間髪入れずに警報音が鳴り響く

 目的地と思わしき竜巻に吸い込まれ、その渦の中で機体が搔き回される。

 姿勢制御が追い付かないほどの大嵐の中、篠原の目は嵐の向こう側を捉えた。

 

「あっ! あれか?!」

 

 もう流れに任せるしかない。とにかく操縦桿を手放さないように必死で握りしめ、衝撃に耐えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 偵察として下見に来て本当に良かったと思った。

 ゲートから吐き出されて最初に見た色は緑。緑、緑、緑……目に映るのは緑の艦艇たち。

 

 バラン星の赤黒い大気を背景にして、数えるのが馬鹿馬鹿しくなる程の数のガミラス艦艇が集結していた。

 

 

 

「これ……全部ガミラスかよ」

 

 もしこの宙域にコスモファルコンで飛び込んでいたらたちまち撃墜されていただろう。ガミラス機だから誤魔化しが効いている。

 

 

「にしても艦隊に航空機部隊、煙幕出して飛んでいるとかパレードか何かか?」

 頭上を見ると1枚翼の機体が編隊飛行、コスモファルコンによく似た戦闘機が煙幕を噴射しながら飛行していた。とても戦闘態勢とは思えない。

 寧ろパレード、軍事力の誇示のように見える。

 

 

「ん? ……あれが」

 ガミラス艦艇の群れの奥に先ほど自分が突入した物によく似た亜空間ゲートが存在していた。見たところ、ゲートの縁は青色に光っている。起動しているようだ。

 

 

「よし、ゲートは起動しているから飛び込むだけだな。……あれっ?」

 センサーがゲート以外の何かを拾っていた。位置はバラン星中心部。不鮮明だが、星の中枢部に何かがある。

 少なくとも自然発生したようなものでなはい。

 

 自分では判別できないからとにかくデータを取る。

 そのまま帰還。ガミラスさんに怪しまれないようにそっと機首を天の川銀河の方向ゲートに向ける。

 

 

 

 

 

 

《そこのツヴァルケ? 所属と姓名、階級を明らかにしろ》

 ガミラス語で呼びかけられた。

 突然のことで驚き、操縦桿を傾けて姿勢を崩してしまう。

 

《隊列を乱すな! 閲兵中だぞ?!》

 ガミラス語なんてわからない。

 でも、意志を示す方法は言語だけじゃない。非言語コミュニケーションという方法もある。

 

 

「ごめんなさいね? こっちにも、都合があってねっ!!」

 もうバレてしまったものとして、機首を勢いよくゲート方面に向け、急加速する。

 

《こちら巡回パトロール、不審な行動をとるツヴァルケを確認。撃墜許可を求む》

《了解、撃墜を許可する》

 

 訳の分からない言語を通信機から垂れ流しにしながら、篠原は必死に艦艇の群れをすり抜けてゲートに向かって飛んでいた。

 

「どけどけどけどけぇぇええっ!!」

 

 敵にバレたようで、ほかの戦闘機に追いかけられている。いつものファルコンより少し遅く、慣れていない機体だがとにかく死なないように避ける。

 

 ゲートまで残り半分を切ったところで、甲高い警告音が鳴り響いた。

「何だよっ!!」

 

 警告の発した意図を理解する暇もなく、背後からバルカンを撃たれていることが頭上のキャノピー越しに確認できた。

 

 

「俺も、あんなふうに!」

 篠原の脳裏に映るのは、嘗て訓練生の頃に目に焼き付いたあの偵察機の姿だった。

 

「強く、気高く、美しく!」

 その瞬間、追尾してきた機体のバルカンが、機体に掠った。

 

 

 その衝撃でヘルメットにひびが入り、気が遠のき始めた。

 

「飛ぶん……」

 

(偵察は戻ってくるまでが任務。必ず戻ってきなさい)

 

 

 意識を手放す寸前、山本から聞いた言葉を思い出し踏みとどまった。

 

 

 

「飛ぶんだぁぁぁぁああああ!!!」

 

 気をしっかりと持ち、操縦桿を握りしめ、被弾箇所から吐き出しながらゲートに向かって飛んだ。

 そのまま亜空間ゲートに飛び込み、その宙域には、再び統制が訪れた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 懐中時計に映る秒針を静かに睨む。

「補助エンジン始動。現宙域からの離脱準備に入る」

 急ぐ身として時間はダイヤモンドよりも貴重。タイムリミット間近になり、発進準備が進められる。

 

「真田さん! もう少し待ってください!」

「だが、時間は時間だ。これがスケジュールに支障をきたさないぎりぎりの時間なんだ。分かってほしい」

「でも!」

 

 

「待ってください! ゲートに反応あり! こちら側に何かが出ようとしています!」

 太田の報告で観測カメラがゲートに向けられ、映像が表示された。

 

 一切の変化を見せなかった亜空間ゲートに一つの光点が灯った。

 

「篠原さんだ! 相原さん!」

 

「左舷第3格納庫! 受け入れ準備に係れ!」

 相原が左舷第3格納庫に受け入れ準備を命じたその瞬間、亜空間ゲートから篠原のガミラス機が回転しながら飛び出してきた。

 

「IFF照合! ソードスリーの帰還を確認!」

 ギリギリのタイミングで帰って来たが、確かに篠原は行って帰って来た。

 そのことはWunder全体を駆け巡り、希望のような活力のような……日程の遅れを帳消しにできるアテが見つかり、沖田は心の底から安堵したのであった。

 

 


 

 

「篠原の容体は?」

 

「命に別状なし、意識もハッキリで各種検査もバッチリ。『問題なかろう!』とのことです」

 

 篠原は敵機からの逃走中にバルカンを何発か食らい、その衝撃でヘルメットごと頭を打ち付けていた。

 頭部から血を流しながらも何とか帰って来たその気力は非常に称賛に値する。

 

 だが、大事をとってしばらく経過観察。ゴーサインが出るまで戦闘機に乗るにはダメだという事。

 

 

「彼が持ち帰ったデータがこれです」

 

 それに合わせて星名がコンソールを操作して篠原が命懸けで持ち帰ったデータを表示した。

 バラン星とマゼラン行きのゲート、そして星の内部に見たことのない物体がぽつんと存在している。

 

「中心部に、人工物?」

「そう。どうやらバラン星は、その中心核に亜空間ゲート用のエネルギープラントを持っている人工惑星だ。大マゼラン行きのゲートは既に作動していた」

「でも、問題があるの。とりあえずこれを見て」

 

 ハルナが星名のコンソールを借りてもう一つ重要なデータを表示させた。

 

「現在このバラン星宙域には、ガミラスの戦力が集中していて、総数は……10000以上です」

 床面ディスプレイに表示された艦船を示す記号はあっという間に隙間を埋めていき、ディスプレイが真っ赤に染まった。その横にカウンターが表示され、艦艇計測数が瞬きする間に10000を超えてしまった。

 

 

「進むな危険」と主張しているようだ。

 

 

「迂回航路はすでに策定済みで迂回することは可能ですが、1つ問題があります」

 

「こちらが迂回したことを敵が察知すれば、起動している亜空間ゲートを経由して敵艦隊の一部が大移動、大マゼランを背にして防衛線を敷かれる恐れがあります。中性子星の時と同様の手の攻撃で大打撃をこうむることも予想されます」

 

 更に表示されたウィンドウのアイコンが動き、バラン星を迂回するWunderと亜空間ゲートを経由して先回りするガミラス艦隊の図が表示された。

 亜空間ゲートは一気にバラン星まで行って、そこから大マゼランまで直中で行ける優れもの。

 使用者を選ばず航海日程の大幅な短縮が出来るため、敵に「布陣を敷かせる時間を与える」事となる。

 

 

「つまりあとで痛い目を見るか今片付けておくかという事ですね」

「そういう事」

 

 

 進めば物凄い物量で押しつぶされる……でも迂回を取れば気づかれずに行けるかもしれないが、バレたら迎撃態勢を取られて中性子星の再演。どっちを向いても地獄だ。

 

 だが、その逃げの一手しか見えないような状況で古代は、難しい顔をしていた。

「……古代くんどうしたの?」

 

「何か引っかかるんです。バラン星は亜空間ゲートのハブステーション、ガミラスにとっては重要な基地ですからここに戦力を多く置くことは必然的です。僕だってそうします。ですが、密集しすぎているんです」

 

 床面ディスプレイに表示された偵察写真を睨んでいる古代の顔は厳しい顔をしていた。

 偵察写真には、ガミラス艦艇が群れとなっている様子が記録されていて、

 

「確かに、仮に僕らがこの群れに突っ込んでいって、向こうが砲撃を仕掛けようとしても、味方間での誤射は高確率で起こる」

 

「でも、防衛するならゲート付近やバラン星近隣。駐屯地に戦力を配置するべきなのになんでここまで広がっているのかが分からないんです。何か……特別な理由が」

 

 

「いいヒントがあるかもしれないよ? 篠原さんのガミラス機の通信が入っていたの。これがその音声」

 PDAから床面ディスプレイに音声ファイルが転送され、何を言っているのかが分からない無意味にも聞こえる声が、ノイズ除去された綺麗な音声で再生された。

 

 

「これは、ガミラス語……ですね」

「ドイツ語に近い感じがするけど……よく分からないわね」

「いや、類似点を見つけている時点で凄い事なんですよ……?」

 

「桐生ちゃんの翻訳システムも未完成でまだ満足に使えないわ。誤変換が起きてるのかどうかも確認が難しいからね」

「さすがにガミラス語専攻の人は居ませんから……」

 古代が諦め半分の顔をして少し残念そうな顔をする。

 そもそもガミラス語の学問なんか地球上には存在していないからと当然と言えば当然なのだが。

 

「ガミラス語の先生、1人だけいるじゃない」

「ガミラス語の先生? まさか……」

 

 

 

「という事で、ガミラス語に堪能なオルタ先生に聞いてきました」

 

 

 

《幹部会議開始30分前 解析室》

 

 

 

「オルタ、調子はどう?」

 

『キブンがいいです。アナライザーとのショウギももうそろそろカちコせそうです』

 

「聞きたいことがあるの。ガミラス語を地球言語に翻訳することってできる?」

 

『もちろんです』

 

「これなんだけど……」

 

 そう言って、オルタにタブレットを渡して再生してもらった。

 訳の分からない事を喋っている男性の声が聞こえる。

 

 

『?? ……これは、えっぺい……ちゅう。エッペイチュウと言ってますね』

 

「閲兵? 観艦式か何かやっているの?」

 

『オソらく。バランにソウトウ、テイトク、ゲンスイ、もしくはシレイカンがオトズれていて、そこでかなりダイキボなカンカンシキをモヨオしているのでしょう。しかし……』

 

『バランに10000のカンタイがシュウケツしていることにイワカンがあります。キンリンのシュリョクカンタイがアツめられているようですが、10000というスウジはガミラスとイうタイコクからミてもケッしてスクなくないカズです。センリャクジョウオオきなアナをあけてでもここまでダイキボなカンカンシキをするのは、オソらくセイジテキなパフォーマンスがあってのコトでしょう。ガンライ、ガミラスではキゾクがソンザイしていて、グンジとセイジ、ハバツアラソいはミッセツにカカわっていますので』

 

「つまり戦闘準備バッチリでガチガチに警戒しているような状況ではないという事?」

 

『ベツのイミでゲンカイタイセイをシいているでしょう。ですが、これほどミッシュウしていればすぐにコウゲキされるようなジョウキョウにはならないでしょう』

 

 

 

 


 

 

 

 

「えーっと。どうやらガミラスは観艦式中で、こちらが突撃してもすぐに戦闘行動がとれるような陣形でもないという事なのでこのまま進むことは可能かもしれません」

 

「観艦式?」

 

「ガミラス側の政治的パフォーマンスで10,000隻規模での観艦式をやっているようです。翻訳はオルタ先生のお墨付きなので信憑性は折り紙付きかと」

 

「信じられるんですか?」

 南部がオルタの翻訳を怪しんだ。

 不可抗力とはいえアナライザーを攻撃したオルタの事を未だに怪しんでいる者も少なくない。

 それは仕方ないことだが、一度できてしまった印象は拭うことは難しい。

 

「オルタとアナライザーの信頼はよく知っています。オルタは現在スタンドアローン状態で、外部端末との有線通信やガミラスとの通信手段もない。この状況で何か行動を起こしても意味がない事は彼もよく理解しています。アナライザーとの関係も良好で、毎日のモニタリング映像も問題ないため、彼は信用に足ります」

 

 オルタの艦内での処遇は、実はそこそこいい。

 解析室から出ることは出来ないが、逆を言えば、そこが彼の住まいとなっている。

 オルタは、再起動してから初めてやった将棋が印象的だったのか、解析室には将棋盤と将棋の本が常備され、アナライザーが来たときはよく一局手合わせをしている。

 

 ロボット同士での将棋は見る人が見れば人間の真似事に見えるかもしれないが、人間臭く考えて一手を指すその姿は、解析室で業務に励む者たちのよい気晴らしとなっていた。

 

 

 

「……諸君、敵の不意を突くことが出来れば、敵を大きく引き離し、我々は先に進むことが出来る。だがそのためには、ゲートをダウンさせる必要があり、儂は、このエネルギープラントを破壊することが最も最適かと考えている」

 

「確かに、プラントを壊してゲートが崩壊するまえにゲートに飛び込めば問題はありませんが、かなりの推力が必要となります。それこそ、波動砲を推進装置代わりにしてバックでもしなければ……」

 

 そこまで言ってふとリクは気づいた。

 

「あ……出来ますね。重力アンカーを全て解除すれば発射時の反作用で一気にバック出来ますが……まさか、エネルギープラントに波動砲を打ち込むつもりですか?」

 

「……そうだ」

「……最大戦速でゲートまで飛ばしながら波動砲充填して発射ですか……。ですが、条約では対惑星攻撃と見られてもおかしくなく、そもそも出来ないんです」

 

 

「出来ない……ってどういう事ですか?」

 

「条約違反だから出来ない」ではなく「そもそも出来ない」という言葉に古代は違和感を覚えた。

 

「僕らが組んだ波動砲発射システムは、射線上に艦艇や惑星が存在していると自動的にロックがかかるんです。Wunderを条約型戦艦として運用するために組み込んだのですが、まさか裏目に出るとは思いませんでした」

 

 

「もし、それを回避できるものがあれば?」

 

「回避ですか? 作るのは大変ですよ?」

 

 

 

「新見君の個人タブレットを本人の許可をもらって確認した所、このようなプログラムが確認された」

 

 

 

《波動砲対艦攻撃用照準プログラム》

 

 

 

「対艦攻撃用……新見さんがこんなものを……」

 

 波動砲を対艦攻撃用兵装として使用することを企てていた人たちがいた。そのことはリクとハルナに少なくない衝撃を与えた。

 

「恐らく贖罪計画派の誰かが制作した物で、それを新見君に持たせたと考えるのが自然だろう。中身の解析は済んでいて、ご丁寧にクラッキングツールが一緒に仕込まれていた。君たちの作ったシステムを消去して、対艦攻撃用のシステムに入れ替える仕組みのようだ」

 

 内容が内容なだけに真田が独自に解析したが、2人の作ったシステムの穴を巧妙についた舌を巻くような仕上がりだった。

 床面ディスプレイに表示されたソースコードは圧縮されていて、アルファベットと数字、記号が、入り乱れている。暗号のようなものだったが、システムを組み圧縮も手掛けた2人には、それを読み解くことが出来た。

 

 

「これを利用すれば、エネルギープラントへの攻撃も可能だと儂は考えている。対惑星攻撃に違いないことは分かっている。その責は儂が背負う」

 

 

 目深に被った艦長帽に隠れて見えないが、沖田艦長の目は決意の籠った目立った。

 

「……沖田艦長、その十字架は全員で背負うものです。この船の全員が波動砲の危険性を知っていて、それがイスカンダルの忌むべき力という事も知っています。それに……開発者がのうのうと責任逃れすることは絶対にしたくなので、重たいものは、全員で背負いますよ」

 

 

 

「……全員で、背負う……か。ここに居る儂を含めた全員の意思で、波動砲を用いたバラン星エネルギープラントへの攻撃を行う。総員、第一種戦闘配置を維持しつつ亜空間ゲートに突入。バランに到着次第砲撃を開始する。以上だ」

 

 

 ___________

 

 

「せっかく作った条約だけど、まさか自分で破ることになるとは、思ってもみなかった……」

 

「対惑星攻撃と判断するかは……黒寄りのグレーね。実際に惑星を破壊するために撃つのではなく、その中心に位置しているエネルギープラントを壊すのが目的だけど、流石に白にはできないわ」

 

「……波動砲で誰の命も奪わないという事は、今回に限ればとても難しいかもしれない、いや、無理かもしれない。条約考案者が条約違反に加担するのは非常に滑稽で、それこそ今までやって来たことを壊すことになるけど、今は生き抜く。後始末は、その後にするよ」

 

「全員で背負う。あなたがそう言えるようになったのは、私嬉しい」

「あの時は撫でられて少し落ち着いた」

 

「また撫でてあげよっか?」

 

「ありがとう、でも大丈夫。強くなったから」

「そうね。準備、進めよっか」

 

「ああ」

 

 

 


 

 

 

 バラン星近傍に、10000を超える艦艇が集結した。その艦艇の群れの中に一際目立つ赤い巨艦、ゼルグート2世。

 

 その艦橋に立つゼーリックは演説用の壇上でマイクに向かって話し始めた。

 

 

「誇り高きガミラスの諸君。本日は諸君らに酷く悲しい知らせをしなければならないィ」

 そう切り出したゼーリックは、一呼吸おいて続きを話し始めた。

 

「そう、我らが偉大なる指導者、気高きお方であるアベルト・デスラーが……この世を去られた」

 そうゼーリックの口から紡がれた最高指導者の訃報は、この場に集まったすべてのガミラス艦艇に届き、その艦艇一つ一つに乗り込んでいる兵の心を大きく揺さぶった。

 

「この未曽有の困難に際し、帝国を一つにまとめ上げるというその崇高な使命に、吾輩の魂は打ち震えているゥ……」

 

 

「吾輩はここに誓う! 亡き総統の遺志を継ぎ、指導者の不在を未だにひた隠しにする中央政府どもに……正義の鉄槌を下す!」

「誇り在る者よ共に立て。バレラスに進行し、総統の座の奪取を企てる蛮族を我らの手で蹴散らすのだァ! 根こそぎに、容赦なく、断固として!」

 

 力強く、そして貴族としての威厳を最大限に発揮した演説はバラン星宙域の全ての艦艇に余すことなく届き、ゼーリックは自らの勝ちを確信した。

 

 しかし、その勝ちの演説は急に発生したトラブルによって突然水を差される格好となった。

 

 

「閣下! 演説中申し訳ありません。緊急事態に付き、ご報告申し上げたい報がございます!」

「何事かァ!!」

「銀河方面のゲートに巨大な反応を確認! 我々ではない何者かが、この宙域に出ようとしています!」

 ゼーリックは、目を大きく見開き正面モニターを見射抜く。

 

『回廊、形成されます』

 

 その瞬間、ゲートに青白い火花が散り、ゲートの境界面がみるみるうちに白い靄がかかっていく。

 

「あれは何だァ!!」

 

「あれほどの巨大な反応は……惑星間弾道弾クラスしかありえません!!」

 

「じゃあ何が来るというのだァ!!!」

 

 

 

 

 

 その瞬間ゲート境界面から、圧倒的な量の白煙を吐き出された。

 その煙をから放たれた青白い光は、ガミラス艦を両断し、爆炎を散らす。

 

 そして、その白煙を裂くのは翼。

 

 艦体に刻まれたNHG-001という艦籍番号

 

 それは、全長2500mという空前絶後の全長を誇る、テロンの超弩級宇宙戦艦だった。

 

 

 

 


 

 

「船体傾斜左舷に90度。第一戦速、撃ち方始め!」

「撃ち方始めっ!」

 

 

 Wunderのショックカノンがバラバラに動き、各個目標を捕捉。艦底部も含めて前方を指向できる砲門24門が全方向に一斉に火を噴いた。

 艦首魚雷、短魚雷発射管が一斉に魚雷を発射し、総数44発の流星群は目標を違わずに眼前の大艦隊を火の玉に変えてしまった。

 

 メ2号作戦以来すっかり鳴りを潜めていた「本気の火力」を最初から解放していく。

 

 

 先ほどまで艦隊の配置されていた宙域には艦艇だった物が浮遊するのみとなり、その跡地をWunderは全速力で進んでいく。

 

「甲板VLS1番2番、用意! 撃てぇ!」

「波動砲のエネルギー充填を開始する」

 

「波動防壁を展開。出力を50%に固定。波動砲の充填を優先しろ」

 

「了解! ショックカノンに回すエネルギーからも半分回します! 充填開始!」

「よし! 非常弁全閉鎖!」

「薬室内タキオン粒子圧力上昇開始を確認!」

 

 戦闘行動を継続しながら波動砲へのエネルギー充填を行う。本来ならば、波動エンジンを出力120%まで上昇させてエネルギーをチャージする兵器だ。120%にまで上げるのは、「チャージに時間のかかる波動砲」を迅速にチャージするため。だが、戦闘行動を行いながらチャージすることも理論上は可能だ。

 

 そこで、魚雷とミサイルを主武装にして、本来主兵装であるショックカノンを副武装にした戦闘を展開し、余剰となったエネルギーを波動砲に回す。これをチャージ完了まで継続する。

 

「エネルギー充填10%、良いペースじゃ」

 戦闘開始から1分。波動エンジンの高出力運転のおかげで、波動砲を徐々に充填できるほどのエネルギーが流入できている。

「古代くん! このままミサイル主体戦闘を継続して! チャージ完了まであと11分!」

「はい! 南部! 3番4番準備は?!」

「甲板3番4番発射準備よし! いけます!」

 

「島、バラン星でスイングバイだ。推力不足分を回収する!」

「了解! 古代、南部! 撃ちまくれ!」

 

「よし! 甲板VLS3番4番、撃てぇ!」

 

 

 VLSから再びミサイルの群れが解き放たれ、目標に向かって忠実に突き進み、その役目を全うしていく。

 

 

 


 

 

 

「ヴンダーを光学で視認! バランへの突入コースです!」

 

「ヴンダー……この数に飛び込むとは狂気に染まるか、いや既に狂気そのものか。だが、ここで潰せば亡き総統への手向けとしても申し分もないィ。全艦、テロン艦を……成敗!」

 

 ゼーリックの命令で多くのガミラス艦から陽電子ビームが放たれる。

 しかし速度に乗ったヴンダーに狙って当たるようなものでもなく、多くの艦が誤射による撃沈という結果を残している。

 

「味方損害拡大!」

「何をやっている! これでは味方の被害が拡大するだけではないか! もっと広く間隔をとれ!」

 

「ならん! このまま一気に押しつぶすのだ」

 

 ゼーリックから出た言葉は、少なくとも戦術とは一切呼ぶことのできないような言葉だった。

「このまま」……つまり誤射が起こることも承知の上で数の力のみでヴンダーを叩くという事。

 

 自分も一応司令官として戦術を学ぶ者としてとても元帥とは呼べない言動だと、ゲールはそう感じた。

 

 

「全艦回頭せよ! 恐れるな、数こそが正義なりィ!」

 

 ゼーリックの指示で、全ての艦がヴンダーの向く方向へ艦首を向けるが、艦の間隔が余りにも狭すぎて、満足に回頭すらできない艦艇が続出してしまう。

 

 


 

 

「主砲火力を前方に集中。側面は今は気にするな」

 沖田の指示で、主砲24門が正面方向を向き、全ての艦艇をその照準に収めた。

 

「前方に敵艦を確認! 数15!」

 

「食い破れ!」

 

 一斉に放たれた三式弾の咆哮は確かにガミラス艦を穿ち、多くの火球を生み出した。

 

 

「敵艦左右に展開! 同行戦を仕掛ける模様!」

「後部甲板VLS装填、完了次第迎撃せよ」

 

「後部装填します!」

 南部がコンソールを操作して火器管制を開き、装填を開始した。

 

 

「エネルギー充填40%! あと8分じゃ!」

「敵艦発砲!」

 

 側面に放たれた陽電子ビームが波動防壁に阻まれ、波動防壁が削られる。

「後部VLSいけます!」

 

「撃てぇ!」

 Wunderも反撃し、後部甲板からミサイルを発射して的確に射抜いていく。

 しかし、中性子性の時と同様に次々と同行戦を仕掛けてきて、波動防壁が一部破られて遂に攻撃を食らってしまった。

 

 

「左舷第2船体艦尾に被弾!」

「ダメージコントロール!」

「機関出力異常なし! こちらは気にするな!」

 

「島、バラン大気圏に突入! 撃沈したと見せ掛けろ!」

 

「了解! 大気圏に突入します!」

 そのままWunderはバラン星の大気圏に突入して、大袈裟すぎる程の量の大気を巻き上げた。

 

 いや、Wunderのサイズを考えると多少大袈裟な方が寧ろ良いのだろう。

 スイングバイの加速を利用して赤黒い大気を大きく巻き上げ、Wunderはバラン星に身を隠した。

 

 


 

 

「ヴンダー、バラン大気圏に突入、撃沈を確認しました」

 

「ヴンダーバランに沈む……これほど物をしとめることが出来なかったとは、狼の名も落ちたものだな」

 

 確実に仕留めた。自分の大好きな数で押しつぶす戦法で、ドメルが沈め損ねた艦を落とした。

 それはある一種の優越感となり、ゼーリックは全てにおいて勝ちを確信した。

 

 

 確約された勝利に高らかに笑う、

 

 だが、正面のスクリーンが急に砂嵐に襲われ、そこから何物かの声が聞こえてきた。

 

 

 

「ご機嫌のようだねゼーリック君」

 

「貴様ァ……!」

 

 デウスーラ一世と共に命を散らしたはずのデスラー総統が今スクリーンに映り、まるで何事もなかったようにゼーリックの演説に対しての感想を述べる。

 

「先ほどは高説を賜り、感銘の至り」

 

「総統閣下!」

 

「なぜ貴様は生きているゥ! 貴様の船は確かに……!」

 

「君も頭の悪い男だね。暗殺計画についてはセレステラが既に掴んでいてね、さてどうした物かと悩んだらクダン君が妙案を出してくれてね、まさに目から鱗だったよ。座乗艦は少々手狭なものとなってしまったが、なかなかにスリリングな時間を過ごさせてもらったよ。感謝するよ?」

 

 デスラー総統の背後に立っているのは、次元潜航艦の艦長ヴォルフ・フラーケン。そう、デスラー総統は暗殺される前に次元潜航艦に移り断層内部に身を隠し、暗殺成功に歓喜するゼーリックを眺めていたのだ。

 

「さて、君の罪状は明確なわけだが、何か言い残すことはあるかいゼーリック君?」

 盤面ひっくり返しの完全逆転。総統暗殺はゼーリックの仕業という事実が全ての艦に伝わり、もはやゼーリックには反撃の手札が残されていなかった。

 

 

 

「貴様……貴様貴様貴様ッ、貴様ァァァアアアッ!!!」

 全て見抜かれていた。そして危機感を一切見せることなく寧ろスリリングだったと感想を返された。

 激昂とともに引き抜かれた拳銃は、モニターのデスラーに向けられそのまま何度も引き金が引かれた。

 

 銃撃でスクリーンが粉々に砕け散り、静かに砕けていった。

 

 

 

「心ある同士諸君!! 吾輩が敢えて逆心の汚名を着てまでしてやったことは! 真の愛国心による物でこの我らの大ガミラスのためであるとォ!!!」

 

 その直後、自身の胴体に鋭い痛みと熱が襲った。そして足元に垂れる自身の青い血。

 背後から撃たれたこと気づいたゼーリックがゆっくりと振り向くと、そこには物凄い形相で銃を構えたゲールが立っていた。

 

「……逆賊め」

 

 ずっと後ろを付いてきていたゲールに撃たれるという事実を受け止めることが出来ずに、首謀者であるヘルム・ゼーリックはこの世を去った。

 

 

 

 

「ゲール少将! バラン赤道上に浮上する物体を確認!」

 

「何だとォ! 艦首をバランに向けろ!!」

 

 

 


 

 

 

「エネルギー充填110%! そろそろじゃ!」

 まもなくエネルギー充填率120%。ショックカノンを極力撃たずに薬室へのエネルギー充填に専念してきた結果、全力戦闘を展開しながらのエネルギー充填を成功することが出来た。

 あとは最大戦速で急速浮上、エネルギープラントに向けて波動砲を発射するだけだ。

「島、最大戦速。バランから浮上だ」

 

「了解! 上げ舵35度最大戦速、ヨーソロー!」

 大きく艦首を持ち上げたWunderは急速にエンジン出力を上げ、バランから急速浮上していく。

 

 

「この船が簡単にやられると思っていたら、敵はこっちを相当侮っているみたいね」

「ああ、覚悟を決めた地球人が何をするかを見せよう。波動砲への回路接続! 強制注入器を起動!」

「波動砲への回路、開きます!」

「強制注入器、作動!」

 

「反転180度、発射口開け!!」

 沖田艦長の指示でWunderの2門の波動砲口がその絞り羽を開く。

 

「同時認証準備!」

『3名の生体認証を確認。波動砲最終安全装置を解除します』

『波動砲対艦攻撃照準プログラムに接続。照準固定します』

「タキオン粒子圧力限界! エネルギー充填120%! 重力アンカー解除準備よし!」

 

 

「発射10秒前! 9、8、7、6……」

 

 

(自分で自分の約束を破るのは、非常に滑稽だ。地球やイスカンダルに負い目を感じてしまうが……全て、逃げない。全員で決めたんだ。これはたった1人の意志じゃない。責任転嫁のように聞こえてしまうしれないが……これが地球の総意だ)

 

 

「3、2、1!」

 

「波動砲、撃てぇ!!」

 

 

 古代が波動砲コントローラーの引き金を力いっぱい引き絞り、Wunderの両舷第2船体から莫大なエネルギーの奔流が吐き出された。

 

 重力収束を無視したその一撃は全ての艦の間をすり抜け、バラン星に突き刺さった。

 

 

 

「重力アンカー解除! 総員衝撃に備え!!」

 反動制御の重力アンカーが全て解除され、Wunderは暴力的な推力に身を任せたままマゼラン側へのゲートに飛び込んだ。

 

 

 


 

 

 

 時は僅かに遡り、Wunderが波動砲を発射したその時、ゲールは、その光景をゼルグートの艦橋から見ていた。

 

「あの大砲か。下手くそめどこを狙って……」

 波動砲の先に目をやると、それはバラン星の中核。自分たちの扱うゲシュタムの門へとエネルギー供給を行うエネルギーコアだった。

 

『こちらバラン鎮守府管制室!! バラン星エネルギーコア制御不能! まもなく爆縮、崩壊します!!』

「ゲール少将! マゼラン方面ゲートに異常を感知!」

 通信機から飛び込んできたのはエネルギーコアの崩壊寸前の一報、そして自分たちの交通路である超航法ネットワーク崩壊のお知らせだった。

 

 

 小宇宙に匹敵するほどの圧倒的なエネルギーはエネルギーコアの崩壊を強制的に促し、バラン鎮守府には強大な重力震が走っている。

 脱出しようにもすぐには艦艇は動かせず、たとえ離床しても強大な重力に捕まり中心核に引き摺り込まれる。

 単純に正面突破を仕掛けてきたと勘違いしたゲールには、彼らの狙いを最後まで読み切ることは出来なかった。

 

「てっ撤退ぃ!! 直ちに現宙域から離脱せよ!!」

「しかし、旗艦が宙域から離脱すると指揮系統に深刻な混乱が!!」

 

「死にたいのか貴様らはぁ!!」

 

 ゲールの指示で全ての艦が一斉にバランに背を向けて離脱していく。

 しかし、タイミングが遅すぎた。

 撤退行動に入った艦艇をあざ笑うかのように爆縮が起こり、その余波で艦種を問わず多くの艦艇が爆炎を上げることもなく、数瞬遅れた艦艇は風に揉まれる木の葉の様にバラバラに分解されていく。

 

 

 Wunderの放った覚悟の一撃は確かに目標に突き出さり、彼らの進路を砕いた。

 

 


 

 

「うう……みんな大丈夫か?」

 

「何とか……」

「絶叫マシンの方がまだいい」

「それは同感。本当に吹っ飛ぶかと思った」

 

「対ショック対閃光モードを解除する。……見てくれ」

 波動砲の猛烈な反作用から復活した真田が全周スクリーンの対ショック対閃光モードを解除した。

 

 一瞬で開けた視界一杯に映る光に一瞬目が眩む。

 その視界に映るのは、宙一杯にあふれる星の輝きだった。

 背後には亜空間ゲート。そして正面にはまだ見えない彼方目的地、いや、目の前に大マゼラン星雲がある。

 見えない目的地を目指した大航海。遂に、その目的の星雲が眼前に映る。

 

 戦闘艦橋の面々からは声が上がり、各々が決して小さくない喜びを上げる。

 

 

 

「やっと目的地が見えた……長いようで、短いような」

「……綺麗ね」

 ズレた返答に苦笑いしたリクだったが、大マゼランに目が釘付けになっているハルナを見て考えるのをやめた。

「ああ、綺麗だ」

 

 

 

「「ただいま、母なる星の海よ」」

 

 

2199年5月14日

Wunder、バラン星を突破

大マゼラン星雲外縁部に到達




バラン星突入!

創るの大変ですし、そろそろ次回作のシナリオを考えないといけないので、少し間が開きました。
という事で、第六章最終話です
この話書き始めて早10か月です
下手したら1年以上かかることになりそうで冷や冷やしています
(星巡る方舟編入れよっかな……)

第六章、本当に頑張りました。特に「夢の跡地に出来たもの」は様々な人にご協力いただきました。正直言って、「あの話ってちゃんとできたかどうか」聞いてみたい所存です。

第七章、遂に七色星団決戦です。wkwk
アスカが最初で最後の大活躍します。作者はガンダムも好きなので、主の独断で決めたガンダムの名シーンをやります。

大立ち回りさせてあげたい主でした。

ではでは、サイドストーリーでまた会いましょう
(@^^)/~~~

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