宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
大改編して再構成したので、かなりのボリュームになりました。
では、お楽しみください「虹と戦火 後編」です
『意外デスネ。マサカココマデ簡単ニ中ニ入レルトハ』
「如何にも民間用って感じね。使えると思ったからそのまま持ってきた。時間がなかったから改修をせずにそのまんま……かしら?」
大型弾頭の内部にいとも簡単に侵入した新見とアナライザーは、内部の電子制御に侵入してタイマーの解除に取り組んでいた。
軍用にしては杜撰すぎる対策に疑問を抱きながらそう解釈した新見は、ヘルメット越しに険しい顔をしていた。
『合理的解釈デス』
「敵も追い詰められているのよ。こっちも一緒か」
見たことのない数字がタイマーに表示されている。PDAに繋いで地球人にわかるように表示させると、残り10分程度しかない。
「巻いていくわよ」
『了解デス』
「艦橋、ガミラス兵を確認! 数3! 火器を所持!」
保安部と古代が第19区画に到着したその瞬間、マシンガンらしき銃声に身を隠した。
「加勢します!」
佐渡先生と原田を引き連れて、未だに片腕を吊っている篠原がマシンガンを抱えてやってきた。
その後方の第18区画の方に目をやると、左腕を真っ赤に染めて浮いている人と、それにしがみ付いている人の姿があった。
よく目立つ白い長髪に血がついているその状態を見て、相当な重症であると感じた。
たまらず古代はその2人に駆け寄った。
「暁さん!! 何があったんですか?!」
「…………っ!!」
ハルナはその重症の人に胸元に顔を押し付けて、古代の呼びかけに応じずにひたすら首を横に振っている。
「死なないで……お願い……死なないで……!」
あらゆる呼びかけに応じなくなっていて、古代はその重症の人の顔を確認した。
「睦月さん……?! 佐渡先生! 睦月さんが重症を!」
『急がんかい! 助からんくなるぞ?!』
しがみ付いたまま離れようとしないハルナをなんとか強引に引き剥がし、佐渡先生と原田に2人を引き渡した。
ハルナの方は怪我をしていないようだが、ショックが強すぎて何も見えなくなっている。
現場を篠原に預けていたので、引き渡しが終わってそっと角から頭を出して状況を確認しようとするとと、敵兵の威嚇射撃ですぐに頭を引っ込める羽目となった。
しかしその一瞬だけ見えた人に、古代は驚愕することとなった。見覚えのある金髪に動揺を隠せない。
「森君っ?!」
意識を失っていて、敵兵に拉致されそうとなっているのはまさに森だった。
マシンガンの掃射に阻まれ、助け出すことさえできない。
敵兵がガミラス語のような言葉で何か叫んでいて、その後に森を抱えている兵が奥に走っていった。
「先に行けって言ってるのか?」
掃射の僅かな隙をついて、古代も自身の拳銃で応戦していく。
自信と何ら変わらない容姿をしていて、撃つことに抵抗を覚えてしまうが命中させる。
篠原もサブマシンガンを掃射して敵兵の一人を抑えた。
「ガーレ・ザルツ!」
不意にそのような言葉が聞こえて、それと同時に聞きなれない電子音が響き始めた。
でもそれを直感的に危険だと感じ取った古代は、全員に伏せるように指示をする。
その数瞬後、爆発音とともに血溜りのようなものが浮かんでいた。
爆発の炎を消化するためにスプリンクラーが作動して、それと同時にダメージコントロール用隔壁が行くものを全て阻むように閉鎖される。
さっきの爆発は森が連れ去られた方向から来た。向こう側にいる森には無情にも大きく厚い壁に阻まれて、声すら届かない。
「雪、雪っ!」
古代は居てもたってもいられなくて第一格納庫に走った。
「第一! ゼロをスタンバイだ! 弾種は問うな急げ!」
「ハイニ、急速浮上。回収するぞ」
「アイサー! メインタンクブロー急速浮上!」
次元潜望鏡から見えた光景にほくそ笑むフラーケンが浮上命令を出す。
コバンザメ……FS型宙雷艇がWunderから離脱していく。
あとはそれを回収してさっさとこの宙域から離脱するのみ。
「ドメラーズに送れ」
「猟犬より暗号入電。コバンザメが目標を確保」
「シュデルグから、攻撃隊の発艦要請が来ています」
「削岩団が起爆すれば、ヴンダーを沈めることが出来るかもしれない。だが戦場に絶対はない。雷撃機を出し、全力で叩け。第三次攻撃隊発艦せよ!」
ドメルの指示でシュデルグとナグルファルからドルシーラが発艦して、全長20mというその身で抱えるほどのサイズの魚雷「Fi.97型魚雷」をWunderに運んでいく。
それらもまたドメラーズ三世の生み出す空間の歪みに身をゆだねて目標宙域に飛んだ。
_____
『アルファ1緊急発艦!』
「どうすれば……! どうすればっ……!!」
雪が攫われた。何故攫われたのか全く分からない。でもどうしても救いたい。どうしても取り戻したい。
改良されたゼロ改1号機を、格納庫から直接発進させて次元潜航艦を追尾した。
ミサイルを使って次元潜航艦を沈められるかもしれない。
足止めくらいはできるかもしれない。
でも、同時に殺してしまうかも入れない。
それが操縦桿に取り付けられている引き金を途方もなく硬い物にしてしまい、自分はただ追いかけるのみになってしまう。ただ敵の背を走りながら見るしかできない。
ただ何も出来ずに見ているまま、次元潜航艦は次元の狭間へと消えて行ってしまった。
「雪ぃぃぃ!! うああああぁぁぁぁ!!!」
怒りに染まり、全身に憤怒の感情を滾らせてしまった古代は、今眼前で繰り広げられている命の光へ飛翔した。
機首の赤が、怒りの色へとすり替わってしまった。
______
「空間波動エコー感知! 両舷上空多数!」
「対空機銃斉射開始!」
沖田艦長の指示で、MAGIシステムによる制御が続く耐空機銃が個別に旋回と仰角を調整して、最大火力で斉射を開始した。
「熱源確認! 数……80!!」
「……! 両舷展望室観測班直ちに退避!」
観測班から届いた機体の外見を見て、沖田艦長は脊椎反射で指示を飛ばした。
その画像に映っていたのは明らかに普通の航空機ではない。巨大な魚雷を腹に抱えた雷撃機を見て、その機体数を聞いて、直ちに退避させる決断に至った。
しかし対空機銃の基数には限りがあり、全て狙い撃つことは出来ない。
1機落としている内に1機がその巨大な魚雷を打ち込んでくる。
「総員直撃に備えろ!」
着弾は避けられない。相当の衝撃を覚悟した。
その瞬間、着弾直前にどこからか機銃が発射され、爆散した。
それはスクリーンに高熱原体として描写され、それが発射された方向から一つの熱源が急速移動していた。
『間に合った! こちらブラボー隊! これより防空任務に移る!』
通信に加藤が割り込み、全周スクリーンに映る熱源が一気に増えていった。
「IFF受信! 航空隊確認!」
敵の戦闘機体に足止めされていたコスモファルコンの大群が一気にWunderを取り囲んだ。
『足止め食らってたが式波二尉が全部引き付けてる! 何機か落とされたがギリ行けるぞ!』
アスカが緊急発艦した後、すぐにコスモファルコンが足止めされている宙域に飛んで、敵戦闘機のヘイトを全て一手に集めて今大立回りをしているという事だ。
『そっちの機銃で上からのやつを落とせ! 腹に食いつくやつは俺らで全部落とす!』
対空機銃はその構造上俯角を取ることが出来ない。上からの攻撃を落とせても舷側側からくるような攻撃には弱い。
かつての洋上戦艦も喫水線の辺り、もしくは喫水線よりも下への攻撃は「ライフで受ける」と言う対処とは言えない対処をしていた。
しかし、宇宙空間では全方位防御を実現することこそ、船の生存率を上げられる方法の1つだ。
「南部、対空の仰角を30度以上にして対空戦闘を開始しろ。航空隊が対空の範囲外の魚雷を全て落とす」
「了解! 仰角下限値を30に固定、掃射開始!」
航空隊の防空でいくらか数を落とせているが、雷撃機の数はこちらのコスモファルコンを圧倒している。
撃ち漏らしたものが両舷部に着弾していく。
全長20mの魚雷は、一般的な艦船なら一撃で撃沈させることが可能な破壊力を誇る。
それらが舷側に次々に着弾していき、一部が装甲を完全に破壊して船内にも被害が及ぶ。
その爆発が退避中の索敵班を巻き込み、索敵班との回線から悲鳴が響き渡る。
「こんなのって……」
「なんでここまでやって来るんだよぉぉ?!」
戦闘艦橋にも響いてくる震動に相原が音を上げる。本来戦闘艦橋は頑強な構造をしていて、外部からの音が響き様なことはない。と同時に内部の音が漏れるようなことはない。
しかしその外部の音が回線を通して聞こえてしまい、耳を塞ぎたくなるような悲鳴に曝されてしまう。
「あっちが敵なんだから仕方ないだろ! 今俺たちに出来るのは生き残ることだけだぞ!! それが嫌なら逃げろよ!!」
それを怒鳴りつけるようにして南部が鎮め、自身の受け持つパルスレーザーをさらに操作していく。自身のパルスレーザーで撃ち落とせていない以上、自身のミスで人が死んでいることを否応なしに実感してしまい手元が震えかける。
死者に頭を下げることは後で幾らでもできる。ならば今は、今を泣くよりも今を抗うしかない。
「艦長! 舷側の通路をすべて閉鎖して安全な道のみにしてください!」
「舷側ダメージコントロール降ろせ、退避中の索敵班を中央のの通路の誘導しろ! 相原、索敵班に通達!」
「りょっ了解!」
「隔壁閉鎖開始! 直通路形成!」
それに呼応した真田の判断でダメコン用隔壁を必要な分のみ降ろし、索敵班退避用の通路のみを作成していく。
隔壁閉鎖中にも魚雷は舷側に命中していき、舷側に大穴も空いていく。
「博士! パルスレーザーのブラッシュアップは?!」
「やっているけど間に合わない! 敵の雷撃密度が私の予想を超えている!!」
赤木博士の即席対応さえも間に合わない。航空隊も多数の魚雷を機銃で排除しているが、それでも何発も命中してしまう。
「真田さんちょっとコンソール貸してください考えあります!」
そう言うなりマリがコンソールを借りて重力子生成転送システムを立ち上げた。
激震は、まだ続いていく。
「こいつら数だけはっ……!」
加藤が機首を急反転させて機銃で魚雷を一掃する。体にかかる急激なGに唸りながら、すうっと気が遠くなるような加速度に身を持たせ、敵の雷撃機を追尾する。
幸いに敵の雷撃機は鈍足で回避能力に優れているとは言い難い。囮としてつかまされた敵戦闘機に比べたら撃墜しやすい。
だがその性能差をひっくり返すことの可能な数と言う力が、その可能性をことごとく打ち砕いてしまう。
舷側に魚雷が突き刺さり、そこから黒煙と火の花が咲き乱れる。そして花は一瞬で消え去り残るのは船体に開いた痛々しい大穴。
時折被弾箇所からスパークが走り、決して小さくなんかないダメージを受けてしまっていることが、語られなくても分かってしまう。
『隊長! この数はマズいです!』
「わぁってる!!」
更に加速をかけて魚雷を撃ち落としていく。今一番危険なのは雷撃機ではなくあの巨大魚雷。発射される前に機体ごと落とし、発射されたら命中する前に落とす。
だがそれでも航空隊は多数が生き残り、今なお20機以上がWunder周辺を飛び回り魚雷や雷撃機を落としていく。
一機一機がミサイルを撃ち放ち、魚雷を迎撃、逃さず雷撃機を蜂の巣にして、物言わぬ鉄の塊に一瞬だけ変えてすぐに一瞬の恒星へと姿を変えていく。
ドメルは、かつて「神殺し」と言う言葉を作戦名にしていた。Wunderを「獣ではなく神」と形容したからこそ命名した。
その神の頭上で繰り広げられる命のやり取り。一瞬灯った恒星は、その人の命の最期となってしまう。
『一本取り逃した!!』
「くっそぉぉ!!」
新兵の報告を受けて操縦桿を思い切り倒して魚雷を迎撃しに行くが、悲しくも距離があと一歩届かない。機銃が辛うじて命中したが、それでも誘爆する寸前までしつこく突き進んでいく。
「マズい!! 艦橋に?!」
艦橋直撃は避けられない。航海艦橋に命中したら最悪の場合戦闘艦橋にも直接影響が出てしまう。
(ぶつけてでも止めるっ!!!)
最悪の場合は機体ごと魚雷にぶつけて排除する。母艦を守ってこその航空隊だ。仲間が帰るべき船を守ってこその航空隊だ。
腕利きの航空隊は自分以外にもまだいる。後は、彼らに任せても、この先の航海に何ら支障はないだろう。
最悪死んでも、問題はない。
(篠原、沢村、玲……後、頼むわ)
『隊長、ありがとうございました……』
その通信の直後、一機のコスモファルコンが魚雷に特攻した。目の前で散った機体には、新人の航空隊パイロットが乗っていた。
そんなまだ道半ばな新人に命を投げ出させてしまった。
特攻という選択肢を選ばせてしまった。
「……お前ら何が何でも落とせぇえ!!」
そう通信に怒鳴り散らし、自身も推力を限界まで酷使して雷撃機の群れに突っ込んでいく。
敵機も迎撃用の小ぶりな機銃を連射してこちらを追尾しているが、今の加藤は歯牙にもかけない。
自身を擦り潰すかのような加速度で雷撃機の背後、側面を取り、機関砲を連射して火だるまに変えていく。
加藤の声に呼応した玲もゼロ改2号機のマルチロックオンを起動する。
「スタンバイ!」
玲の音声認証で自身の視界の目の前にホロスクリーンが薄く表示された。
そのスクリーンに今眼前に映る魚雷、雷撃機、友軍機が全てマーキングされ、友軍機以外のマークが一斉に赤に塗り替わり、その全てに「lockon」と表示された。
「乱れ撃てっ!」
そして玲の意志でゼロ改2号機にマウントされている残り全てのミサイルが一斉に放れ、ロックオンされたすべての目標が背後からミサイルに刺し抜かれて爆炎となり果てた。
その背後から古代のゼロ改が同じシステムを起動した。
「スタンバイッ!!」
眼の色が変わり敵を落とすことしか考えられなくなり、目の前のホロスクリーンに映るすべての敵をロックオンした。
「落ちろっ!!!」
勢いよく引き金を引き絞り、弾種を問わずにマウントさせたミサイル12発を発射した。
それらは確実に敵機を捉えて食らいつき、一瞬で敵機を一瞬の恒星に変えてしまった。
「お前らがっ……! お前らがっ!!」
怒りに任せて残りの機体を、ゼロ改の機銃4門を連射して蜂の巣にしていく。
最期にゼロ改の機関砲をとどめに撃ち込んで、たった一機に対して過剰とも呼べる火力を叩きこんだ。
それだけでは止まらず、次の機体へと機首を急速反転させて機銃で穴だらけにしていく。
それは、ゼロ改の銃身の放熱が追い付かなくなるまで続いた。
クライツェは失念していた。敵はバルグレイからの戦闘機隊が引きつけるはずだと、そう思い込んでいた。
しかし、今目の前にはテロンの戦闘機がWunderの周囲を囲み、鬼神のごとく飛び回り魚雷を落としている。
彼は知らないが、テロンのたった1機の「戦闘機のような何か」が、バルグレイから発艦したデバッケ40機のヘイトを全て被って全機を引き付けている。
だからWunder航空隊は、「雷撃隊にとっては最悪の想定外であるドッグファイト」に持ち込めていて、雷撃隊はその最悪の中で雷撃と敵機からの攻撃の回避を同時に行わなければならない。
彼らは時に、手段を選ばず機体を魚雷に特攻をしかけている。
明らかに「本気度」というものが違う。
その最悪の雷撃戦が進むにつれて、僚機が瞬く間に火の花へと姿を変えていく。
それ即ち「死」。最期に散らした花でさえ、生者を慰めるものにすらならない。
「私は……戻るワケには行かないのだ」
ドルシーラの操縦桿を思い切り右に倒し、右方からの急降下雷撃を仕掛ける。
しかし、未だに数を残ししぶとく稼働し続ける対空兵装の銃身がこちらを捉え、死を冷たく宣告する。
それは放たれ、クライツェのドルシーラは赤い雨に消えた。
唯一、撃墜の間際に発射した魚雷が、Wunderの対空兵装の一部を破壊できたのは、彼が一矢報いることが出来たと言えるだろう。
火が、散っていく。戦場の宙は、彩ってはいけない色で彩られた。
「閣下! ドルシーラ隊の通信途絶! ……全機、落とされたものかと」
ハイデルンが険しい顔をしてドメルに報告した。
作戦が狂い、ドメルも苦しい顔をした。ドルシーラ全機撃墜の報が届くまでに、ドメルは戦場から届く報に耳を傾けて、遥か彼方で行われる戦闘を感じていた。
……想定外の山だった。
外部カメラらしき部分を潰しても特殊削岩弾を迎撃、デバッケ部隊がたった一機の「白と赤の戦闘機らしき何か」に撃滅された。
そしてWunder撃沈の手札でもあったドルシーラ隊の雷撃攻撃も、テロンの戦闘機部隊の鬼神のごとき迎撃行動で撃沈には遠く及ばない。
「削岩弾起爆まであと何秒だ」
「起爆まで、残り240ゲックです!」
「ランベアに帰還したスヌーカ隊に通達。全機爆装して待機。特殊削岩弾起爆後に万が一撃沈が確認できなければ第4次攻撃隊としての出撃を命じる」
指揮官が戦場で狼狽えてはならない。念の為用意していた別案で繋いで、自身が有利な状況を続ける。
「ダロルド、ナグルファルに通達。スヌーカ隊の攻撃が終了次第砲雷撃戦に移行する。戦闘甲板を準備させろ」
「ザーベルク!」
「閣下。まさかとは思いますが、彼らは起爆装置を解除したのでしょうか……」
「……民間からの接収品で侵入対策は皆無に等しい。ハイデルン……全火器に火を入れろ。4000ミリ砲も撃てるようにスタンバイさせろ。奴と砲火を交える時は……こいつを使う」
「全艦砲雷撃戦用意! 全ての攻撃システムを立ち上げ砲撃態勢を整えろ! 火器管制! 艦底部4000ミリ用意!」
「了解! 4000ミリ陽電子カノン砲システムスリープからノーマルへ! 陽電子ビーム発振システム第一段接続!」
火器管制担当の操作で、ドメラーズの艦底部に懸架された巨砲が目を覚ました。
4000ミリ陽電子カノン砲。撃てるのはいいのだが、陽電子ビームの発振システムが一発撃つだけでダメになるという「産廃の烙印を押された」巨砲である。
しかしドメルはそれに目を付け、攻撃隊で勝利を決めれない場合の切り札の一つとして徴用した。
問題となっていた発振システムの脆弱性は、「発振システムを幾つも用意してリボルバーの弾倉の様に装填。一発撃つごとに弾倉を回して発振システムを交換する」という力技で解決した。
その巨砲は、本来は別の決戦兵器用として試作された大火力砲なのだが、本人はそのことを知らない。
「起爆までのカウントは?」
「残り130ゲックです!」
「解除コード解析完了、停止!」
起爆装置と格闘していた新見とアナライザーは、起爆ギリギリのタイミングで起爆装置を解除、Wunderは何とか大損害を防ぐことが出来た。
地球換算で残り時間10秒ほど。少しでももたついていたらあっという間に過ぎていく時間で、ギリギリの戦いであったことが伺える。
そして大型弾頭の掘削部の根元が薬室から顔を覗かせていない。万が一根元まで侵入されていたらたとえタイマーを停止させていても排除までは出来ない。
「ふぅ……ギリギリだったわね」
『グッジョブデス』
大仕事を終えてくたびれた様子の新見を見るなり、自身の器用な五本指でサムズアップをする。
人間味にあふれたその行動から新見も思わず笑みが零れる。
「新見より艦橋。起爆装置、解除しました」
『ご苦労。よくやってくれた』
「これより弾頭の排除作業を開始します」
『新見君、弾頭は掘削機能を持っているから、掘削部を逆回転させれば問題ないはずだ』
真田が通信越しに、弾頭解析で得た知見を新見に伝えた。だがその声は明らかに動揺していた。
「先生、何かあったんですか?」
『……睦月君が、重傷を負った。佐渡先生が今緊急処置を行ってくれているが……厳しいかもしれない』
「……」
自身が知る限りめったに動揺を見せなかった真田がここまで動揺していた。
それが新見にも少なくない動揺を与え、ハルナから受け取った銃を強く握った。
もしこれを受け取らなかったらハルナはリクを救うことが出来て、リクは重傷を負わずに済んだかもしれない。
『新見サン。後悔……トイウモノハ後カラデモ出来マス。睦月サンハ亡くクナッテハイマセン』
アナライザーの言葉に、一気に現実に引き戻された。
機械であるが同時に人間と同じように考えることが可能な彼は、新見の抱いた感情を理解していた。
彼なりに人を理解して、感情を理解してきた彼は、こうしてかける言葉を見つけることが出来た。
「……そうね。あとはこの邪魔な物を排除するだけね」
『オ任セクダサイ。弾頭ノ内部システムハ、掌握済ミデス』
今度は自信の両手を閉じたり開いたりしてジェスチャーでアピールした。
やはりアナライザーの解析能力は侮れない。
『MAGIニハ及ビマセンガ、私ダカラ出来ルコトハアルノデス』
なんとアナライザーはMAGIに対抗意識を燃やしていたのだ。計算能力はMAGIの圧勝だが、即応性や「自身が現場に行けること」はアナライザーの圧勝。
本人曰く、「一勝一敗」とのこと。
『新見サン、行ッテクダサイ。残リハ私ノ仕事デス』
「分かったわ。お願いするわ」
『了解デス』
すかさずアナライザーは指先からワイヤー上の端子を取り出し、弾頭のシステムに接続。掘削部の回転方向を逆転させた。
その直後に掘削部が回転を始めるが、自身の高機動用スラスターを噴射して即座に脱出。新見の待つもとに飛んだ。
「艦橋、弾頭の逆進を確認しました」
『直ちに波動砲制御室から退避だ。気圧が全て抜けているが、念のためだ』
「了解です。アナライザー!」
『任務完了デス』
顔を覗かせていた大型弾頭の掘削部が瞬く間に高速回転を始め、元来た道を後退していく。
制御室に貫通してきた時とは裏腹にスムーズに移動した弾頭はあっという間に波動砲口まで後退していく。
__________
「弾頭起爆まで3、2、1、0」
ドメラーズ三世の艦橋で、特殊削岩弾のカウントダウンが読み上げられる。基本的に通信やレーダーが効かないこの宙域では遠隔起爆やリアルタイムでのタイマー表示が不可能となっている。
だが、起動スイッチを押したタイミングを次元潜航艦が拾って、それを暗号通信でドメラーズに送ることで、正確なタイマー秒数をドメラーズでも確認することが出来るようになっている。
「光学観測! 熱源はどうだ?!」
「前方射程圏外の空間を観測! 急げ!」
艦橋から観測班へ命令が飛び、すぐさま光学観測が行われる。
起爆していれば相当な熱量が観測されるはず、結果はすぐに出ると思われた。
「……ランベアに通達。第四次攻撃隊発進準備」
だが、ドメルはその結果を待たずに次の指示を出した。
「閣下……?!」
「恐らく起爆していない。まさか本当に手動での起爆解除をしてしまうとは……バルグレイとシュデルグ、バルメスに通達。現時刻をもって作戦宙域からの撤退を命ずる。砲撃戦に移行すれば、空母を守備したまま攻撃を行う事は困難だ」
ドメルの命令を受けて、ドメラーズ三世に着いていたシュデルグと、第一次飛行隊を展開したバルグレイが戦線を離脱、七色星団の迂回航路を利用して本国への帰還の途に就いた。
「艦隊陣形を変更する。ランベアを最後方に配置、ドメラーズの正面装甲で全ての砲撃を受けきる。カレル163では型破りな方法で一本取られたが、お返しと行くぞ。4000ミリ砲、準備はいいか?」
「砲身の最終リモートチェックは完了しております。一発かましましょう、閣下」
「そうだな。物質移送機スタンバイ、転送完了次第、4000ミリ砲へのエネルギー充填に移行せよ」
「「「ザーベルク!!」」」
ドメルの指令で全ての部署が動き出し、艦橋部の物質移送機が再び淡い光を放ち、チャージを始めた。
「空間波動エコーきます!」
「今にゃ!」
コンソールに空間波動エコーの発振地点を大まかに入力すると、そのままエンターキーを押した。
Wunderのアンノウンドライブがまばゆく発光すると、Wunderの周辺の景色が大きく歪んだ。艦橋からその光景を見ることは叶わないが、観測班からその光景を映し出した画像が転送されてきた。
重力変異。敵の航空機隊転送がワープによるものであるならば、重力振が感知されないのはおかしい。そこで気が付いたのが、次元の重複領域という物。
波動エンジンでも起こそうと思えば起こせる現象で、発生させた場合、周辺重力の際によって重複状態が乱れる可能性がある。
そしてWunderのワープも、周辺の重力に影響されて違う座標にワープアウトすることもある。
その一番の証明が、カレル163である。
カレル163ではその周辺の重力の偏りを敵に読まれて出現座標を読まれた。
つまり、「重力が乱れている空間ではまともに転送できないのではないか? そして重力の強さと転送座標さえわかればこっちから転送座標を変な場所にすることもできるのではないか?」と、マリは結論付けた。
その発想は的中。重力が引っ掻き回された宙域に転送された敵雷撃隊は滅茶苦茶な陣形となっていて、なかには転送座標が重なってしまい機体の横っ腹に他機の機首がめり込んだ状態の機体もいた。
「いよっしゃぁ!!」
マリが大きくワザとらしくガッツポーズをするが、内心ゾッとしていた。
少しでも計算を間違えていたら、転送先がWunderの艦内となっている可能性もあった。
そして少々「らしくない」ガッツポーズも、リクが倒れたことでの動揺を隠したいマリの心の表れだった。
「敵弾頭、波動砲口からの後退を確認!」
『航海艦橋観測班より戦闘艦橋へ! 正面に艦影3!』
索敵班から連絡が入り、いまだ真っ暗なスクリーンにライブ映像が表示された。
そこには、嘗てカレル163で互いに砲を放った白い超弩級戦艦の姿があった。
だが前回とは違うのは、艦底部に謎の巨砲を懸架している。
「何なんですかアレ?!」
「口径……4000ミリ。波動砲と同サイズの陽電子ビーム砲だ」
辛うじて冷静さを保つ真田の口から語られたのは、とても聞いたことにない口径サイズだった。
「……航空隊を大至急収容しろ。砲撃戦に移行する」
生き残った全てのコスモファルコンに指示を出し、第二格納庫のハッチを開放した。
かなりの数が撃墜されて、Wunder周辺で防空を行っていたころよりも明らかに数が少なくなっていた。
「航空隊帰投しました。未帰還……13。出撃したEURO2との信号も途絶してます」
未帰還者のほとんどは、敵雷撃機に撃墜されたのではなく、Wunderに直進する大型魚雷を撃墜するために自ら特攻と言う手段を選んだ者たちであり、彼らの決断がなければWunderは現状よりも酷い損害を被っていたことだろう。
『こちら100加藤! 聞こえるか?! EURO2発見!』
加藤の怒鳴るような声が戦闘環境に響き、加藤のコスモファルコンからの映像が全周スクリーンに小さく投影される。
そこに映っていたのは、片翼がちぎれ、推進ノズルから黒煙を吐きながら、姿勢制御しかできないスラスターで懸命にWunderに近づいて来るEURO2だった。
「加藤機! 式波機との通信は可能か?!」
『ダメだ! 通信システムそのものが死んでる可能性がある! 横付けして確認する!』
たった一機で40機の敵機の群れに飛び込み生還は絶望的な戦場で全てを撃滅して必死に着艦しようとするEURO2は、今まで見せなかった姿を見せながら必死に近づいてきている。
『艦橋! 式波二尉の生存を確認!! 医療班を用意してくれ!!』
「了解しました!! そのまま第3格納庫に機体を回してください! そこで二尉を搬送します!」
アスカ生存の一報に艦橋がほんの少し明るくなるが、12機と言う大きすぎる損害に雰囲気が押し殺される。
「敵弾頭、放出されます!
真田が弾頭の交代状況をモニターして、波動砲口をズタズタにした弾頭が完全に排出されたことを確認した。
「太田、イオン乱流の本流は特定できたか?」
「はっはい!」
「よし、回避行動。取り舵40第一戦速」
「しかし、そちらにはイオン乱流の本流が!」
「飲み込まれれば、この船でも航行不能になります!!」
沖田艦長の示した方向には、太田が特定したイオン乱流の本流が待ち構えている。そこは荒れ狂うイオンの渦で、飲み込まれれば船体にダメージを受けてしまう。イオンと言うのは一応荷電粒子の事で、現にこの宙域でもある程度の濃度が確認されている。
しかし本流の濃度はこれの比ではなく、波、渦と形容した方が良い。
そんなものに巻き込まれれば脱出は至難の業であり、あっという間に船体と機関にダメージが蓄積されていき、船はあっという間に物言わぬ鉄の塊となる。
「命令が聞こえんのかァ!!」
しかし沖田艦長はそれを一喝して再度命令を飛ばす。
「はっはいッ!! 転進取り舵40!」
島が操艦桿を左に倒して、Wunderはその横っ腹を敵に見せる形となった。
「太田、放出した敵弾頭の予測位置を砲雷長にに送れ。南部、敵艦隊との軸線に乗ったときにこれを叩け」
「了解!」
「当ててくださいね? 先輩!」
「任せろ……! 俺は大砲屋だ」
後手に回っていたWunderにやって来た攻勢に艦橋は一種の高揚に満たされ、無事な第2主砲がその砲塔を機敏に回頭させた。
「第2主砲観測班! 観測画像送れ!」
南部の指示で第2主砲に詰めていた観測班からリアルタイム映像が転送された。
「位置修正誤差修正左に4.8度! 仰角を2度に修正! いいか! 一門で精密狙撃だぞ!」
ショックカノン一門での精密射撃は艦橋側のまともな環境情報なしで迅速に準備が行われ、南部のコンソールにはカーソルに重なった敵弾頭が表示された。
「撃てぇ!!」
第2主砲から反撃の火砲が放たれ、それは確かに敵弾頭を貫いた。
「転送位置に大幅な誤差を確認! 第4次攻撃隊壊滅です!」
「転送座標宙域に異常な重力変異を確認!」
手品の種が割れた。だから対策された。その結果、第4次攻撃隊の半数以上が自滅させられた。
「攻撃中止。生き残っている機体は直ちに帰還させろ……」
Wunderの最大最強の切り札としてドメルが危惧していたのは重力。
あらゆる状況で全てに平等にかかる重力という物を、Wunderは自由に行使できてしまう。
それは艦内の慣性制御に始まり船そのものの航行まで、そして今回見せた「物質移送機転送先の妨害」。あまりにも高いWunderの能力に、ドメルは敵の力量を見誤っていた。
だがドメルは見抜いていた。このほどにも船の性能が高いのは見て分かったことなのだが、それを利用する乗組員の創意工夫の能力の高さが、こちらの戦術をぶち壊してきた。
「テロン人……己の慢心がこの現状を呼んだか。ランベアは残存する第4次攻撃隊の回収に向かわせろ。ドメラーズとダロルド、ナグルファルで砲撃戦を展開する。ランベアの攻撃隊回収の時間稼ぎと並行して砲撃で叩く」
「手痛い仕返しでした。まさかカレル163の時の手段を応用してやり返されるとは」
「目には目を歯には歯をだ。気象長、操舵士。2時方向のイオン乱流に気を配れ。あれに飲まれれば命はないぞ」
全ての航空機を実質失ったといっても過言ではないドメルは、Wunderに対しての砲撃船に移行することとなった。
「4000ミリ砲エネルギー充填開始!」
「4000ミリへの回路開きます! ゲシュタム機関出力上昇!」
「陽電子加速システム蓄積中現在29バーゼル!」
「撃鉄システム起動! 発振システムと接続!」
発振システムのシステムが実働可能状態に移行して、薄い桃色の光を洩れさせる。
「目標、テロン艦ヴンダーに固定!」
「陽電子加速システム蓄積中現在54バーゼル!」
「正面に高速で航行する物体を確認! これは……特殊削岩弾です!!」
「全艦全速急降下! 回避行動!!」
特殊削岩弾の激突を回避するために全速で急降下を行うドメル艦隊。しかし弾頭は遥か彼方からの狙撃によって爆かく発を起こし、艦橋は爆発の煙で視界を奪われた。
「視界ロスト!」
「赤外線観測! 弾道から位置を予測しろ!」
弾頭から粗糖な距離があるはずなのだが、それでも狙撃してきた。
それがドメルの戦闘本能に火がつけてしまった。
「予測方向に砲塔を指向! 全門斉射ァ!」
「高熱源体を観測! 敵弾頭狙撃に成功しました!」
「航海艦橋観測班、爆発地点を観測!」
『やってますが、爆煙が酷く視界不良です!』
「全速急上昇、今の1射で位置は割れていると思え!」
「了解! 全速急上昇!」
沖田艦長の指示でWunderが急速上昇をかけて、その巨体では考えられない速度での上昇を披露した。
その直後に敵艦の陽電子ビームが爆煙越しに放たれ、元いた地点を貫いた。
「下げ舵80! 上空から砲撃を行う! 熱源位置は?!」
「敵艦隊最前列に1200m級の反応1、400mの反応2。そして艦隊とは別の位置に400m級の反応が1です!」
「南部、左舷第2主砲塔右舷第2副砲は敵旗艦右舷に照準。第3第4は後続の反応を狙わせろ」
「了解! 各砲塔制御室に通達する! 艦橋からの射撃管制が不能である以上、各砲塔での直接照準射撃を許可する! 第2主砲第2副砲は敵旗艦左舷を集中砲撃、第3第4は後続の敵艦の甲板を狙え!」
南部の指示で、まだ無事な第2から第4主砲と右舷に鎮座する第2副砲が回答を始め、その砲身をドメラーズ三世とダロルド、ナグルファルに向けた。
『2番主砲準備よし!』
『3番準備よし』
「4番よし!」
「2番副砲よし!」
「全砲門開け! 撃てぇ!!」
南部の指示でWunderの前方指向可能な主砲が一斉に火を噴き、全てが敵艦に命中。熱源反応にも変化が見られた。
『弾着確認! 敵艦回頭を確認! 迎撃態勢に入ったものと思われます!』
『左舷アレイ観測班から一報! 敵艦から大量のミサイル発射を確認!』
「波動防壁は?!」
「アレイアンテナがやられている以上無理だ! 南部! ホーミング発射用意! 博士!」
「分かってるわ! 収束率変更、ショットガン行くわよ!」
「ホーミング撃てぇ!」
ミサイル迎撃のためにホーミングの収束率を下げて発射した。本来想定されていない運用方法であるために拡散した陽電子が主翼にも拡散してしまい、主翼の表面装甲の一部が溶解してしまった。
しかしその陽電子の散弾で捉えきれなかったミサイル数発が艦体に突き刺さり、爆炎が上がる。
「第3主砲に直撃弾!」
「そのまま砲撃を続行! イオン乱流奔流の位置は?!」
「敵旗艦後方です!」
「ホーミング第2射、いけるか?!」
「いけます!」
「生き残っている第2第4主砲第2副砲を敵旗艦正面装甲に照準! 波動砲収束用システム起動して重力バレルを生成、正面装甲を破るぞ!」
沖田の指示で波動砲収束用のシステムが起動して、Wunderの正面に不可視の重力バレルが展開された。
それと同時にホーミング偏光用に重力子を多数生成して重力バレル正面に展開した。
「全砲門一斉射!」
「撃てぇ!!」
第2第4主砲と第2副砲、そして生き残っている主翼上のホーミング用陽電子ビーム砲13門が一斉に発射され、一本の陽電子の束に纏められ、敵旗艦の正面装甲に向けて直進した。
「弾着確認急げ!」
「爆煙の影響で視認不可! 赤外線観測も効きません!」
「観測班! 敵艦の位置は!」
『敵艦……直上です!!』
「舷側発射管開け! 迎え撃て!」
「発射!」
ドメルの咄嗟の指示で舷側の魚雷発射管が開き、全弾が発射された。
それらは全てヴンダーの正面に向かって突き進み、全てが着弾したかのように見えた。
だが、爆煙越しに敵の砲撃を受けてしまい右舷に傾いた。
ダロルドとナグルファルも少なくない損害を受けた。特殊削岩弾運搬の任を終えたガルント2機にも命中して、爆発した。
「全弾着弾! ……ヴンダーに明確な損害無し!」
しかしドメラーズからの視点では、「明確な損害が認められなかった」。
「艦首上げ! 4000ミリ砲を発射!」
「発射します!」
ドメルは4000ミリ砲の発射を命ずるが、その前に凄まじいエネルギー量の何かが正面装甲に着弾した。
その瞬間、ゼルグート級の正面装甲が赤熱、泡のように装甲が湧き出ち、一気に爆ぜた。艦橋から見える光景の半分が爆炎に変わり、ドメラーズ三世の正面装甲が大破していることがよく分かる。
「正面装甲大破!!!」
「どういうことだ?! 敵の砲撃ではないのか?!」
今まで破られたことのないゼルグート級の正面装甲が大破し、その衝撃で艦が大きく下方に傾き、艦橋要員にも大きな動揺が生まれた。
「確かに敵艦からの陽電子カノンらしき砲撃でしたが、想定値を遥かに凌ぐ熱量です!!!」
高い指揮能力と重装甲が売りのゼルグート級の正面装甲は、あらゆる砲撃をシャットアウトするための最強の盾。
しかしそれが「テロン艦の謎の砲撃で貫通された」ことにより、ドメラーズ三世は遥かに弱体化してしまった。
「構うな!! 4000ミリさえ当てれば勝機はこちらにある! 艦首上げ! ヴンダーを射程に捉えろ!」
そのまま4000ミリ砲をWunderの正面に構える形で艦首を上げた。
「発射っ!!」
ドメルが手元のスイッチを押した瞬間、完全に充填された4000ミリ砲がその砲身から莫大な量の陽電子を放った。
「敵大型砲来ます!!」
「島! 回避行動船体傾斜横ロール!」
「全速回避船体傾斜!」
操艦桿を思いっきり右に倒してWunderを右に大きく傾斜させた。
敵の大型砲から放たれた陽電子の束は、左翼とアンノウンドライブを掠めかけたが第一射を避けることに成功した。
「残った火力を敵艦に集中! 指揮命令系統が麻痺を起こした隙に後続艦を潰すぞ! 稼働可能なVLSに特殊誘導ミサイルモードD*1で12発装填! 6発ずつ敵艦に叩き込め!」
「了解! 索敵班! 敵艦画像データを頂戴!」
赤木博士が索敵班との回線でそう頼んだ。
『航海艦橋班送ります!』
数秒も経たずに索敵班から敵艦の画像データが送信されてきた。それを用いて特殊誘導ミサイルのステータス設定ステータス設定ウィンドウを操作する。
「特殊誘導ミサイル12発スタンバイ! 画像誘導方式に誘導設定変更目標ロック完了MAGIとのリンク正常。照準、敵艦艦尾推進ノズル付近! 目標入力完了!」
「全弾撃てぇ!」
甲板VLS1番2番に装填された特殊誘導ミサイルが12発発射されて、そのまま敵旗艦の後続艦艇に殺到した。
敵旗艦からしてみれば、時間にミサイルが殺到しているように見えるかもしれないが、実際は意識の範囲外にある後続艦を狙った物である。
敵旗艦は艦橋周りに搭載されている滞空防御用の機銃を連射していたが、特殊誘導ミサイルはモードDに従って機銃掃射を回避、その大型ミサイルで後続艦艇の艦尾に大打撃を与え、直後に誘爆が始まった。
『弾着確認!! 敵航空母艦の機関部誘爆を確認!』
「両舷舷側ミサイル斉射! 敵旗艦をイオン乱流に追い込む!」
自身のターンを渡さないように追撃を行う。被弾を免れた舷側短魚雷発射管から発射された23発の短魚雷は、画像誘導に従って敵旗艦の左舷に全弾命中。23発の魚雷による衝撃と船体の傾斜に敵旗艦は抗えない。
「第3第4主砲斉射! 畳み掛けろ!」
再びの主砲発射で敵旗艦の左舷艦尾に大穴が開いた。
「敵艦、イオン乱流に掴まりました!」
「敵から冷静さが失われたタイミングで流れを一気に引き込んで猛アタック……艦長はそれが狙いだったのね」
赤木博士のが感心した様子を見せる。手酷くやられているが、Wunderのその巨体から来るライフの多さと手数の多さ、そして人の知恵と力を手段にして何とか耐えて、ショックカノンを弾いた装甲を破壊することで敵から冷静さと「後続に気を配る余裕」を奪う。あとは敵旗艦を狙うと見せかけて後続艦を落として旗艦を連打で叩くのみ。
状況が悪くなる中でも冷静に指揮を執り機転を利かせた指示を飛ばす。そしてここぞという時に大きく出て王手を指す。この大海戦は沖田艦長の勝ちとなった。
「俺は……操られていたのか」
警告灯が点灯したドメラーズの艦橋でドメルは冷静を取り戻した。
イオン乱流に飲まれ始めた艦体は、風に揺れる木の葉の様に揺られ揉まれ、1200メートルの船体から爆発が起こり始める。
全ては正面装甲を破壊された時からだった。頭の中が「撃沈する」ことしか考えられなくなり、4000ミリ砲を今思えば簡単に避けられるタイミングで発射してしまった。
前しか見えていないことを見抜かれて後続艦を潰された。
それが拍車をかけてまともな指揮が出来なかった。
「冷静さを奪う一撃で注意を偏らせてダロルドとナグルファルを撃沈、ドメラーズをイオン乱流に引き込ませる……このドメル、最後の最後で詰めを誤った」
年季の差とでも言うのだろう。ドメルと沖田艦長は互いに歴戦の策士なのだが、「安全な所から指揮を執っていた」ドメルと「戦場の真っただ中で指揮を執ったことのある」沖田艦長では経験のベクトルが違った。
自身が冷静さを取り戻してから急にすべてが分かったドメルは、正面コンソールにあるつまみを回した。
「エルクドメル、認識番号17492ゼック」
ドメルの正面にレバーがゆっくりと持ち上がってきた。ハイデルンはそれが何なのかを知っている。
「閣下……それは……」
「ここから先は私一人の戦闘だ。総員直ちに離艦、ナグルファルとダロルドの離艦者のランチと合流しろ」
退艦命令を艦橋に出したドメルだったが、艦橋要員は全員が動かず、「最期まで戦います」とその姿勢で訴えかけた。
「どうやら、全員命令違反で軍法会議送りの様ですね……」
呆れたような安心したような声色のハイデルンの声に、少し晴れたような顔をしたドメルは、艦橋の切り離しボタンに手をかけた。
(すまない)
ドメラーズから艦橋が切り離され独立戦闘指揮艦となったドメラーズはイオンの雲を切り、Wunderの航海艦橋に接舷した。アームを伸ばしてWunderの艦底部で異様さを放つ構造物を掴み、さらにワイヤーを打ち込む。
その足元でドメラーズ三世が轟沈し、イオンの雲を大きく巻き上げた。
「ヴンダーに繋げるか?」
「いけます。通信回線にコンタクトを取ります」
通信士の操作で、Wunderの通信システムに通信波を飛ばした。
「回線接続、繋がります」
通信士の操作で正面モニターに白い髭を生やした歴戦の将軍らしき人物が投影された。
艦長帽を目深に被った指揮官は、黒い軍服を身に纏い、真っ暗な艦橋で静かに立っていた。
「指揮官とお話ししたい」
『私が本艦の艦長、沖田十三だ』
「私は、ガミラス銀河方面作戦司令長官、エルク・ドメル。……やっと、お会いできました」
『それは、こちらも同じ思いです』
リアルタイム翻訳機がいい仕事をし、言語が違うはずのテロン人と流暢に会話が出来ている。
魔部兄被られた艦長帽から鋭い目が覗き、どんな状況でも冷静に物を見る慧眼が光っていた。
「オキタ艦長、貴方の見事な采配に心から敬意を表する」
『ドメル司令。勝敗は決した、私は無用な争いを望まない。このまま、我々を行かせてくれないか』
そうだ、Wunderはイスカンダルに向かって航海を続けている。我々を殲滅するために後悔しているのではない。
出来れば戦いを避けたいはずだ。自ら攻勢に出て戦闘をすることはなくあくまで迎撃行動に徹していた。
だが、ドメルの回答は決まっていた。
「それは出来ない」
「あなたも軍人ならわかるはずだ。ここで君たちを逃せば、ここまで死んでいった者たちに……私は顔向けが出来ない。ここまで死んでいった者たちは、全て無駄だったということになる。私は……私には、そのような事は出来ない」
ドメルの背後には、今まで死んでいった同志たちの意志がいた。
その中にはドメル幕僚団の面々も。ランベアで離脱させたスヌーカの生き残りにはバーガーが生きている。残りは彼に任せよう、そうドメルは思った。
「オキタ艦長。1人の軍人として、いや1人の男として、最期にあなたのような男と出会えたことを誇りに思う」
「君たちテロンと、我が大ガミラスに栄光と祝福あれ」
強引につなげていた通信回線が遂に切れてしまい、モニターから沖田艦長の姿が消えた。
「通信回線切断……これでよろしいのですね」
「ああ。君たちもこれでいいんだな」
「あなたに付き従うと、閣下の艦に乗艦してからそう決めておりました。今更悔いという物はありません」
通信士がそう返した。艦橋要員の全てが、各々の持ち場からドメルの方を向いて敬礼している。
「エルク・ドメル、認識番号17492自爆シークエンスに移行」
《自爆シークエンスに移行します》
艦橋内部に警報音が鳴り響き、ドメルはレバーに手をかけた。
脳内に浮かぶのは、ドメル幕僚団の面々。そして妻であるエリーサと今は亡き息子にヨハンだった。
そして自分を打ち負かしたWunderとその艦長の姿。悔しいと思ったが、憎さを感じなかった。
「ガーレ……ガミロン」
その瞬間、独立戦闘指揮艦は炎となった。
「航海艦橋大破!!!」
航海艦橋に接舷した敵艦が自爆を敢行、戦闘艦橋に激震が走った。
余りの衝撃に全周スクリーンの一部が破損してスクリーンの破片が飛び散り、船外服の上に降りかかる。割れた部分の画像が砂嵐となり、破損箇所からは青白いスパークも飛んでいる。
その爆発を受けた航海艦橋は大きく歪み、全ての窓が吹き飛び、内装コンソールが根こそぎ破壊されていた。
幸いなことに、ドメル将軍の自爆を察知した沖田艦長の判断で航海艦橋索敵班を全員退避させ、航海艦橋に続く通路の隔壁をすべて閉鎖させたため、死者は出なかった。
黒焦げた航海艦橋の最上部に鎮座する戦闘艦橋は、その隔壁の外部に真っ黒な焦げを残しながら、艦橋要員を無傷で守り切っていた。
「助かったのか……俺たち」
激震に耐えて必死に操艦桿を握っていた島は、その爆発の威力に顔を青ざめた。
ひび割れた全周スクリーンがその凄まじさを物語っていて、もし戦闘艦橋まで破損するようなことになれば、一瞬で真空状態になり全滅していたことだろう。
「……両舷前進強速。現宙域を離れる」
爆煙を裂き、痛々しい身を震わせてWunderは進む。その身は黒く焦げ、砲塔に穴も空き、船体にも大穴が開いている。
そして敵味方問わずに多くの命が失われた。
生死を彷徨う者もいる。
戦いの果てに残ったのは、たった1隻の「神殺しの船」だった。
一周年です
ちょうど昨年のこのくらいの季節に、この小説の第1話が投稿されました。
一周年ですね。ハルナのファンアート欲しいって思う次第です。
虹と戦火の「本編」が終わりました。
次に出すのは、とある戦闘機乗りの無謀な戦闘のお話です。
予告通りガンダムネタが多数出てきますので、ガンダムファンの方も楽しめるかなと思います。
七色星団の戦いって、沖田艦長が常に冷静で決して慢心しなかったから勝てた戦いなんですよ。沖田艦長の策はバッチリドメル将軍にはまり勝ち上がることが出来ました。
多少の運も絡んできますが、最初の極太ショックカノンは、「相手の目を一気にこっちに釘付けにして後続艦の事を頭から飛ばす」ことと、「こうでもしなければゼルグートの正面装甲は破れない」という事を書きたかったらこうなりました。
でもリクが重傷を負ってしまうのでこの話は、うん……書きにくかったです
次は、レプタポーダの話になりそうです。
(@^^)/~~~