宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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視点移動が伴うため、ハルナ視点で描かれているシーンには《Side ハルナ》と書かれています
七色星団決戦が終わってからの話で、ほぼほぼオリジナル回ですね。

それでは皆さん、泪で描いた星空。始まり始まり~


泪で描いた星空

 

 宇宙は、暗くて冷たい空間だ。そしてとても過酷な空間だ。

 

 一つ間違えると命をなくしてしまうこの環境は、あらゆる生命に牙をむく。

 時に、一番戦いを嫌う空間でもある。

 

 

「こいつも、信じる物のために戦ったんだ……」

 宇宙葬用の棺の中に眠るのは、艦内に侵入してきたザルツ人女性だった。出身は違えど、同じ肌の色を持つ種族がいる、それは信じがたい事だったが、今こうして眠る遺体の肌は自分たち地球人と変わらない。

 

 彼らの信じる物は何だったのか……それは分からない。

 ならばせめて、その魂がその者の信じる物のもとに帰ることを願うのみだった

 その遺体とともに収められたのは、生前彼女が使っていたガミラス式の銃だった。

 

 

 

 

 

「互いに死力を尽くして戦った両軍戦士の魂が、安らぎと共に故郷に心が還らんことをここに願う」

 

 双方あまりにも多くの人が亡くなった。船はひどく傷つき、そして心には大きな傷が残ってしまった。

 その心に折り合いをつけるためには、さよならを言う場が必要。

 

 元来葬式というものはそういうもの。

 

 

「総員、敬礼!」

 真田の号令で甲板上に立つ乗員が一斉に敬礼をした。宇宙の冷たい真空に向かって。

 この戦いで命を落とした者たちが埋葬された棺が、第1格納庫から旅立っていく。

 Wunderの艦尾副砲から弔砲が放たれる。

 嘆きとも受け取れる弔砲は、静かに鎮魂を促した。

 

 

 三途の川を渡ればあの世に行けるという話は、この時代にも残っている。

 行われた宇宙葬は、多くの命が故郷に還っていった。眼前に映る銀河が、三途の川に見えた。

 

 

 


 

 

 

「この船で出来る処置は全てした。じゃが、ここまで手酷くやられると起きるかどうかも分からん。後は……睦月君次第じゃ」

 医務室の医療用ベットに横たわるリクには、左腕を包帯で巻かれ、ギプスで腕を固定していた。そして頭に包帯が巻かれ、頬には大きなガーゼが張られていた。

 無事だった右腕には何本もの管がつけられていて、点滴のパックが吊り下げられている。

 そして酸素マスクがつけられていて、静かに呼吸音を響かせていた。

 

「暁君……何があったんじゃ」

 

「……爆弾で……吹き飛ばされて……私、また……庇われて……」

 思い出したくないことを必死に言葉にしながら、手元の紙コップに入った緑茶を震わせた。

 俯いた顔に隠れてしまい、泣き腫らした目元を伺うことは出来ないが、その目の前で起こった惨状は、聞く者も目を疑い耳を塞ぐようなものだったのだろう。

 

 

「……私……リクも死んじゃったら……」

「勝手に彼を殺すんじゃない!」

 佐渡先生がそう一喝した。

 

「奇跡的に生きている状況じゃが、船外服を着ていたのが良かった。着ていなかったら即死じゃ。じゃが、彼が野垂れ死ぬような人間じゃないことはあんたも知っとるはずじゃ! 君をあの災害から守って死にかけても目を覚ましたのも、気を失う前に「君が生きていることを知ったから」じゃ。君が生きていてくれている限り、彼は目を覚ます! 儂はそう確信しとる!」

 

「私も、戦闘で死にかけてもっと危険な所から生還してます。もっと危険な所にいた私が生還できたから、睦月さんも戻れます。あなたが眠っていた時にやってくれてたこと、睦月さんにもやってあげてください」

意識が回復して間もない状態のアスカもベットの上から声をかける。

 

 精神的に相当傷ついているハルナには上手く届きそうもない言葉は、ハルナの頭の中をぐるぐると回る。

 ただそこにいたのは、壊れそうなほどに歯を食いしばったあの日の少し幼い姿があった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「暁さん……」

「古代君……大丈夫?」

「……はい」

 

 ガミラス人の特殊部隊の一人が自爆したらしい現場で、古代は自身を責めていた。

「大丈夫な顔をしてないよ、自分が嫌になるような顔している」

「暁さんも、似たような感じじゃないですか……」

 

 ハルナも酷い顔をしていた。

「……すみません。もう少し早く現場についていたら、お2人を守ることが出来ました」

「抗えない現実もあるわ……それでも、人は抗うしかない。現状は悪いけど、それでも出来る事をするしかないわ」

 言っている声が震えている。

 リクが意識不明の重傷で生きていることが不思議なくらい、そんな状況で自身の心が少しずつ壊れそうな音を聞いていた。

 常に彼の死の姿が頭に浮かび、考えていることや感じていることがグチャグチャになってしまう。

 

 

「修復作業行ってくるわ。航海艦橋は直せそうもないけど、他のところは何とかなるから」

 そう言い残して修復作業に加わりに行った。スッと俯いてそのまま早足に歩いていくハルナの足元には、一滴の涙が零れていた。

 

 

「暁君、修復作業のこと……あっ」

 真田もハルナの心をダイレクトに感じて、その言葉を止めてしまった。

 

「……真田さん」

「古代、自身を責めるんじゃない。森君がユリーシャかサーシャと間違えられたのなら、皇族として丁重に扱われているはずだ」

 

「奴らが、その間違いに気づいていなければですよ……」

 古代は自信の拳を強く握りすぎてしまい、爪が指に食い込みかけていた。

 護れなかった。救えなかった。何もできずに見ているだけだった。

 

「……真田さん、これ」

 そういって古代が渡したものは、橙色の石が付いたブレスレットだった。

「落ちてました。負傷した誰かの物かと思いますが……」

 

 一見すると綺麗な石のついたただのブレスレットだが、真田にはそれが誰にとってどれほど大切なものなのかがすぐに分かった。

「そのブレスレットの持ち主は知っている……私から返しておこう」

 

 


《Side ハルナ》

 

 

 動き続けて、すっと気を紛らわせていた。それでも、ただ自分の心を保たせることには至らず、ただの延命処置のようなものにしかならなかった。

 

 気づいた時には、私は医務室の扉を開けていて、彼の眠る病室にいた。

 

 目覚めて欲しい。……私は彼のことが大好きで、また守られてしまった。一度目は風奏さんに。そして彼に。風奏さんは、私達2人を助けて亡くなってしまった。私はそれが決して拭えないトラウマとなってしまって、中性子星の時はそれがぶり返してしまいダウンしてしまった。

 

 だから1人でも大丈夫なように頑張ってきた。乗っ取りの時は頑張って贖罪計画派に立ち向かって、システム衛星は仮設とはいえ限りなく真実に近い話を受け止め、復讐を蹴った。

 

 

 それなのに、それなのに、また守ってもらってしまった。それで、彼が大怪我を負ってしまった。その結果がこれ。

 

 

「私が代わりに……こうなれば、よかった」

 

 普段ではとてもこんなこと言わない。でも、自分の性で彼をこの状態にしてしまった。それが私の心を見えない鎖で締め付けていく。

 

 

「彼が、それに頷くと思うか?」

 不意に声が聞こえて振り返ると、真田さんが腕を組んで壁に寄りかかっていた。

 

「彼がそんなこと望むかどうか。それは君が1番分かっているはずだ」

「それでも、私は、彼に」

 

 

「個人的に、私は彼に友人として説教をしておかないといけない。勝手に動いて自ら危険に飛び込んでこの状態だ。だが……身を挺して私の友人を護ってくれたことに、頭を下げてありがとうと伝えたい。その為には、彼に起きて貰い、真っ先に君に怒られてもらわないと」

 真田さんは目元を隠してそう話した。

 

 

「彼には君が必要だ。君はしばらくここに居てあげて欲しい。これは、友人としての私の願いだ」

 

 そう言って、真田さんはズボンのポケットから何かを取り出して、私の手を取ってそれを渡した。

 手が離れ、そこにあったのはリクのブレスレットだった。メッキが剥がれてたり、装飾が欠けたり擦過傷が沢山付いてたけど、確かにリクのだ。

 

 

「真田さん……これをどこで……」

「古代が現場で見つけてくれていた。ここに来る前に、私に渡してくれてたんだ。かなり傷ついてはいるが、大きな損傷はなかった」

 リクに大ケガをさせてしまったときに、彼の手首からブレスレットが離れたところを見ていた。作業の合間を縫って現場でそれを探していたけど、なかなか見つからなかった。

 

 

「君の手で付けてやって欲しい。私が付けても、彼には大きな意味はなさそうだ」

 そのまま真田さんは私を病室に残してどこかに行ってしまいました。

 

 手元に残された彼のブレスレットを見つめて、そっと彼の右手を取った。沢山の点滴管が腕から生え、「生きている」を感じにくくなっている彼の手は、いつかそのまま氷の様に冷たくなってしまいそうな雰囲気を保っていた。

 

 

 

 そっと、彼のブレスレットを腕に巻きました。

 

 

 

「私は……まだ……あなたに何も返せてない……2度も、救われて……」

 

 

 

 リクの眠るベットに顔を埋め、そう呟きました。

 

 

 

 

___________

 

 

 

 

 

「ちょうどよかった。真田君、暁君があのまま寝てしまっているから運ぶの手伝ってくれんか? ちょうど横にベットがあるからそこに寝かせとかんといかん」

 

「佐渡先生……あのままにしてあげて下さい」

「いや流石にあのままはいかんが……」

 

「寝ていないんです」

 

 

 

 

 

 

 

「何じゃと……?」

 

「暁君。三日三晩、眠ることなく動き続けていたんです」

「止めなかったのか?」

 

「……止めました。研究室に無理やり帰して休息もさせました。それでも、夜間シフトに紛れて修復作業の指揮を執っていました。……無理矢理仕事に忙殺されることで、正気を保とうとしていたのではと思います」

 古代と別れたハルナは、そのまま修復作業を手伝いに行って休憩無しで動き続けていた。それを見かけた真田が強制的に研究室に連れ戻して仮眠を取らせたが、それでも抜け出して修復作業に回っていた。

 まるで機械の様に黙々と動き続けて必死に平常心の顔を張り付けていた。真田にはそう映っていた。

 

「……そのツケが回ってくる前にここに居ろと言った、そうじゃろ?」

「……はい。睦月君の近くにいることが、今暁君に出来ること。だからあのままにしてあげて欲しいです」

 診察室の方から見える病室には、リクが横たわるベットが見える。しかしその足元には、無事な右手に自身の左手を絡ませるように繋いで、ベットに上半身を埋める様にして眠っているハルナがいた。

 

 張り詰めたような顔が無くなり、穏やかに眠るその姿は、まだ怖さを知らないような純粋な子供のようだ。

 

「真田君、君は精神論とかには興味ないと思っていたんじゃないのか?」

「暁君と睦月君に会っていなかったら、そういうのは蹴って理数のみに没頭する人間となっていたのかもしれません。ですが……精神論も悪くないかもしれないと思うようになりました」

 そう言う真田の声は穏やかで、ガラス越しにその2人を見つめていた。

 

「真田君、これかけたれ。そのまま寝かすのも冷たいじゃろ」

 佐渡先生は別の病室から持ってきた毛布を真田に渡した。

 

「ありがとうございます」

 それをベット脇で寝ているハルナにかけてやると、真田は佐渡先生に一礼をすると医務室を去っていった。

 

 

 

 _________

 

 

 

 ……僕の目の前には今、海が広がっている。

 火星育ちであんまり見た事がないけど、これは海だということが分かる。

 

 そしてコレは境目でもあるということが分かる。

 

 あの時艦内に侵入してきた敵兵の手榴弾から庇って爆炎を受けてしまった。

 

 その薄れゆく意識の中で、古代くんがハルナを保護してくれたのを見た時は本当に安心した。

 

 

 

 

 真っ白な砂浜に腰を下ろして、裸足になる。冷たい水が足を濡らす。……ここってたしか「海」だから海水だな。

 ただただ波の音が響くだけの寂しい空間で、手首に巻かれたブレスレットを陽の光にかざす。

 

「死んでしまった……のか?」

 差し込んでいる陽の光は僕の姿通りの影を作る。ここが幻影の中だとしても、まだ影があることが不思議だった。

 もし本当に死んでいたら僕は幽霊になっていて影なんかできてないはずだけど、あいにくこの空間には僕一人、比較対象がいない。

 

 

「悪い事……しちゃったな。あいつ置き去りにして、目の前でやられて。それでも守れたのは嬉しかったけど、どう考えてもトラウマを抉った気がする……」

 途端に自分のした事の重大さに気付いた。今自分の体が病室にあるのかそれとも海の藻屑ならぬ宇宙の藻屑になってたらどうしようもない。

 

 母さん亡くして俺まで死んだら、ハルナが一人ぼっちになってしまう。ハルナはハルナで強くあろうとしているけど、それでも、余計かもしれないけど一緒にいてあげたい。

 

 

「もっと他に方法あったはずなのに、どうしてこれを選んだッ……」

 

 

 ブレスレットを外して両手で握る。そして自身を責めてしまう。でも、それを慰めてくれる対象は

 いない。

 

 

 

 

「兎に角、ここはあの世なのかどうか分からないけど……戻り方、探してみるか」

 

 輪郭が溶け合いそうな世界で、僕は腰を上げて歩き始めた。

 

 

 

 

 何となく、手元に知っている暖かさを感じて、それを優しく握ってみた。

 

 

 

 


《Side ハルナ》

 

 

 

「……私、寝ていたの?」

 手を絡ませる様にしてそのままベットに顔を埋めてた。どのくらい眠っていたんだろう。体が怠い。

 握っていたリクの右手には、ブレスレットが大事に巻き付けられている。

 

 多分だけど、命綱が間に合ったかな……って思う。これは、リクが作ってくれた婚約指輪代わりのブレスレット。私とリクを結んだもので、本当に私の妄想でしかないと思うけど、今眠っているリクに現世との繋がりを持たせられる唯一の物なんじゃないかな。

 

 多少スピリチュアルな域に達してるけど、そんな気がする。

 いつまでもここにいられる訳じゃないし、今は人手が必要。そろそろ行かないと。

「リク……私、頑張るから」

 そう言って彼の右手を、点滴管を避けて優しく握ってみた。

 

 

 

 

 

「え……?」

 凄くゆっくりだけど、握り返してきた。

 

 

 

(頑張れ。まだ死んでないぞ?)

 

 

 

「うん、頑張るね」

 そっと彼の手を離して、医務室を後にしました。

 

 

 


 

 

 

「ここは……」

 森が目を覚ましたのは、やや薄暗い空間だった。船外服のまま牢屋のような所で隔離されていたのを確認した森は、やや冷静になった。

 

「ガミラス艦……?」

「ご気分いかがでしょうか?」

 不意に聞こえた男の声に、森はその声のした方を顔を向ける。

「私はイスカンダル語は堪能ではないので付けさせて頂きました」

 分かるはずのないガミラス語が理解出来ている。森は不思議に思ったが、その男が首元を指さしたのでその辺を触ってみると、妙な機械が付いていた。

 それを外してみると急にその男が何を言ってるのかが分からなくなったが、付け直すと意味が理解できた。

 

「翻訳機……」

 

「自分は、貴方様のお世話をさせていただきます「ノラン・オシェット伍長」です」

 ノランと名乗ったその青年は、肌が地球人と変わらない色をしていた。

 一時的なWunderに乗っていたメルダから聞いた「2等ガミラス人」を見た森は、「地球人とそう変わらない」ことを不思議に思い、思わずジロジロ見てしまった。

 

「何か……?」

 

「あ、いえ、何でもないです!」

 

 異民族とか植民地という要素は宇宙共通。彼らがガミラスとの争いに負けて併合された惑星の民であることは、理解に難くなかった。

 

 

『まもなく、収容所惑星レプタポーダに降りる! 総員、上陸準備に備えぇ~!』

 艦内放送でかなり特徴的な声の放送が聞こえ、「収容所」という単語に不穏な道を感じた。

 

「収容所……?」

 

「ああ、そこで迎えの船に乗り継いで貰うだけです」

 すかさずノランが補足説明を入れて、森の誤解を解く。

 

「……迎えの船。どこへ連れて行くつもりなの?」

 

「……デスラー総統の元へ」

「総統」と言う単語に、自身の一存で動けないことを理解してしまった森は、脱出の選択肢をすぐさま切り捨てた。

 自身がイスカンダル人と間違えられているなら、「皇族らしく振舞って」要求出来るのではと思った。しかし、イスカンダルのすぐ近くの星のガミラスの王様に呼ばれていているのならば、無理に要求を通してイスカンダルに一足先に行こうとしても不審に思われるかもしれない。

 

「今はバレない様にしよう。私はイスカンダル人」と森は心に決めた。

 ふと森は、自身が乗っていたWunderの事が気になった。

 

 

「まって、Wunderはどうなったの?!」

 

 

「テロンの船なら、沈みました」

 有り得ない。Wunderが沈んだなんて有り得ない。でも、手酷く攻撃を受けて、あちこちで通路の崩落と装甲の破損が起こっていた以上、もしかしたらと言う想像が頭をよぎる。

 

 そして、古代の顔が脳裏に浮かんだ。急に敵兵に拉致されて見知らぬ船の中。冷静でいられる時間は思ったよりもずっと少なく、自身の拳を胸に当てた。

 

 

 

「大丈夫、まだ生きてる。チャンスを待つのよ森雪」

 そう言い聞かせて、森は再び冷静を装った。

 

 

 

 


 

 

 

 

「現状、補修に必要な資材の確保が急務であり、それらが確保できそうなのは、このシルビア恒星系の第4惑星、のみです」

 手酷い損害を受けたWunderは、自前の補修資材のみでは完全修復が不可能であった。そのため、近くの恒星系の地球型惑星、もしくは衛星での採掘活動が必要とされた。

 

 その選定先となった惑星は地球型の惑星で、水と空気がある。鉱物資源も豊富であるとの予測結果が出ているため、採掘資源の確保さえできればあとは艦内工場で補修部品を製造できる。

 

 

 

「ですが、この恒星系はガミラスの基地が存在しています。彼らに発見されないように資源を確保するのは、困難でしょう」

 地球型惑星である以上、地球人と同じガミラス人もその惑星に生息可能。大マゼラン星雲内である以上、ガミラス基地が存在していることは必然的だ。

 

「古代、君に偵察任務を命じる」

「少し外の空気を吸って来いよ」

 

「そうよ、リフレッシュくらい必要よ?」

 古代に対する島の気遣いにハルナも後押しする。古代の方が自分よりも余程精神的にもキツイとハルナは感じていた。目の前で何とか生きているのと、離れ離れになっていて自分から何もできなくて安否も不明な方を比べれば、どちらが辛いかはハルナにとっては一目瞭然だった。

 

 だから後押しした。でも辛いのを隠しきれなくて、今こうして会議をしているときも少し震えている右手を後ろ手に隠している。

 

 

「……分かりました。古代進、当該惑星の偵察任務に入ります」

 

「では、営倉に戻ります」

 

「新見君。君のいる場所は、営倉ではないはずだ」

 

 

「営倉の方も滅茶苦茶に壊されてしまいましたから、実際戻りようがありませんからね。今は少しでも人手が必要です。精一杯あっちこっちに走り回りましょうよ」

 

 ハルナも少し回り道をした言葉をつづけた。新見が起こした反乱を許せとは言わないが、敵の弾頭を新見が解除していなければこの船は相当危なかった。そのこともあり、新見がやったことをハルナはもうそんなに気にしなくなっていた。

 

 

「……! はい……」

 

 

 


 

 

「シーガル発艦しました」

 

「了解、Wunderは現宙域に留まり、シーガルからの報告を待つ」

 

 

 

 

 

「えっと、この分だけで直せそうなのは……右舷の装甲破損個所くらいね。コイルもいくつか作らないとね」

「手酷くやられましからな。全く、航空機の群がる戦場は坊ノ岬沖だけにしてくださいよ」

 

「敵さんに言ってくれるかしら?」

 ハルナは、榎本と共に資材保管区域に出向いて手持ちの資材を確認していた。Wunderが大きいのもあって全体的な損傷を直せるだけの資材は無くても、修復用の資材を製造可能な規模の艦内工場が存在している。

 

 一部攻撃を受けて稼働不能な区域もあるが、幸いにも生きている区画のみでも十分生産が可能だ。

 

 

「Wunderの装甲、何重にもなっているはずなのですが、まさか貫通するとは思いませんでした」

「設計が甘かったかもしれません。設計士として恥ずべき事です」

 

「でも、こうして私たちが生きているのは、一尉が武装を山盛りにしておいたお陰ですよ。翼にもビーム砲付けるとか正気かって思ったくらいですからね?」

 

「正気で作っては無理なので。地球は切羽詰まっていますから、今の私達もそうですね」

「それはそうと、ユリーシャさんが手伝いたいとおっしゃてますが、どうします?」

 

 

「ユリーシャが? ……ちょっと話してみますね」

 

「頼みます。ああそれと」

「?」

 

「副長から聞きましたよ? ちょっとは休んでください」

 

 

「寝れるとこで寝ましたので、しばらくは大丈夫かと思います」

「それでもです。副長が「強引にでも休ませろ」とうるさいんです。まるでお節介な親戚じゃないですか? いいご友人をお持ちである以上、大人しく聞いた方が良いですよ? そのうち「副長命令」使いそうです」

 

 真田がそこまで心配している事に、ハルナは少し嬉しかったけど同時にかなり申し訳なくなった。

 三日三晩動き続けた結果、気が紛れたかと言えばそうでもなくただ疲れただけだった。リクの病室で気を失ったかのように深く眠ってたのを佐渡に聞いて「流石にアレはダメだった」ことは認識していたため、とりあえず誰かいるところで寝ようと決めていた。

 

 

「流石に命令されて休むのは休んでいる気がしないので、程々に休みます。とりあえず、ユリーシャのとこ行ってきます。航海艦橋の修復はなしで構いません。戦闘艦橋のみでも十分動きますから。最低限資材は一番損傷の激しい右舷側を重点的に直してください。左舷は後回しでいいです資材手に入ってからで問題ないので武装は前方指向可能な砲塔が3基と艦底部の武装が結構残っているので最悪何とかなりますので装甲優先でお願いします~!!」

 早口にそう指示をしたハルナは資材保管区域から足早に出て行って、ユリーシャの元に急いだ。

 

 

「はい甲板部みんな聞け~右舷とカメラを優先修復航海艦橋は放置。いいな?」

『了解!』

(副長殿、気を揉みすぎですよ?)

「私が代ろうかしら?」

「おや? 赤木博士じゃないですか? どうなさいました?」

 ハルナが保管庫から出て行ったのを見計らって、物陰から出てきたのは赤木博士だった。

 

「暁さん休ませるんでしょ? なら代わるわ。一応この船の構造は頭に入れてあるから、足手まといにはならないわ」

「まったく、副長といい博士といい……暁さん人に恵まれまくってますね。それでは博士、お願いします」

 

「分かったわ」

 船外服を引っ張り出していそいそと着始めた赤木博士の脳裏には、若干の不安要素と「それを何とかできそうな人の存在」があった。

 

 

 


 

 

 

「ユリーシャ? 榎本さんから聞いたわ、作業手伝いたいって」

 

 

「えっとね、それは嘘じゃないんだけど、ホントはハルナならちゃんとここに来るって思ってそう言ったの」

「?」

 

「こっち」

 

ユリーシャに連れられたハルナが訪れたのは、サーシャの病室だった。

 

「お姉様、連れて来たわ」

 

 

「この姿では初めましてですね、アカツキハルナさん。私はサーシャ・イスカンダル。イスカンダルの第二皇女です」

 金髪で長髪。ユリーシャにも似た整った顔立ち、間違いなくサーシャだった。

「サーシャさん?! えっと、その、いつお目覚めに?」

「そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ? 私は先ほどの戦乱の中で目を覚ましました。この船の皆様にはご迷惑をおかけしました」

「ユリーシャ、このこと知っているのはどれくらい?」

 

 急にハルナは、このことをどれだけの人が知っているのかが気になった。半年以上眠り姫だった人がいきなり起きたことが拡散すれば大騒ぎになるのは当然だ。

 40年眠っていた人が何言っているんだと突っ込みたくなるが、皇女と言う立場がある以上、大騒ぎになりかねない。

 

「えっと、オキタ艦長とサド先生とハラダさん、それとサーシャ姉様の憑依先だったミサキと、ミサキのナイトのホシナ。兎に角、最低限の人には伝えてあるわ」

 

「ナイト」と言う単語に引っかかったが、とにかく最低限の人員には伝えてあることにハルナは安堵した。

 

「とにかく、情報の拡散は今のところしてなさそうでよかった……」

 

 

「アカツキさん、ムツキさんは今どちらにいらっしゃいますか? 彼にも一言挨拶をしておきたいと思っておりますが……」

 

「お姉様……そのね……」

「リクは……戦闘で重傷を負ってしまって、意識が……戻っていなんです」

 

 

「……! そうでしたか……気を悪くさせてしまい、ごめんなさい」

 

「そんな……謝るほどの事でも」

「震えていたんです。その……手が」

 震えていたのは、ハルナも自覚していた。隠そうとしていたけど、隠しきれていなかった。震えていた右手を後ろに隠し、強く握って震えを落ち着かせる。

 

「やっぱり、頑張って隠しているつもりですけど……隠しきれないです」

 

 

 

「アカツキさん。まだ貴方の事をよく知らない上でこの事に踏み込んでいいのか、私には分からないのですが、何かを越えて強くありたいという事は、とても良い事だと思います。ですが……」

 

 

 

 

 サーシャは一瞬躊躇ったが、まっすぐハルナの目を見つめて、こう言った。

 

 

 

 

「親しい人の前では、そのままの自分である方が、良いと思いますよ」

 

 

 


《Side ハルナ》

 

 

「マリさん」

「ハルナっち、大丈夫?」

 

「多分大丈夫です……でも、ちょっとだけ、甘えさせてください」

そこには、弱さを隠さないようにした姿があった。

 

 

 ___________

 

 

 

 

「ショックだったのは、よくわかるよ。ユイさんが死亡扱いになったときは私だって頭真っ白だったから」

 淹れたばかりのココアを見つめながら、マリはそう呟いた。

 

「風奏さんが亡くなったときを思い出しかけたんです。リクも……あんな事になってしまって」

「彼は君の王子様。お姫様を残しては死なないよ。……もし本当に三途の川なんてものがあったら、彼は今頃渡し船から飛び降りて泳いで岸に戻ろうとするんじゃないかな」

「泳いでですか……」

「私がリっくんだったらそうするね。何とかして岸に戻って、愛する人の顔を見に行く」

「愛する人……」

 

 ミルクの白い線が残るココアをかき混ぜながら、ハルナは思い返していた。リクと一緒に歩んできた20年ほどの人生は、あっという間だったし、あっという間に平穏は消え去った。

 

 

 もう朧気にしか残らない幼少期の記憶に、リクは居た。

 

 

 風奏を目の前で死なせてしまった20歳の時も、リクは居た。

 

 

 そして、互いに想いを伝えた温もりに、リクは居た。

 

 

 

 不意に涙が零れそうになり、慌てて拭おうとして平穏を装ってしまう。

 

 

 

 

 

(親しい人の前では、そのままの自分である方が、良いと思いますよ)

 

 

 

 

 

 拭うのをやめて、マリの肩に寄りかかった。

 

「ごめんなさい。ちょっとだけ……こうさせてください」

「構わないにゃ。頑張り過ぎ屋さん2人のお姉さん代わりなら、私でもなれるにゃ」

 

 時間は過ぎていく。零れる泪と共に過ぎていく。強がって擦り減ってた心から、取れない痛みがほんの少しずつ和らいでいくように感じていた。

「辛い時くらい、誰かに寄りかかってもいいんにゃ。強がるのは悪い事じゃないけど、どこかで壊れちゃうにゃ」

 その時のマリの顔は、まるで別の過去を見ているような顔をしていた。それでも、過去を悲しむような眼ではなく、今を安心する眼をしていた。

 

 

(君たちは……壊れないで欲しいにゃ)




リクが生死をさまよう事となり、ハルナは自らを責めながらなんとか心を保とうとしています。

でも、強がってばかりじゃ限界が来てしまう。それをサーシャに諭されて、そのままの自分で親しい人に寄りかかる事にして姉のようなマリさんに頼ることにしました。

ちょっとくらい休んでもいいんです。

以前、「ハルリクは真面目キャラ」と頂いたのですが、ほんとにその通りなんです。そして真面目があるが故に頑張りすぎてしまう節があります。
その時に頼れる人や甘えられる人がいると、ほんとに助かります。


立ち位置的には、
マリ→弟妹みたいにしてくれるお姉さん
真田さん→凄い気にしている近所のおじさん
赤木博士→それなりに気にしている近所のおばさん

って感じですね。2人と接しながらこっそり見守る良いキャラになりました。
マリさんマジで母性と言うか何と言うか……「居ると精神的に安心するキャラ」なんです。
「居ると技術的に安心するキャラ」枠では赤木博士と真田さんがぶっちぎりツートップなのですが、精神的の枠ではマリさんがぶっちぎりなんです。

なお、今回の楽曲は蒼き鋼のアルペジオから「SilverSky」です。
長くなりましたが、次のお話でまた会いましょう
(^_^)/~~



応用情報技術者試験のため、次回の話は試験が終わってからになりそうです
潔く2回目の休載に入ります。ごめんなさい(。-人-。) ゴメンネ
休載期間中も細々と書いてきますので、「休載明ける→モチベ失速→再休載」は無いです。

試験の予定から考えて、次の掲載は4月中頃になりそうです。それまで待っていただければ嬉しいです。
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