宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
まさかこの小説内で「ぶっ壊れ性能」と言う言葉を使う事になろうとは……
「また、お会い出来ましたな」
「それは、こちらも同じ思いです。クダン司令」
Wunderの艦長室。そこには三人の高官が顔を合わせていた。
1人は宇宙戦艦Wunderの艦長、沖田十三。もう1人はゲルバデス改級航宙特務輸送艦フリングホルニ艦長、アウル・クダン。そしてもう1人は、今の今まで収容所に収監されていてやっと解放されたガミラス航宙艦隊司令長官ガル・ディッツ。
淹れられた紅茶は既に手が付けられたのか少し少なく、話を進めるいい潤滑剤となっているようだ。
「アウル。儂を助けに来てくれた事は感謝している。友人として礼を言わせて欲しい。……だがアレはマズいだろう。囚人の反乱を起こして混乱させるとは常識外にも程がある!」
「ああするしかなかったんだ。それに、あそこには親衛隊の手によって不当に逮捕された者たちも大勢いる。向こうのお偉いさんには、起こってしまった反乱をこの艦隊で緊急措置として鎮圧に向かったとしか見えていないだろう。現に、ライブ映像を超空間通信で送り続けていたからな」
「それでもマズいだろう。調査が時機を見て入る以上この事は明るみになる」
「問題ない。ボーゼンのブラックな行いを老若男女問わず物凄く分かりやすく資料にまとめた。コイツを滑らせておいて目立つようにすればこちらが起こした事とはバレまい。変な言及は来ないだろうし、調査委員会とかに言い含めておけばもっと安心だろ?」
クダンが懐から取り出した資料には、ガミラス語でこう書かれている。
「秘録 デバルゾ・ボーゼンのブラックな行い10選!(仮)」
流石に本人もこのまま出そうとは考えていないようで、丁寧に題名の末尾には「仮」と付いている。しかし中身はボーゼンの行為の多くが違法である根拠とその詳細が事細かに記されていて、尚且つ見やすい見出し付きという読み手に対する配慮が全力でなされている。
「後処理宜しくのつもりか?」
「まぁそういう事だな。厄介事は頼む」
そんなやり取りを傍で聞いていた沖田艦長は、ディッツ提督の人柄を観察していた。自身と同じような雰囲気を持ち、熟練の指揮官。それでもクダンと話している風景は、眉間を抑えて理解に苦しむようなそぶりを見せながらも、どこかで安心している様子が滲み出ていた。
「お2人は、仲が宜しいのですか?」
沖田艦長はそう言葉を投げかけてみたところそれは当たってはいたようで、青い肌の2人は顔を見合わせた。
「オキタ艦長。このバカとは古い付き合い……腐れ縁とも言える関係でな。愛娘を預けられる奴は、現状コイツしかいない」
「ほうほう、なかなか信頼してもらえているじゃないか。誰かなバカと表現したのは?」
「知らん!」
そっぽを向いてしまったディッツ提督をからかうクダン。沖田の脳裏には、親友である土方の姿があった。ともに同じ年代で同じ話題で議論を重ね、同じ戦場で生き抜いてきた。
クダンとディッツ提督のような関係ではないが、この年代にして同世代で言い合える親友の存在が近くにいることが沖田にはうらやましく思えた。
「ところで、娘は……?」
「恐らく、暁一尉の所でしょう。久しぶりの再会なので、我々は紅茶でも嗜みながら話を重ねていきましょうか」
そう言った沖田艦長は、自前の紅茶の葉とカップを3セット用意して静かに紅茶を淹れ始めた。
「久しぶりだな。ユリーシャ様もお久しぶりです」
「元気してた?」
「はい。この通り体調も崩さず健康のままです。お気遣い感謝いたします」
全ての作戦が終了し、メルダは父親とクダンに着いていく形でWunderを訪れていた。
「元気そうね。安心したわ」
ハルナも何とか明るく振舞い、なるべく悟られないようにする。
「パフェとやらを食べてから体調が良くなったのかもしれんな」
「「そ れ は な い」」
アスカと山本が声をそろえて一般常識をぶつける。
「あら。あなたは確か……提督の」
昼食から戻って来たサーシャが音もなく戻ってきて、メルダは飛び上がった。幽霊でも来たのかと思って後ろを振り向いてみれば、幽霊と呼んでは殺されそうな存在であるサーシャ・イスカンダルが立っていた。
「サーシャ様?! えっと……お体の方は……」
「七色星団の後に無事に意識が戻りました。御心配をおかけしたみたいでごめんなさいね」
「いえいえとんでもないです! とにかく、ご無事で……何よりです」
「……取り敢えず私はまだやる事があるから。しばらくいるんでしょ、ここに?」
「あ、ああ。しばらくはここに居るつもりだ」
そう言い残したハルナは研究室から出て行ってしまった。それを見てメルダは何かを感じたのだが、思い当たる原因が自分にありそうな気がしてならなかった。それに、ハルナの近くにいるはずのリクがいない。艦内を歩いているときにリクの姿が見えなかったのだ。
「アカツキに……何かあったのか?」
聞かなければ分からない。予測の範疇でしかない状態でハルナに真意を問うにはむしろ負担をかけかねないと判断したメルダは、ひとまずハルナの近くにいたであろう山本とアスカに聞いてみる。
「暁さんは話したがらないけど……睦月さんが七色星団での戦闘で重傷を負ってしまって……まだ目を覚ましていない」
その事実を話すことを躊躇いながら、アスカはゆっくり話し始めた。
中性子星で2人が結ばれ、バラン星を覚悟のもとで突破し、七色星団で失いかけた。意識の戻らない彼の元についている日常が始まり、いつ逝ってしまうのか分からない現状でハルナは少しずつ擦り減らしていた。無我夢中で働いて気を紛らわせようしても意味がない。誰かに縋ったりして泣いたりしても、近く限界が来てしまう。
メルダにまた会えると気づいた時はほんの少しだけ明るくなったようだが、それでも一時的にしか過ぎない。
「……悪いことをした」
「メルダが悪いんじゃないよ。アレは、貴方がやれと言ったことではないから……」
「そうじゃない。だが、マズいことをしてしまった」
地雷を踏んだ。彼の身の状態がある以上、コレは禁句だったのかもしれない。
「ちょっと行ってくる。ユリーシャ様、サーシャ様、失礼します」
一言理を入れたメルダは研究室から出て、ハルナを探しに行った。
「コダイ、アカツキを見ていないか?」
「暁さん? 見てはいないが……」
「そうか……」
2500mの船体である以上人探しも容易ではなく、メルダは艦内の各所に設置されている艦内マップを頼りにして捜索を行っていた。すでに船体各署の部屋の捜索、実験農園、格納庫等を探し終えてはいるものの、見つからない現状に流石のメルダも焦りを覚えていた。
「コダイ。本当に見ていないのか? 少々マズいことをしてしまった以上、早めに見つけなくては行けなくて……」
「……医務室は見に行ったか? 睦月さんはそこにいるはずだから、もしかしたらそこに居るかもしれない」
「医務室……サド先生への顔出しもある。感謝する」
行くならそこだろうとこだえた古代の顔はやはり優れなかったが、メルダは他人の地雷を進んで踏みに行くような人間ではない。古代にも何かあったのだろうと感じたがここは引いて、メルダはハルナを探しに向かった。
「元気そうだな……」
古代の手には携帯端末が握られていて、そこには様々なウィンドウが開かれていた。損害状況。修理状況、航路図。そして、作戦提案書。
ガミラス本星への突入作戦要綱が事細かに記されているそれは良く練り上げらている物で、既に真田の承認がなされていた。
しかし、重要なのはそこではなかった。突入作戦要綱のすぐ下。画面の表示範囲外に隠れていて詳細は読み取ることが出来ないが、そこには、
「森船務長救出作戦」と記されていた。
サレザー恒星系には居住可能惑星が2つ存在している。片方は溢れる生命を感じる青い水を携えた惑星。もう片方は緑色の外殻を持ち、所々崩れた開口部には人工の明かりが一局に集中している。それは決して美しいと言えるような物でもなく、星そのものがその星の秩序の歪さを表しているようだ。
その星に降下する艦艇が一隻。秘匿兵器である次元潜航艦UX-01。レプタポーダから緊急発進しFS型宙雷艇を甲板に載せた状態で大気圏に突入。一般の国防軍宇宙軍港ではなく、航宙艦隊の中でも特別な艦艇を停泊させる為の宇宙軍港に次元潜航艦は停泊した。
本来ではこの軍港にやって来る人は少ない。技術的にも秘匿性の高い艦艇、隠密作戦任務にあたる艦艇が多数を占める以上最低限の人員しか配置されておらず、出迎えとかもあったものじゃない。
だが今回だけは違った。例外中の例外。国賓と呼んでも全く差し支えない超VIPを出迎える都合上、この軍港に1台の要人警護用車両と数台の装甲車両が現れた。それもただの要人警護用車両ではない。高官を出迎える用のしっかりとした作りの内装に軽い軽食に飲み物までついている。それを取り囲むように配置された装甲車両数台は機銃が取り付けられていて、一般兵が持つ機関銃では傷が一切つかない程の装甲で覆われている。
ガミラスでも過去類を見ない程の厳戒態勢に、出迎えに同行した兵士たちも未だかつてない緊張感に襲われ、機関銃を構える手が震えている。
「お待ちしておりました。今回、ユリーシャ様の総統府への護送を担当させていただきますガデル・タランと申します。遠路遥々よくお越しくださいました」
恭しく礼をしたのは、ガミラスの軍事作戦の立案に努め、大本営参謀次長のホストに付くガデル・タランだった。軍人気質で忠義に厚い彼は何事にも万全を敷く彼は、今回の護送の責任者として適任だった。
「どうぞこちらへ。……君は?」
「ユリーシャ様の身辺警護を務めておりますノラン・オシェット伍長と申します」
「ここに来るまでの間に、私が彼にお願いしました」
「分かりました。伍長、君もだ。警護の方は任せる」
「ザーベルク」
イスカンダルが決めたことだからタランは従ったのだろうか。それとも、彼の人となりを読み取って従ったからなのだろうか。この時、タランは二等ガミラス人であるはずのザルツ人を前にして嫌な顔はしなかった。隠している素振りもなかった。
「フラーケン、次元潜航艦クルーの皆。ユリーシャ様の護送に感謝する」
「仕事は終わりだ。後は好きに待つさ。ノラン。今度こそ達者でな」
「はい……! ハイニさんも、ありがとうございました」
「またチャーター便に乗りたきゃ来いよ?かっ飛ばすからな?」
「本当に助かりました。……では、失礼します!」
「おうっ!」
________
帝都バレラスは夜だった。長細い球体状のビルが竹林の様に地面から生え、それぞれが深緑の塗装されている。ビルの側面の窓から光が漏れていて、そこに住まう人々の生活が見て取れる。それらはかなりの高層ビルのようで、ガミラス戦役前の地球の風景を森は思い出していた。
ここまでの移動で、森は一言一言の発言には十分気を使っていた。自身の正体が露見する可能性があるとすれば、それは見た目や言語ではなく会話位の物。ガミラス人やイスカンダル人なら知っているであろう常識とかは流石に知らない。ここは大人しくしているのが得策。たとえ景色に興味を持って質問したりとかはご法度。一気に不信感を持たれて危うくなってしまうだろう。
それに森は、ガミラスとイスカンダルが二重惑星であるという事を知っている。知っていなければ、今こうしてバレラスの開口部から覗いている美しい星を見て感想を零している事だろう。
例えは、「ここの月は青いのね」など。
しかし何も喋らないというのも不信感を覚えられてしまう。なので時々会話を行うこと。
「これからどちらに向かうのですか……?」
「デスラー総統府になります。到着次第、デスラー総統への謁見が予定されております」
「……分かりました。こちらとしても失礼の無いように努めます」
やはり、この車両はデスラー総統の元に向かっている。本物のユリーシャがデスラーと面識があるのかは分からないが、上手く切り抜けてとにかくWunderがここまで来るまで誤魔化し切りたい。
要人警護用車両は音もなく高速道路を滑っていく。車輪で走る地球式とは違いUFOの様に浮遊しながら走る車両は護衛の装甲車両を連れて総統府への一本道。バレラスでも一番の大通りに出、天まで届くかの如く聳え立つ総統府「バレラスタワー」を正面に望む。
「……大砲みたい」
「大砲?」
不意に漏れ出てしまった言葉にタランが反応して、森は慌てる。
「あっ、ごめんなさい。でもすごく高いですねこの建造物は」
「バレラスタワーですね。ガミラス中でこのタワーを超すような建造物は存在していません。ユリーシャ様は大砲と形容されましたが、流石にあの先端から大口径の陽電子カノンは出ませんよ」
何とか疑われなかった様だ。森は微笑で誤魔化しバレラスタワーを見上げてみる
……目視だけでも全高1000m以上はある。かつての地球の大都市を思い出させるかような超高層建築に圧巻されながらも、森を乗せた車両は総統府へ滑っていった。
(ここは本来、……に満足した人だけが来……の場所。なのになん……の?)
これは……夢?でも凄く知ってる声なんだけど……
「……もうそろそろ死ぬの?」
リク?!
(……まずは話を聞きなさい。リク)
リクと私を知ってる人なんて、あの時に私以外亡くなってしまったし……誰なの?
(色々言いたいことがあるけど、これはハッキリしているわ。あなたは死んでない)
まさか……風奏さんなの?
誰かに肩を揺さぶられている……お願い、もう少しだけ聞かせて。もう少しだけ見せて
「アカツキ……?」
「……」
古代の言う通りに医務室に向かった結果、メルダはハルナを見つけることが出来た。だが、ハルナの様子がおかしかった。
眠っている様なのだが、声をかけても肩を軽く叩いてみても、ただ手を絡ませたまま全く動かない。医学的知識を持たないメルダからしてみても変な状況と感じたのか、一応首元に軽く触れて脈を確かめるが脈は正常のようだ。
佐渡は現在沖田艦長の往診中。従ってハルナの状態がおかしい事を伝えるのは走って艦長室に向かうしかない。
「サド先生を呼ぶべきか……」
「メル……ダ?」
何かから引き戻されたハルナはゆっくりと目を開けた。頭を重そうに持ち上げて焦点の合わない目をこする。だんだん焦点があってきて、ハルナは鮮明な景色を確認した。
「眠っていたのか……?」
「分からない。このままの状態でリクの事を考えていたら急に意識がフワフワしてきて、そのまま……」
指を絡めた状態の手を撫でながらそう答えたハルナの顔は少し落ち着いていたが、自分の身に何が起きたかの理解が追い付かず困惑していた。
理解しがたい事情にハルナが頭を回そうとすると、何処からか音が聞こえた。
「あっ……」
ハルナのお腹が鳴り、一瞬赤面する。
「そういえばお昼時だな。何か食べないと倒れるぞ」
ちょうどいいと思い、メルダはハルナを連れて食堂に向かった。
______
「えっと、これってお昼ご飯?」
「そうだが?」
「ちがうこれはデザーt」
「お 昼 ご 飯 だ が ?」
ハルナを手近な席に座らせたメルダが注文してきたものは、「大マゼラン到達記念 マゼランパフェ」だった。時刻は艦内時間13時半ちょうど。各々定食を頼んで仲間たちとワイワイと食べている中で、何故かパフェを注文してきたメルダ。そしてそのパフェにはスプーンが二つ刺さっていた。
「以前に食べたアマノガワパフェよりもサイズが大きくてな。食べるのを手伝って欲しい」
メルダの言ったことは完全な噓……マゼランパフェのサイズは天の川パフェとそう変わらない。ただ味やトッピングが変更された新商品なだけだ。全く隠せていないバレバレ過ぎる嘘にハルナの方も緩み、スプーンを取る。
「美味しい……」
「テロンの考えたパフェは全ヒューマノイドの味覚を支配する事だろうな。パフェの魅力に囚われた私が全力で保証する」
「それ自分で言っちゃう?」
「別に問題ないだろう」
そんなたわいもない会話を展開し、パフェの器からアイスやチョコが消えていく。パフェも残り半分になったところで、メルダは本題を切り出した。
「アカツキ、済まないことをした」
「?」
「2人の置かれた状況を知らずにあんな話をしてしまった。私の過ちだ」
スプーンを器に置いて頭を深く下げた。
「えっちょっ……流石にあの場で瞬時に気付く事とか誰でも出来ないからメルダは悪くなんかないわ。でも、パフェ。誘ってくれてありがと」
「……そうか」
「……あの時ね、夢みたいな物を見ていたの。見覚えのある海でリクと……風奏さんが話していたけど、覚えているのはそれだけ」
ハルナの口から語られたのは、ハルナが見ていた景色だった。眠っているような状態でハルナが見ていた者は焦点が完全にあっておらず、ピンボケの映像を見ている様だったらしい。それでもリクの姿は認識できたようで、「誰なのか分からなかった」というヒント無しの八方塞がりな状況ではなかった。
「海? アカツキは海を見た事あるのか?」
「見た事はあるけど、テラフォーミングした火星の海はお世辞でもとても綺麗な物じゃなかったわ。でも……」
「どこかで見た事があるという事はただの夢という事でもないのだろう。それが現実で見た光景かどうかはこの際問題ではない。問題はフウカと言う人物だ。ムツキにとっては母親。アカツキにとっては最も親しかった人……と言う認識で良いか?」
「うん。私からしてみればお母さんに近い人かな。私の家片親でさ、お母さんの顔は知らないの」
「そうか……景色からアプローチをしよう。覚えている限りでヒントになり得そうな情報はないか?」
ハルナはそこから唸りながら思い出し始めた。糖分が足りないようでいつもはあまり食べないパフェを口に運びながら数分唸ってみると、一つの記憶がヒットした。
2196年。地球の中央大病院の一室での記憶だった。正確には場所を認識したのは意識を取り戻してからなのだが、場所を覚えておく都合上「夢の中」では困るため「中央大病院」と記憶している。
「……私が意識を失ってたらしいときに見たあの海。空の色は違うけど……」
「……我がガミラスにもあの世と言う概念は存在している。死者の国とか高位の空間だとか、宗教的な物としてある所にはあるらしい。だがアカツキが見たのはそれとはまた別のものかもしれない。……そして今ムツキがいるのは、アカツキが意識を失っていた時にいた空間と同じかもしれないな」
「同じって? 空の景色は違っていたけど……」
「例えば……これを見てくれ」
そういってメルダはパフェの器を指さした。
「この食べかけのパフェ。アカツキ側からは何が残ってるように見える? なるべく目線を下げた状態で見てくれ」
急にパフェの残りについて聞かれてきょとんとする。でも真剣なメルダの顔を見て、「何かあるのかな」と思ったハルナは器を見てみる。
「バニラのアイス……かな」
「そうか。こちらはバニラアイスにチョコチップ、それに茶色いチョコアイスの残りがあるぞ。色々混ざっているからマーブル柄となっている部分もある」
「でも、パフェとあの空間に何の関係があるの?」
「関係ある訳がないだろう。だが、アカツキのいた空間は見る人によって異なる景色を見せているのだろう。見る方向や受け取る情報とか様々な要素はあるかもしれないが」
「心象風景……って事?」
「恐らくな」
あの海の景色は心象風景とのこと。見る人ごとに姿を変える物だと仮説を立てたメルダにはまだ疑問が残っていた。
ハルナがやった事は、一般常識からみてもテレパシーじみている。他人が見ている風景をぼんやりとではあるが認識したそれは一般の理論に基づけばあらゆる科学者が一斉に匙を投げる事だろう。
だが、Wunderに再びやって来たメルダは山本とアスカから2人の大まかな関係を聞いていた。
「相思相愛」その物らしい。
互いが互いを想う状態であるそれは、時に危うい物ともなる。想い人が急に倒れてしまったら潰れてしまう可能性もある。
だがハルナは何とかして潰れないでいた。周りの助け等も借りながら何とか正常を保ってきた彼女は、事ある事にリクの病室にいるようになった。
そこまで分かってはいる。だがそれがどうしてテレパシーじみたものになるのか。メルダは分からなかった。
「おやおや。昼ごはんにパフェとは豪快な事にゃ」
ふと聞こえた方向に顔を向けてみると、マリと赤木博士が立っていた。
「マリと……アカギ博士。元気そうだ」
「この通りね。さっき名前思い出そうとしたでしょう?」
「そうではない……」
赤木博士に弄られながら頬を膨らますメルダを撫で繰り回すマリ。この女性陣の中で一番年齢が下なのは一応メルダだ。
一通り撫で繰り回したマリが何時もの口調でやや真面目な顔をした。
「ところでメルダ。随分難しい顔して唸ってたけど考え事かにゃ?」
「そうだ。私の手持ちの知恵と知識では解決しないのだ。出来れば援護を頼みたいのだが……アカツキ、話しても問題ないのか?」
「大丈夫。マリさんと博士なら、私達の昔話も知ってるから」
ハルナの同意も得て、メルダは事の経緯を話し始めた。
_______
「他人が見ている景色が見えてしまったねぇ……。以心伝心とかそう言うのはあるけど、意識を失っている人間との事例は聞いたことがないわね。シナプス間を行き交う電気信号が手を介して他人に流れ込んだり引き込んだり。ハッキリ言って厳しいわね」
「やはり、科学的には厳しいのか?」
「科学を用いて人間の心理を解くのはたとえ逆立ちしても出来ないわ。倫理を捨てれば出来るかもしれないけどね。例えば、脳を丸々コンピュータにしたりとかね」
半ば恐ろしいことをすんなりいう辺り「出来るかと言われれば技術的には出来る」事を暗に伝えている。現にMAGIシステムは人間の脳の構造を応用した第七世代有機スーパーコンピュータ。その中核に「ギリギリまで脳を模した有機ユニット」を用いているあたり「やろうと思えば出来てしまう」のだろう。
「……ねぇ、リっくんの事どれくらい好きなの?」
「?!?!?! ゲッホゴッホゴッホォッ!! えぇ?!?!」
急に奥まで踏み入った質問に驚き、飲み込んだパフェの進行ルートが気管支に緊急変更。思い切り咽てしまった。
慌てたメルダが水を飲ませて何とか落ち着かせる。
「ちょっとマリ?! いきなり何聞いているの?!」
「ちょっと気になる事あって、もしかしたらそれて分かるかもしれないんですよ」
赤木博士がマリの爆弾を止めようとするがいきなり爆弾を投げつけたマリの顔はまじめだった。……間違ってもマリはギャグとしてコレをやったわけではない。革新に至るための質問としてコレを聞いたのだ。
「えっと……どれくらい好きって言われても……どう表現すればいいのか……分からないんです」
「え?」
「幼馴染っていうやつだと思うんです、小さい頃から傍に居て当たり前って感じだったので。でも冥王星の時に何かに撃たれたような衝撃とか音とか色々感じてしまって……」
「アカツキって、案外乙女になったんだな……」
「乙女って言うより、結ばれてからお互いをぶっ壊れ性能にしてしまうバフを付与し合ってる感じ。何でもいけるわけじゃないと思うけどぶっちゃけ勘さえつかめれば大抵出来るはずにゃ。それで……どれくらい好きなの?」
マリの言うぶっ壊れ性能……「突出したスキルを持っていたり勢力等のバランスを根底から破壊させる事が可能な性能」という意味を持つ昔のスラングで、現にこのぶっ壊れ性能保持者多数存在のお陰でイスカンダル航海は成り立っている。象徴的な物を上げてみると……
第一に沖田艦長。老練な指揮と状況判断と圧倒的な引き運でここまで船を引っ張て来た。第二次火星沖海戦では艦首陽電子衝撃砲でガミラス艦を撃沈し、英雄とも呼ばれた。バラン星では波動砲使用を敢行してエネルギープラント着弾と同時に急速バック。敵艦隊の重要な足を奪い七色星団では耐えて耐えて耐え抜いて、ここぞと言う時に艦の全スペックを開放し意表を突く攻撃を用いて敵艦隊を撃滅。敵旗艦をイオン乱流に誘い込んで押し込み、勝利をもぎ取った。
第二に真田副長と赤木博士。論理を武器にして状況を打開し、正体不明の敵に対しても対応を行った。
真田はイスカンダル次元波動理論を解明、それを元にして波動砲基礎理論を構築。
赤木博士はMAGI開発者として適正異星体からのハッキングに対して迎撃。無限進化を続ける敵に対しMAGIを用いて
自滅を促すプログラムを送り込んだ。
さらに、並行宇宙に存在を副次的ではあるが証明。Wunderに残されたマーキング跡からWunderの正体についての仮説を唱えた。
第三に2人でようやくぶっ壊れ性能枠として立つことが出来たハルナ&リク。
この夫妻に関しては言うまでもないが、2500mの人類史上でも見られない巨大艦艇を戦闘艦に改装。波動エンジンの実装と波動砲の開発の一端を担う。さらにプログラミングにも秀で、その場でのコード777の手動制御を敢行しそれを完璧に最後まで制御しきるほど。明らかに「人一人が持っていいスペック」を越えている。
終いには両想いになりスペックにブーストがかかり、2人そろっているときは「常時ブースト状態」とも呼ぶべきバランスブレイカーとなった。
そんなチートコンビ一角を担うハルナはと言うと……現在真っ赤になっていた。耳の先まで真っ赤にしていて近くに寄れば暖を取れそうな程になっていた。
「……分からないんですか? こうして話してるだけでも顔真っ赤ですから。……正直、一緒に居られるならもう何でもします。地球に帰った後の未来とか……気づかれないように何度も想像したくらいですから」
「告白して結ばれても尚こんな感じでぶっ壊れバフ……まさかにゃあ……」
何かに納得した感じのマリはタブレットを操作してとある資料を見せた。
「バフの話は置いといてっと……少し昔にね、地球でこんな学問があったのよ。これ見て」
そういってマリが見せたのは、形而上生物学の内容。かなり専門的な用語で書かれていて、メルダからしてみれば地球言語の嵐で全く読めない。
「これは……なんて書いてあるんだ?」
「形而上生物学と言う学問での生物構造の定義だね」
「形而上……形而……神? 神が絡んで来る学問か?」
「おお~飲み込み早いね~要はそういう事。」
「……いや分からない。生物は気の遠くなるような年月を通した進化の産物ではないのか?」
「それは通常の生物学の定義にゃ。こっちは神様絡みの生物学。」
いきなりの神様絡みの学問登場でますます議題はカオスになっていく。
しかし、そこに1つの石を投げ込み注目を集める。
「これはね、ユイさんの研究テーマだったのよ」
「ユイ?」
「私の先輩、すでに亡くなった人だけど。同じ大学でコレを専攻してた時があるんにゃ。確か、魂の物質化とか人間を神様に進化させようとか。周りからは魔術工房とか呼ばれてたらしいけどそんなの気にしない気にしない。でも今回必要なのはそこじゃないんにゃ」
口と一緒に指先を動かしてページを進めていくと、とあるページに辿り着いた。
「人間を形作る物質とその物質の器たる自我境界線。この二つで大抵の生物は成り立っているの。そして自我境界線が何らかの外的要因で飽和……つまり無くなってしまうと、何処からが自分で何処からが他人か分からなくなるの。簡単に行ったら、自身の形状が崩壊してしまう」
「ハルナっちがその景色を夢ではないと確信しているなら、もしかしたらだけど、お互いの自我境界線が溶けかかっているのかも」
「自我境界線……?」
「何処からが自分で何処からが他人かを線引きするための壁にゃ。それは大人になるまでに出来上がるけど、もしそれが愛とか恋とかで一部の壁が融合しかかってたら、リっくんの見てた景色をハルナっちが見れたのもこじ付けだけど説明が付くにゃ」
「えっと……それってどういう事ですか?」
「4年位前にリっくんがハルナっちにした事がハルナっちにも出来るって事。ハルナっちがあの海で必死に泳いでた時、リっくんが岸で引っ張り上げてくれたんでしょ? あの時のリっくんが『ハルナっちがが見ていた幻』じゃなくて『リっくん本人の意識』なら、可能性大有りじゃないかな。その頃から自我境界が融和しかけてたとするなら、今はもっとやりやすくなっているかもしれんにゃ」
マリの仮説としてはこうだ。
リクとハルナの持つ自我境界線が4年前から徐々に融和しているのではないかという事。融和しているという事は考えていることを双方向で多少不安定だがやり取りできて、「人間同士のシンクロを用いてリクをこちら側に引き戻せないか?」というのが、最終的な結論となる。
何故マリが「人間同士のシンクロ」に行きついたのか。それは、過去にユイから「形而上生物学を実証するとある巨大物の概念図」を見せられたからだ。
小型艦船にも匹敵するくらいのサイズを誇るそれは四肢を持ち、人型だった。搭乗員と機体を神経的に結んで……シンクロさせて稼働するそれは、機体と搭乗員の魂を結び人を超えた力を発揮する。
ハルナにも思い当たる事はある。
まだWunderがBußeだった頃の話になる。その頃は研究室と名を歌ってはいるが2人しかいない状況だったが、資料のやり取り等でも「あれ取って」と言ってすんなり伝わった。
そしてこれを挙げるのはどうかと思ったが、「ハルナって…片付けさえ出来れば……なんだけどな」と、朧気ではあるが「リクが何を考えているのか」を感知していた。不明瞭な部分はあれどちゃんと伝わっていた。
「人間同士のシンクロ……それを自分の意志で出来ればリクを引き戻せるの?」
「それでリっくんのいる空間に飛べればの話だけど。リっくんが意図に気付いて向こうからのアプローチとかあったら最高なんだけど、双方向受信はお互いにセンスがいるんにゃ。どちらかが秀でていても両方じゃなきゃ無理」
「分かりました。やってみます」
何とか作っていた微笑を取り払い、ハルナの目は決意をあらわにし輝いていた。マーズノイド特有の赤い虹彩が揺らめき、そこに火が灯った。
「……本来なら是が非でも止めるんだけど、リクハルならたぶん行ける。前例もあるみたいだし」
「本気……なんだな」
「止めないで。ねぇ……」
ハイライトの陰りを塗り潰し、その目の美しい虹彩は周囲の女性陣を見据える。その目に星を取り戻した……とでも例えるべきだろうか。
そんな彼女は最後に会話をこう締めた。
「好きを理由にしても……いいよね」
「やはり、厳しいですか」
「こちらとしても手を結ぶ事は大きな力を得ることになるが、力が余りにも過剰になってしまう。互いを考えればここで別れる方が最善だろう」
「そうですか……」
艦長室での会談は進み、互いが紅茶を淹れ合いながら話を続けたが思う結果は得られなかったようだ。
沖田艦長は、この際に101艦隊との協力関係を築きたいと考えていたのだが、正直言って望みは薄かった。第一に、101艦隊がシルビア4……もといレプタポーダに突入を行ったことによる後始末の存在が大きかった。ガミラス本星にはカモフラージュ用でライブ映像を送り続けていたが「それですべて何とかなる」訳でもなく、早急に帰還するように言われており到着次第事情聴取が行われることだろう。
しかし、ガミラスへの突入作戦の存在を聞いたクダンは悪い笑みを浮かべてこう言った。
「なるほどなるほど、それなら少しだけ遅れて行こうかな? Wunderの大火力の巻き添えを食らえばフリングホルニもひとたまりもありませんからね」
突入作戦の存在を見て見ぬふりをしてちょっと遅れて行こうというのだ。政治的中枢が混乱している状況下で帰還し、「調査なんてやっていられる暇もない」状況下でこのマッチポンプをうやむやにしてしまおうというのだ。
この発言にディッツは激怒。しかしそれも早々に沈静化し頭を抱え始めた。激怒からの頭を抱えるこのモーションはもうテンプレートと化してしまっているのだろう。
「オキタ艦長済まない。レプタポーダにカチコミを入れた以上我々は寄り道無しで本星に向かわなければならない。状況報告と総統府への出頭、形だけでも調査を行わなければならない。力になりたいのは山々なのだが……」
「いえ、こちらとしても無茶なお願いだったことは理解しています。……少々欲が出てしまったという所でしょう」
「欲深いですな」
頭を掻いて誤魔化す沖田艦長を見て、ディッツは呆気に取られていた。大マゼランに侵攻、もとい航海してきていたテロン艦の艦長がこうしてガミラス軍の高官と何てことないように話している。
簡潔に言って、「イレギュラー中のイレギュラー」。
もしもこの光景を他の高官が見ていたらどうなるだろうか?
ハッキリ言って皆一斉にこの状況に目を見開く、もしくはクダンに与えられた「変人」という肩書がさらに豪華な物にになるだろう。
「とはいえ連絡要員くらいは必要ですな。例えばメルダとか」
「娘を派遣か……本気で言っているのか?」
「ここの所大忙しだったから、しばしの休息という事でどうだろうか?」
「……一理あるな。機体を工廠に持ち込む以上101艦隊は休息期間に入る。それにここから本星まではそれなりにかかる。オキタ艦長、この船は最終的にはイスカンダル星に向かうという事でよろしいか?」
「……まぁ良いか、娘にはこちらから伝えておこう」
「パパさんからの特別休暇か……娘が離れてくぞ心配か?」
「からかうな。子離れもせんといかん」
談義は終わり、紅茶は進む。再開と初対面を果たした沖田艦長とクダンとディッツ。互いの行く道は今回は違うが、結んだ親交は解けないだろう。
この時クダンはこんな事を思っていた。流石に口に出したらディッツに睨まれそうなのであえて口には出していないが、
「オキタ艦長とこの船の航海に幸あれ」と。
閑話でした
次の話でフリングホルニとWunderは分かれてWunderは元の航路に戻ります。ここまでエヴァ要素が少なくなりかけていたのでようやく入れることが出来たので満足です。
それにしてもメルダ……ある意味強キャラですね。本当にいてよかったです
それと、以前シルビア4へ100式が降下する描写がありましたが、読者の方にそれについて理工学の面からの考察をもらえました。
syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=298623&uid=311293
次の話はまだ製作中なのでまだまだ時間がかかると思います。多少長くなっても長ーく待ってもらえると嬉しいです。
それでは、まだ次回でお会いしましょう
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