宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
2028年 AAAWunder艦内音声ログ
[633工区落下軌道突入直前]
バレラスから飛び去ったデウスーラ二世のコアシップは第二バレラス内の特秘ドックに着艦した。床面から着底した事が分かる震動が響き、森は行動を起こす事にした。
「ここから逃げましょう。貴方の身をお守りする事が、私の任務です」
「そう言ってくれると思ったわ」
どうやらノランも同じことを考えていたようだ。
そう言った森は皇族用の長いスカートを破いて短くし、履物も脱ぎ捨てた。
「それと、やらないといけない事もあるの。Wunderがイスカンダルに向かえる様にする為に」
「何をなさるおつもりですか」
何をするのか分からないノランは問い、森はそれに振り返り言葉を放った。
「波動砲を止めるのよ」
管制室から飛び出したタランはそのまま真っ直ぐ特秘ドックに向かい、デウスーラ二世に乗艦した。煌びやかな装飾が今では鬱陶しく感じてしまう。気が散る。何故633を落とすのか。タランにはまるで分らない。
頭の中で疑問とデスラーに対しての疑念が渦巻き、タランはいつの間にか艦橋の入り口に立っていた。
「お待ちください。現在、総統は作戦行動中です」
「緊急だ。通してくれ」
「お引き取り下さい」
「通せ!! 帝都が滅びるのを眺めているつもりかっ!!」
タランの怒鳴り声に怯んだ歩哨を押し退ける。歩哨が止めに入るが強引に振り払い艦橋に押し入ると、上方のモニターを眺めるデスラーの姿が見えた。落ち着き払っていて何もかも思い描いた通り、まるで「作戦通り」という雰囲気を醸し出している。
「総統、どうか真意をお聞かせください!」
「お引き取り下さい!」
「構わない」
艦橋から何とか追い出そうとする歩哨をデスラーが手で制し、タランは拘束から解放された。
「何故633工区をバレラスに落とすのです! あなたは……っ!」
「これは通過儀礼だ」
「通過儀礼……っ」
帝都存続の危機とも言い換えられるこの現状を「通過儀礼」の言葉一つで片づけているデスラーが、タランには全く分からなかった。まさしく自身の意志でこの破壊を行おうとしている。
「バレラスはヴンダーと共に消滅する。ガミラスはその尊い犠牲をもって、旧き衣を脱ぎ捨てる。作戦終了後、第二バレラスはイスカンダルに降り立つ」
「私はここに宣言する! 今この時、この機動都市要塞こそが、ガミラスの新たなる帝都! 新たなる中心! 新たなるバレラスであると!」
「そしてこの機動都市要塞こそが、ガミラスとイスカンダルを繋ぐ架け橋となるのだ!!」
「遷都……大統合……架け橋……っ」
デスラーが何を考えているのかが分からない。あれ程ガミラスの為に動いたデスラーが何故こんな事をしているのか。総統はそのことに興味を示したのだろうか……。いや、裏切られたんだ。
多くの閣僚を抱えているが、実際は深い深い意味で誰よりも孤独。唯一頼ったのはスターシャだけ。だが、そのスターシャが地球に手を差し伸べた。
全てガミラスの為、イスカンダル主義の為。その為に救済を行うべく大小マゼランを統一し天の川銀河に手を伸ばし地球に目を付けた。その地球に手を差し伸べたスターシャに対し、彼は「裏切られた」と思うだろう。
ガミラスが環境改造をしているあの惑星に、イスカンダルは次元波動理論の力と希望を送り込んだ。あのヴンダーにはイスカンダルの力が組み込まれている。ガミラスに牙をむき大きな混乱をもたらしたあの船はスターシャが関わった。
たったそれだけでも「唯一頼れていた人からも裏切られた」と考えても可笑しくない。
デスラーは以前からいつからか気まぐれを見せるようになり何か別の事に執心を見せ、あの日からヴンダーに興味を見せた。「イスカンダルの力を一身に受けたこの世界ならざる宇宙戦艦」を。
極端な拡大政策と異常な軍拡、大小マゼラン統一から天の川銀河への進出と、「居住可能な環境の惑星」の捜索と植民惑星の増大。そしてガミラス星と同じ環境をそっくりそのまま作った宇宙に浮かべた「空間機動」要塞都市。
結びつかなかったこれらが、今この瞬間に結び付いた。
「……貴方は……帝都を潰したいのではない。違いますか?」
「貴方が破壊したがってらっしゃるのは、旧い物。旧来の貴族、人民……バレラスタワー」
「……」
「あれは只の塔などではありません! アレは砲台……イスカンダルに向けられた恫喝の砲台です。御存じなのでしょう?! かつての一派の暴走、イスカンダルの御業であるコスモリバースの強奪未遂を! 貴方は、たった一人で何をお抱えになっているのですか!!」
タランは気づいた。気付いてしまった。デスラーが何を抱えてここまで来ているのか。
コスモリバースは星を再生させる機能を持つ「イスカンダル次元波動理論の果て」とも呼べる代物。タランは実物を見ることは叶わなかったが、それの存在を知っていた。
ガミラスはサレザー恒星歴1000年を迎え今も尚栄えている。だが、「サレザー恒星歴以前の事」は歴史に一切残っていない。
だが、唯一伝わる古い神話の一節以外は。
《すると船は、大きく回って滑り出しました》
《向かう先には双子の星》
《その一つを差し出しながら、女神は王様に言いました》
《そなた達に名を与えよう。……ガミラスと》
ガミラスは如何に領土を広げようとも、特定環境下でなければ10年程度でその土地の風土病により命を落とす。それは、考えうる如何なる方法を使おうとも解決する事はなく、大小マゼランを治める星間文明となったガミラス民族は、未だにガミラス星にしがみ付いている。
「この星にしがみ付いて何になる」
時折デスラーが発していたこの言葉、ガミラス星に対しての執着が薄く、むしろ無いに等しい。そしてガミラスとイスカンダル中間に建設された第2バレラスと言う「方舟」は、ガミラス臣民を可能なかぎり乗せて生き永らえさせるための最終手段。だがそれも一握りの臣民を乗せるのが精一杯。
人の間引きも必要なのかもしれない。
デスラーは、ガミラス星からガミラス臣民を逃がそうとしているのか……その答えに辿りついた結果、今目の前にいるデスラーは非常に険しい顔をしていた。
「……タラン」
そういったデスラーは自身の銃を取り出しタランに銃口を向けた。
「総統……っ」
「私には使命がある。その為には、この身を臣民の憎悪で焼かれても成さなければならない。ガミラス民族のため、恒久平和の為なのだよ」
黄金の銃は真っ直ぐに向けられ、タランはもう一歩も動けず、一言も喋れなくなった。
《現在》
Wunderからの通信を受け取った加藤は全機に当て一斉通信を開き指示を出した。
「という訳だお前ら聞いてたな! 敵要塞に再度肉薄し砲身部をロックオンしてWunderに転送するぞいいな?!」
『『『了解』』』
「あと式波と玲。お前らは戦術長の援護したら帰還しろ!」
『『何故ですか?』』
明らかに反抗的な返答にヘルメット越しに頭を抱える。
「自覚しろ飛ばし過ぎだろ、先にWunderに戻ってろ」
『……了解。先に戻ります』
「総員行くぞ!」
『『『了解!』』』
10数機の隼が飛翔する。16万8000の旅路を支えたパイロットたちの、ゴールへのミッションが始まった。
________
「アルファ1発艦作業を再開。カタパルトオンライン」
リフトに載せられたゼロ改、機首の赤い1号機が持ち上がる。AAAWunderから放たれた波動砲の影響は艦内外共に凄まじい物となり、艦内の全機能を一度再起動せざるを得ない程の物だった。それ故に発艦作業も一時中断となっていた。
「コスモゼロ改アルファ1、発艦を許可する」
「発艦する!」
カタパルトに押し出されたゼロ改は重力に従って一瞬降下し、機首を上に持ち上げて急上昇に入った。スロットルを最大に押し込みスラスターから青い噴射光を引き、重力を大きく引き離しながら大気圏の外側へと駆け上っていく。
「雪っ……!」
計器が異常加速を示すアラートを吐いている。この場にユリーシャがいなくて良かった。戦闘機の操縦課程を積んでいない者であれば加速度に負けてしまい、その場で失神する事だろう。
更なるアラートが鳴り響き、正面のレーダーに目を向ける。
敵機が10時方向から接近。数5。多分地表の航空隊基地から離陸した機体だろう。
操縦桿を思わず傾け射線を切る。敵機からの機銃掃射を機体を振って回避するが、背中に3機貼り付かれた。今は一刻も早く森……雪の元へ急ぎたい古代にとっては鬱陶しい物だ。
やむを得ない。操縦桿の引き金に指をかける。背後を取れば後は引き金を引くだけだ
瞬間、別方向から機銃の掃射が瞬き、敵機の主翼が撃ち抜かれた。レーダーに映る別の機体の表示。だがそれに被せる形で注釈が添えられる。
《Zwarke [Melda Dietz]》
ドイツ語表記の見慣れない機体名は置いておいて、その後に続くドイツ語表記の名前には見覚えがあった。
「メルダ?!」
『みねうち……露払いだ。急げ』
機銃の主はメルダだった。主翼を撃ち抜かれた敵機は煙を吐きながら失速していき、搭乗者は辛うじて緊急脱出したようだ。
それを見届けたメルダの元には一斉にヘイトが向き、狙い通りだと口角を上げたメルダは不規則な軌道を取りながら回避行動をとり始める。
『コダイ、敵機は本土防空隊だ。1機ではキツイぞ』
「それは君もじゃないか」
『心配ない。来るだろうと思っているからな』
来るだろうと思っていた。その言葉の通り、別方向からまた機銃のビームが敵機を爆散させた。実弾のような色をしたビームは地球製の特徴。
山本の駆るゼロ改とアスカの駆る改2号機だ。
『私に任せてください』
『私達にだ。どうやら数的不利は抑えられた、ここは私達に任せてもらおうか』
『うぅわ私たち来る前提で発艦したの?』
『そうでもなければ来てないぞ。カトウなら2人をこっちに回すだろうし2人は揃って飛んでくるだろうと思ったからな』
『メルダ。後でパフェ奢りなさい。トッピング盛り盛りよ』
『……いいだろう。全機構え、
メルダの号令に合わせ山本とアスカも共に突撃していく。ミサイルを撃ち尽くしていた山本とアスカは背後から機銃で蜂の巣にし、同士撃ちとなるメルダは極力機銃で翼を狙い撃つ。
『お前は成すべきことを成せ』
「メルダ……」
『古代さん、行ってください』
「ああ……ああっ!」
スロットルをもう一度強く押し込み、ゼロ改をさらに上昇させていく。目指すはラグランジュ1敵巨大要塞。
もう、失わない。必ず助け出す。
それを見送った山本は敵機に飛び込み叫ぶ。
「行っけぇぇええええ! 古代さーん!!」
森とノランは船外服で身を隠し巨大艦から脱出。艦首方向に位置するデスラー砲制御室に向かう。ドック内部には多くのガミラス兵が端末を持ち、あちこちに飛び回り作業を行っている。
『薬室調整急げ、大至急だ』
『砲身は?』
『磨耗率は許容範囲内、耐えられる』
『波動コアの方は?』
『今は問題ないが、念入りに頼むぞ。しかし信じられるか? 巨大コア8つでやっとなデスラー砲をコアシップのオリジナルコア一つで賄うとか本当にふざけてるな』
『ゲシュ=タム・コアではなく波動コア。我々ではイスカンダルオリジナルコアには敵わないな』
波動コア。イスカンダル由来である筈のものがここにある。でもそれさえ何とかすればガミラスは波動砲を撃てなくなるし、Wunderをイスカンダルに向かわせることが出来る。
「波動コアがここにあるの?」
「そのようですね。やはり……」
「やるわよ」
「本当になさるおつもりなのですね」
「止めないの? 今から私がやる事は、貴方たちにとって壊滅的なダメージをもたらす様な事よ」
「本当であるならば、今この場で無礼を承知してでも止めるべきです。例え……貴方がイスカンダル人じゃなかったとしても」
ノランは確信していた。この方、この人はイスカンダル人ではないと。根拠はない、怪しい言動等は無かった。それでも、違うと判断した。
B特殊戦群第442特務小隊の任務は、ユリーシャ・イスカンダルの保護。今は生き残りとして敬語対象の護衛。しかし保護した人物はそもそもユリーシャではなかった。これは広義では任務失敗を意味する。
「……いつから気付いていたの?」
「何かがおかしいと感じてはいました。確信に変わったのは今です」
「止めるの?」
ノランは数瞬指向を巡らせ、こう言った。
「今この場で撃ってでも止めるべきかもしれません。ですが……私の任務は、警護対象の護衛です。貴方は人違いだった。ですが、それをこの場で処理できるほど、自分は冷酷にはなれません。貴方が人違いであった以上、貴方を敵軍に送還します」
だがノランは任務失敗を受け、彼女を逃がす選択を取った。軍からは対象の抹殺を命じられるだろう。だが、今はユリーシャが人違いでテロン人だという事は自分しか知らない。ならば、彼女が死んだ事にして元の場所に送り返したい。
(惚れるなよ、ノラン)
(なっ! 誰が……!)
いつの間にか惹きつけられていた。それでも時折彼女が見せる寂しげな表情から、自分はもう入れない事を何処か察していた。
ならばせめて、彼女が望む人の元に帰そう。
「あなたの本当の名前を教えてください」
「……私は森雪。只の地球人」
「モリ……モリ様。貴方の成したい事を、微力ながらお手伝いさせていて頂きます。それが済みましたら、貴方を貴方の望む人の元へ帰します」
「私の望む人……」
「特務小隊を甘く見ないでもらえますか? あなたはよく、何もない空を見ながら悲しげな顔をしています。それは誰かを想っている顔です。私は心理課程も修了していますので。では、なるべく手早く済ませましょう」
まるで岩盤をそのまま切り取り宙に浮かべたかのようなその要塞は、敵機来襲にも怯えずそのままL1に静かに佇んでいる。対空掃射もミサイルも飛んでこない。
「黙りすぎだろ」
『ターゲティングとか初めて聞きますけどどうするんですか?』
第2次火星沖を体験していない面々はどうすればいいのか分からない。その頃の加藤は敵機を撃墜しながら敵艦のターゲティングを行う離れ業をしていたのだが、教えた事なんてない。
「あーそうだな。仕方ない、死に機能使うか」
『死に機能?』
「脳波アシストだ。操縦しようにも上手くいかんかったから切っていただろ? それでターゲティングするぞ」
元々コスモファルコンは、Wunder積み込み時に改良を受けて「脳波による操縦アシスト機能」を引っ提げてコスモファルコンγにアップデートされていた。しかし、脳波で操縦のアシストを行う機能は評判があまり良くなく、多くのパイロットが切っていて半ば死に機能と化していた。
しかし脳波感知機能の感度は馬鹿にできず、そのまま外さずに切る形で温存してきたのだ。
「アレ使うんすか!?」
「元々機器操作でターゲティング出来るようにはなってないからなコイツ。だったらそれ以外でやるしかない。全機、例の死に機能を立ち上げろ」
『酔わないっすよね?』
「自己責任だ。吐くならメット脱げよ」
「ここが制御室ね。ノラン、私の荷物は持ってきている?」
「ここに」
船外服の腰元の小物入れには最低限のスペースがあり、ノランは森から預かっていた端末をそこに保管していた。レプタポーダで預かった時からこの時まで、いつ言われても即座に対応できるように保管していたそれにようやく活躍の機会がやってきた。
「ありがとう。邪魔じゃなかった?」
「大事な物と伺っていましたので」
その言葉を背で聞きながら、森はPDAからコードを伸ばして最寄りの制御端末に接続した。
『ゲシュ=タム・コア1番から8番、制御信号受信』
『照準目標。大ガミラス帝星帝都バレラス。照準を固定』
「バレラスって、ガミラスの首都の?!」
「この兵器で帝都を狙えば、バレラスは消滅する……っ!」
「ノラン。……ガミラス星は、貴方にとって何?」
「私にとって……」
「ガミラスに併合されてガミラス軍に所属しているあなたは、この星を、ガミラスをどう思っているの?」
「……自分は、二等臣民としてガミラス本星に居住しています。ザルツは確かにガミラスに隷属しています、本来であれば滅ぼされていても可笑しく無い種族の身です。ガミラスの元についた事で、我々はザルツ本星はガミラス軍で酷使もされています。それでも……」
機器の稼働音が静かに響く。
「我が祖国ザルツを残したガミラスには、少なくとも感謝はしています」
ザルツ人であり二等ガミラス人でありガミラス軍人である。そのノランが出した結論は、「ガミラスに感謝はしている」だった。
ガミラスとの戦争でザルツは抗戦した。結局は敗退し滅亡を突きつけられたが、その戦いぶりに免じて二等臣民として生きる道が与えられた。
滅んでいれば自身に残るザルツ人としての誇りもクソもない。誇れる物があるから人は誇りは持てる。その点では、祖国を残したガミラスに、ノランは少なくとも感謝している。
「じゃあ、この波動砲を止めるわよ」
「……はい」
ノランの意志も固まった。見計らったかのようにPDAの画面を操作し、手早く管理者権限を取得する。
手慣れた手つきで端末を操作し、制御端末に表示されるガミラス語を時折ノランが翻訳し、操作を行っていく。
その様子を見たノランは、一つの疑問に辿り着いた。
「モリ様は、なぜ波動砲の停止を決断なさったのですか?」
「Wunderがイスカンダルに行けるようにする為よ」
「それ以外にも、理由がおありの様に見えます」
「……波動砲は大きすぎる力だと思うから。私達地球の人類は勿論だけど、ガミラスにとっても大きすぎるかもしれないし、もしかしたらまだ持つべきではないのかもしれない」
「これが……不要だと」
「私達地球人類は、大きすぎる力を得てしまった事が歴史上に数回あるの。そのたびに間違えかけて誰かが軌道修正をしてきた。それが無かったら、今頃人類は自滅している。イスカンダルから波動エンジンがやって来て、私達が波動砲を作ってここまで慎重に使えたのは、前例通りに早期に軌道修正した人たちがいたからなのよ」
「それは、どなたですか?」
「Wunderを作った『たった2人の技術者』よ。一言で言うなら、反則クラスの技術科夫妻かな」
そんな会話を交わしながら、森は操作を続けていく。
ガミラスと地球の決定的な違い。それは、生まれた力をどう縛るかだった。イスカンダル信仰の深いガミラスはイスカンダルから睨まれるような兵器の開発はし難い筈。それでも開発していたのは理由があるかもしれないが、唯一違ったのは「たった一人でも発射出来る事」だった。
その点を森とノランは知る由もないが、何となく想像はついていた。バレラスを狙うという事実を皆が飲み込むとは思えない。それでも発射準備が進んでいることは、引き金がただ一人に委ねられていて、現状誰も止められないからだ。
「それに、古代くんだったら多分止めると思うから」
「それが貴方の?」
「大事な人。真っ直ぐで冷静で頼りになる、かな。あと、間違っていると思ったらそのままにせずに正しいと思うやり方で行動する。だから古代くんもこれを正しい方法と思ってやる」
迎撃機の一機も出ない要塞は、加藤達コスモファルコンを敵と認識していないのかもしれない。そもそもの迎撃機がもういない可能性もあるが加藤達からしてみれば、これだけ接近しているのに無視を決め込んでいる要塞に対し疑念が渦巻いていた。
「いいか? 脳波ターゲティングは念じた個所にサイトマークが出る。取り終わったらWunderに送るぞ。沢村、篠原は来い。他は機銃で気を引いてくれ。念の為だ」
『『了解!』』
散開。に見せかけて加藤、沢村、篠原が砲身部に向かう。その他の機体は均等に散らばり各機各個射撃の構えに入る。敵要塞に等間隔に散らばった艦艇に向け機銃を発射。敵艦に損害を与えながら注意を引く。
「これよりターゲティングを入る!」
加藤、沢村、篠原の機体が大きく加速し砲身に対し垂直になる軌道を取る。大きく飛び上がったかと思うと次は垂直に降下。砲身スレスレの軌道を取る。
念じる。狙うべき場所を見つけ、念じる。カーソルを合わせ、引き金を引くイメージを頭の中で組み立てる。不意に、訓練時代によく言われたセリフを思い出した。
[目標をセンターに入れてスイッチ]
とうの昔の話なのだがそれが不意に蘇る。でもそれを意識してみる。
(目標をセンターに入れて……)
カーソルが当てられる。
(こうか? スイッチ!)
カーソルが引き絞られ固定される。カーソルの真下にlock-onの文字が表示され、赤色の点滅に変わる。
『隊長! 的付けれました!』
『こっちも完了。目標をセンターに入れて何とかでやれば早かったよ』
「篠原もそれ憶えてたのかよ。そのセリフ」
『耳が腐るほど聞かされてきたから流石に覚えてますって』
「まあ役に立ったしなコレ。全機退却!」
『『『了解!』』』
ターゲティング完了と同時に機銃で気を引いていた機体軍が引いていく。まるで潮が一気に引いていくかのような鮮やかな撤退は敵側に疑問を持たせたが、Wunder側が何をしようとしていたのかその意図を察せる者はいなかった。
_____
「L1の高エネルギー反応、依然増加中です!」
『こちら加藤。ターゲティング完了。照準データを送るぞ』
「来ました、敵要塞の波動砲砲身部です!」
全周スクリーンに重ねる形で表示されたターゲティング情報はL1の要塞砲身部を捉えている。続いて第一第二主砲の現状の砲身仰角での予想射線が表示されるが、案の定大きくズレている。
「超長距離狙撃用意!」
「エネルギー伝達係数正常。ショックカノン、エンジンからエネルギー伝導有」
「照準調整、第一主砲回頭右2度仰角-0.7度。第二主砲回頭左1度仰角-0.6度。南部さん、当ててくださいね?」
「勿論です、俺は大砲屋です」
「お願いします。アルファ1に緊急通信。これより、敵波動砲砲身部への超長距離狙撃を行う。弾道データを送信する。注意されたし」
「了解」
照準調整を観測通りに進め、見かけでは分からない程の仰角調整と砲塔旋回が行われる。調整が完了した瞬間、逆三角形のサイトマークが勝手に引き絞られ、照準が固定された。表示される射線はターゲティングされた照準のど真ん中を射抜き、射線を示すラインの色が赤に変化する
それを見計らったハルナは右腕をゆっくりと上げる
「第1第2主砲2斉射、用意」
ゆっくりと下ろし指先を正面に向ける。
「撃て!」
ハルナの下令で第一第二主砲が火を吹き、真っ白な色になり強化されたショックカノンの光が伸びる。減衰を許さず真っ直ぐに敵要塞の波動砲砲身に突き進んでいき、綺麗に捻じれ6本が2本の光となり、さらに捻れ1本の力強い光となり、コスモファルコン隊がロックオンしたポイント目がけて突き進む
『デスラー砲中枢制御システム再起動。薬室、ゲシュ=タム・コア、共に問題無し。デスラー砲の復旧、完了しました。デスラー砲に、余剰エネルギーの充填を開始します』
「発射準備に入られた!」
「あと何秒?」
「300ゲックです」
「つまり?」
「間に合うかはギリギリの差です」
その瞬間、小さくない振動が制御室に響いた。同時に警報音が制御端末から鳴り響き、警告ウィンドウが無数に開いた。
『警告。デスラー砲砲身部の損傷を確認。発射シークエンスを一時停止します。余剰エネルギー充填停止。コンデンサへの余剰エネルギー緊急流入を開始します』
「砲身部が?」
「モリ様、失礼します」
ノランが森の前に割って入り正面の端末を操作して、第二バレラスの全体図を表示させる。最大幅25キロを誇る巨大要塞の砲身部。その部分が赤く点滅していて警告文が重ねて幾つも表示されている。
「砲身部に光学兵器が貫通したようです。ヴンダー並みの威力の砲撃が可能な砲身を損傷させるなんて、いったいどうやって……?」
さらに操作して損傷状況を精査すると、損傷部分が溶けたかのような穴になっている事が確認できた。
「モリ様、先ほどの振動は、デスラー砲砲身が本星低軌道からのビーム攻撃を受けた事で起こった模様です。これほどの事が出来る船はガミラスには……まさか」
「でもこんな遠距離砲撃するのは、古代くんじゃないわね」
L1を正確に指向した主砲の2連撃は宙を駆け、一瞬の爆発を生み出した。
「第1射斉射終了。光学観測による弾着評価。……ターゲットに弾着確認、砲身部の損傷を確認!」
艦橋に歓声が響き、ハルナも思わずガッツポーズをした。もうフラフラなリクは親指を立てるのみだが、確かに波動砲の妨害は出来た。
「L1のエネルギー反応は?」
「観測によると、減少傾向にあります」
「そのまま観測を続行してください。第2射用意、仰角調整を」
航空隊がターゲティングした個所は他にもある。次はそこを狙うために砲身が細かく仰角を調整する。ミリ単位の誤差が着弾点の大幅なズレを生む。細心の注意を求められる超長距離狙撃の第2射の準備は着々と進んでいく。
「古代さんのゼロ改は今どこに?」
「位置情報をスクリーンにオーバーレイするわ」
赤木博士の操作でスクリーンに赤い光点と今後の予測軌道が重ねて表示され、光点に《α1》のコールサインが追加表示された。
「順調そうね。このままもう一発撃ちましょう。第2射、撃て!」
第一第二主砲からまた陽電子の束が飛び出し、捻じれ、また砲身部に突き刺さる。
「弾着確認。敵砲身部の損壊を確認。光学映像出します」
全周スクリーンに大きく表示された拡大映像は、敵の波動砲砲身から火の手が上がりスパークを散らし、破片を撒き散らしている様相。
「これなら撃ちたくても撃てない。あとは自爆目的でぶっ放すくらいにゃ」
「敵もそこまで思い切りが良いとは思えません。超長距離狙撃をしてもこっちに何のアクションも見せないのは、少々不気味です」
「第二バレラス砲身部損壊っ!」
「何処からの攻撃だ!?」
「本星低軌道上からです、低軌道上に存在する艦艇1!」
デウスーラ二世の環境が慌ただしくなる。低軌道上からの常識的な距離を超えた超長距離狙撃。現状これを成し遂げられる艦艇はガミラスには存在しない。ならば外に目を向けてみればどうだろうか。それが可能かもしれない艦艇が一隻だけ存在している。同じ神殺しの船だったあの船ならばもしかしたら。
「低軌道上から狙撃か……っ!」
ガミラス星地表から第二バレラスまでの距離は地球単位換算で実に19万2200キロ。低軌道上からの狙撃も考慮に入れれば距離が多少増減するが、誰も想定し得なかった超長距離狙撃を堂々と実行し見事に命中させた。
「砲身部多数の破孔を確認! デスラー砲発射不能!」
「まだだ……デウスーラを発進させろ。第二バレラスとの連動を切り、単艦での発射に移る」
「総統!! もうお止めください! あなたが今撃とうとしているのは、貴方の民となのですよ!?」
タランが止めるが、デスラーは止まらない。ここまで自身の使命を妨害し挙句の果てにはデスラー砲さえも阻止したあの船を、ガミラスの異端と臣民と多くの旧きものと共に葬り去る。
たとえ自身が憎まれても、自身を殺されようとも。
「だからこそ私がやらねばらならない。偉大なるガミラスと尊い臣民を犠牲にする罪。その罪は未来栄光私が背負っていく罪だ」
デウスーラ二世が浮上する。特秘ドックを突き破る形で強引な浮上を続けていくその頭上には虹色に輝く輪のような物が出来ていた。神殺しの船そのものの力を開放したデウスーラは、嘗てのエアレーズングと同じ力を放ちながら高く高く上っていく。
「デスラー砲。発射準備」
『発射シークエンス再開。コンデンサ内部の余剰エネルギーを充填開始。ゲシュ=タム・ドライブ励起状態に移行。コアシップ、オリジナルコアの励起を確認』
中央船体艦首に搭載された砲口が淡い桃色に発光し始め、重力子が蓄積し始める。艦橋にも微振動が伝わり始め、エネルギーが充填されていることが嫌でも分かる。
艦首砲口はガミラス星、帝都バレラスを向けている。彼をそこまで駆り立てるのは何かの課は分からない。ただ正面にせり上がって来た発射装置を握り、左手でコッキングレバーを引く。
構えた瞬間に、また警報音が鳴り響く。
「ヴンダー接近!」
低軌道上から凄まじい加速で吶喊を仕掛けるヴンダー。肉眼でもはっきり見える程の防壁を正面に構えたヴンダーはそのまま衝突コースを取り激突を仕掛ける。
Wunderのような波動防壁を搭載していないのデウスーラ二世にとって艦首損傷は、最強の力の損失と言う大損害になる。
だが、この船には「これ」が存在している。
「✕✕✕✕✕✕✕、展開」
低軌道上から速やかに離脱したWunderは要塞から浮上した敵艦を補足。波動砲発射準備に入っている「Wunderに酷似した艦艇」を確認し即時に戦闘態勢に入った。
「波動防壁正面に集中展開!」
沖田艦長の指示で波動防壁が正面に力強く展開され、主砲が正面を向き、凄まじい豪炎をノズルから吐き出す。
「第2船体全砲塔ショックカノン用意。目標、正面敵超巨大艦!」
「諸元入力完了、エンジンからのエネルギー伝導終わる!」
「撃てぇ!」
正面指向可能な砲塔は甲板と艦底部を合わせて8基。都合24門の主砲から放たれた陽電子の束24条の光は真っ直ぐに突き進んでいき、敵艦に突き刺さろうとする。
だが、1発も船体に届かなかった。
「敵艦被弾確認出来ず!」
「状況を確認!」
ショックカノンが有効打にならず動揺が広がる。
弾かれたのでは無い。1発も船体に届かなかったのだ。ドメル艦隊との戦闘で、ショックカノンは「装甲に弾かれた」。だが今回は船体に命中する前に「何か弾かれた」のだ。
「冗談じゃないぞ……ッ!?」
戦闘艦橋の入口で聞こえた声の主はメルダ。ツヴァルケを第3格納庫に着艦させてここまで走ってきたのだろう。大きく肩で息をしているが、敵艦が展開させた「それ」に対し驚愕を隠せずにいる。
「ディッツ少尉?」
「あれは
デウスーラ2世(エアレーズング)が遂に発進!
神殺しの船が2隻いるので、ここからは怪獣大決戦させようと思います。
覚醒Wunder(AAAWunder)を書いてエアレーズングを書くのは最初から決まっていたので、ここで書けたのは良かったです。
(同じ体格なので、この2隻)
それではまた次の話で!
(。・ω・)ノ゙