宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
2015年08月16日20時30分
二子山決戦開始210分前の記録
「ATフィールド、展開」
デスラーのその一言で、デウスーラ2世の正面に輝く壁が現れる。6角形に展開されたそれはWunderの正面火力の全てを受け止め、全て跳弾させた。
「絶対恐怖領域」、地球言語に翻訳するとそのような意味になるこの防壁は、何を拒絶するかによって受け入れる物と拒絶するモノを変えられる万能の防壁は、何もかもを拒絶していた。
オップファータイプ搭載型2番艦。デウスーラ2世の素体となった船の動力だったMark10は4肢を切り離され、デウスーラ2世のその腹に取り込まれ特殊装備と化している。原型となったオリジナルプラグを組み込まれたそれは、壊れたままを過ごした魂を載せ、目の前の対象に対し異常なほどの恐怖心を示す。
そうして生まれた防壁は生物無生物問わずあらゆるものを無制限に拒絶する。
そして防御兵装であり大量虐殺も可能。それが、補完による救済を目指して動いた船の成れの果てだった。
「あれはATフィールドだ!!」
メルダが叫んだ事実を認識するのに、艦橋要員は数瞬の時間が必要とした。だが、それを過去に実際に見て存在を理解している者達は、その事実の恐ろしさを一瞬に理解した。
Type-nullが発生させていた物と全く同種の光の壁。あらゆるものを拒絶し得る絶対無敵の防壁。それを相手が展開していた。
「どういう事……あの船はエヴァンゲリオンなの!?」
「狼狽えるな。もう一度斉射用意だ。太田、真田君、赤木博士。MAGI全権限とあらゆる観測機器と波長を用いATフィールドを解析できるか?」
「出来なくてもやります!」
「真希波、敵艦首部のエネルギー反応を観測。発射タイミングを予測できるか?」
「やりますっ!!」
「ディッツ少尉。ATフィールドの特性について、判明している事を全て教えて欲しい」
「了解した。だが我々にとっても未知が大きい領域だ。手持ちの情報は少ない」
「構わない。島、いざと言う時は艦首をぶつけてでも射線を反らせ」
「了解!」
「アナライザー。これよりMAGIシステムは敵ATフィールド解析に全リソースを投じる。艦内全制御系の権限の使用を許可する。艦の制御を支えろ」
『リョウカイ!!』
「沖田艦長……」
「あのATフィールドはこの次元で起こっている現象だ。ならばこの世界で成り立つ法則に従っているはずだ。たとえ神の力でも科学の力でもだ」
沖田艦長は宙将であり宇宙物理学博士号を持つ。軍人であり科学者の一面を持つ彼は、目の前の物から目を逸らさない。幸いにも、WunderはType-nullを通して発生したATフィールドを見た事がある。つまり辛うじて既知であり、完全な未知ではない。
「ATフィールドは位相空間を使用した防壁で、本来は機体のコアの振動を空間に与える事で生まれるものだ。それ故に『絶対恐怖領域』とも呼ばれてる。強度次第で視覚化と物質化可能な防壁だが、私も聞いただけでここまでのモノは見た事が無い」
「空間上に別の波を伝播させ位相の異なる空間を創り出しているという事か」
「それなら波動防壁も……」
「いや、波動防壁は波動エネルギーを用いて周囲の量子力学的な性質を変化させ、ある程度の攻撃を確率的に回避しているだけだ。空間位相を変化させているのではない」
「じゃあ、こちらが逆相波を与えて打ち消す事は可能か?」
「恐らく。だが、空間そのものを揺らす以上不可能に近い。この船には、エヴァンゲリオンが無いからな」
「同じ手段で壊す事は不可能か。観測機器を艦首方向の観測に全て回せ。島、第2船速で敵艦正面に向かえ」
『オリジナルプラグからのコールバック、規定値をクリア。デストルドー指向方向逆転の予兆なし』
人工音声が淡々とMark10のステータス状況を報告する。およそ人の所業とは思えない技術が用いられたATフィールドという防御兵装は、倫理観の喪失と引き換えに絶対防御を提供している。
オリジナルプラグ。Type-nullに搭載されているダミーの祖となったオリジナルプラグは、エアレーズングと共にこちら側に流れ着いたエヴァンゲリオンMark10のエントリープラグであり、紛い物ではなくパイロットそのもの。人工的に製造されたパイロットであり、製造時から人間的に正常な自我を持つことを完全に無視された調整が成されていた。
その代わり、機体を操ること一点に特化しており、神の偽物であるMark10の制御ユニットとなっている。
「タラン君は別室に通しておいてくれ」
「総統ッ!」
「……後で話そう」
護衛に機関銃を突きつけられタランは成す術がなく、艦橋から退出させられた。「後で話そう」とは言ったものの、デスラーに話す意思などない。口を封じさせて二度とその話をさせないつもりだ。
艦橋内に警報が鳴り始め、デスラー砲の方向に再び光が灯る。姿勢制御スラスターが艦首をゆっくりと微調整し始め、バレラスに狙いを定める。ヒスの独断によりバレラス臣民の緊急避難が行われていることはデスラーは知らない。だが、デスラー砲の一撃はそれらの抵抗すらひき潰し、何もかもを地理すら残さず文字通り消し去ってしまう。
「ヴンダー急速接近。砲撃態勢の模様」
「余剰エネルギー充填率、70バーゼルです」
「回避行動」
「間に合いません。すでに衝突は避けられません」
音速に近い速度で猛進するヴンダーを前にして、デウスーラは回避行動に入る前に側面を食い破られるだろう。
「……ATフィールドを全開にしろ」
「恐れながら総統、それではオリジナルプラグの生態ユニットが焼き切れます。以降のATフィールド使用は不可能となります」
「構わない」
「ですが……っ!」
オリジナルプラグは生体ユニットであり、機械ではない。それ故量産できない事が最大の弱点であり現状では整備も出来ないのだ。極めつけに製造方法は不明。つまり、現状では未解明テクノロジーで産まれた完全な使い捨てである。
「やれ」
「……っ」
デスラーの有無を言わせない眼光に異議を唱える事も出来ず、コンソールは操作される。目の前のATフィールドが青みを帯びていき、コンソールの表示が乱れ始める。まるで叫んでいるかの様に表示が乱れ、やがて光すら通さなくなる。
《還りなさい》
「撃ち方始め!」
再び32条のショックカノンが放たれる。現状撃ち続けても効果は無いことは分かっている。だが沖田艦長が言う様にATフィールドはこの世界のこの次元上で発生している現象であり、それ故にこの世界の法則に縛られている。
ならば観測機器で特性を見ることが出来るかもしれない。特性さえ分かればそれに合わせて攻撃を加えてATフィールドを貫通させられるかもしれない。
幸いにもWunderは波動エンジンを2基搭載している。余剰次元からの莫大な供給のお陰でエネルギーの心配はいらない。
「やはり、空間の位相がかなりズレています。通常空間と位相空間の境界面も確認しています」
「そこがATフィールドの正体か?」
「まだ分かりません。次元断層に入り込んだ際に本格的な解析を行えなかった以上、データが不足しています」
前述の通り、Wunderの面々はATフィールドを見た事がある。Type-nullが偏向ユニットを利用して発生させたそれは本来観測すべきものであったものの、偏向ユニット制御による余裕の無さから観測できていない。
従って1からデータを集めるしかない。少なくとも正体さえ分かれば戦闘以前の問題である「現代技術で突破出来るのか」が分かるだろう。
「境界面に異常あり、電磁波の遮断が始まっています! 観測不可になるまでそう時間もありません!」
「重力震による空間解析は?」
「可能です、空間波動エコーのみは依然全震幅帯での観測が可能です」
光学兵器を防いでいたはずの防壁が電磁波すら防ぎ始めた。マイクロ波から赤外線といった長い波長の光はすぐに遮断されていき、可視光線も時間の問題。波長の短い紫外線、X線、ガンマ線による観測なんかもそう持たないだろう。
幸いにも重力震による観測はいまだに使えている。それも一切の支障なしだ。
「空間波動エコーは通す……重力からは逃れらないのか」
「ちゃんとこの世界上で発生しているもののようです。……っ!?」
突如真田のコンソールが大きく乱れ、観測グラフが糸くずの様に変化する。一見ただの糸くずの様に見える観測グラフ。一瞬だけ形を成したその姿に、真田は戦慄した。
「人の……顔……っ」
《還りなさい》
「……ヴヴゥッ!?」
突然押し潰されるような感覚に全身を蝕まれ、相原は思わず頭を抱えた。これは攻撃なのか、咄嗟に判断出来ないほどの苦痛に反応が遅れてしまい何も出来ない。
「相原さん!? 皆さん無事でっ……!?」
「母……さん?」
「総司……!」
「守……」
「ユイさん……」
(これっ……全員幻影が見えているの!?)
相原が苦しみ始めたのを皮切りにしたかのように島が、沖田艦長が、真田が、マリが、そしてこの場にいる全員が苦しみ、あらぬ虚空に名前を呼んだ。
自身の心にどうしようもないほどの恐怖を強引に与えられ、辛い過去を強引に追体験させられる。それを救うかのように表れる大事な人の革を被った幻影が皆の前に現れる。
「グウゥゥゥッ!!!」
その恐怖が遂にハルナにも伝わり始め、何もかもすり抜けて自身に飛び込む恐怖に支配されていく。血で濡れた視界。迫る爆風。崩れ落ちた建物。そして、あの人の亡骸。
自身の記憶に残るあの時の風景が回り始め、自信を支配しようと迫り来る。
それと同時に迫って来るリクの幻影。しかし、何故か手を伸ばす気は全く起きない。
《還りなさい》
「……ッ!?」
《還りなさい》
《還りなさい》
《帰りなさい》
「ううぅぅ五月蝿い黙っててッ!!!!」
思わず口から飛び出した暴言にハルナは1つの疑問も持たなかった。普段はこんな事を口走る自分では無い。ただ分かるのはどうしようもなくブチ切れている事だ。
だってこの声は、紛れも無くリクの声だ。どこの誰かも知らない幽霊擬きに大事な人の声を勝手に使われては腸が煮えくり返る程度では済まない。
「アンタがリクを語るな消"え"ろ"ッ!!!」
ハルナは気づいていないが、その言葉には明確な怒りともう1つの何かが籠っていた。
それは殺意。ほんの一瞬の殺意の乗った言葉はリクの幻影を八つ裂きにしてしまい、リクの形だった何かはガラスの破片の様に崩れる。
今までハルナが持ち得なかったそれの由来はハルナ自身も知らないが、自分が強烈な殺意を向けた事を本人が知らない事は幸いな事だろう。
「お前……なんでハルナの姿でハルナの声で喋ってるんだ?」
低く重い声がハルナを振り向かせた。振り向いた先ではリクがハルナの幻影の首に手をかけていて、静かな怒気を滲ませていた。
「お前の間違いはハルナの姿を使った事だ。最愛の人の姿で殺そうとしても無駄だ。だって偽物からは、何も感じないんだよッ……!」
その言葉を最後に力を込めると、幻影はガラスのように砕け散り、リクも刃を収める。
敵の失敗は1つ。「大事な人の幻影」を見せた事だ。
だが、それでも「死者の」幻影に手を伸ばしている人は多い。動揺してどうすればいいのか混乱している人もいるが、混乱している方はまだ大丈夫な方だろう。手を伸ばして受け入れてしまったら確実に死よりも酷い事になる。境界まで行って薫の存在とその正体を知る過程で知った現象。「ATフィールドの飽和」と言われていたが、ハルナはそれを「死よりも酷い物」と捉えていた。
皆が飽和させられたらお終いだ。一気に幻影を潰すか追い出さねば全員一機に飽和されてお終い。Wunderの航行もままならなくなり人類も終わりだ。
「アナライザー! 操艦を半自動に切り替えて安全装置を全部切って! いざと言う時はあなたが操艦して! どんな無茶もして良いから!」
『リョウカイ!』
「リク、手を!!」
苦痛を文字通り消し、リクに手を伸ばす。どうすればいいのか方法は分かる、でも人1人の意識で出来るような事でも無い。
ならば、2人分の意識で解決するしかない。否定の意志を際限なく巨大な物にしてしまえば正気に戻したり追い返す事くらいは出来るかもしれない。何故なら、「ハルナは薫の娘」であるのだから。
覚悟は決まった。連れ添う彼も覚悟を固めた。
その手も心も再度結ばれた。
「お母さんッ!!!」
瞬間。その双眸が赤く輝き、魂が震えた。
急に人の気配が増えたのを感じ背後を振り向いた瞬間、誰かがいた。全員輪郭が溶けているが確かに人の形をしている。その数9名。男性が女性か辛うじて判別できるがそれ以外は分からない。しかし皆、腕に水色のバンダナを巻いている。受け入れようとしている皆は見えていないし察知もしていない。
(水色のバンダナ……?)
そして沖田艦長の座る艦長席の真横。そこに2人の誰かが立っている。唯一ハッキリと識別できるその2人は女性で、艦長帽を被り、目元をサングラスで隠している。もう1人は髪をベリーショートまで短くしているが、そこにいる筈がない人物だった。
(赤木博士!? そんなっ……博士は今「ここ」にいるのに!?)
リクにも見えている。だが、艦長とは別に現れた1人の少女がリクの目の前に浮いていた。もう10年以上伸ばしっぱなしの水色の髪と妙なパイロットスーツ。胸の中心に「00」と数字が書きこまれている。妙な髪飾りをしてハルナのような真っ赤な瞳をしている。
(貴方達に変わりはいないから、私の様な事はしないで。それと……私のクローンが迷惑をかけてごめんなさい)
何十倍にも引き伸ばされたこの一瞬。幻影なのか幽霊なのか分からない。ただ分かるのは敵では無い事。そして、確かに地球人であること。
(ちょっち恩を返すわよ。レイ、手伝ってくれる?)
(私の魂とアダムスの体ならば、可能です。ATフィールド、全開)
『余剰エネルギー充填率、80バーゼル。照準、テロン艦ヴンダー』
「デスラー砲、発射態勢。フィールド越しに発射する」
発射装置の引かれたコッキングレバーに手をかけ引き金にも指をかける。フィールドを酷使する事でチャージ中の大きすぎる隙を埋め、そのフィールドを貫通させる形で発射してWunderを消し去る。その後、バレラスを撃ち一度リセットしてしまう。
『オリジナルプラグからのコールバック、デストルドー理論値を突破。自己崩壊の予兆を確認』
Mark10のステータスの悪化を淡々と告げる。元が壊れた魂。見境なく拒絶を示す以上連続使用は崩壊を促す。量産不可整備不可使い捨てである以上これはどうしようもなく、デウスーラ2世は早々に切り札の一つを失いかけていた。
「発射態勢」
絞られたカーソル上にフィールドの激突したままのヴンダーが映る。激突した状態でそのまま動けなくなっているのは、おそらくATフィールドから外側に発散されている強力なデストルドーによる物だろう。操艦すらままならない状況下で酷い幻を見て幻影にすがった瞬間死ぬ。何より、多くの研究者がこれで死んでいるのだ。
『警告 Mark10からのコールバックに異常。ステータスに急激な変動あり』
人工音声が発した異常警報に1人の士官がコンソールに飛びつき詳細を開く。生体反応は最低限の生命維持の観点からは異常なし。しかし心理グラフに急激な変動が見られた。
何か強力な感情をぶつけられたかの様な変動を見せ、酷く動揺しているように見られた。
「あり得ません、Mark10の心理グラフを大きく揺らせる人間なんて……」
只々拒絶と恐怖を向ける事しか出来ないMark10が、只の人間が向ける強力な感情で小さくない動揺を見せる。Mark10の解析を行った士官からしてみればこれは有り得なかった。向けられる「全ての物」に対して拒絶を示し、まるで引き籠るかのようにしてATフィールドを展開する。それなのに攻撃でも何でもない筈の感情1つで機能不全を起こした。
まるで怯えている。それがその士官の抱いた印象だった。
「これはっ……強烈な殺意による物です。疑似的に死亡体験をした状態に陥っているかと思われます」
「死亡体験だと?」
「検証実験中の事故で、知人の幻影を受け入れてそのまま液状化した件が数件存在します。それを受け入れず、殺意を込めて何らかの方法で幻影を壊すか否定した場合であれば……」
生体部品は命。絶対防御を実現した反面、予想だにしなかった大きな弱点を抱えてしまっていた。ATフィールドは不安定なまま。向けられるデストルドーと押し潰すかのような恐怖も、向けられた殺意に怯み揺らぐ。
知らない力を強引に取込み制御した結果が、これだった。
知らない声を聞いた。女性の声で、儚く消えてしまいそうだがそれでも生きようとする声で発せられたあの言葉で全ての理解が追い付いた。
気付いた時には、この船の目の前に「ATフィールド」が展開されていた。あり得ないとメルダが言ったにもかかわらず目の前に光る壁がまるで角錐の様に展開されていたのだ。
敵艦のATフィールドと衝突し、その莫大な斥力がフィールド同士の隙間でせめぎ合う。その暴力的なまでの斥力の衝突に原子が巻き込まれ、強制的に核融合が発生する始末。目が眩むような眩い閃光の向こう側に、大きく軋み始める敵のATフィールドを見た。その瞬間、幻影が大きくひび割れ砕け散っていく。
「状況を報告!」
「幻影が消えました……ですがこれは!?」
自分の息子の幻影が消えて数瞬の動揺はあったものの、すぐに沖田艦長が各所に指示を飛ばす。それ以上に目を奪ったのが真正面に展開された全く別のATフィールド。中心からオレンジ色の波が全体に広がる六角形。あの次元断層で見た輝く防壁そのものであり、エヴァ無しでは展開など到底不可能であるはずだった。
「エヴァを載せていない筈なのに、どうして!?」
「多分、この船のアンノウンドライブがエヴァと同じものだからだと思う。Mark6……地球にやって来たエヴァンゲリオンとアンノウンドライブ、アダムスが同じ物らしいから。けど、それでは全然説明がつかない」
(赤い服の艦長は一体誰なの? どうやってWunderと一緒に来たの?)
「ハルナ、あの艦長達の事は後でも考えられる。今は目の前に集中しよう」
リクの一言で現実に引き戻され、正面を向いた。ATフィールドはまだ展開されている。フィールド同士を押し付け合うと破壊、もしくは侵食、中和が出来るのだろう。恐らく使用者の意志に沿った使い方が出来て、それこそ「基本これがあれば後は何とでもなるだろう」といったレベルで万能。意思次第で強度も上げられるかもしれない。
「島君、そのまま敵艦を要塞に落として!」
「落とすんですか!?」
「フィールドを壁にして押し込めるならさっきみたいな事は無い! フィールドが限界になる前に押し込んで行動不能にさえ出来れば勝ちだよ!」
「……第4戦速っ!」
「
ATフィールドを構えたままWunderは豪炎に押し出され敵艦を押し込んでいく。敵艦も負けじと押し返そうとするが、AAAWunderとして再覚醒したWunderの莫大な推力と斥力の前には敵わず、2500mの船体がじりじりと押し込まれていく。フィールドに依然変化はない。敵艦のATフィールドを侵食している以上こちらも侵食を受けていても可笑しくないのにも強度は見かけではまったく変化していない。
「……っ敵艦の波動砲発射兆候確認、残り12秒です!」
「上げ舵45傾斜で逸らせ!」
マリが感知した予測発射タイミングは残り12秒。射線をずらして回避しつつ同時にイスカンダルとガミラス星が射線に入らないようにしなければならない。
Wunderは艦首を持ち上げ自身を射線の外にずらしにかかる。ドメル艦隊との初戦と同様に莫大な推力と斥力を用いて艦首を尋常ではない勢いで持ち上げる。それは2500mの船体にも効果を発揮し、至近距離に存在する波動砲口がの向きが強引にずらされる。
発射態勢に入った敵艦にも重力アンカーのような機能があるのだろう。2500mの巨体を固定する以上凄まじい出力が必要であり、どうしても掠めることを回避できない。
「敵艦艦首に高エネルギー反応! 来ます!」
「波動防壁艦首へ集中展開、数秒耐えればいい!」
ATフィールドの外側に波動防壁が展開され、2枚張りの防壁で傾斜装甲を形成。そのまま波動砲が至近距離を掠める。波動防壁最大出力で被弾経始圧はおよそ18万TPA。それが炎に曝される氷のように溶けていく。
「被弾経始圧急速低下! 耐圧限界まで10秒!」
「徳川機関長エンジンリミッターを解除! 多少無茶してもいけます! コイルも今は無視で!」
「山崎聞いとったな!?」
『了解! 両舷リミッター解除、過負荷運転に入ります!』
リクの判断でリミッターが解除された波動エンジンは過負荷運転に入り、フライホイールから青白いスパークが発せられる。制御室への全員退避が遅れていれば全員死亡は免れない。唸りを上げる機関と共に出力が上がり、それと同時に波動コアのステータスモニターにも変化が現れる。
コア本体の出力グラフが、全く同じカーブを描いているのだ。まるで2つで1つかの様に。
「両舷出力140%、何秒なら大丈夫じゃ!?」
「60秒超えたらダメです! 島君!」
「重いッ……!!」
同体格の相手を持ち上げるのは困難を極め、操縦桿も酷く重い。人一人の力では到底持ち上がらない。
「そのまま持ってて! リク!」
「分かってる、ハルナ右側!」
「行くよッ!!」
島の両側に回り込み操縦桿に手を置く。1人が無理なら2人。それでもなら3人。幾らでも方法はある。
ハルナの確認でリクと島も頷き、コンソールに足を突っ張り力を籠める。
「「「せぇーのっ! 上がれぇぇええッ!!」」」
力いっぱい引かれた操縦桿はゆっくりと手元に引き寄せられ、操縦桿が軋みながらもWunderの艦首も上がっていく。
それと同時に波動防壁も消失し、Wunderと敵艦は腹を合わせた状態で艦首が完全に上を向いた。その状態を狙っていた沖田艦長は間髪入れずに指示を飛ばす。
「下げ舵45、そのまま敵要塞に叩き落とし行動不能にする!」
再び艦首を下げそのまま敵艦を艦底部を使って弾き要塞に落下させる。さらに追い打ちをかけるようにして艦底部の30連装VLSを両舷合わせて60発撃ち込む。
至近距離から放たれたミサイル60発は揺らいでいるATフィールドに突き刺さり大きな爆発を起こす。通常小艦隊規模以上でしか成し得ないミサイルの豪雨を叩きつけても尚破れないが、それでも混乱する敵艦を怯ませることは出来た。
ガミラス艦艇は武装の内陽電子砲塔は仰角を取れない。魚雷発射管の事を無視すれば、今は実体兵器以外の攻撃を考えなくてもいい。
ならばそのまま要塞に叩きつける。さらに60発を分散させる事なく1点に叩き込み、その大規模な爆発を使って追い打ちをかけていく。
「艦を立て直せ!」
「ダメです、敵艦からの飽和ミサイル攻撃で姿勢制御が困難です! このままの状態を保つだけでも精一杯ですっ!」
デウスーラ2世は仰向けに近い状態で要塞に叩きつけられようとしていた。通常艦艇の全長を遥かに凌ぐその巨体が第二バレラスに叩きつけられたら要塞は崩壊を避けられないだろう。
「ダメと言うな、何でも試せ! 総統の座乗艦を沈める積もりか!」
「……主推進を切りたまえ。両舷ゲシュ=タム・ドライブを全てATフィールド操艦に回せ」
「っ……! 主推進を切りATフィールド操艦に切り替えろ!」
デスラーの一言で直ちに命令が実行され、防御に回されていたATフィールドが全て操艦に回った。船さえ持ち上げる出力は遺憾無く発揮され、瞬く間に降下速度が下がっていく。第二バレラス崩壊と撃沈は何とか回避。しかし反撃の為には艦首をヴンダーに向けなければならない。
背負った光輪が怪しい紫の光を滲ませる。艦の姿勢を元に戻すにはそれ相応の隙が目立つが、万能を誇るATフィールドであれば慣性制御との合わせ技で迅速な機動が可能だ。
「魚雷発射管全門装填。自動追尾設定急げ!」
「照準、テロン艦ヴンダー。発射準備よし」
「発射」
デウスーラから放たれた魚雷80発がヴンダーに殺到し、全方位からの飽和攻撃を実行する。対するヴンダーは対空迎撃をフル稼働させて一本一本迎撃していくが、左舷側の対空兵装が融解しているようで処理能力が低い。対処しきれずに被弾を重ね、破孔が目立っていく。それに対して前方からの魚雷は完全に防がれている。敵のATフィールドは随分と強固な物なのだろう。
魚雷で時間を稼ぎながら艦首を敵正面に向ければ次は陽電子カノンだ。装甲がスライドし格納されていた480mm陽電子カノン砲塔が展開され始める。その数12基36門。330mm陽電子カノンも合わせればその砲門数は倍の72門。
ガミラス史上最大砲門数のこの船の一斉射ならば……撃沈できる。
「これで波動コアは暴走を始める。もう二度と波動砲を撃てなくなる」
敵艦が浮上し波動砲中枢を失ったとしても、森とノランは制御室から離れなかった。エネルギーラインが生きているなら、この都市はどれだけ時間がかかっても波動砲を撃つ。それがたとえ想像でしかないとしても、森は捨て置けなかった。途中で中断して逃げる事も出来たのにそれをしなかったのは、罪のない人が間違った力で死ぬ事を少しでも無くしたかったからだろう。
「ありがとうノラン。これ以上、貴方が付き合う必要はないわ」
「なぜそこまで頑張ろうとするんだ、あなたは」
「色んな人と出会って、自分のすべき事が分かったから」
「今自分が出来る事、自分がすべき事も」
「これで無駄な破壊が生まれないなら、このレバーを下ろす意味はきっとあると思う」
そう言って森はレバーにかける手に力を込める。波動コアの暴走によりここは吹き飛ぶ。自身も巻き込まれ死ぬだろう。それでも、降ろすつもりでいた。
ノランはそれを見て左手で払い、右からある物を取り出した。
「モリ様、ここまでです」
ノランが森に突きつけたのは、拳銃だった。
「ノランっ……どうして!?」
「分からないのですか? これは本物のガミラス人になれるチャンスなんですよ。僕がこの秘密兵器を守り切れば、1等ガミラスも夢ではない、本星の家族たちもどれだけ喜んでもらえるか想像も付きません」
「バカなこと言わないてっ……!」
「バカな事じゃない! だからっ……!」
「貴方はここで終わりです」
そう言って、ノランは突き付けていた銃の引き金を引いた。
引き金を引かれた森は、一滴の血も流さずに「気絶」した。ノランが突き付けた銃はパルスガン。ただ気を失わせるだけのもので、任務用として小隊配属時に支給された物だ。
「お許しください。あなたにこれを引かせる訳にはいかないのです。これを引けばあなたは、もう戻れません」
森の端末に表示されたボタンを押し、警告画面が表示される。表示されている意味を画面から読み解くことは出来ないが、今まで森が作業していた内容から大体は想像がつく。
波動コアの暴走と第二バレラスのエネルギー寸断、そして制御室の大爆発。自分の身も爆発と同時に消えるだろう。
気を失った以上しばらくは目を覚まさない。今のうちに森を外に出そうとノランは森を抱えた。低重力環境であっても落とさないように慎重に抱えエアロックを解除、制御室を出て破壊されたドックに出る。このまま救難用の発信器を全開にして宇宙空間に流せば、何れ誰かが救助してくれるだろう。
そう考えて森をガミラス星に向けて流そうとした時に、正体不明の戦闘機が急降下してきて、その場で姿勢を一気に水平に戻した。銀色の機体色に三本角の赤い機首、着陸するつもりだったのか、着艦用と思われる車輪が展開されている。キャノピーが開きそこから現れたのは、船外服に身を包んだテロン人だった。
「テロンの戦闘機。モリ様を探しに来たのか」
このパイロットが森が想っている人なのか。そう直感的に感じたノランはホルスターに伸ばしていた手を引っ込め、パイロットに向かって床を蹴った。パイロットもその意を汲み拳銃の構えを解いた。
あとはこの名も知らぬパイロットに森を元の場所に帰してもらうだけ。そう思うと、少し後ろ髪を引かれそうになるが、森の心は既に別の人に向いている。ならば元の場所に帰そう。
(テロン人、モリ様をお願いします)
森を静かに受け渡し、ノランは敬礼しながら離れる。
(貴官の行動に感謝する)
それに対してテロン人パイロットも敬礼の様な物を帰してきた。パイロットは森を抱えてそのままコクピットに戻り、キャノピーを閉めて浮上を始めた。ぼんやりと見えるキャノピーの向こう側には、自身の姿が見えなくなるまで敬礼をし続けているパイロットが見えた。
(モリ様。貴方が成そうとしたことは、この私、ノランが引き継ぎます)
制御室に戻ったノランは森が残した端末に表示されたボタンを押し最後の仕上げに入った。このレバーを降ろすだけ。ノランが森を気絶させたのは、森を生かしたかったから。そして自身の意志で大量破壊をさせたくなかったからだ。波動コアの暴走はゲシュ=タム・コアのそれとは比べ物にならない。贋作とはいえあれは波動コア。この要塞は丸ごと吹き飛ぶだろう。
「もう2度と、帝都はやらせません」
ノランはその言葉と共にレバーを下ろした。
『警告 波動コア制御不能 波動エネルギー臨界。まもなく、爆縮します』
警報音が鳴り響き、ノランはその場で座り込んだ。
モリ様、どうか、生きて幸せに
どうか、「お願いします」
数秒後、全てが光に包まれた。
「第二バレラス管制塔から緊急警告です! デスラー砲チャージ用波動コアの暴走を確認! まもなく爆縮、要塞が崩壊します!!」
既に要塞の一部から火の手が上がり、そこを中心にして爆発と内部施設の倒壊が始まっている。いずれその爆発もこのデウスーラ2世を飲み込むだろう。陽電子カノン砲塔のチャージは全砲塔全門完了している。それなのに緊急退避を余儀なくされた現状にデスラーは苦々しい表情をした。
「……っジャンプしろ!」
「艦長!?」
「第二バレラスはもう助からん! 急げ!」
その中でいち早く危険を感じた艦長によって緊急ワープの指令が下る。各砲塔に回されたエネルギーを一度砲塔から退避させ、2基のゼルグート級専用ゲシュ=タム・ドライブと補機のドライブ4基を大きく唸らせる。艦尾に展開された光の輪に瞬間的に押し出され、デウスーラ2世は自らが展開した真っ赤なワームホールにその身を飛び込ませた。
その数秒後、デウスーラ2世が存在した宙域にも爆炎が押し寄せた。
______
「敵艦、ワープしました……」
「要塞が崩壊したのか。一体、何があったんだ」
船体に多くの破孔が目立つWunderの戦闘艦橋で、その爆炎を静かに見ていた。敵要塞の連鎖的爆発を観測したWunderは緊急退避の為重力推進を用いて急速後退をかけた。それが無ければ今頃爆炎に飲まれて甚大な損害を受けていただろう。まさに退避一択だった。
「古代くんは……、反応は?」
「爆炎が酷く、観測不能です。あの爆発では……」
「百合亜ちゃん何が何でも探すよ。光学観測と電波観測で、ゼロ改に近い質量物を探しましょう。相原さん、ゼロ改が受信できてるかの確認をお願いします。航空隊も動員して下さい。アスカちゃんと玲ちゃん、メルダの補給も終わっていたら出してください」
2人も皆も決して諦めていない。魚雷の飽和攻撃の中生き残った観測機器をフル稼働させ、周辺宙域のスキャンを行っていく。周辺宙域でWunderによる回収を待機していた航空隊も行動を開始して、残り少ない燃料を使いながら宙域の捜索に入る。
センサーが拾った情報が全周スクリーンに表示されていき、「mismatch」とタグが付けられていく。無数の破片に曝されたのだ。機体が損壊して原型がある程度失われているのかもしれない。
無情に時間が過ぎていく。一分、二分、三分、機体が損壊していた場合、機体内の酸素にも問題が発生する。酸素漏出による呼吸困難。酸欠による死亡リスクも考えられる。
宇宙用攻撃機の酸素は基本的にはパイロットの呼気の二酸化炭素を分解し酸素に戻して再利用される。つまり機体とパイロット間での循環が行われているのだが、そのサイクルにダメージがあればパイロットはたちまち酸欠を起こす。
『こちらアルファ2山本!』
泣き声で入ってきた通信の主は山本。呼吸も荒く、切迫した状況であることを示している。
『……古代さんを見つけました! 森さんもいます!』
「機体状況は!?」
『損傷が酷く機首と両翼、エンジンが損壊! 酸素漏れもあります!』
ゼロ改2号機から送られてきた画像と報告から分かる機体状況は想定より悪かった。航行不能となり酸素が漏出している。早急な救助とパイロットの治療すら必要となる状況だ。
「通信は繋がるか!?」
「受信は出来ているようですが応答在りません! おそらく……」
「アルファ2はその場で待機、Wunderをアルファ1に可能な限り近づけろ。甲板部から救助隊を編成し救助活動に当たらせろ」
冷静を装った沖田艦長の指示でWunderも移動を開始し、残骸で満たされた宙域を砕氷船の様に掻き分けていく。装甲に無数の破片が衝突し、擦過傷が増えていく。ATフィールドは既に解除されている。波動防壁も機能しない。それでも頑丈さと言う取り柄1つで戦場跡に戻っていく。
1号機発見と共にもたらされた状況と応答なしの事実に、艦橋要員一同に最悪の事態がよぎる。だがそれを振り払い、只ひたすらに希望を見つめて上を向く。
「アルファ1を確認!」
『第三格納庫ハッチ解放、救助作業に入ります!』
________
『酸素残量が著しく不足しています。直ちに対処してください。酸素残量が著しく不足しています。直ちに対処してください』
警告音がヘルメット内で響いている。酸素が不足しているらしく、ひび割れたコンソールの1つのモニターには、酸素残量の低下の警告ウィンドウが開かれている。腕の中には気を失ったままの雪がいる。あの時爆発から回避するために推力を臨界ギリギリまで上げたはずなのに、その爆発の余波に巻き込まれてしまった。
「生きて……いるのか」
尤も、酸素が尽きれば酸欠で死んでしまうが。まずは、救助信号をまずは全力発信してみる。動けない以上、救助を待つしかない。緊急脱出も考えたがキャノピーが歪んでいて緊急脱出装置も働かない。
『酸素残量が著しく不足しています。直ちに対処してください。酸素残量が著しく不足しています。直ちに対処してください』
減り続けていく酸素残量を横目に、古代は森の状態を確認した。顔色も悪くなく、呼吸も確認できる。何より古代にとって重要なのは、「生きている事」だった。
「こうして君を助けられたのに、こんな状態なんてな」
酸素はほぼゼロに近く、酸欠まで既に秒読みが始まっているだろう。
「古代……くん」
「雪……!」
「ここは?」
「ゼロ改のコクピットだ。君に付いていたザルツ人が、君を引き渡したんだ」
「ノランが、私を逃がした……古代くん」
「何?」
「……夢じゃないよね」
「ああ、夢じゃない」
航行能力の全てを喪失したゼロ改は、そのコクピットに収める2人の人物をその身を挺してでも守り切った。
作業用装載艇が近づいてくる。荷台に船外服に身を包んだ甲板部員が近づいてきて救助作業に入り、ゼロ改が荷台に固定されていく。
Wunderが死に体のゼロ改に慎重に接近してくる。艦体の各所の破孔が目立つが、どうやら化け物じみた堪航性のお陰でまだまだ多くの余裕を残しているようだ。
そのWunderの背後には青い星。
「遥かなる約束の星」があった。
この話もかなり難儀な物でした。
ATフィールドを破るために他の手段を取れるのか、どうすればATフィールドを発生させられるのか。
その結果が、アダムス組織とリリスの魂です。
目には目を歯には歯を、ATフィールドにはATフィールドを。結局この形に落ち着きました
それでも、この結果あの艦長とあのパイロットを出すことが出来ました。うp主は大満足です
ですが決してご都合主義ではないのでその辺はご理解ください。
次の話はイスカンダルの話です。
(@^^)/~~~
追記
デウスーラ2世の武装等データを追加しました