宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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遂に到着です

ここまで1年半以上かかりましたが、何とかハルリクとWunderを到着させることが出来ました。皆さんありがとうございます。


それでは、イスカンダルのお話です。



イスカンダル

「本艦はこれより、イスカンダルからの誘導に従い着水します。王都、イスク・サン・アリア。気温27度、大気圧1024hPa。風力2、南の風。海上はうねりも無く、穏やかな晴天です」

 

 青々とした海。点在する島々。それらをさり気なく際立たせる白い雲。

 

 地球から遥か16万8000光年。大マゼラン銀河サレザー恒星系第4惑星

 地球圏衛星軌道ドック「鳥籠」からの強行発進から、約5か月。

 

 今、奇跡の船とその乗員900名余りは、最終目的地であるイスカンダルにやって来た。

 

 イスカンダル重力圏に身を任せ徐々に降下していき、両翼の着水用フロートを下ろす。初稼働ではあるものの問題なく動作し、着水態勢を整えていく。

 全周スクリーンに映る青々とした生命の星に、一同船外服のヘルメットを取らざるを得ず、その目にその姿を焼き付けていく。その青い星の姿を見つめていた沖田艦長は徐に艦内放送を繋げた。

 

「Wunderの諸君、艦長の沖田だ。我々は、遂にイスカンダルに来た。見たまえ、今諸君らの目の前にイスカンダルがある。この機会に艦長として一言だけ、諸君らに申し上げたい。……ありがとう、以上だ」

 

 その放送を聞いていたハルナは、放送が終了すると同時に糸が切れた人形のように脱力した。今の今まで呼吸を止めていたかのような深いため息をつき、無重力に体を預けて目を閉じた。急にグッタリし始めて珍しく狼狽える真田だが、イスカンダルに着いた事よりもこの2人が心配のようだ。

 

「大丈夫です、張っていた気が一気に抜けたみたいで……ひと月位張りっぱなしだったんです」

 

 それを理解しているハルナは真田の心配を解き、薄らと開いている目でイスカンダルの景色を全周スクリーン越しに見た。

 

「真田さん、お願いしたい事があります」

 

「Wunderのミッションレコーダー……特にFCS絡みの所から、幾つか取り出して纏めてもらいたいデータがあるんです。それと一時間だけ時間貰えますか? ちょっと休憩です」

 

「それくらい構わないが、何をする積もりなんだ?」

 

「回答を出すんです。リクも同じこと考えてますし、付いて来ると思います」

 

 肝心のデータの内容が語られていないが、真田は何となく察していた。どうやら包み隠さず全てを打ち上げる積もりらしい。

 

「いや、暁君は同行した方が良いが、大怪我の睦月君を流石に連れて行くわけにはいかない」

 

「真田さん、リクがそうしていると思いますか? 佐渡先生でさえ諦めて行かせたくらいですから。置いてったら追いかけて来そうです」

 

「起きたばかりで検査も出来ていない。後日訪問する手もある」

 

「それじゃちょっとダメなんです。この船を作って波動砲を装備した者として、ケジメを付けておかないといけないので。イスカンダルの力。大きすぎな力を自分なりに正しいと思う方法で使った証明はこの船であり、私達でもあるんですから」

 

「……動き回らずジッとしているなら大丈夫だろう。それでどうだ?」

 

「ありがとうございます」

 

 大きな溜息をついた真田の譲歩でリクの動向は決定した。

 その言葉を最後にして、ハルナは戦闘艦橋の中で寝息を立て始めてしまった。

 

「……寝てるのか?」

 

「戦闘艦橋で寝るとは吞気な事にゃ。真田さん、取り敢えずどっかに寝かしておきましょう」

 

「病室に……いや、何時もの部屋に戻しておくか。佐渡先生には私から説明しておこう」

 

 三度目の溜息をついた真田とマリの手によってリクとハルナは何とか抱えられ、暁・睦月研究室のベットに寝かされた。

 

 

 


 

 

「何時ものベットだ……」

 

 極度の疲労で気づかずに眠ってしまったリクは起きようとした。が、腕が折れている事を思い出してそのままの体勢でいることにした。いつもの研究室にいつもの天井。非常に見慣れた景色が目に映る。

 

「おはよ」

 

 非常に聞きなれた声を感じ取りその方向を向いてみると、すぐ真横でハルナが横になっていた。

 

「……どれくらい寝てた?」

 

「50分ね。真田さんたちの作業ももう少しで終わるみたいよ」

 

「作業? ……波動砲絡み?」

 

「うん。謁見に持ってった方が良いって思ったから真田さん達にお願いしたの。そこで私も寝ちゃったみたいで」

 

 てっきり病室に戻されたと思ったリクとしては、研究室の方に戻された事には驚いた。それ以上にすぐ横で一番大事な人が付添ってる事に嬉しく思い、何となくハルナの頬に手を伸ばして触れてみる。

 

「もう無茶は出来ないな」

 

「……強くなりたいって思ったのに、結局守られちゃった。ごめん……無茶させちゃって」

 

「怪我」と言う単語を意図的に避けたハルナの顔は少し暗く、重ねる手は少しだけ震えている。

 

「構わないよ、両方生きてさえいれば」

 

 生きてさえいれば。死を間近で体験し、彷徨いもした結果生まれた考え方だ。死にさえしなければ後はどうとでもなる。一見酷く捻じ曲がっている様に見えるが、例えどうなっても下だけは向かない事を示している。

 

「今、イスカンダルにいるのか?」

 

 何とか起き上がろうと体を起こすが、片方折れている為腕で体を支えにくい。すかさずハルナが介助に回る。

 

「うん。王都の沖合に停泊しているの。……行くの?」

 

「ケジメはつけないといけない」

 

「準備できてるよ。真田さんの許可も取れてる」

 

「……全部読んでたの?」

 

 余りにも手際の良い準備にリクは驚いた。「自分も行きたい」なんて一切言っていない筈だ。行きたいという意思はあったが、それを伝える前に眠ってしまった以上伝えようが無かったのだ。それなのに全て読んで準備にかかったのはもはや「察し」の域を超えている。

 

「読んでたって言うか、何か全部聞こえちゃうみたいで……」

 

「全部?」

 

「周りの人の声が盗聴みたいに聞こえてて気持ち悪い……今はリクの声だけだから何ともないけど」

 

「はぁ……?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。ハルナは誓って人間だ。本人からそんな特技を聞いた覚えもないが、唯一思い当たるのが、薫の記録だった。

 風奏から受け取った記録には、薫も同じ事が後天的に出来るようになったと綴られていた。母から子へ受け継がれ、それが境界の時に引き出されたとしたならば、強引にではあるが辻褄が合うかもしれない。

 

 そう考えたリクは、とにかく試してみることにした。

 

「今何考えているか分かる?」

 

「……こんな時に何吞気な事考えているの?」

 

「いいから答えは?」

 

「……ハルナ可愛い。惚気る事言わせないで……」

 

「他人の声が鳴り響いているなら、誰かの声だけ聞くようにすればいいんじゃない? 何か法則とかもあるかもしれないし、その辺は後で真田さんたちと相談しながら調べよう」

 

「分かった。とりあえず、リクの声だけ聞いてることにする。何とかして他の声はスルーする。あと……」

 

「思考と発声の一致……かな? 主観だけど、ズレてたらごちゃごちゃして気持ち悪そう」

 

「そうそれ。ズレている人多くて頭痛いし気持ち悪い」

 

「何とかしてみる。頭で考えながら言葉にすればいけそう」

 

 一先ず対応策は出来上がった。頭で言葉を作りながらそのまま言葉として発声する。言葉と思考のズレさえなくなればハルナが気分を悪くする事もないだろう。

 

「準備しよ。遅れたらマズいよ?」

 

 これ以上考えていると本当にショートを起こして復旧不可能になりそうだ。焼け焦げた艦内服の上を脱いで国連宇宙海軍の軍服を羽織り、リクとハルナは研究室を出た。

 

 

 


 

 

 

 今現在Wunderが停泊しているのは、イスカンダルの王都「イスク・サン・アリア」。都市全体にクリスタルや曲線を多用した建造物が広がる古代都市の様な都市だ。建造物の一つ一つを芸術品と形容しても差し支えない程の美しさを持つこの都は、耳が痛くなる程の静寂に満ちていた。Wunderはその大きさ故に王都の沖合に停泊しており、そこから王宮からの連絡船でWunderから移動。今は王都市街の河川の上を進んでいる。

 

 本来は沖田艦長も向かうはずだったが、佐渡先生の進言で今は医務室で精密検査を受けている。ここまでの長期航海で何度か体調を崩した事と、持病である遊星爆弾症候群の再発リスクを常に抱えている事を受けて、一度時間をかなり要する精密検査が提案され、現在検査の真っ最中だ。

 

「静かな町だ……」

 

「静かどころの話じゃないよ、一切の生活音が聞こえない」

 

「……」

 

 リクは王都市街に入ってからずっと考えていた。直感的にではあるが聞いてはならないと悟った以上想像で補うしかなく、ああでもないこうでもないと頭をひねる。目立たない程度に周囲を見渡すがかなり綺麗だ。恐らく人がいなくなってからずっと清掃されているのだろう。そしてユリーシャとサーシャが平然としているから少なくともここ数年の話ではなく数十年の話。あるいはもっと、百年以上前かもしれない。

 

 そうこう考えていると王都中心部の宮殿に連絡船が到着し、一行はエレベーターに誘導された。

 数秒で謁見の間(?)に到着し、古代、真田、新見に森。リクとハルナとメルダにユリーシャ、そしてサーシャが正面のエレベータらしき物体の前で待たされている。

 

 

 

「広いね……」

 

「ファルコン全部駐機させても余るな。壁が見えない」

 

 市街では感じられなかったが、この宮殿は規格外に大きい。それでも細部に至るまで装飾が施され、嘗てはかなり栄えた国だったという事が分かる。

 

『マモナク、オミエニナリマス』

 ガミロイドによく似たアンドロイドが応対してきて、もう少し待ってみる。数秒後、卵のような形をしたユニットが下りてきて、それが消えたかと思うと金色の長髪の女性が現れた。

 

 

 イスカンダル皇室第一皇女

 スターシャ・イスカンダル

 

 

 イスカンダル最後の王族にして長女である彼女は、ユリーシャとサーシャが着ているイスカンダル文化の礼装らしき服装で出迎えてきた。従者らしきアンドロイドを横に付かせているが、かなりガミロイドに似ている

 

《ユリーシャ、サーシャ。よく戻ってきました》

《お姉様。ただいま戻りました》

 

 イスカンダル語が飛び交い、古代達Wunder一行は内容を掴めずにいる。メルダは何となく理解はしているようで目を閉じて右手を胸に当てている。

 

 

「地球の皆様。私はスターシャ・イスカンダルです。私は貴方方の星に波動エンジンの設計図とメッセージカプセルを妹のユリーシャに、波動コアをサーシャに運ばせました。本来波動エンジンは星の海を渡るもの。……それを貴方方は武器に変えてしまった」

 

「……ですがそれは!」

 

「古代、今は止せ」

 

 波動エネルギーの兵器転用に難色を示したスターシャに対して古代は何かを言おうとしたが、真田がそれを制した。その名前に反応を示したスターシャは古代に声をかけた。

 

「あなたお名前は……?」

 

「古代進です」

 

「私は、艦長代行として来ました副長の真田志郎です」

 

「情報長の新見薫です」

 

「お初にお目にかかります。私は、航宙艦隊司令長官ガル・ディッツの娘、メルダ・ディッツと申します」

 

「そちらの白い髪のお2人は……?」

 

「Wunderの改設計と波動エネルギーの兵器転用を行った、睦月リクです。負傷の身故、このままで失礼します」

 

「同じく、暁ハルナです」

 

「貴方方が……」

 

「あれがどんな物かは、我々なりに理解しています。だから私達はあの兵器を縛る事に決め、その縛りの範疇に力を留めています。ハルナ、あれを」

 

 リクの考えたことはハルナに伝わり、懐から取り出した物を自分たちの近くにいたアンドロイドに手渡した。手渡した物は、ユリーシャが地球来訪時に持参したあの金色のデバイスだ。

 

「こちらをスターシャさんにお渡ししてもらえますか?」

 

 地球言語が通じたのか、アンドロイドはデバイスを受け取りスターシャの元へ移動して、礼をしてスターシャに手渡した。

 

「これは……」

 

「Wunderのミッションレコーダ、その中から、イスカンダルの力……我々が波動砲と呼称する部分を抜粋した記録です。ユリーシャさんとディッツ少尉にもご協力頂き、イスカンダル語への翻訳も完了しております。これが私達の、『力に対する回答』です」

 

「……分かりました。ユリーシャ、サーシャ。貴方が見てきたものを私に伝えなさい。……ムツキさん、アカツキさん。貴方方も宜しいでしょうか?」

 

 

 


 

 

 

「真田さんも居た方が良かったかな?」

 

「多分大丈夫。真田さんも渋々身を引いた感じじゃなかったから」

 

 謁見の間から場所は移り、前室らしき部屋に通されたリクとハルナは伸びていた。厳密には伸びてはいないのだが、ややリラックスしていた。だが前室と言えど広さは侮れず、学校の教室と見間違う程の広さがある。それこそキャッチボールが出来そうなほどで、軽い運動すら可能だろう。

 

『オマタセシマシタ。ドウゾコチラヘ』

 

 アンドロイド……いや、イスカンドロイドと呼称しよう。イスカンドロイドに連れられて向かったのはこれまた大きい部屋。その中央にソファが向かい合わせに置かれていて、その片方にスターシャが座っていた。

 

「おかけください」

 

「失礼します」

 

 スターシャに促されてハルナとリクはソファに座った。スターシャの手元には謁見時に手渡したあのデバイスが開かれたまま置かれていた。そこに映る四角いウィンドウが円を書くように回り続けている。

 

「アカツキさん、ムツキさん。あなた方の記録を拝見しました。……波動砲の対物兵器としての運用。そして力を特定の範囲のみに留める誓い。……力の方向を自ら定めた、と言うことですね」

 

「……力に溺れてはいけない。この航海と波動砲に関わった事から、私達はそう考えています。それはどんな力にでも言えることであり、それがたとえ星を壊す力だとしても」

 

「イスカンダルは嘗て、その力で大マゼランを血に染め、大帝国を築き上げた歴史があります。……それ以降は救済の星となりましたが、詳しくお伝え出来ませんがそれ以降もある特定の用途で使用され続けました」

 

「波動砲乱用防止の枷は、開発時に応急的にですが取り付けてあります。それが、国際波動砲使用制限条約」

 

「波動砲の対艦対惑星への使用禁止。そして兵器としての複数人による発射承認プロセス。これ等を用いることで、波動砲の無用な使用を避け無用な破壊を避けられると判断した上で、宇宙戦艦Wunderへの波動砲の搭載及び運用を行いました」

 

「その先は、どうなさるおつもりですか?」

 

 スターシャが危惧したのはその先の話だった。地球が復興し、軍備が再編され、波動機関の増産により波動機関搭載艦が増え、地球側が条約を無効にし波動砲を揃え始めたらどうするのか。

 大きく膨らんだ力が何もかも消した。イスカンダルの過ちの一つだったそれをどう回避するのか。

 

 

「それについてなのですが……1つだけ妙案があります。ですが、相手方が賛同して貰えるかどうか……」

 

「聞かせて貰えますか」

 

 

 


 

 

 

「どういう事なんだよ!? 貰えるんじゃなかったのかよ!」

 

「私の聞いた話だと、少し時間を置くみたいだけど……」

 

「どっちにしろバカにしてるぜ!」

 

「ホントに渡してもらえるのかなぁ……」

 

 地球から遥々イスカンダルにやって来た。地球人類の未来をかけてここまでやって来たが肝心の惑星再生装置が直ぐに受け取れなかった。その事実は艦内を騒々しいものにするには十分な物であり、一時的な不信感にも満たされた。

 

 

 ________

 

 

「という事なんです」

 

「「「……」」」

 

 スターシャとの会談が終わり、古代や真田達に遅れてWunderに戻ったリクとハルナは、その会談内容を全て話した。その話を聞いた古代と真田、沖田艦長は言葉を失っていた。

 

「本気なんですか?」

 

「やるならそれ位しか方法がありません。地球内で監視し合ったとしても誤魔化されたり懐柔されたら意味がありません。でしたら、戦後の地球との関係が持てて、尚且つ独立した立場から監視ができる立場に頼むのが一番だと思います」

 

「確かに効果はあるかもしれないが、それにはまずは休戦協定か友好条約が必要となる。それはいいのか?」

 

「その辺りはまず休戦協定として結びます。イスカンダルを仲介しての締結となりますが」

 

「だがこの船には外交権を与えらえていない。条約とはいえ非公式な物になる」

 

 沖田艦長が最も懸念していた事に切り込んだ。条約は外交権を与えられている者同士で結ぶ物であり、それが無い状態では締結された物は非公式な物となる。波動砲条約では各管区の外交担当が結んだが今回は違う。地球最後の希望である超弩級戦艦の一艦長とイスカンダル最後の王族、そして巨大星間国家の元首。この三国家間で、今まさに地球政府の許可無しで条約を結ぼうとしているのだ。地球に帰還してから査問にかけられても可笑しくない。

 

「確かにただの口約束と受け入れられても何ら可笑しくありませんし、地球政府側に無視されても文句は言えません。ですので、守らざるを得ない状況を作ってしまえばいいのです。まだ青写真ですが、時間はありますので少しずつ詰めていきましょう」

 

 この三人が考えている事はそれぞれ視点が違う事もありバラバラなのだが、「この2人が政治をし始めたら何でも通ってしまうかもしれない」と考えた事は共通していた。

 

 

 

「……それで行こう」

 

「艦長、宜しいのですか?」

 

「戦後復興も考えれば、確かに彼らの力を欠く事は出来ない。復興速度向上も見込めるならば、リスクはあれどメリットを取るべきだ。会談までの時間は?」

 

「5日間です。帰還スケジュールもありますので、イスカンダルに滞在できるのは軽く見積もって10日から2週間。帰還時に亜空間ゲートが使用出来ない場合も想定してありますが、なるべく早く進めていきましょう」

 

「2人とも、こういう事はもう少し相談をしてから……」

 

「その場でプランを全部組んじゃいましたので。お伝えする時間が無かったんです。本当にごめんなさい」

 

 真田のいう事も尤もであり、一言で説明すると「戦後の未来をこの2人が決めようとしている」のだ。それを自覚しているリクとハルナは深々と頭を下げた。

 

「……結果として人類の為になれば結果オーライかもしれないが、これに関しては副長として処罰を下さなければならない。2日間の謹慎……とは名ばかりの休暇だ。2人で仲良く休みなさい。勿論業務は抜きだ」

 

 処罰と言う単語に思わず縮こまったが、真田から下された処罰内容はあまりにも目を丸くするものだった。それは処罰と呼べないのではと2人は目を合わせるが、有無を言わせる隙も無く真田が畳み掛ける。

 

「諸々の事は私と沖田艦長、戦術科と手の空いている識者を集めて進めておこう。2日経ったら確認に来なさい。それと、休暇中に医務室で検査をする事だ。特に暁君、何連勤するつもりだい?」

 

「ううぅ、自覚ありです」

 

「ですが良いんですか? Wunder損傷してますし、修復指揮は誰が執るんですか?」

 

「修復作業は榎本甲板部長と赤木博士の合同指揮で可能な限り行う。対空武装はサイズ面の問題から宇宙に上げてからになるが、装甲程度ならば可能だ。まぁ、何かあれば一時的に呼ぶかもしれないが、気ままに休暇を消化してくれ。副長命令で、睦月リク一尉暁ハルナ一尉に二日間の休暇を命ずる」

 

「真田君、それは最早休暇命令じゃないか」

 

「この2人はこうでもしなければ休みません。極度の疲労で艦橋で寝る程ですので、今後もそのような事があれば問題です」

 

 この人は何を言われようと何が何でも休ませる気満々だ。それを悟ったリクとハルナは甘んじて処罰(休暇)を受け取る事にした。休暇を半ば押し付けられた2人が先程まで座っていた席に戻ったのと同時に、会議室の自動ドアがノックされた。

 

「入れ」

 

「原田衛生士、入ります」

 

 自動ドアが開かれ原田がタブレットを抱えて入室した。どこかソワソワしていて落ち着かない様子だが、何か良い事を思いついた笑みを浮かべていた。

 

「会議中失礼します。原田衛生士、意見具申!」

 

 

 

 

 ______

 

 

 現在Wunderはイスカンダルの沖合に停泊している。従って水深が10数メートルあり、実は泳ぐに適していない。そのため原田の提案は却下されかけた。しかし、今まで閉鎖空間で生活してきた乗員のストレスは大きく、「ライフジャケット有ならば安全」という事で「特例」で許可された。

 

 

 水しぶき、日差し。反射する波。その身を海に委ねるWunder。船体に打ち付ける波、風、潮の香り。

 

 

 実に数年ぶりの自然を感じるべく、多くの乗員がライフジャケット装備で青々とした海に飛び込んだ。

 

 

「真琴ナイスゥ!!」

 

「そうそう。そこに海があるなら、ガス抜きは必要よね」

 

 この船に積載されていた被服類の中から、待ってましたと言わんばかりに引っ張り出された水着はようやく日の目を見ることとなり、乗員のバカンスに一役買っている。

 

「ねぇねぇ加藤さんは? 来ないの?」

 

「それがね、さぶちゃん徳川さんに誘われちゃって釣り中なのよ」

 

「それにしてもバカンスとは……」

 

「睦月さん、動いても(ry」

 

「流石に海に入るのはアウトですけどね」

 

「あれ? そういえば何か話し合いしていたんじゃなかったんですか?」

 

「2日間の休暇中なんです。働きすぎだから休めって言われまして……」

 

「あはは、副長が労基になってる」

 

「労基(笑)」

 

「それはそうと、よくこんなのありましたね?」

 

「副長=労基」という妙なイメージが付きそうになったのを察したリクは唐突に話題を変えた。浮き輪にビーチボールと言った「海水浴のお供」とも呼ぶべき物品は積んでいない筈だ。そもそもこの船は軍艦。場違いにも程がある。

 

「それが、真希波さんが作っちゃったんです。申請して資材も用意して」

 

「「はぁ……?」」

 

 艦内工場にビーチボール製造用の機械は積んでいない。資源があったとしても作るのは面倒臭い筈なのだが、まさか作ってしまったとは。だが、部品製造用の汎用立体成型機があった事を思い出した2人は全てに合点がいった。

 

「それで、マリさんは?」

 

「あそこですね。あのピンクの水着です」

 

 ハルナが目を向けた先には浮き輪で浮いている人が見えたがよく見えない。ここ最近ずっと裸眼だった事を思い出したハルナは仕方なく眼鏡をかけて見て見ると、サングラスをかけて浮き輪の上でふんぞり返っている水着姿のマリが見えた。艦内服の上からでも目立っていたスタイル抜群の体がさらに水着で強調され、男性乗員の目を意図せず掻っ攫っている。

 

「ああ、いた」

 

「いるね、しかもサングラスかけてる」

 

「真希波さんスタイル良すぎですよ何ですかアレ」

 

「格 差 を 感 じ る わ……」

 

 もう笑うしかない。バカンスの話を聞いてからの準備といい、こういう事に限っては準備に一切の抜かりが無い。それがすごく「マリさんらしい」から、とやかく言う事を諦めた。

 

「だったら、アレ用意しよう」

 

「アレね」

 

「アレって何ですか?」

 

「夏なら食べたくなるアレです。季節的にもピッタリだと思いますよ?」

 

 

 

 ______

 

 

 

 むしゃむしゃと食べながら甲板を歩く。それだけでもあっという間に人が集まり、それは飛ぶように乗員の手に渡っていく。ちなみに食べて呼び込みをしているのはリクで、肝心のそれを配っているのはハルナとアナライザーだ。

 

『スイカハイカカデスカ?』

 

「スイカ!?」

 

「育ててたんです。時期的にピッタリなので収穫してカットして配り歩き中です。どうですか?」

 

「頂きます! 皆スイカあるぞ!」

 

「先着順1人1個ですよ~」

 

 太田がスイカにかぶりついたのを皮切りに、2人とアナライザーは人の波に溺れた。オムシスは生鮮食品を出せない。皆調理済みの物しか食べれていなかった以上、夏のひと品としても挙げられるスイカはまさに「宝石」。電光石火の如くお盆に手が伸ばされ、その無数の手によってスイカは1分と持たずにお盆の上から消え去った。

 

「美味いッ!」

 

「まさかスイカが食べれるとは……!」

 

「睦月さん暁さん! あとアナライザー! マジで神です!」

 

「良かったです~。あ、種は集めて下さいね? ここに袋ありますから」

 

 抜かりなく自分たちの分は確保済み。バカンス会場と化している左舷主翼まで移動して並んで座ってスイカを食べる。

 

「美味しい~!」

 

「染み渡るね、果物バンザイ。あ、こっち向いて?」

 

「?」

 

 何の事か分からないハルナはキョトンとしたが、お構い無しにリクはハルナの頬に手を伸ばして、頬に着いたままの種を取った。

 

「種付いてる」

 

「ううぅ恥ずかしい」

 

「可愛い」

 

 リクはいつの間にかそういう一言を言うのに抵抗が無くなったのだが、ハルナはまだ少し抵抗があるようだ。照れ隠しにスイカを勢い良く食べていく。

 

「おほースイカ!」

 

「食べます? 確保済みです」

 

「い た だ き ま す !」

 

 海から上がってきたマリもスイカの魅力には逆らえず、受け取るやいなや主翼に座ってかぶりつき始めた。

 

「あ、そういえば真田さんと博士の分は?」

 

「先に切って冷蔵庫の中です。そのままにしておくとすぐ美味しくなくなるので。あと古代くんと沖田艦長、甲板部の皆さんの分とか……兎に角中にいる人の分はある程度取ってありますよ」

 

「抜かりないにゃ」

 

「出来るだけ皆さんに配っておきたいんですが、スイカそこまである訳じゃないので。一先ず配るべき人の分は取っておくべきです」

 

「良い心がけにゃ。ところでハルナっちは行かないの? 海」

 

「水着恥ずかしいんですよ。マリさんは何ともないかもしれませんが」

 

「も・し・か・し・て、こっちの話かにゃ~」

 

 胸を触られそうになったハルナはすかさずマリの手からスイカを奪い取る。わいせつ未遂の現行犯に食わせるスイカなど存在しない。頬を膨らましたハルナは、じっとりとした目でマリを見つめる。

 

「にゃにゃにゃァ! 返して〜!」

 

「変態さんはお預けです」

 

「うん、今のは明らかにマリさんが悪い」

 

「返してにゃ……」

 

 自業自得だ。マリは2人にとって姉に近い存在だが、セクハラ好きな姉ができた覚えは無い。ならば仕置きだ。

 

「育ち切ったんだな」

 

「ちょうどね。食べる?」

 

「頂こう」

 

 海から上がったメルダとアスカもスイカを受けとり食べ始める。余談だが、メルダは以前パイナップルを食べた時のように「いただきます」と言っていた。

 

「ああそう言えば、種は食べちゃダメだよ」

 

「どうしてだ?」

 

「腹の中でスイカが育つのよ。それなりに大玉なのが」

 

「!?!?!? マズい食べてしまったぞッ!? どうすれば阻止できる!?」

 

「何もしなくてもいいにゃ。だって嘘だから」

 

「お"い"ッ!」

 

 かつての地球に存在した「腹でスイカが育つジョーク」にメルダが踊らされ、マリは思わず吹き出す。

 

「メルダ引っかかるの面白すぎじゃん」

 

「この人の皮を被った猫にしてやられたぞ、アスカ」

 

「人の皮を被った猫ッ!? ひどいにゃ!」

 

「いや待って……ちょっめっちゃオモロイメルダ最高(笑)」

 

「人の皮を被ったっ……待ってお腹イタイイタイ」

 

 メルダの放った一点の狂いも無い正確な喩えにマリが抗議をかけるが、全員のツボに見事にクリーンヒットし笑いの渦が生まれる。左舷主翼の一角の集団は腹筋が痛くなるまでしばらく笑い続けた。

 

 

 ━━━━━

 

 

 笑い転げ、スイカを食べ終え、また皆が海に向かって走っていき、リクとハルナは2人の時間を堪能していた。

 

「綺麗だ」

 

「……綺麗だね」

 

 ついさっきまで彼らの頭上で光を放っていたサレザーも西の空へと下り始め、あと数時間もすれば海に夕日の道を作るだろう。

 

「ここまで来たね」

 

「ああ。ここまでで5ヶ月くらいだ。衛星軌道から出港したのが2月だから」

 

「ねえ。今だけは、数字とか無しにしない?」

 

「?」

 

「今はこのひと時を、出来るならずっと」

 

「ずっとか。今は難しいけど、近いうちにずっとになるさ」

 

 そう言ったリクは右手でハルナを抱き寄せ、それに応えたハルナはリクの右肩に頭を乗せた。

 時間がゆるりと過ぎていく。永遠は無い。それでも2人の願いは短時間ではあるが叶ったようで、徐々に左舷主翼から人が減っていく。

 段々と人が減っていく主翼上で幸せを噛み締める2人に距離はいらない。言葉をかわす必要も無い。ただ幸せと感じればいい。ただ、「幸せ」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔してもいいかな?」

 

「「真田さん!?」」

 

 そんな2人の幸せ空間に耐性がつき始めた真田さんが空気を読みながらやってきた。時間に浸り切っていた2人は飛び退いたが、真田はそのままの笑みを浮かべたまま主翼に座る。

 

「ひとまず会議が終わったから気分転換に来たんだ。それと、スイカ美味しかったよ。ご馳走様」

 

「カロリーメイトとどっちが良いですか?」

 

「スイカかな。生鮮食品は格別だからね。流石に敵わない」

 

「あ、そうだ。真田さん、端末ありませんか?」

 

「随分と急だな。コレでいいならあるが」

 

「撮りましょうよ」

 

 ハルナの提案にリクも真田も2つ返事で承諾し、内カメラに切り替えた端末を掲げシャッターを切った。

 

 

 

(お母さん、お父さん、あとお義母さん(風奏さん)……無事着きました)

 

 

 

2199年7月16日

イスカンダルに着いた! 




遂に到着させることが出来ました。

長かった。本当に長かったです。それでも止まらずに書き続けることが出来たのは皆さんがこの作品を読んでくださったからです。
前書きでも書きましたが、お礼を言わせてください。


本当に、ありがとうございます。


イスカンダルの話は、あと一話か二話くらい書くつもりでいます。
その後は閑話をちょこっと書いてから星巡る方舟に入る積もりでいます。

ちょっと次の話を書いている途中で小難しい話が出てきてしまったので次は一旦未定とさせてください。兎に角今年中には出そうと思います


それでは次のお話で
(@^^)/~~~
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