宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
どうでもいい事でした。それでは、イスカンダル編最後のお話です
お楽しみください
「国連宇宙海軍恒星間航行宇宙戦艦Wunder艦長、沖田十三です」
「現大ガミラス帝星暫定政権代表レドフ・ヒスです」
イスカンダル停泊から三日、リクとハルナの提案に乗ったスターシャによってガミラスから暫定政権代表であるレドフ・ヒスがイスカンダルにやって来た。
リクとハルナがスターシャに提案したのは、ガミラスに頼るという事。
地球の政権内部から制御するのではなく、外部の存在を使って制御するこの手段は危なくもあるが、今回の場合は誤魔化しが効きにくい。
「まずは、貴方方にお礼を申し上げたい。50億以上の臣民が救われた。我々は、今後一切の敵対行動を行わない事をここに誓いたく思う」
そう切り出したヒスは深々と頭を下げた。感謝の意が多分に含まれたそれは、Wunderが成し遂げた事の大きさと意味を実感させるには十分だった。
これには波動砲を撃った張本人も予想外の様で、リクとハルナもぽかんとした顔としている。
「君達が撃った結果だ。誇りなさい」
「「はい……!」」
そう沖田艦長も微笑み、2人はやっと正常な状態に戻った。
「これからお話しすることは、地球人類とガミラス人類そしてイスカンダル王族の今後に関わるお話です。ですが、今後の双方の情勢の変化等によりこの通りに歴史が進むとは考えにくく、必ず何らかの地点でズレが生じる物になります。その都度方針の修正等も行う必要がありますが、前提条件そのものが達成されなかった場合はこの話は最初から存在しなかった物となります。その点をご理解頂くようお願いいたします」
スターシャもヒスもそれを理解し頷き、ハルナとリクは温めてきたシナリオを話し始めた。
「今後、地球とガミラス間で終戦協定、講和条約……あるいは安全保障条約が締結される事でしょう。現状我々の身で締結できるのは休戦協定が関の山。終戦後の高度な政治は僕らではなく、本職の政治家にお願いする事になると思います。それでも、政治家や軍上層部に委ねる前に仕込みをしておかねばと思い、今回遥々お呼びしました」
「お願いしたい事は、今後地球ガミラス間で締結される講和条約、もしくは安全保障条約をなるべく早期に地球に持ち掛けて欲しいのです。少なくとも我々がイスカンダルから復路に着いてから地球時間換算で約210日目以降です。そしていずれ地球政府側から要請される可能性のある地球復興活動の支援及びガミラス艦隊の駐留に対する条件として、『イスク・サン・アリア条約の順守を前提にする』ことを地球側に持ち掛けてもらえないでしょうか?」
「条件追加……理由をお聞かせ願えますか?」
奇妙な申し出にヒスの政治の目が光り、真意を聞く。
「イスク・サン・アリア条約は、波動エネルギーの平和利用と波動砲にもう一度縛りを与えるための条約です。実を申し上げると、波動砲の発射対象を制限する条約は既に地球側に存在しています。ですが、それはスターシャ陛下が地球製波動砲を認知する前の段階で結ばれた物であり、今回地球製波動砲を認知して頂いた上での締結を行いたいと考えています。しかし、Wunderは……と言うよりも、艦長である沖田に条約締結等の外交権が与えられた公的記録が在りません。条約と言う物は外交権を持った者……外務大臣や大統領等の首脳陣、政府等から任命された外交団が締結するものであり、外交権の無い状態で締結された条約は、首脳陣が『条約と認識するかどうか怪しい』のです。単なる口約束として受け取られても何ら反論は出来ません」
テーブルに広げられた条約草案は地球言語の他にもガミラス語、イスカンダル語でも書かれている。事前に沖田艦長と真田、古代を始めとした戦術科と赤木博士と言った有識者によって纏め上げられた草案は、可能な限り「条約の穴」を埋める事に特化しており、両手の指で数えられる程度の条文にこれでもかと内容が盛り込まれている。
「つまり、ガミラス側から圧力をかけて条約順守を促し、波動砲の暴走を抑える……という事ですね。しかし、何故我々が圧力をかけることが可能と結論付けられたのですか?」
「はい。何故ガミラス側から圧力をかけられる結論に至ったのか。それは単純に、ガミラス領全域の国民感情が理由となっています。ガミラスはイスカンダルを崇拝しています。その崇拝対象であるイスカンダルが地球に波動エネルギー技術を分け与え、地球はその力でサレザー恒星系に到達しイスカンダルにやって来た。そして我々が帝都バレラスに落下する巨大構造物を迎撃した。重要なのは、この全ての事実のの大本にある力が地球製ではないという事です」
「地球製ではない?」
「ガミラス側で認知されているかは分かりませんが、宇宙戦艦Wunderにはイスカンダルの次元波動理論と波動コアを使用した次元波動エンジンを搭載されています。我々が主機本体に手を付けた部分は少ないので、Wunderはイスカンダル純正の力を受けた船であると捉えることが出来ます」
そう、あの船はイスカンダルの次元波動エンジンが無ければ絶対に動かない。と言うか進まない。2500mの巨体を動かしワープもさせるこの超技術はイスカンダルの歴史が生んだ至高の技術の結晶だ。
「ここから言える事は『イスカンダルの力を受け継いだ船がガミラスを救った』と言う点です。これは遠回しになりますが『イスカンダルがガミラスを救った』と言い換える事も出来、地球がイスカンダルの加護を受けたから出来たと見る事も出来ます」
「そんな加護を受けている我々が条約破棄を行い波動砲を揃えれば、イスカンダル信仰の深いガミラスの方々は、地球のその行為に対し憤りを覚える事でしょう」
「……そういう事ですか」
「波動砲暴走により条約が無かったことになった場合、ガミラスの方々はそんなイスカンダルとの約束を破った地球との同盟を破棄する事を望むでしょう。同盟破棄が起これば地球復興政策も支援が無くなり地球は苦しい事となる筈です。正直に申し上げてガミラス抜きでの復興は申し上げて苦しく、政府は波動砲の扱いを厳重にせざるを得ない。ここまでの話を纏め上げると、ガミラス側のイスカンダル信仰を利用する事で、地球政府が条約を無視したら支援が外される状況を作ることが出来てしまうのです。以上の理由から、ガミラス側から圧力をかける事は可能ではと踏んでいます」
ヒスは唖然としていた。ここまでの話は仮説でしかないが、それでもガミラスと言う国の事情とイスカンダル信仰の深さを考慮に入れると現実的に聞こえてしまう。
と同時に、今現在の政権崩壊による国家の混乱を鎮める一手にもなり得るとヒスは考えた。本星には多くの臣民が住まい独裁政権下で合ったつい最近でも多くの派閥が存在していた。デスラー政権の実質的な崩壊と言えるこの現状は他勢力が犯行のキッカケともいえ、内乱が起こりかねない。その現状にこの一方を投じ、まずは同じ方向を向かせる。
国歌を立て直すためには、「ガミラスとテロンでの休戦宣言の布告」を行い、「イスカンダルの力がガミラスを救った」事を喧伝し、地球とイスカンダルとの関係を示す。
「……理由は分かりました。貴方方の推測通り、我が大ガミラスの事情を鑑みれば可能であり、現在我々が抱える国内の混乱の正常化にも転用可能です。それと、個人的な疑問をこの場で言わせていただきますが、なぜそこまでして最強に近い力を縛られるのですか? イスカンダルの力だからですか? スターシャ陛下の願いだからですか?」
「……その理由も含まれていますがそれ以上に、これを生み出してしまったからです。この場で言うのもおかしなものですが、波動砲を生み出したごく初期の頃は、子供らしく最強を生み出したとか言って自信満々でした。ですがシミュレーションを行った結果、大陸一つを消せるほどの兵器である事を知ってしまい、「歴史を変えてしまう兵器を生み出した」事を痛感しました。……地球にはパンドラの箱という言葉があり、「災難を引き起こす原因」と言う意味を持っています。まさにその「災難の原因」にでも手をかけてしまったのかと怖くなってしまったんです。力を生み出し、制御を行い、最終的には2人で波動砲の引き金を引き、波動砲を破壊ではなく守るための力だという答えは、この航海で我々が見つけたこの力の使い方です。破壊なんかではなく守るため。力の咆哮の方向は、これからも地球を守るための方向に向き続けます」
一瞬だけ強まった光は加工済みの眼鏡の奥で揺らめき、言葉は決意を乗せて響いた。
「アカツキさん、ムツキさん。私は、貴方方が波動砲の番人になり得る人物と考えていました。貴方方が波動砲を生み出し、その力の酔いしれなかった事は幸いな事であり、その力をこれからも縛り守る為の力として使うのであれば、私は貴方方の力の使い方を尊重します」
「イスカンダル第一皇女スターシャ・イスカンダルは、宇宙戦艦ヴンダーの貴方方を信じ、力を託します。貴方方が誓うように、破壊ではなく守る為の力として」
「スターシャさん……」
「ヒス副総統も、宜しいですね?」
「私は、この件に関われる立場にはありません。波動エネルギー兵器を持ち本星を滅ぼしかけた事件を食い止めることが出来ませんでした。前政権で副総統と言う立場でありながら感づく事も出来なかった以上、私はスターシャ殿下の決定を尊重する事しか出来ません」
「そして、ここで私は決定を下します。イスカンダルは、地球へのコスモリバースシステムの譲渡を行います。貴方方との意志と
「彼の……失礼ですが、どなたの遺志ですか?」
「古代進さん、この会談が終わり次第、お伝えします」
その後、ガミラスとの休戦協定である「地球・ガミラス休戦協定」が結ばれ、ガミラス艦隊全軍へのヴンダーへの攻撃が禁止された。それと同時にヴンダー陣営が草案として提示した「イスク・サン・アリア条約」への調印が行われた。
前身となった使用制限条約を踏襲し、今後の地球上層部の変化も考慮に入れられたそれは、多少の修正が行われたものの、同日無事に調印が行われた。
イスク・サン・アリア条約
第1条
国際連合安全保障理事会及びその下部組織である国際連合宇宙海軍、若しくは上記の組織の後継に当たる「軍事的行動が可能な組織」は、対艦又は対惑星を目的とした波動砲の使用を禁ずる。
第1条補足
地球人類の存続の危機と判断された場合、非常事態宣言による特例に基づく波動砲の対艦隊戦使用を容認する
第2条
波動砲艦艇保有数は50隻とする。
第3条
現状想定された発展型波動砲の開発を禁ずる
第4条
波動砲の条約範囲内での発射行為には、発射艦艇の艦長、副長、戦術長の承認を行う。
第5条
波動砲搭載艦艇には、条約範囲外での発射を感知した場合に、発射機構が自動的に自壊する機構を搭載する事。
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「ヒス副総統」
会談が終了し本星に戻ろうとするヒスを呼び止めたのは、ハルナとリクだった。手にはデータスティックが握られていて、その場で一礼して2人は歩み寄ってきた。
「非公式ではありますが、個人的にお願いしたい事があります。探していただきたい文字があります。最重要機密のため、詳細はこのデータスティックでご確認ください。今回のバレラスでの戦闘で、Wunderと総統座乗艦は元姉妹艦である可能性が出ています。それが立証できるかもしれません」
「元姉妹艦? 根拠はおありですか?」
「ありません。ですが可能性はあります。Wunderは我々の星系のとある惑星の漂着した巨大な骨格を船体の一部にした戦艦です。総統座乗艦はガミラス艦艇の特徴的形状がみられましたが、それ以外に旧AAAWunderに酷似した形状でした。根拠は確かに乏しいですが、元をたどれば、同じNHGシリーズの艦艇かもしれません」
「総統座乗艦は一体何処から生まれたのか。可能か不可能かは隅に置き、まずはお受けします」
スターシャに連れられた古代はとある場所を訪れていた。王都郊外、地平線の果てまで見える広大な土地。そこにクリスタルのオブジェが整然と立ち並んでいる。1つ1つのクリスタルにイスカンダル語が彫られた金属板が内包されていて、イスカンダル語が分からない古代でもそこが何なのかが分かった。
「ここは、墓地ですか?」
「イスカンダルの人々は、皆ここで眠っています。私たち三人を除いて皆ここで。街を見て、気付いていたのでしょう?」
何処までも広がっている墓地の中を歩く。透明なクリスタルと内部の金属板。風が響く音が支配し、自然に無言になる。
「イスカンダルは永遠の幸福を手にするために自らこの選択を選びました。私達は王族として残され、この星は眠りについた国民と共に約数千年を共にしました。今ではそれが本当に幸福なのか、私は分からなくなった」
「これが……幸福なんですか?」
「今は分かりません。ですが、彼がやって来るまでは永遠を幸福と考えていたのかもしれません。人は生きてそして死ぬ。イスカンダルはそれを破った結果死と言う概念を失い、今の状況となりました。彼との出会いで永遠の幸福に疑問を持った私は、彼を永遠の中に誘う事をやめ、この地で埋葬を行いました」
スターシャが立ち止まった墓の金属板には、日本語が書かれていた。
《古代守》
「何で……何故兄の名が……」
イスカンダル人の墓の中に地球人の名前。「彼」が一体誰なのかここに来るまで古代には分からなかった。それが自身の兄であった事は古代の大きな衝撃を与え、一瞬息を忘れた。
「コントロールを失ったガミラスの捕虜護送船がイスカンダルに墜落し、その時生き残っていたのは彼だけでした。ガミラスの目を盗み、何とか保護しましたが、その時すでに彼の体は……結局私は、誰も助けられなかった」
「……スターシャさん」
墓の前で呆然としていた古代は、スターシャと向き合った。
「……ありがとうございます。兄は、宇宙ではなく地上で最期を迎えることが出来て、喜んだと思います」
宇宙艦艇は船と運命を共にする以上撃沈されれば遺体は残らない。だからたとえ殉職しても誰も弔うことが出来ない。埋葬もされない。古代は、あのエンケラドゥスのゆきかぜの残骸を見て、兄の死と言う事実をもう一度痛いほど感じた。もう兄はいない。1人で死んでしまった。
しかし、兄はここで死んだ。それも孤独の中で死んだのではなく、スターシャと言う1人の人間に看取られながら死んだ。同じ死でも孤独よりどれだけ良い事か。両親を失った古代には分かっていた。
古代は自身の銃をホルスターから抜き、兄の墓前に供え手を合わせた。
「スターシャさん。兄は、最期に何を言っていましたか?」
それを聞いたスターシャは、袖にしまっていたメッセージカプセルを取り出た。
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「私は国連宇宙海軍所属駆逐艦ゆきかぜ艦長、古代守だ。私はガミラスの捕虜となり、実験サンプルとして護送される途中、難破したところをイスカンダルの女性に助けられた。そして、地球の艦がここへ向かっていることを彼女から聞いた。……このメッセージが届いていると言うことは、君たちは無事にたどり着いたということだ。出来る事なら、俺も君たちの艦で一緒に地球へ帰りたい。だが、それまで俺の身体は持ちそうにない。最期に言い残しておきたい事が色々ある。ひとつは俺たちは異星人とだって理解し合えるということだ。俺はそれをこの星に来て教えられた。それは忘れないで欲しい」
「二つ目は、俺の友人に伝えて欲しい、多少くだらない事かもしれないが、最期くらい言わせてくれ。真田、研究を大事にするのはいいが、友人が新しく出来たりしたらそっちも大事にしろ。真田の友人もこれを聞いていたら、その研究バカを頼む。なるべく楽しい未来を過ごさせてやってくれ」
「そしてもうひとつは、弟の進に伝えて欲しい。進、俺の分まで生きてくれ。生きて必ず、青い姿を取り戻した地球を瞳に焼き付けてくれ。貴艦の航海の安全を祈る。どうか地球へ無事な帰還を……」
艦内放送で一斉に放送されたその遺言は
停泊7日目、波動砲発射システムの封印と発射機構の撤去。それと同時にコスモリバースシステムの搭載が始まった。気球のような何かで運搬されてくるコンテナを甲板部と技術班で開封、それを翻訳した設計図を基にして組み立てていく。
さらに海上からはコスモリバースシステムのコアユニットを、スターシャ自身が連絡船を用いて運んでいる。
「コスモリバースシステム、生命を宿した星に時空を越えた波動として存在している星の物質と、生命の進化の記憶を封じこめたエレメントを触媒にして惑星の記憶を解き放ち、その力で惑星を再生させる。イスカンダあるがコスモリバースを直接送れなかった理由は、その星のエレメントがイスカンダルに来る必要があったからなの」
「地球の復活には地球のエレメントをか。……惑星再生って言うよりかは環境の総上書きに近いのかな。エレメントと星の物質をソースにしてセーブデータ作って上書きするみたいな感じで……そして波動エンジンはエネルギー供給……」
「技術的にはそういう想像で合っているわ」
コスモリバースの概要を何とかかみ砕いたリクはさらに考え込んだ。手元にあるコスモリバースの推定される主能力とその概要には、地球言語に翻訳された一覧も添付されている。だがそれも地球人には理解不能に近い難解な内容となっていた。
その内容を抜粋すると……空間収縮と膨張、超高精度長距離探査能力、ワープ由来の時空間操作と再構築、超演算能力、記憶情報のトレース能力。その他もあるがオカルトになってきているので半分諦めている。
過去に「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」と言葉を残した人物がいたが、これ程にまでその言葉がぴったりな代物は今後目にする事もないだろう。
「セーブデータの上書きの発想は近いかもしれんな。元に戻すというよりもエレメントから抽出、そこから実際の環境を演算で導き出してセーブデータを上書き。だが……」
「何か気になるんですか?」
ハルナの声を他所に難しい顔をする真田は、吊り上げられているコスモリバースシステムを睨む。いつも以上に悩み考えている真田は腕まで組み始めて唸り始める。
「記憶情報のトレース能力だよ。誰の記憶をトレースするのかが分からない。誰かの記憶に残っている地球がソースデータになるのだろうと想像はしたが、問題は、誰の記憶かという事だ」
「それは、Wunder乗員の全員の記憶からじゃないですか? それを複合して地球のセーブデータを作り上げるって感じで」
「かもしれない。だが、一体誰の記憶なんだ?」
「まもなく出航しますよ。真田さん」
艦の外に出ている事を聞いたハルナとリクは、もしかしたらと思って古代から聞いた霊園に足を運んだ。古代守を始めとしたゆきかぜ乗員の眠る霊園。そこに、真田は座り込んでいた。
「……ここに眠っていると古代から聞いた。せめて発つ前に挨拶をと思ってな。ところで暁君、その手に持っているのは?」
「お墓参りなので、あった方が良いかなと。一本頂いてきました」
真田が違和感を覚えたのは、ハルナが持っていては違和感があるものが握られていたからだ。それはお酒の一升瓶。それも佐渡先生がよく飲んでいるオムシス製の日本酒だ。
「さすがに今は飲めませんが、供えるくらいなら」
「ありがとう。守、見えてるかどうかは分からないが、俺の後ろに立っているのが私の友人だ」
ハルナは持ってきた一升瓶の栓を抜き、同じく持ってきたコップに注いで墓前に供えた。リクはかけていたカバンからジュースを取り出した。
「あと一時間もすれば出航なので、僕らはこれですよ」
「ああ……乾杯」
「「乾杯」」
ジュースが注がれたコップを回し、三人で静かに乾杯した。
「来てくれて、ありがとう」
「どうしても足を運ばなければならない……って感じがしたんです」
Wunderへの改装と波動コア受領にはどうしてもメ号作戦に絡む必要があり、作戦結構前に2人は上層部から内容を聞かされていた。
極僅かの者しか知らない陽動作戦。何も知らされずに陽動に回され、その結果人類の希望が繋がったが多くの命が消えた。後がない地球の取った策であったが、「これしかなかったんだ」で片づけてお終いにしたくない。
「古代守さん。古代くんは、ちゃんと戦術長を務めています。おまけに彼女も出来そうです」
「そうなのかい?」
「真田さん鈍感すぎですアンテナ張りましょう。古代くんと森さん、あと一歩で付き合いそうなんです。何かいい雰囲気です」
「なら船務科に掛け合って2人の非番をなるべく合わせるべきか……」
「それは露骨すぎますよ。見守る程度がちょうどいいです。古代守さんもそうすると思いますよ?」
「そうだな」
昇り切ったサレザーの下で真田は飲み、リクとハルナもジュースを飲み進めていく。真田の表情は温和な物で、恐らく艦内の誰も見た事ない様な表情だろう。コッソリ顔を合わせて意思疎通し、リクとハルナは微笑みあった。
たった1時間、それでも話は進み、時に失笑し、時に悲しげな顔になり、時に謝ったり。ころころと変わる表情と共に語られる昔話に耳を傾けながら、2人は真田を見守った。
「そろそろです。行きましょう」
「守。またここに来る機会があれば、また会おう」
飲み終わったコップを綺麗に吹き上げ逆さ向きにしておいた。きっちり三人分、一升瓶も置いていく。いつかまたここに来ても分かるように。
「また来ることがあったら、古代くんと来ますよ。ですよね?」
「ああ。またな、守」
墓前にそう誓った真田は踵を返して墓標を後にした。
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甲板上に戻った2人と真田を待っていたのは古代と森にアスカと山本、そしてイスカンダル皇族の3人とメルダだった。
「真田さん、どちらに行かれていたんですか?」
「ちょっとな、話をしてきたんだ」
その一言で何をしてきたのかを察した古代はそれ以上言わなかった。
「皆集まったね。じゃあ、私から発表をします。ガミラスに赴いて人々の支えになる為に、メルダと共に頑張っていくよ」
「ガミラスに?」
「ヒス副総統を筆頭にした暫定政権でも、今の混乱を抑えるのにはどうしても時間がかかる。たとえ休戦の表明があってもだ。だから私はユリーシャ様に付き従って、ちょっと我がガミラスを落ち着かせに行ってくる」
「メルダが従者みたいになってくれるなら、ユリーシャも安心ね。メルダ、色々とありがとうね」
「ああ。アスカ、ヤマモト、それと、ああ……多いな」
「多いって何よ多いって」
すかさずアスカがツッコミを入れるが、メルダは珍しく言い返さず困ったような笑みを浮かべた。
「色々あったから感謝するべき人数が多いんだ。とにかくヤマモト、アスカ、ムツキ夫妻。コダイにモリにサナダ副長。短い間だったが、ありがとう」
「ちょっと~まだ結婚してないけど?」
「いいじゃないか。もうそんな様な雰囲気だぞ」
(((ご尤も)))
「今ご尤もって思った人は挙手してください」
Wunder陣営は一斉に同じ事を思い、それなりに強い意思だった為ハルナが間違って感知してしまった。でも満更でもないリクの顔を見て文句を言うのをやめた。
「ああそれとコダイとモリに渡しておくものがある。ムツキ夫妻は後ろを向いてくれ」
「え? まぁ分かった」
後ろを向いたのを確認したメルダとユリーシャは、古代と森に二通の手紙を渡し、声を潜めて話し始めた。
「時が来たらこれを夫妻の目の前で読み上げて欲しい」
「時が来たら?」
頭の上に「?」を浮かべる古代の真横ではユリーシャが森にそっと耳打ちをしていて、何かを理解した森は古代に耳打ちをして古代もやっと理解した。
「分かった。時が来たらだな」
「もういい?」
「ああいいぞ。そこの夫妻は一切詮索しないようにな。楽しみは取って置く物だぞ」
「詮索って……分かった。楽しみに待ってるよ」
念を押された2人は一旦疑問を隅っこにしまい込んでおいた。
「それとヒス副総統から言伝だが、お望みの物は時間がかかるそうだ。発見し纏まり次第、ヴンダーに超空間通信で送るそうだ」
「分かった。よろしくお願いしますって伝えて欲しい」
「何を依頼したんだ?」
事情を知らない真田は怪訝そうな顔を向けた。
「AAAWunder再起動時に表示された文字についてです。総統座乗艦とWunderが同じ出自ならば多分中身のシステムが大体一緒かなって感じで何かあるかなって思ったんです」
「はぁ……まぁWunderには思っていたよりも謎が多いから、手掛かりが増えるのは良い事だ」
知らない所でまた動かれていた事実にまた溜息を付いた真田だが、自身もWunderの特異性と出自には大きな興味を持っている以上これ以上とやかく言うのをやめた。
自分も目にしたAAAWunderの再起動ウィンドウ。その前に流星のように流れて行ったQRコードのような文様。いくら探しても手掛かりゼロだった以上、少しでも光明が見えるなら真田もそれをしていたかもしれない。
「スターシャさん、僕達を信じて下さり、ありがとうございます」
「どうか私達の歴史を繰り返さず、別の未来を生み出してください」
「はい……!」
古代がスターシャに感謝を示し、スターシャは力と希望を託す。一目見るとたった1人が重い物を背負っている様に見えるが、決して1人で背負っているものではない。
皆で意識した波動砲と皆で辿り着いた希望。それを皆で背負い、一同敬礼を行い乗り込んでいく。
「どうか、我々の様にならないで下さい」
________
「全艦に達する。こちら艦長だ。本艦はコスモリバースの受領を終え、これより地球へ帰還の途に就く。……帰ろう、故郷へ」
「発進準備!」
「機関出力上昇中。推力、1160万トン」
「操舵及び重力推進問題無し」
「総員の艦内への移動完了を確認。各員、配置に着きました」
全ての乗組員がイスカンダルの方向を向き一斉に敬礼をし、AAAWunderからも警笛の代わりとして外部スピーカーで警笛音を鳴らす。水面を進み、王都沖合から離れていく。両舷のメインノズルにも光が灯る。両舷から伸びる長大な翼が水面を抜け出し始め、徐々に船体が上昇していく。
波動エンジンが出力をさらに上げ、Wunderが上昇する。滴り落ちる海水と持ち上がる波を払いのけながらフロートを収納し、神殺しの船はイスカンダルの海から浮上し空へ舞う。
「さようなら、もう1人の私」
「さようなら、守」
宇宙戦艦Wunderはイスカンダルから飛び立った。地球を救う希望と地球を守る為の力と共に。
16万8000光年の先の地球への帰還に残された時間は約6か月。
地球を、人類を救うため。約900名の乗組員と11名の乗組員を乗せて、宙に舞い戻った。
Wunder、地球に向けて発進です。
コスモリバースの受け渡しは勿論なのですが、波動砲の防衛戦力としての所持の容認はやるべきだったんです。本当に波動砲抜きでガトランティスとやり合えるのか。やろうと思えば可能ですが、時間断層フル稼働でもどうしようもないほどの戦力差があり、如何にリクハルが真田さんレベルだとしても厳しい。
だったら波動砲が使えるようにすればいいじゃないか、最終手段として。
マジで切り札として取って置いて、地球人類を守る為に行使する。これならばイスカンダルの愚行も繰り返さない。という事で、今回この物語では「波動砲に対する答えを出して守る為に力にし続ける」事を表明する事で「波動砲の所持」を取り付ける事が出来ました。
勿論それに甘える事もなく、リクハルはドチート艦艇とドチート兵装を生み出していく事になります。
「いやいや、ちょっとお手伝いをね!」
……な兵器でも出しますか。
星巡る方舟編までは書き置いておいた閑話とかが続きます。
感想、お待ちしています。感想=燃料
それではまた次回のお話で
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