宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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遅くなりましたが、あけましておめでとうございます

頑張って最終章まで書いていきますので、今年も宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》をどうかよろしくお願いします

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奇跡の船と方舟
邂逅「焔」


 Wunderがイスカンダルを出港してから1か月半

 

 大マゼラン銀河間空間

 

 

 

 正面に無限の星々を映しながら、艦隊は大マゼランに向かって進んでいく。バラン星ワープネットワーク崩壊を受け、ガミラス艦隊は亜空間ゲートを使用したショートカットと言う手段を奪われた。

 そのためこうして通常のゲシュ=タム・ジャンプを繰り返す事しかなく、バラン崩壊から60日の今日で、何とか大マゼラン突入一歩手前にまで到達した。

 

 90日の彼方からこうして残り30日の位置に到達したが、旗艦であるゼルグート2世は主を失ったまま。その主は総統暗殺を企てた者としてゲールに射殺され、反乱者の艦として帰るに帰れない状況となっている。

 

 帰れば反乱首謀者として極刑。今や宇宙の放浪者だ。

 

 そこに舞い込んだ一報により、艦隊のごく一部は極秘裏に本星への帰路に就く事を決めた。

 デスラー総統の行方不明とそれによる政府中枢の混乱。独裁政権のトップで合ったデスラーが消息を絶ち、副総統のヒスが臨時政権として混乱収束に奔走しているとの事だ。

 

 つまり身内がゴタゴタしていて、コッソリ帰ったとしても有耶無耶になるだろうという事だ。

 

 

「デスラー総統の行方不明、朗報だな」

 

「政権の混乱期に帰還すれば山積みの問題に紛れることが出来る。帰還も夢ではないと」

 

 ゼーリックが死亡したことで指揮官が不在となり、今はバシブ・バンデベルが艦隊の指揮を執っている。バラン星崩壊から生き延びた基幹艦隊3000隻のうちの数十隻。ゼーリックに同調していた数少ない艦達で構成されている小艦隊は、大マゼラン外縁を進んでいく。

 

 

「前方に重力振。何かがワープアウトします!」

 

「何か? ハッキリしないか!」

 

 ならばハッキリさせようと言うかのように正面から何かが飛び出した。炎の柱が空間の歪みから真っ直ぐに吐き出され、それは一隻のデストリア級を大蛇の様に飲み込んだ。飲み込まれたデストリア級は見る間もなく赤熱し、装甲が泡立ち、爆発とが起こったかと思えば「消し飛ばされた」。

 

 焼かれたのではない、消し飛ばされたのだ。

 

「何が起こっている!?」

 

「前方射程圏外の空間に艦影多数! 艦種識別、ガトランティスです!」

 

「ガトランティスだと!? 全艦散開、野蛮人の的になるな! 反撃しろ!」

 

 バンデベルは即座に散開の指示を出し、炎の柱から逃れた艦艇が散開し各個に肉薄をかける。

 あの決戦兵器はかなり遠距離から発射されていた。チャージに時間がかかる決戦兵器はWunderで既に見た。ならば発射される前に近距離での雷撃戦に持って行く事が対決戦兵器戦での方法だと考えた。

 

「重力振あり! 第2射来ます!」

 

「全艦回避行動! 散れ!」

 

 纏まっていては一発で壊滅もあり得る。さらに散開をかける。肉薄をかけていた全艦が各個に散らばり的が散っていく。だが、それでも回避できないというのはバンデベルは知らなかった。

 

 放たれた炎の柱は3本。それらが横並びとなり広範囲を焼き尽くし艦艇を消し飛ばす。かろうじて回避した艦艇も柱から溢れるフレアの様なエネルギーが貫通し、散開をかけていた艦艇の半分が消えた。

 

 更に1発。残りの艦艇が再び3本の炎の柱で焼かれ、何も残すことなく消した。艦隊数十隻はたった数発の砲撃で壊滅、余りにも一方的な戦闘だった。いや、これは最早戦闘と呼べないだろう。殲滅作業だ。

 

「艦隊損耗率95バーゼル!! 残りは本艦のみです!!」

 

「どういう事だ!? あんな野蛮人がこんな物をォ!?」

 

「どうなさるんですか、あんな物に狙われれば終わりですよ!?」

 

「狼狽えるな! ゼルグートの正面装甲ならば耐えられる! こっちはガミラス最大の戦艦だぞ!」

 

 だが現実は空しく、再び炎が放たれる。1本の極太の炎はゼルグートの正面装甲をいともたやすく焼き、艦内をグズグズに焼いていく。赤熱し泡立ち装甲も脱落し、砲塔があった個所からは爆炎も上がる。全長1000mを誇り最強の防御力を与えられたゼルグート級1番艦は、艦首から艦尾まで炎で串刺しにされた。

 

 辛うじて被弾を逃れた艦橋が分離し、トカゲの尻尾切りの様に離脱する。

 

「全速力だ! 急げ!!!」

 

 しかし空しく、温存されていた1発が歪みから吐き出され独立戦闘指揮艦を飲み込む。最低限とはいえ施されていた装甲を容易く脱落させ、バラバラに崩壊させて無に変えていく。

 

 

 

 戦闘開始からわずか5分。ガミラス小艦隊数十隻はアウトレンジからの砲撃で全艦が消し飛ばされた。

 

 

 

 その発射点に位置する異形の戦艦。全長1500mを誇り、第2船体を左右に携えて中央船体には獣のような顔を模した砲口が取り付けられている。第2船体の艦首は獣の口の様に大きく上下に開かれ、その中からあの火焔を放った異形の砲身が覗いている。そして2対の翼。禍々しく荒々しく翼を広げ、赤熱させながら決戦兵器の膨大な熱を放出している。

 

 

 その形状は、あの戦艦に酷似していた。

 

 

《思い知ったか。ガミロンの青虫どもめ》

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 技術科、桐生美影、知的日誌。

 Wunderがイスカンダルを抜錨してから一月が経ち、Wunderはまもなく大マゼラン外縁を出て銀河間空間に入ろうとしている。ガミラスとの和平条約が締結され、ガミラス正規軍からの驚異は無くなった。艦の雰囲気も明るく、コスモリバースの受領もあってか、僅かずつだが艦内の空気も和らいでいるように見えてきた。

 

 コスモリバースを受領したからWunderの任務は終わりという訳ではない。残り10万光年くらいの道を進んで銀河系に戻り地球に無事に帰還する。そのためにも私達は地球の未来の為に動かないといけない。

 地球でWunderの帰りを待つ皆の為にも、志半ばで倒れた仲間の為にも、やれることをやるだけだ。何やら途方もなく大きなプロジェクトも立ち上がっているみたいだけど、私にはよく分からない

 

 かくいう私は、現在直属上官の新見一尉の元で、異星言語の解析に励む毎日だ。簡易翻訳機が完成すれば、異星人とも良好なコンタクトが可能になるだろう。

 

「録音終了」

 

 自室のベットに寝転びながら小型ボイスレコーダーの録音ボタンをもう一度押した。技術科桐生美影、歳は18歳。本来であればまだまだ学生の彼女は、今は地球を救う奇跡の船の乗員の1人。船を支える縁の下の力持ちの技術科員だ。

 

 こうして毎朝業務開始前にボイスレコーダーに日誌を記録するのは、彼女の日課。これをしないと1日が始まらない。ここまで6か月ほど続けていた日課を今日も終えてベットで大きく伸びをする。

 

 さて今日も業務だと体を持ち上げると、急に部屋の受話器がけたたましく鳴った。

 

「痛っ!」

 

 驚いてしまいベットの上段に頭をぶつけてしまい悶えるが、何とか受話器を取った桐生は頭の痛みに耐えながら答える。

 

「うぅ、はい」

 

『ピンポンパンポーン! 技術科の桐生美影ちゃんに、直属上官の新見薫一尉からのありがたいお言葉が送られます! では新見一尉どうぞ!』

 

「はいぃ?」

 

 こんな変な事をするのは十中八九、いや確実にマリだろう。もう考えなくても分かるが、こういうネタは慣れている事なので取り敢えず聞いてみる。

 

『今何時か分かってる?』

 

 新見の少々の怒気を含んだ声が受話器から響き、一瞬今何時だと思う。自室のベット脇にはデジタル時計が埋め込まれている。現在時刻は午前9時12分だ。

 

 9時12分。勤務開始は午前9時から。弁明の余地もなし遅刻確定だ。

 

「マズい!!」

 

『はーいと言う訳で美影ちゃん? ちょっと昔のJKみたいにパン銜えて解析室にダッシュ! 位置についてはいよーいスタート!』

 

 それを最後に騒がしい受話器はぴたりと止み、マリのノリの勢いに一瞬呆気に取られた桐生は即座に現実に引き戻されて艦内服に着替え始める。

 桐生の自室から解析室までは約600m。トラムリフトを使っても軽く通学路並みの距離があり、マリの言う通りパンを銜えて走れば様になるだろう。全てはWunderが巨大だからこうなったという事だが、肝心の設計者はこういう場面を意図していない。

 

「マズいマズいマズいマズい!!」

 

 いつものシュシュを手に持ってドアを開けて飛び出し解析室に直行。しようと思ったのだが、

 

 

 

「「うぎゃあっ!!」」

 

 

 誰かに盛大にぶつかってしまい転げてしまった。

 

 

「うう、痛てて……」

 

 大急ぎで向かわないといけないのに誰がぶつかってきたかと思えば航空隊の沢村だった。つい先程まで吞気に朝食を食べにふらふらと歩いていたのだが、それを察した桐生は少々腹を立てた。大急ぎの自分と暇そうな相手。不満を覚えるのは勝手だがそれをぶつけるのは違うのだが、今の桐生はそれを抑えきれない。

 

「……暇そうね」

 

「はぇ?」

 

(かわいくないっ! 全っ然かわいくない!!)

 

 吞気な返答を尻目に更に走っていく。曲がり角を最短時間で曲がり通路をかけて、トラムリフトに飛び込んで更に走る。気の所為か、先ほど自分の事を声高に叫ぶ声が聞こえたが、「バカの叫び声」と一蹴して走る。

 

「うひゃあ!!」

 

 また誰かにぶつかってしまった。女性用の艦内服だけど上から男性用を羽織っている。こんな服装の乗員は桐生が知る限り1人しかいない。

 

「ハイハイ急がないの美影ちゃん」

 

「暁さん?! ご、ごめんなさい!」

 

「大方遅刻してマリさんに走らされている感じかな。ほら新見さん怒るから急いで急いで」

 

「あれ、睦月さんは?」

 

「ちょっと一人で考えて設計してみたいって。私は休憩がてら、ね」

 

 いつもハルナとリクは一緒にいるという印象が付いている桐生にとっては、ハルナが一人でいる事が珍しかった。

 

「こういう時間も必要よ。何時までもべったりだと、重たい彼女みたいに思われちゃったりして。と言うより……私が持たないの」

 

 ……新型艦艇の設計という人類の未来を守る為の計画を行うにあたって、ハルナとリクは技術科のシフトから完全に外れた。前例があるものの設計は本来2人だけでやるような物じゃない。それでもやる為に徹底的なまでに環境が整備されて、目一杯時間を使えるようにシフトから完全離脱。フリーで自由に動ける以上休憩も自由だ。

 

 それとは別に、ハルナとリクは関係をもう一度見つめ直していた。結ばれてからもう数か月は立ったが私達はどんな関係なのかなと。辿り着いたのは、「公私共々頼れるパートナー」と言う無難な結論。他の人から見たらサッパリしているのではと思われてしまうが、ただ「ずっと一緒にいると多分心臓が持たない」という独身が聞いたら血の涙を流しそうな理由もあって今の関係で双方落ち着いている。

 

 勿論リクはハルナが甘えてきたらそれに答えてくれて、その逆もまた然り。程よく甘く、浮かれても緩まらずな関係が維持されて、技術科の公認癒し成分ともなっている。

 

 

「はい急ぐ急ぐ! 解析室まであと100m!」

 

「はいぃ!」

 

 ハルナに急かされ、桐生は残り100mの直線を全速力で走り抜いた。

 

 __________

 

 

 

 

「すみませんでした」

 

「これで遅刻2回目。仏の顔はあと1回にゃ」

 

「気を付ける事。あと1回遅れたら……」

 

「遅れたら……?」

 

「……寝坊じゃないんでしょ? 昨日の続き、早く始めなさい」

 

 解析室に飛び込んだ桐生は新見に怒られマリに弄られハルナに慰められていた。「寝坊じゃない事」はハルナから聞いていた事なのだが、ハルナの桐生に対する温情に新見は矛を治めた。

 徐にコンソールに付いて昨日のままにしておいたコンソールを起動させる。言語学者の卵でもある桐生は、ガミラスやイスカンダル、ジレルにガトランティスにアケーリアスと言った言語の解析と翻訳を行っている。言語の面で右に出る者はおらず、只の真似事で終わったハルナやリクと比べてもずっと流暢に話し理解もする。

 言語の壁と言う概念が通用しない彼女は、もはやどんな星に行っても問題ないだろう。

 

 

「そう言えは、何で暁さんって男性用のを羽織ってるんですか?」

 

「ああこれ? 色々あってちょっとね……」

 

「?」

 

「なんかスタイルの事言ってる人ばっかりいてね。仕方なく平田さんに申請して貰って来たのよ」

 

 ほとんど知られていない事だが、ひょんな事で意思を無制限に拾ってしまった時があった。情報の多さに酔ってしまって医務室でベットを借りたのだが、その時頭の中を反芻していたのが自身のスタイルについての言及だった。

 

 その一例を挙げると、

 

 

「暁さんスタイルいい」

 

「水着見て見たかった」

 

「なぜ水着にならなかった」

 

「白髪赤目美人スタイル良しとか神」

 

「「「眼福」」」

 

「「「「寿命が上がった」」」」

 

「「「「「神様仏様ありがとう」」」」」

 

 

 といったアレなコメントばかり。「そういう目で自分を見てくる派閥」がいる事を自覚したハルナは親しい面々に相談して、男物の艦内服を羽織る事にした。ちなみに一応規則には準じているので問題無しだ。

 羽織ってから以降はそう言う視線は心なしか止んだような気になったので、ハルナにとってこの上着は欠かせないアイテムとなった。

 

 ちなみに、上着探しで躍起になってたお陰でお揃いの服になってたことには、リクに服の事を話すまでは気付かなかった。

 

 

「ほんっと男って……」

 

「私もそう思われるのはちょっとね……」

 

「閉鎖空間で丸1年ですからそういう考えが出るのは分からなくはないですが……流石に嫌です。新見さん、そういうのってカウンセリングで解消できないんですか?」

 

「人間の欲求の中でも大きい方だからね、他の欲で補填しようと思ってもキツイのよ。尤も、貴方はそんな必要ないと思うけど」

 

「へ?」

 

 急に話を振られたハルナは何のことかは理解したが、その先で言われることも察してしまった以上固まってしまった。

 

「そうですよ。あんなドラマみたいな完全復活を引き起こした以上言われるのは運命なんですよ」

 

「え、ちょっと……」

 

「そうそう。副長からお聞きしたのよ、相当危険な大博打したって。内容は教えてもらえなかったわ。何でも極秘らしくの」

 

何をしたか聞かされていない新見が詰め寄る。どうやら真田は隠し通したようだ。

 

「大博打……ですか。何したんですか暁さん?」

 

 桐生も年相応に興味を惹かれる。詰め寄られることに慣れていないハルナは、暑くもないのにダラダラと汗をかきだす。

 

「知らない方が身のためだよ」

 

 流石にどんな方法を使ったのかバレたら自身の秘密がバレてしまう。正直言って自身が人類かどうか怪しくなる秘密のため、これを知るのは自身のパートナーであるリクと友人の真田。その場に居合わせた佐渡と原田。赤木博士にアスカ、形而上生物学に精通したマリ。そして沖田艦長だ。

 

 徹底的な情報統制でその他乗員には一切知られておらず、外見変化も加工済みレンズの眼鏡を着用する事で目立たなくなった。「何時も眼鏡かけてなかった人が何故かかけるようになった」程度の話が流れるだけで終わり、密かに眼鏡勢と眼鏡無し勢が生まれていたりいなかったりする。本人はそのことを認知していない。

 尤も、この眼鏡もリクと2人きりの時は必ず外している。裸眼の視力は相変わらずだが、眼鏡かけてない方が可愛いと言われた事は今でも嬉しいのだ。

 

《企業秘密ね。ますます知りたいです》

 

「ん? 今何語で喋ったの?」

 

「ガミラスの標準語ですよ。解析終わってたのでお披露目です」

 

「意味は?」

 

「企業秘密ね。ますます知りたいです」

 

「「おお~」」

 

「全部私の頭の中にインストールしていますので、緊急時は対応可能ですよ?」

 

 自慢そうに覚えたてのガミラス語を披露し、桐生はさらに解析を進めていく。

 

 


 

 

 大マゼラン星雲

 タランチュラ星雲外縁域

 

 

 数隻の空母が宙を進んでいた。ランベア、シュデルグ、バルメス。そしてバルグレイ。七色星団海戦に参加したガイペロン級多層式航宙母艦は、負傷者と悔恨を満載してガミラス星への帰路に付いていた。艦載機もいない。随伴艦艇もいない。自衛力に欠ける空母での航海は心細いものであり、レーダーに目を光らせながら一切気を抜けない航海を続けている。

 

 ランベアの佐官待遇室で、バーガーは一人ホログラムを虚ろな目で見つめていた。脳裏に映るのは、滅茶苦茶な陣形で転送された機体群。スヌーカに搭乗して第2次と第4次攻撃隊として出撃したバーガー。その第4次攻撃隊は、人為的な重力異常によって壊滅した。

 

 脳裏にこびり付く惨状。滅茶苦茶になった陣形。他機の機首がめり込んだ機体。キャノピー越しに見てしまった血に染まった僚機のコックピット。

 作戦「神殺し」。神に近い戦艦を撃沈するはずだったのに、神のたった1つの動作で壊滅させられた。

 

 悔しい、憎い、復讐をしたい、自分だけが生き残り、空っぽになったはずの自分に憎しみと復讐が注がれていく。

 

 見つめるホログラムの向こう側で再生される元恋人の言葉。その言葉も垂れ流される通信のようにしか聞こえない。

 

 

 

「メリア、また俺だけ、生き残っちまったよ」

 

 もういない恋人にそう呟きながら、頬の傷跡を撫でる。この傷跡に触れるたびに思い出す恋人の最後。隔壁の閉まり切らない隙間。その向こうに見える恋人の顔と迫りくる爆炎。飲まれ、破片でメットが割れ、頬が切り裂かれる。あの時の光景が機能の事のように頭に浮かび、振り払うようにデスクに拳を叩き付ける。

 

『伝令!』

 

 少年兵の声が聞こえ、バーガーは咄嗟にホログラムの電源を切った。開かれたドアの向こうにまだ年端もいかない少年兵が敬礼して立っていた。

 

「バーガー艦長代理殿」

 

「……少佐で良いよ。どした」

 

「あ、その……ブリッジにお越しください」

 

「……おう」

 

 着崩していた軍服を強引に正し、バーガーはブリッジに向かった。

 

 

 ______

 

 

 

「お連れしました!」

 

「すまんな、儂もこいつもボロじゃからあちこち不調気味なんじゃよ。艦内通話の機嫌も悪い。助かったよ」

 

 艦内通話も不調気味で直接呼び出すしかなかった。ガイペロン級は初期、中期、後期型と改修が続けられてきてはいるが、それでも老朽艦であることは否定できない。ドック入りも長かった以上航海中はこうして少しずつ不調が目立ってくる。

 

「爺さん、何かあったんか?」

 

「警務艦隊からの停戦命令じゃ。あのヴンダーへの攻撃の全面禁止との事だ」

 

「禁止? どういう事だよ」

 

「テロンがスターシャ女王陛下を介して本星と休戦協定を結んだ。だからヴンダーに対し戦闘行動が出来ない。そういう事じゃ。従うか?」

 

「はっ! 当然無視だ!!」

 

 敵討ちに固執したバーガーに告げられた停船命令。だが敵討ちしか残っていないバーガーを止められるような物でもなく、やはり命令を蹴る。

 

「いいのか? 警務艦隊は第8で、旗艦はあの改ゲルバデスのミランガルじゃぞ?」

 

「改ゲルバデス……あいつの船か」

 

 改ゲルバデス、その艦級を聞いた途端に落ち着いた。ガミラスでただ1隻しかいない艦で、試作艦を改造したはいいが誰の乗り手もいなかったあの船。器用貧乏で終わる事に抗った、異端な船だ。

 

 

 ______

 

 

 

「そんなこと納得できるかよ!」

 

「ヴンダーへの攻撃は禁じられたのよ。これは命令よ」

 

「上は何ふざけた事決めてんだよ。ゲットーにクライツェ、バーガーにハイデルンの親父、ドメル将軍の仇は、誰が敵を討つってんだよ」

 

 改ゲルバデス級ミランガルの艦長、ネレディア・リッケが直接出向きバーガーを説得するが、折れない。旧知の仲である2人は佐官待遇の部屋で話を続けているが、話は平行線のまま。

 

「……相変わらず、馬鹿ね。老兵に負傷者、さっきの坊やみたいな子も巻き添えにする積もり?」

 

「ガキでもバカでも何とでも言え。だが、もうそれしか残ってねぇよ。……なんならそいつらをミランガルで引き取ってくれ。巻き込まれる筋合いはアイツらにはねぇよ。復讐するのは俺1人だけで良い」

 

 空っぽになってしまった自分に残った復讐は燃え続ける。

 

「全員乗せられるわけないでしょ? 兎も角、この宙域からはすぐに動いた方が良いわよ」

 

「はぁ?」

 

「この宙域で過去何隻も消息を絶っている。だから、魔女の住む宙域って言われているの」

 

 

 ______

 

 

 

「バカバカしい。美しい歌声で船乗りを誘い、その魂を貪り食おう~って? 御伽噺かよ」

 

「そうね、私にもそう聞こえる。でも消息を絶っているという事は事実なのよ。速やかに帰還すべき、いいね?」

 

「……宙域を出るというのは分かった。だが、停戦命令は承服できねぇ。俺だけ生き残って皆死んじまって、もう俺が、ドメル将軍やハイデルンの親父たちに出来る事は、これ位しかないんだ」

 

 飲まずに終わりそうだった紅茶を一気に煽り、歯を食いしばる。ここまで説明しても折れない。今のバーガーを支えているのは憎しみと復讐のみ。それを失えばバーガーは本当に何も燃えなくなってしまうだろう。

 

 その時、何処からか奇妙な歌が聞こえた。ガミラス語ではない。耳ではなく脳に響くような音。平然としているネレディアを他所に艦内通話に飛びつき艦橋につないだ。

 

「おいブリッジ! 何歌なんか流してやがるんだ!」

 

『いえ、そのような事は何も!』

 

「歌? 歌なんて聞こえないわよ?」

 

「おいじゃあこの歌は何なんだよ!!」

 

 飲み込まれていく。バーガーも、艦隊も。

 

 

 

 ______

 

 

 

 暁・睦月研究室と言う特例中の特例を除けば、Wunder艦長室は1人個室の贅沢な部屋である。その上紅茶やコーヒー等も淹れられる調度品を置けるカウンターもあれば本棚もある。おまけに収納式のベットに椅子ときた。他の部屋と一線を画す仕様の艦長室で、沖田艦長は静かに何かを書いていた。

 

 音質のやや粗い年季の入ったレコードプレーヤーを回し、デスクに向かい、時折景色を眺めながら手を止める。何か思いついたかのような仕草を見せてはまた書く。それを繰り返す。ふとティーカップが空になった事に気付いた沖田艦長がデスクから離れると、ふとドアを叩く音が聞こえた。

 

「古代です。入ります」

 

「入れ」

 

 入室許可を出すと扉は開かれ、古代が入ってきた。それを見た沖田艦長は普段は出さないもう一つのティーカップを取り出すと紅茶を淹れ始める。

 

「横にならなくても、大丈夫ですか?」

 

「今日は気分がいい。出来る事は、出来るうちにやっておきたい」

 

 沖田艦長がつい先程まで書いていたのは戦略教本だ。それも経験の浅い軍であったとしても効果的な戦果を挙げられるものばかりを列挙したもので、正攻法から搦め手、果てにはガミラス艦艇との共同戦線を前提にした物まで含まれている。

 まだ完成には程遠いが、現状でも幾つかの戦術が完成している。

 

「例の新型艦艇用の戦術ですか?」

 

「睦月君達がかなり早期の段階で要件定義をしてくれたからね、それに合わせて戦術を練っているのだよ。たとえ地球を平和にしても、自衛力を持たねばただの獲物にしかならない。身を守る為の力が必要だ。それに、儂があとどれくらい生きられるかは分からんが、見て見たいのだよ。生まれ変わった国連宇宙海軍を」

 

 

「未来の国連宇宙海軍ですか。どんな感じなんでしょうか」

 

「希望は与えてくれるだろう。この艦艇と人類の知恵なら」

 

 そう言いながら紅茶を淹れ終わり沖田艦長は古代の前にティーカップを置くととある三面図を古代に見せた。

 金剛型のようで金剛型じゃない艦艇の上部、左側面、艦尾視点からのスケッチが載っていて、Wunderの主砲塔のような砲塔が搭載されている。

 

「これが……」

 

「今までの常識を壊している。睦月君達曰く、戦艦に腕くらい生やしても罰は当たらないらしい」

 

「腕……ですか」

 

 戦艦に腕を生やすという奇怪な想像に困惑した古代を見て、沖田艦長は思わず笑いが漏れてしまった。

 

「まあそれが普通の反応だ。だが、突き詰めてみると面白いんだよ。オーバードウェポンという概念は」

 

 

 _________

 

 

 

 

「……という事だ。あらゆる戦況への適応と、火力、速力、索敵力、制圧力に輸送に補給の大幅な底上げ。たった3艦種のみの軍を支えるには、これは欠かせない」

 

「こんな発想、今まで無かった以上受け入れられるのでしょうか?」

 

「導入メリットは大きい。莫大な能力を持て余さない圧倒的な器があれば、その気になれば単艦で数隻分の働きが出来るだろう。新しい物にはアレルギーのような拒否反応を示すかもしれんが、これは大きな可能性を秘めておる。固定観念を塗り替える革命的な物だという事は儂が断言しよう」

 

 力説を語りつくした沖田艦長は、とても療養中とは思えないほど活き活きとしている。

 

「ご病気の件もあって心配でしたが、お元気そうで安心しました」

 

「まだ死なんよ、地球が平和になるまではな。古代、君の兄の願いの事もある」

 

 自分の兄の話が出た途端、古代の顔は少し暗くなった。寂しげな雰囲気を漂わせ、静かにティーカップの紅茶を見つめている。

 

「最後の肉親、でした。メ号作戦で死んだと思っていたら、イスカンダルにいたなんて。尤も、それが最後の別れになってしまいました……」

 

「別れは辛い。だが、再会を願うことも出来る。たとえ、映像の中であっても」

 

「はい。兄は、宇宙ではなく地球で終わりを迎えることが出来た。きっと、満足したんじゃないかと思います」

 

 レコードプレーヤーの再生が終わり、沖田艦長はソーサーにティーカップを置きレコードを取り外した。今時光学ディスクも珍しいくらいのこの時代、レコード盤は最早絶滅種と思った古代は物珍しい様子で見つめていた。

 

「実家にあったものだ。針も飛ぶしノイズも目立つが、これがまたいい味を出す。曲は土方がかなり昔にプレゼントしてくれたものだ。これが原曲で、こっちが日本語版だ」

 

 レコードジャケットにしまった沖田艦長は、入れ替えで日本語版のレコードを取り出して古代に見せた。

 

「いいですね。自分も、この日本語版を聞いてみたくなりました」

 

「では、岬君のラジオにでもリクエストをするか」

 

「いいですね、それ」

 

 まるで親と子のような会話に思わす笑みが零れ、堪らず笑いが込み上げる。上官と部下、ある意味では師弟に近いのかもしれない。沖田艦長を学んで強くなった古代と、まるでその指揮を見せて背中で道を示した沖田艦長。見る人が見れば親子かのようだ。

 

「往診でーす」

 

「入るよ。おや、古代もおったんか」

 

 いつも通りの時間に佐渡と原田が往診に入る。往診の邪魔になったマズいと思い、古代は紅茶を一息に飲み、ソーサーにティーカップを置いた。

 

「では、自分はこれで失礼します」

 

「古代」

 

「はい」

 

「また遊びに来い」

 

 沖田艦長の柔らかい声に笑顔で会釈して、古代は艦長室のドアを閉めた。

 

「まるで親子じゃな」

 

「……そうかね?」

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 

 

 そろそろかなと思いながら、ハルナは艦内を動き回っていた。機関室、戦闘艦橋、食堂とか、気分転換で艦内を一周するくらいの勢いで歩き回っていたが、流石に疲れてしまった。ここまで巨大な艦はWunderで十分。次世代艦艇が300m未満に収まった事にハルナはコッソリと安堵していた。

 そんなことを考えながらエレベーター前の長椅子で休んでいると、偶然山本がやって来た。

 

 

 

「兄の事を、考えていました」

 

「玲ちゃんのお兄さん?」

 

「はい。第2次火星沖で亡くなりました」

 

「カ2号作戦ね。一通り内容は把握しているけど、その時に、亡くなられたのね」

 

 兄の預けた赤い意思のネックレスを触りながら、山本はそう呟いた。98年なら2人とも回復していてBußeの調整をしていたころだ。幸いにも記録ではなく当時の状況を知っている。

 

「その時には、もう暁さんって」

 

「起きてたよ、まだギリギリBußeの建造してた頃だから。たしかカ2号の後なのよ、Wunderになったのは」

 

 カ2号作戦が起こった2198年2月20日から数週間後。丁度ユリーシャの来訪はそのくらいで、Wunderへの改装案は1週間もなく生まれてそれから即座に全地球規模で結束し2199年2月11日の発進に間に合った。ここまでで約1年。瀕死とも呼べた当時の地球では考えられない力と、遠い昔に籠められた言霊の結晶がこのWunderだ。

 ユリーシャの来訪と地球の結束、そしてミサトさんの意志が無ければ、この船は蘇らなかっただろう。

 

「ねぇ玲ちゃん」

 

「はい?」

 

「姉弟って、良い物なのかな?」

 

「兄妹ですか……失うと怖いですが、近くにいると、安心しました。言い方に違いがあっても、家族ですから」

 

「家族かぁ。いいね」

 

「暁さんは家族って……ごめんなさい」

 

「家族ならリクがいるよ、最後の肉親。まだ正式な届けは出来てないけど、この命が終わるまで、私は一緒にいるよ。死がふたりを分かつまでって言葉もあるくらいだし」

 

 そういって上着の上からハルナは右手を自身の胸に当てた。一瞬家族の話はタブーかと思った山本だがそれは意味の無い心配だった。

 家族を失ったが新しい家族を得たハルナはもう1人じゃない。傷はそのままだけど強靭なまでに強くなった。どんなに残酷な過去も受け入れ、そして先の未来も思いと力で変えていく。もう心配されたり気にされたりする事もないだろう。

 

「あれ? 山本と、暁さん?」

 

「あれ古代くん? どうしたの?」

 

(あ、玲ちゃんが……珍しい)

 古代がいきなり登場したことで山本の顔が少し赤くなり、ハルナは気付かれないように見てみた。

 

「こっちもいますよ?」

 

「島君じゃん。今非番?」

 

「です。今は太田に舵握ってもらってます。ところで、珍しい組み合わせですね」

 

「そうかな?」

 

「そうなんですよね~」

 

 そう言いながら島は徐に携帯端末を構えてその画面にハルナと山本を収めた。

 

「折角なんで景色いい所、行きましょう」

 

「あ、リク連れてっていい? そろそろ思いついてる頃合いだから」

 

「勿論です。ていうか分かるんですか? 思いついてる頃合いとか」

 

「分かるからね?」

 

眼鏡の奥で緋色をコッソリと瞬かせ、ハルナはリクを連れに行った。

 

 _______

 

 

 

 

「先客ありかな」

 

 島を先頭にした一行は「景色いい所」を訪れた。Wunder左舷アレイアンテナ基部観測室、とは名ばかりの展望室だ。

 

「森さんもいるんだ。非番?」

 

「ええ、それと……」

 

 森が口ごもるが島は何となく事情が分かったようで、後ろからついて来た古代に場を譲った。

 

「や、やあ」

 

 森も古代も目的の人に会えたようで薄ら頬が赤くなるが、その近くで凹んだ人がいるのは言うまでもない。周りの意思を弾いていても何となく察したハルナが「諦めた方が良い」と山本の肩に手を置く。

 

「暁さん……」

 

「うんうん」

 

「後で愚痴聞いて下さい」

 

「玲ちゃん沢山聞くね」

 

「はい……」

 

 この光景は山本からしてみればダメージが大きい。カップル未満友人以上の古代&森ペアは既に切り離せなさそうだから、せめて火星組として迎え入れよう。おまけに後でしっかり慰めようと考えたハルナはそう固く誓った。

 

「はいチーズ」

 

 古代の構える端末に映るのは、山本と森で両手に花状態の島。思わず顔が引きつりそうになるが何とかシャッターを押す。

 

「ちゃんと撮れたか?」

 

「当然だ」

 

 不機嫌になりながら島に端末を帰すが、その心境は少々のダメージを受けていた。古代からしてみれば、想い人を取られたかのような構図になっているのだ。

 

「古代くん」

 

「はい?」

 

「顔が怖いよ?」

 

 そんな心境を知って何かを察したリクは茶々を入れるが、今のハルナからしてみればすべて筒抜け。リクの後頭部をペチンと叩く。

 

「睦月さん……」

 

「じゃあじゃあ次は、婚約済みぶっ壊れスペックのお2人で」

 

「ぶっ壊れって……誰が言いだしたの?」

 

「いや、聞かなくても分かる。マリさんだな」

 

 ぶっ壊れ夫妻、バランスブレイカー、ニアリーイコール副長、ドチート。噂は立って立って収めきれない程立ち尽くし、2人は半分諦めている。

 

「ポーズどうする?」

 

「まあ腕治ってないしな。……それっ」

 

「えっちょっ、~~~~~~~っ!!」

 

 一瞬の隙を見て右腕でハルナを抱き込み固定。そのままピースする。状況が飲み込めず抜け出そうとするハルナを他所にカメラ目線で笑顔を見せる。

 

「はいチーズ。ほら撮って」

 

「え? はっはい!」

 

 奇襲に呆気に取られた島はシャッターを押す事すら忘れていたが、リクに言われてやっとシャッターを押した。シャッター音を聞いたのを確認したリクは、様々な意味で悶絶しているハルナを開放した。

 

「ぷはっ、ちょっと!」

 

「してやったり。いいじゃないか皆知ってるんだし」

 

「良くないよ恥ずかしい……撮り直しもう1枚! みんな何も見てない、良いよね!?」

 

 人前で恥ずかしい思いをした事で抗議するが、満足そうにするリクの顔で言いたい事を吹き飛ばされて、撮り直しを宣言するのみに終わってしまう。

 

「だそうだ。島君もう1枚。あと」

 

「何も見てない、ですね」

 

 年上命令に従いながらもう1回カメラを構える。今度は無難にピースをしている。まだ顔が赤いままだが笑顔になったハルナと一本取った満足顔のリク。これを超える2人は現状艦内には存在しないだろう。

 

「どれどれ、ちゃんと撮れてるな。それとさっきのやつはと……」

 

「皆は見ちゃダメ!」

 

(皆には見せたくない!)

 

(後で端末貰って現像しよう。データは消す。それでどう?)

 

(……後で膝枕ナデナデでよし!)

 

(それ好きだな、ホント)

 

 

 

 頭に声が響くのも慣れてきた。声は聞こえないのに頭にダイレクトに聞こえる奇妙な状況に慣れながら、リクは彼女の譲渡を甘んじて受けた。

 

 

 _________

 

 

「はいお2人さん笑って、はいチーズ」

 

(玲ちゃん、いい思い出になったかな?)

 

 古代と山本が2ショットを撮る。山本が若干控えめなのは自身の心に踏ん切りをつけたい表れかもしれないが、まだ引き摺ってる事が見える。

 

(嬉しいけど、間に入っちゃマズいよね……)

 

「と思ってるのかな……」

 

「ん?」

 

「何でもない」

 

 バレラスの頃からそういう事も悟れるようになった。察しが良くなったが、この場で暴露するのは精神衛生上よくない。ここは黙っておく。

 

「はいチーズ」

 

「痛っ!」

 

 ……写真撮影でなぜ痛がる声をしているのか説明をしよう。状況はこう、古代と森が2ショットを撮ろうとしていた。因みに現在進行形で両片思い続行中だ。古代が森の肩に手を置いた瞬間、それに気づいた森は古代の手の甲を抓り、痛みに悶えた古代が声を上げてしまったのだ。これが事の顛末。

 

 その時の写真構図を説明するとこうだ。手の甲を抓った事で2人の距離が近くなってしまい、頬がくっ付くかくっ付かないかの距離になっていた。これには山本もダメージを負うしかない。

 

「ひどいなぁ……」

 

「いいじゃない。思い出作りよ」

 

「えっ?」

 

「じゃあじゃあお次は、綺麗どころお三方で」

 

 ああ、これ以上は山本のメンタルが持たない。だが断るわけにもいかない山本は戸惑うが、すかさずハルナがフォローに入る。

 

「山本さん、一緒に撮ろう?」

 

「年上お姉さんが真ん中ね~」

 

 山本と森を横に並べたら山本がさらに凹んでしまう。だったら自分が緩衝材となり無難に済ませようという事で、森と山本の間にハルナが入り肩を組む。

 

「はーいリク撮って撮って」

 

「はいはい。島君借りるよ」

 

 島から端末を受け取ったリクは慣れない手つきで端末を片手で構える。左から森、ハルナ、山本。金、白銀、白と並んだ女性陣も満面の笑みで映る。

 

「はいチーズ」

 

 シャッターが押されて各々ポーズをとる。島が綺麗どころお三方と言うように、写真に写る三人は間違いなく美女だ。皆似たような顔つきで、山本とハルナに至っては髪色も近いので姉妹のようにも見える。

 

「やっぱ似てるな、暁さんと山本」

 

「似てます?」

 

 古代の一言に山本が疑問を覚えるが、古代が言うのも尤もだ。肌はハルナの方が色が薄めだが、それ以外は姉妹の様に似ている。目も赤で髪も白い。何も知らない人が見れば姉妹かと間違えてしまいそうだ。

 

「確かに、こうしてみると姉妹みたいだ」

 

「母が白髪だったので。母が火星2世で、私が3世です」

 

 山本が自分の身分を明かした。本来火星人類は地球では煙たがられているが、幸いにここには内惑星戦争の世代層はほぼいない。人的不足でWunderには若い士官しか乗っておらず、内惑星戦争の世代は数えるくらいしかいないのだ。

 

「へぇ~。私は……皆知ってるんだっけ?」

 

「何がですか?」

 

 1人だけ事情を知らない島が不思議そうな顔をするが、成り行きで事情を知った古代と森、山本は頷いていた。

 

「俺だけ仲間外れかよ?」

 

「あはは。実はね、私達は火星2世なのよ。2130年代生まれ」

 

「30年代……30年ってマジですか!?」

 

 2134年生まれ御年24歳。出鱈目の様な経歴に思わず島は、自分の頭がおかしくなってないか確認した。

 

「嘘じゃないよ?」

 

「……人魚でも食べたんですか?」

 

「八百比丘尼とかそう言うのじゃないよ? 40年間昏睡してたのよ、私達」

 

「……良かったんすか? 俺らなんかに話しちゃって」

 

「隠す様な事でもないかなって。上からは止められているけど、止められているのは詳細の方だからね。それに、これも自分の過去だからね。誰も知らないから無かった事に出来る物でもないし」

 

 ハルナの過去と思いをしんみりと話していると、突然艦内が揺れた。警報音が鳴り始め、ダメコンの人工音声が流れ始める。普段の緩い表情から一気に引き締まった表情に変わると、リクはすぐに内線に飛びついて戦闘艦橋に繋いだ。

 

「睦月です。何処からですか?」

 

『目標正面、敵機による爆撃です、いきなりやられました』

 

「マジか……古代くんに代わります。古代くん」

 

「代わります。国籍は? ガミラスか?」

 

『ガミラスの標準コードで呼びかけましたが、応じませんでした。未確認の文明によるものと思われます』

 

「……第2波が来る前に三式用意。艦橋に戻るが、間に合わなければ発砲を許可。南部、頼むぞ」

 

『了解!』

 

 

 

 _________

 

 

 

 

 

「現在の状況は?」

 

「正面に大型艦艇、艦影5」

 

「すでに敵艦載機に対し、三式での迎撃を行いました。第2波攻撃による損害は無し」

 

「真田さん、敵の識別は?」

 

「分からない。ハッキリ言って、アンノウンだ」

 

 リクとハルナが戦闘艦橋に入るなり、当直の要員が状況を簡潔に報告し始める。第2波攻撃は阻止したものの、すでに敵艦艇に後ろを固められている。コスモリバースと言う地球を救う希望を運んでいる以上戦闘は避けたいが、状況はあまり良くない。遅れること数十秒、古代と森、島も戦闘艦橋に入ってきた。

 

「艦種の特定は今は無理か……全艦第1種戦闘配置。何時でも撃てる様に準備だ」

 

「後方に重力波の乱れを感知。ワープアウト反応です!」

 

 アラート音が鳴り響き、レーダーに艦艇が出現し始める。ガミラス艦とは異なる重力震が観測され、レーダー上のアイコンに「unidentified ship」とタグが付けられていく。光学観測でもガミラス艦艇とは異なる形状が見て取れる。ガミラスではない事はこの時点で完全に確定した。

 

「ガミラスじゃないな、あの見た目じゃあ」

 

「それに本体も出てきたみたい……えっ? リクあれって……」

 

 明らかに既視感がある艦艇が正面に現れ、ハルナは思わずカモフラージュ用の眼鏡を上げて肉眼で確認する。

 

「第二船体と翼。鳥のような中央船体。偶然にしては出来すぎている。間違いない、NHG級の流れを汲んでいる。嫌な感じだ。アレのお手本が向こうにもいるのなら、3か4は向こうにいるって事になる」

 

「……っ指揮官が呼びかけて来ています。映像通信です」

 

「ファーストコンタクト……」

 

「応じる」

 

 全周スクリーンの正面にウィンドウが開き一瞬画像が乱れたが、直ぐに調整されて大柄で黄緑色の肌の人物が映った。体格由来の大きな威圧感があるが、古代は正面のウィンドウに向き合う。

 

《偉大なる大抵陛下の名において、テロン人よ、聞くがよい》

 

「言語1、ガトランティスに切り替えます」

 

『我が名は雷鳴のゴラン・ダガーム。ガトランティスグタバ遠征軍大都督なり』

 

「本艦の戦術長、古代進だ。我が方に戦闘の意思はない。即刻攻撃を中止されたし」

 

『戦は武士の誉れなり。兵を退くのは腑抜けの所業。和睦、有り得ぬ』

 

 音声がリアルタイム翻訳に切り替わり、聞きなれない言語が日本語に切り替わった。即刻攻撃の中止を求めるが、即座に拒否される。敵に打ち勝つことが求められるかのような言動、まるで戦国時代の武士の様な価値観だ。

 

「そちらの攻撃機が仕掛けてきたため、やむなく応戦した。我々は航海の途中で、貴方達と事を構える筋合いはない!」

 

『なるほど……笑止!』

 

 古代の言い分を笑い飛ばすと腰の刀を抜き取り突き出してきた。和睦が通じない、ガミラス人とは明らかにメンタリティが違い過ぎる。武士の様な……訂正する、まるで大昔の盗賊や山賊。野蛮と言う言葉がよく似合う。彼らは今すぐにでも撃ってくるだろう。

 

『偉大なる大抵陛下において汝らに命ず。テロン人よ、我が方に身砕き明け渡すべし。その()()()()()を』

 

「神殺しだって? 一体何を知っているんだ!」

 

『……其方、名は』

 

「睦月リク。貴方の言う神殺しの船、その1隻を蘇らせた者の1人だ」

 

 古代から視線を移したダガームは、興味深そうにリクを舐めるような視線で見た。

 

『吾輩に何か言いたげだな。申せ』

 

「ゴラン・ダガーム。あれはこの世界には生まれるはずの無い物だ。ガトランティスは、NHGを鹵獲しているのか?」

 

 リクの想像は当たっていた。エヴァンゲリオンの技術を使ったNHG級、それを神殺しの船と呼称しているという事は、この船はどういう船だったのかを彼らなりに解釈しているという事だ。そしてNHGからあの巨大艦艇を生み出した。肝心の本体は今頃修復でもされているのだろう。

 

『……冥土に行けば教えてやる。名誉の死を、有難く受け取れ』

 

 一方的に通信が切られ、途端にレーダーの探知音が響き始める。敵艦は明確に接近を始めている。

 

「来るぞ、総員第一種戦闘配置!」

 

「古代くん。相手がAAAWunderに連なるNHGシリーズを知っている以上、あの本体はそれ由来の技術を転用しているのかもしれない。注意して」

 

 

(3か4番艦が向こうにいるとは……嫌なルートの未来に動き始めたけど、何とかしなきゃ)

 

 鳴り響く警報音に皆表情が引き締まるが、今までとは違う敵に皆厳しい顔をせざるを得ない。

 イスカンダルからの帰路、思わぬ敵に遭遇したWunderは、大きな苦難に曝される事となった。




新年一発目の話です。

第九章、星巡る方舟編です。Webアプリの制作もようやく一息付いてくれたので、こちらに注力出来そうです。

あと少しで、この作品を始めて登校してから2年になります。あっという間に経ってしまいました。ですがちゃんと書き終えますよ、第一作目は。


次の話は、もう少し先になりそうです。

では、次の話で
(@^^)/~~~
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