宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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買ったイヤホンが雪塗れになり調子悪くなりました。修理に出さないと……

という事で次のお話です。


閉ざされた静止世界

「こうのとり如何した!? 状況知らせ! 相原さん!」

 

こうのとりからの全てのステータスの受信が途切れた。再接続を試しても一向に繋がること無く、コンソールには「Disconnected」の文字が表示され続けている。

 

「ダメです。こうのとりとの通信が途絶、再接続、不能です」

 

市川が接続作業を止めそう報告する。真田に連れられて艦橋で作業をしていたリクは、何時も感じていたハルナとの繋がりを失ったような感覚になった。それでも頬を軽く叩き奮い立たせた。

 

(ちゃんとしろ、今はやれることをやろう)

 

「真田さん、続けましょう。ちゃんと帰ってきますから」

 

「……ああ。サンプルは出揃っている。そう時間はかからないだろう」

 

「なら早い事やってしまいましょう。いつ帰って来ても良いように」

 

「惑星表面に異常確発生!!」

 

更に続く報告にリクは思わず下を向いた。ついさっきまで暗い青で満たされていた惑星表面に青いヒビ割れが走り、やがて黒くなる。一切の観測波が弾かれ、Wunderは惑星に対する観測手段を殆ど失った。

 

「可視光で観測! 表面でいいから全容把握を!」

 

「了解!」

 

(マズいぞ……完全に誰かの意思で発生してる)

 

これでWunderとこうのとりは完全に隔絶された。現状ではどうしようもなく、艦橋の面々が狼狽え始める。その中でただ一人、森はただ祈っていた。

 

「森さん、大丈夫ですか?」

 

「睦月さん……不安です」

 

「知ってます。ちゃんと戻って来ますから、大丈夫です。兎に角今出来る事をしましょう。結果が出なくてもやるだけやりましょう」

 

ただ「戻って来る」と信じる事しか出来ない自分がもどかしい。それでも「大丈夫」と唱え言葉に意味を持たせていく。

 

「睦月さんは、不安じゃないんですか?」

 

「不安です。なんか、こう、この辺りがぽっかり穴が開いた感じです。あの半年に比べればずっと良い方ですが、やっぱり堪えます」

 

右手を胸に当ててその感覚を誤魔化そうとするが消えない。あの半年間リクは、一向に目覚めないハルナの横で療養を続けていた。気付いた時にはコロッと死んでしまうかもしれないという不安と恐怖で、4年前は胸が一杯だった。

それでも……

 

「森さん。それでも、想ってあげてください」

 

こう言った。

 

「……はい」

 

たった一言、弱くではあるが意思が乗った。

 

(……兎に角、出来る事をしよう)

 

何とか切り替えたリクと真田は、無数の重力データを基にしてシステムを組み立て始めた。

 

 


 

 

 

「何なんですか……ここ」

 

「分からないけど、地球言語がある。それも日本語だしビルもある。新見さん、地形の方は?」

 

「日本の何処かだと思うけど、何処とも地形が合わないわ。でも方位も観測できたから、それを含めて一番近い地形が……これね」

 

新見が表示させた画像には、極東管区を構成する日本列島の一角が映されていた。富士宇宙港を有する旧東京エリア。その中のとある地区、芦ノ湖を有する大規模基地が存在していた地域だ。

 

「極東管区旧東京、その地形に最も近い。でも細かい地形が合わない。海面上昇でも起こったみたいに海岸線が後退している。それに、何か大規模な災害が起きたみたいで街全体のダメージが酷いわ」

 

「旧東京ではないって事ですか?」

 

「一番近いのがそれってだけで旧東京ではない。それに海が真っ赤だから、普通の地球ではない。何で赤いのかが分からないけど……まるで血の海ね」

 

真っ赤な海の地球なんて()()知らない。だがハルナだけは真っ赤な海に恐怖を抱き、直感的に触れてはいけない気がしていた。肌がピリピリして、「絶対にヤバい」と体が警告してくる。

 

「あの~降りてみましょうよ。下に」

 

細々とした議論に沢村が切り込みを入れ、その一言に一同が顔を見合わせて納得の表情を浮かべた。その中で険しい顔をしていたハルナに古代が念の為目配せをする。

 

「海だけは嫌な感じがするから、陸なら大丈夫だと思う」

 

ハルナもそれに譲歩を示し、沢村に陸に降りる様に伝える。

 

「沢村、地表面に降下。垂直着陸で道路の舗装面に降りて欲しい」

 

「了解!」

 

高度を緩やかに下げて海岸線を越えて陸地へ。ひび割れた道路を発見すると、その場で沢村はこうのとりをホバリングさせて、地上走行用の6輪を展開すると主翼を折りたたんで慎重に着陸した。そのまま道なりにこうのとりは進み始めた。

 

『窒素78%、酸素20.9%、二酸化炭素0.03%。大気圧、1024hPa。大戦前ノ地球環境ト何ラ変ワリナイ環境デス。ヘルメットナシデノ活動モ可能デス』

 

「出れる、か。古代くん、取り敢えず……」

 

「一先ずこうのとりで行ける所まで移動しましょう。新見さん、暁さん、桐生さんは周辺の映像の記録を。相原は通信等の電波が飛んでいないか確認。アナライザーはこうのとりのセンサーで海の状況を遠隔で出来るだけ調べてくれ」

 

「「「「『了解』」」」」

 

船外活動用のバックパックから記録用カメラを取り出し、ハルナは外の景色に向けた。森林が丸ごと抉られたかのようになぎ倒されていて、建物は倒壊している。それどころか地面の一角が丸ごと消えたかのように大穴が開いている。所々道路も途切れていて、そのたびにこうのとりを垂直に上昇させて乗り越えていく。

 

「戦術長、何なんですかココ?」

 

「俺も知りたいとこだ。少なくとも、別の22世紀の街並みじゃないな。皆、少しでも気になる事があったら教えてくれ」

 

「それじゃあ1つ。22世紀じゃないって事は、少なくとも21世紀を生きた人の記憶の中にある街じゃないかな」

 

「21世紀ですか? いやいやそれじゃあその人100歳超えの超じいさんじゃないすか!」

 

操縦桿を握る沢村が驚き声を上げる。一応ハルナの中には一人だけ心当たりがあったのだが、それをここで言っていい事実かと悩んでいた。

 

「あの、私も1つ……」

 

おずおずと桐生も手を挙げる。

 

「暁さんの仰った事、多分あってます。誰なのかは分かりませんが……」

 

「どういう事?」

 

「えっと、これ見てください」

 

そういって桐生がモニターに見せたのは1隻の船だった。明るい灰色で凹凸が少なくのっぺりとしている。武装は小口径の単装砲を搭載している。

 

「この船は?」

 

「これ、旧海上自衛隊の護衛艦なんです。それも21世紀に日本が運用していた金剛型護衛艦で、当時は乗せているシステムから名前を取ってイージス艦と呼ばれてました。あとは……」

 

更に表示したのは、護衛艦とはとても呼べない程巨大な戦艦だ。そびえ立つ艦橋と3連装主砲らしきものを甲板上に備えた勇ましい戦艦がモニター上に映されていた。そして見慣れない旗を抱え艦籍番号が消されていた。

 

「ちょっと信じられなかったんですが、大和がいたんです。近代化改装を受けたみたいで形がかなり変わってますが、あれは本来太平洋戦争で沈没しているはずの大和型戦艦です。私達の歴史とは大きく異なる事実がある以上、ここは別の世界の21世紀であるかなと」

 

「別世界の21世紀……アナライザー、海の方はどうだ?」

 

『観測ノ結果、海中ニ生体反応ハアリマセン。何モデス。デスガ、多数ノ軍艦ヲ確認シマシタ。スクリーンニ投影シマス』

 

アナライザーの操作で確認された艦艇が順に表示された。桐生の見つけた大和と金剛型護衛艦。空母にタンカーにその他様々な艦艇が赤い海の上に浮かんでいた。どの艦も艦籍番号を消され旗を掲げている。だが右側面艦首付近に離反する前の組織名が書かれていた。1つは「UN」国際連合。もう1つは「JAPAN STRATEGY SELF DEFENSE FORCE 」、直訳して戦略自衛隊だ。勿論こと、そんな名称の組織は過去に存在していない。自衛隊は陸海空そして航宙が確かに存在していたが、戦略自衛隊なる組織は記録にない。

 

「うん?」

 

その旗に何か文字が書かれている。それを目ざとく見つけたハルナは映像を拡大して、解像度をギリギリまで上げてみた。大きな筆で殴り書きしたかのような字体でアルファベット5文字。その単語には見覚えがあった。

 

「W、I、L、L、E……WILLEだ」

 

「WILLEって……、あの時のですか?」

 

あの時戦闘艦橋に居合わせた相原と新見はすぐにピンと来たが、それ以外の面々は何のことだかサッパリの顔をしていた。見かねたハルナは事情を話す事にした。

 

「えっとね……WILLEって言うのは、大昔にAAAWunderを運用していた組織の名前なの。Wunderは21世紀の時点で別の世界線の地球で運用されていて沈没し、とある現象に巻き込まれてこっちの世界線にやって来た。それを改修して生み出されたのが、私達が今運用しているWunderなの」

 

「……マジ話ですよね?」

 

「マジだよ、黙っててごめん。でもこれうちの極秘案件だから他言無用でお願いね」

 

「ええと、Wunderが元AAAWunderで21世紀生まれで、え? じゃあ1、2、3、いや100……170年? え、ちょ……えぇ?」

 

「うん、ざっと170年以上なの。1回吹っ飛んでるけど跡形もなくって訳じゃないから、普通に100歳超えてるのよ」

 

艦齢170年と言う事実に語彙力を失う沢村を、ハルナがなだめる様に補足する。が、正直言ってハルナも把握したときに驚いている。ミサトが言うにはAAAWunderは一回自沈で吹っ飛んでいる。だがアンノウンドライブ(アダムス組織)がそのまま残った事を考えると「大破」として考える事も出来てしまう。それを踏まえてあの時に「Restart」と表示されたから「廃艦されてない」とこじつければ実質100歳超えの超ご長寿神話レベルの戦艦だ。

 

「それと、AAAWunderには人の魂が宿っているの。魂の宿る船とかオカルトみたいだけど、バレラスで私たちを救ってくれたのはその宿っている人物、葛城ミサトさんなの。その人が170年前にAAAWunderを運用していた組織のトップなの」

 

「暁さん、もう俺考えるのやめていいすか?」

 

「つまり……AAAWunderは生きて向こうからこっちの世界にやって来て、暁さん達の修復を受けて、イスカンダルまで旅をした、ですか?」

 

理解に苦しむ面々の中、内容をかみ砕いた古代が皆に聞かせる形でハルナに確認をとった。

 

「古代くん正解。みんなも今はそういう認識でお願いね」

 

「ええっと、その……分かりました」

 

理解不能スペックのハルナとリクも意図していた事ではなかった。つまり理解しようとしても理解できない事だと結論付けた沢村は諦めた。そうして操縦桿をもう一度握りこうのとりを進めていく。

 

 

 


 

 

 

数時間近く経った。停車できそうな所にこうのとりを停めて、一同は携帯食料を食べていた。味気が無いが栄養を補給できるクラッカーを無言で食べ、片付ける。こうのとりの稼働時間も無限ではない。どこかで必ずガタが出る。脱出の手がかりも何もない状況下、皆少しずつ不安となっていた。

 

(不安……になるよね。やっぱり)

 

手に取るように分かる自分の心と向き合いながら、ハルナは1人でボンヤリと空を見上げていた。皆にも少しずつ焦りが生まれてきたのが分かる。メンタルケアも必要かと思い行動を起こそうとすると、今まで黙り込んでいた通信機器がノイズを拾った。

 

「戦術長、通信波です!」

 

「何処のだ?」

 

「ガミラスのメーデーです。方位は、あの巨大な穴の方向です」

 

誰かがいる。無音すぎて耳が痛いほどの世界で自分たち以外の人がいる。生きているのかは怪しいが、まずはその通信を辿ってみよう。そう思うなり古代は沢村と相原に指示を出す。

 

「相原、その通信波の方向を随時報告。沢村はその方向に従って移動を開始」

 

「「了解」」

 

こうのとりを機体底部のスラスターで浮き上がらせ、主翼を開いて目標地点に飛び去っていく。陸を走るよりもずっと速く、こうのとりはあっという間にその巨大な縦穴の開口部に降り立った。

ここからでは穴の底が見えない。古代達はこうのとりから降りて穴を覗き見る事とした。

 

デジタル双眼鏡を構え慎重に乗り出して確認をすると、穴の底には建造物が見えた。いや、建造物だったものかもしれない。頂点が大きく抉れたピラミッドの様な物、瓦礫が散乱した緑地跡、湖に丸ごと浸かったビル。そして、真っ赤な槍に貫かれた紫の巨人。

 

「あれ、なんかType-nullに似てるわね」

 

「多分エヴァ……です。ミサトさん曰く初号機らしいですけど、だいぶ状況がおかしいです」

 

ミサトから聞かされていたエヴァンゲリオン初号機は紫色の巨人だ。だが槍に貫かれ微動だにしない。それも血の様に真っ赤で長大な槍に。人類製の物じゃないという事は一目見ただけで分かった。

真っ赤な槍から異様な雰囲気を感じ取ったハルナは目を逸らしたくなったが、その槍に貫かれている初号機が気になり何とか目を逸らさないでいた。

 

「……動くかな、あれ」

 

技術科としてあれが動くのか気になってしまい、うっかり口から零れ落ちてしまった。他の面々からすれば得体のしれない物である以上怪訝な目を集めてしまった。

 

「じょ、冗談ですよ。オリジナルエヴァなのでおいそれと触れませんって」

 

「暁さん、後で洗いざらい話してくださいね? 技術科っていつから秘密主義になったんですか?」

 

「いつからでしょうね。でも話せる事は話しますよちゃんと。ひとまず、ここなんですよね?」

 

「確かにこの真下です。方向的には、あの崩壊した建物です」

 

相原が指す先には、頂点が何かの攻撃で溶けた建造物がある攻撃を受ける前はピラミッドのような形状だったのだろう。だが今では無残にも半分以上が溶け固まり、火山の火口のように大穴を作っている。

デジタル双眼鏡で建造物の状況を一通りを確認し終わった古代は指示を出した。

 

「こうのとりで降下、入れそうな所から入ろう」

 

 


 

 

こうのとりで降下した古代達は、メーデーの発信源である建物を見て回り始めた。瓦礫が散乱しているとはいえそれでも巨大な建造物だ。見上げてもそのてっぺんが見えない。尤も頂点がごっそり溶けてしまっている為見えないのも当然だが、それでもその高さと異様さも相まって奇妙な感覚に陥る。

 

「古代くんー! こっちこっち!」

 

ハルナに呼ばれ駆け寄ってみると、ガラスが散乱した入口があった。恐らく当時はエントランスか何かだったのだろう。

 

「ここから行けそうだよ」

 

「分かった。総員銃を携帯。アナライザー、こうのとりを頼む」

 

『了解』

 

こうのとりをアナライザーに任せ、皆銃を携帯して建物に進入する。割れたガラス片が床に散らばり踏みしめるたびに音がする。誰もいない廃墟となっているはずだが不気味なままだ。メーデーの通信波はまだ続いている。少しずつ出力が弱くなってきているが、まだ感知できている。完全に消失する前に辿り着きたいが、余りにも広い施設が捜索の足を引っ張る。

 

そもそも大きく、広く、そして地図も何もない。おまけに彼方此方が損傷している。エレベーターがあったが動くわけがない。必然的に徒歩移動となるが徒歩にも限界が出て来る。その広さにやられて皆座り込んでしまった。

 

「もうダメ……私休憩」

 

「新見さん大丈夫ですか?」

 

「デスクワークばっかりじゃ駄目ね、運動もしないと。……その割にはあなた元気よね?」

 

「まぁまだ歩けますし」

 

「3つ違うとこうなるのは残酷ね」

 

歳が大体3つしか離れていないハルナと新見の差は一目瞭然。余裕ありのハルナと壁にもたれてずり落ちる様に座り込んだ新見。そもそもの基礎体力が比べるまでもなかった。だから余裕があると言って単独行動するのは流石に危険だ。

 

「美影ちゃん、さっきまで撮ってた写真見せて」

 

「えっと、これです」

 

ハルナが気になったのは、桐生がさっきまで撮影してきた写真だ。事ある事に写真を撮っていたから列から一歩遅れがちだったが、それでも手掛かりが欲しいという理由でハルナは特に何も言わなかった。

それ以上に、あってほしい情報が無いか気になったのだ。

 

「瓦礫の写真ばっかり……まぁこれも必要なんだけどね。さて、あるかな」

 

「何を探しているんですか?」

 

「NERVのマークかな」

 

「ねるふ?」

 

新出単語がまた飛び出した事で新見が怪しい者を見る目をしてくる。「そういう目」は懲り懲りなハルナは事情を話し始めた。

 

「さっきWILLEって組織の話をしたよね? そのWILLEが壊滅させようとしていたのがNERVと言う組織で、NERVの起こした災害の様なもので地球上の生命がほとんど死滅した。ミサトさんが言ってた状況とは大分異なるけど多分、ここは大量死が起こる少し前の世界かもしれない。洋上の艦隊はそれを阻止したいWILLEが集めた戦力じゃないかな。あ、あった」

 

写真ホルダーの中に保存されていた画像を1枚表示させるとハルナはそれを全員に見えるように見せた。イチジクの葉にアルファベットのNERVの文字。林檎のようなデザインも組み込まれ、そして血の様に真っ赤だ。

 

「何て言うか、どうしてこのデザインになったのかしら」

 

「同感です。寄りにもよってイチジクの葉と林檎とか、聖書とかアダムとか好きなんでしょうか」

 

桐生が言うように写真に撃ちっているロゴにはイチジクの葉があしらわれている。聖書の創世記で、禁断の知恵の実を食べたアダムとイブが自らの裸体を隠すために使った葉。イチジクの葉、知恵の実のモデルとなった林檎。NERVにはキリストが関係していたのだろうか。

 

「この組織が、Wunderがいた世界を……全部壊したんですか」

 

「ほぼ全部だけど、実際全部かな。放射能汚染みたいな感じで死の大地になってそれが地球全体を覆ったけど、それを塞き止めた生存者集落が幾つか存在してたらしいの。それも全部、ヤマト作戦で崩壊したかもしれない」

 

全滅と言う記憶が残ったという事実に一同黙りこくるが、ここまで口に出して整理してきたハルナは確信に辿り着いた。

 

 

「ここは、第10の使徒を倒した後の世界。大量死……何回目かのインパクトの一歩手前の時間で、WILLEが初めてNERVに対し動いた時を切り取った世界。WILLEのミサトさんとしての最初の記憶なんだと思う」

 

 

 

 

_________

 

 

 

 

廊下を進むにつれて所々に血痕が増え始めてきた。Wunderの見る夢でミサトの記憶。それがこの世界を形作っていて、それを拾い上げたのがこの世界の土台を作った文明。

まるで神様の手の上にいる気分だ。そう思えたことで、もう何が起こっても驚かない自信がついてしまった。

 

……そんな自信があったのに、驚いてしまった。ドアを開けた先には、秘密基地とは不釣り合いな内装の大きなロビーがあった。夢を見せられているのかも気にしてしまったが、自分たちは確かに現実の中にいて自分たちもまた現実。これも受け入れるしかなく、仕方なく周りを調べてみる。

 

古代とハルナの目に留まったのはエレベーターらしき何か。それもスライドして閉まるタイプではなくノブが付いたドアのような形状をしている。一体何時の時代だろうか。

 

「エレベーター、だよね。鳥籠にも、ここまで古くないけど似た感じの簡易版やつあったし」

 

「でも表示は11階、フロアは4階までしかない」

 

「そもそもこの世界がおかしいから何もかもおかしいんすよ」

 

匙を投げる沢村は足元の段差に座りそのまま寝転んだ。

 

「下手に動かない方が良いかもしれないよ。時空さえ歪んでいる可能性があるから、そのまま永遠に合流できなかったりして」

 

「すいませんすいませんすいませんッ!!」

 

冗談抜きで言ったつもりだったが沢村には大真面目に聞こえてしまったようで、ものすごい勢いで謝り倒している。その様子を見ていた桐生は心底呆れたような顔を浮かべていた。

 

「暁さん、ここにもWILLEの事ありますよ」

 

「どれどれ」

 

桐生に呼ばれて皆が駆け寄り、目の前の腰辺りまでの高さのショーケースを見た。一般艤装図の様な物が4枚並べられていて、1枚は見知った姿のWunder、AAAWunderだった頃の艤装だ。残りの3枚はWunderに似ていてWunderではない戦艦、AAAWunderのような継ぎ接ぎで歪な雰囲気を持たず、1つの生き物のように無駄が無く洗練された形状をしている。その同型がなんと3隻。

 

「艦名まである。えっと、何て読むんですか?」

 

「ドイツ語……アスカちゃんいたら助かったけど、書いた事ある気がする」

 

何処で書いたか思い出そうと頭を捻るがなかなか出てこない。引っかかった引き出しを抉じ開けようとする感じになり唸り始める。

 

「桐生。ドイツ語分かったりするか?」

 

「流石に分かりませんよ……ガミラス語は分かりますけど。ん?」

 

唐突に、何処からかピアノの音が聞こえてきた。それも電子ピアノではなく弦をハンマーで叩くタイプの古いタイプだ。音の出どころはロビーの奥、人の気配は今は感じられないが、メーデーの件もありもしかしたらガミラス人の誰かがいるかもしれない。拳銃を構え慎重に移動する。

 

何かが燃える音がする。そっと階段の上段から身を乗り出すと暖炉が見える。ガミラス人が4名。男性3人女性1人。年齢はバラバラ。私服に身を包んでゆったりしているようだ。

 

(ガミラス人でしょうか?)

 

(肌青いし、多分。警戒はしていないみたいだし、この際堂々と降りてみよう。ただ銃には手を付けないで。皆いいね? それと美影ちゃん、一応ガミラス語お願い)

 

 

 

皆首を縦に振り銃をしまう。沢村も肩ひもでかけていたアサルトライフルを背に回して慎重に階段を降りていく。

 

《メーデーはあなた達ですか?》

 

桐生がガミラス語でそう呼びかけると広間で寛ぐガミラス人はぎょっとしたが、自分たちと同じ人類だと分かると警戒を解いた。

 

「アンタら、どこから?」

 

 

_______

 

 

 

 

「この辺りでザルツの部隊が展開しているなんて、聞いてなかったわよ」

 

「所属を聞かれてるんだ! 答えろザルツ人!」

 

ドレスを着た女性に聞かれても答え難かった古代達は、やや幼い金髪の男性に怒鳴られた。まるで蔑むかのような怒鳴り方にハルナは額に青筋が浮かんでしまい、その相手の前に堂々と立った。

 

「私達は、この近隣の星系での極秘の諜報活動に従事しています。ですので、所属等は機密によりお答えすることが出来ません」

 

今の所はザルツ人と認識されている、ここではこちらと相手が見ているものと異なると知ったハルナは打算込みで自分たちはザルツ人と偽った。

だが所属を言わなかったことが相手の神経を逆なでしたようで殴りかかってきた。

 

「……舐めた口利いてんじゃねぇz!」

 

「せいっ!!」

 

相手が付き出した拳に対し体を軽く右にずらして避けて、がら空きな左腕を軽く掴む。さらに相手の肘に自分の腕をひっかけて自身に飛んで来る筈だった拳を相手にお返しする。そのまま全身の力で一気に倒して鮮やかに拘束してしまった。

ビーメラの一件もあり護身術の必要性を感じたハルナは、山本に一通りの護身術を習っていた。それがこうして活きた。

 

「痛だだだだぁッ!」

 

(あ、やってしまった……)

 

力加減を間違えて相手を痛めてしまったと気づき少し力を緩める。この男は危険かもしれない。拘束を解く事は今は出来なさそうだ。

 

「力でやり合うより、まずは言葉で。約束して頂けるなら私もこの拘束を解きます」

 

「この女め……ッ!」

 

拘束を無理矢理解こうと男が藻掻くが、危険度を上げたハルナの力の前には無力だった。このまま男が諦めるまで拘束するしかないのかと思い始めた時、

 

 

 

「メルヒッ! お前いい加減にしろ!!」

 

紺色の髪の男がメルヒと呼ばれた金髪の男に怒鳴った。その場にいた全員が凍り付き、メルヒもハルナも一瞬意識がその男に向いた。

 

「大佐! こいつは!」

 

「イラついてるのは分かるが抑えろ。先に手出した方が負けって知らねぇのか!」

 

上官に一喝されたメルヒは怒りを収めるしかなく、力を抜いた。それを見たハルナはそっと拘束を解いた。それを確認した男はハルナとその後ろにいた面々に深く頭を下げた。

 

「うちの部下が迷惑をかけた。この通りだ」

 

「えっちょっと、頭上げてください! こっちもかなり強めにやっちゃったみたいで……ごめんなさい。腫れてないと良いんですが……」

 

「気にすんな。ちょっとやそっとどうってことねぇよ、アイツは」

 

頭を上げた男は親指で自身を指さしながら自己紹介をした。

 

「まずは自己紹介からさせてくれ。俺はバーガー、フォムト・バーガーだ」




いい所で終わらせることが出来ました。星巡る方舟を書くにあたって、幾つか世界の候補があったんです。火星にするか、原作通り熱帯雨林か、それともサード直前の世界か。結果サード直前の世界になりましたが、書くのには大分手間取りました。

もう色々知ってるハルナさんは技術科秘密主義の原因ですね。あれやこれや自身の事とか。

次の話は大和ホテルですね。一先ず次の話は何とか書けそうです。テスト勉強がまたやって来たので休載宣言も必要かもしれません。
……ちゃんと休む時は休むと言います、失踪だけはいけないので。


それではまた次のお話で
(@^^)/~~~
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