宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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セキスペの試験に取り掛かる事も考えると、最終章に入る前に休載に入ると思います。
でも星巡る方舟編は書き切ります。ではお楽しみください


全知と袋小路

「自己紹介からさせてくれ。俺はバーガー、フォムト・バーガーだ。そっちは?」

 

「古代進です。こっちが……」

 

「暁ハルナです」

 

「新見薫です」

 

「相原義一です」

 

「沢村翔」

 

「コダイ、アカツキ、ニイミに、アイハラと、サワムラか。んで、そっちの隠れてるのは?」

 

 一通り自己紹介が終わったと思ったバーガーは、ハルナの後ろの隠れている桐生に気が付いた。ハルナの存在感が大きく感じるためそれに隠れてしまっていたが、バーガーの目は見逃さなかった。

 

「えっと、桐生美影……です」

 

 この時だけ一瞬、バーガーの時間が止まった。脳裏に蘇る記憶に笑顔を浮かべる1人の女性がいる。少し気が強くていつもポニーテールにしていた彼女は、最期は爆炎に飲まれていった。

 

「えっと、バーガーさん?」

 

「ああすまん。えっと、キリュウだな」

 

(あれ、これなんだろ?)

 

 様子がおかしいと感じたハルナが声をかけるとバーガーはすぐに元に戻るが、僅かに動揺していた。軍人らしく平然を装うをしているが、ハルナの前には意味はなかった。それでも何か過去を抱えていると感じ取ったハルナは触れない事にした。

 

「んで、向こうの赤いドレスのがネレディア、バーレンの爺さん、そんでメルヒ。お前は謝っとけよ」

 

「……ッ」

 

 メルヒはまだ不満そうだ。2等臣民に対し一瞬の隙も突けずに制圧されてしまった事実に、自身のプライドを傷つけられたようで、真面に古代達の顔を見ようとしない。航空団としての訓練以外に多くの訓練を積み「自分は2等臣民なんかに劣らない」と自負していた自分が、こうもあっさりとやられてしまった。ショックは大きいだろう。

 

「えっと、メルヒくん……でいいかな?」

 

「何だよザルツ人」

 

「初対面で言うのも変だけどそれ止めた方が良いんじゃない? 所詮同じ人類種族だから、差別し合っても楽しくないと思うけど」

 

「うるさい」

 

 完膚なきまでにしてやられ年相応に不貞腐れるメルヒに、ハルナは小さく溜息を付いた。

 

「……まあいいや、今はいいよ。まず、身を守る為と言ってもかなり痛いことしちゃってごめん。過剰防衛は流石に良くなかった」

 

「……はあ?」

 

 自分より圧倒的に強いザルツ人が頭を下げた。メルヒの中で常識に軽くヒビが入る音がしたが、肝心の本人には聞こえなかった。

 呆気に取られていると少ししゃがれた声が聞こえた。

 

「変わっとるな、アンタ」

 

「えっと、バーレンさん?」

 

 バーレンは頷くとキャスケット帽を取りメルヒのもとに寄った。

 

「儂らが言うのも違うんじゃが、臣民を等級で分けられたからかガミラスとザルツの間で雰囲気が良くなかったりするんじゃ、昔は無かったんじゃが。まるでアンタ、儂と同じ時代の人みたいじゃ」

 

「……なんかグサってきます。私まだ24ですよ」

 

(嘘です60年くらい前に生まれました)

 

 24の筈なのに大昔の人みたいに言われるのは流石にグサっと来る。バーレンのいう事は外れているようで実は当たっているのはハルナも顔に出てしまい同時に冷や汗をかいた。

 

「……悪かったよ」

 

「え?」

 

「だ・か・ら! 悪かったって言っている!!」

 

 突然謝られたハルナはポカンとした。

 

「お前さぁもう少し言い方ってのが」

 

「今はいいんです」

 

「あ?」

 

 バーガーがメルヒに注意をしようと思ったら古代に止められた。古代は分かり切った顔でハルナを見ていたが、それを見て「大丈夫」と理解したバーガーは一先ず見守る事にした。

 

「……アンタら、俺たちが憎くないのか。同族みたいに接しやがって、変な感じだ」

 

「どっちでもないって感じ。もしも貴方が私の大切な物や大事な人を奪っていったら、多分許せないし憎むと思う。でも、何も奪われていないのに、何の理由もないのに憎むのは違うと思う。それに、2等とか1等で区別されているのはそういう政治上の作戦だと思うけど、だから差別とかするのは鵜呑みにも程があると思う」

 

「……アンタみたいなのは、会った事ない」

 

「そりゃいないよこんな変わった人、ねえ古代くん、私の可笑しい所何でもいいからあげてって」

 

 急に話題を振られて取り敢えず頭を捻る古代には、今までの越権ギリギリの行動が山のように浮かんでいた。

 

「えっと、技術科なのに格闘も強くて、戦闘指揮も取れて、メンタルケアも出来て、政治も出来る。あとは……睦月さんがいればほぼ無敵で誰も太刀打ちできない」

 

「いや待てコダイ、コイツ1人軍隊かよ。マジでうちに欲しいくらいだ」

 

 技術科員なのに余りにも盛り過ぎなスペックにバーガーが待ったを入れるが、「1人軍隊」は強ち間違ってはいない。何でも出来る様になってきたハルナは、正直言って有能過ぎるのだ。戦後も引く手数多だろう。

 

「私はどこにもいきませんよ。彼氏が待ってるので」

 

「……ああダメだこりゃ。アカツキは小説の中から出て来たんじゃねえのか? スペック山盛りにした感じのやつで」

 

「正真正銘現実の存在です」

 

「いや、本当に小説から出て来てると思う」

 

「古代く~ん?」

 

 雰囲気を察してワザと調子に乗り始めた古代にハルナが圧を入れ、和やかな雰囲気になり始めた。自身をザルツ人と偽っている後ろめたさはあるが、メルダ以外のガミラス人とこうして打ち解けている事を、ハルナは忘れないで置こうと思った。

 

「おいアカツキ」

 

「どうしたの?」

 

「俺は、アンタみたいなやつに転がされたことに納得いってない、だから俺に色々教えろ! 今度は逆の立場になってやる」

 

 和解(?)したと思えばいきなり教えろと言われ、状況の変わる速さにハルナは一瞬追いつけなくなった。

 

「あらあら、負けず嫌いな事」

 

 ネレディアが茶々を入れるが、メルヒはハルナに挑戦的な目を向けている。これは断っても「それでも教えろ」と言われそうだと思ったハルナは断るごと自体を諦めた。

 

「格闘戦を教えるのはやったことないだけどなぁ……古代くんは?」

 

「一応出来ます。習った以来ですけど」

 

「んじゃ古代くんと教えてみようかな。それと柄じゃないけどこういう事言ってみたいのよ」

 

「どういう事だよ」

 

 

「何回でも転がしてあげるからかかってきなさい」

 

 

 _________

 

 

 

「自己紹介も終わったころだから1つ言っておく。そろそろ起こる筈だから何が起こっても驚くな」

 

「何が起こるんだよ、ってあれ!?」

 

 バーガーが言った事に一同不思議がるが、沢村の驚いた声で全てを理解した。ついさっきまで来ていた艦内服と身に着けていた装備品、銃器類がすべて消え、代わりに私服になっていた。

 

「どうなってんだよコレ! 何なんだよ!」

 

「私達も驚いたのよコレ。まぁ、特に害はなさそうだからいいんじゃない?」

 

「いやいやこれ魔法かよ!」

 

「かもしれんな。まあ儂らも分からんが過ごしやすい服じゃからもう気にしとらん」

 

「落ち着け沢村」

 

 冷静に沢村を落ち着かせる古代だが、急に服が変わって動揺しない人はいない。ちなみに古代は赤いセーターにジャケット、新見はパンツタイプのレディーススーツ。相原は無難な普段着、沢村と桐生はお気に入りだった服に変わっていた。

 

「あ、私もだ」

 

 ハルナはというと、メガネが消えてシンプルなTシャツに男性物のジーンズを穿いてパーカーを羽織っていた。それを不思議がった新見はハルナに聞いてみた。

 

「それ男性物じゃない?」

 

「あ、これですか? 確か大分前にお父さんが買ってくれたものです。あの頃は似たようなのばっかりでした」

 

「まぁ動きやすくていいんじゃないですか?」

 

「んじゃまあこっち来てくれ」

 

「第1の異常」が終わったことを確認したバーガーは、とある部屋に古代達を連れて行った。

 

 ________

 

 

「ん、これ投げて見ろ」

 

「ボール?」

 

「ああその通りボールだ。それを向こうに向かって思い切り投げろ」

 

 メルヒが投げて寄越したのはソフトボール。それも種も仕掛けもなく何の変哲もないソフトボールだ。メルヒの指指す方向には灯も無く真っ暗な通路。暗すぎて足元すら見えない。

 

「……? まあ、それっ!」

 

 振りかぶって思い切り投げてみる。ボールはあっという間に見えなくなり、風切り音がだんだん小さくなっていく。仏頂面をしていたメルヒが古代の横でニヤニヤしている。

 

「?」

 

「まぁ見てろ」

 

 小さくなっていった筈の風切り音が大きくなり始め、投げたはずのソフトボールが戻ってきた。驚いたが落ち着いてキャッチする。投げた物が勢いをそのままにして帰って来た、まるで山びこのようだ。

 

「空間がループしてるの?」

 

「分かんないけど、ここから先には誰もいけない。どうやってもね」

 

「ほかにココみたいな部屋は?」

 

「いや、ここだけね」

 

 新見曰く空間がループしているとの事。それでもこんな奇妙な場所はネレディア曰くここ1か所だけらしく、それ以外はちゃんとした部屋らしい。

 

「いやいやじゃあ人はどうなんだよ!」

 

「待て、分からない以上危険すぎる」

 

「んじゃ試してみろよ。身をもって安全に体験できるぞ」

 

 メルヒが沢村を煽れば沢村はその真っ暗な通路に飛び込む。すると数秒も経たないうちに沢村が吐き出された。仰向けに吐き出された結果床面に体を打ち付けてしまった。

 

「これで分かったろ?」

 

「うん取り敢えずは。壁とかドアとかその他は?」

 

「信じられん位に頑丈じゃ、まるで鉄のようじゃよ」

 

 バーレンが言うように、ドアも壁も鋼鉄のように固い。見た目は木目が入っていても叩けば金属を叩いたような音がする。

 

「爆弾とかあったらやれるかな……」

 

「冗談言うなよお前。マジで何もないとこから作りそうだ」

 

「私はマッドサイエンティストではないんですが? 他には?」

 

「水はどっかから引かれてるらしい、食料が無いだけだ。俺らの分は、そろそろ底が見えてきた感じだ」

 

 知らない所から水が引かれていて食料は元から存在してない。持ち込み分しかない様だ。彼らも食料は持っていたものの、閉じ込められたからそれなりに時間が経ち底が見えている。自分たちも持ち出し品のクラッカーがあるが、携帯食料だからか量は少ない。

 

「……古代君、私達の分消えてないよね? 機体に積んであった分とか」

 

「持てるだけ持ち出してきましたがあれくらいだから……少し切り詰めれば1週間くらいはいけます」

 

「それを分けましょう」

 

「いいんかよ。あんたらも、少ねぇんだろ」

 

「食糧難で争うよりはいいです。無くなる前にここから出る方法を探しましょう」

 

「……恩に着る。借りは耳揃えてきっちり返す」

 

 


 

 

 一通り異常を見て回った一同は各々部屋を割り当て、各自で休んでいた。その中でも桐生はネレディアに部屋の1つを与えられた。艦内の装飾の少ない自室ではなく、暖かい光に照らされてベットもふかふかの日当たりのいい部屋だ。

 

「部屋は余るほどあるから、自由に使ってね」

 

「素敵です! 素敵すぎます!」

 

 高級ホテル、それも外国にあるような内装は桐生も初めてで、年相応にはしゃいでいる。どれもこれも新品のようでピカピカ。これにモーニングやランチ、ディナーにデザートまで付いていたらもう言う事なしだ。

 

「本もあるんだ」

 

「懐かしいわね、この本」

 

「これを、ですか?」

 

 桐生が見つけた本は「ヘレンケラー」の伝記。それをネレディアは「懐かしい」と言った。地球生まれの本をガミラス人が知っているとは考えにくいが、今それを口にすると地球人であることがバレてしまう。これは後でハルナや古代、新見に相談しようと桐生は思った。

 

「寂しい魔女のお話」

 

 

 

 ___話はこうだ。

 

 昔ある所に、1人の女の子がいた。女の子は人の心が分かる、テレパスのような力があった。

 

 女の子は独りぼっちだった。友達が欲しい女の子は大きな青い国を訪れた。

 

 心が分かる女の子は善意で人の本音を伝える。人の本音を知った青い国の人達は互いに疑心暗鬼となっていった。人の心が分かる女の子は異端と見られ、迫害された。

 

 やがて疑心に染まった青い国の人々は互いに争い始め、女の子は自分自身を嫌いになってしまった。

 

 それを哀れに思った神様は、女の事の為に船を作り、女の子はそれに乗って遠い国に旅立つことにした。

 

 行き先は分からない。ただ、まだ見ぬ明日に向かっていったらしい。

 

 

 

「只の御伽噺。でも昔からあるお話なのよ」

 


 

 ネレディアが桐生の部屋を後にして数分後、桐生はハルナの部屋に向かった。ベットに仰向けに寝転び、手首に巻かれているチェーンブレスレットを光に透かしてボンヤリとしていた。

 

「ヘレン・ケラー? Waterの人がどうかしたの?」

 

「はい。ネレディアさんが、ヘレン・ケラーの本を見て『懐かしい』って言ってたんです」

 

「ヘレン・ケラーね……多分、見えてるものが違うんだよ。恐らく、地球人には地球風に、ガミラス人にはガミラス風にって感じで。本の事は、今はそれでいいと思う。私達をザルツ人と見たのは、来ていた服がガミラス軍の士官服か何かに変換されたからじゃないかな?」

 

「見えてるものが違うって、そんなこと可能なんですか?」

 

「この場にいる人全員の意識に干渉できるならね。見えてる物に対しフィルターを嚙ませれば、案外出来るんじゃないかな?」

 

 ハルナの感覚としては、全員の意識に干渉して見えてるものに対して幻を重ねているとの事。建物や壁に対し映像を映し出すプロジェクションマッピングに近いが、人の意識に対し投影している以上気付かなければどうしようもない。

 

「でも、そんなの全く気が付きませんよ?」

 

「だよね、今こうしてベットに座ってても感触とか凄いリアル。寝心地いいし、意識レベルと言うより見えている空間全部に干渉されてる事も考えた方が良いかな」

 

 意識に関する事なら人よりは分かる積もりのハルナでも、この件はどうしようもない。実害が出ない限りヒントすら掴めないだろう。それとは別に、何より少し心細そうにしている。無意識にブレスレットを眺めてボンヤリするくらいで、丸で何も考えていないように桐生には見えていた。

 

 見えていたはずだったのだが……

 

「あとは不自然な所をつつかないと、例えばあのエレベーター」

 

「あの11階まであるエレベーターですか?」

 

「そうあれ。行ける階は4階までしか無いけど、もしも今は4階までしか辿り着けないとしたら……一先ず、4と11に関係するものを漁ってみるよ。一応他の人にも共有してみてね、私では思いつかない事が出るかも。それと、幻影関係で何かできる様な種族を探してみないと」

 

 桐生は内心ハルナの事が少しだけ怖くなった。何故たった1つの違和感からここまでの事を組み立てられたのか。何故こんなにも頭の回転が速いのか。何故こんなにも色々出来るのか。

 これではリクや真田を除いて誰も太刀打ちできないかもしれない。それほど巨大な存在になっていく事に凄みを感じながら同時に怖くなってきてしまった。

 

「暁さん。何でそんなに色々出来るようになったんですか?」

 

「色々?」

 

「だって、そんなに色々出来る人なんていません。何で技術科以外まで……」

 

「気付いたら、こうなってたの」

 

「気付いたらって、自覚がなかったんですか?」

 

「何かね、イスカンダルを発った辺りから何でもかんでもやるようになってたの。格闘とかファルコンの操縦とか銃の撃ち方とか、自衛系で手当たり次第に色々。多分……リクを死なせかけてしまったからだと思う」

 

「それは、暁さんのせいでは……」

 

「分かってはいるよ。それでも、あのとき自分がもっと色々出来たらって思ってたら、なんか、こうなってたの」

 

 今、ハルナの中には4人の人がいる。風奏、リク、零士。そして本当の母親である薫だ。1人を除き皆死んだ。自身の中に残した傷は呪いの様な物となり、見かけでは分からないが何処か怯えながら強くなっている。最後に残ったリクまで失うのは耐えられないから、怯えながらでもいいから強くなろうとしているのだろう。

 桐生は何か言おうとしたが、ハルナの中の思いに負けてしまい言えなかった。何でもやってしまう事による孤立とその原因が強く結びついてしまい、今は如何しようもないと感じた。

 

「暁さん。ちゃんと人を頼ってください」

 

「……頑張る積もり。いや、今は頼らないと無理かも」

 

 

 


 

 

 

 

 それから2日後、桐生は自身の部屋でボイスレコーダーの録音ボタンを押した

 

「ホテルでの生活3日目、録音開始」

 

 あれから暁さんと私、古代さん新見さん相原さん、後沢村で一通り理解して、それをバーガーさん達にも共有をした。

 伏せる所は伏せて、「見えている物が違うという事」を伝えてみた。如何に見えてるものを書き換えていたとしても、向こうやこっちが発する言葉までの書き換えは出来てないみたいで、バーガーさん達が見てる景色は、どうやら私達が見ている内装と大分異なるみたいで、幻が重ねっている事を伝えることが出来た。全部、暁さんの言う通りかもしれない。

 

 それと今日は、通路の方で何かが崩れる音がした。通路の一部が崩落して、大穴が開いていた。そこを掘れば外に行けるかもしれないと思ったけど、暁さん曰く、「試してみる価値はあるけど、希望をチラつかせてるだけかもしれない」らしい。道具も無いので、程々に掘って調べるくらいに落ち着きそうだ。

 

 他には、暁さんと古代くん、後沢村が相手になって、メルヒ君が格闘訓練をするようになった。正直言って、暁さんが強すぎる。怪我しないように加減しているみたいだけど、それでも流れる様に動き回りメルヒ君を転がしていく。「自衛で極めたけどこうなるとは思ってなかった」と暁さんも言ってた。たった数週間で極めるのはおかしいけど、暁さんは天才肌なのかもしれない。

 

 携帯食料はまだあるけど、一日の量はどうしても少ない。今はバーガーさん達と分け合っているけど、これでは10日持てばいい方らしい。

 

 あとは4と11の件で候補が上がった。どうやら現在人類が辿り着いている次元と余剰次元の事かもしれないらしい。今私達がいる次元は、縦横高さの3次元に時間の概念を加えている。その上の次元は、私達は知ってはいても知覚が出来ていない。この空間を創った人は、それを知覚しているのだろう。

 

 ここまで物が出そろったけど、重要なピースが抜けている。まだ、かかりそうだ。

 

 

 ______

 

 

 

「……似てたよな」

 

「何が? 何が似てたの?」

 

「冗談キツイぞネレディア。メリアの事忘れたとか言わせねぇぞ」

 

 バーガーは自身の心の異変を感じ取っていた。桐生の顔を見てから彼女だったメリアの顔が離れず、ずっと桐生に近寄りにくかった。

 

「……もう10年ね」

 

「ガトランティスが奪いやがったんだ。メリアの命までな」

 

 そう言いながら頬の傷跡を撫でるバーガー。あの時自分は無事だったが、メリアは区画ごと丸焦げとなっていた。目にするのも恐ろしい最期だった事はバーガーしか知らない。それでもメリアは、最期にバーガーに笑顔を向けていた。

 それからバーガーは、自分でもおかしいと思えるくらいに危険な任務に走るようになった。ドメル幕僚団として動いていた時は第7戦闘団として突撃をしたりもした。戦闘団の性質上指揮艦も突撃はするのだが、全く躊躇が出来なかった。

 

「あいつらも、何か奪われたりもしてんのか」

 

「さぁ、分からないなら聞いてみたら、バーガー?」

 

「……? そうだな、気晴らしだ」

 

(バーガーだって? あいつこんな呼び方してこねぇ筈だが)

 

 違和感があったが今は仕舞っておこう。でも「アカツキ」とかいう白髪のザルツ人は参謀並みに頭が切れる様なので、後で言うだけ言ってみるかと思い、バーガーは自室を出た。

 

 

 

 _______

 

 

 

 

「嬢ちゃん、嬢ちゃん風邪ひくぞ」

 

「ぅん? リ、じゃなかったバーレンさん?」

 

 考え疲れてソファで寝てしまったハルナを起こしたのはバーレンだった。近くにあったクッションを抱き抱えてソファから転げ落ちそうになっていたところを、バーレンが揺り起こしたん尾だ。

 

「部屋に戻った方が良い。暖炉も消えとるから寒くなるじゃろう」

 

「ですね、戻って考え……」

 

 

(暁さん、どうか、頼ってください)

 

 桐生の言葉が聞こえた気がした。

 

(……まずは、かな)

 

「バーレンさん。少し、頼ってもいいですか? 暖炉もつけ直しますから、少しだけ話をしましょう」

 

「この老いぼれに分かる事なら言うてくれ」

 

 それを聞いたハルナは近くのマッチで暖炉を付けなおしてソファに座り、バーレンもその横に座った。

 

「見えてる物全部に幻が被さってる話なんですけど、他人に幻を見せられるような民族や文明で何かご存じでですか?」

 

「……ある」

 

「あるんですか!?」

 

「いや、あったな。あったんじゃよ」

 

「ある」ではなく「あった」という意味を理解したハルナは、少し落ち込んだ。それは「滅んだ」と捉える事も出来る言葉だ。

 

「大昔の話じゃが、ジレルと言う文明があった。生まれつき人の心が分かるのばっかりでな、儂らと嬢ちゃんらとは違って真っ白な肌をしとった。あとは耳が尖っとって髪色も変なんじゃ。じゃが、どっかの文明がジレルを嫌って迫害していってな、それで減りに減って滅亡したらしい」

 

「ジレルは、もういないんですか?」

 

「いないわけじゃない。本国に生き残りがおるんじゃがそれでも2人、文明を興し直すのは無理じゃろう」

 

 ハルナの頭の中には1つの事象が浮かんでいた。Wunderクルー全員が催眠状態になり、Wunderが勝手にワープしかけた事だ。ハルナはずっと火星での生活を見せられていたが、古代と森は催眠から抜け出しガミラス人のような人物を見ていた。信じられない事に拳銃で頭を撃ち抜いてもすぐに再生したらしい。

 

「もしもジレル人が生きていたら、全員を催眠したりとかは……」

 

「人それぞれとは思うんじゃが、出来るのは出来るんじゃろうな」

 

 バーレンが頷きながら肯定する。ジレル人は幻を見せることが出来る人種。既に滅んだ文明ではあるが、現状ジレル人以外にこんなリアルな幻を作れるとは思えない。

 

(頼ってよかった……バーレンさんありがとうございます)

 

「ありがとうございます。何か分かってきた感じがします」

 

「何か分かったんか?」

 

 バーレンの柔らかい声にハルナは振り返って微笑んだ。

 

「まだです。でもいいヒントが頂けたと思います。ありがとうございます。おやすみなさい」

 

「はいよ、おやすみ」

 

 


 

 

「なんか、こんな早くにすまんな」

 

「いや、構わない。それより暁さん、話って何ですか?」

 

 翌日、ハルナは例のガミラス人(?)の見た目を聞くためにバーガーを連れて古代の部屋に出向いていた。朝早かったのか、まだ瞼が少し落ち気味で眠そうに目を擦っていた。

 

「お前軍人……だよな。何か何処にでもいる普通の学徒みてぇだぞ」

 

「非番の時はこうなんだ。それ以外は普通に起きられる」

 

「まぁいいや。それで言い出しっぺ、連れてきたワケって何だ?」

 

「犯人がなんとなく分かって来たんですよ」

 

 

 ______

 

 

 

「ジレル人……魔女の類だな」

 

「魔女?」

 

「あいつらは魔女だ。人の心が分かる化け物だ」

 

 そう言うとバーガーはドアの近くのテーブルに置かれた本を取ってきた。ハルナ達にはヘレン・ケラーに見えているその本を、バーガーは流し読みしていく。

 

「お前らには別の何かの本に見えてるはずだが、俺にはこれがガミラス民謡の本に見えてる。丁度俺が言った魔女の話だ。人の心が分かる化け物が争いの種になっちまったって感じのな」

 

「美影ちゃんから聞きました。そのジレル人の昔話が本当とした場合、何らかの船に乗っていたか今でも乗っている筈なんです」

 

「何かって何だよ。お話し通りに神様製のお舟かよ」

 

「流石に神様って訳じゃないですよ。何かそういう文明製の船とか……少なくともジレルより古い、それこそイスカンダルよりも進んだ文明ですね」

 

 そこまで考察を述べると、しばらく目を閉じると不意にバーガーは口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アケーリアス文明、知らんか?」

 

「アケーリアス文明?」

 

「知らねぇのかよ、人型種族を作った神様文明だ。バランとかにあるゲシュ=タムの門とかもアケーリアスの置き土産な」

 

 どうやらこれは基礎知識だったらしく、溜息を付いたバーガーは軽く説明を挟んだ。

 

 アケーリアス文明は、この世界でもごく初期の段階で興った文明で、それこそイスカンダルよりも年上に当たる。彼らは自分の姿と同じ種族を様々な星系の惑星に種として蒔く「播種」の様な事を起こした。地球とガミラスを同じ年齢の子供とするなら、イスカンダルは大家族の長女、アケーリアスは「親」と呼ぶべきだろう。

 

 だが、彼らは遥か昔に滅亡した。原因は不明で、幾つかの痕跡と遺跡を残して消え去ったらしい。幸いにもこれら遺跡は使用可能な状態の物が多く、ガミラスと言った星間文明はこれらを探す活動も行っている。

 

 

(いやいやいやこれが本当だったら人類史崩壊するけど……これホントにひっくり返るよ)

 

 

 地球人類史を豪快に叩き割った説明に、ハルナと古代は顔が歪まないように耐えるのに必死だ。でも「アケーリアスを考慮すると」色々と辻褄が合う部分もある。

 例えば、地球人類史で最も古いと言われている文明は現在の所は「シュメール文明」である。これで大体5000年ほど前。しかし、人類は約30万年前には存在していたとの記録が在る。もしも最古に近い文明がシュメール文明なら、人類は29万5000年ものあいだ狩猟や農耕をして小さな集落規模で生活をしていたという事となる。

 

 つまり発展速度がおかしいのだ。数段飛ばしでいきなり文明が出来上がるとは到底思えない。そのためオカルト界隈では、「失われた超文明」といった話が持ち上がったりもしていた。

 もしもそこにアケーリアス文明のテコ入れがあったならば、突然文明が出来て5000年の期間でここまで発展するのも頷ける。

 

 例えば遺伝子改良。ホモサピエンスは5800年前にASPM遺伝子という脳の発達にかかわる遺伝子を獲得している。それからたったの800年で文明が出来上がった。

 それまでは単純に脳の大きさが足りなくて文明を興せるくらい発達していなかったと考えられているのが定説だ。だがその遺伝子もアケーリアスによる改良によって獲得したものならどうだろうか。世界各地の壁画に残っていた宇宙人らしき見た目の人型生物が彼らならどうだろうか。

 

 

(うう頭痛い痛い、ちょっとパス)

 

 

 頭が痛くなりそうになったハルナは一旦これを隅に置き、後で真田や赤木博士に話してみようと心に決めた。自分一人では抱えきれない人類の秘密でもあり、桐生から「人を頼る様に」と言われている以上今はどうしようもない。

 

「それ位のぶっ壊れ文明なら出来んだろ。それくらいなら」

 

「まぁほぼ神様なら。と言うか暴論じゃ……」

 

「いや神様なら何でもありじゃね? 神だから」

 

「それはそうなんですけど……アケーリアスが播種したから私達が生まれた。そして便利ツールを残して滅んだ。まるで『あとは好きにしてね』って言ってるみたいです。この世界全体を実験室みたいにしたいなら、リセット装置くらい置いてるかもしれませんよ」

 

「怖いこと言うなよ。アケーリアスならマジでやりかねん」

 

 一瞬だけ目のハイライトを消して怖がらせるようにバーガーに言ってみた。眼鏡抜きでは虹彩が淡く光って見えてしまうが、ハルナなりにギリギリまで抑えて誤魔化してきた。傍から見れば「やけに目が綺麗な人間」程度にしか見えていないだろう。

 

「案外置いてるかもしれませんよ。最古の超文明が肝心な事抜けてたとか文明(笑)ですから」

 

 

 _____

 

 

 

「あと問題なのが、来た道が戻れなくなっている事ね」

 

 そう、ハルナ達が歩いてきた道が無くなっているのだ。正確には、その道に出るためのドアが消滅しているのだ。よって食料をこうのとりに取りに行く事も出来ず、携帯食料は日に日に減っていく。そろそろ切り詰める量を増やさないといけないかと考え始めてもいた。

 

「今まで気付いていなかったのも不思議ですが、正攻法で出ることが出来てないのも現状です」

 

「だからヒントを探しているのよ。ジレル人の仕業なら今真横に居るかもしれないからね。幻を見せて光学迷彩みたいな事してても可笑しくない」

 

「怖ぇ。ていうか、ジレルの魔女が俺らをココに呼び寄せたって事は、そいつらはもうここにいるって事だろ。それって実質、その人が本物すら分からないって事じゃねぇか」

 

 言いたくない事を突かれた。ジレル人がどこかにいるという事以外に、ジレル人が誰かのふりをして紛れ込んで、直ぐ近くで話を聞いているかもしれないという事だ。

 疑心暗鬼に繋がるこれだけは皆に意識させたくなかったのだ。

 

「……言いたくなかったんです。それだけは」

 

「そりゃ疑い合って殺し合うのは最悪だ。だが怪しいヤツくらいは目星付けても問題ないんじゃねぇのか? 現に1人いる」

 

「1人?」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「なぁお前さ、何で暁さんにこだわってんだ?」

 

「何だ?」

 

 がらんとした広間で沢村とメルヒ、相原が比較的温和に話し合っている。メルヒはハルナに制圧されてから態度がわずかに柔い物となり、「ザルツ人」と卑下する事も少なくなってきた。

 

「そりゃ暁さん信じられない位強いけど、出鱈目じみてる人より実力近い人に教えて貰う方が良いんじゃないのか?」

 

「分かってはいる。だが俺は、あの出鱈目に一矢報いたいと思った。それじゃダメなのか?」

 

「あーあ知らないぞ、間違ってないけど出鱈目呼ばわりしちゃって。……俺んとこにも暁さんみたいな見た目のやつがいるんだよ。ちなみに暁さんより年下な。暁さん、そいつに頭下げて数週間くらいで全部覚えてほぼ完ぺきに無双したんよ」

 

 イスカンダルを発った頃、ハルナは山本に殆どの格闘技術を叩きこんでもらった。信じられないが、殆どを見て盗んでその場で自身が動く事で殆ど完璧に出力していた。

 

 それに対し加藤が試しに組み手をしてみたが、ハルナは受け流すなり投げ飛ばすなり組み伏せるなりしてカウンターを食らわせ、加藤は只々床に体を打ち付けるだけとなった。その際、習ったはずだった殴打技は一切使わなかった。

 その時沢村が覚えていたのは、眼鏡をはずしていたハルナの虹彩が爛々と光を放っていた事と、加藤が「1手先まで綺麗に読まれているみたいで気味が悪い」と言っていた事だけだ。

 

「何なんだよマジで」

 

「知らないよそれ以外は。暁さん前から反則気味だけどその組み手ら辺から出鱈目じみてきたから」

 

「なぁマジで何なんだよ。アカツキはそもそも人類なのか?」

 

「まぁ人類だろ。多少常識から外れてるけど」

 

「聞かれてても知らないぞ」

 

「両方に多様なもんでしょ。ほら再開するぞ。俺に勝ったら古代さんな」

 

「はっ倒されても文句言うなよサワムラめ」

 

 壁際までどけたソファから立ち上がった沢村は中心に立ちまた構える。メルヒ曰く沢村が「尉官級」、古代が「佐官級」、肝心のハルナは「総統級」と例えている。古代とハルナの間が相当離れているが、どう考えても「数手先まで読んだうえで動いている」としか思えなかったためこう例えるしかなかったとの事。

 

 最低限の動きで左と右のパンチを使い分け、隙を見て足を絡めて倒しにかかる。それに対し上手く躱しいなす。その繰り返しでしかない。

 基本的な動きはハルナが叩き込みなおしたが、肝心の殴打技は一切教えようとしなかった。その分は古代と沢村が補っていたが、「只の自衛術」としかハルナは言っていなかった事を思い出し、仕込みなおされた左ストレートを放つ。

 

 沢村が上手く腕を絡めて止めてハルナのように制圧をかけるが、それに反応できたメルヒが強引に解き距離を取る。メルヒから仕掛け、右の大振りを食らわせようと腕を振り被る。沢村はそれをまた捕らえようとするが罠にかかっていた。

 大ぶりの右はブラフ。下から飛んできた右の蹴りが上手く刺さり沢村が怯む。追加でメルヒが組み伏せ勝負ありだ。

 

 

「勝負あり。勝者メルヒ」

 

 陰から見ていたネレディアが審判じみたセリフを言う。

 

「いるなら言ってくださいよ」

 

「邪魔したら悪いと思ったのよ。3日で良い動きする様になったからそろそろ手が届くんじゃない?」

 

 ネレディアの称賛の言葉は素直に嬉しいが、メルヒは頭を振った。

 

「いいやアカツキはバケモノ、だろ?」

 

「いや同意を求めんなよ確かに異常だけど。正直言って、俺らじゃ歯が立たない。それに勝とうとしている辺りでもうおかしいぞお前」

 

「勝手に言ってろ。俺はやる」

 

「派手にやり過ぎて、あとでバーガーに怒られても知らないわよ」

 

 


 

 

 

「って事だ」

 

「「……」」

 

 バーガーから「怪しい人候補」を聞かされたハルナと古代は困惑した。もう既に候補が出ていてそれに今まで気が付かない程だった。だが、バーガーだから気付けたという事は自分たちが気付けないと片付けた古代は、次に移った。

 

「この事は他には?」

 

「いいや、漏れるのも怖ぇから話してない、今んとこお前らだけだ。あとそっちのニイミにでも話しといてくれ」

 

「分かった」

 

「んじゃお開きだな、戻って休むわ」

 

 そう言い切り上げたバーガーは大きく伸びをして立ち上がった。その時お腹が鳴った。誤魔化しが効かない程大きな音に思わず苦笑した。

 

「あーあ美味い飯食いたいなぁ。さっさと出るぞココ」

 

「ああ、携帯食料では流石に持たないな」

 

 バーガーは今食べたいものを呟きながら、そのまま古代の部屋を後にしていった。

 

 

 

「今の所私達が地球人とは気付かれてないね。騙すのは、あまりやりたくなかったけど」

 

「バレたら、どうするんですか?」

 

「少しくらいは争うと思う。でも……」

 

「分かっています、俺たちは異星人とも分かり合える。兄さんが先に達成したから、僕らも出来ます」

 

「良い事だと思うけど帰ってからはそうもいかないと思うよ、上層部はそう思ってないから。イスカンダルまで旅したから私達がそう分かってるだけで、地球組は怯えるか敵意を向けるかだと思う」

 

 

 

 

「それでも、声を上げる事をやめない事が、帰ってから出来る1番の事だよ」

 

 


 

 

 

 

「ヘレン・ケラーは、目も見えず耳も聞こえなかった。残ったのは触れる感覚で、掌に触れる感覚で水を知り、Waterと手に書いた」

 

 机に置かれていたヘレン・ケラーの伝記を捲りながら、桐生は考えていた。4日目にして急ブレーキがかかった考察に何か一石投じれればと思い読み直してみたが、何の変哲もない文章が並んでいるだけだ。

 

「Waterね……水、そう言えば、水だけは供給されているんだよね」

 

 食料ではなく水だけ供給されている。どうせなら食料も欲しかったが、もしもここに誘い込んで飢餓か脱水で殺すならどっちも供給しなければいいだけだ。

 

「何で水だけなのよ」

 

 飲んでも心身共々問題なかったという事は、あれはちゃんとした飲料水という事。そのお陰で脱水だけは回避できているが飢えだけはどうしようもない。

 

「残されたのは……触れる感覚」

 

 あの魔女のお話が犯人に至るヒントなら、ヘレン・ケラーの伝記には辿り着くためのヒントがあるのだろう。水に触れる。でも触れてどうする? 触れるだけなら、飲むときに口に触れる。手を洗う時に手に触れる。それ以外に何がある? 

 

 直ぐに袋小路になり伝記を閉じる。

 

「ダメだぁ……暁さんみたいに全部わかる頭じゃないからなぁ」

 

 溜息を付く。その時、ドアをノックする音がした。

 

「誰?」

 

『沢村だけど、ごめん、ちょっと助けて』

 

「はぁ? あんた何したの?」

 

 

 

 _______

 

 

 

 

 

「……アンタがバカって事がよく分かったわ」

 

「悪かったな、溢したんだよバケツ丸々1個」

 

 大方水を汲んで運んでいたのだろう。バケツを両手で持って歩いていたら躓いて1つ溢してしまった結果、この様にロビーが水浸しだ。

 

「ああもう……タイムリー過ぎるでしょ」

 

「タイムリー?」

 

「ヘレン・ケラー。Waterの人よ」

 

「ああ目と耳の利かない人? 俺んとこにもその本あったんよ。それがどうかしたのか?」

 

 一瞬知らないかと思いジト目をする桐生だが、沢村でもそこはきちんと把握していたようだ。それも思わぬ収穫もあった。

 

「まだどうもしてない。それで、『拭くの手伝ってください』じゃないの?」

 

「……拭くの手伝ってください」

 

「はいはい」

 

 こんな事で呼び出したのかと思えば桐生はストレスがたまりそうになったが、ちょうどいい機会かもしれないとも思っていた。

 残されたのは触れる感覚。どの部屋にも同じ本が置かれているという事は、「特に意味も無く」じゃなければ「ちゃんとヒント」として見る必要がある。

 

 腕をまくり、濡れた床に触れてみる。

 

「残されたのは……触れる感覚……触れる……。ッ?」

 

「何やってんだよそんな真剣な顔で」

 

 沢村が声をかけるが桐生は無視して床を指先でなぞる。見えない絵を描いているかのように円を描き、文字の様な物も描く。

 

「魔方陣……みたいなのが彫ってある」

 

「はあ? 魔方陣って偶然出来た傷とかじゃねぇのか?」

 

「じゃああなたも触ってみなさいよほら!」

 

 強引に沢村の腕をつかむと床に触れさせてみる。自分がなぞった溝に沿って指を滑らせてみると、沢村の怪訝そうな表情が見る見るうちに変わり、顔を見合わせた。

 

「傷、じゃないな。これ」

 

「ほら言ったでしょう!」

 

「でもこれ何なんだよ。意味分かんない模様か何かじゃないのか?」

 

「こんな意味も無くこんなもの用意するワケないでしょ? あああとそれとさ」

 

「?」

 

「沢村のドジに救われた。ありがと」

 

 

 


 

 

 

 

 桐生が奇妙な魔方陣の存在に気づき数時間後、ロビーには地球人組とガミラス人組が一同に集まっていた。ロビーに溢された水は乾き始めていたが、それに気づいた桐生の目はやる気で潤っていた。

 

「美影ちゃん、話って何?」

 

「見つけたんですよ」

 

 そこから桐生が話し始めたことは信じがたいものだったが、行き詰っていたハルナだけは大きく目を見開いた。

 

 そこからは速かった。パーカーとズボンの裾を捲ると組み直されたバケツをひっくり返してロビーの一角を水浸しにした。そのまま床に膝を付くと、膝が濡れる事も気に留めず床に触れてみた。僅かな溝を捉えるとそこから指を滑らせていき、「何か」に辿り着いた。

 

 

「文字っぽいけど……美影ちゃん、これ分かる?」

 

 ハルナが遠慮なく頼って来た事が少し嬉しかったのか、桐生はハルナの元に寄っていった。それに応じて古代やバーガー、ネレディアまで近づいていった。

 

「この辺の、これ。文字みたいだけど読める? 流石に言語系は専門外だから」

 

「これですね」

 

 ハルナが指を差した部分を桐生がなぞっていく。音楽記号の様な模様を描きながら指が滑っていき、その正体を口にする。

 

「……ジレル語じゃないです……これ、アケーリアス語です」

 

「いやジレルはアケーリアスの直系の子孫だから使ってる文字も一緒なんだが……何て書いてある?」

 

 

「目は闇を映し、耳は沈黙を聞く……えっと、11層目に至りし者は、真の世界を見出せるだろうごめんなさい、結構削れてて上手く読めません……」

 

 如何やら年数がたっているみたいで削れてて所々読めない箇所があったようだ。桐生がしょんぼりしていると、ハルナが桐生の両肩を掴み揺らした。

 

「美影ちゃんナイス!」

 

「へ?」

 

「取り敢えず全部書き取って欠損部は文法から推測して埋めてしまおう。あとはそこから考察に紐付けて行けば……多分、出れるよ」

 

 詰まっていた考察に光明が差したようでハルナの顔も明るい。それからの事だが、全員を広間に集めて考察を披露。穴となっている部分の指摘を受けて修正を行い、脱出を翌日とするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当日、今まで動かなかったエレベーターが稼働を始めた。

 しかし、代償のようにネレディアが姿を消した。




今更感が強いんですが、「ハルナ」=「榛名」が出来上がりそうです。
連載初期は何にも気づいて無かったのですが、下の名前が金剛型戦艦の「榛名」だったんです。

何気なく渡した名前ですが、かなり強い名前を渡してしまったなあと、今更ながら引き笑いしてしまいました。

何気に戦闘技術まで習得してしまったハルナは、これからもリクと一緒に強くなっていきますよ。もう手を付けられません。人間やめてますマジで。


それでは次のお話で、お会いしましょう。
(@^^)/~~~
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