宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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情報処理安全確保支援士の試験があるので、星巡る方舟編が終わりましたら休載します。
力Answerの時みたいなのはやりません。絶対

それではお楽しみください


たとえ星が違っても

「大都督、テロン艦の空間跳躍先、特定しました!」

 

「よぉし。全艦空間跳躍の陣を敷け! 獲物を追いかけるぞォ!」

 

 Wunderの行き先を特定したガトランティス艦隊は、旗艦メガルーダを中心にして周囲にナスカ級数隻、その外周をククルカン級とラスコー級で固めた。そのままエンジン出力を上げて前進を開始し、後方のメインノズルの光が水色から橙に変わる。

 

「跳躍先座標合わせ! 全艦準備よろし!」

 

「大都督、号令を」

 

 

 

「全艦、空間跳躍開始ィ!」

 

 ダガームの令で陣を敷いたすべてのガトランティス艦が急加速に入り正面に竜巻の様なワームホールが生成される。各々ワームホールに飛び込んでいくと竜巻は嘘のように消え去り、その宙域には何も残らなかった。

 

 まるで嵐が過ぎ去ったかのように、消えて行った。

 

 

 ______

 

 

 

 

「軌道上に大隊規模のワープアウト反応。重力場解析、ガトランティスです!」

 

「蛮族め……ッ」

 

「軌道上の艦隊を光学で捕捉。正面に出します」

 

 ガトランティスの来襲に口が悪くなるネレディアだが、正面に投影されたガトランティス艦隊の映像を見て言葉を失った。

 

 ミランガルは勿論、ランベアやその他航空母艦とは比べ物にならない程の巨大な旗艦を中心にした艦隊が軌道上でゆっくりと歩みを進めている。今まで小マゼランで押し留められていた筈のガトランティスが堂々と進出してきている事に危機感を抱いたのは言うまでも無く、ネレディアは次の命令を出した。

 

「稼働可能な航空機は?」

 

「七色星団でヴンダーに壊滅させられた以上、機体数は知れてます。バルグレイとバルメス、ミランガルとニルバレスの搭載機を合わせても、50機いくかどうかです」

 

「構わない、動ける機は準備にかかれ」

 

 再び正面スクリーンを向き、巨大な戦艦を睨む。「あのゼルグート級」ですら小物に見える程の巨体だ。撤退戦しか取れる術はないだろう。なら損害を抑えながらワープに入る……だが空間航跡を読み取られ追いかけられたりでもしたら、敵を引き連れながら撤退する事となる。

 

(だがここで打ち破るには、余りにも戦力が少なすぎる……)

 

 ________

 

 

「強大な重力場の乱れを検知、レーダーの感知範囲外です」

 

 そのガトランティス艦隊出現はWunder側でも捉えており、応急修理の真っただ中ではあるが戦闘配置が進められていた。

 

『副長、後20分は下さい!』

 

「分かった。急いで正確にだ」

 

「真田さん。確度は80ですが一応仕上がりました。あとは島君の腕に頼むことになりますが……」

 

 片手ではあるがシステム構築を手伝ったリクは真田の方へ振り向き仕上がりを報告するが、満足いくものではないのを示す様に厳しい顔をしていた。

 

「十全ではないが無いよりはいい。あとはインストールだな。テストが出来ないが仕方ない」

 

「実戦=テストですね。マリさんは……って何やってるんですか?」

 

「ちょっと作ってるんにゃ。こんな感じで良いのかにゃって」

 

「何ですかこんな時に……っコレって、ええぇ……」

 

 マリが持ち出して弄っていたのは、ゼロ改に搭載されているマルチロックオンの中枢部だ。本来戦闘機用で処理に限界があるが、それをWunderに適応させようとしているのだろう。

 

「Wunderって拡張性の塊だから、私でも弄れるんにゃ。おまけにスパゲティコードじゃないし、これでMeteor*1でもするにゃ」

 

「……許可って取ったんですか?」

 

「出した。Wunderの能力の底を見る様なものだが、活用法としては80点だろう。今赤木博士がMAGIとのリンクを組み立てている。問題ない」

 

 柔軟に改良するなら作った人より第三者の方が良いとは言われるが、何故か真田もそう言った改造に乗り気になっている。とやかくいう事を諦めて溜息を付いていると、付けていたインカムから声がした。

 

『それなんだけど、そろそろ持ってきてくれる? マリ』

 

「博士?」

 

『あまり時間もないからMAGIを通すわ。機械無しで間に合わせるのは酷よ。急いで』

 

「……あいあいまむ」

 

 そのまま作りかけのシステムを端末に吸い出して、マリはMAGI格納エリアに向かった。

 

(出てくると思うけどこっちはあまり時間が無い、なるべく急いでくれ)

 

「……少し、冷えてるな」

 

 こちらからはどうしようもないが迎撃準備はした、あとはハルナ達が出て来るだけだ。胸に手を当てながら、リクは無事を祈った。

 

 

 

 ______

 

 

 

 脱出当日に起きたネレディアの失踪に狼狽えを見せた面々だが、バーガーと古代が混乱を鎮める事で一応の安定を見せた。それからネレディアの捜索が始まったが、どの部屋を当ってもネレディアの姿も気配すら見つからなかった。

 

「見つかった?」

 

「どこにもいません……どうしてネレディアさんだけ」

 

「やっぱアイツだったかもしれんな、ジレル人」

 

 バーガーがポツリと漏らした言葉の意味を理解するのに時間はいらなかった。ネレディアはガミラス人ではなくジレル人だった。それも最初かららしい。

 

「えっネレディアさんがジレル人って……聞いてませんよ!?」

 

「昨日の時点で言える訳ねぇだろネレディアいるし。……ネレディアにはな、メリアって言う妹がいたんだ」

 

「いた?」

 

「もう10年前に死んだ。そのメリアとキリュウの見た目がなそっくりなんだよ。肌青くすればもうメリアだ。アイツは妹と瓜二つのキリュウを見ても何の反応もしなかった。それにネレディアは、俺の事はバーガーじゃなくてフォムトと呼んでいる。あのネレディアは、偽物だろうな」

 

「そう言えばネレディアさん、確かに『バーガー』って呼んでました」

 

 バーガーしか知り得ない情報に唯一沢村が反応を示し、バーガーがニヤリと笑う。だがこれだけ探してもいないとなると、幻影か何かで姿を隠しているか、エレベーターの先にいるかのどちらかだろう。

 ちょうどよくここには古代やハルナを始めとした面々とネレディアを除いたガミラスの面々が揃っている。

 

 ハルナが一歩前に進むとエレベータのドアを塞いでいた伸縮式のフェンスが開いき、開き戸が開いた。

 

「アカツキ。お前の想像……ていうか考察は当たってたみたいだ」

 

「これでようやくですね、暁さん」

 

 緊張しているのか、無言でうなずいたハルナは先にエレベータに乗り込んだ。どうやら全員乗るまで動かないエレベータのようで、何とか全員乗ることが出来た。

 全員乗りこむと両開きの戸が閉じフェンスも閉まり、見た目を裏切り一切の振動も無く上昇を始めた。

 

 相変わらずハルナは無言のまま、それも直立不動だ。物凄く緊張していると思った桐生が緊張を解そうと思いハルナの肩に触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その手は素通りしてしまった。

 

 声にならない悲鳴がエレベーター内に響き皆壁際に引いた。今までハルナだと思っていた物はただの幻影。ネレディア以外にハルナまで消えていたのだ。

 

「暁さんが……いない」

 

「戻れないんですか!?」

 

「ダメだ、ボタンすらねぇ!」

 

 そのままスッとハルナの幻影が消えると、エレベーターは11階に辿り着いた。柵とドアが開き、目の前に広がるのは真っ暗で無音の空間。そのまま稼働を停止した。

 

「降りろ、という事か」

 

「見捨てるんですか?!」

 

「そうじゃない。ジレル人を見つけて解放して貰う様に頼んでみよう、敵意が無ければだが……」

 

 古代が苦々しい顔をして降りるのに続き皆が降りる。全員が降りるとエレベーターは速やかに1階に降りて行った。真っ暗な空間の奥に見えるのは光。

 

「11層目に至りしものは真の世界を見出せるであろう、だったよな」

 

「確かにここは11層目ですが、文字の通り目は闇を映し耳は沈黙を聞く、真っ暗で静かです。真の世界は……」

 

「向こうという事か、行きましょう」

 

 そのまま光が差し込んでいる方へ進んでいくと、だだっ広い空間に辿り着いた。半壊してはいるが足元は広く、真正面には執務室の様な机があった。そこに誰かいる。それも2人も。1人は紅いドレスを纏ったガミラス人。間違いなくネレディア、否ネレディアの姿を借りたジレル人だ。

 

 そしてもう1人、私服姿で真っ白な髪、それを下ろして赤い目を瞬かせている。どこか虚ろな目をした彼女はジレル人のすぐ横に立っていた。

 

 

「暁さん心配したんですよ! 無事でよかったです!」

 

 桐生が駆け寄ろうとするがハルナは声すら発さない。それどころか、

 

 

 

 

 

 

 

 ハルナは桐生を投げ飛ばそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「危ない!! ってうわっ!?」

 

「……」

 

 虚ろな目をしたハルナから庇った沢村が投げ飛ばされ、近くの床に体を打ち付けた。一瞬で場の空気がピリピリした物に変わりバーガーが構える。

 

「アカツキ、何をしている……ッ!」

 

「いや、目がおかしい」

 

「はぁ? 目って何だよ目って」

 

 虚ろな目には今までの様な光は無く、揺れる火のような虹彩は赤の淡色になっていた。古代はそれに見覚えがあった。艦内での集団催眠で操られかけていた森の目によく似ている。あの時はただ森を引っ張りエンジンルームから脱出すればよかったが、あの時は無抵抗だったから出来たのだ。

 今操られているのは最強に近い人物だ。怪我の1つくらいは覚悟しないといけない。

 

「相容れないから、私達と貴方達は。私も、皆とは相容れないから」

 

「おい、何言ってんだよ……」

 

「貴方達はガミラス人、そしてテロン人。騙していてごめんなさい。でも、私は、彼を殺しかけた貴方たちガミラス人を許せない」

 

「何言ってんだよ、お前らは……」

 

「彼女のいう事は事実。今横にいるのは、あのヴンダーのクルーなのよ」

 

 虚ろな目のハルナがつらつらと言葉を並べていくが、バーガーはそれを否定して欲しかった。たった6日間の生活でも、バーガーは彼らとそれなりに良い関係を築くことが出来た。食料を分け与え貰えた。メルヒなんかは格闘の指南を受ける事が出来た。初対面でも協力し合うことが出来た。

 

 もしも脱出できたら、またどこかで再会したいとも思った。

 

「なぁ……」

 

 だが返ってきたのは沈黙、それはある意味肯定とも見て取れる答えだった。

 

「まさかお前……ッ!」

 

「止さんかバーガー!」

 

 バーレンが止めようと声を上げるがバーガーには聞こえなかった。今目の前にいるのは自身の上官だったドメルを殺したテロン人。それもあのヴンダーのクルーだ。手を出さない事など出来なかった。一時的とはいえ落ち着いていた復讐心に再び火が付き、気付いた時には古代の襟に手をかけていた。

 

「お前らがゲットーを……クライツェを……ハイデルンの親父を……ドメル将軍を……ッ!!」

 

「殺したのか!? どうなんだ!?」

 

 喚くように問い詰めるバーガーは、諦めきれていなかった。彼らがテロン人だという事を今でもいいから否定して欲しかった。でなければ今堪えている衝動が古代を傷つけてしまいそうだった。

 

 

「何とか言えよ……ッ! おい!」

 

 数秒の沈黙の末、古代は口を開いた。

 

「バーガー、俺たちはドメル将軍と戦った。あの方は最後まで勇敢で敵への敬意を忘れない方だった」

 

「……否定しねぇんだな」

 

「俺たちは、ドメル将軍に自爆の道を選ばせてしまった。俺たちが殺したも、同然だ」

 

 怒りが拳を振り上げる。それをすんでの所で強引に止めるが震えている。敵が目の前にいる事実が拳を動かそうとし、目の前の人間と協力し合えた事実が拳を止めにかかる。

 

 コンフリクト、2つの事実が衝突を起こし強い葛藤に襲われ、バーガーはどうしていいか分からなくなってしまった。自分ではどうしようもない。

 

「バーガーさんッ!」

 

「たとえ知らなかったとしても、私達は互いに信頼して、笑い合えてました! だから……っ!」

 

「うううぅぅぅぁぁぁあああッッ……!! 俺は……ッ仲間を殺されたんだよ……ッお前らに……ッ」

 

「ああ、身を守る為であっても……俺達は確かに殺した」

 

 その言葉を聞いたバーガーは古代を押し飛ばしてしまい、腰に手を回した。いつの間にか表れていたホルスターに収まっていた銃をためらいなく取り出してしまい、古代に向けてしまった。

 

「信じたくなかった。コダイ、いや、お前らはいいやつだ。良いやつだから余計に信じたくねぇんだよ。……なぁ、何でお前も抜かねぇんだよ。こっちは銃を向けているぞ」

 

 安全装置を外し、ゆっくりと引き金に指をかける。古代は一瞬驚いた顔をしたがホルスターには手を伸ばさなかった。腰の重みで既に自分にもホルスターが現れている事を知りながら、抜かなかったのだ。

 

「俺たち地球人は、宇宙に出る遥か前から沢山の仲違えをしてきた、血も多過ぎる程流した。その度に互いを知り、理解して、どんな違いがあっても分かり合って来たんだ」

 

「だから、例え星が違っても、俺たちは分かり合える。これは、この戦いで俺の兄が残した遺志だ」

 

「……理想主義だな」

 

「理想は脆いものかもしれない。だが、理想は現実になる為に生まれてくるんだ。どんな絵空事でも」

 

 そう言うと古代は銃を構えるバーガーの元まで歩みを進めると、その銃口を自身の左胸に押し当てた。

 

「古代さん!?」

 

「やめて古代くん!」

 

「バーガー。俺が大ほら吹きに聞こえるなら、このまま撃ってくれ」

 

 銃口を押しあてたままバーガーを見つめる。今撃てば仇が討てる。だが、討たない未来もある。銃のバレルを掴んだままの古代の手も震えている。自分から殺せと言っている様なものだ。震えない人はいない。だが古代は、この行動と共にバーガーにこの選択を委ねた。残酷かもしれないこの選択を。

 

 拳銃を握る手が震える。握り直すが、古代の狂気とも見られかねない意思に押され怯みそうになる。だが狂気に染まった眼をしていない。確固たる意志を持った目が真っ直ぐにバーガーを見据えている。

 

 引き金にかかる指にゆっくりと力がかかっていく。

 

 

 

 

 

 

 

(やめてッ!!!!)

 

 全員に脳を揺らす様な思念がぶつけられ大きくふら付いた。

 

「暁さん!?」

 

「……だったらこうさせてもらうッ!」

 

 意を決したバーガーが、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高く高くあげられた銃口から走ったビームはそのまま消え、肩で大きく息をしたバーガーがそこに立っていた。そのまま挙げられた拳銃を地面に叩きつけると、衝撃で跳ね上がった拳銃を足で踏み潰す様にして床面に押さえた。

 

「選んでくれたのか、バーガー」

 

「コダイ。俺には、とんでもない大馬鹿野郎の言葉に聞こえた。それも、マジでやる気がある方のな」

 

 バーガーは結局引き金を引いた。だが撃つ前に天井に向けるという第三の選択肢を選び、争いへの一本道を断ち切ってくれたことに古代は大きく安堵し、その場でへたり込んでしまった。

 自分から銃口を胸に押し当てるという狂った選択を取ってから、古代は生きた心地がしなかった。もしもバーガーが本当に「そのまま」引き金を引いていたら、自分は撃ち抜かれてそのまま死んでいただろう。そのまま争いに突入してジレル人の思惑通りに全滅してしまう所だった。

 

「大博打だった。やるものじゃないな」

 

「もう2度とやるな。それとアカツキ、お前聞こえてるんだろ」

 

 

 虚ろな目をしたハルナが大粒の涙を流していた。一切表情を変える事が無かったつい数分前とは異なり、

 顔を歪めて涙を溢していた。

 

 爪が食い込むほど握られた拳から血が滴り落ち、尋常じゃ無い握力が籠められている。抗っている。操られていたとはいえ自分がした事に心を痛め、自傷を以てしても振り払おうとしていた。

 

 それは洗脳をし続けているジレル人にも影響をもたらし始め、ネレディアの姿が揺らぎ始め肌の白いジレル人が見え隠れし始めている。

 

 だがまだ体の制御を取り戻せていないようで、力なくハルナが歩き始めている。

 

 

(メルヒ君……ッ私を元に戻して……ッ!)

 

 

「ぶっつけ本番か。少佐、やります」

 

「ああ、やってみろ。あとはあの何でもありを元に戻せば俺らの勝ちだぞ」

 

 

 _______

 

 

 

 力なく歩いていたハルナが急に走り出し、メルヒも素早く反応して即座に加速する。息をつく暇もなく組み合い睨み合い、その一瞬の時間の後にハルナは既に動いていた。

 自衛にふさわしい投げ技や固め技ではなく殴りや蹴りといった攻撃的な物ばかりとなり、1つ避ければ次が飛んでくるほどの勢いで体勢を立て直す暇もない。

 無機質な虹彩に光が灯り始めているようで打撃が強引に僅かに逸らされているが、それでもメルヒは全て避けることが出来ず、所々に重たい一撃が掠る。

 

 ここまででたったの10秒。以前沢村と模擬戦闘をした時とは比べ物にならない程のスピードと威力は、メルヒの前に高すぎる壁として立ちはだかる。

 

 おまけに次に何しようと考えてもそれすら先読みされてしまう。考えて動くこと自体が無意味と言わんばかりに動き回られ、反撃しようとすると即座に背後か横に回られてしまう。

 

(私が女だから躊躇しているの……ッ? 遠慮なくやってくれるかな……ッ?)

 

 ダイレクトに頭に声が響きメルヒは思わず耳を疑ったが、疑う時間も無く飛んできた拳をギリギリで逸らす。

 

「お前、一体何なんだよ」

 

(4分の1だけバケモノな人間なだけよ。それ以外は貴方達と何ら変わりないはず)

 

「知らねえよバケモノとか。遠慮なくやっていいんだな?」

 

(むしろそうしないと勝てないと思う。あのジレル人、私の体を勝手に使って来てるから。今は邪魔するので精一杯)

 

 声が途切れるとまた無機質な虹彩となり攻撃が続く。遠慮なくやる様にと言われれば、元に戻す為にもどんな方法でも使うしかない。

「可能性を信じ、すべき事をする」と、メルヒは配属時に教官から教えられた。ガミラス軍人は決して諦めてはならない。私情を基準にして手段を選んでいる暇があれば、今の状況の中で最善と思える方法を躊躇なく選ぶ。

 

 

 

 メルヒも躊躇なく選ぶことにした。

 

 

 

「……ッ!?」

 

 振りかぶった拳をブラフにして横から捻じ込んだ蹴りはハルナに防がれかけたが、勢いを殺しきれずに脇腹に一撃が入る。思わず表情が歪み虹彩にもブレが走り、徐々に隙が生まれ始めている。

 

「天性の才能抜きでコレなら、才能アリなら俺死んでるな。……クッ!」

 

 ハルナの振るった拳がメルヒの頬を掠め鈍い痛みが走る。体勢を立て直そうと後ろに下がるとその瞬間にハルナは真正面に張り付きそのまま腕を取り背負って投げた。機械のように正確な動きと無尽蔵とも思える体力に一瞬狼狽えるメルヒだが、「出鱈目だから考えない方が良い」とさじを投げて素早く反撃をする。

 

 先程の一撃が良かったのだろう。ハルナの意識が徐々に出て来ている様で攻撃にブレが目立ち始め、脳に直接語り掛けるような言葉とは違い、声として言葉が漏れ始めている。

 後は畳みかけるだけ。もう一度仕掛けようと横からの蹴りを入れるが……

 

 

「クッソ離せ! ぐぁっ!」

 

 振るった片足がわき腹と片腕でがっちりと固定されてしまい身動きが取れない。間髪入れずに胸に掌底打ちを2連続で食らってしまい、ハルナの回し蹴りを肩に受けてしまい吹っ飛んだ。

 

(顔面だと絶対意識飛んでるじゃないか……ッ!)

 

 重たい一撃で一気に吹っ飛ばされたが、これでも逸らされているという事実が「本人の全力ではない」ことを嫌でも自覚させにくる。

 

 頭を振り意識をはっきりさせるとまた拳が飛んでくる。それと共にまた脳裏に言葉が響く。

 

(そう言えばまだ教えていなかったね……ッあの時どうやってメルヒ君を押さえたのか。あともう少しで解けそうだから、それでキッカケを作って……ッ)

 

「アレをか、力加減が分からんからケガさせるかもしれん」

 

(それでいいのよ。隙さえあれば操りを解けるから。メルヒ君軍人なんでしょ? だったら……ッ)

 

「可能性を信じ、すべき事をする。私情を基準にして手段を選ばない。そう教わったッ!」

 

(分かった。相手が付き出した拳に対し体を軽く右にずらして避けて、がら空きな左腕を軽く掴む。さらに相手の肘に自分の腕をひっかけて自身に飛んで来る筈だった拳を相手にお返しする。そのまま全身の力で一気に倒してしまう。これだけよ)

 

「ややこしいな……ッ!」

 

(本当は時間かけて教える筈だったけど、沢村君倒せたなら問題ないでしょ?)

 

「舐めるな……!」

 

 焚きつける積もりで言われた事は分かっているが、舐められたように感じたメルヒはむしろやる気になっていた。

 

 ハルナはまだ体の制御を取り戻し切れておらず、思った動きが出来ずにいる。兎に角狙いを反らす事に専念してはいるが、極度の集中でそろそろ頭が煮えそうだと内心焦りも見せている。

 もうなりふり構えない。多少の怪我くらいは許容範囲内だ。

 

 執拗に続けられる打撃を必死にさばきながら隙を窺う。才能抜き経験のみで動かされている以上必ず隙がある。素人がラジコンで動かしている様なものだ。決してハルナの全力ではない。

 そう思うと、目の前の脅威がそこまでのモノでもないと思えた。

 

 本来のハルナはこれ以上の脅威で誰も止められない。化け物、モンスター、怪物とありきたりな言葉で形容しても足りないくらいだろう。

 

 

 そう思えば、ハルナが振るった左ストレートを掴むのは容易かった。素早く体を右にずらして避け、がら空きになった左腕を掴む。相手の肘に自分の腕をひっかけて自身の飛んで来る筈の拳を相手の顔にお返しする。

 

「あとは……ッ!」

 

 全身の力で一気に倒し、俯せになる様にハルナを制圧する。一瞬嫌な音がしたが今は気にしない、後で気にしよう。

 

「どうだ……ッ?」

 

 2秒にも満たない動きに全てが詰め込まれ、静寂に満たされる。互いの息遣いだけが響き、それ以外が止まったままだ。

 

 暫くすると、脳ではなく耳目を叩く声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……肩外れた。痛い」

 

 揺れる炎のような緋色の虹彩に戻ったハルナは痛みに顔を歪めながら座り込み、だらりと下がった左腕をそっと支えた。

 

「すまんやり過ぎた!」

 

「ごめんちょっと支えて下さい。痛いけど戻します」

 

(この辺? この辺かな?)

 

「グゥッ……!!」

 

 詳しくもないのに無理に関節を戻し*2、激痛に体が仰け反る。古代とバーガーの男2人がかりで押さえつけても力負けする程仰け反られるが、数秒後には蹲っていた。

 

「……はぁ……はぁ……痛かったぁ」

 

 脂汗を額に浮かべながら関節を元に戻したハルナはそのままの流れで仰向けとなり、大きく息をする。落ち着くとメルヒの方を見た。

 

「結構痛かったけどそんな感じでやればいいのよ。覚えたでしょ?」

 

「ああ、実技指導でな。だが、それでもやり過ぎた事は事実だ。すまない」

 

「いいのいいの、こうでもしないと隙無かったよ」

 

「いいや謝らせろ。俺が納得しない」

 

 そうした言い合いが続いたが、頑なに「謝らせろ」と言うメルヒにハルナが根負けし、ハルナは一息ついた。これでこちらから色々聞くことが出来る。ようやく話のテーブルに着くことが出来たのだ。

 

 

 

 

「まずはネレディアの変装を解除してくれるか? そもそも、アイツは今どこだ」

 

 バーガーの問いかけにジレル人は素直に応じ、ネレディアの偽装を解除した。

 

(彼女はここにはいない。最初からこの世界には来ていない。最初から私が演じていた)

 

「何? じゃあアイツはまだランベアにいるのか……」

 

「最初から見ていたんですね。私を操って力で争わせようとしたのは、最大の脅威を私とみたからですか?」

 

(私は時間をかけて食料を浪費させて飢えに追い込み、仲間割れを誘発させて自滅させるつもりでいた。だが、貴方というイレギュラーにより想定よりもはるかに早く解かれてしまった。最終手段としてあなたの武力を利用して全滅させるつもりでいた。決して許される事ではない事は、この方法に辿り着いた時より理解している。一族として謝罪する)

 

 そう言うとジレル人は深く頭を下げた。謝罪の仕方は宇宙共通らしく、他文明からバケモノや魔女と呼ばれても、本質的には人間だということがよく分かる。

 

「1つだけ分からないことがある。俺たちを争わせて全滅させたいなら、水の供給も断てばいい。ヒントになる床のアケーリアス文字も消してしまえばいい。何故しなかった?」

 

 

 1番の疑問に古代が切り込んだ。争わせることが目的なら、最初から食料が無いように水も無くせばいい。床の文字は、余剰次元のことを知っていればエレベーターと結びついてしまう。

 

 何より、ヘレン・ケラーとガミラスの魔女の童話がなぜ置かれていたか。ハルナの考察の中心にあるのはその伝記と童話だ。最初からこんなもの置かなければいいのだ。

 数瞬話す事を考えたジレル人は、真実を伝えるべく口を開いた。

 

 

 

(それはこの船、我が始祖アケーリアスのシャンブロウが、アケーリアスの播種船であり、この船を含めた宇宙全域が実験場であるからです)

 

 ━━━━━

 

 ジレル人が伝えた真実。この世界そのものが実験場でありアケーリアスはその主。そして外の空間も丸ごと全てが実験場というのだ。

 

「全部アケーリアスの手のひらの上ってことかよ。チッ、ふざけてやがるあの文明」

 

「じゃあ、私たちはテストを受けていたってこと? 例えば、敵同士でも手を携えられるか」

 

(彼らアケーリアスは、文明発展のために数多くの遺物をこの世界に残し、同時に試練を与えた。そしてその多くが、遺産を動かす為のキーとなる)

 

 そう言うとジレル人が右手を真っ直ぐ横に伸ばすと、全ての景色が切り替わった。コンクリで出来た床が極限までに磨かれた大理石となり、見えも触れも出来なかった柱が現れ、天井すら無くなった。

 

 

(かつてこの星には多くの星の民が現れ、この星を求め、そして互いに争い死んでいった。彼らのように)

 

「彼ら?」

 

 ジレル人が指さす先にに頭を向けると、多くの白骨死体が転がっていた。白骨化しているとはいえ死体が山のように積み重なっている光景は凄惨なもので、言葉を失う。

 

 その中でもメルヒは身元を確認できないかと思い遺体の1つを確認するが、推測する必要はなかった。

 

「このマーク……こいつら全員ガトランティスです!」

 

「ガトランティスがシャンブロウを求めていたのね。理由は分からないけど、欲しい物があったから求めてたのかな」

 

(彼らの求める物がここにはある。ここに隠れ住んだ我らは、この船の権能と自らの力を使い身を守り続けてきた。外界とこの世界との繋がりを断ち切り、疑心を煽り、自滅させた。しかし、もう彼らが来てしまった)

 

 地響きが鳴り、周辺の柱に埋め込まれている結晶が白から赤に変わった。

 

「何が?!」

 

(何者かの侵入を受けた。既にこの世界は外部から攻撃を受けていて、時機に内部への侵入を許す事だろう。直ちに立ち去る事を推奨する)

 

「貴方はどうなる? 我々は帰れるが、貴方達はここに居続けるのか?」

 

(我々ではシャンブロウを動かせなかった。方法が分かっても尻込みをする毎日だった)

 

「ここにいても滅びを待つだけだ。明日を信じよう」

 

(安息の地を捨て、再び旅立つとは……我らにはできない)

 

「私達が乗るのは奇跡をもたらす方舟AAAWunder。貴方達が今乗っているのは、星巡る命の方舟シャンブロウ。方舟に乗る者同士、未来の1つや2つくらい見ないと、どっちに行けばいいのかすら分からなくなる。私は、地球と自分の未来を見て航海してきた。貴方達は、いつもと違う明日を見て進んでみたら?」

 

 ハルナには一種の親近感があった。自分を操って危うく仲間を殺そうとした事を無しに出来ない。理由があってもやってはならない事をしたのは許される事ではないが、それでも彼女は少しでも明日を見たがっている。だったら、未来を見せてもいいじゃないかと思ったのだ。

 ハルナはジレル人のように器用に幻を見せたりは出来ない。精々思っている事を覗き見したり先読みするくらいだ。でも、幻を与えるよりも未来を与えること位なら、自分でも可能だ。

 

「生き抜くためとしても、貴方のやった事を水に流すつもりはない。それでも生きたいという意思があるなら、未来を手にしたいという意思を示して。これ以上の犠牲を出さない為にも。屍の上に立ちたくないなら」

 

 何でも許せる聖人なんかではない。根は只の人間のハルナが示した譲歩と提案は、そのジレル人を大きく揺らした。地響きが響く中沈黙に包まれ、意を決したかのように声を発した。

 

 

(手を……貸してください)

 

 

 そう言うとジレル人は古代とバーガーに向かい手を差し伸べ、その手を求めた。

 進む意思を見せたジレル人のハルナが頷くと、古代とバーガーに目配せする。自分が行くべきだったが、左肩が痛くてまともに動かせない。それこそバランスさえ危ういため、古代にお願いするしかなかったのだ。

 

(方法が分かっても出来なかった。我らは風前の灯火と言える種族。それでも、火を絶やさない意思を示さなければ、我らは潰える。その一歩を、どうか)

 

 それに応じた古代とバーガーはジレル人の前に立ちそれぞれ手を貸した。

 

「そういやアンタの名前を聞いて無かった。アンタ、名は?」

 

 バーガーが名前を聞くと、ジレル人は初めて口を開き、名乗った。

 

「……レーレライ・レール」

 

 レーレライ。地球に残るローレライの言い伝えのように、その美しい声で言葉を紡いでいく。

 

 

壁のかたわらでは、わたしはおまえにひとこと話そう

わたしのいうことを聞きなさい。わたしのおしえに耳をかたむけなさい

 

 紡ぐ言葉は五線譜となり、手を繋ぐ三人を中心にして大きな円となる。

 

 

銀河に蒔かれた種。数多の種族。この地に集いて7日後

心を、1つと成せ

 

 

 五線譜上に音符を模したアケーリアス文字が浮かび上がり、音色を奏でていく。

 

 

輝く光輪に入りて、手を携えよ。

同じアケーリアスの遺伝子を持つ、銀河の同胞(はらから)

 

 

さすれば封印は解かれる。母なる、星巡る方舟よ

永き眠りより、目覚めよ

 

 

 五線譜に並ぶアケーリアス文字が眩い光を放ち、床面に掘られた文様が淡い光を取り戻していく。まるで水の波紋のようなデザインの文様は雪の結晶のように線と線で結ばれ、互いが意味を持ち持たされている。

 

 光の渦と化した五線譜が天へと昇り、天へと吸い込まれていく。同時に地響きとは異なる振動が走り始め、柱が消え、アケーリアス文字が煙のように立ち上り始める。一目で起動した事が分かり、全ての準備が始まる。

 

 

 

「私達の、明日へ。我らはジレルを絶やさぬよう、火を焼続けます」

 

 

 


 

 

 

 その言葉を聞いた僅か数秒後には、古代とバーガーたちはエントランスに立っていた。後ろには消えていた筈の出口、それぞれの通信機が受信音を響かせ始めた。

 

「少佐、内火艇との通信来ました! 外で洪水が発生しているそうです!」

 

「こっちも繋がりました。アナライザー、状況は?」

 

『天井ニ多数ノ亀裂ヲ確認シテイマス。マタ、大量ノ水ノ流入ヲ確認。至急避難ヲ。亀裂部ヨリ通常空間ヘノ脱出ガ可能ト思ワレマス』

 

「どうやら帰れるみたいだな。外に迷惑なお客がいるみたいだが」

 

「ああ。Wunderならやれる。急ごう」

 

「溺れ死ぬのはごめんだ。あああと、外で落ち合うぞ。奴らを歓迎してやろう」

 

 それからは兎に角走った。今いる建物は海岸線から離れているとはいえ海辺の基地である点は変わらない。何時水没しても可笑しくない以上急がなければならない。ハルナも痛いのを我慢して必死に走るが、その胸中は穏やかな物ではなかった。

 

 エントランスに戻される直前にレーレライから伝えられた事実は途方もなく大きく、そして自分自身にも大きく関わるものだった。

 

 

 

 _______

 

 

「惑星表面に異常確認、表面の崩壊が始まっています!」

 

 Wunder側でも惑星の異常は観測されており、全周スクリーンの戦闘艦橋でその状況はモニターされていた。その割れ目から飛び出す一つの光点。即座にタグ付けがされて「キ8型」と文字と共に強調される。

 

『Wunder、聞こえるか? こちらこうのとり、これより帰投する』

 

「古代くん……!」

 

 こうのとりからの通信が途絶えて「半日」。惑星の異常と共にやって来た通信復旧と帰還の知らせは」、戦闘艦橋の面々から歓喜の声を上げさせるには十分だ。

 リクは市川の座るコンソール席に寄ってヘッドセットを借りて装着した。

 

『リク、ただいま』

 

「お帰り。今ガトランティス艦隊様御一行が近くに来てる。出来る限りの準備と機能の実装はしたよ。古代くんは大急ぎで戦闘艦橋に上がってくれ。ハルナも頼む」

 

『あぁ……ごめん、先医務室行かないと。色々あって肩一回外れたの。無理矢理戻したから今結構腫れて痛い』

 

「肩が外れて無理に戻した」と軽く言われてリクは眉間を押さえる。だが言わないよりは全然いいと切り替えて溜息を付いた。

 

「……大方荒事をしたんだな。後でしっかり聞かせてくれ。一先ず、全員無事でよかったよ」

 

 市川にヘッドセットを帰すと真田が眉間を摘まんで解していた。明らかに厳しい事を言う時の真田だ。

 

「睦月君、そんな軽く済ませられる事ではないんだぞ?」

 

「これでいいんです。まずは生きている事が大事、後はゆっくり聞きます。そんな顔をし続けていたら眉間のしわが残ります」

 

 良いように締められて真田は唸るしかなくなったが、ハルナを一番分かっているのはリクなのでとやかく言うことを諦めた。横では作業から戻って来た赤木博士とマリが苦笑いをしていた。

 

「赤木博士……真希波君も、はぁ……」

 

 心労は大きそうだ。その心労に追い打ちをかけるようにガトランティス艦隊がやって来ている。真田は副長として指示を出した。

 

「全艦、第一種戦闘配置。こうのとり収容次第第2戦速で大気圏を離脱する。その後、ガトランティス艦隊の迎撃戦を行う」

*1
ガンダムSEEDに登場するモビルスーツ埋込み式戦術強襲機

*2
絶対にやってはいけません




メルヒ頑張ったっ!
バーガー頑張ったっ!
古代も頑張ったっ!


ハルナ頑張り過ぎ!

はい肩外れました。皆さん、肩が外れたら無闇に戻さないでください。RICEという処置がありますので皆さんは絶対に真似しないでください。ハルナが度胸凄いだけです。

さて、この辺りは原作から結構な改編をすることとなりました。メルヒのイライラが無かったしハルナの全能感が凄かったのでどうしたものか……よしこうしようで辿り着いたのがハルナ操られ状態です。

最強が最恐になりましたが、この話しは納得いく形になりました


それでは次の話でお会いしましょう
(^_^)/~~
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