宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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二の舞です。力Answerの時みたいに完成した物を置いておくのが間違いでした。
という事で、気になってしまうものは出してしまいましょう。

これで本当に休載します。

後編、お楽しみください


さらば 我が友 暫しの別れぞ 後編

「メガルーダが……ッ変異していきます!!」

 

「ダガーム……ッ何をした!?」

 

 空母打撃群として動き回っていたキスカ隊のパラカスは、光学映像で映し出されたメガルーダに目を見開いていた。

 全長はナスカ級を遥かに上回るメガルーダ。それはガミラスの科学奴隷と「第一始祖民族」の科学奴隷に作らせた異形の戦艦であり、大帝が望む計画の欠片である「神殺しの船」の複製体だ。

 途方もない程巨大な船体に据えられた神の死体の複製は、オリジナルの魂を抽出して強引に増やされた「それ」を無理矢理に詰め込まれている。

 

 だから、例え魂が一つ焼き切れても次がいる。何度も何度も防壁を張ることが出来るあの船は、力と呪いをその身に受けている。

 

 その呪いが、噴出した。何重にもかけられた呪詛を引き千切り現れた「それ」は、人型に組み込まれた「使徒」と呼ばれる神の僕を取込み、人の形を超えてしまったのだ。

 

「メガルーダに動きあり!」

 

「何!?」

 

 メガルーダ……否、メガルーダだった何かがゆっくりとこちらに首を向けると、何かが光った。

 

「っ! 総員散れッ!!」

 

 パラカスの予感は当たっていた。が、遅かった。その光はキスカ隊を宙域ごと消し飛ばし、何も残さず無に帰していった。

 

 

 ______

 

 

 

「馬鹿げてる……ッ!?」

 

 メガルーダが友軍だった艦隊に向けて放った光が全てを消し去り、戦闘艦橋から同様の声すら消え去った。

 

「目標より、高エネルギー反応!! 滅茶苦茶な反応です!?」

 

「取り舵一杯急げ!」

 

「やってますっ!!」

 

 観測機器が計測不能なほどのエネルギー反応を感知し、喚くように警報を発する。その数秒後、Wunderがいた地点を荷電粒子の洪水が疾走した。Wunderを包み込める程の直径の荷電粒子砲はシャンブロウに命中し、そこで霧散した。

 

 あの荷電粒子砲は、Wunderを飲み込むほどの直径だ。理不尽にも程度というものがあるが、人間の通りは効かないだろう。

 

「状況は?!」

 

「バーガー分艦隊の一部が消滅、ニルバレスが余波を受け中破しています!」

 

「安全圏に退避するように伝えろ。もう全部が危険地帯だけど、兎に角退いてもらう」

 

 艦体がいた場所には破片すら残らず、激烈に帯電した粒子が突っ切った事で原子が強引にイオン化され、周辺の星間物質が一斉に帯電して放電している。

 波動エンジンでも実現出来るか怪しいエネルギーが観測されたが、そのエネルギーが一体何処から湧いて出たのか。冷静に怒り続ける2人は観測データをすぐに解析にかけていた。

 

 メガルーダだった巨人に莫大なエネルギーが満ちていて、艤装部分からは火を吹いている。元第2船体の艦尾付近から煙が上がり続けているから、恐らく主機は機能停止していて巨人が勝手に動いているのだろう。

 

 なら艤装に用はない。巨人の解析記録に更にフィルターをかけていくとエネルギーの密度にムラが現れた。胸の中心に光球の様な何かが表示されていて、その部分がエネルギーを供給し続けているのだろう。

 

 どうやっているのかは今はどうでもいい。エネルギー供給元を断てばどんな物でも止まる。生物でも機械でもあんなバケモノでもだ。

 

「エネルギー反応は均一ではない。一点だけ強く反応している箇所がある。そこがエネルギーソースかもしれない。島君は死ぬ気で操艦して。1発当たれば死ぬよ」

 

 淡々と解析結果を告げながら「死ぬ気で操艦」と言われて島は、汗が滲んだ両手で操縦桿(そうじゅうかん)をさらに強く握った。と同時に淡々とし始めたあの2人が怖くなった。

 いつも笑顔を絶やさないハルナと、何時も先読みをして動くリクが、淡々とただ敵を「倒す」事を考えて行動を始めている。

 

「空間位相の微弱なズレを観測している。ATフィールドが常時薄く展開されていると思うけど、今のWunderの火力では破れない。ゼロ距離射撃なら減衰なしだから突破可能だけど、厳しい」

 

「分かった。火力は諦めてAAAWunderとしてATフィールドを展開。中和を使って破り切る。破れたらゼロ距離で全部撃ち込む。それじゃ行ってくる」

 

 何もかも2人だけで全て決めてしまい、ハルナは即座にAAAWunderにコンタクトを取る為に意識を手放す準備を進めた。

 これはマズいと思った真田と赤木博士が「危険だ」と目を見合わせ、2人を止めるためにコンソールから無理矢理引き剥がし頬を引っ叩いた。

 

 前触れもなく突然起こった事に艦橋が静まり返る。引っ叩かれたハルナとリクは、いつの間にか赤く輝いていた眼を真田に向けた。

 

「何をしているんですか? 真田さん」

 

「いい加減にしろ! 2人で何もかもする積もりか!?」

 

「放してください。あれは、あの船のエヴァは生まれてはいけない物だったんです」

 

「あのエヴァは、魂を幾度も複製して強引に押し込んだ機体です。奴らと同じ考え方をする、人の事を何とも思っていないんです、アイツら」

 

 見た事ない程険しい表情をして全周スクリーンの向こうを射殺す様に見るリクは淡々と、言葉に怒りを滲ませながら話していった。

 

 

 

 ……薫の事を何故ハルナが「元人間」と表現したのか。それは、「人間をやめさせられたから」だ。

 

 どこにでもいる筈のただの一般人だった筈なのに、ある日自身の体を弄られ、得体の知れない何かを植え付けられて、人をやめさせられた。

 SEELEは目的の為には倫理さえも足蹴にする。だから薫は人をやめさせられた。

 

 ハルナの母である薫は、イズモシリーズとして人をやめさせられた1人だったのだ。

 

 

 それを知って以降2人は「命」や「倫理」に酷く敏感となり、それを踏み越えた物を酷く敵視するようになっていた。

 

 

 

「だからアレを破壊するつもりか。たった2人で。それがこの船全てを危険にさらす事を承知でか!?」

 

「だから全部考えているんです。なるべく死なない方法で」

 

 赤木博士が拘束しているのも構わずいとも簡単振り解いたハルナは、コンソールに向かいマニュアル操作でアンノウンドライブに接続をしようとした。同時に意識をAAAWunderに繋いでATフィールドを発生させてもらおうとするが、

 

 

「全員で!!」

 

 

 古代の声でまた引き戻された。

 

「全員で背負います。これはお2人の問題ではなく、自分達とこの世界の問題だと思います」

 

「何を、言っているの?」

 

「この船がやって来た以上、エヴァンゲリオンがやって来た以上、それに触れる者が1人でもいる以上、これはどう足掻いても避けられない未来だったと思います。お2人が飛び切り優れた人だとしても、たった2人の人間で背負って変えられるような事ではないと思います! だから全員で背負います。たとえお2人がどんなに拒絶しても!」

 

 

 どんなに拒絶しようとも、今の古代は手を伸ばし続けるだろう。諦めが悪い。自分を押し通そうとする。今のリクとハルナには、それを鬱陶しく思ってしまった。

 でもそれが古代と皆の意思で、頼って欲しいと遠回しに訴えかけてきている事は、無慈悲になろうとした2人でも理解できた。

 

 人の事を人とは思っていない奴らは許せない。SEELEの所業と何ら変わらない。生きていた筈の人間を踏みにじる事を平然と行っていたであろうガトランティスは、今この場で完膚なきまでに倒してしまいたい。

 それでも「倒す」ではなく「殺す」と考えなかったのは、2人とも心の底から安堵していた。「殺す」に踏み込んでいたら、風奏のいう「何も残らなかったという結果」しか残らないだろう。

 

 だから、「殺す」に踏み込む前に引き戻してくれた古代には、感謝の念が堪えない。だからといって、これは大きすぎる。と、考える余裕がまだあった事に心の中で苦笑いをした。

 

 

「抱えるには、重すぎるよ。古代くん、人の命がかかっているから。人が人である為の願いもこもってるから」

 

「それでもです。無理矢理にでも背負わせてください。それと、この船の真実とこの世界線に何が起こって今どうなっているのか、真実を知る人達として、しっかり皆さんに伝えてください」

 

 出航時の未熟さの残る眼ではない。指揮官への階段を上り続ける信念のこもった眼を裏切る事も出来ず、2人は折れた。

 

「……分かったよ。ちゃんと伝える、隠さずに。私達と、出来れば本人と」

 

 これが終われば「レイちゃん」とミサトに会いに行こう。事情を話して皆に話をしよう。そう決めた2人は一旦冷静を取り戻した。怒っていないわけではない。暴走しない様に互いに引っ張り合ってるだけだ。

 

 

「対使徒撃滅戦用意。ATフィールド展開準備。バーガー艦隊に通信を入れてあのデカブツからギリギリまで離れて十分回避可能な距離を取る。1回の攻撃で全てを決める。相手は戦艦ではなく神に近い生物だ。容赦はするな」

 

 

 

(ミサトさん、見えてますか?)

 

(……エグい事するわね、そのガトランティス。怒るのも無理ないわ)

 

(敵のエネルギー反応は胸部に集中してます。艤装は機能してません。ATフィールド無効化を行い、間髪入れずに残存艦隊による一斉射撃を行おうと考えていますが、経験が無いので知見が欲しいです)

 

(そうねぇ……あの陽電子砲が何十門もあるから火力は心配ないのよね。そのガミラス艦隊っての? 見ていたけど4Aがおかしいだけで速度はなかなか良いのよ。ターボみたいなのがあれば腕次第で避けれる。Wunderは……わかった。AAAWunderをもう1回立ち上げる。極大に近いATフィールドがあればいいんでしょ?)

 

(なるべく強力にです。それと速度も)

 

(AAAWunderならATフィールド輪で加速出来たから、4Aの真似事でギリギリまでATフィールドで加速して残りは慣性で進んで正面に全振りすれば出来る。飛んだ大博打だけど)

 

(葛城艦長は博打好き。だから少し心配)

 

(レイちゃん?)

 

(暁一尉、SEELEが嫌い?)

 

(正直言うと大嫌い。出来れば綺麗に壊滅してて欲しい)

 

(……そう。一尉の言うように、後で会って話す。私も話したい)

 

 

(それじゃあ手筈通りに。全部終わったら、後で話しましょう)

 

 

 

「終わった?」

 

「終わったよ。Wunderが変態機動で突撃。両翼ガミラス艦隊が左右から接近。全部のヘイトをこっちで惹きつける。私の合図でAAAWunderが起動するから、全員対衝撃防御で突撃」

 

「怖いなマジで。ミサトさん何やって来た人なんだ?」

 

「広い定義でWunderの初代艦長かな。島くん準備は?」

 

「……覚悟は出来てます。バレラスの時みたいに覚醒させるんですか?」

 

 2人の行動にどうこういう事を無駄だと悟った島は、「なるようになれ」と思い操縦かんを握り直した。またAAAWunderとして覚醒させる。それは自分の制御できる領域を越えてくる可能性もある。AAAWunder時代の操舵士の話も出来れば聞いてみたいが、出来ない事を願っても無駄だ。

 

 また溜息を付いた。

 

「大正解。打開策がそこからしか無い。超加速になるから島くんでギリギリできるくらいでお願い。本物の戦闘機機動はアレをクリアした人に任せるけど」

 

 2500mの戦艦が戦闘機のような機動を取ると聞き、島はその様相を想像してみたが第一印象が「きもちわるい」だった。「変態機動」という単語が似合う動きが出来る戦艦は全宇宙を探してもいないだろう。

 

「とにかく、信じます」

 

「お願いね。バーガーさん、聞こえてますか?」

 

『最初から最後までな。正直ゾッとしたぞ。温厚なお前があそこまで怒るなんて想像も出来ねぇよ』

 

「今は冷静な方ですが、恥ずかしいところを見せました」

 

『まあいいさ。俺らの機動力を高く買ってるようだな。釣りと保証書を添えて期待に応えるさ』

 

「お願いします。では、作戦開始。AAAWunder、エンゲージ!」

 

 

 

 通信の向こう側にいたバーガー側では古代とハルナ、その横にいるリクの姿が大きく乱れ「通信途絶」と表示されていた。自分では想像も出来ない何かが始まろうとしている事に武者震いが止まらない。第666とType-nullがいたから成し遂げることが出来たアリステラの使徒討伐。

 それをType-null抜きで行おうというのだ。Wunderの規格外な性能に振り切った作戦だが、自分たちも動ける作戦である事に、バーガーは操舵輪をきつく握り直した。

 

 その瞬間、左舷に見えるWunderに変化が現れ、謎の甲高い鳴き声が響いた。ここは宇宙空間、音など響かない筈だ。

 

「どうした!?」

 

「空間そのものが震動しています! それが空気中で音に変換されているんです!」

 

 怒鳴る様に報告された通り、どのガミラス艦艇内でも同様の現象が起こっていた。甲高い鳴き声がWunderを中心にして発振され、計測機器が降り切れている。

 

 その鳴き声に気を取られていると、Wunderのアンノウンドライブが眩しく発光し艦尾に光の輪が出現し始めた。生物の骨格の様な艦尾を囲むように展開された輪は白く、複雑な位相光を撒き散らしながら存在を知らしめ、それが何重にも展開されていく。

 

 

(俺たちは一体、何と戦ったんだ……ッ!?)

 

 

 カレル163や七色星団の時とは全く雰囲気が異なる。雰囲気と表現するとまるでWunderの事を戦艦ではなく生物と捉えているようにも聞こえるが、バーガーの表現は強ち間違ってはいなかった。

 人の魂を、意思を、願いをその身に宿した戦艦。生きていると言っても過言ではない。そんな存在が、真の力を発揮しようとしている。それに震えが止まらなかった。

 だがバーガーは軍人、指揮官として命令を発し実行しなければならない。

 

 

「分艦隊右翼は俺に続け! 左翼は左側から回り込め! 出鱈目ヴンダーが奴に突破口を作る! 俺らはその傷口を思う存分抉ってやれ!」

 

 

 ____

 

 

 

 全周スクリーンが大きく乱れ、スクリーンの表示がバレラスの時と同じ表示に切り替わった。六芒星を形作るサイトマークがメガルーダをその中心に据え、それを合図に古代は作戦を実行した。

 

「慣性制御最大、突撃開始ッ!」

 

 何重も展開されたATフィールド輪を反発させ合う事で、Wunderは瞬間的に莫大な加速を得た。立体式操舵に強制的に切り替わった操舵系を島が必死に操りながら兎に角前に進む。針路上に浮かぶガトランティス艦艇の破片を轢き潰す様にして吶喊する。

 

「撃て!」

 

 波動エンジンをフルに回して得た31門のショックカノンが古代の指示で一気に発射され、相手の気をこちらに全て引き付ける。防がれるのはエアレーズングの時点で分かり切っている。脅しくらいにはなるだろう。

 

 メガルーダが撃ち込まれた方向を把握して「Wunderが数瞬までいた方向」を向いた。そのまま頭部に当たる部分が光を蓄積し始め、コンソールの観測情報が悲鳴を上げ始める。

 

「高エネルギー反応来ますっ!!」

 

 Wunderがいた地点を荷電粒子の暴風が吹き抜けていき、射線が盛大に放電を起こす。放電がWunderの観測機器の内部回路を焼き、エラー表示が噴出した。

 

「一部の観測機器に異常発生! 生きてる観測機器を耐EMモードに移行します!」

 

「……っ!? 間髪入れるな! ミサイル群1番2番、ロケットモーター点火!」

 

 古代が配置していたが止めで使えなかったミサイル群に全て点火命令を送り、一斉にメガルーダに飛び掛からせる。2方向からの攻撃をどう捌くか。古代はそれを見極めたかった。

 

 結果、ミサイルがATフィールドに着弾後、その発射地点を薙ぎ払うようにして荷電粒子砲を照射しただけだった。

 

「アイツ、目が見えていないのか?!」

 

「盲目の神、まるで北欧神話のヘズね。撃ち込まれた方向は把握できても遅い。でも知能はある様ね。二方向から撃たれればそれを薙ぎ払うようにして撃った。()()()()()()なら問題ないわね」

 

 赤木博士の推測通り、メガルーダは撃ってきた方向に向かって荷電粒子砲を発射している。だから絶えず左右に移動しながら攻撃し、尚且つ荷電粒子砲の射線がバーガー艦隊に被らないように留意しながらヘイトを稼げばよい。

 

 エアレーズングはATフィールドを展開している時は攻撃してこなかった。つまり波動防壁と同じ「非対称性の防御ではない」という事だ。もしもATフィールドが非対称性の防壁なら、メガルーダは防壁を張りながら攻撃が出来る。最強の矛と最強の盾を同時に使いながらではWunderでも成す術もないが、「そうではない」のならやりようはある。

 

 圧倒的火力と敏捷性を使い、絶えず動きながら火力を注げば敵を引き付け続けることが出来る。あとは島と古代、南部と北野の腕次第だ。

 

 だが、正面に取り付いてATフィールドを展開し始めた時はどうなるか。数秒とはいえ作戦上ではかなりの時間「静止」する事となる。中和を行えばWunderは無防備になる。あの荷電粒子砲の前には波動防壁も真正面に受ければ紙ぺら同然だろう。

 だから、思い出した。あのエアレーズングの波動砲をどう逸らしたのか。荷電粒子の水鉄砲は傾斜させればいいのだ。波動砲と荷電粒子砲には威力に天地の差がある。波動砲を反らすよりは簡単だろう。

 

「あんなヤツ如きにはこの船は負けない。だって、沢山想いを背負ってるから」

 

「ああ。新型はガトランティスも仮想敵にして考えよう。火力と知力で潰し切れるように」

 

 口の悪さはそのままだが、古代に引き留められてからは冷静になろうと努めていた。どちらかが激昂しても片方が引き止めればいいと思っていたが、2人とも激昂してしまえば止める者がいなくなる。輪っかの中に2人だけで納まっていたが、古代に大きく広げられてしまい何人も入って来てしまったのは戸惑った。

 

 でも強引に見えてしまったけど、結果的には良かったかもしれない。「知っている人」が増えるから少しは楽になれるかもしれない。その分また出来る事が増える。

 

 

(少し気は楽になりそうだ)

 

(ただメンタルがちょっと強かっただけだね、私達)

 

 

 急激な加速の中でそんなことを考えると、考え続ける暇もなくメガルーダの目視圏内に入る。

 

「目視圏に入ります! 衝突まで、t-30!」

 

「ATフィールドを艦首に位相ズレ極大で集中展開をっ!」

 

(了解。ATフィールド全開……っ!)

 

 

〈AT field Full power deployment〉

Transition to phase space maximum

 

 光すら拒絶する強力なATフィールドが正面に発生し、可視光の一部までも拒絶されて通過する光で青みを帯びる。それがWunderの真正面にノーズコーンの様に展開された。

 

「衝突まで、t-5、4、3、2、衝撃に備えェ!!」

 

 空間が大きく揺れ、巨大なガラスを叩いたような音が響き渡る。空間が軋む音不快極まりない音が響き、フィールドの狭間では激烈な圧力により、得体の知れないエネルギーも生まれていた。

 

 

「取り付いたァッ!!」

 

 

 双方のATフィールドが軋みを上げ始めるが、可視光にすら影響を与えたAAAWunderのATフィールドが押し勝ち、メガルーダのATフィールドを一方的に中和していく。

 

(あの使徒に比べれば、ずっと弱い……っ!)

 

「位相ズレに変動あり、位相空間が中和され、空間位相が平衡化していきます!」

 

「いいえ、侵食しているのよ」

 

 その次の瞬間には、WunderのATフィールドがメガルーダのATフィールドを侵食し突き破りそのまま衝角の様にメガルーダに深々と突き刺さり、慣性制御でも殺しきれない激震が艦内を走った。

 流石の規模。先の尖った巨大な鉄柱が体に突き刺さるようなもので、メガルーダは悶え苦しむように体を仰け反らせた。

 

 

「目標に高エネルギー反応を確認! 直撃コースです!」

 

「総員衝撃に備えェ!!」

 

 叫ぶように全艦に命じ全員がコンソールに掴まり、2人も咄嗟に手時かなコンソールに掴まった。その瞬間メガルーダの頭部から膨大な光が放たれ、全周スクリーンがホワイドアウトした。

 

 

 

「コダイッ!?」

 

 荷電粒子の洪水に包まれたWunderをみて、バーガーは思わず声を上げた。が、何かがおかしい。Wunderを貫き抉り飛ばしている筈の荷電粒子が跳弾している様に見える。全艦がゲシュ=タム・コンプレッサので対艦雷撃戦用加速を続ける中で、それは確かに見えていた。

 

 波動防壁……ゲシュ=タム・フィールドとはまた異なる何かが張られていた。唯一思い当たるのは、Type-nullのアリステラでの戦闘後で聞かされた「防壁」だ。

 

「いいか! 奴の防壁は消えた! 大盤振る舞いだ景気よくぶち込め!」

 

 バーガーの命令で両翼から急速接近を続けていた全艦が慣性航法に切り替え一斉に艦首をメガルーダに向けた。バーガー艦隊残存艦艇数6隻。ガトランティス艦隊との撃ち合いで傷ついているが士気はまだ尽きていない。陽電子ビーム、艦対艦ミサイル。魚雷。持てる武装の全てを叩きこみ全長1500mのメガルーダに傷を負わせていく。

 

 その頭上を、6機のドルシーラとそれを取り巻くデバッケが飛び越えていき、さらに後続で補給を終えたツヴァルケが、待機していたコスモファルコン、改2号機、ゼロ改2号機も突入していく。

 

 

「ドルシーラ?! ネレディアか?!」

 

『予備機を引っ張り出した。デバッケは賑やかしくらいにしかならないだろう』

 

「いるといないとじゃ大違いだ!」

 

 ドルシーラがFi97型魚雷を叩きこみ、大きく抉れた傷跡を各機が機首をメガルーダに向けて機銃や機関砲を、ミサイルを叩きこみ傷口に塩を塗る。いや、もはや塩どころではないだろう。傷口を剣山で更に抉る様なものだろう。使徒であるならば再生自体は容易。無尽蔵のエネルギーで再生と強化を繰り返すなら、再生させる暇を与えずに攻撃をし続ければいい。幸いここにはそれが出来るだけの威力の武器と頭数がある。

 

 

「ゼロ距離でいい! 撃ち方始め!」

 

 AAAWunderも主砲を撃ち込み始め、砲塔の数に物を言わせた間髪入れない射撃により陽電子の奔流はメガルーダを貫通し、AAAWunderはその勢いで上半身と下半身を泣き別れにした。

 

「えげつねぇ……ッ!? 総員散れ!」

 

 自由になった半身が動きを止めると誰が考えたか。頭をグリンと無理矢理向けると荷電粒子の暴風がニルバレスと他数隻を飲み込み、余波だけで艦隊全体が煽られて統率が大きく崩された。

 

「ニルバレスが沈んだ!? 状況立て直せ! 一旦引け!」

 

『ダメだ、ここで仕留める! 全員で絶え間なく攻撃をしてくれ!』

 

 その瞬間、ミサイルと共に突入を敢行するAAAWunderが視界に移り、バーガーは大急ぎで艦首をメガルーダに向けようとした。再び現れた何重ものATフィールド輪を反発させて莫大な加速を生み、AAAWunderがメガルーダに吶喊していく。

 

「ああもう! 生き残ったやつは魚雷で奴を痛めつけろ! 出鱈目ヴンダーがぶちかますぞ!」

 

 バーガーも分かってはいた。ここで仕留めなければ身体を再生して復活、万全の状態に戻り振出しに戻ってしまう。だからアリステラ星系では「一時撤退」の文字も持たなかった。撤退するくらいなら殺し切れるまで殺す。隙を与えればこんがり焼かれると思え。第7戦闘団でアリステラで肉薄を仕掛ける時によく言った言葉だ。

 

 AAAWunderでは、最後の一撃を与えるために吶喊を仕掛けていた。出鱈目じみた加速から間髪入れないミサイル斉射。ミサイルの在庫もそろそろ底が見え始めた。艦体の全長の割にはミサイルのサイズが小さいため大量に搭載できていたが、この戦いで底が見える程発射してきた。数は100は下らないだろう。

 

 艦内工場があるから、ミサイルなんて物は後で生産すればいい。でも今までもこれからも命は戻らない。そうならない為にも、この一撃で終わらせなければならない。

 

 波動砲で何度も作った重力バレル。艦を中心にした相対座標に固定したそのバレルを通す形で、残ったショックカノンとホーミングをぶち込む。

 

 あのゼルグートの正面装甲を破った収束ショックカノン。如何にATフィールドと言えど、こんな物を接射されてはひとたまりもないだろう。

 

「全砲門! 撃っ!?」

 

 気付かなかった。メガルーダの腕が変異し、帯のようになっていたことに。その一瞬で、その帯がAAAWunderを掠め後方のケルカピア級とミランガルを切り裂いていた。

 遅れ、爆発。ケルカピア級が艦橋ごと切り飛ばされ、ミランガルは砲戦甲板からアングルドデッキ付近まで大きな溝を彫られ大爆発を上げた。エンジンは無事だろうが、これで残っていた火力の半分以上を一気に失った。

 

「バーガーッ!?」

 

『構うなッ!! やっちまえコダイィ!!!』

 

 通信に激しい雑音が混じり危険な状態と窺える(うかがえる)が、バーガーの大声はそれを払拭する程のものだ。再び六芒星を形作るサイトマーク越しにメガルーダを射抜くように睨む。

 

 後は発射指示を、ゼロ距離で行うだけだ。

 

「全砲門!!」

 

 重力バレルがメガルーダのATフィールドに激突する。

 

「撃てぇェ!!!」

 

 一斉に陽電子の束が放たれ、収束。万物を貫き通す光の槍となり、メガルーダに命中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、AAAWunderは、その光の槍で使徒を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 輝く十字の光、莫大なエネルギー輻射。突風に煽られる鳥の様に周辺の艦は制御を失い、メガルーダだった物は跡形もなく消え去っていた。

 

「ヴンダーは……どこ行った……探せっ! 生きてるセンサー回せ!」

 

 重症に近いミランガルが観測機器を回し爆心地点の観測を始める。爆心地点からはあらゆる波長の放射線が飛び散りノイズが酷く、結果も結果と呼べない程のボロボロなデータしか取得できない。

 

「どこだ……どこ行きやがった……」

 

「外部観測カメラに巨大物確認!」

 

「それだ! 出せ!」

 

 

 正面モニターに映し出された爆炎を背にし、アンノウンドライブを輝かせ、儚い光玉を纏った戦艦がそこにいた。アレが何なのか、バーガーは把握する術を持たない。が、ハルナにはそれが何なのか分かっていた。

 

 戦闘艦橋、景色の晴れた全周スクリーンに映る光玉に手を伸ばし、ハルナは一筋の涙を流していた。

 

 

(こんな世界で、こんな事をさせられて……せめて、どうか眠りに……)

 

 

 メガルーダのエヴァに無理やり詰め込まれていた魂たち。何もかもに絶望し「向ける相手のない殺意」すら抱いた魂は、今こうして解放され、アンノウンドライブに触れて消えていく。

 

 AAAWunder航海艦橋、少女の周囲を飛び回る光玉の群れは、少女の掌に降り立ち、そのまま少女と1つに吸い込まれていく。

 

「寂しいと苦しいは、もう必要ないと思う。だから、一緒に帰ろう。新しい地球に」

 

 あれは自分、あり得た可能性の先にいる自分。まっさらな心が「絶望」に染まった「もしも」の自分だ。

 

 アドバンスドアヤナミシリーズの姉妹たち。不運……という言葉で片づけてはいけないが、互いに互いを絶望に染めてしまった姉妹たちを、少女は見捨てる事が出来なかった。

 あの姉妹たちと同じように自分もなってしまう可能性も有り得たと言い聞かせながら、少女はその魂を慰め、揺り籠に納めていく。

 

 姉妹、正確にはクローンだが、それでも少女は姉妹と呼んだ。他人事ではない。自分も誰かの目的の為に作られたクローンだ。部品だ。代わりがいる。でも、今は「私達」ではなく「姉妹」と呼んでいる。姉妹なら、自分が今の長女だ。

 

 もう泣かないで。私が、私がいるから。

 

 アディショナルから170年、西暦2199年。13の魂達は、長女の元で静かに眠りについた。

 

 

 ___

 

 

 

 メガルーダが消滅し、魂が解放され、静寂が訪れた。展開していたガトランティス艦隊は指揮官を失い撤退を始め、レーダー上では戦域跡を離脱するガトランティス艦が表示されていた。

 

「ガトランティス艦隊、撤退していきます」

 

「AAAWunderも元に戻ったか……トラフィックは?」

 

『異常トラフィックハ、認メラレマセン。コレハ、モハヤ私ノ様ナ機械デハ理解をスル事ガデキマセン』

 

 AAAWunderが既に解除され、真田はその痕跡を追えないかと考えたが、結局痕跡一つ残っていなかった。

 

「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない」という言葉が、アーサー・C・クラークというSF作家によって残されている。イスカンダルのコスモリバースシステム、アケーリアスのシャンブロウ、ガトランティスのメガルーダ。どれも通常科学では説明がつかない事象とセットで存在している。

 

 だが、AAAWunderだけは違った。人の願いを、魂を、未来を乗せ、ルールすら覆すジョーカーの様な存在だ。キッカケは何であれ、思いと力を双方備えた神殺しの船。この世界に存在している事自体が有り得ないのだ。

 

 

「格納庫ハッチ開け。全艦載機を収容する」

 

 艦載機格納庫のハッチを開放し、コスモファルコン、改2号機、ゼロ改2号機の収容が始める。ツヴァルケやドルシーラ、デバッケも無事な空母群に着艦していく。ニルバレスが墜ち、ミランガルが甲板に大きな溝を彫った結果機体受入が出来ないが、広々とした飛行甲板を持つガイペロン級がいた事で問題なく受け入れを進めていく。

 

 バーガー艦隊も残存艦艇を集めて帰還の準備を進めていく。ミランガルは相当なダメージを負ったが航行自体は可能。付近の星系の基地に降りて応急修復を行い、そのまま護衛艦隊を借りてのんびりと帰還するそうだ。

 

 それを続けていると、また別の所でも準備が始まった。周囲の景色がまるで天幕の用の上がり始め、銀色の骨格で形作られた構造物が出現し、まるで骨組みだけの飛行船のような巨大な何かとなった。

 

 メガストラクチャーと言われるそれは、Wunderの全長を遥かに超える巨大な()()だ。これが、恒星間航行播種船「シャンブロウ」の全貌。アケーリアスが残した、「星巡る方舟」。この船を駆り、アケーリアスは宇宙の隅々にまで生命の種を蒔き、今この船を借り、その末裔が旅立とうとしているのだ。

 

 だがその姿を見せたのは数分だけ。景色が揺らめき始め、シャンブロウは姿を隠していく。

 

「消えていくぞ……あんな馬鹿デカいものが」

 

「真田さん?」

 

「あれ程の質量を遮蔽できるとは、まさにオーバーテクノロジーだ」

 

 やがてその姿は完全に消え、光輪のみが存在を主張し始めた。主張したかと思えば、光輪は光点になるまで一瞬で縮小し、そのまま何処かにワープしていった。

 

 当てのない旅は恐怖もあるかもしれない。それでも、留まって滅びを待つよりかは全然いい。

 

 まだ見ぬ、明日という行き先へ。

 

 

 ____

 

 

 

「全艦載機収容完了、波動エンジンには異常なし。古代くん、帰ろっか」

 

「はい!」

 

 別れの挨拶は済んだ。まだまだ話したい事はあるが互いに行き先がある身、帰り道に付かないといけない。名残惜しいが発進の指示を出そうとすると、艦内放送で音楽が流れ始めた。

 

 

 さらばさらば わが友 しばしの別れぞ 今は

 

 

 古い地球の歌だ。それも音質が荒く、データではなくまるで「レコード盤から流している様な音楽」だ。皆この音楽に不思議そうな顔をしたが、古代だけはピンと来た。沖田艦長が自分に聞かせてくれたあのドイツの民謡だ。

 

 さらにこの曲はバーガー艦隊にも通信で流されていて、歌詞は分からないが、意味だけは何となく分かった。

 

 

「別れも悪くない……か。さぁ帰るぞ!」

 

 

(さらば さらば 我が友)

 

 

「Wunder。地球に向けて、発進!」

 

 

(しばしの別れぞ 今は)

 

 

 片方は大マゼラン星雲へ、片方は天の川銀河へ針路を取り進んでいく。またの再会を誓い、両者は互いの帰り道を辿り始める。

 その先に、明日がある事を信じ、願い、その明日を見たいがために。

 

 

 




メガルーダ罰当たり使徒ルーダです

はい、これで第9章の本編が終了となります。休載が開けたら、第9章の救済回でも作ろうと思います。そうです、例の少女のお話です。

ここまで長かった……実に2年が経過しました。連載開始時は高校卒業間近、今は専門2年(もうすぐ3年)。早い物ですね。
最終章の冒頭はラストらしい形式の冒頭になったので、是非楽しみにしてもらえると嬉しいです。

折角なので、エヴァ風の次回予告をして休載に入ろうと思います。



天の川銀河に向けて航行するWunder、それを待ち受けていたのは1隻の神殺しの船

互いに殺し合った彼女らは、また戦う事となってしまった

完全起動したAAAWunder 再び動き出した戦闘艦橋

その艦長席に立ったのは、1人の艦長と、副長、そして……!

次回 「終章 Reise zu einem Wunder」
さーて次回も、サービスサービス!
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