宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
休載とは言いましたが、こんな話をそのまま置いておいたら気になって何も出来ないじゃないかという事で、皆さん「休載詐欺してごめんなさい」。
AAAWunder回、始まります
「行くよ?」
「お願い。佐渡先生、あとお願いします」
「体の事は見ておく。終わったら検査じゃぞ?」
「うう、また検査……」
「前は暁くん意味不明な状態じゃったが、今回は一声かけてくれたから準備できたぞ。ほれ、これ付けて脳波測るぞ」
そう言って佐渡が渡したのは内部に電極が配置されたヘルメット。イスカンダルで検査した時に着けたものと同じものだった。
「お2人さん、ヤバいと思ったら直ぐに戻ること。SAO事件をリアルで再現はして欲しくないにゃ」
「あのヘッドギアのアニメですか。……正直言って、ハルナの能力には未解明な部分が多いんです。だから正直不安です」
マリの言う通り帰って来れない状況だけは何としても避けないといけない。今回は向こうからの接触ではなくこちらから出向く以上、ハルナの力に頼るしかない。
意思を拾い、飛ばす。何を媒介にして行っているのかすら分からない不可思議な力は、ハルナの1秒とも絶えない努力と精神力で安定を続けている。だがそれは平常時であるからで、いつもと異なる状況下では行使のリスクが高く、制御下を離れる可能性も、突然止まってしまう可能性もある。
不安定な物に頼る以上、一同の不安は拭えなかった。
「でも、僕はその能力を信頼している訳じゃなくて、信頼してるのはハルナの方なんです。ハルナ、僕をあの空間へ連れてって欲しい。ハルナが見たAAAWunderへ」
その願いを自身の耳と意識で聞いたハルナは、固く結ばれた手を再度握ると空いた片手を自身の胸に当てた。
「任せて。必ず連れて行って、必ず元に帰すから」
「それじゃあ、行くよ」
「うん」
同調している意識でカウントを刻み、ハルナはリクの意識を自身と繋いだ。あの時の感覚と同じ、全ての光と音が無くなり無になっていく。シンクロが出来るのは今の所リクしかおらず、どの道連れて行けるのはリクのみ。他の人物の事は最初から考えていない。
理由として、高深度シンクロに耐えられる人がいない可能性が非常に高いからだ。人間の、それも大人の自我境界線は固い。それに対してアプローチを行うとなると、ハルナ自身は壊れないが相手が壊れてしまう。マリが履修した形而上生物学に基づいても、相手の心を侵してしまい廃人にしてしまう可能性がある。
だが長年連れ添って信頼を置いている相手ならば、それも互いが互いの拠り所であるならば話は変わってくる。例えるなら、「心に同規格のケーブルソケットが設けられている」様な状態である為、「互いをコードで繋ぐような状態」、つまりシンクロに適応できる。
2人分の情報がハルナの頭を回り、少し大きな負荷が襲う。それでも問題ないと判断したハルナはリクの意識を連れてAAAWunderに向かった。眠っている様なリクの意識は触れるだけで安心して、鎮痛剤のように負荷が緩くなっていく。
気付いた時には、2人は航海艦橋で仰向けになっていた
「20分……いや、15分も持たないかな」
リクの意識を中継している以上負荷も大きく、頭痛とまではいかないが若干の頭の重さを覚えた。まだ未知数な力であるため無理は出来ない。ここは安全第一で短く見積もっておく。
「分かった。手早く行こう。それにしても……よく似てるな」
Wunderと瓜二つだが細部が異なるAAAWunderの航海艦橋。やはり違いに気づいたリクはコンソールと座席をまじまじと見つめる。
「そこまで気になるのね。貴方も」
そんなリクに声をかけた人物がいた。初代艦長、葛城ミサト。そして後ろに付き従っている少女、レイ。
「貴方が、葛城艦長ですか?」
「ミサトで良いわ。それでコッチが」
「綾波レイ」
極めて簡潔に自己紹介をする長髪の少女、レイ。無機質で素っ気ない様子に見えるが、どこかソワソワしているようにも見える。否、隠そうとしていないのか、ソワソワしている雰囲気がダダ漏れになっている。
「初めまして、僕は睦月リク。それでコッチが」
「暁ハルナ一尉。もう知っている」
「もう知っているのね、私の事」
「ある程度は。私と暁一尉は、似ていたから」
気付かない程柔らかく笑みを浮かべるレイは、リクに向き一度会釈するとまた正面を向いた。
_______
「レイちゃん、色々話しておきたい事があるけど、あんまり時間も無いの。だから、幾つか抜粋して質問するから、嫌じゃない範囲で教えて欲しいの。いい?」
「ええ」
レイはこくんと頷くと、適当な補助座席に座った。
「私達の見立てでは、ATフィールドを使うにはエヴァンゲリオンがいないと出来ないと考えていたの。それなのに、AAAWunderはエヴァンゲリオン無しで発生させた。それは、フィールド発生にはエヴァが重要ではないって事になるけど、少なくとも、アダムスの体と魂さえあれば、発動は可能なの?」
「違う。魂は何でもいいわけじゃない。それに、魂だけではどうにもならない。だから器が必要。今の器は暁一尉が言うアダムス組織であっている。でも、魂は私。私が発生を促しているとは違う。リリスの魂の私が、器を通して発生させているだけ」
2人は勘違いをしていた。今まで発生したATフィールドは、全てレイが発生を促したものだと思っていた。つまり、レイが働きかける事でアダムス組織から発せられていた物ではなく、全てレイ自身がアダムス組織を通した発生させていた物だ。
この時点で、リクとハルナはレイという少女が普通ではない事に気が付いている。今まで仕組みも知らずに頼んでいた事に、2人は申し訳なくなった。
「えっと、ごめんね。今まであなたが発生させている事に気が付かなくて……えっと、身体とか大丈夫だったの?」
「私に身体はない。魂だけだから。でも、助ける事が出来てよかった。使徒に比べれば、まだいい方」
遠回しに「何ともない」と伝えられ、その意図を何とか理解できた2人は安堵した。
「あのメガルーダのエヴァにレイちゃんのコピーが詰め込まれていると言っていたけど、レイちゃんは……その……」
「?」
「その……ごめん、とても聞きにくいけど……レイちゃんは、その、
可能性としては存在していた。「レイクローン」が実際にガトランティス側に存在していたことと、当の本人が平然として答えていたことを含めて考えてみると、レイもクローンである可能性が浮上してきたのだ。
それでもクローンと言いたくなかった。だから「最初の」と濁した。これで精一杯の抵抗だった。
倫理観に反する事を忌避する様になった以上、聞く事だけでも怖かった。もしそうだとしたら、聞いた自分はどうなってしまうのか。レイを嫌悪する様になってしまうのか。それだけが怖かった。
「私は、クローンとして生まれた綾波シリーズの初期型ロットの2人目。オリジナル綾波レイのコピー。リリスを魂とした、血を流さない人間」
帰ってきた答えは残酷な物だった。それも、「綾波シリーズ」という呼称まで持って何体も生み出されていた。
「アヤナミシリーズ……やはり、何人もいたのかい?」
その問いにレイは静かに首肯した。
「生み出された私達はダミープラグというエヴァの制御装置として運用された。エアレーズングのMark10のように」
「そんなっ……人間を部品にするとか、向こうも向こうで何を考えてんだよ……!」
ガトランティスもSEELEも倫理を無視してあんな産物を生み出し、AAAWunderの生まれた世界でも同様の事が行われていた。向ける相手もいない怒りを何とか抑え込み、冷静であろうとする。
「私達は元々、NERVとSEELEの進める人類補完計画遂行のための道具として生まれた。だから、エヴァの制御装置として都合が良かったと……思」
「そんな理由でやって良い事じゃない!!」
「……っ!?」
「人間をそんな部品みたいにしてはいけないんだよっ!」
突然のリクの大声にレイが思わず言葉を失い、リクから目を離せなくなる。
どんな方法であれ、この世に生を受けた以上命は命。人は人。一個人である。それを大量に生み出しては使い捨てにする。それにどうしようもなく憤りを覚え、吐き出された。
ガトランティス、SEELE、NERV。やっている事が同等過ぎて、もう我慢の限界だったのだ。
「まだ君の事はよく知らない。それでも、例え君と同じ見た目の人が何百人ここにいても君は……綾波レイは綾波レイ、君は君しかいない」
「私は、私……」
「他の人間が成り代わろうとしても、決して君にはなれない。君が感じた事は、決して誰にも真似できない。今だってそうだ、僕達がこう話して、君が聞いて、君が思う事は、君しか持てないものだ」
リクの勢いに押されてレイは、一瞬だけ幻を見た。黒い髪の自分と同じくらいの少年。名前を思い出す事は簡単だったが、思い出したときにはもう消えていた。
「そうよ。変わりがいる人間なんていてはいけない。それに、こうして私たちと話しているのもあなたがそうしたいと思ったからじゃないの? その意思はあなたが持ったあなただけの物、もう『代わりがいる』なんて言えない」
代わりなんていない。貴方は貴方。どこか懐かしいと思ったその言葉を反芻する。真っ先に思い出したのは「ニアサードインパクト」だった。使徒に取り込まれた自分、それを救い出してくれた彼の事を。
(いいの、碇くん。私が消えても代わりはいるから)
(違う! 綾波は綾波しかいない!!)
「……っ!」
(だから今!! 助けるっ!!!)
何度も思い出していた彼の声が響き、ふと彼の温かさを感じる。目の前に彼がいる様に見えたがただの幻だった。もう100年以上も前に彼は、インパクトで消えてしまっている。
頬を1粒の水滴が伝う。伝う感触を不思議に思い頬に触れると、掌の上に雫が乗っていた。
「これは……涙? 泣いてるのは、私? 何故、私は、泣いてるの?」
涙は知っている。悲しいから目から流れるもので、生理現象の1つだ。でも、今は悲しくない、寧ろ嬉しい。なら、何故今、泣いている。
「……私、嬉しいから、泣いているの?」
嬉しいから泣いた事なんて無い。ましてや泣いた事すらない。でも、あの時の彼は嬉しくて泣いていた。代わりがいると思っていたころの自分に対して、微笑み、涙を流しながら、手を差し伸べてくれた。
使徒に取り込まれ、「ここでしか生きられない」と答えた自分に対し、彼は「助ける」と私に思いをぶつけてきた。初めて会った人にも、「君は君しかいない」と言われた。彼が言った事と同じ意味の言葉を。
「碇君も言ってくれた。私は、私しか、いないって」
顔が熱い。目元が熱い。体が震える。初めての感覚にどうすればいいのか分からず、全く対応できない。
もう、耐えられなかった。
「会い……たいよ、いかりくん……っ!」
溢れ出る感情の制御が追い付かず、泣き崩れた。すぐにハルナとリクが支えるが、泣き方すら知らなかった彼女は蛇口が壊れたかのように大粒の涙を流しはじめた。零したくないと思ってしまい下を向き両手で涙を受け止めるが、涙は目元を抑える両手を濡らし、伝って、零れ落ちていく。
「いかり、くん……私は、私、だってっ……。碇くんが、言って、くれた事、とても……正しかった……!」
代わりがいると思い続け、代わりがいると言われ続けた自分を壊してくれたのは、1人の少年と2人の大人だった。
長く長く伸びた髪が消え始め、彼がいた時のショートカットに戻っていく。永遠にも思える時間で想った少年はもう戻らない。それでも彼の残した遺志は残り続け、その遺志を2人の大人が後押しし、彼女の意思となった。
(碇君、教えて。こんな時、どんな顔をすればいいのか……私に、また教えて)
心に残り続ける彼は微笑み続け、何も声を発しなかった。それでも、彼が何を伝えんとしたかをレイは理解した。
(碇君、ありがとう)
「大丈夫? 凄い泣いてるけど……」
「暁一尉……こんな時、どんな顔をすればいいか、碇君がまた教えてくれた」
「どんな顔?」
「……こんな顔」
そう言い、レイはずっと下げていた顔を上げて真っ直ぐにハルナとリクの顔を見る。
(笑えば、良いと思うよ)
泣き腫らした目でレイは……綾波レイは、あのときの笑顔を、優しく浮かべていた。
「ごめんなさい。泣いた事は、今まで無かったから」
「レイちゃん。シンジ君って、どういう子だったか教えてくれないか?」
目元を腫らしたままレイは首肯し、ぽつぽつと話し始めた。
「優しい人。お味噌汁を飲ませてくれた人。お弁当をくれた人。心配してくれた人。私を、助けてくれた人。……好きを、教えてくれた、人」
「好きを、か。大事な人なんだね」
泣き疲れたレイはこくんと頷くとハルナにもたれかかった。ぼんやりとした顔で短くなった髪を指先で弄り始める。いつの間にか懐かれているが、ハルナは優しく頭を撫でている。
「レイ? あなたそんなキャラだっけ?」
「ここが落ち着く。ここにいても、いい?」
「いいよいいよ。何か年の離れた妹みたい」
「……私とあなたは似ているけど、血は繋がっていない筈」
「たとえ話だよ、目も赤いし親近感が湧くのよ。Wunderの乗員はほとんど地球出身者だから、赤目が特徴の火星出身者は3人しかいないの」
すっかり短くなった髪を撫でると、ほんの少しだけ、よく見ないと分からない位に頬を染めて俯いた。内心は穏やかではなく、第3村にいたもう1人の記憶をなぞりながら、今感じている感情に戸惑いながら噛み締めていた。
(これが、照れる。これが……恥ずかしい。6……私の姉妹……第3村で過ごした私の姉妹が感じた事と、同じ)
「レイちゃん……って呼んでもいいかな?」
頷いたのを見てリクは話を続けた。
「知っているかは分からないんだけど、シンジ君はこの世界にも生きている」
「碇君が生きているの……!?」
「生きている」の言葉を聞き、レイは思わず前のめりになり聞いた。
「マリさんが半年前に確認したっきりだけど生きていると思う。Wunderはコスモリバースシステムをもって地球を救い全人類を救う。全人類を救うという事は、シンジ君を助ける事にも繋がるんじゃないかと思う」
「人類を、救う……睦月一尉」
「どうした?」
「私は、NERVの零号機パイロットとして使徒を倒して人類を守った。この方法でも守れるの? 人類と、碇君の居場所を」
「守れるし、救える。人類を未来に繋げる為に、僕らはWunderを作った……いや、再び飛べるようにしたんだ」
「作った」ではなく「再び飛べるようにした」。AAAWunderは、真に命を救う戦闘艦としてインパクトを止めるために戦った。それは道半ばで途絶えてしまったが、出会いは何であれば、またこうして人類を救う力を得た。
真実を知った以上、これは「建造」ではなく「修復」と呼べるだろう。AAAWunderは沈没……「死ななかった」。だからここに来ることが出来て再び力を得ることが出来たのだろう。
「睦月一尉。世界の為じゃなくて碇君の為に動くのは、変?」
「皆が皆、世界の為全人類の為だと思ってるわけじゃない。家族の為だとか、未来の為だとか。理由なんてみんなそれぞれだ。でも、結局のところは向いてる方向は一緒なんだ。皆地球を救いたい。因みに僕はハルナとの生活と未来の為だ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ恥ずかしいそれは言っちゃだめでしょ!?」
「いい例じゃないか。少なくとも、乗組員の中でも一番単純で分かりやすい理由だ」
あっけらかんとした様子のリクと顔を真っ赤にして綾波の耳を塞ごうとしているハルナ。真反対の勢いに綾波は思わず笑みを浮かべてしまった。
(とても賑やか)
「睦月一尉、私は……碇君の生きる世界を、救う。私は、何も出来なかったで、また終わりたくない」
「ありがとう。君の意思が聞けて、本当に良かったよ」
____
「もう時間も無いから、最期に聞いておきたい事があるの。私とレイちゃんが似ているって言ってたけど、私の中から、その……「リリス」の雰囲気はある?」
「……いる。私のとは少し違うけど、リリスと言って良いと思う。でもなぜ? リリンはリリスの子だから限りなくリリスが薄くなっていると思うけど、暁一尉からは、凄く濃く感じる。でも、他の人、睦月一尉からリリスは少しも感じない」
自分の認識と今までの常識大きく異なる事に綾波は首を傾げると、リクが補足を入れた。
「この世界の人類は第一始祖民族ではなく、アケーリアス文明という神に近い文明がやった「人類種の種蒔き」で生まれている。もしかしたら、「リリスが人類種を蒔く隙」が無かったと思う」
「……そっか。時間かかったけど、分かったよ。お母さん」
(ただ1種族だけ、アケーリアスに匹敵する速度で進化を進め、アケーリアスに歯向かう事が出来た種族が存在した。彼らは自らに似せた人造の神を生み出し、偽りの神々に知恵の実と生命の実のどちらかを与え、命を撒いていた。アケーリアスの播種に憧れた彼らは第一始祖民族と名を持ち、アケーリアスに戦いを挑んだ)
(あなたから、彼らの作った何かと同じものを感じます)
レーレライがあの時にハルナに伝えた何かがずっと頭に引っかかっていた。
薫に植え付けられた得体の知れない何か。もしもそれがハルナに遺伝していたら、そこを探れば正体を知る事が出来れば、SEELEは何をしようとしていたのかが分かるかもしれない。
そこで現れたリリス。地球にやって来たリリスは、先客のお陰で「種蒔き」が出来なかったのだろう。だから休眠にでも入り、人類に見つかり、綾波が生まれた理由と同じような理由で薫が人をやめさせられたのだろう。
あの時薫が植え付けられたのは「リリスの何か」。遺伝子か肉片かはまだ分からないが、この時点で人類以外の何かを植え付けられる事で人をやめ、ハルナの力の「元となる能力」を得たのだろう。
「そっか……私は、この世界の定義じゃ、人間とは……」
「そんな訳ないだろ!」
「でも、それは、そんなに簡単な話じゃ……だって、4分の1だけバケモノだよ。私」
「人間かどうかは今は関係ない! 僕が好きなのはハルナで、それはどんな理由があっても変わらない。たとえハルナが人以外の何かになってもだ。真田さんや赤木博士、マリさんアスカちゃんとなら、もっと他の事も分かるかもしれない。だから、人じゃないって悲しむより、前を向いていこう。今までもいろんな事をどうにかしてきた。Wunderの事も地球の未来の事もだ。だから、これもどうにかしよう」
「そんなに簡単じゃないと思うよ? でも、こうやって分かったのって、悲しい事ばっかりじゃないよ。何で意思だけで会話できたのか、何でお母さんがああなってしまったのか、私がどういう存在なのか。だから、私がどうなっても、受け入れて欲しいな」
「……当たり前じゃないか、何を頼み込んでるんだよ」
「保険だよ」
「そんなものいらないだろ」
そう言うと、リクはハルナをきつく抱きしめた。少し息苦しく感じたが、リクの意思の大きさを感じ取り、今だけ制御を緩めた。リクと1つになるような奇妙な感覚の中で、ハルナは少しだけ先の未来を見た。
自分と、リクと……誰だろう、子供? 髪が真っ白だ。多分、この子は自分の子だ。出来れば娘がいいな。
ああ、これは2人で思い描いた未来だ。でもそれは、まだ自分が人間じゃない事に気付いていない時に思い描いたものだ。今となっては、ちゃんとした生活を送れるかすら怪しく感じる。
それでも、その未来は霞んでいない。霞んでいる様に見えない。それは、リクがその未来を見続けているからだ。この感覚の中なら、分かる。
「ねぇ、リク。私に、未来を見せて欲しいな」
「見せるより、一緒に作ってしまおう。出来れば思い描いてたよりもっといい方向で」
「よかった、不束者ですが、人外のお嫁さんをよろしくね」
「人外言うな。どうなっても、ハルナはハルナだ」
でも、まだ怖い。今は我慢しているが、これ以上知れば近く壊れてしまうだろう。それでも、知るべきと思った。
「ねぇレイちゃん、私がこの世界上での定義で人じゃないなら、どこまで人じゃないの?」
難しい質問が飛んできて、レイは数秒考えるそぶりを見せると話し始めた。
「少しだけだと思う。暁一尉は、2号機パイロット……式波さんのようなエヴァの呪縛が無い。ATフィールドを第6感の様に使えるだけと思う。意思を感じ取ったりAAAWunderに行くことが出来るのは、ATフィールドに由来する部分が大きいと思う。そして睦月一尉は暁一尉を完全に受け入れているから、ATフィールドを融和させられても平気だと思う」
「そっか……少し、ね」
「でもまだ分からない。もしも暁一尉がAAAWunderを直接動かす様な事をしたら、式波さんが碇くんに言っていた『リリン擬き』になるかもしれない。最悪、リリスの要素に引っ張られて、エヴァに乗らずにエヴァの呪縛にかかる事も起こるかも」
それでもまだ変化途中かもしれないとして、レイは予防線として釘を刺した。アケーリアスの末裔とリリスのクォーター。4分の1だけリリスの混じった状態は、自分のオリジナルとなった綾波ユイとリリスのハーフと異なりその先が分からない。
リリスが薄まるのか地球人が薄まるのか。それは今後次第だろう。
「私でも動かせるの?」
「出来ると思う。でも、暁一尉はいい人。だから、そのままでいて欲しいから、やって欲しくない……と思う」
ここまで話した事で綾波は、この2人の事は信頼したいと思っていた。NERVが密接に関わる閉じた世界で生きてきた綾波は、限られた数の大人としか接して来ていない。碇ゲンドウ、赤木リツコ、葛城ミサト、そしてNERV職員。通わされていた第1中学でも教師にあっていたが、無関心だった。
それでも、初対面なのにここまで親身になってくれた2人を、綾波はもっと知りたいと思った。だから元気でいて欲しいと思い、たどたどしいが要求を口にした。
「分かった。私もレイちゃんの事をもっと知りたいから、それは最後の手段にする」
「うん、お願い」
「そろそろ時間かも。15分、だっけ?」
「ギリかも。レイちゃん、ミサトさん。あとは何とかします」
「お願い。貴方も私も、変わりはいないから。えっと、だから、大事に、して欲しい」
別れる時まで気にし続けたレイにハルナが感極まってしまい、思わずレイを抱き抱えてしまった。一瞬に至近距離まで接近されて抱き抱えられてレイは一瞬警戒したが、ハルナの暖かさでそれは間違いだったとすぐに反省した。
「レイちゃんって、本当にいい子。心配してくれて、本当にありがとう」
「暁一尉、睦月一尉も、ありがとう」
「レイちゃんって、どこか硬いんだよね。ハルナって呼んでもいいんだよ?」
「そう? なら……暁さん、睦月さん。また」
そう言うと、ハルナとリクはその場から粒子となって消えていた。掴もうと手を伸ばすが届かずすり抜けていく。何も掴めなかった手を握りしめ、そっと胸に抱く。
(ごめんなさい、何も出来なかった)
「違う。何も出来ないで終わらせない」
(いいんだもう、これでいいんだ)
「碇くん。私は、また戦うよ。それと、地球で待ってて、こっちの碇くん」
「戻って来たぞ! 脳波も戻った!」
「暁君、気分は?」
「大丈夫な方です」
そう答えるハルナの頬には涙が光っていた。まだ現実を飲み込み切れず、どう接していいのかが分からない。それを察したリクは、今は誰も居ない方が良いと思った。
「一旦整理した方が良い。暫く外で待っていようか?」
「嫌、いて、お願い」
そうだよな。とリクは思った。これはある意味での確認だった。
縋る様に引き留めたハルナは、怖かった。努めて冷静そうに振舞おうとしたが、遂に「人間ではない」事が分かってしまい今は一杯一杯だった。
自分でも壊れてしまいそうだと自覚していた。だから、誰も居なくなる事自体が怖かったのだ。
「暁君、落ち着くまで私達は待っている。それでも話したくなかったら、無理に話さなくてもいい」
そう言うと真田は、集まっていた面々と佐渡と原田も連れて医務室を後にした。それまでは大丈夫そうに振舞おうとしていたハルナだが、リクと2人きりになった途端に泣き出してしまった。
「怖いよ……私、何になるの? 人間? 使徒? ただのバケモノ? リリン擬き? ねぇ……たった1人だけ、人じゃなくて……これから何になるのか全く分からなくて……リリスなんか……こんなものいらなかったのに……SEELEがこんな事しなければ、お母さんも私も普通だったのに……ッ私……ッ壊れちゃうよ……ッ!」
こんなハルナは見た事が無かった。というのが、後に語られた時にリクが残した感想だった。それほど苦しみ、泣き、悲しんだハルナは、自分で自分を恐れ始め、本当にヒビが入るような音さえも聞こえたと言う。
リクも、その音を聞いた。そしてハルナの思いを知り、何を成すかを決め、その場で全ての覚悟を決めた。
「ハルナ、もしもハルナが人をやめそうになったら、僕を……いや俺も付いて行く」
思いもしなかった言葉にハルナは息が止まり、リクを見つめる。「自分もバケモノになる」と言っているのと同じ。同じ思いの人をこれ以上増やしたくないと願うハルナは、リクに掴みかかっていた。
「出来ないよ!! リクを……リクを、そんなバケモノなんかにできないよ!!!」
涙でぬれた顔で泣き声で訴えた。リクだけは、普通でいて欲しい。なのに、自分も付いて行くと言ってきたのだ。何のつもりだと怒りさえも覚えてしまった。
「俺は……ハルナがどこかに行って独りぼっちになる事が怖かったんだ。お前がこの世界で独りぼっちになるくらいなら、俺がずっと隣にいる。覚悟決めたよ。リリン擬きでも何でも、お前がなってしまうなら、俺も付いて行く。そうしたら、お前は世界で独りぼっちにはならない」
「でも……私は……」
「重たい人みたいに聞こえるかもしれないが、俺は、お前を1人にしたくないんだ。たった1人で悲しむより、縋れる相手の1人くらいいた方が良いだろ。あとお前は自分の事バケモノって言ってるけど、アケーリアスとリリスの合いの子でも狭義ではなく広義では人間だ。リリスも結局のところ人類種を蒔こうとしていたんだ。リリスから人類が生まれる筈だったから、どの道ハルナは人類と言える! だから! だから……自分を、そんな風に言うなよ」
バケモノと言い続けて心までバケモノになる所だった。だから、リクが人類と言って「バケモノ」を全力で否定してくれたことが嬉しかった。
それでも、リクから「普通」を奪いたくない。行き過ぎた妄想かもしれないが、もしも自分に何かあってリクを、その力で間違って殺してしまうかもしれない。
それだけが、凄く凄く怖かった。
「1人だけ変わってしまうのが怖いなら俺も行く。怖いなら一生隣にいる。だから、その先の事なんてどうにでも出来る! 怖くないんだって……俺に……」
「俺に、証明させてくれ!」
顔を赤くし、引き摺られるように涙目になっていたリクが吐き出した思いは、ハルナの恐怖を薄くした。自分は、この人に出会えて本当に良かった。自分が今後どうなっても、彼だったら目を背けずに受け止めてくれる。
SEELEによって狂わされた人生。始まった人生。いつの間にか奪われていた普通。それでも、この人、自分の大切な人は、全てを受け入れて横に並ぶ覚悟も今決めてくれた。余りにも大きな決断だったのに、それをこの場で決めて連れ添うと言うのだ。
その覚悟に応えないのは、出来ない事だった。
(滅茶苦茶頭いいのに、本当にバカだよ、本当に、大好きな位のバカだよ)
「ちょっと変わった不束者ですが……一緒に付いて来て下さい。1人だと……とても怖いから」
「俺も行くよ、証明するためにも」
だからハルナは、この時決心した。自分の変化を受け入れる事を、これを皆に伝える事を。リクも同じ存在になっても振り返らない事を。
「真田さん……見に行って、良いですか?」
「ダメだ。私達では、今はどうしようもない。無理に聞くと心を壊してしまうと前に言ったのはマリ君、君じゃなかったか?」
それに頭を横に振った真田は待ち続ける。が、2人の時間を作ること以外に何も思いつかなかった自分を責めていた。
「そうは言っても……心配なのは皆同じですよ。真田さんも、心配なのは同じですよね?」
「心配だから、睦月君を残して皆で出てきたんだ。中で待つべき佐渡先生と原田君もまとめてだ。今は2人の時間にした方が良い。私には、それしか出来ない」
「私は、2人の決心がつくまで何時間も待つ積もりだ」
「真田君。前も言ったかもしれんが、コンピュータ人間だったアンタがここまでするとは、あの2人が、本当に大事なんじゃな」
「何も出来ないなら、私は何も出来ないなりにやります。……守は、メ号作戦を陽動と知っても行ったはずです。なら私達は、あの2人にどんな事があったとしても、支え続けます」
そんな真田の姿に佐渡が眼鏡を拭きながら応える。それに真田が言い切るが、古代の兄である古代守の後押しもあっての事だ。
(研究を大事にするのはいいが、友人が新しく出来たりしたらそっちも大事にしろ)
(分かっている)
「アイツもどこかで笑ってます、良い友人を持ったなとか言ってるんじゃないでしょうか。案外、幽霊になってWunderに乗り、何処かでのんびりと見ているかもしれません」
それから10分後。医務室の扉が開き、そこには泣き腫らしたハルナとリクが立っていた。
「……無理はしていないか?」
「覚悟は出来ました。お話します。私が何者で、これからどうするのか」
眼鏡を外したままのハルナの眼は緋色に輝いていた。
ハルナの正体を書く過程で薫を挟む事となった為、ハルナの正体に気付いている人が多いかもしれません。
ハルリクは、ある意味SEELEが「何もしなかったら生まれていない」存在です。SEELEが薫を人体実験に使い、薫が零士と風奏と出会い、3人揃って命を狙われる事で火星で誕生した存在であり、SEELEにとっては創立時から見て行っても一番大きな失敗と言えるかもしれません。
ハルナが何故薫の力を引き継ぎ、意識間で話が出来るのか。ようやく答えを出せました。ATフィールドを融和させたうえで話をしているだけで、そんなに凝ったものじゃないんです。
それでも4分の1バケモノはシャンブロウの時にも言っていたように、ハルナには見当が付いていました。薫が人をやめさせられたのは「何かされたから」で、レーレライが言った事で「得体の知れない何か」がやって来ました。
この時点で、薫=人間+「何か」だと気づきました。
それと零士(純人間)との子であることから、ハルナは自分を「4分の1だけバケモノ」と呼ぶようになりました。
綾波との邂逅でその正体が「リリス」と分かったのは不幸でもあり幸いかもしれません。ハルナを広義の上では人間という状態に落ち着かせる事が出来たからです。もしもアダムなら異形の使徒が混じっている事となってしまうので、最悪の展開しか生まれません。
だから、同じ人類種を生み出す事となったリリスを据える事となりました。
ハルナの運命は、今後も難しい物となるでしょう。多分ですが、ハルナは安全の為にこの事を上層部に伝えてしまうと考えています。リスクを保持したまま動くよりも、リスクを理解してもらってその上で動く。
荷物の中に爆弾を隠して渡すわけにもいきません。
ですが、現在の地球ではどうしようもない、おまけにハルリクがいないと詰む。という事なので、SEELE生きていたらバレない様に立ち回り、時が来たらSEELEを叩き潰すかもしれませんね。現に怒ってます。かなり怒ってますので、かなり念入りにやると思います。
それ以外は、普通の人と何ら変わりない生活を送ると思います。色々あったお陰で人並みの生活も欲しい筈なので、結婚して2年か3年くらいは、家ではゆったりとした生活を用意しようと思います。新型艦艇作って試して色んなとこ行ったり、新婚旅行も良いかもしれません。
長くなりましたが、これからもハルリクの人生を温かく見守り、応援してもらえると、2人も喜びます。
特別EDとして、今回はking gnu様の逆夢を使用しました