宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
《イスカンダル停泊3日目》
「何これ?」
「波動コア出力のグラフ。前に出力を140%に上げた時があっただろ? あの時の記録だ」
暁・睦月研究室の大型モニターに映し出されたのは1枚のグラフだった。記録日は2199年7月16日。丁度ガミラス星の帝都バレラスで戦闘を行っていた時の記録だ。
「両舷のコア出力が全く同じカーブを描いているなんて……波動コアって確か」
「一点物じゃない。これ程のレベルで規格化された波動コアが量産されてたんだろう。多分イスカンダルはこれを何個も使って本当に波動エンジンを複数載せていたかもしれない。だったら……これは使えるかもしれない」
「……衝突炉を介しない真の双発同調波動エンジン。でも性能は未知数で、臨界で爆発も考えられる」
「今の設計上の内圧限界は300%。その範囲に収めるしかない。真田さん達に話し通してお任せしよう。正直今は手が離せないし、僕らがやるより真田さん達の方が速いと思う」
「次元波動理論解明者の真田さん。波動砲問題解決の立役者赤木博士。Wunder改造の自由人マリさん。地球によくこんな人材が揃ったよね?」
「全く……七並べの手札が全部ジョーカーのような状態だ。でもコレ、何とかなるかもしれない」
そう言うと、リクはコア出力のグラフに視線を戻した。現状の最大出力記録は140%。その先に何があるのかこの時はまだ誰も想像できず、実現されたとしても、誰も予測できなかっただろう。
「それとアスカちゃんに説明。多分、物が物だから島くんの手に負えない」
「……副長権限で、これより全艦の指揮を睦月一尉と暁一尉……葛城初代艦長に一任するッ!!」
それを引き金にしたかのように全周スクリーンにノイズが走り始め、6芒星の特徴的なサイトマークが表示された。敵性表示されたデウスーラ2世にタグが自動で添付されて全てのGUIがAAAWunderに切り替わった。
Object《Enemy》
NHG-***2
Erlösung(nearly equal)
「リク」
声の方向に顔を向けると、ハルナが悔しそうな顔で手を差し出していた。ハルナは最後まで躊躇っていた。最後の手段として取って置いたAAAWunderをこんな早期に使う。それは自身の変質とリクの変質を意味する。綾波が伝えた事は恐らく合っているだろう。
いくら「俺も付いて行く」と意志を示しても、最終的にはハルナが原因となってリクも変質してしまう。
「そんな顔をするな。無理矢理勝手に付いて行くだけだ。ただの我儘で、ただの、独断だ」
ただの我儘で独断によるもの。誤魔化しにしかならない言い訳だが、負い目だけは感じて欲しくない。随分出来の悪い言い訳に内心苦笑し、ハルナが差し出した手を引っ張りその手を握り、空いた片腕を高く上げた。
「ミサトさんっ!!」
「レイちゃんっ!!」
「「行こう!!!」」
突き上げられた拳は高く天を指し、2人の赤い目は揺らめく。揺らめく光はゆっくりと後ろに尾を引いていき、それに応えるAAAWunderからも甲高い音が発せられ、空間の揺れとなり全てを震わせる。
2人の虹彩が緋色に変わり炎の様に揺らめき始め、漏れ出る光が涙のように横に流れていく。一心同体、片割れの心を重ね、魂を震わせる。
そして、儀式の様にこの言葉を続ける。
「「エントリースタート」」
「マヤ、日向君、青葉君、高雄さん、多摩君、ミドリ、スミレ、リツコ……リョウジ」
今はもう思念でしかないブリッジ要員は、今はもう何も言わない。リツコは思念と記憶として成す事を成すらしく、ついさっき別れを告げて行った。ここにいるのは自分とレイだけ。それでも、やるしかない。
「レイ、やるわよ」
「はい、葛城艦……後ろ」
「後ろ? ……っ!?」
そこに立っていたのは、サードインパクトを命と引き換えに止めた「加持リョウジ」だった。
「葛城」
「リョウジ……ッ!? そんな……何で、貴方が……ッ!?」
「恥ずかしいもんだな、達者でなとか言っておいてまた会ってるとか。おまけに物凄い年月が経ってるじゃないか。お、レイちゃんもいるか。俺の事覚えてるか?」
「加持首席監察官、覚えている。確か……煙臭かった人」
ただの煙臭い人という印象しかなかったのか、加持は肩を落とした。思ったことをそのまま口にしたレイは首を傾げたが、「流石に言ってはいけなかったか?」と考え別のイメージを思い出し始めた。
「煙……言い返せないな。でももうちょっとこう、何かあるだろ?」
「……なら、海の人? 碇君達と赤くない海を見た時に、案内してくれた人」
納得のいく反応が見れたのか、加持は落としていた肩を戻し葛城に向き合った。加持の姿はミサトとレイとは違い僅かに透けている。2人は知らないが、ハルナの父親の零士も僅かに透けていた。魂もないただの記憶でいずれ消えてしまうだろう。それでも現れたのは、ミサトが心のどこかで願ったからだろう。
「今の俺はお前の記憶だ。その内消えてしまうが、コイツを動かすくらいの時間はある。始めよう葛城、お前の事だから艦名は変えてるだろ?」
「……AAAWunder。贖罪なんて嫌な名前じゃないわよ」
「そうか」
ミサトが手渡したのは血が付いたWILLEの証の水色のバンダナ、ヤマト作戦時に加持の形見としてミサトが腕に巻いていたものだ。
「いや、お前が持っててくれ。俺が渡した物だ」
そのバンダナを、加持はミサトの左腕に巻き付け結んだ。ヤマト作戦直前にリツコが結び、加持に返り、またミサトに返った。
「……全艦、第一種戦闘配置」
それがトリガーだった。一切の操作を受け付けなかったコンソール群に表示が戻り、ヒルムシュタムタワーのロックも解除された。真正面に大きくホログラムが表示され、新たな姿となったAAAWunderの艦体情報を表示させ各種武装の情報を旧AAAWunderから更新していく。
「まだ動くわね。戦闘指揮系統を戦闘環境へ移行。ヒルムシュタムタワー、移動開始」
ミサトの指示で戦闘艦橋への移行準備が自動で行われ、ヒルムシュタムタワーが移動を開始した。頭上で開放されたままの戦闘艦橋ハッチに吸い込まれていくようにブリッジ全体が上昇していく。
艦船に戦闘艦橋内にブリッジが格納され、戦闘艦橋のハッチが重々しい音を立てて閉じられる。全周スクリーンが落ちたままの真っ暗な戦闘艦橋内部にALERTの文字が点滅し続け、あの時のリツコと同じように、この言葉を放つ。
WILLEの証でもある水色のバンダナ。それを巻いた左腕を高く掲げる。それを見た加持は右を。2人を見たレイは、ミサトに倣い左腕を上げた。
「「「エントリースタート」」」
極彩色でうねる空間を通り抜けるとAAAWunderのOSが再起動しWunder側に接続。Wunder環境カメラの情報を引き込み視覚化情報処理も再起動、主モニターを点灯させた。その景色は、アナザーで止まった真っ赤な世界ではなく、稲妻と竜巻が乱立する亜空間回廊が映し出されていた。
「各演算統合システムリスタート、Wunder側との双方向接続完了。一部兵装の相違点によりエラー発生。ですが、戦闘可能です」
全てのステータスを確認した綾波は、戦闘可能である事をミサトに告げて前を向いた。どの方向を向いてもスクリーンしかないその景色は、嘗ての零号機のエントリープラグの様だ。自然と表情が険しくなっていく。
「ダイジョブよ。蘇ったブンダーなら、太刀打ちできる」
「俺が方舟目的で引っ張ってきてその後に葛城達が魔改造したやつだからな。それにしてはとんでもない物に変わってるが、まさか更に改造したやつがいたのか?」
「そのまさかよ。……本艦はこれより、敵NHG改級戦艦暫定名称エアレーズング改に対する遅滞戦闘及び迎撃作戦を開始する。これまでの時間にケリをつけ、青い地球をここに取り戻す。……ヤマト作戦を再開する! 砲雷撃戦用意!」
WunderからAAAWunderに全システムが切り替わり、全周スクリーンのGUIもバレラス時の物に変化した。幾つか大きなエラーを吐いているが、想定内だ。AAAWunderとWunderでは武装が異なる。甲板上の主砲塔は同じ位置にあるが、対空兵装やVLS、副砲は従来では装備されていない筈。今は接続出来ていない為使えない。
「第1から第4主砲以外の応答がありません!」
「使える兵装以外はマニュアルで動かします。動ける戦術科員は各武装の発射管制室へ! 対空火器も1個1個手動で撃てますので動かしてください! 被弾時は……ごめんなさい、命の保証は出来ません。覚悟を決めてください……ッ!」
そう言うとハルナはヘアゴムを取りまとめていた髪を下ろしカモフラージュ用メガネを外し、ミサトがしていたセンター分けに変えた。シャンブロウの時とは違い、指揮官として本格的な戦闘指揮を執るのはこれが初めて。初めての事で不安も大きいが、ミサトの戦いを終わらせ先に進むため、そしてミサトを信じる為にこの姿を選んだのだ。
「戦闘艦橋から総員に通達、総員持ち場に付け! いいか、これが最後の戦いだ!!」
南部の指示で索敵に付いていた戦術科員がVLS、魚雷の管制室。そして対空パルスレーザーの操作室に飛び込んだ。各銃座が独立して動かせる仕様であったため、旧大戦時の洋上戦艦の様に各自で対空砲座を扱うことが出来るのだ。
しかし砲塔内部に手動銃座がある構造上、被弾=死となる。被弾時を考え切れなかった危険な構造である以上、この指示を出すために今だけ心を殺した。
「主砲のシステムも変わってるはずです。博士!」
「分かってるわ。MAGIAchiralに上書きされている。
「了解、主砲は繋がってますのでいけます!」
「ミサト……ええ、ミサトを好き勝手にやらせるとロクな事にならない。貴方の経験ね」
「何か、言いましたか?」
「気の所為よ、急ぐよ」
そう呟くとMAGIAchiralに接続し、AAAWunderのFCSを呼び出す。初めての筈だが久しぶりに見たとも感じる制御コードに触れ、急場凌ぎでVLSと艦首艦尾魚雷のシステムを繋げにかかる。マリもその異様さにニヤリと笑うと2枚目の切り札の調整のピッチを上げる。
(分かる。その次は……いや、3rdとAchiralで裏コードが微妙に違う。近道は余り出来ないわね。でもintのCは同じ。ここから入れば……)
「マリ、そっちは任せるわよ」
「メ2号だってぶっつけだったで無問題にゃ。さぁーてAAAWunder君と艦長さん、170年ぶりのリベンジマッチにゃよ。パワーはあるから上手い事やっちゃってくださいな」
キーボード上で2人の指が踊り狂い、AAAWunderのFCSにホーミングに副砲、VLSや魚雷発射管の制御システム連結が進められ、切り札もアルゴリズムの最終調整が進み、ビーメラコアを参考にした最終シミュレーションが構築される。
しかし敵が空気を読み待つ事など決して起こらず、その間にもデウスーラ2世はさらに距離を詰めていき魚雷発射管から複数本の大型魚雷が放たれた。
「エアレーズングが大型魚雷を発射、画像認識で数20以上!」
「まだ捌き切れない。マニュアルで波動防壁展開、防ぎきってからショックカノンで反撃!」
本来はドルシーラの装備であるFi.97型魚雷20数本が波動防壁に着弾し、被弾経始圧が一気に低下する。だが防ぎきれた。反撃のショックカノンの火力をもってすれば、2500mの同体格の戦艦にも有効打を与えられるだろう。ATフィールドで阻まれる可能性が高いが、通常空間への脱出が目的である以上、今は無理に破る必要もない。
「第3第4、ショックカノン撃て!」
第3第4主砲の砲口に青白い光がたまり、一気に発射される。それは光の束ではなく砲弾の様になり、それを速射砲のように短時間で連射した。当時のAAAWunderは主砲を速射砲の様に連射出来ていた。当時のシステムに変更された為動作の問題も考えられたが、問題なく動作して発射することが出来た。
しかし、放たれた陽電子の砲弾は1発も着弾することなく霧散した。
「ショックカノンがッ……!?」
「いちいち気にするな! 第1第2撃って第3第4にも三式装填! ゲート突破まで全光学兵装の使用を禁止、実体兵器による戦闘に切り替えて!」
ショックカノンが使用できない。この亜空間回廊内はどういう訳か光学兵器の使用が出来ない。ならば「光線砲塔」である対空兵装も使えない。波動防壁は機能しているが、これが破られれば全て装甲で受けきるしかなく、「ここで倒す」か、「ゲートを突破して通常空間に戦場を移す」しかない。相手も光学兵器が使えるようになってしまうが、主砲威力はこちらが上。恩恵はこちらの方が大きい。
エアレーズングの艦首の一点を狙い第1第2主砲から三式弾が放たれる。ATフィールドに阻まれる事は分かっている、贅沢な閃光弾程度にはなるだろう。2人の思惑通り、三式弾はエアレーズング着弾一歩手前でATフィールドに阻まれ、6発分の三式融合弾が盛大な爆発を起こした。
「アナライザー、METEORは使えるか?」
『METEORシステムは、本来のWunderFCSに追加する方法で組み込まれたシステムです。現在使用不能。ですが、私がMETEORのオリジナルコードを使い
「ならばオルタとMETEORを使うんだ。大量のミサイルで魚雷迎撃を行えるか?」
『……オルタと協力し処理能力を上乗せすれば、多数の魚雷をロックオンする事が可能です』
「真希波君、METEORのオリジナルコードは?」
「これです。アナライザー、これ渡すからオルタにもコピーして送ってにゃ」
最適化作業を中断し、ケーブルを使ってオリジナルコードの入ったタブレットをアナライザーに接続した。データはアナライザーによって一瞬で吸い出されて解析された。
『了解。全フォルダコピー。オルタに転送し並列接続完了次第対処開始します』
「戦闘艦橋からVLS発射管制室へ。ターゲットへのロックオンは全てこちらで行う。ミサイル装填は各発射管制室からの手動操作で行え」
『VLS管制室了解』
「魚雷また来ます、数20! なおも発射を確認!」
「アナライザー、オルタ、METEORを!」
『『並列接続完了、全発射管の装填状況を確認。並列処理開始、METEOR起動!』』
アナライザーとオルタの並列処理が完了し、METEORが起動する。全ての発射管に装填されたミサイルの種類は臨時の通信経路を通してアナライザーに伝わり、その情報を用い南部の指揮の元をオルタと共に目標割り当てを行う。全周スクリーン上でマークされる全ての魚雷に種類問わず発射可能な誘導兵器が割り当てられ、数秒でall targets Lock-onと表示される。
「全弾一斉射!」
南部が発射指示を出すと、発射管制室の操作により甲板VLSと舷側短魚雷が発射され目標に向かい突き進む。その数合計22本。20本以上の魚雷を確実に落とし切る為に22本のミサイルが1つ1つに張り付き、生物のように有機的軌道を描きながらミサイルを追尾していく。
1つ1つ確実に落とし、艦体を覆う波動防壁に着弾する寸前に撃ち落とし、亜空間に爆炎の花を咲かせていく。幾つかの花が咲いていき次弾装填に動いていたその瞬間、
デウスーラ2世から光が放たれた、次の瞬間には激震とアラートが上がった。
「状況は!?」
「第2副砲右舷アレイアンテナ大破! 何かに貫通されました!」
「波動防壁は?!」
「抜かれた! 恐らくレールガン、極超音速体による質量攻撃で、過貫通したんだ……!」
「レールガン……!」
完全に意表を突かれた。ガミラスが魚雷やミサイル以外の実弾兵器を実装したことは、完全に2人の想定外で、大きな動揺を覚えた。今まで遭遇してきたガミラス艦は光学兵器を標準搭載して主に魚雷やミサイルでの戦闘を主体としていた。その為、陽電子ビームは撃たれる前に撃沈するか、魚雷とミサイルは防壁で受けるか撃ち落とせばよかった。
だがレールガンは違う。音速を軽く超えられる発射体は目視してからの回避が困難であり、あろうことか波動防壁を貫通した。
だが2人かそれよりも感じ取っていたのは貫通していった発射体の異様さだった。強大なデストルドーを撒き散らして行ったそれは、被弾箇所の右舷から刺さるように伝わっていく。あんなものが左舷艦首に突き刺さればコスモリバースは損壊する。敵に真正面に向き合う事すらできない。
(あれは、ロンギヌスの槍の複製品。でも、それを物凄い速度で発射するなんて……)
(アレの被弾箇所に人がいたらどうなる?)
(多分、デストルドーで精神が壊れる。ATフィールドでも受けきれない)
「ッ!? ATフィールドが通用しないのか!?」
「だったら逃げる! アナライザー、ゲートまでの予測所要時間を!」
『推定所要時間、100秒です』
(隙を見てここから脱出、出口が壊せるなら完全に壊すのよ! 逃げ切りなら退路は潰す!)
「隙を見てゲートに飛び込みます! 島くん、立体式操舵準備!」
意識下でミサトからも指示を受け、撤退の準備に入る。AAAWunderの実体兵装ではATフィールドを破るどころか消耗させる事すらできない。ならば逃げの一択。退路も潰して最大戦速で距離を取り、ワープを使い一気に振り切る。まずはそれに賭ける事にした。
「了解。立体式操舵準備、時空間制御用意よし! タイミングに従い船を出口に吹き飛ばします!」
「南部君は通常空間に出次第ショックカノンでゲートを射撃!」
「ゲートを破壊するんですか?!」
デウスーラ2世ではなく亜空間ゲートを撃つ。思っても無かった指示に南部が思わず聞き返す。ゲートを破壊すれば確かにデウスーラ2世が通常空間に出る事は無くなるが、そこまでするのかと南部は驚く。
「エアレーズングを亜空間に閉じ込めて振り切る。もう行きで壊してるから、追加の1個くらい気にするな!」
デウスーラ2世の甲板上に展開したこのレールガンは、ガミロイドにより装填から発射、冷却までの制御が行われる完全無人制御兵器である。しかしガミラスで使用される砲塔兵器は、任務上の特別な理由がない限り有人による操作が行われるが、この兵器は有人での操作が不可能だった。
その理由は、このレールガンが使用している弾体に問題があったからだ。レールガンは膨大な量の電流と2本のレールを用いて火薬を用いずに弾体を音速以上の速さで発射する。その為弾体は原則導体、もしくは導体のジャケットで覆った弾体を使う。
その弾体は、ロンゴミニアド。エアレーズングでMark10の主機制御棒として転用されていたコピーロンギヌスを複製し、それをそのまま弾体とした狂気の弾体。デストルドーを振りまく絶望の槍の複製の贋作はあらゆる物質よりも固く、あらゆる事象よりも恐れられる。それ故人間が扱えるものでなく、ガミロイドを用いた運用を余儀なくされている。
その狂気の槍ロンゴミニアドは、音速を置き去りにする程の速度を与えられ空間を引き裂くようにしてAAAWunderに着弾した。
「ゲシュ=タム・フィールドの突破を確認。ヴンダーへの直撃を確認」
「第2射用意。魚雷戦闘を続けさせろ」
「魚雷以外の物理兵装は本国では廃れたはずですが、まさか本当に役に立つとは……」
「使っている物もあるがね」
艦橋のハッチが開き、そこから現れたのはデスラーだった。肩の銃創を抑え護衛に肩を借りながら何とか艦橋にまでたどり着いた。
「総統ッ……ご無事で何よりです」
「巨大なのも考えようだな。状況は」
「はっ。ロンゴミニアド第1射はヴンダーに命中、大型アンテナ部の大破を確認しました。ヴンダーはミサイルによる遅滞を行いながらゲートへの突入を伺う姿勢を取り続けています」
「……指揮官が違う」
「と、言いますと?」
「第2バレラスでの戦闘とは動きが違う。別の誰かが指揮をしているのだろう。魚雷戦そのまま。ロンゴミニアドの装填作業も続けたまえ。ヴンダーが通常空間に逃れるタイミングで我々も通常空間へ抜ける。決着をつける」
簡潔に戦況の説明を受けたデスラーには違和感があった。第2バレラスでの戦闘ではATフィールドに何度も砲撃を繰り返しまるで何かを探っているかの様な動きを見せていた。しかし今回は撤退の構えを取り続けている。破れない事を分かっているからと言われればそれまでだが、戦術から見える振舞い方が変わっていた。
デスラーは知り得ない事だが、WunderはハルナとリクによりAAAWunderとして完全な起動を果たしている。「自律強襲方舟」としての能力を取り戻し、その能力を当時では考えられない兵装に落とし込み猛威を振るう事が可能となったAAAWunderは、その気になれば出鱈目じみた機動と火力を発揮できるだろう。
無論火力は通常空間で存分に発揮されるが、機動性はこの亜空間でも発揮可能。三式弾が通常空間と同じ振舞い方でATフィールドに着弾したため重力の心配はしなくてもいいだろう。
「しかし、破壊してしまって宜しいのでしょうか。あの船は神殺しの1隻。恐れながら、余りにも勿体ないと考えます」
余りにも勿体ない、それは君の主観だろうと言葉が出かかったが、飲み込んだ。
「タラン。我々は、戦争をしているのだ」
『銀河系側ゲート接近。ゲートコントローラをフェイズ3に移行、及び一時停止。指定ゲートをマークします』
戦闘中も亜空間回廊の流れに乗ったままだった為、銀河系側のゲートが近づいていた。今すぐ入れるワケではないと思考したアナライザーは指定ゲートを全周スクリーン上でマークし、ゲートコントローラを一時停止させた。
「後方にゲート確認。正面より大型魚雷接近、数19!」
「レールガンは?!」
「亜空間内では電磁波の観測も厳しいんですから、光ったら撃たれてるような物です!」
「クソゲーマジでクソゲーにゃよこんなん!」
一方的に攻撃され、さらに攻撃の兆候も分かりづらい。マリの言う通りの「クソゲー」の状況で、回避も防御も出来ない。
(レイちゃんATフィールドを何重にも重ねることは出来る?)
(出来る。でも、何処が狙われてるか分からない。撃つ予兆が分からないと、間に合わない)
「必中必殺めッ……! 艦種を敵艦に向け波動防壁を艦首に集中展開、寿命削ってでも限界まで展開! 三式弾を第1から第4に装填し僕のタイミングでエアレーズング正面になるべく広げて射撃! 着弾と同時にゲートに飛び込む!」
着弾を逃れた主砲塔に再び三式弾が装填され、エアレーズングの中央船体艦首だけではなく第二船体にも砲塔を向け計12発の照準を合わせる。
「測的誤差限界まで修正、諸元入力完了!」
「撃て!」
12発の三式弾が放たれ、ATフィールドに阻まれ盛大に爆発。狙い通りデウスーラ2世の正面を爆炎で覆い隠し、ほんの数秒の隙を得た。
「島君吹っ飛ばせ!」
「衝撃に備えェッ!」
操艦で発生させた強大な斥力がAAAWunderを大きく跳ね飛ばし、デウスーラ2世に艦底を大きく見せながら一気に後退した。艦底部のVLSからミサイルを斉射して目隠しを継ぎ足ししながらゲートに飛び込み、風に揉まれる木の葉のように不安定な姿勢のまま姿勢制御スラスターを必死に吹かしながら嵐の中を突き進む。
「ショックカノン用意! 通常空間に出次第姿勢を正し砲撃を!」
「了解。各砲塔ショックカノンに切り替えろ!」
「取り敢えずホーミングは繋ぎ終わったわ。それも使ってちょうだい」
その数秒後、全周スクリーンに投影されたのは星で彩られた宙と真正面に広がる銀河系だった。後方には亜空間ゲートの淵が映り込み、ゲートの亜空間境界面には青白い干渉波が走り、白煙が噴出していた。
「亜空間ゲートを抜けました。現在通常空間、レーダーも復旧しました」
「反転180度姿勢復元、艦首をゲートに。ゲート本体に照準、各砲準備でき次第、発砲を開始!」
多軸回転に近い挙動をしていたAAAWunderを立体式操舵で強引に姿勢を正させながら艦首をゲートに向ける。同じ位置を複数の砲塔が照準を合わせても効果的に破壊できない。絶対に照準が被らないように留意し、前方に向けられる砲塔と主翼のホーミングの発射準備が完了した。
主砲からショックカノンが放たれゲート外周部に着弾。さらに着弾。ホーミングから放たれる曲射陽電子ビームも1発も残さずに着弾させ、亜空間ゲートに紫のスパークが走る。
「ゲート境界面の白煙を確認、エアレーズング転移兆候あり!」
「時間足りないかッ……! 主砲そのまま、ホーミングの照準を転移位置に一点集中させて出待ちする! 真田さん重力の計算!」
「やっている。配置位置調整軌道計算良し……発射!」
主翼から放たれた陽電子ビームが重力子により軌道を歪められ、白煙が湧くゲート境界面に集中していく。ゲートから顔を出したデウスーラ2世の第2船体に着弾し小規模な爆発を上げた。ゲート通過中は何らかの理由でATフィールドを展開していなかったのだろう。
被弾も厭わずゲートから飛び出したデウスーラ2世は吶喊の構えを取るが、ミサトが咄嗟に「AAAWunderを後方に引っ張った」事で鼻先が霞める程度で済んだ。遅れて数秒、ショックカノンの連射を受けた亜空間ゲートが機能を停止し、スパークを撒き散らしながら崩壊を始めた。
(前はアレに貫かれて主砲を全部おじゃんにされた。二の舞避けれて良かったわ)
「エアレーズングの機能停止を目的とした攻勢行動を開始! マリさん!」
「あともう少し、しばらく持たせるんにゃ! 博士OSは?」
「魚雷は何とかしたわ。パルスレーザーは数が多すぎるからもう少し待って。酷だけど、終わるまでは手動でやって」
「準備は出来てます。全銃座撃ち方用意!」
両舷第2船体舷側に鎮座する対空パルスレーザーが各砲塔バラバラに動く。砲塔1つ1つが砲塔旋回、仰角俯角調整、試射を行う。手動管制も問題なく動作し、全員が身構える。
通常空間に出た事で光学兵装が解禁され、デウスーラ2世の砲塔がAAAWunderを捉える。デウスーラ2世のATフィールドはバレラスでの酷使が響きかなり不安定な物となっているが、その防御力はまだ完全に失われていない。ショックカノンの数発くらい同時に受け止めるだろう。
AAAWunderも被弾経始の怪しくなってきた波動防壁を張り、防御姿勢を取りながら甲板上と艦底部の主砲塔をデウスーラ2世に向ける。
「主砲斉射、ショックカノン用意。一斉射をもって、ATフィールドを破壊する!」
即時射撃。青白い陽電子の束と赤い陽電子の束が互いの直前で防がれる。出し惜しみせず魚雷やミサイルを放ち更に防壁を削りながら、足を止める事無く動き続ける。さらにセンサーをフル稼働させてエアレーズングから発せられる電磁波を観測。レールガンの発射予兆を絶えず観測し続ける。
「被弾経始圧低下。このまま受け続けると、あのレールガンみたいに貫通されます!」
「分かってる。マリさんあとどれくらい?」
「均衡点出力の調整だけ! これがそう簡単に行くわけがないんにゃよ!」
「電磁波極大! 来ます!」
アラートが上がり、デウスーラ2世のレールガンが鎌首をもたげる。2本のレールが莫大な電力を一気に貪る。互いが巨体で距離も取り合っていたが幸いし、推定マッハ3の弾体が着弾するまでに数秒の時間があった。
「レイちゃんいくよ、ミサトさん!!」
(陽電子砲の管制借りるわよ、ショックカノン照準!)
第2第3主砲がWunder側の管制を離れミサトの管制下に移り、砲塔基部から火花を散らしながら右に急旋回した。
(ATフィールド、全開……っ!)
「「ATフィールド全開ッ!!」」
右舷を狙い放たれたロンゴミニアドはマッハ5で疾走し、三重に展開されたATフィールドに着弾した。可視光の一部を拒絶する程の強固なATフィールドで食い止めるが、絶望の槍の前には心もとない壁でしかなく、僅か2秒でその内2枚を貫かれた。
「ミサトさん!」
(撃てぇッ!!)
タッチの差でミサトが第2主砲からショックカノンを発射。ギリギリで仰角調整を終えた砲身から陽電子の砲弾が連続発射され、ロンゴミニアドは陽電子の連撃に抉り飛ばされ消滅した。
「艦体損害無し、いけます!」
「第3戦速で敵正面に。全砲門で一点集中砲撃をおこない今度こそ破壊する!」
駆逐艦顔負けの急速反転を重力と斥力でこなし、デウスーラ2世の鼻っ面を射界に入れる。動かせる主砲の全てを使いデウスーラ2世を狙ったが、ロンゴミニアドが左舷の第1副砲を貫通し、その爆発が充填されたエネルギーに誘爆を起こし第1副砲が左舷アレイアンテナを巻き込み吹き飛んだ。
さらにFi-97型魚雷複数発が右翼に命中し主翼装甲板の一部が融解し、対空パルスレーザーが必死の迎撃を行うが死角からの雷撃で複数基が吹き飛んだ。
「その程度で俺達がァッ!」
吹き上がるように上がってくる損害報告に堪えるように声を荒げ、リクが射撃命令を出す。もはやスクラップの第1砲塔から炎と黒煙を上げながら、仇討ちのように主砲とホーミングからショックカノンを放つ。45発が1発に束なり何物をも貫き通す真っ白な光がデウスーラ2世に襲い掛かり、射撃直前で無防備なデウスーラ2世の翼の1枚を貫通し破断させた。
さらにVLSに装填済みのミサイルを一斉に発射しさらにATフィールドに負荷を与えていく。
「エネルギー伝導管限界近いです! そう何発も撃てません!」
「やれるだけやるんだ! マリさん!」
「よし……よし、よし、キタキタキタキタキタキタァッ!! 設定完了移行シークエンス開始、やっちゃえハルリク!」
マリがエンターキーを押し込み全ての準備が完了した。
「コードTD発動機関科要員は機関室より退避を! 現時刻より全ての機関管制を戦闘艦橋に集約します!」
第2船体のメインノズルから光が消え、アダムス組織が青く輝き重力操艦がメインに切り替わる。火器及び推進に直結するすべてのエネルギー伝導管も閉じられ代わりに3式弾が装填された。両舷波動エンジンのリミッターが解除され出力が140%まで上昇し黄金のリングがフライホイールを囲むようにして展開される。
出力150%を超え、溢れ出したエネルギー干渉波が機関室を焼き、コンソールや足場を溶断し、モニタールームの分厚い遮蔽用ガラスを粉々にし計器を根こそぎ破壊してしまった。破壊された危機から火花が散る中、エンジンが黄金色の淡い光を灯し始める。
「アスカちゃん準備、手筈通りに!」
「了解、島さん借ります!」
「悔しいが頼む、君しか出来ない事だ」
島から操縦席を受け取ると自身のキーを差し込み仕様を変更した。Wunderの操艦シミュレータと同じシステム仕様に切り替えると操縦桿と戦速調整用スロットルに手をかけ準備を整えた。
「コネメガネェ! やれ!」
「アイサー姫!」
アスカの指示でマリがコンソールを叩く。
[twindrive_synchronize_start()]、ツインドライヴのシンクロを開始するコマンドを打ち込み、両舷波動エンジンの出力がさらに高まりコア出力も同じカーブを描きながら昇っていく。
「目覚めちゃえAAAWunder、ここには!」
170%、黄金のリングがさらに拡大する。
「イスカンダルと!」
180%、艦外にまでリングが広がり、第二船体を中心にし揺らめく。
「地球のぶっ壊れと!」
190%、両舷のリングがさらに拡大し、互いに反発を起こす。
「ハルリクと!」
200%、リングが接触し、波動エネルギーの奔流が溢れ出す。
「葛城艦長さんがいる!」
225%、光が満ち、黄金の粒子を纏う。
「レーダー感、攻撃来ます!」
その瞬間、デウスーラ2世のあらゆる武装が波動防壁の無いAAAWunderに殺到、一瞬で爆炎に包まれた。
ツインドライヴの技術考察と設定で、名無しのミリオタにわかさんにご協力いただきました。
本当にありがとうございます
次回、終わらせるための力 4です
長作となりましたが、終わらせるための力は次回で完成です