宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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DECISIVE BATTLE (機動戦士ガンダム00)をバックミュージックにしてお楽しみください


終わらせるための力 4

 デウスーラ2世から魚雷、陽電子ビーム、ロンゴミニアドが全て放たれる。一斉射の元に大艦隊を壊滅させられる程の火力を向けられたAAAWunderは、波動防壁も展開する間もなくその全てを受けてしまった。

 

「着弾を確認。ヴンダーの撃墜をッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高エネルギー反応! これは……波動エネルギーです! 計測不能!」

 

「確認急げ!」

 

 艦橋に警報が鳴り続け、爆炎の向こう側から観測機器を狂わせる程の波動エネルギーが観測されている。イスカンダル由来の波動エネルギー。その力を一身に受け、その身に波動コアを2つ宿した神殺しの船は、まだ生きている。

 

「そうか……スターシャ、君は、私だけを見ていなかったのか。……デスラー砲、発射準備」

 

「総統ッ……!?」

 

「発射準備」

 

「……発射準備にかかれ!」

 

 デスラーの目の前に発射装置が持ち上がり、左手でコッキングレバーを引き、引き金に指をかける。正面スクリーンにサイトマークが表示され、その中心に爆炎を捉える。

 

「観測結果出ました! ヴンダー艦外で余剰次元展開による波動エネルギー生成が発生しています。あの船は、ゲシュ=タム・ドライブ内部で行う事を艦外で行っています!! とても信じられません……あんな事思いついても誰もやりませんよ!?」

 

「艦外だと!? 一体、何が起こっているんだ……?! ッデスラー砲準備と並行し砲撃用意を!」

 

 


 

 

 

「そうだ……俺達は」

 

「そう……私達は」

 

 

 

「「進むんだ」」

 

 

 

 爆炎の向こう側にいたのは、全ての陽電子ビーム、大型魚雷、ロンゴミニアドを瞬時に無に還したAAAWunderだった。

 

 本来波動炉心内でのみ完結するはずの余剰次元展開からのエネルギー変換現象。それを例外的に炉心外で行う現象がある。それが波動砲。余剰次元の開放を波動砲射線上で行い、発生したマイクロブラックホールが瞬時に蒸発しそのエネルギーで射線上の物体を破壊し尽くす。

 

 ツインドライヴにより高次レベルでの同調を果たした波動コアを中心とした半径2000mの艦外で、そのエネルギー変換が誰も予想し得なかった量の波動エネルギー流を生み出し、それそのものが波動防壁を凌ぐ防御力を発揮し攻撃の全てを無に帰していたのだ。

 

 

 全てを無に帰す光。それをAAAWunderが纏っているのだ。

 

 

「これが、ツインドライヴシステム……全て、かき消したのか……!?」

 

「これがイスカンダルの……」

 

「「いいえ、これは」」

 

 

 

「「私たち人類の力です」」

 

 

 

 波動エネルギーの奔流がさらに勢いを増し、宙を染め上げる。それはまるで1つの星雲のように、1つの銀河のようにどこまでも広がり、遥か前方のデウスーラ2世の元まで広がっていく。

 

 

「出力225%倍率7.67、このまま現状を維持させる! 姫!」

 

「スリーエーヴンダァァッ!」

 

「「発進ッ!!」」

 

 スロットルを第3戦速に切りかえる。拡散していた波動エネルギーが霧散したかと思えば一気に艦尾に収束し、メインエンジンノズルの噴射に合わせて暴力的な力で後方に一気に噴射された。戦艦を超えた出力と駆逐艦並みの機動性と戦闘機並みに敏感な操縦性を併せ持ったAAAWunderは、アスカの戦闘機操縦技能でバランスが保たれ、デウスーラ2世からの全ての攻撃を無に還しながら突き進んでいく。

 

「ミサトさん甲板の4基回します。南部君回して!」

 

「了解です、艦長さん回します!」

 

(借りるわよ日向君みたいな子!)

 

 ミサトの管制下に入った甲板上の主砲が正面の只1点を捉え、ショックカノンが充填を開始、艦底部と主翼のホーミングも立ち上がり、溢れんばかりの真っ白な光が砲口を満たす。

 

 

「ショックカノン、ホーミング、全砲チャージ完了! 伝導管がギリですが、撃てます!」

 

「慣性制御最大、総員対ショック防御! アスカちゃん、ツインドライヴだけど徹底的に避け切って! 南部くん射撃はまだ!」

 

「了解!」

 

 デウスーラ2世から放たれた砲撃は想像を絶するもの。24門の陽電子カノン、12問の陽電子ビーム、80門の大型魚雷発射管。AAAWunderを前にしてそれらが対空弾幕のように雨あられに撃ち放たれる。

 

「来ますッ!」

 

「全部避けろ! 戦闘機みたいにぶん回せ!」

 

「了ッ解!!」

 

 操縦桿が一気に右に傾けられ第4戦速に切りかえられる。急激な操縦に追従するAAAWunderは一気に横ロールで陽電子カノンを全てよけ、次の瞬間には強引な制動で姿勢を正した。

 さらに陽電子ビーム、誘導式のFI-97型魚雷が殺到する。まるで落下並みの速度でミサイルの射界から消え失せ全速急降下。陽電子ビームから逃れ魚雷の誘導限界を優に振り切った。さらに急制動に加えて上げ舵90度オーバー、艦首を強引に持ち上げ主砲の射界に魚雷を捉えた。その射界には大きく弧を描きながらAAAWunderの艦尾を捉えようとする魚雷が捉えられていた。

 

「射程圏内いけます!」

 

「ホーミング撃て!」

 

 15門のホーミングが真っ白な光となり射線上にスパークを残しながら放たれる。砲口が赤熱するほどの威力で照射されたそれは高度な重力子配置によって互いに干渉することなくまるで流れ星の様に鮮やかな弧を描き魚雷を真っ二つに溶断し、さらに誘爆を起こし80発を爆炎に変えた。

 

「ホーミングオーバーヒート、緊急冷却に入ります!」

 

「そのまま1回転させて姿勢復元、完了後ただちに下からエアレーズングを捉える!」

 

 2次元から3次元へ。宇宙での平面的海戦から立体高機動戦闘へシフトしたAAAWunderをデウスーラ2世は捉えきれず、攻撃手段を誘導兵器に絞られた。ガミラス艦艇のカノン砲は仰角が大きく取れない。仰角調整で捉えきれない敵に対しては艦体をかたむける程の事をしなければならないが、1秒が宝石並みの価値を持つ高機動戦闘でそのような事をする余裕などなく一時的に魚雷のみの攻撃を強いたのだ。

 

 2人もそれを分かって指示を出し、アスカはその意を汲み下方からの接近に切り替える。さらに誘導魚雷がデウスーラ2世から放たれ、アナライザーとオルタがその全てをロックオンした。

 

『『全目標ロックオン。目標割り当て完了発射準備よし』』

 

「Meteor迎撃開始発射管開け、発射!」

 

 甲板、艦底、両舷の発射管が一斉に開き、再び襲い来る80発の魚雷を撃滅せんとバレルロールを活かしミサイルが撒き散らされる。自動人形(オートマタ)のプライドを賭けたその演算力をフルに発揮し全てのミサイルが有機的な軌道を描き大型魚雷を捉え、確実に撃墜を重ねる。

 しかしアナライザーとオルタの演算を以てしても数発が抜け、波動エネルギーを纏うAAAWunderに食らい付きにかかる。

 しかしそれを許さぬ対空パルスレーザーが波動エネルギー越しに掃射を行う。信じられない事に波動エネルギーに非対称性が持たされたようで、パルスレーザーは波動エネルギーに一切干渉される事なく大型魚雷に命中した。

 

 それを凌いだと思えばさらにアラートが上がる。大型魚雷の発射と並行して艦首をAAAWunderに向けたデウスーラ2世から高エネルギー反応が確認された。それは陽電子ビームが可愛く見える程のエネルギー量であり、肉眼でも艦首にエネルギーが充填されている事が分かる。

 

「エアレーズングから高エネルギー反応! 敵の波動砲です!」

 

「通常兵器が効かないと来たら……敵の波動砲かッ!?」

 

「最大船速このままいく! ツインドライヴ299%に! 針路そのまま押し切る!」

 

「マジですか!?」

 

 敵の波動砲を無視してそのまま突っ切る。回避すら考えない自殺行為に等しい命令に一同戦慄した。が、ツインドライヴに関わった真田、マリ、赤木博士はその指示に一瞬顔を強張らせたが対ショック姿勢を取り、島に変わりツインドライヴの手綱を握るアスカは操縦桿を握る手に一層力を込めた。

 

「ドチートがやるってんなら出来る! こうなりゃやってやるわ!」

 

AAAWunder

TWINDRIVE BURST

mode act max

twindrive sys

WMC/a + WMC/A

 

 

 ツインドライヴがさらに唸りを上げ、AAAWunderが纏う黄金の粒子がさらに生まれては蒸発し波動エネルギーが生まれる。生まれ続ける波動エネルギーはさらにうねり濁流となり青白い輝きから黄金にやがて変わり、AAAWunderは黄金の光に包まれる。

 11次元にまで及ぶ余剰次元の展開。周囲の空間の破綻すら招きかねない程の変換により空間が軋みを上げ周囲の景色が歪み始める。それでも足りないと言わんばかりに展開が行われ、AAAWunderが引く航跡には一直線に大きく切り裂かれた跡が残った。

 

「出力299%倍率13.54!」

 

「出力そのまま、総員対ショック対閃光防御!」

 

「立体式操舵切り替え準備、着弾と同時に切り替えて推進開始!」

 

「……ッ!」

 

 リクの指示で再び立体式操舵が立ち上がり、アダムス組織が艦尾に分厚いATフィールドの光輪を生み出していく。その数3。リクとハルナ、そしてレイの意識で発生させたそのリングは重力子とは異なる虹色の位相光を散らしゆっくりと回り始める。

 

 自分たちの変化にはもう気付いている。もう戻れない程遠くに行ってしまっているが、どこがとどめだっただろうか。アダムス組織を介しているとはいえ極大規模のATフィールドを展開した以上、もう普通の人類ではない。

 

(ああ……困った、な……)

 

 無意識に漏れた思考がそれだった。自分の状況を分かっていないような言動だが、今はそう考えるだけで精いっぱい。後で考えよう。

 

 

 

「余剰次元爆縮を感知! 波動砲来ますッ!!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 AAAWunderの光がさらに輝きを高める、青白い暴流のような波動エネルギーは黄金に変わり、波動防壁の様に艦体を包み込み巨大な鳥となった。偶然か必然か、Wunderはイスカンダルの力を引き継いでいる。支えの1つを失った自分に残されたのは、もうこの引き金しかない。

 

「デスラー砲、発射」

 

 一切の躊躇も無く引き金は引かれる。怒りと嫉妬の光は、Wunderを射線上に捉え必撃の一撃は、確かにWunderを捉えていた。そのまま着弾し、眩い光に宙域が支配される。

 

 一切の破片も爆炎も残さず消し飛ばす光。星すら破壊する超兵器はたった一隻の船の為に向けられ、その光はAAAWunderを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デスラー砲着弾。……そんな……あり得ません!」

 

「報告しろ、どうなっている!?」

 

「ヴンダー健在! そのまま……ッ直進してきます!!」

 

 黄金の粒子であるマイクロブラックホールを絶えず生成し、それを最高効率をもってホーキング輻射で即時蒸発させる。取り出した波動エネルギー流は破壊的なエネルギー量を抱えながら、自身を守る為の壁となっていた。

 

 例えるなら、「波動砲対波動砲」。撃っているか纏っているかの違いで、ツインドライヴの未知を引き出し続けるWunderはデスラー砲を意に介さずデウスーラ2世に肉薄を続ける。

 

 エピドラを吹き飛ばしたあの威力でも、イスカンダルの力を身に受けたあの船には効かなかったのだ。

 

 

 

 _________

 

 

 

 

「余剰次元爆縮を感知! 波動砲来ますッ!!」

 

「総員衝撃に備え耐EMモード移行! 立体式操舵切り替えATフィールド推進開始、アスカちゃん!」

 

「ごめんAAAWunder、マジの大無茶をさせるわよ……ッ!」

 

 スロットルを最大船速に押し込みさらに加速する。被弾箇所の装甲が脱落し内殻装甲が一部露出し火花が散るが、一切意に介さずにデウスーラ2世目がけてさらに加速する。

 ヤマト作戦の再演とも呼ぶべきこの戦い。嘗てエアレーズングに一方的に砲撃されていたAAAWunderは、宇宙を引き裂く程の力を携えてデウスーラ2世に肉薄を仕掛けられる程になった。

 

 地球を救う為に宙を駆けた奇跡の戦艦。紅く染まった大地を海を元の姿に取り戻す為に戦い続けた彼らは、悠久の時を超えその使命を果たす一歩手前までやって来たのだ。

 

 

「来ますッ!!」

 

 

 観測に従事していた太田が声を上げ、その瞬間にAAAWunderを飲み込まんとするデスラー砲の光が激突した。黄金の波動エネルギーと赤い波動エネルギー……余剰次元から生まれた小宇宙クラスのエネルギー同士がぶつかり合い、暗く冷たいはず宇宙を焼く。

 衝突し行き場を失ったエネルギーが艦内でスパークとなり艦内通路を焼き、戦闘艦橋にも走ったスパークで全周スクリーンの一部が割れ破片が飛び散りモニターの一部分が丸ごと脱落した。さらに割れたスクリーンの破片が無重力の戦闘艦橋で慣性に従い飛び散ってしまった。

 

 2人とアスカを除く全員が対ショック姿勢で頭を低くしていたのが幸いし、なんとかケガ人はいなかった。

 

「不要区画への電源を生命維持と慣性制御以外切って! アスカちゃん押し切って!」

 

「電源カット、全隔壁閉鎖!」

 

「立体式操舵開始! 気張れ艦長さん、レイ!」

 

 

 

(分かった、式波さん……ッ!)

 

 

 

「ッ!? ……もう何でもいいやる気満々なら力をッ!」

 

 

 一気に操縦桿を押し込むと、艦尾を軸にして回るATフィールド輪が回転を強める。

 

 

「アタシに貸しなさいッ!」

 

 

 ATフィールドの反発力が全て推進力に転換され、デスラー砲を押し返し始める。恒星でも生まれたかと思うくらいの閃光にひび割れた全周スクリーンがノイズ塗れになるが、AAAWunderにエントリーし外部カメラ映像を直接視覚で捉える2人はその光景に圧倒されていた。

 

 黄金の波動エネルギーに衝突したデスラー砲が拡散され、減衰されているのにも関わらずあらゆる物体を消滅させていた。たまたま近くに浮いていた脱落した装甲板が消し飛ばされ、小惑星が消し飛ばされ、拡散し切ったホーキング輻射の射線上に至っては消しゴムで消したみたいにチリ1つ残さず綺麗に消し飛ばされた。

 

 さらに対生成と対消滅が一切休むことなく行われた結果膨大な量のガンマ線が発生し、その不可視の光の束が対生成された粒子を超高音に加熱してしまい光の束を生み出していた。それは簡易的なガンマ線バーストと言っても間違いではない現象で、宇宙空間で発生する天然の高出力レーザーが何本も生成されているのだ。

 

「針路そのままッ!」

 

 デスラー砲の濁流を拡散し弾き逸らしさらに進む。アダムス組織由来のATフィールドから生まれる推進力、ツインドライヴから生まれる波動エネルギーの防御力はAAAWunderに進む術を与え続けていく。イスカンダル次元波動理論と旧AAAWunder。2つの全く交わる事の無かった要素が、あるいは交わってはいけなかった要素が交わった事で、この奇跡を今体現できているのだ。

 

 やがてデスラー砲の照射限界に達し、その光が最初から無かったかの様に消えていく。ツインドライヴから生まれる波動エネルギーの殆どを消耗して防ぎ切りAAAWunderは外見はほぼ無傷を保ち、さらに無尽蔵に黄金の粒子を生み出す。デスラー砲を押し返す為に注ぎ込まれたすべての推力が一気に解放され、針路上でデスラー砲砲口を構えたまま静止しているデウスーラ2世を衝突コースにおさめた。

 

 

「推進をATフィールドから波動エネルギーの方に切り替える! 思いっきりやって下さい!」

 

 

「ありがとう! リク、レイちゃん!」

 

「フィールド張ったままで艦首をぶつける。そのままフィールドを中和してぶっ放す!」

 

「その後は慣性そのまま反転180度し急制動、後はミサトさんに賭ける!」

 

 

(大トリね! ちょっち気合入るじゃない!)

 

 

「マジで外したらシャレにならないんで!」

 

 唸るツインドライヴ。引き裂かれていく宇宙。引き裂いた先の宇宙からもエネルギーを引き出すAAAWunderは、鼻先にデウスーラ2世を衝突コースに捉え猛進していく。デウスーラ2世は必死に党酒用と魚雷や陽電子ビーム、カノンを連射するが全て無に還されていく。デスラー砲を撃たせた以上避けるという行為をしなくても良くなり、全ての砲撃に意を介さず進んでいく。

 

 一切の雷撃と砲撃が効かず、ガミラス史上最大の兵器であるデスラー砲でも撃沈出来ない。今のデウスーラ2世ではAAAWunderを撃沈せしめる手札を持たない。辛うじて使える手札はあるが、それも防がれてしまうだろう。

 

 イスカンダルの次元波動理論。それが地球の手に渡りさらに高次に至る代物と化し、それがデスラーの目の前に突きつけられている。これはイスカンダルの力だと、それを理解してしまったデスラーは絶望していた。

 

 今日に至るまでたった1人で秘密を抱え、ガミラス人民の未来を切り開くために全てを進めてきた。その支えが自らを見ていなかった。そして邪魔をしてきた。デスラーは、もう何も考えられなくなってしまった。

 

 

 

 

「ATフィールド全開! いくよ!?」

 

 もう戻れない所まで来てしまった以上、ここに来てまで覚悟を聞く事は意味すらない事だ。それでもこれ以上進ませる事に躊躇を覚えてしまい、ハルナはまた覚悟を聞いてしまった。

 

「分かってる! だから!」

 

 真正面から何かを受け止めるように片手を突き出すリクは応える。

 

「終わらせて帰るぞ、ハルナ!」

 

「……うん! 終わらせる、ここで!!」

 

 それに応えハルナも手をつき出す。2人の双眸から紅い光が漏れ、ハルナ、リク、そしてレイが天に向かって吼える。

 

 

「「「AェッッTィィッフィィィルドォォォッッ!!!」」」

 

 

 同時にシンクロした3人の強大な自我が、ほぼ全ての可視光を遮断する紫に輝くATフィールドを展開した。奇しくもかつて世界を守り世界を滅ぼしたエヴァンゲリオン初号機の様な紫に。だが三人でのシンクロに無理があったのか、中心から紅い光束が放射状にフィールド上に伸びては消えている。

 

 2人は知らないがレイは知っている。紫に、赤。自身を第10の使徒から助けるために覚醒したシンジに呼応した初号機の姿そのものだ。

 

 

「このままぶつけるっ!!!」

 

「ああもうっ! 何とでもやってやるわぁ!!」

 

 自らの視界すら閉ざす程のATフィールドを張ったAAAWunderは、一切減速することなくデウスーラ2世に激突した。デウスーラ2世もMark10でATフィールドを展開して艦首が圧し折れる事態を阻止したが3人纏めた強大なエゴの前に瞬く間に侵食され、Mark10に縛り付けられるアドバンスドアヤナミシリーズも侵食される。

 

 しかしレイは姉妹を見捨てない。ATフィールドをハルナとリクに任せ、レイはMark.10のアドバンスドアヤナミシリーズとシンクロを決行した。

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 ワタシは、アドバンスドアヤナミシリーズ。

 アダムスの器のニエとなる雌雄もなく純粋な魂だけで作られた穢れなき生命体。

 

 

 

 私は綾波レイ。

 綾波タイプの「2人目」。私は私しかいないと知っている、1人の魂。

 

 

 

 

 今、自分はMark10の中で立っている。そう認識する事は難しくなかった。全周スクリーンに映る戦闘風景もミサトも加持も見えない。ハルナとリクの存在を感じる事も出来ない。ただ、自分によく似た虚ろな少女と自分が立っているだけの、何もない寂しい空間だ。

 

 

 

「アナタは何? ワタシとは違う。知らない物に染まってしまって、穢れてしまっている」

 

 

「そう……貴方から見たらそう感じると思う。これは、私が見て、聞いて、触れて、感じた結果。誰も私と同じ魂にはなれない。誰も代わりがいると、私に言えない」

 

 

「ワタシ達アドバンスドアヤナミシリーズは、エヴァオップファータイプのパイロットとして製造された。それはアナタも同じ。エヴァンゲリオンパイロットして生み出されたパイロット。ワタシ達はパイロットという一部品として生み出されている」

 

 

「そう。綾波タイプは式波さんと同じようにパイロットという部品として生み出されている。でも、部品が自由意思を持ってはいけないと誰にも決められていない」

 

 

 レイの脳裏に蘇るのは、第9の使徒がやって来るまでの日常だ。エヴァ零号機で戦い、身体を維持しながら毎日を過ごす。その毎日に、クラスメイトとシンジがいた。

 

 初めて指令以外の人に微笑み、初めてお出かけをして、初めて「美味しい」と思い、初めて誰かの為に行動し、初めてすんなりと感謝の言葉を言い、初めて、心がぽかぽかした。

 

 

 

 初めて、誰かの思いに触れた。

 

 

 

 世界が滅び、全人類が消え、悠久の時が過ぎた。

 初めて誰かに強い興味を持ち、初めてその人に会おうと思った。

 

 

 そして、もう一度、「自分は自分しかいない」と言われた。

 

 

 初めて、大人の大きさに触れた。初めて、誰かの腕の中で泣いた。初めて、誰かを心配した。

 

 

 

 知らない誰か、そしてこの世界のシンジの為に戦おうと思った。

 

 

 

 綾波シリーズの初期設計からすれば、今のレイは異常そのものだろう。本来の仕様とプログラムから大きく逸脱した行動と言動は、シナリオの範疇の行動しかとらない筈の綾波シリーズにあってはならないはず。アドバンスドアヤナミシリーズの彼女から見れば、確かに「穢れている」だろう。

 

 

「ここにはNERVはいない、SEELEは……分からないけど。でも何故、そうまでしてここに閉じこもるの?」

 

「滅びを望むから」

 

「外を知りたいとは、思わないの?」

 

「滅べば、外は何もなくなるから。滅ぼせは全て終わり」

 

 話は平行線。滅びを望むアヤナミと外を知りたいと思うレイ。ここでレイは自身の経験を……ほんの一瞬だけで明確に思い出せるそれらを見せた。全ての綾波シリーズの源流に立つのはオリジナル綾波レイ。「純粋な魂だけで作られている」とはいえ綾波レイシリーズから派生した結果であり、その実態は綾波シリーズでしかないのだ。最初に感じる「感情の大きさ」だけは同じであり、そこからどう感じるかはそれぞれの綾波レイで異なるのだ。

 

 

 

「……これが、アナタが感じたモノ?」

 

「そう。ここまで170年。生まれ、死に、もう一度生まれた私の記憶。綾波シリーズの1つとして生まれ、第10の使徒で死に、この船でまた、綾波レイという個として生まれ直した、私の記憶」

 

「……期待できない」

 

「期待させる。だから、私と一緒に生きる気はない?」

 

 そう強く言うと、レイはその手をアヤナミに差し出した。

 

「生きる……とは?」

 

「……ごめんなさい。定義が曖昧だから、ハッキリと言えない。でも私は、その先に行く事が、生きるという事だと思う。「未来を目指す」はまだ大きすぎるけど、まずは「明日を迎える事」から」

 

「アシタ、とは?」

 

「今日という日を生きたその先にやって来るもの。日が昇り、沈み、月が昇り月か沈む。こうして今日が始まり、進み、そして終わり明日がやって来る。未来はもっと先の事。どう進むのかもまるで分らない、誰かの1つのアクションだけでその結末が変わってしまうとても不安定なもの。でも、その結末を想像すると何故か、ここか緩んでしまう」

 

 そこまで言うと、レイは自身の方を指で突いた。アヤナミは虚ろそうな目をしてはいたが、表情が変わり感情を滲ませるレイが珍しかったのか初めて明確な反応を見せた。

 

「アナタは異常。ワタシが見ると、そう見える。でも、何故……知りたいと思うの? これは、何?」

 

「興味、だと思う。知りたいと思う気持ち。今の貴方は、私という異常な綾波シリーズの私を知りたいと思っているの。本当に知りたいと思うなら、私がこうなった理由を、見せてあげる。一緒に来るなら、だけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「期待、出来ない。でも、キョウミが尽きないうちは、アナタという綾波シリーズを知る」

 

「ええ。なら、この手を取って欲しい。絶望の中に浸るより、他の何かを心の中に持つ方が、とても生き易いと思う」

 

「生き易さは、知らない。でも、キョウミの先にワタシを、連れて行って」

 

「ええ。約束する」

 

 差し出されたレイの手をアヤナミが握り、世界が解けていく。肉体から離れ、魂となったアヤナミはレイの中に入っていく。13の魂が住まうレイに加わったアドバンスドアヤナミシリーズ、14人目の綾波レイはレイの中に居場所を見つけ、パイロットを失ったMark10は機能を停止しATフィールドの消滅が始まる。

 

 放射状に広がる侵食痕はAAAWunderの吶喊で更に広がり、ATフィールドの破片が飛び散り消えていく。ミサトもレイも知らないATフィールドの消滅。大出力高エネルギー兵器での貫通とは異なる現象は、恒星規模のエネルギーが生まれては消えていった戦場を最後に彩っていく。

 

 

「ATフィールドのほ、崩壊を確認! 今ならいけます!」

 

「ミサトさん!」

 

 AAAWunderブリッジに立つミサトに王手が委ねられ、ミサトの目の前に六芒星のサイトマークが4つ表示され、思考1つで第2船体をロックオンした。

 

「主砲、ショックカノン用意!」

 

「測的誤差はギリギリまで直した、どう撃っても当たるぞ」

 

 ミサトの照準を加持がリアルタイムで補正を行う。初号機が使用した陽電子砲を凌ぐショックカノンを12門一気に撃てる。使徒の砲撃すら生温い一撃を今すぐにでも叩き込める。

 でも私怨では撃たない。WILLEは赤く染まった大地を元に戻し、赤く染まった海を青い姿に取り戻す為に生まれた。これは終わりではなく、ゴールに至る為のステップに過ぎないのだ。

 

 

「帰るわよ地球へ! 全砲門……ッ撃てぇえッ!!!」

 

 

 ミサトの号令で第1第2第3第4主砲から真っ白なショックカノンが放たれ、砲身を赤熱させながらも照射されたそれは周囲の空間に激しい放電を散らしながらデウスーラ2世の第2船体を艦首から艦尾まで真っ直ぐに過貫通させた。

 

「第2砲塔伝導管融解ッ!」

 

「エアレーズングを斥力で跳ね飛ばして生きてる主砲で狙って! 目標は機関部!」

 

 崩壊し切ったATフィールドの破片が舞い散る中、斥力でデウスーラ2世が吹き飛ばされる。第2船体の過貫通という甚大な損傷を負ったデウスーラ2世はまともな姿勢制御も儘ならず、AAAWunderの射界から逃れる事も出来ない。

 

「目標第2船体艦尾機関部、捉敵よし!」

 

「撃てぇえッ!」

 

 残った第1第3第4主砲で機関部付近を狙い更に射撃。装甲を易々と抉り飛ばし機関部を射抜かれたデウスーラ2世は両舷から凄まじい爆発を響かせ、自力航行能力を遂に失った。ゼルグート級すら動かすゲシュ=タム・ドライブが2基まとめて崩壊し、極めて不安定な空間に止めを刺すように宇宙を揺らしてしまった。

 

 原形を留めていたビーム砲塔、カノン砲塔が爆炎を拭きながら脱落し、主翼の片方が魚雷の誘爆で千切れ落ち、度重なるシステムエラーが重なりコアシップの波動コアにまで異常をきたしていく。異常反応を見せた波動コアの干渉波でメインシステムが焼き切れ、デウスーラ2世は戦闘能力を完全に喪失した。

 

 

 

 

「エアレーズング……止まりました」

 

「VLS装填して待機。各部点検を急いで、ツインドライヴは?」

 

「299%を維持……してるにゃ」

 

「……皆、ありがとう。ミサトさん、レイちゃん、やったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、アラートが上がった。

 

「状況は!?」

 

「大規模な空間異常を検知! これは……ッ空間位相が虚数値を出してます! 通常宇宙で虚数なんて……あり得ません!!」

 

「光学!」

 

 太田が大急ぎで観測カメラを向けた方向はAAAWunderの航跡だった。大きな爪で引き裂いたような跡が破片を散らしながらさらに裂けていく。裂けめの向こう側にも星が見えるが全ての色彩の明暗が反転した奇妙な世界が広がり、それを捉えようとする全ての観測機器が揃ってエラーを吐く。

 

「あれは……別の宇宙ね。私達の法則が通用しない以上、私達がこの裂け目を制御する術は……ない」

 

「クッ……! ツインドライヴがトドメだったのか!?」

 

「分からない! ツインドライヴ出力落として、アスカちゃん裂け目から離れて!」

 

 遅かった。ツインドライヴは余剰次元の全てを展開し切り、あろうことか隣接する宇宙との壁を穿ち抜きそこからも余剰次元からのエネルギーを得ていたのだ。乱暴に引き裂かれた境目は瞬く間に不安定となり無秩序に裂け目が広がり、隣接する1つの宇宙の物理法則が侵入を続けている。裂けめ付近の空間の明暗が反転し、既に侵食が始まっていることが見て分かる。

 

「とにかく離れる!」

 

「ああダメ! レイがATフィールド張って空間ごと独立させたみたいだけど進めない!」

 

「周辺空間に異常! 重力震を確認!」

 

「……ッ!?」

 

 AAAWunderを包み込むように突如発生した

 気付いた時には、何もない所から発生した重力震に飲み込まれ、AAAWunderは消えた。

 

 

 

 

 

 _______

 

 

 

 

 

 

「皆無事!? 各部点検急いで!」

 

「航法システム、火器管制、慣性制御、艦内生命維持、共に異常なし。ツインドライヴが解除されてます」

 

「解除? マリさん操作した?」

 

「神に誓ってしてないにゃ! ノータッチ!」

 

 重力震に包まれて強制的に跳躍させられた先は、全ての壁面に書物の様な物がびっしりと収められ図書館のような巨大な空間だった。2500mの巨体を収められる程の巨大な建物など、艦船ドックを除けば人類文明には存在しない筈だ。

 

「ここは……図書館なのか? でも何故、ここに飛ばされたんだ?」

 

 

《間に合ってよかったです》

 

 耳ではなく頭に声が響いた。それも2人だけではなく戦闘艦橋にいる全員、そしてミサトとレイ、加持にも届いていた。さらに全周スクリーンに小さく一人の人間、女性が映り込んだ。銀色の長い髪と銀の虹彩を瞬かせるその女性は、どことなくレーレライ・レールに似ている。その彼女は巨大な望遠鏡を覗き込みながら何かを掴もうと手を伸ばしていたが、AAAWunderの存在を目にすると頬を緩めた。

 

《ここは天文台。並列に生み出した宇宙を観測するための、アケーリアスの宙を見る天文台です。今は貴方達の為に大きくしています》

 

《あなた方のツインドライヴシステムが24番から25番宇宙に破孔を作ってしまったため、緊急隔離を行いました。24番だけでこれで2回目です》

 

 

「2回目? 前にもあったという事ですか?」

 

 

 これで2回目。AAAWunderのツインドライヴ以外にも同様の事が起こったのかと疑問に思ったリクは、景色に魅入られて動かないハルナに代わって聞いた。

 

《イスカンダルが、貴方方の暦で9000年前に同様のシステムを使用、その全エネルギーを波動砲につぎ込みエレメント収奪を行いました。その際に今回と同様の現象が発生し、イスカンダル波動砲艦の緊急隔離を行いました》

 

「エレメント?」

 

《今はその話をするタイミングではありません。現在、引き起こされた空間異常を記録を使用して異常発生の遥か前に修正しています。貴方方でも分かるようにお伝えすると、アカシックレコードというものを使っています》

 

「!?」

 

 多くの人は首を傾げたが、マリだけはその言葉の意味をはっきりと理解した。宇宙が誕生してからのすべての出来事、事象が記録された巨大なデータベースがまさしくそれであり、それを持っているという事はアケーリアスは「宇宙を作っている」、そうでなくても「いくつもの宇宙を観測している」という事になるのだ。

 

《あなた方がそれに辿り着いたのは、イスカンダルの入れ知恵抜きだという事は知っています。その力を破壊に向けず、生き抜くために使ったのは知っています》

 

《そしてその船。2番宇宙で実行されたアディショナルインパクトに利用されたAAAヴンダー、旧艦名NHGヴーセ。この世界にある筈がない船ですが、アディショナルインパクトで貴方達ごと24番に流れ着いたのでしょう。あれは複数の世界線からトリガーの望む世界線を選ぶような所業です。我々が生み出した世界からも無作為に選ばれ、AAAヴンダーが24番に落ちたのでしょう》

 

 彼女が指先で曼荼羅のような文様を空中に描くと、何もない空間から光が漏れ始め望遠鏡の指す向こう側に注ぎ込まれていく。注ぎ込まれるたびに荘厳な鐘の音が響き、これも耳ではなく頭に響く。

 

《その力を使うなとは、我々は言えません。ですが、慎重に》

 

 

 _________

 

 

 

「慎重に」の一言で、AAAWunderは元の宇宙に帰された。自身が引いた引き裂くような航跡は、未知の光によって最初から何も無かったかのように傷1つ残さず修復されていく。彼女は間違いなくアケーリアスだった。彼女の介入が無ければ、ツインドライヴは間違いなく「終わらせるための力」となってしまっていただろう。

 

「空間位相値……実数化していきます」

 

「……そうか。後方に警戒をしながらワープに入る。エアレーズングは?」

 

「第2船体の大破を確認しています。中央船体は健在です……完全にやらなくて良かったんですか?」

 

「戦闘能力はもう喪失している。俺たちは私怨で戦う訳じゃない。真田さん、いいですか?」

 

「ああ……反転180度。後方への警戒を続けながらワープ準備に入れ。この宙域を抜け次第ワープに入る」

 

 

 双方から尾を引く赤い光は少しずつ治まっていく。が、自分の中身が大きく変わってしまったような違和感と人から外れた事実を憂う。自身のすぐ真横にミサト、レイ、加持がいる感覚がして横を向いてみると、そこにはただリクだけがいた。

 

「終わったな」

 

「終わったね」

 

 神殺し対神殺し。宇宙を崩壊させる寸前までいったこの戦いは、双方に多くの犠牲者を出す結果となった。ある人は傷つき、ある人は怒り、ある人は嘆き悲しんだ。またある人は人すらやめる結果となった。

 戦いの先にはあるのはただ、「終わった」という結果だけだった。




終わらせるための力、これで完結です。

次回、最終回かもしれません。
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