宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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残酷描写注意です


イズモの子/新型艦艇と、WILLEの静かな発足

 結婚式から7日後 

 

 

 

 Wunder帰還と同時に休暇を与えられた乗組員は各々自宅に戻り十人十色の過ごし方をしていた。それはリクとハルナも同様であり、真田もその一人だった。

 

 休暇前に一斉に乗組員に辞令が下り、自動的に階級が繰り上げられた。その結果、リクとハルナ、古代と言った一尉だった面々は三佐に、真田は二佐に上がっていた。沖田艦長は艦長職から降り予備役となり入院。「地上に移るまではある程度回復する」事を目標にし闘病を続けている。

 2人の結婚式に参列できなかった事は悔しがっていたが、後日録画を渡したらホクホク顔で見ていたとの事だ。

 

 ……ちゃっかりキスシーン時にカメラをオフにしなかったマリは追い回されたらしい。

 

 その後、Wunderはまた空へ上がった。今度は運用に必要な最低限の人員と多くの作業員を乗せて。

 任務は全ての地下都市への電力の配給。波動エンジンは核融合がちっぽけに見える程の電力を生み出すオーバーテクノロジーであり、その発電能力を用い世界中への電力の配給が決定したのだ。指揮は真田が執る事となり、休暇もほどほどに現場に戻っていった。

 

 波動エンジンから生み出される莫大なエネルギーは世界中の地下都市に配給され、大容量の蓄電池を瞬く間に満たしていった。出向時に宙に向かって放たれた電力は、恩を返すかの様に各地に返されていく。

 その日から地下都市には久しぶりの照明が灯り、オムシス用の電力も確保することが出来た。あとは地上の植物を始めとした大量の有機物と人造タンパク質を使用し食料生産と医薬品製造が行われた。久しぶりの潤った配給に、地下都市は物理的にも精神的にも明るくなったそうだ。

 

 その過程でまた地球を一周。現在Wunderはハルナとリクの管理下から一時的にではあるが離れ、2週間の充電の旅に出ている。綾波が大人しくしてくれているか最初は心配したが、秘匿回線でまめに顔を出してくれるので、最初はひやひやしていた2人も今は安心している。

 

 その肝心の2人はというと、軽めにイチャイチャしていた。まだ若いはずの2人は連れ添った時間が長かったこともあり、熟年夫婦の様な成熟した関係が出来上がっていた。

 配給食糧で料理をしてみたり、新型艦艇の設計をしてみたりとなかなか楽しい日を過ごしていたが、Wunderの頃から睡眠時間が徐々に短くなっている事が気がかりらしい。ベットに入っても

 なかなか寝付けず睡眠時間は5時間を切った。中央大病院で診察を受けても問題なしなので、疑問を感じているが今は経過観察をしている。

 

 

 

 そんなこんなしていたある日、真田の端末に連絡が入った。

 

「デイブレイクの代表が、私にですか?」

 

『そうだ。電力配給の途中で済まないが、極東に戻る事は出来ないかね?』

 

「シーガルを1機拝借出来れば戻れるかと。以降の指揮は、榎本甲板長に任せます」

 

『済まないが、よろしく頼む』

 

 


 

 

 

「久しぶりにその制服だな」

 

「違和感が凄いです。ずっとあの服でしたから」

 

「すぐに慣れる。それと、それは付けていてもいいんだな」

 

 真田が言う「それ」はWILLEのバンダナだ。コスモリバースで()()()顕現したそれは地球帰還時に検疫に回されたが、「何の変哲もないただのバンダナ」と結論付けられあっさりと返還された。ハルナはそれをヘアゴムの代わりに使っていて、白銀の長い髪をポニーテールになる様にまとめている。

 

「上手く結べなかったので結んでもらったんです」

 

「……まぁ特に何も言われないのなら良いんじゃないのか? 立ち話もなんだ、済ませてしまおう」

 

 

 ______

 

 

「どうしても君達の方から出向いてもらいたかったのです」

 

「大丈夫ですよ、会長が私達の自宅にいらっしゃると目立ちますし、こちらから出向く事は考えてました」

 

「そこまで目立つでしょうか……お2人に出向いて頂いたのは、これをお渡しする為です」

 

 そういって、月村はアタッシュケースから洋式の封筒を一枚取り出し、それを丁寧にテーブルの上に置いた。

 

「零士様が地球をお立ちになった2111年に書かれた物です。零士様と風奏様、薫様の願い通りに誰の目にも触れない場所で保管が行われ、私を含め現在のメンバーはその内容を知りません。ですが先代代表から伺った話によると、このメッセージは帰還した自分に宛てたものではないようです」

 

「じゃあ……私たち宛、ですか?」

 

「恐らくは。昨日真空状態の最深部金庫室から取り出しました。状態は問題ないはずです。なので、お2人に内容の確認をお願いします」

 

 月村に促され、ハルナはその封筒を手に取り丁寧に封を開封した。およそ80年以上前の物ではあるが保管状況が極めて良かった為劣化はほとんどなく、大した苦も無く開封され便箋が取り出された。

 

 

 

 

暁○○、睦月○○へ

 

この手紙は、俺達が火星に渡る前日に書いたもので、それを実家で保管してもらっていつか来る日に渡して貰う様に頼んである。この手紙を読んでいるという事は、俺達の子供達は地球に帰って来たという事になる。まずは帰還おめでとう、元気にしていると嬉しいんだけど、元気だろうか? 

 

一応書いておくけど、俺達は地球に生きて帰ることを考慮には入れてない。18歳のどこにでもいる人間じゃ奴らの目を掻い潜って動き回るのは無理だから、地球には戻らない覚悟だ。だから宛先は「暁○○」にしてある。あとはまぁ、これが開封されている段階で俺達は死んでいる可能性が非常に高いんだ。その辺りの事は、その時の代表に聞いてほしい。

 

それと、もしもSEELEを追いたいとか壊滅させたいとか考えてるなら、実家を頼って欲しい。実家って言うのはデイブレイクだ。丁度俺の頃に親父が会長職してて、俺らが薫を保護してから調査を始めてくれているから、お前達が開封する頃合いにはいい具合に情報揃ってるはずだ。壊滅させるなり吊るし上げるなり煮るなり焼くなり切るなり茹でるなり自由にしなさい

 

現代表の方にお願いがあります。会長職はもう一条家の人がやっているわけじゃなく、どこかで代替わりして他の人がやっている筈です。それでも、僕達の子供たちが助けを求めていたら、どうか助けてあげて下さい。

僕たち3人の事はその代の会長さんだけに伝わっていくように一条代表、僕の父さんにお願いしています。僕達の事が、子供達が帰還するその日まで何とか伝わっている事を願っています。

 

色々長く書いてしまったけど、俺達はどこかで幸せを願ってるよ。

 

 

一条新渡(いちじょうあらと)/暁零士

藍川結花(あいかわゆいか)/睦月風奏

イズモ4号/暁薫

 

 

「お父さんっお母さん、風奏さん……また、会えたね」

 

 手紙を読み終えたハルナは便箋を抱き嗚咽を零した。リクの目元にも涙が浮かび、静かに肩を抱いている。近くで聞いていた月村もハンカチを取り出し目元を拭いた。

 イズモ4号という単語には疑問を持たざるを得なかったが、それでも、こうして文面という形ではあるが再会できたことに、

 

「零士様は、この未来を見据えていたのかもしれないね。デイブレイクは、再編された軍を通して全面的な支援と新型の開発援助を行うとここに私の名の元で約束します。そして、SEELE壊滅もです」

 

 

「それと月村さん。薫さんがイズモ4号と言われているのは、何故ですか?」

 

 リクが切り込んだのは、その「イズモ4号」に関する部分だ。そんな単語はMAGI3rdの中の報告書には記載されていなかった。確認したのはガリラヤベース関連の情報とMark6に関する部分だ。もしもまだ探せていない記憶領域に保存されているような物なら探せばいいだけだが、今目の前には何代にもわたってSEELEを調べてきた団体の会長がいる。聞いた方が手っ取り早く、真実を今すぐにするキーでもあるのだ。

 

 

「私も驚いています。デイブレイクで保管されている情報の中にもこの『イズモ』に関する記述はありますが、まさか薫様がここに記載するとは……。後日お伝えする手はずを整えていましたが……お聞きになりますか?」

 

「……正直言って怖いです。ですが、いずれ聞かないといけないので今聞いても後で聞いても同じです。お願いします」

 

 

 

「……場所を変えましょう」

 

 


 

 

 極東管区某所

 デイブレイクグループ保有区画内

 地下20階 秘匿区画

 

「ここはどこですか?」

 

「いざという時に備えて作られた人類サーバ等の秘匿区画が並ぶエリアです」

 

「人類サーバ?」

 

「遺伝子情報の保存です。人間、動物、植物、微生物にいたるあらゆる生命情報を格納し守り続けるための物です。尤も、そんなものはもういらなくなりましたが。こちらです」

 

 月村が見せたのはこじんまりとしたサーバだ。忙しく情報のやり取りがされているような雰囲気もなく、スタンドアローン化されたシステムである事が分かる。如何やら最低限の電力のみが供給されていて、外部に繋がるような情報ケーブルは繋がれていない。

 

「ここに情報が?」

 

「ですね。外部からの接触を全て断つために色々苦労した物だと先代会長は申しておりました。サーバというよりも記憶装置として運用されてきたという事ですね。……ありました」

 

 月村はそのサーバに備え付けられたノートPCを起動させてサーバ用OSにログインした。23世紀を迎えようとする今では珍しいノートPCは子気味いい音を立てて操作され、四苦八苦しながら目的のファイルを見つける事が出来た。

 

「ふぅ、お待たせしました。これがイズモ計画。裏死海文書から始まった、エヴァンゲリオンパイロット製造計画の極初期の計画です」

 

 

 


 

 

 

「死海文書というものはご存じですか?」

 

「死海文書……何かの資料でしょうか?」

 

「正確には写本です。ヘブライ語、アラム語、ギリシャ語等で書かれた旧約聖書の写しで、宗教的歴史的に見ても重要な資料です。世界の終わりを招く戦争を事細かに予言する文章も見つかった事で当時は学会を騒がせたのですが、それと同じ名称の資料が1つだけ存在します」

 

「それが我々が死海文書と呼称する石板です。第1始祖民族が用意したと思われる取扱説明書のような物で、予言論と一緒に大型の槍と巨大な人型生命が格納されていたとの事です。それの所在は何と旧横浜です。横浜の地下に黒き月と呼ばれる巨大な球体状の何かに格納されていたとの事です」

 

 月村が表示させたのは、極東管区の地下都市の構造と当時の建設データだった。一見すると分からないが、地下都市最深部付近、地球平均海面0mとして15000mも下に巨大な球体が存在している。そして最深部付近の地下施設は黒き月の表層部に沿うように建設されていて、そのどれもが研究用の施設だった。

 

 更に表示されたのは、極東管区地下都市建設に関わった企業、団体の名簿だ。南部重工を始めとした多くの企業と極東管区の工廠が名を連ねている。デイブレイクグループの名前も入っているが、地下都市の最深部の大部分は「SEELE?」となっている。

 

「これは我々が幾度も調査を行い纏め上げた資料です。巧妙な偽装が成されていましたが、内惑星戦争の時点で地下都市建設に関与していたとは想定外でした。……話を戻しましょう。彼らはその人型生命を操る為の制御装置を欲しました。それが、パイロットと呼称される人物です」

 

「そのパイロット製造計画は、21世紀の暮れから極初期の段階で行われていました。御存じですか? 渚カヲルの存在を」

 

「MAGI3rdにも、データは残っていました。渚カヲルがMark6と共に月にやって来たと」

 

「完全コピーの完全コピーですからね。残っていても可笑しくありません。尤も、こちらが入手したのはオリジナルのコピーですが」

 

「渚カヲルのお陰で22世紀後半でプロジェクトSOE、Start Of Evangelionが動きました。ですが今からお話しする事は、それ以前に行われていたパイロット製造計画です」

 

「デイブレイクってホント何なんですか……私怖くなってきますよ?」

 

「裏でSEELEを潰す為に躍起になる組織です。あとは宇宙の夢を叶える組織ですね。そしてそのパイロット製造計画は【Project Izumo】、イズモ計画と呼称されていました」

 

 

 ______

 

 

「イズモ計画は通常の人間を後天的にパイロットにしようとした計画で、所謂人体実験の類です。薬物投与や催眠は行われなかったそうですが、記憶操作や外科手術は行われました」

 

「外科手術……何をされたんですか、薫さんは」

 

「……覚悟はしてください」

 

 月村が取り出した動画は古く画質も荒かった。取り出す時点で破損したようでノイズに塗れている。しかし、その映像に映っている光景は手術台だった。切開された肉体に何かを埋め込む光景に

 2人は絶句し、思わず目を背けようとした。

 

(覚悟はしてたけどこれは……)

 

 それでも目を完全に閉じず、その動画を見た。被験者は年齢性別を問わず100人以上。手術時の動画の次には被検者に関するカルテを撮った動画が流れる。ほぼ全ての被検者の欄に「拒絶反応による死亡」と書き込まれている。

 

 拒絶反応で亡くなった遺体は、死亡確認から間を置かず再び手術台に上げられ開腹される。1つの生物の様に蠢く「それ」を取り出し、橙色の液体が入ったシリンダーに戻していく。それが終われば、遺体は広大な遺体安置室に運ばれていく。

 

 運ばれていく遺体は旧世紀の非道な実験と何ら変わりない手順で焼却され、灰塵にされていく。講堂並みの広さを持つ空間に大量の遺体が並べられ、焼却される瞬間を静かに待っている。

 

 映像はそこで途切れていた。実際に撮影をした人がどうなったかは分からない。逃げおおせる事が出来たのか、それとも映像を残して死んだのか。メモリーチップのみ回収する事が出来たものの

 行方不明であり、生死はそれはデイブレイクにも分からないという。

 

 

 

「後の調査で判明しましたが、移植され続けた物体はこの地球上のどの生物にも該当しない物でした。ただ1つを除いて」

 

 ただ1つ。それが何なのかは今までの情報で分かっていたが、如何しても口にしたくないと心が騒ぎ立てる。地球上の生物ではないなら地球外だ。それなら、今は1つしかない。

 

「コードネーム・リリス。黒き月の内部に安置されていた準完全生命体。死海文書には使徒と記載されていました」

 

「使徒……」

 

「薫様も同じことを奴らにされて、ある特定の条件が整い生き延びる事が出来たのでしょう。我々は、リリスを人間に適合させたのではと推測しています。その為に大量の被験者が用意され施術され、大量の遺体が生まれたと。薫様が生き延びる事が出来たのは偶然リリスが人間に適合する状態まで調整されていた為であり、彼らと同じ結果になっていたとしてもおかしくはありません。そして薫様が4号と呼称されるのであるなら、1号、2号、3号と呼称される生存者がいた、という事になります」

 

 月村が言う調整は、「人間の肉体を使用したリリスの調整と適合施術」を指している。リリスに人類の体を学習させ、学習元がダメになれば次、ダメになれば次、次、次、次、それを適合するまで繰り返させて、人類に馴染む段階に押し上げるという狂気の実験だ。

 

「結果的に、その初期計画はSEELEにとっては失敗に終わり全ての記録は抹消されました。その原因は薫様が施設から脱走された事による成功要因の不明確化です。成功例は薫様の保護以降調査では確認されていません。我々が掴んだ最後の情報は、データ、施設、機材のみならず被検者諸共存在を丸ごと全て消されたという事実のみです」

 

「……は?」

 

「そのような事をする組織を、我々は追いかけてきました」

 

 抹消した。データはまだいい、あろうことか被験者ごと全てを、その存在に至るまでを消した。SEELE案件に関わる時はある程度覚悟してから関わるようにしているが、これはもう度を越している。握る拳が震え、力を込め過ぎてしまう拳がだんだん白くなっていく。

 

「真田さん、月村さん、ちょっと……外してください」

 

「……睦月君」

 

「そろそろ限界なんです。抑えるのが」

 

 

 

 

 ______

 

 

 

 

 

ダァンッ!! 

 

「人類の補完とかほざきながら人体実験するとか狂ってんのか()()()()()()()()は!」

 

 押さえていた怒気が一気に拳に籠められ、八つ当たりされた壁が凹んだ。寧ろよくこれで済んだ方だ。自分が「SEELEぶっ殺すマン」にならないように抑えた結果、壁の一部分という最低限の犠牲が出てしまった。が、何とか発散できたとリクは安堵した。

 

 

()()()()の組織に成り下がったって事よ……あ、触れられると安心するけど今は触らない方が良いかも」

 

「え? うわっ! ……なんか凄いピリピリする」

 

 肩に触れようとしたら掌が何かに弾かれた。薄っすらとだが周辺の光が歪んでいる。掌に残る感触

 にはリクには覚えがあり、直ぐにそれが何なのかが分かった。

 

「流石に壁が凹むからATフィールドで弱めに発散してるの。負のオーラ大量放出だから、耐性ない人その場にいたらメンタルやられるかも。……大丈夫、だよね?」

 

「負のオーラ全開で壁を凹ませた人にそれを言うか? 流石に他の人だと訳も分からずメンタル壊すけど、ハルナのATフィールドは慣れてる。ほらここ」

 

 そう言いながらリクは壁にもたれかかる様に座り、自分の膝を叩いた。何も言わずにハルナはそこに頭を乗せ、深く息をついた。眼鏡を取ってポニーテールを束ねるWILLEのバンダナも解いてしまい完全に気を緩めてボンヤリとした顔になる。

 一応今も軍務中だ。でも今なら誰も見ていないから、いくら気を緩めようが誰も咎めない。

 

「うん、やっぱり……落ち着く。取り敢えずこのまんま」

 

「分かってる。ハルナはメンタルやるとこうなるからな」

 

「壁どうするの? 裸眼でも分かるくらい凹んでるけど」

 

「謝る。あと今目の前にあるサーバを叩き壊してしまえばスッキリするけど、壊したら情報無くなるから我慢する」

 

「このデータどうするの? 言い方アレだけど、使えそう?」

 

「今はどうしようもない。SEELEがこういう事をしていたというの分かっても、今すぐどうにかできるような手段も準備もないしそもそもしてない。やっぱり今すぐにでも準備をした方が良いって事だ」

 

「じゃあ今すぐにでも」

 

「三佐の権限は大きいけどそこまでの事は出来ない。上に話し通して調整してやっとだ。何なら発散してから藤堂長官に打診するか?」

 

「そうする。もう少し膝、頂戴」

 

 __________

 

 

「穏やかそうな方でしたが、あのように怒るとは……」

 

「あれ程明確に怒るのはなかなかありません」

 

 サーバルームから聞こえる怒声と打撃音に月村は驚いたが、真田は平然としていた。シャンブロウ海戦でガトランティスに見せた明確な怒りは真田もよく覚えている。自身すら恐怖するそれは今日の今日まで鳴りを潜めていたが、SEELEのイズモ計画の詳細でまた発露した。

 

 そして壁一枚挟んたこの通路からでも異様な雰囲気を感じ取っている。真田にはATフィールドを知覚できるような能力は存在していない。それでも人間の根底にある生存本能が「この先は危険」と訴えかけてきて足を踏み入れられない状態でいた。

 

「……魂の件は既に?」

 

「推論だらけの報告書ではありましたが、目を通しました。魂の欠片を交換し合った……にわかには信じがたいですが、現にそれを行ったからお2人はATフィールドを知覚しさらには可視化まで可能となった。SEELEが冗談を抜きで泡を吹く事態と言っていいでしょう」

 

「イレギュラーという事ですか」

 

「イレギュラーどころかシナリオ破壊者です。奴らのシナリオは、ATフィールドを用い各個人のATフィールドを飽和させ魂のみにする段階があります。それに対抗できてしまう、全人類の補完というお題目を掲げる奴らからすれば不確定要素であり、計画を根本から壊してしまう致命的なバグなんです」

 

 

 

「そこまで……貴方方は、何時からSEELEに関する調査を?」

 

「一条様と皆様が旅立つ直前より調査を行っています。代を重ね80年以上かかりましたがほぼ丸裸にすることが出来ました、後は居場所と手段のみです。それと、真田二佐にお伝えする事があります。後ほどお2人にもお伝えいただければ」

 

「何でしょう?」

 

「藤堂長官からSEELE案件として伺いましたが、AAAWunderはアダムス組織……リリスに近似する素材を使用していますね? SEELEがその存在を知るのは時間の問題です。あるいは火星での引き上げ時から既に把握しているかもしれません。強奪という手段に乗り出してくることも考慮し、早急に対策を考案される事をお勧めします。場合によっては、Wunderのミッションレコーダの改ざんも視野に入れるべきかと」

 

「ご忠告、感謝します。ミッションレコーダの件は元よりそうする積もりです」

 

「少なくともAAAWunderとその中枢に関わる部分、お2人に関する部分は絶対です。お2人の新型艦艇の事もありますので、余計な障害は徹底的に排すべきかと」

 

 


 

 

 異様な雰囲気が収まったと感じた真田は月村とサーバルームに戻ると、膝枕で微睡むするハルナと膝枕されているリクが座っていた。

 

「真田さん、月村さん、もう少し……このままでいいですか?」

 

「それは……まぁ……はぁ、好きにしなさい」

 

「えっと……真田三佐、これは……」

 

「結婚してまだ殆ど経っていないんです、慣れて下さい」

 

 慣れている真田はそのまま2人にアダムス組織の話をしていく。

 要約するとこうだ。「リリスに近似するアダムス組織をSEELEが狙って来てもおかしくない。だから備えるべき。手段は選ばず、極東管区全体をグルにしてでも隠すべきである」

 

 流石にそこまで対策するべきかと2人は考えたが、SEELEは「ああいう事」をする連中と分かってしまった以上手は抜けないと考え直しそれに賛成した。

 

「レコーダは国連安保理には、まだ出してないんですよね?」

 

「まだだ。メインのインフラ回復が最優先となった以上、Wunderが地球全体の電力問題を解決してから安保理と開封が行われる。場所はWunderだ」

 

「ニューヨークじゃないんですか?」

 

「各管区を回りながら管区代表を集めていくそうだ。国連本部があるニューヨークでやるのが通常の筈だが、わざわざWunderでやるのは私としては納得がいかない。既に動いている……と見るべきか」

 

「あのイカれオカルト……」

 

「確かに非道な行いをこれでもかとしているが、口が悪いぞ」

 

「……兎も角私も許せないよ。あんな事をした以上は裁かれるべき。それが法でも武力でも誰かの復讐でも。私が……いや、私達は止めても裁かない方が良いかな。勢いで復讐するかも」

 

 徐々に人から外れ続ける2人だから、せめて心だけは人であり続けたい。

 何も残らない復讐をしても何がどうこうなる訳でもないし、それで心を壊してしまったらもう人ですらない。だから、裁きは上に任せる事にした。

 

 それでも、止めるのは自分達であるべきと思っている。

 

 ハルナは今まで、自身の体には2つの血が流れていると思っていた。人間と、リリス。そこに大量の被験者の血ときた。大量の被験者の上に薫がいて、薫と一条……零士の間に生まれたのがハルナ。直接的な関係は少ないにしろ関係ないと決して言えず、自分達以外の誰かに任せるのではなく、自分たちで決着をつけるべきと思ったのだ。

 

 

「しかし、現状上層部以外の人員を引き込む事は厳しいかと。デイブレイクの人員は問題ありませんが、極東の人員の中にSEELEの手の者がいてもおかしくはありません。調査過程で無自覚に諜報員に仕立て上げられた者も確認していますが、現在でもどのように仕立てるのかが分かっていないのです」

 

「無自覚の諜報員?」

 

「洗脳の痕跡もない諜報員です。かといって自分がやっていた事すら覚えていないと皆口を揃える始末で、メモリースクープで映像を取り出しても当時の状況を確認できないのです。薬物系か催眠系かはたまた別の何かか……これだけは、現在まで分からないのです」

 

「じゃあ、SEELE案件絡みである事を隠しながら各種準備を進めるという事で。今は極東のみで纏めて、極東帰還までにミッションレコーダの改ざんと新型の提案をしていこう。他に目立ったことはありましたか?」

 

「……耳を貸してくれ。月村会長、出来れば」

 

「外していますのでどうぞ? 耳も塞いでおきましょう」

 

 月村がサーバルームから出たのを確認した真田は2人に顔を寄せて耳元で情報を開示した。

 

「地球上の数か所に重力異常が確認されている。これは推測だが、分かりやすく言うと『竜宮城の逆』のような空間があるかもしれない」

 

「重力異常?」

 

「いずれも地下都市には影響がなく、人類が居住していなかった地域や海域で発生している。まだ各国への情報開示が行われていないからこの事は内密に頼む」

 

「逆竜宮城……通常より時間が速く進むって事ですか?」

 

「例えのとおりならそうなる。重力が弱ければ時間の流れは速くなり逆も起こる。外で1日が経つ頃には逆竜宮城では数日が経っている筈だ。それとは別に、アリア条約締結時の約束もあるから手早く安保理を進めておく必要がある。安保理が終われば、次はガミラスの訪問だ」

 

「藤堂長官は?」

 

「立場上全て知っていて、協力してもらえる。外交権の無い状態で外交をして、その上条約順守を迫るような方法を使ったからな。その後の計画もだ」

 

 イスク・サン・アリア条約締結時にガミラスに提示した内容の1つに、「イスカンダルを発ってから210日以降を目安に、地球に対し安保条約を結びに向かう」というものがある。おまけに安保の条件が「イスク・サン・アリア条約の順守」が前提となっている。

 

 これはガミラス本土側の国民感情等を応用している為、地球側からすれば「何を言っているんだコイツらは」と思うかもしれないがガミラスの立場に立って考えてみればあり得ない事もない。もしその条件を断ろうとした場合は安保と復興支援はない。安保を取れば波動砲艦隊の生まれるキッカケはほぼ消える。

 上は、国際波動砲使用制限条約を曲解、もしくは破棄して波動砲艦隊を揃える事も視野に入れているかもしれない。そこで新型艦艇の提案を行い妥協と世界中の協力を取り付ける事が出来れば、波動砲なんかに頼らなくて十二分に戦える艦隊の完成を迎え、波動砲の便利武器化を防ぎ戦略兵器の立場に抑え続ける。

 

 新型艦艇なら少なくとも、波動砲の三段撃ちよりかは余程柔軟に動き回って効果的に敵艦を撃沈できるだろう。

 

 そしてガミラス使節艦隊との会談に自分たちも出席し、太陽系駐留艦隊及び教導艦隊の派遣を要請する。仕上げにガトランティス艦隊を相手にした実戦訓練も含めて訓練で丸1年。

 

 ここまで綺麗にやり切れば、推定4年以内でちゃんとした宇宙海軍の再建は完了する。この計画は藤堂長官も承認済みであり、既に始まってもいるのだ。

 

「全ては私達のシナリオ通りにいかないとね。知ってる人を増やしながら仲間は増やしていきますよ」

 

「君達……はぁ。君達のシナリオ通りなら、どうせアリア条約に対応した条約戦艦の件でお呼びがかかる。下準備は済ませておいた方が良い」

 

「お話終わりましたか?」

 

「終わりました。お待たせしました」

 

「一通りお話しされていたようですが、SEELEの件は如何されるお積もりですか?」

 

「潰します。その準備で大急ぎになりますが、例の音頭取りの方はどうなりましたか?」

 

「極東からコスモファルコンやコスモシーガルに同乗させて頂き世界中に飛びましたが、貴方方の名前1つで皆食い入ってきました。よろしければ当時のお話をお聞かせしましょうか? ひとまず参加組織は全管区。全面協力はうちと南部重工、北米管区、エプシロン、宙帝造船、マクダエル・ドグラム、ロックウィード・マーディン、富嶽重工、揚羽コンツェルン、サナリィ、光菱、国連宇宙軍宙技廠……宇宙軍は協力してくれます。それと、北米のヘブンアイランド技研です。それも素材提供の申し出付きです」

 

「素材って何のですか? フレームですか?」

 

「いえ、それが装甲板でした。なんでも大電流で物質構造が変化する特殊合金の第4次改良型らしくて、VPSS・ATLH……『Variable Phase Shift Structure that Achieves Theoretical Limit Hardness』と呼称するみたいです。当時は無重力空間でのみ製造可能だったそうですが、地球重力環境下でも十分な強度を保ちながら大量に精錬する方法があるとの事です。資源面も問題ないそうです」

 

「和訳すると?」

 

「そのままの意味なら『理論的限界硬度達成型可変相転移構造体』です。旧式の宙雷艇と核融合機関でガミラス戦争開始前に物理耐性の限界を探す試験を行っていたらしいのですが、戦争が始まった事で実働艦艇への実装が間に合わなかったと。遊星爆弾で工廠も潰されたので製造方法のみ残り続けたと、担当者は申していました。最終進化系と自信満々に申していましたので、お早目にコンタクトされた方がよろしいかと」

 

「物理最強候補の装甲か……分かりました。安保理が終わったらアイリス長官にコンタクトを取って、ヘブンアイランド技研と話をしてみます」

 

 

 

 


 

 

 

 

 こうして帰路に就いた2人と真田は藤堂に全てを報告し、報告書もまとめられた。余りにも秘匿性の高い情報であったため電子的情報は一切使わず紙の報告書で纏められ、行政府の金庫に厳重に保管された。因みにダミーも用意された。

 

 その4日後に、各管区の要人を乗せたWunderが極東に帰還し安保理が開催された。内容は各管区のエネルギー問題と食糧問題の改善状況、Wunderミッションレコーダの内容。イスカンダルで締結したイスク・サン・アリア条約、そして、「ガミラス以外の異星人の存在」だった。

 

 予想通りというか何というか、一部の管区からは波動砲条約を破棄してでも波動砲艦を揃えるべきではという声も上がり議会は紛糾した。

 そこに藤堂長官が待ったをかけた。仮に波動砲艦隊を揃えて波動砲主体の戦闘を行った場合の危険性と戦術的な脆弱性を真摯に説明し、ひとまず落ち着いてもらう事が出来た。

 が、まだあきらめていない雰囲気は合った為警戒は続けるそうだ。

 

 そこですかさず月村とリクとハルナが登場。新型艦艇のプランをモニターに提示した。

 

 第2世代艦艇、仮称「アリア条約型艦艇」が掲げるドクトリンは「遠隔操作対応型武装選択汎用艦構想」だ。

 

 随分長いドクトリンだけど、ここで説明をしていこうかと思う。

 

 ガミラス戦争で人口が3分の1となった地球は人的資源の不足を深刻にとらえている。優秀な船乗りが死に、ガミラス戦争を生き抜いたタフな人材を除けば新兵ばっかりな状況だ。

 

 そこで、このドクトリンだ。

 まず「遠隔操作対応型」という部分。これは有人型でありながら無人艦として遠隔操作できるという事だ。例えば有人艦に無人艦操作用のCICを設け索敵に対空、砲雷撃戦を行うことが出来る。各艦艇を超空間通信で繋ぐことを大前提としたこの仕組みは人員不足の新生宇宙軍にとって欠かせない装備になるだろう。

 なお、仮に超空間通信の途絶、もしくは妨害による通信障害が発生した場合は、近距離レーザー通信に切り替わり自律防御行動を開始し移動、コントロール元の有人艦に集結し防空陣形を敷き警戒モードに入る。これは、AIによる自立砲雷撃戦機能を危惧した故の結論で、1隻で1つの都市を壊滅させられるクラスの兵器を積む以上人の手から離してはいけない為「自立砲雷撃戦機能」は秘匿機能とされたのだ。

 

 次に「武装選択」の部分だが、これはオーバードウェポンによる物が大きい。

 艦体側面にウェポンコネクタが設けられており、そこにオーバードウェポンから伸びるマウントコネクタを接続する事で特別な設定も無しで装備可能となっている。

 主に砲塔では搭載できない口径の大威力兵器だが、防御に重きを置いたヤタノカガミといった波動防壁腕もある。さらにレーダーの増強やミサイルコンテナ、追加ブースターも考案されており、戦艦に簡易空母機能を持たせるオーバードウェポンも案として挙がっている。元ネタはWunder第2格納庫、Wunder様様だ。

 そしてこれは構想段階だが、主砲副砲VLS、対空砲の選択も視野に入っている。オーバードウェポンよりも難しいが、あの2人はこっちが本命と考えている。

 

 最後に「汎用艦」

 戦艦として作ってはいるが、実際は輸送船や連絡艇、工作艦や作業艇としての運用も視野に入っている。人員不足と言ったが機体も不足しているのが現状であり、装甲材の変更や武装撤去、もしくは主機の換装で民間仕様に変える事も可能だ。

 しかし民間仕様にする過程で取り外した主砲塔のトランク部分がデッドスペースとなってしまう事が挙げられていて、それをどうするか悩んでいるようだ。

 

 そしてこの新型艦艇の設計と建造は月村率いるデイブレイクの尽力で世界中の協力が約束されている。まずは全管区。企業からは南部重工、揚羽コンツェルン、エプシロン、宙帝造船、ヘブンアイランド技研、マクダエル・ドグラム、ロックウィード・マーディン、富嶽重工、サナリィ、そして国連宇宙軍宙技廠。

 

 

 ここで音頭取りの当時の状況を説明しようと思う。

 

 

 ハルナとリクから音頭取りを依頼されたデイブレイクグループは、会長の月村から「時が来た」という事で2人の事情と零士と風奏の願いをグループ内に限り開示。少なくないリソースを投入し極東からのコスモファルコン、コスモシーガル等に同乗し世界中へ散った。

 

 実は交渉というよりも只の意思確認の様になっていた。Wunder建造に関わったエプシロン、宙帝造船とも「やる」か「やらないか」の答えを飛ばしてやる気満々の眼で「何が必要だ」と聞いてきたので担当員が引いた。

 

 北米管区は「リソースを惜しまずに提供する」とデイブレイクに叩きつける程であり、担当員を乗せた機体をレイチェルの旧エリア51極大深度格納庫に駐機させるくらいだった。機能停止しているとはいえ極秘は極秘。そんな所に駐機する事も許可して受け入れ態勢を迅速に進めてたことに担当員が引いた。

 

(この件はアイリス長官の働きが大きいが、当時使える格納庫がそこだったという事もある)

 

 さらにヘブンアイランド技研はハルナとリクの計画を聞くなりVPSS・ATLHの僅かなサンプルを持ち出して「お土産感覚」で担当員に押し付ける程だったので、担当員が引いた。

 

 南部重工に至っては奇跡的にモスボール保存されていた磯風型の数隻を引っ張り出してそれで地球を回って各管区に話を付けに行こうと言い出す始末で、担当員が引いた。

 

 さらにどこで聞きつけたのか生き延びた企業群がデイブレイクに集まり「俺達にもやらせろ」と言い出す始末で月村が引いたが、来る者拒まずスタイルで一先ず受け入れて、徹底的に調査した上で引き込んだ。

 

 

 

 技術系企業は縦の繋がりより横のつながりの方が大きいが、「Wunder建造」という圧倒的なネームバリューで想定以上の企業が集まってしまい、音頭取りを頼み込んだ2人も冗談抜きで腰を抜かしてしまったのだ。

 

 

 

 

 しかしそれにすぐに賛同するほど上は甘くない。いや、2人の案に重大な問題点がある訳ではないが、ここにいるのは若い世代ではなく、内惑星戦争を知る世代だ。

 

 2人は感知しているが、マーズノイドが主導で新型艦艇の建造を勧めようとしている事に奇異の目が向けられている。この会議の出席者は地球人で構成されている。内惑星戦争が終結し地球に強制移住させられた火星人類は蔑まれてきた。白い髪と赤い目は火星人類である事の証明。現に移住させられた火星人は髪を染めるなりカラーコンタクトを入れて見た目を誤魔化してきた。

 

 内惑星世代ではない2人はあまり実感はないが、それでも自分たちを「色眼鏡」で見ようとする人が多いのだ。「火星人が出てきやがって」といった感じだ。

 

 

「この中に、『火星人が何を言っている』と考えている人もいるかもしれません。ですが、今は地球人類とか火星人類でああだこうだと言い合える様な状況ではありません。既に関連企業の皆様にはお伝えしてありますが、この場をお借りして皆様にこう言わせて頂きます」

 

 

 

「人類を守る力が欲しかったらまずは色眼鏡を外してください。外して貰えたら、50年以上現役を張れる第2世代を生み出します」

 

 

 

 50年運用できる戦艦。耐用年数ではなく世代の問題だが、現に金剛型宇宙戦艦は設計されてから内惑星戦争を生き抜きガミラス戦争に突入した。設計されて25年以上が経過しているはずだ。

 核融合搭載艦で25年。波動エンジンなら出来る事も増えるのでもっといけるだろう。アップデートを重ねていけば50年をも超えられる。

 

 搭載技術は何とかなる。あとは時間だ。それは真田から聞いた「逆竜宮城」を使用すれば何とかなるかもしれない。まだ議題には上がっていないが、極秘裏に調査くらいは行ったはずだ。

 もしもそこに大規模な工廠を建設することが出来れば、そこで復興資材を生み出し艦艇を生み出すことが出来るだろうが、通常空間の数倍の勢いで資源を使う事になる事は忘れてはいけない。それは衛星鉱山かガミラスから資源を格安で買い付けて使用する事になるだろう。使いすぎには要注意だ。

 

 逆竜宮城という反則技を使っても、軍備再建は時間との勝負だ。かといって軍備に舵を取り過ぎて復興を疎かにしてもいけない。

 そこで、軍艦を民間用に換装して作業艦に仕立てて復興にも使う事を前提にしながら建造を行い同時に復興物資を用意していく。オーバードウェポンの概念を拡張し作業用の大型腕を装着すれば慣性制御に任せてビルの部品を運ぶ事も出来るだろう。

 尤もビルの骨組みを別の現場で「寝かせて組み立てる」必要がありそれを運ぶには作業艦が数隻必要になってしまう。

 

 要約すると、新規に作業艇を作らなくてもいいのだ。

 

 更にここに大型の人型作業機がいれば、高所に生身の人間が向かわなくても作業機に乗り込みコクピット越しに作業を行う事が出来る。さすがに人型作業機は厳しいのでこの部分はまだ夢物語だ。

 

 大分バカげているが、「復興への投入」には復興政策の推進を行う人物が興味を示してくれた。

 

 そして波動砲は、第一次建造計画では非搭載で進める予定でいる。アリア条約で50隻に絞られた波動砲搭載艦艇は慎重に建造していく必要がある。それは新型艦艇の構造上「換装」という形が取れないからだ。外装式であれば可能かもしれないが、どちらにせよエネルギーラインを艦体内部に敷き直す必要がある。それに伝導管は波動砲用とショックカノン用では大きく異なる為、オーバーホールをして敷き直す工程が必要がある。その為、換装を考えず「波動砲搭載艦」と「艦首ショックカノン搭載艦」と分けてしまった方が良いのだ。

 

 

 議会は紛糾した、それは勿論だ。頭では「魅力的なプラン」に聞こえるが、余りにも未知が多いのだ。波動エンジン、ワープ、オーバードウェポン。初めて本格運用する物ばかりで本当に復興に使用できるのかも確認できていないのだ。

 しかし、ここに1つの資料が提出された。題名は「仮称第2世代艦艇とオーバードウェポンシステムの運用、及び運用により生まれる戦果と現有技術の復興への使用用途」だ。

 執筆したのは沖田十三。現在は予備役となり療養している彼が提出したそれは、まだ仮説段階、もしくは兵装として設計段階であったオーバードウェポンに関する自らの見解と実現可能な運用方法だ。

 そこには2人が説明したような作業腕としての使い方や復興政策での巨大物運搬も含まれていた。その他にも、波動エンジンで一つの管区の全電源を賄う事や、新型艦艇がカミナリサマを運用した場合の想定効果範囲、そして艦艇1つ1つに個別の支援AIを搭載して運用する事も書かれていた。

 

 あの沖田十三が賛成している。内惑星戦争、ガミラス戦争を勝ち抜き人類を救った英雄が賛成している。それは強い追い風となり2人の計画は強く推された。

 

 

 

 

 結果、波動砲艦隊派からの反対はあったもののこの計画は可決され、各管区、企業からの技術者派遣と技術情報の集積も同時に可決された。

 

 

 

 

 そして最後の議題として、2200年3月31日をもって国連は解体され2200年4月1日より地球連邦が発足される事なった。新元号は「AW」「AfterWar」の略だ。

 

 

 


 

 

 

「一先ず安保理は終わったな」

 

「ああ。しかし、竜宮城の事は出なかったな。アレはまだ詳細な調査が必要だからまだ先の話だ。少なくとも、使節艦隊の到着までにはどうにかして調査結果は用意しておこう」

 

「お願いします。ああ真田さん、あとこれを」

 

「これは……バンダナ?」

 

「作ってもらったんです。レイちゃんもスカーフみたいにして付けているそうですよ」

 

「つまり、私も身に着けた方が良いという事かな」

 

「無理にとは言いませんが。当時のWILLEで殆どの人はこれを付けていたそうです」

 

「ふむ……WILLEへの入隊を希望する、これでいいかな?」

 

「芝居がかってますね。でも、まだ4人しかいないので大して動きませんよ?」

 

 芝居がかってると自分で言いながらノリで敬礼を返すリクは早速そのバンダナを真田の腕を縛った。今のWILLEはハルナ、リク、真田、そして綾波で構成されている。

 

 

 

 敵は外からも内からも来るかもしれない。

 いずれ来るその日に備えて、WILLEは静かに牙を育て始めたのであった。




SEELE、許すまじ
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