宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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バーガー君、いらっしゃいませ
地球の政治家さん、ハルリクを敵に回さないでね?


ガミラス使節団護衛艦隊と再会

 その後、地球人類は2199年を超え、無事に2200年を迎えることが出来た。

 国連の解体と地球連邦設立まで残り2か月。各管区で調整が行われる中、遂にこの時がやって来たと各管区の代表は表情を硬くした。

 ただし当の2人と真田はそろそろだろうと備えていたので「いいタイミングだ」と思っている。

 

 地表に建設された仮設観測所が外宇宙からの電波を受信したのだ。自然天体からの電波ではなく明らかに指向性を持って発信された人工の電波であり、直ちに安保理の緊急会合が開かれた。

 

 その電波は地球上で使われている周波数に合わせられていて、日本語と英語の文章が送信されていた。

 

 

 

《こちらガミラス暫定政権、遣地球使節艦隊。我に敵対意志無し。貴国との停戦、ならびに友好条約の締結を望む》

 

 

 

 発信位置は火星軌道上で、その方向に観測を行うとケルカピア級とクリピテラ級が確認できた。2隻のみなのは様子を見るために火星軌道までやって来ただけで、太陽系外には使節艦隊の本隊がいるのだろうと容易に推測がついた。

 

 議会は勿論紛糾した。第1に、アレは本当にガミラスの使節艦隊なのかが分からなかった。使節を騙ってやって来て侵略行為を行う積もりだと言い放つ者も出る始末だ。第2に、地球の防衛戦力はWunderしかいないという事だ。2隻だけならWunderのVLSや主砲でいとも簡単に落とせるが、Wunderの対応能力を超える数であった場合はそうもいかない。

 一応安保理が知らない手札であるツインドライヴを使えば轢き潰すような真似も可能だが、それは本当に奥の手だから正直に言って使えないのだ。

 

 

 しかし本当に使節艦隊なら、こちらが無反応を決め込めば「戦争継続の意思」と受け取られかねない。たった1艦で地球を守り抜けだと? 冗談じゃない。戦争継続能力はとうに残っていないのだ。

 

 

 

 という事で、Wunderはその申し出に答えるために再び宙に上がる事となった。

 

 


 

 

「Wunder、発進!」

 

 艦長代理を務める事となった古代は艦長席に座らず戦闘艦橋に浮いていた。地球帰還から簡易整備のみしか受けられず航海艦橋の修復すら行われていないが、それでも何処かの設計者のように元気に頑張って飛びあがった。

 

 銀河間航行を支えた2基の波動エンジンもご機嫌に唸りをあげ、くたびれた様な素振りも一切見せずにWunderを高く高く舞い上がらせる。大気の壁を割き、重力など意に介さず、鳥籠のあった静止衛星軌道を超える。

 

「月軌道外周に入り次第ワープに入る。まだ使節かどうかも分かっていないんだ、気を抜くなよ」

 

「「「了解」」」

 

 イスカンダルからの復路もあって指揮官が板についた古代はもたつく事もなく指示を回していく。そんな頼もしい姿を見つめるのはレーダー席に座る森だった。コスモリバースで蘇生した森の健康状態は良好。帰還後に一時検査入院となったが、すぐに退院できた森はそのまま軍に戻り復興に駆けずり回っていた。

 

 古代とは部署が違うとはいえ仕事の合間を見つけて時間を合わせて会ったりもしている。あの2人の様に帰還後即結婚とはいかなかったが、まずはお互いをもっと深く知ろうという事で分かり合う事から始めたようだ。

 

「真田さんも来れてよかったです」

 

「招集がかかったんだ、仕方がない。それより、生活の方はどうかな」

 

「睡眠時間が短くなっていくのは気になりますけど、割と幸せです。睡眠時間はまぁ……例のやつかもしれませんが」

 

「エヴァの呪縛か……眠れなくなっていく以外には?」

 

「レイちゃん曰く食事すらいらなくなるみたいです。そこまでくると……色々荒みそうです」

 

「抑制は……厳しいかもしれないな」

 

「そうなったら別の楽しみでも見つけます。そういえば、次元波動理論研究局の方はどうですか?」

 

「人員は集まっている。あとはイスカンダル設計図と私達の改良型の設計図を基に小さくしていく。赤木博士とマリ君にも色々と話して、極東に拠点を移してもらいこちらの陣営に入ってもらった。ああ、入ってもらったというのはこれの事だ」

 

 そう言うと真田はポケットから水色のバンダナをチラリと見せた。真田はWILLEの復活に好意的で、まずはWunder乗員の中でも親しい面々を引き込もうと考えている。手始めに赤木博士とマリ。そして古代や島、艦橋メンバーは丸々引き込むつもりだ。

 

 なぜそこまでするのか。それは真田には1つ予想する未来があるからだ。できれば外れて欲しいと思ってはいるが、極東の分散首都化が先に確定事項となっていた事もあり1番警戒している。

 極東の地下奥深くに黒き月なる遺物が残されていて、それをSEELEが研究し続けようとして地下都市建設に入り込もうとした。分散首都にも恐らく関わろうとしている。それはリリス絡みの黒き月を諦めていないからだ。

 

 

 

 ここまでくれば、Wunderの強奪なんてシャレにならない事も起こるかもしれない。

 

 

 

 流石に強奪されても動かしようがないはずだが、もしもに備えて「動かすだけなら最低限必要な要員」を確保しておきたい。そういう事もあり、1番艦橋の出入りが多い「いつもの艦橋メンバー」の確保に動こうとしているのだ。

 

 

「話したんですか? アレを」

 

「流石に伏せている。アレは君の許可が必要だ。でも、いずれ知らなければならないと私は考えている」

 

「その時は私の口から話します。他には?」

 

「騒がれない程度に少しずつ艦橋メンバーを引き込む。関連企業の方はまだ先だ。月村会長の参加企業再調査の結果次第となるが、万が一の時の混乱は少なくしたい」

 

「WILLE計画。因みに長官は?」

 

「保留だが、今後のSEELEの動きで「実害が出た場合」計画は即時承認され直ちに実行される。だが再調査の件はすぐに了承が貰えたよ。暫くかかる」

 

 相当な事を上申した事を分かってはいるものの、あのときの藤堂の顔ときたら渋い顔を通り越して頭を抱えていた。Wunderが「技術的特異点」かつ「アダムス組織採用型戦艦」かつ「エヴァンゲリオンで滅んだ世界からの余りにも危険な落とし物」である事が分かって以降、藤堂はどうすべきかと頭を悩ませていた。

 

 別に運用停止や廃艦を考えているわけではない。だが、Wunderを狙う輩がいるかもしれないという事は常に強奪の警戒やその周辺の調査が必要、もしくはWunderに深く関わる人物の警護の必要性などなど、兎に角必要になる事が多すぎる。

 が、同時に今なら手を出され難い事も理解している。ガミラス戦争であらゆる物資が不足気味で地上には復興用仮設拠点以外何もない。つまり、強奪するにしても地球のある程度の復興と準備が必要という事だ。

 

 それならば、地上への本格的な復員が始まる前に万全の対策を施し強奪は起こるものとして備える。起こったら手筈通りに平和維持軍宇宙軍をWILLEとして独立させる。

 

 

 

「どちらにせよ、WILLEは進めるべきなのか?」

 

 

 

 そこは最後まで疑問として残り続けたが、現在の国連安保理に口出し可能な存在がいる以上強引に決議を通し「接収」なんて事が起こればどうしようもない。

 だから、結局進める事となったのだ。

 

 

 

 ________

 

 

 

「ワープ終了。1時方向にガミラス艦を確認。数2」

 

「全艦第1種警戒体制を維持。相原、ガミラスの通信コードで呼びかけてくれ」

 

「了解。こちら国連宇宙海軍、恒星間航行宇宙戦艦Wunder。ガミラス艦艇に告ぐ、直ちに応答せよ。繰り返す、直ちに応答せよ」

 

 光学観測でケルカピア級とクリピテラ級が確認でき、周辺にはほかの艦艇は確認できない。警戒体制は維持しながらガミラス艦に対し通信を送り応答を待つ。

 1分後、周波数の特定に成功したのかすぐに返信が返ってきた。

 

「返信来ました! 《我々は、ガミラス臨時政府の要請を受け、本星より使節団護衛艦隊として参った。現在使節団及び護衛艦隊本隊は太陽系外にて待機中。我々はテロン艦との接触を任された分艦隊である》」

 

 

「返信《申し訳ないが、あなた方が正規の使節艦隊である証明が欲しい》」

 

 まだこれだけでは使節団所属艦艇かが分からない。騙るだけなら誰でも出来る。古代はガミラス人への理解は示しているが、騙されて攻撃されるのは堪ったものじゃないのだ。

 

数分後、反応が返ってきた。

 

「ガミラス艦艇より映像通信要請、通信コードが既知の物です!」

 

「どの船のだ?」

 

「それが、ミランガルです。という事は……」

 

「繋いでくれ。もしかしたらだが」

 

 古代の指示で映像通信が繋げられ、正面に通信ウィンドウが開いた。そこに立っていたのは頬の傷跡が目立つ青紫色の髪の青年が立っていた。

 

『ガミラス暫定政権遣テロン使節団護衛艦隊司令を務めるフォムト・バーガーだ。今は系外の旗艦から通信を入れている。久しぶりだな、デタラメヴンダー』

 

「バーガー!」

 

『久しぶりだなコダイ。他にも何人かいるな。ニイミ、アイハラ、ぶっ壊れと……もしかしてぶっ壊れの旦那か? 会ってねぇけど何となく分かるぞ』

 

「ぶっ壊れって流石に酷いですって。でも旦那は正解です。結婚したんです、私達」

 

『そいつはめでたい事だ。おっと、その辺の話は後にして仕事だ仕事。我々は臨時政府の命を受けて使節団の護衛をしてテロン政府に外交文章を渡しに来た。中身は残念ながら我々も知らされていない。それで1つ聞きたいんだが、艦隊がテロンに降下するのは大丈夫なのか? 一応問い合わせてくれると助かるんだが……』

 

 ____

 

 

 結論から言うと、使節艦隊が数十隻なる艦艇で構成された「地球から見れば大艦隊」だったので、譲歩の末旗艦だけが降りる事となった。それ以外の艦隊は太陽系外に残る事となり、Wunderの影に隠れるような格好で1隻のガミラス艦が降下した。

 

 旗艦は、Wunderとも縁がある「改ゲルバデス級ミランガル」。シャンブロウ海戦で負った傷は修復され、赤をメインにしたダズル迷彩は太陽の光に照らされて輝いている。艦長はネレディア・リッケのまま。ミランガルのブリッジ要員はネレディアもバーガーも含めてその景色に圧倒されていた。イスカンダルを彷彿とさせる青い海と白い雲。この星も同じものを持っていたんだなと思い知らされ、2隻は太平洋某所に着水した。

 

「ミランガル……着水、しました。大気成分は本星と何ら変わりありません」

 

「着水ねぇ、本星じゃ滅多に言わんだろうな」

 

「ヴンダーも着水しました。信じられません、あのような巨大艦まで着水可能とは……」

 

「ああアレについてマジで深く考えん方が良い。いいか、アレは色々とおかしい船だからな」

 

「私も見たからわかるわ。アレとテロン人が本気を出せば、国防軍を壊滅させる事も出来るでしょうね」

 

 バーガーが頭を掻きながら苦笑いし、ネレディアがそれに同意した。

 

「壊滅ッ……!? そんなまさか、あの艦で国防軍の半分を撃滅できてしまうとはとても……」

 

「あのな、ドメラーズと取っ組み合いしてバランの観艦式突っ切って七色星団で耐えまくってバレラスで波動エネルギーの大砲ぶっぱなしてんだぞあのデタラメは。んで、挙句の果てには船ですらねぇ蛮族の巨人に単艦で突っ込んでんだぞ。おまけにこの世界の船じゃないらしいし」

 

「と……言いますと?」

 

「テロン人……というかアカツキとムツキがヒス副総統に色々条件提示してたんだよ。上はアリアの密約とか言ってるが、それとは別に、総統艦の素体から見つかった妙な文字を求めたとか。本人も言ってたが、どういうわけかデタラメヴンダーと総統艦は元々は姉妹艦らしくてな」

 

「総統座乗艦とテロンのあの戦艦が、元は姉妹艦……ですが、そんな偶然あるのでしょうか?」

 

「あったから運んでんだ。これはテロン政府に渡らんように私的に渡しとかんとな」

 

 バーガーがガミラスを発つ際、ヒスから極秘裏に渡されたものがあった。それは1つの情報媒体。地球の政府を通さずに直接本人に渡す様に厳命されたそれは、「使徒封印呪詛文様」と呼称された歪な文様が収集されたファイルだ。

 Wunderがイスカンダルを発ちヒスは関係各所に問い合わせてデウスーラ2世の建造に関わった部署とサレザー恒星系でエアレーズングを発見した部署、解析した部署を特定しそのデータを取得する事に成功した。

 

 しかしWunderに超空間通信を行おうとしても彼らが今どこにいるのかが分からない。上手く届く保証すらなく、傍受される危険性も捨てきれなかった。その為、今回の使節艦隊の派遣に合わせて直接手渡しする方向に切り替えたのだ。

 

「会談は?」

 

「2週間後、Wunderで行われるとの事です。その時にお渡しするのですか?」

 

「いや、もっと早くなるだろうな」

 

 


 

 

 地球ガミラス間での会談は紛糾するという事もなく行われた。……封書が開封されるまでは。

 1つ目は、ガミラス政府からの正式な謝罪メッセージ。

 2つ目は、ガミラスから地球に対して行える賠償並びに復興支援を行う用意があるという事。

 3つ目は、終戦協定と安全保障条約の締結について

 4つ目は、全ての復興支援は「イスク・サン・アリア条約の順守」を前提にする事。

 

 

 3つ目まではまだいい。しかし4つ目が問題だった。侵略者側の国家が「条約順守が前提の復興支援」を持ちかけるとは何事かと、一部の高官は額に青筋を浮かべる事となった。

 

 ガミラス側の言い分としてはこうだ。

 まず、デスラー政権トップであったアベルト・デスラーが行方不明となり、臨時政府が情勢の安定に奔走している。しかしガミラスの領土は大小マゼランに至るまでに広大で、Wunderの往路で特に発生した「鋼の翼運動」の影響で反体制派運動が活発化し「実は、そもそもの復興支援が困難」であるのだ。

 そこで、ガミラスはやむを得ず「イスカンダルの力を受けたテロンの戦艦がガミラスを救った」と国民に情報を公開し、「イスカンダルの力を継ぐ星への賠償と復興支援」を強引に取り付けた。

 

 『「アリア条約を破棄する」という「イスカンダルに対する不敬行為」が認められた場合は復興支援を取りやめる』という条件付きで何とか高官と復興に関わる民間の同意を得て、こうして復興支援を行えるようにしたとの事だ。

 ガミラスとしても今回の戦いは、歴史上数えるほどしかない敗戦の1つとなってしまった。戦力としてはまだ戦えるが、政治的混乱を引き起こされ指揮系統が混乱させられては、「戦えない」と同意義だ。それに負けたのに何もしないというのは国家としてもメンツが立たないのはよく理解している。

 

 そんなメンツを守る為にも、この条件はガミラスも譲れないのだ。

 

 

 幸いにも、極東に集結した優秀な人材がアリア条約に批准した戦闘艦を設計中だ。波動砲艦隊が二重に封じられるのは気になるが、ガミラスの全面支援の下で復興が出来るのはデメリットよりもメリットの方が大きく感じられる。

 

 

 が、この場で1つの可能性に思い至る者もいた。

 

 

 アリア条約とガミラスの「条約順守を前提とした復興支援」は、表向きはガミラスが領土内問題を抱えたうえで復興支援をするための策に思えるが、もしかしたら、アリア条約締結時に何らかの密約が交わされたのではないかと。

 

 そしてアリア条約に対応した戦艦が設計されている。波動砲艦隊構想を掲げる者が現れる事も想定して先手を打って安保理で第2世代艦艇の発表をして、帰還間もない頃に世界中の協力を取り付けた。いや、もしかしたら帰還前から始まっていた事かもしれない。

 

 しかしそれを証明する手段が無い。たとえ証明できたとしても密約を交わした人物を逮捕更迭する事も出来ない。それほどにまで地球の人材は払しょくされているのだ。

 

 

 

「してやられた」と地球首脳陣は頭を抱えた。

 

 

 

 恐らくその人物を敵に回してしまえば後の地球連邦は自衛のための戦力を失う。ガトランティスといった別の異星文明がたとえ攻めて来ても防衛が出来なくなってしまうだろう。

 

 

 さて、地球首脳陣が頭を抱える原因となった彼らはというと……

 

 

 _______

 

 

 

「なんていうか……すまなかった。俺らこんなきれいな星をボコボコにしてたなんてな」

 

「全部を許す事は地球人が許さないと思う。でも、手を取り合えたというのは事実だ」

 

「そうか、本当にすまん。……やっぱ綺麗だわテロン」

 

 古代、バーガー、睦月夫妻はWunderの甲板でのんびりと話をしていた。

 ミランガルからガミラスの内火艇「SDG61-L」でWunderに甲板駐機したバーガーは、夕焼けの空と海と大自然に言葉を漏らした。

 

「……ええと、あのね。貴方に謝らないといけない事があるの」

 

「あ?」

 

「シャンブロウで私操られちゃったでしょ? それで、争いを起こしかけちゃったから……その、ごめんなさい」

 

「ん、あああの時か。お前らがテロン人だって知った時は頭に血が上っちまったけどな、コダイがこのまま撃てとかヤバい事言ったお陰で良い感じに回避できたんよ。んだからチャラな。アカツキが申し訳さなそうにしてたって事は、ネレディアとバーレンの爺さんとメルヒ辺りにでも伝えとくわ」

 

「チャラって、そんな簡単にできる様な事じゃ……」

 

「細けぇこたぁいいんだよ。よく見ろ、大戦争した星同士が並んで景色見てんだぞ? これ以上どうなれってんだ。過去を水に流す事は無理でも取り敢えずは前向け前」

 

 そう言うとバーガーはぶっきらぼうに景色に向き直った。乱暴にショートカットしてしまったなとハルナは思ったが、それがバーガーという男なのかもしれないとも思った。細かい事気にするより前に行く。シャンブロウでの件が彼を変えたのだろうと思ったハルナはそっとATフィールドで触れてみようとするが、

 

 

(はいストップ)

 

 

 分かってはいたが止められた。

 

「ああそうだ。真面目な話になるがヒス副総統からお使い頼まれてな、ほいこれ。遅くなってすまんな」

 

 そういうとバーガーは懐から情報媒体を取り出した。地球の様な板状のものではなく平たいカプセル状の物だったが、半透明状の内部に光が行き交う様子が見え、何かの情報が入っている事が分かる

 

「デバイス……一応中身は?」

 

「依頼の品だ。テロン人はそれの存在知らない筈だからな、人前で出すなよ」

 

 そう言われリクがそのデバイスに触れると黄緑で縁取られたウィンドウが開き四角い文様のような文字が表示された。確認されただけで50種類以上のその文字は、「仮称 使徒封印呪詛文様」と名前が付けられていた。

 

「お前らがヴンダーで見たのはそれだろ。俺らはあの総統座乗艦になる前の壊れたクソデカ戦艦の残骸からそれを回収した。んでも、それを何に使うんだ……って、聞いてるか?」

 

 呪詛文様を見るハルナとリクの目の奥、その淡い光が切れかけの電球の様にチラついていた。偏光処理をした眼鏡のお陰でバーガーと古代からはその様子は見えていないが、その瞬間だけ2人は強く意識を引き付けられてしまった。

 

 

「おいっ!」

 

「あっ……ごめん」

 

「お前ら大丈夫か、マジで」

 

 バーガーに耳元で手を叩かれハッと意識が戻った。あの数秒だけ考える事も動く事も出来ず、ATフィールドも感じられなかった。既に第6感に近い物となったそれすら感じられなくなったのは恐らくこの文様が原因なのだろう。

 同じくこの模様を見た古代とバーガーには何の異変も起こっていない。なら、この使徒封印呪詛文様は使徒に対して有効な物であり、今の自分達には悪影響を及ぼすかもしれない危険な物でもあるかもしれない。リリスの血を持ったハルナとその魂の欠片を持ったリク。エヴァの呪縛による心身の変化を諦めで受け入れようとしているが、呪詛文様に危険性とは別に少しの可能性も見出していた。

 

 

 もしかしたら、呪縛の進行を遅らせる事が出来るかもしれない

 

 

 もしも呪詛文様に特定の文法等が存在し、文様の配置次第でリリス要素を抑え込むような事が出来れば、エヴァの呪縛を遅らせる……あるいは止め続ける事が出来るかもしれない。

 

 もちろんこれは魂に関わる事でありミス1つで廃人か死人になるかもしれない。それでも、「2人で歳を重ねたい」という個人的な願いを叶える為には試してみてもいいと思った。

 

 

「なんかこれ……今はあんまり長い事見ちゃいけない感じがするの」

 

「あ? こんなん何の変哲もない子供の落書きみてぇな模様だろ? 何があるってんだ」

 

「心……魂、かな。何か変な気分」

 

「コダイ、お前なんか知ってるか? こいつらマジでどっかズレてねぇか?」

 

「把握はしているけど、最高機密に近いから言えない。すまない」

 

「そんなヤバくなってんのかよアカツキとその旦那は。まぁ分かった、下手に首突っ込まねぇよ。んじゃお使いも終わった事だし、後はどうする?」

 

「じゃあ、俺から頼みがある」

 

「コダイ?」

 

「もしもガミラス軍が太陽系に駐留する事があれば、お前に来て欲しいんだ」

 

ガミラスの太陽系駐留、それはどの道起こる事であり、ハルナとリクも想定していた事だ。ただ何時お願いしようかと悩んでいた事だったが、図らずも古代が切り出してくれた。

 

「ゾル星系駐留ねぇ……まぁどの道そういう話は出るだろうな。ディッツ司令に話はしてみるがあんま期待はするなよ。別の戦線に呼ばれるとかで来れるか分かんねぇ」

 

「大丈夫です。どの道来ると思うので」

 

「根拠は?」

 

「ガミラス内でも殆どいない親地球派だから。あとは直感」

 

「親テロン派ねぇ……半分当たりだな。親ヴンダー派なら満点やるとこだな」

 

「だったら、これ渡しても良いかもしれません」

 

そう言ってハルナが取り出したのは、例のバンダナだった。WILLEメンバーを集める為にもコッソリ量産したのだ。

 

「これは?」

 

「現在の連邦政府がキナ臭くて、詳細はまだ話せませんがWunderの強奪や波動砲艦隊構想とかを水面下で考えていたりするんです。平和維持軍では万が一に備えてWILLEという組織として独立する準備を進めています。このバンダナはそのメンバーの証です」

 

「ごっこ遊びじゃねぇよな?」

 

「ごっこじゃないですよ? いずれやって来る日に備えているだけです。メンツに拘らず引き込める人は引き込む。今の所ガミラスで引き込める人は、バーガーさんくらいしかいないんです」

 

「ちなみにヴィレってどういう意味だ?」

 

「地球のドイツという国の言葉で『意思』です。Wunderもドイツ語で奇跡という意味です」

 

「ゾル星系艦隊もそのヴィレってのと仲良くしてくれるんだろ? 独立したらハイさよならはごめんだぞ」

 

「勿論ですよ。宇宙軍の戦力は全て纏めるので。WILLEとガミラス合同でガトランティス狩りでもしましょう」

 

この2人の話に嘘はなさそうだ。アリアの密約で既に政府に道をコッソリ強制させていて、恐らく社会的地位も信じられない程高い。WILLEが独立したその後のデメリットもそう多くない。

 

バーガーは乗る事にした。

 

「ハハハ、テロンもヤバい人材抱えたもんだな。常にこのご夫妻の機嫌を窺わないと冗談抜きで戦力が皆逃げてくんだぞ? んでも大丈夫なのか? お前らが考えている事は控えめに言って政府に対する反乱、「クーデターの類」だ。首吹っ飛ばされても可笑しくはねぇぞ」

 

「分かっている。でも、俺達はこうでもしないといけない日がやって来ると考えている。俺も少し前にリクさんにWILLEの話を持ち掛けられて入った。それに、内乱罪として裁かれるのは失敗した場合だ。政府の付け入る隙をギリギリまで消して一斉に蜂起させれば、対処に追いつかなくなる。それに、この計画に電子的情報は存在していない」

 

 そう言うと古代は青いバンダナを取り出してバーガーに見せた。古代の言う通り、WILLE計画に関わる情報は全て紙でのみ保存されいる。電子的情報は一切使われておらず、政府が情報を取得しようと思った場合は極東管区にスパイを送り込むか尋問をするしかない。が、何度も言うがそんな事をしている余裕がないのだ。

 ちなみにWILLE計画が失敗に終わった場合、国家反逆罪、クーデター未遂罪、陰謀罪、不服従罪に問われる可能性がある。国家の安定と安全を脅かす重大行為であり主要人物には厳しい刑罰を受ける事となる。

 が、WILLE計画として独立を成功させて「地球連邦が手を出せない状況」と「これは連邦政府が悪いよね」という事実を連邦市民に開示することが出来れば、少なくともWILLEの正当性と安全は確保できるだろう。逆に政府が情報を弁明しようとしても無駄だ。Wunderの強力な通信能力と艦載コンピュータとして運用されるMAGIAchiralでの通信ジャックで瞬く間に世界中に伝わってしまうので、政府がどうこうしようとしてもそもそもの弁明手段も押さえられるのでどうしようもないのだ。

 

 

「んで、結局の所平和維持軍の全部に話持ち掛けるんだろ? どれくらいかかるんだ?」

 

「1年半だ。地上復員が始まる頃には政府の一部が動くかもしれないからそれまでに宇宙軍は全部、出来れば地上軍もだ」

 

「バレねぇようにしろよ。俺らは、お前らがバレてもあーだこーだ言える立場にねぇんだ。んでもまぁ多分成功するんじゃねぇのか? 現にアリアの密約で政府の道を絞ってんだ。おおかたお前らがやった事に気づいてもどうしようもねぇだろ」

 

「どうしようもないようにしておいたので。おまけに万が一私達が外されたら、協力企業は政府に対しそっぽを向きますし、企業群は政府に協力しません」

 

 協力企業群との話し合いでリクは、ハルナとWILLE計画を知る者と相談し1つの条件を付け加えていた。それは、書類上では「連邦の平和維持軍の睦月・暁国際設計局」との協力を示すよう書いてもらうが、その実態は「睦月夫妻」との協力関係として進めてもらう事にして貰う事だ。なお、その本当の協力関係の実体については一切書類が残されていないので、政府介入や制裁、証拠に基づく法的手段での追及は困難である。

 これは自身の社会的地位を使った手であるが、実際今の2人は「地球を救った戦艦の設計者」として社会的地位が異常なまでに高い。

 これと同じ状態なのが療養中の沖田だ。地球を救った英雄として歴史に確実に名を遺す人物となった結果、資料1つで第2世代艦艇を後押しする事が出来た。今の沖田の名前にもかなり大きな影響力があるのだ。

 

 ともかく、政府は睦月夫妻に対して直接的な介入を行いづらくなっている。2人の「反則レベル」の技術力と地球を救った事実によって政府はその影響力を尊重せざるを得ず、介入を控える事で政治的リスクを避けざるを得ないのだ。だから、「してやられた」と気付いてもどうしようもない。伝説の技術科夫妻が地球の軍事力の復興を絶賛実行中で、それを妨げる事は地球の明日を閉ざしかねない。「手出し無用」ではなく「手出し不能」状態だ。

 

「うぅわ。おいコダイ、これは大丈夫なのか?」

 

「藤堂長官も知っていて、企業群も全社同意の上だ。知らないのは政府だけ」

 

「それと、問題なのが芹沢さんなの」

 

「セリザワ? 誰だそいつ」

 

「今は拘束されてるけど、極東管区のお偉いさん。限られた人類を逃がす計画の主導者だったけど、Wunder計画完遂と同時にイスカンダル航海中に起こった反乱が分かってね、その首謀者だとしてバレて拘束されているの。あーあヤバい事聞いちゃったね、もう引き下がれないよ?」

 

「お前……やべぇなマジで。んでそのセリザワだ。どう使う?」

 

「使うって……でも、拘束解除の条件でやってもらいたい事はある。例えば、政府側についてもらったりとか。勿論スパイで。反乱の件は極東以外には知られてないし、他管区からしてみれば貴重な役職経験者にしか見えないんだ」

 

「裏切りは?」

 

「反乱の件がバレる。それ以外はないかな」

 

「……甘いな」

 

「甘くても辛くても結構。非人道的な事はしないよ。あと今の所もう1人、WILLE側にぜひ引き込みたい人はいるかな」

 

「誰だそれ。そのセリザワみたいになんかやらかしたやつか?」

 

「そういう人じゃなくて情報部本業の人。……実を言うと、本当にいるとは思わなかったからかなり驚いたんだ」

 

次に引き込む人は決まった。

戦力、技術力、経済力、他管区との調整、それに加えて諜報能力だ。「まさかいるとは思わなかった」と驚きが続いているが、それと同時に間違っていなければその人物には「プレイボーイ気質」がある。

その人物の存在をハルナはとある筋から聞かされていたが、そんな「ちょっと不自然な位に完全無欠な存在」なんて最初はいるなら会ってみたいとも思ったくらいだ。しかし彼女の話通りなら「プレイボーイ気質がある」問題人物だ。

 

 

という事で、サッサと済ませてこっちに協力してもらいましょう。

出来れば穏便に済ませたい2人は山積みのタスクに内心溜息を吐きながら平静を装った。




という事で、バーガー君加入予定です。
誰を使節団護衛艦隊司令にしようかなと思ったら、やっぱり彼だろうという事でバーガー君になりました。
多分被ってるんだろうなぁと思いながら書いてましたが、結局彼しかいないんです
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