宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
そう! あの男です!
30年上手い具合に生きてきた。国連、統合軍、あとはSEELEとバイトの掛け持ちは意外と大変で、危機を感じる様な事はなかったとは言えない。意外と危ない橋も渡ってきたつもりだ。
それでも、今日のような事は本当に忘れないと思う。まさかここまで見抜かれるとは思わなかった。
地球復興が進んでいく4月。国連解体と地球連邦樹立に伴い、俺は連邦平和維持軍情報局での諜報活動を行う事となった。表向きは連邦政府の情報局から平和維持軍の情報局に派遣されてきた1人となっているが、立場もこのまま据え置きでそんなに代わり映えしないだろうと思っていた。実際そっちの方が仕事もやりやすい。国連解体前と立場はそんなに変りないんだ。
なんて考えていた俺がバカだった。驚いた事に、俺の素性を知ってる(と言えるのか?)人からの接触を受けた。それも背後から、一切の気配を見せずにスッと近寄って。もし相手が暗殺者とかなら、あの時点で俺の体と頭はサヨナラしてただろう。
でも、その人物は俺を殺さなかった。それどころか、スカウトに来たと言ったんだ。WILLE計画という政府へのクーデターとも言える計画に関わってもらう……WILLEに乗り換えてもらう代わりに、俺の知りたい情報を開示して身の安全を保証する。ただし、バイトの掛け持ちは続けて欲しいと言ってきた。
正直言って、俺の掛け持ちバイトの事は誰にも知られていない筈だったんだ。連邦政府も、平和維持軍も、SEELEも、皆知らない。筈なんだ。それでもこの白髪で赤い目の人は、とんでもない情報筋で俺の素性を知ったんだ。
俺は平和維持軍でもそれなりの地位にいる。連邦政府からの出向だけど、立場が立場だからそれなりの部屋は与えられている。着任する時に盗聴とかの類はないかと調べもした。……流石と言うべきか、何個か仕掛けられていたから一応ダミーに差し替えた。
そこから数日位は普通だったけど、ある日俺が部屋に入ったら、その人物は既にいたんだ。気付いたかって? いや、俺は気づけなかったんだ、それが誰なのか。「見えてはいるが認識できないしそもそも誰なのかが分からない」、あるいは「そこにいて当たり前で何の問題もない」感じ、それか「街行く人を演じるエキストラA・B」みたいに見えてしまって認識できないんだ。
不思議だろ? 不思議なんだ。
それで指パッチンが聞こえると、直ぐに俺はその人を認識できた。もう魔法の類だ。で、認識出来てからは怒涛の勢いで思い出すことが出来た。
背後に立っていたのは、地球を救ったWunderの設計者でありガリラヤ事件の生き残り、その片割れの睦月・リク・暁だったんだ。
「加持リョウジ主席監察官。連邦政府情報局からの出向で、間違いなければSEELEのスパイもする人ですね。トリプルスパイはこっちでも同じみたいですが、自分の命は大事にしてください」
さっきも言ったけど、睦月三佐は俺に気配を悟らせずに背後を取っていたんだ。このまま背中に突きつけた銃でバンも出来るような立ち位置で。技術科で地球を救った設計者でアサシンにもなれるってどういうぶっ壊れ性能だよって思ったよ。
「ああ別に殺そうなんて思ってないですから、そんなことしたらハルナが悲しむので」
「俺はしがない出向さんだが、どうしたんだ?」
「この部屋は基本的に音漏れしないし、どうやら貴方は盗聴の類もダミーに変えてるので遠慮なく話が出来ますね。何が知りたいですか?」
殺す気が無いのは本人も言う通りだった。銃はただの水鉄砲、制服で水鉄砲を隠していたが、いきなり後ろから着きつけられたことがダミーを本物の感覚に押し上げてきた。
「三佐は……」
「階級とかは付けなくてもいいので」
「じゃあ睦月さん。あんたは何処で知ったんだ? 「こっちでも同じ」と言っていたが、俺みたいなのが他にいるから俺が誰なのかが分かったのか?」
「いえ、詳しい情報筋は貴方がこっちに入ってもらえないと言えませんが、貴方とは違う所にいた貴方の事を知っている人から聞いたんです」
俺じゃない俺、だとさ。これではまるで俺が2人いるような言い方だ。
「加持リョウジさん。貴方の能力は素晴らしい物です。トリプルスパイをしても三者の陣営に未だ気付かれていない。一見すると三者を引っ掻き回しているのかなとも思いましたが、貴方は特定の組織の為に動いているのではなく……何かを知りたいから動いているのではないですか? 組織に外道オカルトがいる事も考えると、大方ガリラヤかそれ以前か以降に起こった事あたりでしょう」
「……ガリラヤを知っているのか?」
「僕の生まれ年を知っているなら、納得できるはずです」
生まれ年は2135年。実質、ガリラヤが起きなければ今頃この人は60代後半でこんな20代の若い姿をしてるはずもない。
何で俺が睦月三佐の情報について詳しいかって? 情報局は人事情報を見る事もある。睦月夫妻の事はWunder抜錨前から調べていたんだが、改ざん跡があったんだ。その後を辿っていくと、本当の生年月日が見つかったんだ。
睦月・リク・暁は2135年生まれの第2世代マーズノイドで、生まれだけを見れば藤堂長官よりも古い世代の人間で、当時の火星を知る数少ない人間だ。若くして火星技研に入りアンノウンドライブの解析を行い、2155年の事件で昏睡状態に陥る。そして40年後に昏睡から覚める。そこからはあり得ない程の回復力でリハビリを行い退院し、2197年時点でその高い実力で国連宇宙軍に編入される。
2197年度から太陽系脱出を目的としたヴーセの設計を引き継ぎ、98年度で最終段階に移行させる。そしてイスカンダルのユリーシャ来訪時には波動エンジンに対応した改設計と波動砲の搭載、を行い、国際波動砲使用制限条約を提案し結ばせる。
そしてイスカンダル航海に同行してイスカンダルに到達して無事に帰ってすぐに婚姻届を出して地上で結婚式を挙げた。これが大まかに俺が知っている事だが、バレラスに着いてからは何も起こってないんだ。ミッションレコーダは俺では見れなかったし、完全オフラインの環境下で厳重に管理されているからまともな手段では入り込めない。だが、安保理で開封された事は確認済みだ、恐らく改ざん済みのやつが。
だが改竄した意味が分からない。まるで情報が足りてなかったんだ
「アナタは僕の事をちゃんと調べていたみたいですが、そうゴチャゴチャ考える事でもないですよ」
この発言で分かったんだが、睦月三佐は思考を読めるらしい。それも盗聴レベルで正確に。これでいよいよ睦月三佐が人間かどうか怪しくなってきた。
「あなたが知りたい事を可能な限りお教えします。それと引き換えに、私達は取引をしたいんです」
「取引? 睦月さんは技術科系の人間だろ、俺が必要になる意味を教えてもらえないかな」
「話は最後まで聞いて下さい。僕達は今、情報戦や諜報に長けた人間をスカウトしています。加持リョウジさんが掴んでいるかは分かりませんが、現在の地球連邦政府は割とキナ臭いんです。心当たりありませんか?」
「キナ臭いって……そりゃそうだろ、裏にSEELEの老人たちがいるんだから」
「ですよね。外道オカルト共が実は復興計画にちょっかいをかけているみたいでして、建設準備段階の極東分散首都も、安保理での場所選定が始まる前に極東への建設だけが決まっていたみたいです」
「それで?」
「極東の地下に何があるかはご存じですね?」
「あのデカいのだろ? 極東地下都市もアレの真下に作られてるんだ。……それを隠すとか研究し直す為のダミーか?」
「僕たちはそう考えています。外道オカルトがアレを大事にしたいって事を」
「外道オカルトって随分愉快な名前だな。だがまだ見えないな」
「外道オカルトの話は置いておいて、加持さんの事ですから、ガリラヤの件は知ってますね?」
勿論だ。それ関連で睦月三佐の事が出てきたんだ。
「実は、それ以前とその後の情報を集め切った組織がいます」
……冗談じゃないよな。俺が5年かかってここまで集めた情報でもほんの一部だ。それを全部? 本気で言っているのか?
「僕達の親族関係の方です。今はこれで十分ですよね。この座標に来てください。来たら来たで協力して頂く事になります。後戻りはできません。では」
そう言って、睦月さんは消えた。いや、見えなくなったって感じだな。いるけど分からない、見えてるけど認識できない。そんな状態だ。でもメモ用紙に書かれた位置情報はちゃんと本物だった。で、調べたらそこは地下都市の余剰区画で本当に何もない区画だ。
一応、護身用の銃を持って行った。小型のボイスレコーダーと位置情報が分かる様にと改造した端末も持ち込んだ。準備はちゃんとしたはずなんだ。
それで……こんな制圧方法があってたまるかと心底思った。
アニメみたいに首トンやクロロホルム嗅がしたりスタンガンビリビリされて気絶とかそういう物じゃないぞ。特に首トンはアニメの中だけだ。で、どうやられたかというと、意識をシャットダウンさせられたんだ。物理攻撃無しで。スタンガンも使わずにそのまんまガクって。
で1秒も持たずに倒れそうになったけど俺は地面に倒れ込まなかった。誰かが受け止めたんだけど、睦月さんじゃない綺麗な人の綺麗な声で
(手荒でごめんなさい。場所は極秘なので身体検査してからお運びします。暫く眠ってください)
と頭に響いたんだ。
で、その女性の方も一切気配がなかった。何したらこんなん出来るんだ。
目が覚めたら、俺はベットの上に寝かされていた。全部持ち物回収されてからな。頭も無事だ。
「手荒にしてしまってすみません。場所が場所なので」
「睦月さんと……俺を受け止めてくれた王女様かな」
「ビックリ仰天な方法で眠らされたのに余裕があるんですね。それと妻を口説くのはやめて下さい」
おいおい、睦月さんは俺の回収を自分の奥さんにやらせていたのか
「あれ程の事が出来るのは妻くらいしかいないので。あ、僕の妻のハルナです」
「睦月・ハルナ・暁です。ケガとか障害が残らなくて良かったです」
この2人、今は国際設計局を作って第2世代艦艇を世界の企業と作ってるんじゃなかったのか? それがどうしてこんな諜報任務みたいなことを……。
何か隠れてコソコソやってるんだなってのは分かったし、こうなったって事は、もう後戻りできない事も十分に分かった。
俺としても知りたいことが知れるなら、着いて行くしかなかったんだ。
「歩けるようでしたら向かいましょう。会ってもらいたい人がいますので」
_____________
何もかも持ち物没収されたからここが何処なのかも分からない。でも、確実そして急速に真実に近づいている事だけは分かった。
「1つ、聞いてもいいか?」
「何ですか?」
「何故接触だけは睦月さん……ああ、旦那さんの方がやったんだ?」
「あなた女たらし気質がありますから。さっきみたいに口説かれたくなかったんです」
「……は?」
「だから、女たらしの筈なんですよ、情報と同じ加持さんだったら」
何だそんな理由通って思わず笑ったな。参ったな、情報源が分からんがそんな部分まで漏れてるのか。
「女たらしって……いや否定はしないけど、もうちょっとこう、何か、あるだろ」
「ないですね。というか否定しないんですねそこは否定して下さい」
「辛辣」
「こらこら。私は仮に口説かれても現実叩き込んで諦めさせるだけだよ?」
「どうやって?」
「こうやって」
その時どうやって現実叩き込まれたかって? んじゃ説明する。俺の方に向き直って幸せ眼のまま夫に抱き着きやがった。そのまま頬にキスときた。
ハイハイ分かったから、もう諦めるよ。俺は既婚者にまで手を出す様なヤバいやつじゃないからな。
「諦めて下さいね。着きましたココです」
で、俺が連れてこられたのはサーバールームだった。ガンガンに空調が効いてとにかく寒い。こうなるって事が分かってれば半そでカッターシャツじゃなくて上着持ってきてたんだけどなぁ。
その入り口で、見た事ある初老くらいの爺さんが立っていた。知ってる人だ。いや、実際に会った事はないが資料で見たくらいだ。設計局協力企業の再調査で情報局も関わる事になったからちらっと程度だ。
「初めまして。デイブレイクグループ代表の月村と申します」
「デイブレイクって……いやまさか、ここは宇宙開発系の団体のはずだ。それが何故SEELE何かを調べてるんだ?」
「深い深い訳がありまして。ああそれと、ここで貴方は引き返す事が出来ます。引き返すならここでの記憶を綺麗に封印してあなたが倒れられた場所に送り返して差し上げます。進まれるのであれば、事が済むまで我々とお付き合いして頂く事になります。既にお2人の方からお話があったかと思いますが、具体的には我々を雇用主にして連邦政府とSEELEに対しスパイ活動を行っていただく事となります」
「月村会長、ここに俺の知りたい事が全て詰まってるというのは本当ですか?」
「ええ、80年分の調査結果です。貴方に公開するとお2人から伺った時は驚きました」
今なんて言ったんだ? 80年だと?
デイブレイクは、何者かの指示で80年間調査を続けたというのか?
「……自分が聞くのもなんですが、そんなのを見せてもいいのですか?」
「勿体ないなぁと? そう思われても不思議じゃないですね。ですが私としては100年続く前に終わらせておきたいのです。そうでないと皆さんに怒られてしまいます、『こんなにかかったのか長すぎだ』とね」
「本当に、そこに?」
「ええ。SEELEに関する事はほぼ全て。最後の1ピースであるSEELEの居場所が分かれば完璧なんですが、彼らは今まで尻尾も掴ませなかったので。我々としてはあなたの力を借りてでもSEELEの居場所を特定して終わりにしたいのです。貴方個人はSEELEに思い入れはありますか?」
「無いな。あくまで情報源だ」
「なら、我々がその情報源となるならば? 雇用の件もありますが、平和維持軍情報局首席監察官兼
デイブレイク所属か……要はそこの主任夫婦組とつるんでくれと言う事だ。確かにこっち側に与すれば俺の知りたい事をすべて満たす事が出来る。今降りかかるリスクはない。強いて言えばその後が大変。こき使われるんじゃないかと心配だった。
それと、その時のデイブレイクが開示しようとしている情報が全てと俺は信じていない。どこか抜けがあるか、本当に人目が付かないように隠された部分もあるかもしれない。その辺りを見る事が出来れば儲けものだとかな。
「加持さん。僕らは何も隠さずにあなたに開示します。洗いざらい全部です。なので本当に非公開の部分を探そうと思っても意味はないですよ」
……主任夫妻の近くで悪巧みをしようとしたら止められるらしい。
これではもう、もう道は決められたようなもんだな。
「俺が知りたい事を知れるなら言う事はない。退路もなさそうだし、雇ってもらえないかな、月村会長」
「宜しいんですね?」
「福利厚生もちゃんとしてくれたらありがたいんだけど。トリプルスパイは割とブラックなんだ」
「うちは表向きは只の『宇宙への夢を追い続ける組織』なので、その点はちゃんとしてますよ」
「そいつはありがたい事で。じゃ、よろしく頼みます」
その後、俺は雇い主の月村会長と主任夫妻に連れられてデイブレイクの秘匿サーバの情報を見る事が出来た。月村会長と主任夫妻の言う通り全ての情報が入っていて、俺の苦労は何だったんだと正直思った。だが、月村会長とデイブレイクが追い続けたSEELEはこの時代で丸裸にされていたんだ。
確かに月村会長の言う通り、後は居場所だけ。それを俺に頼んでくることはまぁ分かってはいたけど、正規雇用されてからの初仕事にしてはハードすぎるな。
あああと俺を知ってる人だったんだが、聞いて驚いた。この世界の人間じゃないらしい。
厳密に言えば並行世界線の人間で、AAAWunder初代艦長葛城ミサトという人物だってさ。葛城さんの知る俺が俺とおんなじだから、俺の素性とバイトの事も知れたって事だってさ。
でも、葛城って苗字は聞いた事がある。1人はガリラヤの葛城博士。もう1人は、その娘だ。たしか、葛城ミサトだったな。
……伝えとくか。会長と主任夫婦に。この世界とWunderがいた世界には同じ感じに物を考える同じ登場人物がいるなら、向こう出身の人から情報を引き出せるかもしれないな。
今度聞いてみるか、主任夫婦から。
ガミラス使節団との会談は数度にも及び、連邦政府樹立を迎えようやく話し合いはまとまりを見せた。
地球連邦政府がガミラス臨時政権に求めたのは
1.停戦協定、安全保障条約の締結
2.地上都市復興に関する資源提供及び技術提供
3.ガミラス国防軍から太陽系に対して駐留艦隊の派遣
4.遊星爆弾によってもたらされた有毒胞子放出植物に関する全ての情報開示、及び遊星爆弾症候群治療に向けての研究への協力要請
5.
この中で、「4」に関しては例の2人の提案を藤堂が承認し要求事項に追加した物だ。それは兎も角、この5についての説明をしていこうと思う。
真田が例の2人にリークした「逆竜宮城」なる重力異常発生地域「時間断層空間」は、連邦政府(旧国連)の主導で調査が行われた結果次の特性が確認できた。
1つ目は、潜れば潜るほど重力は弱くなり時間の流れも速くなるという点。
2つ目は、「現時点では」生物は生存できないという点
3つめは、時間断層空間内部に施設を建設する事も恐らく可能という点
4つ目は、時間断層空間は地球の各所に発生していて、共通点は「どれも人類が住んでいた記録が少ない地域にある」という点
これは南部重工でモスボール保存されていた磯風型を流用した調査船で調査された結果をまとめた物であり、実際の映像も記録されていたため信憑性は高い。現実味がない特性の中、連邦政府が目を付けたのはこのうちの「3」である。
時間断層空間では時間が外界の数倍の勢いで流れている。もしもこの空間に工場を置く事が出来れば通常の数倍の速度で物資の製造が出来、復興を大きく進める事が出来る。が、資源を何倍もの勢いで使う事にもなるが、そこで要求の「2」で資源を確保する。
だが、「工場」ではなく「工廠」と明記されているのは、時間断層を軍事利用する為であった。
工廠とは軍隊直属の軍需工場のことで、武器・弾薬をはじめとする軍需品を開発・製造・修理・貯蔵・支給するための施設である。何を理由にして軍事利用するのかと藤堂は気になりもしたが、第2世代艦艇で構成する艦隊の就役を早められるのはこちらとしても良い事として、ああだこうだと言葉を並べるより今は警戒を強める事とした。
その要求事項は多少の追加とガミラス側との調整もあり無事に受け入れられ、同日地球ガミラス間での終戦が宣言され、安保条約が結ばれる事となった。
時間断層工廠の件はガミラスでも大きく驚かれ、低重力環境下での生産力向上という一種の反則技に可能性を抱いていた。
が、藤堂は見逃さなかった。
連邦政府初代大統領ユリシーズ・クリストファーの顔が奇妙に、そして微かに歪んでいたのを。
__________
「うん、まぁ分かってはいたんですが、大統領ヤバいですね。工場にしておけばどれほど良かったか……」
「自然体で国家のリーダーに文句を言う君達も相当だよ。工廠の件はこちらとしてもありがたいのだが、君達には時間断層の件を話してはいない筈だ。どこから聞いた?」
「出所だろうなぁと思い当たる人には小言を言う程度にして下さい。いずれこちらにも伝える予定でしたよね?」
「はぁ……この事は口外しないように。それと、私は今の大統領が危険な道を歩もうとしているように思える。あの顔は、マズい顔だ」
「顔ですか?」
「ああ。あれは魅了された時の顔だ。時間断層のもたらす異常な生産速度、恐らく技術開発も通常の数倍で行う事も可能だ。一応聞いてみるが、君達はアレをどう使うんだ?」
「そうですね、艦艇を建造するのは同じですけど艦艇がある程度揃ったらビルでも造ろうかと。ビルを分割して造って、それをオーバードウェポンの腕だけのユニットを装着したユキカゼ級が数隻がかりで空輸して、ビル建設予定地にビルを差し込む。あとは細々とした配線作業とかを行いビル完成ですね。私は建設とかには明るくないのですが、復興の部署からも『全然あり』と意見貰えてます」
「つまり、復興計画にも使うんだな?」
「当たり前ですよあのような空間を軍拡のみに使うとはもったいなさ過ぎます。WILLE独立時には平和維持軍所有の断層もこっちの物になるようにしますのでうまい具合に動かしていきましょう。という事で加持さん?」
「はいはい仰せのままに。それで、主任夫妻の見立てでは政府は何に使おうとしてるのかな」
「まだサッパリです。藤堂長官の懸念点が杞憂で終わってくれれば気にし過ぎでした良かったねで済みますけど、SEELEが関わってる事を前提に置けば割と危険な物が出て来ても可笑しくないんです。SEELEで何か危険な計画進行していたりしますか?」
「あまり聞かないな。だが人類補完計画を進めているくらいだから構成要素から推測していけばいいだろう。まずは極東分散首都の真下にある黒き月は使うだろうな。計画発動と同時に掘り返すとかして持ってくだろうが。あとは……まぁこの辺も俺の領分だ。纏まったら伝える」
スパイは継続中の加持が言うなら問題ない。連邦政府情報局とSEELEに対し諜報活動を続ける彼の元には逐一情報が入ってくる。デイブレイク側との協力が出来る今ならさらに情報を多く仕入れ多角的にすり合わせる事が出来る。
今は加持に任せよう。
「じゃあ加持さん、お願いします」
「お任せあれ。俺は少しすり合わせをするから、旦那さんを少し借りていいかい?」
少しムッとした。別にハルナには独占欲が強いといった性格はない。それでも一緒に帰れない事になった原因が目の前にいる事に少し不満気だが、これも必要な事だとガマンした。
「少しですよ、少し。じゃあ私は先に帰って夕食作ってるから、気をつけて帰って来てね」
「ああ。ハルナも気を付けて。早めに終わらせて帰るから」
______
「ただいま~あれ? 帰ってたの?」
「結構早めに仕事すんだからね。顔出すとこに顔出してそのまま直帰だ」
「……それは良かった。それとさ」
ハルナは腰からパルスガンを引き抜きリクに連射した。撃たれたリクは白目をむきそのまま膝から崩れ落ちうつ伏せになるように倒れた。
「あなた誰なの?」
険しい顔をしたままパルスガンを構え、ハルナは倒れ伏せた男を睨んだ。紅い目に白い髪、整った顔。パッと見ただけではリクにしか見えないが、彼のATフィールドの感触を微塵も感じられなかった。
長く触れたATフィールドの感触をハルナは覚えている。だから、それとはあまりにも違う感触にハルナは寒気を感じた。何者かは今は関係ない、SEELEや政府の件もあり「刺客」として処理したのだ。
ハルナは引き出しから荷造り用のひもを取り出すと、その男を固く縛り上げ床に転がした。今のところ1人しか確認できていないが、まだいるかもしれない。警戒を続けながら端末を取り出し夫に電話をかけた。
「リクまだそこにいる?」
『まだいる。何か起こったのか?』
イラついた声に何かを感じ取ったリクはハルナに聞く。しまった、電話口でもこの口調はマズいと思ったハルナは努めて冷静な声に直した。
「ちょっと胸糞悪い。リクのそっくりさんが家に侵入してた」
『佐官宿舎に侵入したのか……個人とかじゃないな、政府か?』
「分からないからパルスガン連射して落とした。加持さんにも連絡入れて欲しい」
『大丈夫だ、リクくんがスピーカーにしてくれたから聞いてたよ。MPを連れて向かう。侵入犯は?』
「ギチギチに縛って転がしてある……じゃなくて、転がしてあります」
一応ハルナは加持よりも年下で、一応敬語を使った方がいい。が、今はそれをすっぽかすくらいには怒っているのだ。
『……ハルナ君、君キレたら怖い事する系なのか?』
『教えません。ハルナ、今日は部屋借りて寝泊まりしよう。もし犯人が起きたら……』
「パルスガン連射してまた落とすから」
『怖ぁ……俺の時パルスガンじゃなくてよかったわ。あと連射し過ぎると撃たれたヤツ神経やるから程々にな』
『行きますよ加持さん。じゃあ急ぐから、待ってて』
通話は切れ、自宅は外の工事音が響くだけになった。煮えくり返りそうになった腹は冷静さで鎮火に向かっているが、また誰かがリクの姿を使って何かをしようとしたと思うだけでまた発火しそうだ。
どの道今日は家で寝れない。この1件でWILLE計画の段階がどう動くかは分からないが、少なくとも当分この家は空けた方がよさそうだ。大事な家に住めなくなった腹いせに侵入犯をさらに強く縛り猿ぐつわの代わりにタオルをかませると、大きめのカバンを2つ取り出して私物を詰め始めた。
「もういい、アンタをつき出したらリクに甘える」
何をしてもらおうかと考えながら、カバンに私物を突っ込み続けた。
はい、ハルナガチ切れ回でした
しばらくテスト期間になりますのでお休みします
次回は、軽めのイチャイチャとみんな大好きあの戦艦の話です