宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
「侵入犯の方は?」
「ハルナ君がバチバチ撃ったからしばらくおねんねだ。所持品からは何にも分からない。メモリースクープにでも突っ込めば何か出るかもしれないが、アレは割と非人道的だからな。君達が怒っちゃう」
「否定しません」
「それで、今日はどうするんだい?」
「さっきも言った通り部屋借りたのでそこで寝ます。それと、しばらくあの家は空けた方がいいかなと」
「いいのかい? 新居の筈だが」
「下手に住み続けて何回も訪問されるわけにもいかないので。あと、私物を出し終わったらトラップでも好きなだけ詰め込んでください。死ぬ系のトラップは抜きで」
「はいはい。君達が無事に帰る日が来たらすぐ取り払えるタイプを詰め込もう。相手さんもビックリだろうなぁ。まさか確保対象が自宅をネズミ捕りにするなんて」
「じゃあ、あと任せます」
そういうと、ハルナは加持の執務室を後にした。
_______
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"……家に帰れない」
「佐官宿舎のセキュリティちゃんとしてるはずなんだけどな。まさか顔も変えた……ちょっと待った、骨格から読み取る筈だから……おいおい冗談だろ」
「どうしたの?」
「顔の骨格から変えて突破したか、僕のガワだけクローンを作って突破したんだ。こんな事するのはあの外道オカルトくらいだろうな」
「……何でこんな平然としていられるの? 今すぐSEELE特定してショックカノンぶち込みに行きたいけど」
「今はああだこうだ言って奴らを潰せるわけじゃないし、またどこかの壁を壊しそうだ。あとそれと、僕が怒っていないように感じるか?」
そういうと、リクはハルナの手を取り自身の左胸に触れさせた。ハルナはこう触れなくてもATフィールドの揺らぎで思いや感情を感じる事が出来る。でも、荒れているハルナにはこういう温もりが必要だと分かっているリクは、わざわざこの方法で感じさせたのだ。
「怒ってる、それも相当。別に触れなくても分かるけど……今はこっちがいいかも」
服越しに伝わる熱にもっと触れたくて額を当てる。少し大きくなった鼓動が聞こえたから、そっと耳を当てる。「この音にすら意味を持たせたいと願うのはおかしいのかなと思う事は時々ある」とハルナはどこかで言った。鼓動には「生きている」という意味があるが、今のハルナにはまだ、それ以上の意味を持たせる事が出来ない。
もっとリクの事を好きになれば、また新しい意味を持たせられるのだろうか。
「それと、もしも僕のクローンで突破したなら1つマズいフラグが立つ」
「何が来るの?」
「レイちゃんがこの世界でもクローンで生まれるフラグだ。ガワだけクローンなら、おおかた中央大病院のカルテとかから遺伝子情報を入手して作ったんだろ。遺伝子1つで人のクローンを作れるなら、何らかの形でリリス遺伝子を入手して碇ユイさんの遺伝子を使えば生まれるかもしれない。詳しくは分からないから今度レイちゃんに聞いてみるか」
「もしSEELEがやったらショックカノン撃ってやる」
「ガンマ線被害が出るから三式をダースで用意しよう。質量と爆発の暴力で勘弁してくれ」
日ごろの会話に武装の名称が持ち込まれるくらいには怒っている、というのは分かるだろう。これでもまだいい方だ。
何故良い方なのか。リクがハルナを抱きしめてハルナがリクの左胸に耳を当てて鼓動を聴いているからだ。あの時以来、鼓動を聞いたり感じていると落ち着く。ATフィールドではなく触れる感覚で。頬に伝わる熱が自分の物なのかリクの物なのかが曖昧になり、互いの魂が1つに溶けあったかのような感覚に安心する。
もっと欲しい。そう思い顔を埋める。他の何よりもずっと落ち着くこの温もりは、彼がここにいて、彼がここで生きている事が感じられる1番好きな手段だ。今はこうして穏やかでいられるから、ポニーテールを纏めているバンダナを
いつか彼の温もりに溺れてみたいけど、今は出来ない。
でも、この時間だけ温もりに包まれ、その身を浸す程度なら良いかもしれない。
「んっ……もっと」
「はいはい」
ハルナが考えている事は大抵リクには分かってしまう。髪を纏めているバンダナをスッと解くと白銀の髪が背一杯に広がり、「んっ」と声を漏らし糸の切れた人形の様に脱力しリクにしなだれかかった。まるで解いてくれるのを待っていたようで、家無しに不満げな顔の奥に「やっぱりリクだ」と安心する顔を覗かせている。
幼児化したかのように甘え続けるハルナは頬を膨らまして外見上は不満げな顔をする。それをまるで幼い娘をあやす父親の様に答えるリクの表情は慈愛に染まっていた。
リクは「甘える事を我慢するくらいならちゃんと甘えて欲しい」系の夫だが、ハルナは割とまじめな方なので、毎回毎回甘えていたら自分がグダグダになる事が分かっていて程々にしているのだ。
(なお、オフの日は思い切り甘えるか甘やかそうとハルナは思っている)
こうして甘える事は少なくない。でも、「これ以上行ったら戻ってこられないかも」と思う事が偶にある。ふっと気を抜いたらそのままどこまでも沈んでしまいそうなほど大きな心を、無自覚レベルで求めてしまう。これ以上求めたら沈むところまでズブズブ沈んでいってしまいそうに思える。下手な魂よりもずっと大きいなリクの魂は、引力にも似た何かでハルナを湯たんぽの様に熱くさせ沈ませようとしてしまう。
ハルナの魂の欠片を持つという事は、もしかしたらそう言う事かもしれない。
(人から外れ始めたと思ったら私をこんな甘え妻にしちゃって……)
それでも温もりを求めてしまうのは、まだまだ人の魂だからだろう。
_____
「折角帰れると思ったのに、もうあの家に帰れない」
「正確には一緒にあの家に帰りたかった、だろ?」
「おかしいかな? アラサー1歩手前でお仕事だらけの女の人がこんな事言って」
「家族になるというのは、そう言う事を思ったりする事だと思う」
「そっか……家族、家族ね」
家族という単語を噛み締め、ハルナは何度も頷く。
「でも、あの家に一緒に帰れないのは寂しいな。……そうだ、家とはいかないけど設計局に部屋を作ってしまおうか。ウチだけは周りと環境違い過ぎてほぼ異世界だし、僕らもその異世界加減に乗っかってしまおう」
「異世界って……うん、分かる」
睦月・暁国際設計局が異世界な理由は、私物持ち込み黙認の件があったからだ。各自のデスクに趣味のフィギュアやポスター、お菓子(オムシス製。配給食糧から作った手作り品も一部ある)、その他持ち込みのツール(赤木博士印のマルウェア対策ソフト仕込み済み)が乱雑に置かれ、何なら部屋着が常備されたデスクや寝袋が置かれたデスクもある。
これは流石にやり過ぎたかと思ったが、よくよく見ればちゃんと仕事をしているし、むしろ想定以上にペースが良い。なんならVPSS・ATLHに合わせた改設計もかなりなハイペースで進んでいる。だから私物持ち込み制限は今のところ特にはしていない。だから自分たちもそれに乗っかって部屋を作ってしまおうというのだ。
幸いスペースはある。寝て着替えて適当に過ごすくらいのスペースは用意できるだろう。
(防音かつ電波通さない仕様にするか……)
おっと、別にいかがわしい事をするために防音にするのではない。SEELE絡みやWILLE絡みの話をするなら防音は必要だし盗聴器とかを仕掛けられても電波を通さない仕様にすれば無線で聞く事も出来ない。家無し夫妻のプライベートスペースは密談用スペースにもなってくれるのだ。
「むぎゅう」
「はいはい」
今日はもうこの調子らしい。妻を抱きしめてやると一旦開放し食堂に向かい2人でがっつりオムシスのご飯を食べ、部屋に戻る。更衣室なんて気の利いた部屋が備え付けられているワケも無い為その部屋でさっさと着替えて(どうやら下着姿を見られても多少は平気らしい)布団にダイブする。
荒れに荒れたハルナはリクに引っ付きそのままスヤスヤ、無意識に鼓動を求めたのか掌をリクの胸に触れながらそのまま眠りについた。どうやら「荒れ」は収まったようで、年齢に反して幼い顔は穢れを知らない子供の様な寝顔になっていた。
その頬に軽くキスを落とすと、リクは端末を取り出しワイヤレスイヤホンを付けた。
「さて、コッソリ繋げていたのか」
『ごめん。聞こえてしまったけど、力になれないかと思ったから最後まで聞いていた。……起きない?』
「睡眠時間が減少中でね。今は3時間なら平気だし、ハルナは1回寝たらなかなか起きないはずだ。話というのは、クローンの件だね?」
『そう。綾波シリーズ.私の姉妹達は21世紀の段階で大量に生まれた。今が22世紀なら、NERVの頃よりももっと技術が進んでいるはず、じゃなくて、進んでいると思う』
「その根拠は?」
『分かりやすい物だと、私達はエヴァで構えて撃つ陽電子砲を使って使徒を倒した事があるの。その時は日本中から電力を集めてなんとか撃てるようになって碇君が撃ったけど、Wunderはあのエンジンの力で何十発も撃てていた。これでもとても進んでいる事が分かる。人のクローンくらいなら、頑張れば作れると思う』
「クローンか。贖罪計画要綱に乗ってたかな、人類のクローン化」
『贖罪……計画?』
「ガミラスの遊星爆弾で地球環境が終わって、人類生存の為になりふり構ってられない時期に立ち上げられた計画だ。Wunderも元々は贖罪計画での太陽系脱出船だったんだよ。コールドスリープ系のスペースもあったけどクローン生産設備とかはなかったから、廃案になったんじゃないかな」
『調べられる?』
「加持さんやデイブレイク、長官辺りなら知ってるかもしれない。聞いてみよう。あとそれと話は違うけど、どうやら並行世界線では同一人物が存在しているらしい。既にこの世界にはミサトさん、赤木博士、シンジ君アスカちゃんマリさん、冬月さんにゲンドウさん、既に亡くなってるはずだけどユイさん、そしてどこからやって来たのか分からないエヴァMark6パイロットがいるらしい。レイちゃんの世界でもこの人達はいた?」
『いた。でも、碇君のお母さんは既に亡くなっていた。そこはここでも同じみたい』
「じゃあMark6は?」
『分からない。でも、エヴァがここに来ていたの?』
「月面に来たらしい。搭乗者は不明だけど、彼とMark6は火星の不可侵領域に入れたとの事だ。通常の生物が入れば例外なく橙色の液体になってしまう」
『……L結界。人類が入れない領域で、原罪の穢れ無き浄化された世界と言ってた』
「何が穢れ無きだよ思いっきり汚してるのは外道オカルト共だろ。それで、ガリラヤ跡地にはL結界があるから誰も入れないんだな?」
『そう。それを突破できるのは、エヴァの呪縛にかかった人と、使徒。式波さんはエヴァの呪縛で人じゃなくなったから入れたけど、睦月さんは、身体が人のままだから分からない』
「人のままだとありがたいな。その辺りも加持さんにそれとなく頼んでみる」
『……こっちの加持さん働きすぎ』
「メインの案件調べてる途中で手に入ったらラッキーだな程度に考えてるよ。デイブレイクにはMark6の今の所在と月面に出現してからの機体とパイロットの動向を調べてもらおう。また何か気になる事があったらおいで」
『うん。次は暁さん……お母さんも起きてたら話したい』
「お母さん?」
『一緒にいてポカポカして、寄りかかりたい大きな人。好きな人とは違うけど、大事な人だと思う』
「お母さんか……サッサと平和にして家庭を持たないとな。じゃあ、またな」
『また』
そういうと、リクは綾波との通信を切りベットに潜った。完全に脱力して眠るハルナは白銀の長い髪をそのままベットに散らしている。布団を動かす音に目が覚めたのか、ハルナは薄らと目を開けていた。
「りく?」
「起こしてしまったか」
「……誰かと電話してた?」
「レイちゃんが話を聞いてたみたいで、クローンが可能か聞いてみた。それと、ガリラヤで起こっている事とか。起きたら話すよ」
「うん、寝る」
「おいで」
そういうとハルナはもぞもぞと自分の額をリクの胸に押し付け、また眠りについた。自宅を手放す事となってしまったが、今は妻に危害が無かったことを喜びたい。それどころか怒りでパルスガンを連射して昏倒させるとは、妻も逞しくなったものだ。そう思ったリクは、起こさないようにそっとハルナの頭を撫でる。くすぐったそうに身を動かすハルナにリクは手を引っ込めるが、どうやら起こしかけた訳でないらしい。
「お母さん、だってさ」
偶々タイミングが合ってただけかもしれないが、「お母さん」と呼ばれた瞬間ハルナの顔が緩んだように見えた。
「どう言う事だ……」
侵入犯の生体情報を取得し身元照会を行った加持を待っていたのは、「睦月・リク・暁100%本人である」という結果だった。つまりこの人物はこのために生み出されただけで、誰かが顔を変えただけの存在でも何でもない。正真正銘のリクのクローンだ。
「どう説明すんだよ……マジで睦月の旦那さんのクローンだ、こいつ」
ハルナが識別できたのはATフィールドによる感知が出来たからだ。同一人物を作ってもATフィールドまで似せる事は出来ない、しかしハルナやリクの様な例外を除けば、誰もクローンである事を認知できず、どちらが本物かも識別できないだろう。
ヒトクローンを諜報に使うその外道さは置いておいて、この方法では本人か偽物かも分からない。例外は、ハルナとリクだ。お互いの魂の欠片を交換し合っていた結果、そのATフィールドは特異な物へと変容していた。如何にクローンを精巧に作ろうともATフィールドの模倣までは出来ないだろう。
「ヒトクローンは倫理的にもなぁ、作る方もヤバいけど保護しちまった俺らがどうするかもなぁ……」
その晩、加持は悩みに悩み眠れなかったそうだ。
2か月後
AW元年 6月
「一通り完成しましたね、外見は」
「ああ外見な外見な。んでも割とほっそりしてんな、金剛の後釜だってのに」
設計局設立から約6か月が経ち、常識を投げ捨てた速度で改設計が進められた。VPSS・ATLHの投入による改設計、電力供給ラインの引き直し、南部製波動コイルの配置の再検証による波動防壁の強度シミュレーション。激務激務に激務が続き、毎日誰かが徹夜しているどうしようもない状況となった。
が、睡眠不足という尊い犠牲の上に努力は結実し、合理性とロマンと堪航性を両立した形状の調整が完了したのだ。
金剛型宇宙戦艦をベースにはしたものの、その形状はほっそりとしたものとなった。艦首には100㎝可変速陽電子衝撃砲を縦並びで2門。機動性に重きを置いた姿勢制御スラスター配置、そし舷側にはオーバードウェポンの取り付けソケットが設けられている。この部分は普段は装甲で隠されているが、取り付け時には装甲が展開しソケットを露出させる。
主砲は標準で3連装化され、ナガト、タカオ、ユキカゼごとに口径が異なるが、主砲塔取り付けの基部が共通化されている為、極端な話「ナガトの主砲塔をユキカゼが使えてしまう(なお、エネルギー問題はぶっちゃけどうにでもなる)」おかしな状況となっているが、駆逐艦の速度で肉薄し戦艦クラスの一撃を叩きこんで即離脱出来るので「これはこれでアリ」と納得されている。
なお、実体弾についてだが、現在の三式弾は48センチ砲専用となっているため、装薬を減らして三艦艇で使える砲弾をユキカゼ用として南部火工で開発中だ。因みに、タカオ、ナガト型は砲弾にジャケットを取り付けた物を発射する事となる。これは開発期間の問題もあり砲弾を幾つも造る暇がないという現状での解決策であり、時間の余裕が出来たらナガトとタカオ用の砲弾も開発要請を出すつもりだ。3隻とも弾薬庫を備える事にも成功している為光学兵器が使えない環境下でも優位に戦える。
(この三式弾の事もあり、海外管区の宙技廠の一部で光学兵器かく乱技術の研究が始まった。なお、療養中の沖田も戦術的魅力を感じ連名で要請を出したので、割と盛んにおこなわれている)
対空兵装は追加で参入した宙帝の系列会社との協力で検証が進められる新型の実装が決まっており、砲身を多くして連射力を稼ぐ方式で進む方向となった。所謂ガトリング砲、通常は多数の砲身を設けてそれを回転させる事で1本当たりの発射頻度は低くて済むようにできている。
が、これを対空兵装として運用するには手数が足りない。という事で、パルスレーザー発射機構を2門設け、単純に2倍の掃射能力を獲得した。
こちらは現状の核融合機関でも稼働させる事が可能な兵装であるため、設計が完了次第試作と実射試験への持ち込みが決定している。
VLSは標準搭載。さらに侵食魚雷を運用するためのEW-VLSという専用VLSの設計も進んでいる。侵食魚雷そのものの開発は重力子由来の技術を用いる事が検討されたため、真田の「次元波動理論研究局」の内部にスペースを設けて開発が進められている。
ちなみに次元波動理論研究局ではWunderが発動したツインドライヴの解析が進められている。今は第2世代艦艇用の波動エンジン開発に力が注がれているが、どうやら真田が個人的にツインドライヴの研究を行っているらしい。仕事の合間の気分転換代わりにやっているが、どこからどう見ても「やりすぎ」らしい。
「主砲の方は?」
「南部火工とサナリィの連中が奇声あげながら設計しとる。VSPSTだって? あいつらバカだろマジで」
「可変速陽電子衝撃砲塔。収束率と速度を段階的に調整できるショックカノンです。理には適ってます」
「目指せゼルグートぶち抜きだってさ。ワンチャン出来るくね?」
「資料見た限り二等艦なら過貫通は確実、ゼルグートはまだ分かりませんよ」
クルツとハルナが話しているのは、南部火工とサナリィが共同開発しているVSPST*1可変速陽電子衝撃砲塔だ。弾速と収束率を変更する事で発射されるショックカノンを変化させる事が可能で、2等戦闘艦は従来通りぶち抜く事が出来る。
が、開発陣が目指しているのはゼルグート級のぶち抜きである。48㎝ショックカノン、それもコート777を発動し威力が向上した上で複数砲塔による1斉射した渾身の攻撃を防ぎ切った事は当時の乗組員に衝撃を与え、その主砲を開発した南部火工も戦後に衝撃を受けた。Wunder進宙以前よりその威力が証明されていた陽電子衝撃砲の砲塔単位での搭載は、取り得る中で最強の手段であった。が、まさかそれを防ぎきる装甲を持つ戦艦が存在しているのは誰も想像できず、「防がれた」という事実が南部火工を燃え滾らせ、サナリィを巻き込み、半ばゼルグートへのリベンジのような設計状況となっているのだ。
「まぁそこはやってけば分かるだろう。試験が出来るようになったらガミラスから装甲貰った方がよさそうだ」
「その試験するには、やっぱりエンジンが必要ですけどね」
「真田主任の方は?」
「頑張ってもらってる。今は500m級艦艇に乗せられるくらいには小さくなってきたらしいです」
「真田主任と世界中の愉快な博士達。赤木博士もマリさんもそっちに移ったので効率は上がったかもしれません」
「Wunderの英雄勢ぞろいか。よくぞまぁこの時代にチートが集まったもんだ」
次元波動理論研究局は、この国際設計局と同じく世界中から英傑を集めて波動エンジンの本格的な研究と小型化を行う組織だ。ここにもWILLEの息のかかった人物が在籍していて、真田はもちろん主任となり、赤木博士、マリ、その他世界中の科学者一同が集い、波動エンジンの小型化が進められている。改良は二の次だ。
さらに、地球産の波動コアであるタウコアの構築が始まっている。当初はWunderの波動コアの解析と分解が行われる予定だったが、唯一稼働可能な艦艇の波動コアを取り外した場合再起動に時間がかかり軍事上致命的な見せる危険性があったため、ビーメラ4で回収したビーメラコアを解析して量産体制を整える準備を進めている。
(というのは建前、実際はツインドライヴを起こした波動コアの情報が洩れる事を恐れた為)
そしてこの時点で真田が直々に声をかけた人物が複数在籍していて、例外なくWILLE関係者となりSEELEを知っている。
「それと、相田さんからこんな物が提出されたんです」
「A140-F6計画?」
ハルナがタブレットに表示させたのは南部造船から親会社の南部重工大公社を経由してここに送られた計画書だ。将来的な平和維持軍(WILLE)の総旗艦としての超弩級宇宙戦艦でが構想され、Wunderを親とし、第2世代を子とし、そこで生まれた技術を投入する事が書かれている。
「南部重工で構想中の艦隊総旗艦建造計画。ナガトの拡大発展型として建造する積もりらしいです。ナガトの完成が前提なので今は保留中です」
「なんていうか……ホントに宇宙艦艇だよな、こんな形状だけど」
「どうやら子供の頃に200周年祭を見た人がだいぶ前から構想してたみたいで、いい機会だからウチに回してきたんです。そうですよね、相田さん」
「ええまぁ……あの式典を見てうちに入った人もいるみたいで、嘗ての総旗艦を蘇らせようと言い出してしまったんです」
第2次世界大戦200周年記念祭。2146年に世界の各所で同時に行われた平和式典で、あの第2次世界大戦から200年間大戦を回避し続けた事を称え行われた世界規模の式典だ。
当時を知る者はもう少なくなってしまったが、戦争遺物の復元という事で各管区で最も有名な戦艦が復元されたのだ。
ビスマルク、ミズーリ、キングジョージ5世といった当時の列強戦艦が復元され、極東では世界最大の洋上戦艦である大和が復元された。
式典の最後には弔砲が放たれ、彼女らはキングストン弁を抜き海底に眠る事となった。
この流れでは、その戦艦たちを23世紀に蘇らせる思惑もありそうだ。
「艦隊総旗艦計画は今は保留。形状くらいなら模索してもいいですけど、3艦艇が出来たらですよ? 南部造船組にも言っておきますから、『見切りで作ってはいけません』と」
「手厳しいなぁ……これ、全人類の男の夢とか言ってましたので」
「でも流石に総旗艦は必要だと思うので、時間あればこだわって作りますよ」
「だってさ。南部重工組さん、この超弩級戦艦造りたかったら巻いていきましょう。予算は通しますから」
「「「「ヽ(*'Д'*)ノヽ(*'Д'*)ノヽ(*'Д'*)ノオオオオオオオオオッ!!!! 」」」」
「「「「(((((((((((щ(*`Д´*)ノオオオオオオオオオ!!! 」」」」
狂声と奇声が響き渡り、南部重工組(とくに南部造船)から妙なオーラが湧き出している様に見える。一部の人にはマジのオーラ(ATフィールドに似た何か)に見えたらしいが、やる気になった事は良い事だ。艦隊総旗艦計画は第2世代艦艇の上に立つのでナガト達で実装された技術は全部突っ込む。これでどんなバケモノが出来上がるかは不明だが、地球防衛を担ってくれるなら頑張って生み出そうと主任2人は思った。
が、それでおさまらないのが睦月・暁国際設計局のマッド共だ。
「「「イクゾォォォォォォォォォォォォ!! 」」」
「「「オレタチノォォォォォォォォォォォ!!! 」」」
「「「宇宙戦艦ヤマトの為に!!!!! 」」」
(爆発エフェクトと効果音)
「大和? え、マジ、あの戦艦を!?」
「やるっきゃないっすよ!! あの勇ましくも坊ノ岬で散った超弩級戦艦を宇宙戦艦として復活させるんですよ!!!」
そういうと楊は自分のデスクに置いてあった「戦艦大和のプラモデル(愛でるために置いていたらしい)」を持ってくるとそれを主任2人に見せつけた。極東管区の前身となった日本がその昔の第二次世界大戦に生み出した人類史上最大の戦艦である大和は、航空機決戦思想の波にのまれ坊ノ岬沖にその身を沈める事となった。
大艦巨砲主義から航空機決戦思想へ、主砲よりもミサイルへ。時代は怒涛の勢いで流れていき、大和はその時代の流れを坊ノ岬沖の海底から眺める時を過ごした。
そして宇宙戦艦を用いた戦争が始まった。主砲は光学兵器で高威力の艦砲が再び要求されるようになり、その要求はWunderという超戦艦で想像以上に正しい事が証明された。48㎝という艦砲としては最大級の口径を誇る人類史上最大威力の通常兵装であるショックカノンは「宇宙戦艦としての1つの答え」を示した。
その答えをさらに昇華させ、Wunderの戦闘力を可能な限り詰め込んだ「宇宙戦艦ヤマト」を造るというのだ。
「確かに宇宙戦艦としての戦闘は艦砲射撃がメインだったけど、ミサイルは? VLSの装備も欲しいけど」
「お任せください! ナガト型を引き継いだ進化系として設計するのでVLS完備で魚雷兵装も標準装備です! なんならVPSS・ATLH持ってるのでミサイル系は基本無意味で光学兵器にもある程度の耐性あるお陰でいけます!」
「どのくらい?」
「体格的な部分でナガトより硬く耐えます。あとはエンジンの関係で波動防壁がやたら強くなります」
「エンジン?」
「ああこれです。お話したら真田主任が嬉々として趣味半分で理論構築し始めてしまったんです。三艦艇分終わったら本腰入れて作るから待ってほしいとか」
更に表示されたウィンドウには直列型ツインドライヴとかいう「正気とは思えない」代物が書かれていた。
ツインドライヴである
ツインドライヴである
「直列型ッ……!? どっからこんな物出てきたんですか!?」
「ああええと、真田主任と三桁メートルの艦艇にツインドライヴを乗せるならどうするべきかの議論をしていたところ、直列にしてしまえという話になりまして。タカオ用を2基直列に並べてコア同調してしまえばナガトよりもパワーを出せるとか仰ってましたね。あとは2段(ry」
「仰ってましたねじゃないんですいつの間にこんなオーパーツじみた物生み出してるんですか! ちょっとした議論1つで何十年も先の技術作るノリにしないでください!」
「いやでも、うちでWunder改修する事も決まったのでツインドライヴの件は部外秘で皆知ってるんですよ。ツインドライヴの奇跡と宇宙崩壊リスク。波動砲を受け止められる程の出力を生み出せるエンジンを三桁艦艇に収められる可能性が目の前にあるんです。ヤマトを最初のツインドライヴ搭載型三桁艦艇にしてみるのもいいんじゃないでしょうか?」
「いや、だからあの予算が」
「「「独身の男の夢です!!! 」」」
「いや私女ですけどぉ?! あと独身じゃなくて既婚者ですけどぉ!?」
反射でそう返したが、女性であるハルナに独身男性の男の夢は分かる訳もなかった。が、男の夢と豪語しながらもその概略図と計画案には一切の無駄を残さずにスペースと能力を使う執念が籠められていて、そう簡単にダメとは言えなかった。
更に見ればナガトの設計を独自に昇華させたそのデザインは単純な戦艦としての任を与えられただけには見えなかった。
(これ……水上航行性能も求めてるって事は……)
「人類居住可能な惑星の探査艦も兼ねてるのか? 本来ここまで水上艦にする必要はない。だったら、そういう任も含まれているって事だ」
考えを読み取る事は手慣れた物らしい。ハルナの思考を引き継いだようにリクが続ける。おまけに気配すら隠していたらしくハルナも感じ取れず、肩に手を置かれて猫に用に飛び上がって驚いた。
驚いたその表情に満足そうなリクはそのまま髪を纏めているバンダナに触れようとするが、
「まだダメ。部屋に戻ってから……解いて」
ガードして頬を膨らます。業務中にしなだれかかるような真似は出来ないのだ。もしそうなればまた「旦那主任と奥様主任」と騒がれるのだ。今は仕事モード。なるべくキッチリした姿でいたいのだ。
「そういえば部屋ありますもんね。というか家どうなったんですか?」
「巨大ネズミ捕りにした。もう数人捕獲済みだ。政府かもっと別の何かからのお客さんだろう」
「んで、そのお客さんは?」
「情報部がもてなしている」
「……闇マシマシですね」
何とは言わないが、おもてなしはされている方だ。加持の手腕で情報は徐々に吐かされているが、政府とSEELEのスパイもする事もあり双方に睨まれるほど頑張る訳にもいかない。一見中途半端に見えるが、それはWILLE独立までの辛抱だ。
「ところで、奥様主任のバンダナ取ったらどうなるんですか?」
「内緒だ」
「え?」
「いや、内緒だ。ああなるハルナを知っているのは、僕だけで良いかな」
「「「独占欲~」」」
そっぽを向きながらそう言ったが、耳が赤くなっていたのは隠せていなかった。それ以上に、まさか旦那様に独占欲が目覚めるとはと意外そうなハルナは、軽く頬を染めていた。
これ以上ヒューヒュー言われても問題だ。心積もりは出来てたけどもうOKを出してしまおう。
「ああもう……ツインドライヴはそんなに増やせないと思いますけど。もういいです。やれるとこまで詰め込んでいいですよ!」
「「「Σ(゚∀゚*【ォオォオォ!!】゚∀゚)b」」」
「マジっすか!? マジでツインドライヴ仕込んでいいんすか?!」
「真田さんと長官に話付けるので、サッサとナガト達作りますよ!!」
「「「Σ(゚∀゚*【イェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!】゚∀゚)b」」」
柱の影、壁越しに会話を聞いていた南部重工組が一斉に雄叫びを挙げてデスクに飛びつく。なんだなんだと南部組に状況を聞きに行った宙帝組も
「「「Σ(゚∀゚*【イェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!】゚∀゚)b」」」
と奇声を上げてデスクに飛び込み仕事に没頭する。その他海外組は「遂に狂ったか」と眺めていたが、リクが総旗艦計画を見せると
「「「Σ(゚∀゚*【ォオォオォ!!】゚∀゚)b」」」
と大興奮しで大討論会を始めてしまった。因みに内容は総旗艦ではなく第2世代艦艇の方だ。宿題終わればゲームが出来るという子供のあるあるに近いが、作業効率は通常の三倍。まるで宇宙の彼方からやって来た真っ赤な彗星の様だ。
が、今のこの2人には「予算を通す」という難題が待っていた。
(沖田さん……力貸して下さい)
仕方がないので、沖田の力を借りる事にした。
宇宙戦艦ヤマト建造フラグが立ちました