宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
AW元年(2200年) 6月
病室にノックの音が響く。半年前と同じように「入れ」と口にしかけたが、何とか飲み込んだ。
「どうぞ」
「「睦月三佐、入ります」」
一方ドアの向こうにいる二人は未だに抜けていないようだ。
私は予備役となり、軍からは一旦退いているはずなのだが。
「沖田艦長、お体の具合はどうですか?」
「今日は体が軽い。かけてくれ。それと、もう私は艦長ではない」
私は、復活した地球の姿を見た瞬間に、意識を失った。恐らく張っていた気が抜けて、身体が限界になりそこで急変を起こしたのだろう。佐渡先生が緊急手術を行ってくれていなければ、今私はこうして息をして地に足を付けていない。
だが、今私はこうして生きて、中央大病院の一室で静かに過ごしている。
コスモリバースによって再生した地球は、嘗ての地球のように青い海を携え、酷く懐かしい姿をしている。カメラ越しにだが数年ぶりに見る青い空と緑の大地に思わず笑みが零れてしまう。
「何を書いているのですか?」
「予備役は特にやる事も無いから、戦略教本を書いている。……平和維持軍は幼い。ガミラス戦役で多くの人々が亡くなった以上、戦略に詳しい者が少ないのが現状だ」
「ならば自身の経験と知識を伝えよう……ですね」
「こういう物を書くのは初めてなのだが……どうだろうか」
「僕は流石に本を書いたことありませんよ。でも、良い事だと思います」
「始まりは、藤堂長官がここにいらした事だよ」
ガミラス戦役とイスカンダル航海を越えた私に戦略アドバイザーとなって欲しいと、藤堂長官は頭を下げられた。
私は見ての通り今は体が持たない。アドバイザーとなって軍に復帰するのは恐らく難しいだろう。それでも、地球復興の力になりたいという思いが私を動かし、このような本を書く事になった。それに、もともと戦術の考案は幾つか行っていた。オーバードウェポンの後押しもした。それを用いた戦術の考案もしていた。あとはそれを纏めるだけだ。
「君たちが設計を急いでいる例の三隻。見させてもらったよ。……金剛村雨磯風型の流れをくむいい船だ。それでいて汎用性も高く、幅広い作戦行動に使える」
「ありがとうございます。あと数か月もあれば設計は完了し、試作に入れるかなと思います」
「楽しみにしているよ。毎日生きる理由が増えたよ」
今の私の楽しみは、こうして元乗組員が顔を見せに来てくれる事。そして、今目の前にいる睦月君達が世界中の造船企業と協力して設計をしている新型艦艇を見ることだ。
そして懸念点はガトランティス。どうにも嫌な予感が残り続ける。第三勢力ともいうべきこの文明は、ガミラスやイスカンダルとも違うメンタリティを持つ第三勢力。残念ながら話の通じるような文明には見えない。余りにも価値観が違い過ぎる。どれだけ生き残ったかではなく、どれだけ殺したかやどれだけ勝ち取ったかを競い合う様な価値観を持っているのだろう。
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「睦月君……いや、これでは被ってしまうな。旧姓で構わんかね?」
「別に気にしなくても大丈夫ですよ? 仕事でも旧姓使ってますもの」
「……暁君。彼との生活はどうかね?」
「……幸せです。イスカンダル航海前から色々あったお陰でその反動もあると思うのですが、この辺りがずっと暖かくて、心地いいです。色々あって家が無くなりましたけど」
「今はどこに?」
「設計局の中に自室を作らせてもらえたので、そこで生活しています。別に自室があるからと言って羽目を外す様な事はしていませんよ。そういうのは、世界が落ち着いてからにする積もりです」
暁君が両手を胸に当てて目を閉じている。ボンヤリと何かが、オーラのような物が滲み出ている……ような気がする。
佐渡先生と赤木博士、真希波くんが言うには、ヒト対ヒトでの極限のシンクロという状態を体験したから、こうなっているらしい。専門外の私には良く分からない内容だったが、感受性が振り切れているという事なのだろう。……一応ATフィールドに関する情報も受け取っているが、ここでは敢えて口に出さないでおこう。殆どの人間には知覚出来ない筈なのだが、もう既にオーラのような物がにじみ出ている様に見えるのだ。つい数分前に気がするといったが、訂正させて欲しい。見えるのだ。
呪縛というものが、この時点で相当進行しているのだろう。人の意識や感覚に直接作用させてしまう程のATフィールドが常時出ているという事は、この2人を狙う数も増えるのだろう。
「祝電を送れなくて済まなかったね。ここで祝わせてくれ」
「「ありがとうございます……!」」
「徳川君も私みたいに本を書いているみたいでね、波動エンジンに最初に関わった者として後世に経験を伝えていくみたいだ」
「本当にありがたいです。波動エンジン回りを教えられるのはWunder乗組員かガミラスからのゲシュタム機関に詳しい人たちだけですからね。マニュアルがあったら練度の底上げが出来ます」
「足りない経験は知識で補うしかない。シミュレータでも出来ない事はある」
定期報告で話が上がっていたが、現在平和維持軍はシミュレータ上での操艦、戦闘訓練を行う為の設備の設営を推し進めている。シミュレータの出どころは……まぁそこはいい。実際の艦がなくともそれに近い環境で何度も試せるのは練度の向上につながる。
「沖田さん。実は……お願いがあるんです」
「何だね?」
「実は……」
「総旗艦か……」
「A140-F6計画。今のところ、宇宙戦艦ヤマトと呼ばれています。第2世代の技術を詰め込み、ツインドライヴを搭載した第2.5世代艦としての設計と建艦を予定しています。予算が許せば、ですが」
「平和維持軍の予算も有限だ。そこに、儂の口添えが欲しいという事かね?」
「うう……そう言う事なんです。御旗はやはり必要という事もあるんですが、333mの巨大艦を建造するにはどうしても……予算問題が……政府から引き出す事が出来ればいいんですが、計画の事もあり余り関わりたくはないんです」
「ああ。あの青いバンダナの計画か。儂もこんな身だが参加させてもらっている」
儂は引き出しから青いバンダナを取り出すと夫婦に見せた。これは真田君から渡されたものだ。今の政府がどこか危険性を孕んでいる事。その裏にいる筈のSEELEという存在。そして彼らから独立するためのWILLE計画。彼らにとって、儂がこちら側にいるという事だけでも政府にダメージを与えられると言っていた。
この船を、その旗印にするというのか。
「分かった。この船の建造資金の追加申請を、儂の連名で政府に提出してくれ。君達の名前はかなりの影響力を持っている。政府もそう無視はできない筈だ」
「これではまるでお小遣いをおねだりする子供じゃないか」と出かかった言葉を飲み込み、将来への投資をする。今の儂は只の予備役の筈。筈だが……イスカンダル航海の功績で、知らない人はいない人となってしまった。
功績や肩書で何かを言うつもりはなかったが、使える物は使おう。今はこういうものしか使えない以上、後押しできることは後押ししていくしかない。体が落ち着くまでは、だが。
「それと、もし動けるようでしたらこのバンダナをこの人に渡して貰えませんか?」
ああ、このバンダナか。儂に渡すという事は……
「この病院の中か通院者に、引き込みたい人がいるという事かね?」
「テロメア異常でコールドスリープに入っていたみたいで、現在はナノマシン治療を行っているそうです。対象人物は葛城ミサト一尉待遇官。平衡世界線では同じ人物が現れるという法則に当てはまってましたので、早めの保護と引き込みを行うべきかと」
「以前提出を受けたモンタージュイラストと同じなら、探すのは簡単だろう。こちらも探しておこう。ここに通院している事は確かなのだろう?」
「確かです」
「では書類を。君達も急ぎだろう」
睦月君から書類を預かると、愛用の万年筆でサインを書く。「私、沖田十三予備役宙将は、地球連邦平和維持軍艦隊総旗艦建造計画への資金供出を、地球連邦政府に要請する」、そう書くと引き出しから自分の印鑑を取り出し押印する。光学兵器かく乱やオーバードウェポンの時といい、私の名前はどうやらかなりの力を持っているようだ。が、何時までもこれに頼るわけにもいかない。
万全にはなれないかもしれないが、指揮に執れる程には回復しなければ。
更に4か月後
AW元年(2200年)10月
軍事首都は通称で「第3新東京」と呼ばれる事となった。一般での正式名称はTOKYO3。内政首都はNEWYORK1、復興支援首都はBRUSSELS2と呼ばれる事となった。驚いた事に既に地盤工事がキリの良い所まで進み、仮設住居の建設が始まっているそうだ。
民間人の復員が始まるのはここから1年半後、2202年の4月くらいだ。が、それより前に軍事拠点等の設営等も始まるので民間人復員の一足先に軍関係者の復員が始まる。具体的には一月先にだ。
そして、時間断層
結果、ガミロイドの急速な劣化はあれど人的被害はなし。それに伴い断層周辺地域、海域、空域は不可侵域とされ、民間人の目に触れる事は一先ずなくなったのだ。
その工場は直ちに稼働を開始。ガミラスから移送されてきた資源を用い分散首都建設用の資材の製造を開始し、10倍速の工場は文字通り10倍の速度で物資を吐き出していく。
が、ここで問題になったのはこの工場の監視要員だった。10倍速の空間は生身には耐えられない。断層調査時にラットの入ったケージをワイヤーの先に繋げて断層に降ろした結果、ラットは急速に老い死んだ。この事から、何らかの対策を講じなければ人類もこうなる事が分かった。
が、これに関してはアテがあった。Wunderには、ワープをする都合上「ワープ加速に際する経過速度と地球時間の経過を合わせる」為の次元エナーシャルキャンセラーという装置がある。要は時間のズレの調整を行う装置だ。これを艦艇で常時稼働させる事が出来れは、時間断層制御艦として断層空間内での人間の常駐を可能に出来るかもしれない。
この艦艇の建造も、いずれ国際設計局に極秘の依頼として飛び込んでくるだろう。
さて、この時間断層工場は各地の断層の中でも最大クラスの断層に設置されたが、それぞれ名称が決められている。旧豪州管区ウーメラ砂漠のど真ん中に「ポイントネモ1」、太平洋の到達不能極に「ポイントネモ2」グリーンランド近海に「ポイントネモ3」となっている。
それぞれの断層工場が分散首都建設用の物資を吐き出し続けるお陰で、分散首都建設は一切の滞りを見せる事無く進められた。
また、
結果は上々。Wunderに搭載されていた連装高角速射砲塔よりも高い連射性をたたき出し、旋回速度仰角俯角の調整も問題無しときた。艦載のレーダーとは別で稼働するレーダーを装備しているので、万が一艦載レーダーを破壊されても独立して迎撃が可能だ。
そんなこんなでさらに半月、VPSS・ATLHの試作装甲板が出来上がる。これにも磯風型からの通電が行われ、宇宙での試験が行われた。肝心の砲撃役は、ゾル星系駐留艦隊としてに赴任してきたデストリア級の協力で陽電子ビームに対する耐久試験が行われた。
現状の磯風型の電力量では最大稼働は望めなかったが、それでも磯風型の最大出力でフェイズシフト展開されたVPSS・ATLHは、ガミラス艦艇の330㎜陽電子ビーム砲塔からの砲撃に耐えきった。正確には表面は溶解したものの、貫通を許さなかったのだ。さすがに第2射は防げなかったが、これで一撃爆散は余程の事がない限り起こらない事が保証された。
さらに付け加えるが、これで装甲一枚。宇宙戦艦Wunderの装甲で薄い部分と同じ800ミリだ。第2世代艦艇の装甲厚は最大で1000ミリとなる。これならそうそう沈まないだろう。
さらにWunder技術のフィードバックとして外殻装甲と内殻装甲の二重構造となっている。流石に1000ミリの装甲板を二枚重ねては内部構造を圧迫してしまうので、少し薄くして電圧を高くしてそもそもの装甲強度を高くするしかない。
内殻装甲に最大電圧をかけ実体と光学両方に対する防御を最大限に高める。一枚目は二枚目の貫通を防ぐ為の「内殻装甲が構える盾」として扱う。要は内殻装甲の貫通を防げばいいのだ。
さらに時間が過ぎ、AW2年(2201年)1月。とある組織の設立計画が立ち上がったのだ。
「物資の動きですか」
「連邦政府が持ってる断層工場2つに回している資源と、そこから吐き出された物資の種類なんだが、どうも投入された資源と吐き出された物資が釣り合っていないんだ」
「時間断層内で何かを作り続けている……ですか?」
「まぁそうだろうな。何作ってるかは分からなかったけど、ヒントは出てきた」
そういうと加持が見せたのは、ガミラス間の設計図だった。
「これは……ガミラス艦の三面図ですね。見た事ありますよこの艦艇なら」
「ガイデロール級二等航宙戦艦だ。地球だと超弩級戦艦の指定を受けてたやつだが、地球にないはずのこれが手に入ったんだ。地球がこんなん造る訳もないから、何かの参考に手に入れたってだけと思うが……」
「仮設大使館への問い合わせは?」
「平和維持軍名義で内密にな。確かに提供したとの事だ。用途は新型艦艇の開発参考資料として。連邦も造る積もりだろうな、新型」
「開発競争ですか、巻きでいきましょうか。あとは艦体をもう少し詰めてエンジンなので」
「情報管理は徹底しておくんだ。今のところ、軍事系の機密情報は平和維持軍に集約されている。こっちには英雄4人と世界中の愉快な企業軍団がいて1年もリードしてるが、盗み見されればその差は一気に縮まる」
「勿論です」
「それと、政府の艦艇建造による復興の遅れ、どうするんだ?」
「……BRUSSELS2。というか、ユーロに極秘裏にコンタクト取りましょう。加持さん。こういうのは、『信用』が必要なんです。なので僕達を連れてってください」
「連れてって、そこから?」
「ちょっと考えがあるんです。軍事メイン復興サブがWILLEなら、その逆の組織がいてもいいじゃないですか」
ユーロ管区
「まさか、貴方がこんな所までいらっしゃるとは想像もしませんでした。連絡を頂いた時は行政府は大騒ぎでして……兎に角、こちらです」
「なんか……ごめんなさい」
コスモシーガルで飛んだハルリク一行はユーロ管区に向かった。復興支援首都と指定されたBRUSSELS2を要するこのユーロは、TOKYO3と同じく地盤工事が進み作業用の重機が所狭しと並んでいた。シーガルが着陸したのは工事現場の近くに設営された臨時の滑走路であり、迅速に護送車に押し込まれて地下都市に向かった。
「装甲分厚いな。護送車ってこんなんなんだ」
「今の貴方方の立場は相当な物です。地球の軍事を一手に担う貴方方を狙う人物は多く、藤堂長官からも『最大限の警戒を』と連絡を頂いてます」
「過保護……一通り護身術は極めたけどなぁ」
「それでもですよ。こちらとしても零士様と風奏さまのご子息に何かあれば、申し訳が立たなくなります。せめてVIPの雰囲気を楽しんでください」
「落ち着きませんって」
「今紅茶を……もダメですね」
毒殺も考えた長官の要請で、向こうで飲み食いする事も出来ない。原則持ち込んだ物しか飲めず食べれずとなっていて、あらゆる殺害の可能性をシャットアウトしていた。
「すみませんうちの長官が」
「イイじゃないですか。それだけ大事に思われているという事ですよ。それと、そちらの方が」
「初めまして。デイブレイク代表の月村と申します」
「平和維持軍情報局所属主席監察官、加持リョウジです」
「ツキムラさんとカジさんですね。私はBRUSSELS2統括のカナーバと申します。まぁBRUSSELS2がまだ建造中なのでこれは暫定ですね。超戦艦の英雄にお目にかかれた事、光栄に思います」
そういうとカナーバは微笑んだと思えば頭を下げた。
「そんな、本当に運頼みのギャンブルのような旅でしたので……英雄だなんてとてもそういう人じゃ」
「それでもです。こちらの平和維持軍施設でもあなたの話を聞かない日はありません。シミュレータの件、本当にありがとうございます」
「艦体の方はもう少し時間がかかりますので、先にシステムを完成させてシミュレータ上でも練習できればと思いましたので。初期ロットの艦艇が完成しましたら、実際の艦艇での訓練に移ってください。練度は上げても損はないので」
「勿論です。それまでじっくり牙を研ぐように軍に伝えますね」
我らがハルリクと愉快なマッド達は、先にシステム面の完成を急がせた。勿論艦艇の設計も大事だが、大まかな艦隊形状と武装配置は既に出来ていて、FCS面の構築もそれなりに進んでいる。むしろFCS面の構築の方が早い程だ。
そこで、「システムだけでも完成させて、さきに練習してもらおう」という事で、ナガト、タカオ、ユキカゼの艦橋を模した「シミュレーションルーム」と本物と全く同じ仕様にしたFCSを搭載した「とあるソフト」を用意して世界中の平和維持軍基地にばらまいたのだ。国際設計局のマッド共のおよそ3分の1、軍事ソフトエンジニアのバケモノ集団が徹夜を重ねて作り出したのが、
MAGIAchiralの連携で限りなく現実に近い環境下での演習が可能となっている。
さらに、遠隔操作対応型武装選択汎用艦構想の実現のために、無人艦の遠隔操作演習も可能となっている。有人艦の矛となり目となり耳となり足にもなれる無人艦は、人材不足の地球の軍を支える重要要素だ。浪費などもってのほか。専属でオペレーターを育成してもいいくらいだが、誰でも出来る様にしてもらいたいのは本音だ。
なおこのソフトは、2人が沖田の見舞いに行った2200年6月からばら撒かれているので、平和維持軍は大体7か月分みっちり訓練ができているのだ。
「今回急に伺ったのは、地球復興に関する重要なお話の為です。現在の地球連邦政府が何を進めているかは、ご存じですか?」
「現在の連邦政府が、ですか? ……見えてきました。こちらとしても疑問には思っているのです。時間断層工場の稼働で復興資材の製造と搬出が始まっている筈なのですが、こちらが独自に調査して算出した量と事前に想定された量が合わないのです。それも誤差ではなくかなりの差が」
「恐らくですが、政府はガミラスからの鉱物資源等を用い、極秘裏に艦艇の設計と試験製造を始めているかもしれません。これが、それに思い至ったきっかけです」
そういうと、ハルナはカナーバにガイデロール級の三面図を見せた。軍事技術に明るくないカナーバでも分かるガミラス艦艇。これを政府が持っていたという事は、これを原型にして何かを造ろうとしている事は想像に難くなかった。
「なるほど……政府が取引でこの設計図を手に入れ、これをベースにして艦艇の設計を行っていると、運び込まれる資源の一部を試作に回している、と。これを何処で?」
「私です。元々は政府からの主席監察官であり監視役のような立ち位置でしたが、こちらのオバケ夫妻に色々言われまして。今は真実を知り過ぎたという事で協力しています」
「オバケは言い過ぎです」
「それ以外何があるってんだ? カナーバ統括。こちらのオバケ夫妻から提案があるとの事ですが、それを受けたらあなたもこちら側の人間となって後戻りが出来なくなりますよ。それでもよろしいですか?」
急に真剣な顔となった2人と加持と月村に、カナーバは一層背筋を伸ばした。顔も引き締まった。まだ余裕の合った話からいきなり「後戻りが出来なくなる」と言われると、否が応でも引き締めるしかないのだ。
「……どういうことですか?」
「連邦政府の裏側に存在する何かと戦う為です。今はここまでしかお話しできません。私達には、滞りのある復興活動を加速させる手段があります。カナーバ統括、BRUSSELS2に与えられた役割という事もあるのですが、出来ればこちら側に移ってもらいたいのです。まだ政府の手がこちらに伸びる前に」
「政府を蹴れという事ですか?」
「別に今すぐではないですが、2年以内に蹴る事となりますね。もしも提案に乗っていただける場合は、政府を蹴った日には直後からTOKYO3との密な連携が始まります」
カナーバは熟考した。確かに自分に与えられたのは復興支援首都であるBRUSSELS2の統括本部長という役目であり、地球全土の復興活動の推進と地上への復員を行う重要な役目だ。それには資源と人手がどうしても必要だ。人手はどうにかなるが、資源は今は採掘やガミラスからの輸入に頼るしかない。それが政府の軍事研究に回されている。口には出していないが、カナーバの感想は「は? マジかよ」だった。BRUSSELS2にも時間断層工場の使用権が回されているが、肝心の資源の量が少ないのが現状だ。
今までの話では、「資源量をどうにかできるかもしれない」とは言っていない。ただ「提案がある」としか言っていない。が、この超戦艦の英雄の考える事だ。何かあるのだろうと思ったカナーバは、覚悟を決めてその提案に乗る事にした。
「……サッカーは、好きな方なんです。ただ、今回蹴るのはボールではなく政府ですが」
「サッカーとはいっても、TOKYO3とBRUSSELS2でパス回しするだけですけどね。カナーバ統括本部長、ようこそWILLEへ」
「WILLE……ドイツ語ですか?」
「元ネタは伏せますが、確かにドイツ語です。平和維持軍独立後の組織の名称です」
「っ!? ……貴方方はいつから準備を?」
「地球帰還の直前からですね。睦月夫妻の要請を受け、私が世界中の企業とお話をし、第2世代艦艇建造の協力を取り付けました。睦月夫妻のネームバリューもあったお陰で、全世界から企業が集まりました」
「ちょっと会長、そのお話は……」
「使える物は使えるなりに使いましょう。宝の持ち腐れもいいところです」
「持ち腐れって……とにかく私達は、BRUSSELS2に対し艦艇の供与を行う事が出来ます。具体的には、非武装状態で作業用クレーンや大型コンテナ、大型アーム等を取り付けた所謂工作艦となります」
「……詳しく聞かせてください」
「元が軍用艦でその改造となるので素のスペックは高く、基本的に内惑星系や基地周辺、地上での運用となりますが、長距離航海用の居住区画を潰して大型の倉庫とする事も出来るので、運搬量にも自信あり。護衛を付けて外惑星系から資源を買い付けて……」
「それを地球に持ち帰るタンカー船として運用可能と」
「資源の供与はこちらも出来ませんが、効率よく調達する手段はここの力で供与可能です」
そういうとリクはこめかみを指で叩いた。なるほどそう来たかとカナーバは感心した。
第2世代艦艇は第1世代艦を遥か彼方に置き去りにし別次元レベルの艦艇となる事は把握している。第2世代艦艇のドクトリンは理解もしたし感心もしたが、汎用艦としての部分をここで押し出したかと思うと軍用艦の工作艦化も悪くないものと思える。
具体的には、元々主砲が取り付けられていたターレットリングに大型クレーンを装着させるのだ。陸上にクレーンを建設するよりも早く現場投入が可能であり、オーバードウェポンコネクタも利用すればコンテナを積載するための追加甲板も用意できるだろう。それに通常は非武装だ。対空兵装が塞がるといった問題点も、作業用と割り切れば平時は問題ない。
勿論オーバースペックに思える部分もあるが、外惑星系からの資源調達も考えるとワープや自衛能力は欲しい。それを元から備えた艦艇とこの提案は、正直に言って「政府よりいい」のだ。
「なるほど……自分たちの強みを押し出した魅力的な提案です。ですが、それほどの大掛かりな活動をするには、BRUSSELS2も政府からの独立と組織化が必要に思えます。貴方の事ですから、何かいい名前をお持ちかと思いますが」
「僕が考えた物ではないんですが、あります」
「どのような名前ですか?」
「
「KREDIT……WILLEより民間人に近い立場で活動する以上、信用は確かに大事ですね。分かりました」
「では、細部はこれで進めていきましょう。WILLEからは工作艦供与と輸送艦護衛。KREDITからはWILLEの工作艦を用いて復興を進めながらWILLEの活動拠点を構築する。有事の際は工作艦として艦艇整備と応急修理を行う」
「ええ。これでもう後戻り出来ませんね。こっちのほうがよっぽど良さそうだ。品質の方は期待させてもらいます」
「極東品質を保証します。では、そのように」
「アカツキ主任!! ムツキ主任!!」
「「ん?」」
声のする方に顔を向けると、警備員に羽交い絞めにされながら大声で呼びかける金髪でモノクルを身に着けた青年がいた。資料の束を片手に必死の形相で藻掻くが、警備員の鉄壁のガードで先に進めない。
「お前! 何をしている!」
「通せ! この機会を逃せば先は無いんだ! 主任! どうか話を聞いて下さい!! 私の話を!」
「あの人は?」
「ユーロ管区宙技廠のアルバート・ハインライン一尉です。ガミラス戦争中期頃から、人型機動兵器での対艦近接戦闘ドクトリンを唱えていましたが、前例もないドクトリンで賛同者がいなかったのです。確か……空間騎兵への配備だとか言ってましたね。終戦になったのでもう意味はないのですが……」
「意味が無い? 何言ってるんですか面白いじゃないですか。警備員さーん! ハインライン一尉とお話ししますので通してくださーい!」
「他の連中はどうにも納得してくれなくて困っていました」
「求められる時が今だってことです。対艦近接戦闘ドクトリンと二足歩行機動兵器。こんなとんでもない物を設計していたとは……ですが、どちらかというと航空隊での運用に近い感じですね。変形して航空機形態で飛び回るとか何処のSFですか?」
「超空間航行にショックカノンを連射する戦艦がいるのです。この今がSFでしょう」
TSF-GNY-0000と明記されたまだ名もないこの機体は18mクラスの巨体で、人間と同じように
二本の腕と二本の足を持つ。腰部には一対のスラスターらしきものが取り付けられているが、コスモファルコンやゼロの様な開口部が存在していない。まるでただの円錐だ。
そして背部には一対の翼のような構造物。折り畳んでいるようで、機体に対し垂直になるように配置されている。一見武装は見当たらない。航空機の様に内蔵式ではなく手持ち式だろう。
「この推進機関は?」
「私が独自入手した論文から推測した特殊粒子を用いた推進機関です。恐らく重力から逃れた機動性を獲得できるかと。まだサンプルすら存在しませんが専門外で誰を頼ればいいものかと悩んでいたのです。世界中の企業の協力を取り付けられたアカツキ主任であればどなたかご存じないでしょうか?」
「流石に量子物理学はやってませんって。それに……こんな動力があったとしても、それを活かすための技術がまだそんなにありません。精々ショックカノン用のコンデンサーを応用して使ったり陽電子供給用のケーブルくらいです。アレでも大きいくらいですけど」
「それだけあれば今は十分です。武装は実弾系と高振動系。光学兵器は悔しいですが大人しく待ちます」
「可変機構……どこまで飛ぶつもりですか」
「粒子が尽きない限りは飛び続けられます」
「操縦は? 操縦桿だけでは無理だと思います」
「実はソフトだけは構築が進んでいるんです。操縦桿は武装や姿勢制御だけに使えばいい。それにこの機体は人型です。人間と同等の疑似神経が仕込まれているので後はこのOSを搭載すればいけます」
ハインラインが見せたタブレットにはOSのテストタイプの名前が表示されていた。
General
Unilateral
Neuro - link
Dispersive
Autonomic
Maneuver
(Complex)
[単方向の分散型神経接続によって自律機動をおこなう汎用複合体]
「人間にはCPGと呼ばれる神経回路網があり、それを電子的に完全再現した疑似神経回路を実装したのがこのOSです。むしろ他のSF系作品が異常なのです。両手の操縦桿と両足のペダルのみで高度な操縦が出来る方がおかしいのです。とはいえ本格的な脳波操縦や人体改造に手を伸ばすわけにもいかず人道的な操縦方法を探すのに苦労しました」
CPGとは「頸・腰髄膨大部に存在する歩行、呼吸、咀嚼運動などのリズミックなパターン運動を惹起する神経回路網」であり、これがあるから人間は満足に動き回る事が可能で、GUNDAM OSにはそれが搭載されている。さらに疑似的な皮質を持ち、それと直結した分子イオンポンプからの供給される分子の調整でパイロットとの神経接合の相性を調整する。専用のルーチンは小型量子コンピュータで制御され、シナプス融合の代謝速度を管理する。
神経回路網、コリオリ偏差、メタ運動野パラメータ、運動ルーチン、エネルギー配分、射撃兵装の照準等を全て統括制御するこのOSは、とても少数で組み上げられるものでもない。
「私はアニメは見ないのですが今回の為に参考にしました。可能な限り再現に成功したと自負します」
これをたった1人で。ハインラインの熱意はすさまじい物であり、自分のドクトリンを推し進めるためにはとにかく努力するタイプの人間だ。これはアレだ。自分が進み過ぎてしまって周りの理解が追い付かなかったタイプで、孤立していたのだ。極々まれにいる天才だ
でもプランはいい。空間騎兵の体の動かし方を機体にダイレクトに伝えてそのままの動きをさせる事が出来るなら、宇宙海兵隊全体の戦術を大幅に増やす事ができ、「対艦戦闘への参戦」も出来る。欠点と言えば、空間騎兵各々の特徴を機体に伝える以上、一機一機がそのパイロットに調整したOSとなるくらい。だが、それもパラメータで管理してあげれば改善可能だ。
そのサイズを活かし戦艦や航宙母艦に多数搭載し、高速戦闘を主にして航空機の撃墜を得意とする航空機。人型が活きる複雑な戦闘行動や航空機では運用不可能な大型兵装の使用、継戦能力もそれなりにある人型機動兵器。航空機と喧嘩するかと思ったが意外と棲み分けができている。十分アリだ。
((面白くて将来性あっていい人ゲット!))
ATフィールドでちゃっかり感想がハモり、ハインラインの極東行きは決定した。
「あとは機体、ですね。ハインライン一尉、空間騎兵への導入で本当に地球を救えるか、まだ分かりません。ですが、可能性に賭けて極東に向かう気はありませんか? というより、来てもらいたのです」
「主任のホームグラウンドですか」
「世界中の企業のマッドな技術者が集結しています。言い方は良くないですが、マッドが1人増えるだけですよ。ですが本当にその機体が出来るかは分かりません。計画を提出して予算が降りないとペーパープランのままですが、それでも行きますか?」
手を差し伸べられると、ハインラインの反応は速かった。
「行かせてください。私が言う以上、この機体は……戦術機は間違いなく人類と地球を救います」
「分かりました。極東行きはまた後日連絡します。それまでに身の回りの物を整理して海を渡る準備をしてください。あとそれと、何時ツッコもうかと思ってたんですけど私は暁主任ではないですよ。仕事人間ですけどこれでも既婚者です」
「こちらにはWunder進宙時の名前でしか通っていなかったのです。苗字を間違えていたのなら謝ります。名前を伺っても?」
「私は睦月・ハルナ・暁。こっちは夫の睦月・リク・暁です。それでは私達は戻らないといけないのでこれで失礼します。ハインライン一尉、極東でお待ちしていますね」
その1週間後ハインラインの元に1通の便箋が送られた。中身を確認するやいなや人目に付かない所で小さくガッツポーズを取り、「ようやく分かってくれる人に会えた」事に喜んだ。なお、一緒に水色のバンダナが入っていたのだが、極東で事情を説明されるまでハインラインには何の事か分からなかったそうだ。
その1週間後、地球連邦平和維持軍予備司令部の一室にハインライン研究室が設置され、98式特殊機動外骨格改*1を開発したメンバーと一部のロボ好きのマッドが移籍してきた。
なお、空間騎兵の面々に計画はウケたが予算の捻出でリクがくたびれたので、その夜はリクがハルナに癒された。決してアレな事ではない事は明記しておく。
まあ健全な方の内容だったので、目を盗んで書いておくことにする。リクを自分の胸に突っ伏させてそのまま抱き締め物理で癒していた。所謂胸枕という状態だ。スレンダーなのに異常な筋力とバイタルがあるハルナは、脱力した成人男性を同じ体勢で支え続ける事も容易い。初々しい恋人らしい事しかしてなかったリクば茹だったように赤い顔になってしまったが、やっぱり温もりでハルナに落ちた。ちなみに感想は「いい匂いのするふかふかの布団だった。疲れてるとき布団で寝たら全快するアレより全快する」らしい。
その翌日、リクが明鏡止水で仕事していた理由をマッド共は知らないが、いつもの3倍で進めていたのを見たハルナは「やる方も恥ずかしいけど顔赤くして甘えるから可愛いんだよね。またやってみよ」と思ったらしい。独身組は血の涙を流してもいい。いや、一部のマッドは意味も分からず血の涙を流したそうだ。
戦術機開発が始まりました。
GUNDAM OSとGNドライヴが入ってますが、間違いなく戦術機です
注 ハインライン大尉はSEEDFREEDOMでは30歳ですが、この時点で明らかに自分より上だと自覚しているのでこれでもハルリクに敬意を払っています