宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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3199第2章、皆さん見に行きますか?

修正
火竜の大気圏内最高速度⇒マッハ3
震電の大気圏内最高速度⇒マッハ2.5


空を舞え巨兵よ/第3新東京

「太陽炉の進捗状況の報告を」

 

「北米管区のレイフ・エイフマン教授に基礎理論をお渡しし試作品の製造に入っていただきました。ですが現状の技術では建造に時間を要する物であり量産には向きません」

 

「あくまで試作止まりという事ですか。制式機用の推進方式が必要になりますので宙技廠に複合輻流式の提供を打診して下さい。軸流式はパワーがあります熟練者でないと振り回されます大量配備向きとは言えません」

 

「軸流式……?」

 

「零式52型の搭載エンジンです。各部関節は、関節部分にコンデンサーを仕込みコンデンサ自体を間接軸とした関節構造を採用しました。制式機の場合はコンデンサを内蔵せず他の構造にする必要があります。許可は出ていますので進めます」

 

「は……はい」

 

「試験部隊の人選の方は?」

 

「何分高機動機となるので、体格的にそのような機動に強い人物を集めました。問題は、空間騎兵の中でもそれなりに若いという事ですが」

 

「年齢の心配は不要ですが部隊名は?」

 

「戦時編成部隊だったスピアヘッド戦隊です。元々月面駐屯地に駐留してた部隊で、ガミラス戦争終結と同時に生き残っていた部隊の1つです。何人も死んでいる筈なのですがなぜか退役者が出なかった事で不気味に思われていたそうですが」

 

「構いません進めて下さい」

 

 _____

 

 

 2か月後

 富岳重工

 

「お待ちしておりました」

 

「建造状況は?」

 

「マクダエル・ドグラム、ロックウィード・マートゥインからも応援が入りましたのでスピードは速いです。あとそれと、貴方が御所望の方も合流済みです。御挨拶の方は?」

 

「ヴァスティさんは今どちらに?」

 

「格納庫の方でしょう。お呼びしましょうか?」

 

「いえ、こちらがお呼びしましたので。こちらが出向かないと寧ろ失礼かと」

 

 そう言うとハインラインは作業員の案内に従い格納庫に向かい、フレームむき出し状態の機体と対面した。鈍い鉄色をしているが、実は金属ではなく大部分をEカーボンと呼ばれる素材で構成している。カーボンナノチューブの20倍の引っ張り強度を持つ超高強度素材ではあるが製造には細心の注意が要求されるため、以降の制式機は量産性を重視した素材に置換されるだろう。

 その候補として挙げられているのが元火星の企業複合体であるテイワズ傘下企業のエウロ・エレクトロニクスが地球で開発した「高硬度レアアロイ」だ。そこそこ軽くて頑丈で強い、そこそこ製造しやすい。第1世代艦のフレームの一部にも使用されていた実績もある。候補ではあるが採用を見送る理由はない。

 

 そしてひときわ目を引くのが関節各部のレンズ上のパーツだ。これは粒子を貯蔵するためのコンデンサであり、粒子コンデンサと呼称されている。これが腕部と脚部に関節用の軸として内蔵されている。これも制式機は大電力貯蔵用のコンデンサか燃料タンクに代わるだろう。

 

 夢に描いてきた戦術機との対面もそこそこに、ハインラインは目的の人物を探す事にした。

 

「すみません。ヴァスティ技師はどちらに?」

 

「ヴァスティさんですか? それでしたら試作機の……いました。見えますか? あちらです」

 

 作業員が指さす方向には戦術機フレーム内の管制ユニットがあり、そこで内装キーボードで調整をする眼鏡の中年男性がいた。少し髭の生え細いフレームの眼鏡をかけ厳しそうな顔をしたその人物はキーボードをたたいてはコンソール上の計器とにらめっこし、またキーボードをたたいている。

 

 ああ、あの人だ。目ざとく見つけたハインラインは近くのリフトに駆けていきすぐに完成ユニットのあるフレーム胸部までの高さまで上った。

 

「ヴァスティさんですか?」

 

「すまんが今手が離せなくてな、このままでいいか?」

 

「そのままで大丈夫です。アルバート・ハインラインといいます。ユーロからここに来ていただいた事、感謝しています」

 

「ハインライン……? ああ、あんたがハインラインか。どこでワシを知ったんだ?」

 

「軍需産業系企業で人型機の案の提出が行われたと戦時中に耳にしました」

 

 そう言われると何か思い出すそぶりを見せ、数瞬すると思い当たる事があったようで溜息を付いた。

 

「あれか。上の連中には笑われたが、大真面目に受け取ってくれたやつが今目の前にいるんだったな」

 

 キーボードから手を離し、ヴァスティはハインラインに顔を向けて握手をした。

 

「イアン・ヴァスティだ。今は富岳重工に雇ってもらってる。で、アンタが開発者のアルバート・ハインラインだな? まぁよろしく」

 

 


 

 

「んで、あのオバケ動力。ありゃなんだ?」

 

「今は太陽炉と呼称しています。北米での試験製造が最終段階に入りましたのでそろそろ空輸されるかと」

 

「そうじゃねぇ。取り敢えず指定されたコンデンサとケーブルは作ってフレームに内蔵させたが、あれはまぁ、なんだ。血管みたいなものだろうとは思っているが何で貯蓄する必要あるんだ?」

 

「太陽炉が電気から変換できる粒子量には時間当たりの制限がある為です。使用量が生成量を上回ってしまえば枯渇し機能に著しい制限がかかります。それを可能な限り防ぐ為にコンデンサが必要となります。粒子を圧縮して貯蔵するため、見かけよりも貯蔵が出来ます」

 

「作ったからその辺は分かっとる。んで、装甲の方は別のとこで作っとる」

 

 そういうとイアンはハインラインを連れて別の区画に向かった。あのフレームにはまだ各種内蔵部品とセンサーが取り付けられ最低限動けるようにされているだけで、肝心の装甲は一つ隣の区画の工廠で製造されていた。

 

 耐熱下地塗装が施されただけの黒色の装甲は主に曲線で構成されている。なるべく曲線で構成された装甲はしなやかだが空気抵抗をあまり考えていない様に見えるが、機体の正面にあたる部分には平面は少なくなるように構成されている。大気圏内機動で空気を受け流す為の工夫だ。航空機は空気抵抗を抑えるために機体はなるべく全高を抑えて設計されているが戦術機はそうはいかない。なら受け流しやすい四肢にしてしまえばいいじゃないかという事で、直立で四肢の正面を向く部分は鋭角にして曲線で構成してあるのだ。

 

「後は試験機用に派手な色で塗っておくだけだ。赤とか黄色とか。ソフトの方は?」

 

「GUNDAM OSでしたら問題ないかと。残りは汎用的調整が少しです」

 

「その汎用的調整用のテスターは2か月後くらいに来るはずだ。少々アレな部隊だが、まあいいだろ」

 

 

 _____

 

 

 

「空間騎兵隊ユーロ管区戦時編成スピアヘッド戦隊所属、シンエイ・ノウゼン二尉です」

 

「平和維持軍ハインライン研究室室長アルバート・ハインライン一尉です。テストパイロットの呼集に応じて頂き感謝します」

 

「命令されればそこへ向かい、必要があれば戦う。それだけです。試験機の概要を」

 

 淡々とした挨拶もすぐに切り上げられ、ハインラインは試験機の概要の説明を始めた。

 

 何とか完成にこぎつけた試験機体は2機だ。片方は太陽炉を2基搭載した試作機。もう片方は量産前提の試作機だ。主な差異は、粒子コンデンサと大電力用コンデンサ、燃料タンクの有無、粒子供給用ケーブルの有無、フレーム素材。太陽炉かコスモエンジンか。そして、変形するかしないかだ。

 

 太陽炉の方は北米管区でレイフ・エイフマン教授によって理論解析が行われ試作された「電気を粒子に変換する変換炉」を搭載している。電力が続く限り変換が続く。

 コスモエンジンの方は、複合輻流式コスモエンジン「流星35型」の前身にあたる「流星33型」を搭載している。元々極東管区宙技廠で保管されていてコスモファルコンに乗らないサイズだが、引き換えに35型を超える推力を提供できる。

 

 最高速度は風洞試験でのデータから、太陽炉搭載機は大気圏内で最高時速マッハ3をマーク、コスモエンジンの方は一歩劣るマッハ2.5だ。

 

 射撃武装は60㎜電磁投射機関砲(チェーンガン)と120㎜対艦対地グレネード(120ミリ口径の三式弾のような弾頭)投射機を搭載した「WSY-00 試製電磁汎用小銃」と、空間騎兵の標準装備である「AK-01 レーザー自動突撃銃」を模した「WSY-01 試製40ミリ自動電磁突撃銃」が試験的に装備されている。GUNDAM OSによる神経接合操縦の観点から日ごろから使い慣れた装備を可能な限り再現したため、サイズは異なるが空間騎兵の装備と同じ形状になっている。他にもハンドガンタイプ、支援用大型ライフルタイプ、RPGを模した大型対艦ミサイル発射機も開発中だ。

 

 この兵装は例外なくレーザー測距儀を搭載していて、射撃目標との距離を計測し戦術機のFCS(火器管制装置)に情報を転送する事が出来る。

 

 近接用武装として、CIWSY-01として超高振動式近接短刀が試験的に装備されている。超高振動状態で敵の装甲を切り裂く事を主眼としているが、実際は敵艦の艦橋に直接攻撃をかける時に使うくらいだ。その証拠として、開発中のあだ名が「ブリッジブレイカー」だった。

 

 将来的にはロケットランチャー方式のミサイルコンテナを背負う事も考えているが、今はまだ構想段階だ。

 

 最後に太陽炉搭載型の方は火竜(KARYU)。コスモエンジン搭載型の方は震電(SHINDEN)という名が与えられている。

 

 

「ここまではよろしいでしょうか?」

 

「大体は。自分の動きに合わせて動けるのは拡張性が高いかと。それでこれから行うのが地上でのテストですね」

 

「ええ。TOKYO3に併設した空間騎兵隊と首都防空隊の合同駐屯地です。まだ施設の大半は建設中ですが滑走路は直ぐに仕上がったので使用許可を取り付けました」

 

 そう、今地上にいるのだ。

 TOKYO3の建設進捗は6割、既に一部の施設は軍関係者を受け入れて稼働を始めている。都市全体はまだ未完成だがこうも早く稼働を始められるのは時間断層の10倍速の生産能力のたまものだ。

 

「では早速準備にかかります。念の為装甲服の着用を」

 

「必要ないかと。仕様書から慣性制御が入っている事は把握しました。それと設計に睦月夫妻が一部協力されていると確認しました。ユーロにも名前は広まっている有名な方です。その人が関わっているのであれば、安全かと」

 

「ですが史上初の兵器となりますので着用をお勧めします。慣性制御が働いているとはいえ航空機では不可能な機動をする事も可能な機体です。体を痛めては今後に支障が出ます」

 

「……そこまでおっしゃられるなら、わかりました」

 

 

 _________

 

 

 

 という事で、装甲服を着用した隊員は震電と火竜にそれぞれ乗り込み動作テストを開始した。本来空間騎兵隊は戦闘行動に際して宇宙船や飛行物体を使わず、直接惑星表面に降下して戦う部隊ではあるが、艦に乗る人間も足りていないこの状況下では空間騎兵にも対艦戦闘能力をという事なのだろう。そう納得したノウゼンは格納庫のタラップを使い火竜のコクピット付近まで上がった。

 

 両手に操縦桿、足元にペダル、その他細かいスイッチ類、各種計器。意外にもシンプルな配置だ。

 

「これが操縦席か。たったこれだけで操縦できるのですか?」

 

「神経接合系OSを使用していますので問題ありません。今回はテスト用なので汎用型の調整にしてありますが、制式配備完了後は機体ごとにパイロットの癖を覚えさせることも可能です。計器での手動制御を可能な限りオートに置き換えましたので、OSの構造上では訓練を受けていない学生でも操縦可能です」

 

「それ、大丈夫なんですか?」

 

「むしろ誰でも使える面が重要です。操縦技術より運動神経の良さを重視する事になるかもしれませんが、腰部スラスターでの姿勢制御方法をマスターすれば、極端な話ですが一般市民でも操縦できます。逆に使いにくい兵器は場を選びますしそれは今の地球には求められていません」

 

 現在の地球は人も物も足りない。物は時間断層でカバー可能だが人の方はそうもいかない。その為平和維持軍の兵器は、装備品や追加兵装で出来る事を増やして「何をさせてもこなせる」ような万能性が求められる。

 しかし、何でもできるようにした結果器用貧乏に終わってしまう例がある。ハインラインは知らないが、ガミラスのゲルバデス級は空母と戦艦の良い所取りをしようとして中途半端になってしまった。そこから改装を受けて器用貧乏から強引に脱したミランガルなんて例もいるがアレは例外だ。

 

 が、器用貧乏にはならないように作ったのが戦術機だ。

 基本は空間騎兵の基本兵装を装備。隊員や任務の特性に合わせて別の装備に交換。最初から欲張らずに必要な時に必要な物を装備する。素の状態で欲張らず、人間的な動きが出来る汎用性だけを求めた結果、戦術機は他に類を見ない汎用性を持ち器用貧乏も回避する事が出来たのだ。

 

 

 と、ここまで説明しているとOSも立ち上がり、4点ベルトを着用する。さてコクピットハッチを閉めようとすると、ハインラインも乗り込んできた。

 

「乗るのですか?」

 

「開発者ですので。私の成果物をこの身で体感するのもいいかと。補助席はありますのでご心配なく。まもなく神経接合に入ります。シミュレーション上では問題ない事を確認しましたが、体に異変がありましたらすぐに申してください」

 

 神経接合と言っても、機械的に接合するとかグロテスクな手段は取っていない。背もたれとヘッドレストにあたる面が神経接合用のセンサーで埋め尽くされていて、そのセンサーで神経を読み取り機体と接合する。「単方向」での神経接合を行うOSの特性上、「双方向接続」ではない。従って、仮に機体が損壊してどこかのSFアニメみたいにパイロットにダメージが返ってくるようなことはない。

 

 つまり、身体を動かすイメージさえ作る事が出来れば操縦桿無しでも操縦できるのだ。

 

 良い機会なので、コクピット内の内装についても説明しよう。

 

 コクピットに搭載されている操縦桿、フットペダルは腰部スラスターや太陽炉搭載スラスターの向きと出力の調整用、各種武装の選択と射撃管制。

 各種計器、スイッチ、モニターで可視光線から不可視波長までの観測手段の変更と調整、機体ステータス。通信、レーダーの調整。機体各部の磨耗率。各部隊のステータス表示。

 邪魔にならない所に仕舞われたキーボードでOSの調整や各種メンテナンス。

 

 そして全天周モニター。頭部、胸部、左肩、右肩、左脚部、右脚部、腰部に取り付けられたカメラからの光学情報を基にした合成映像が映されていて、たとえ目視では視界が不明瞭になる環境下でも全天周モニター上では明瞭な視界を提供できる。これはGUNDAM OS用の機載小型量子コンピュータのお陰であり、戦闘をアシストする。

 

 

 ここまで説明していると、システム側の準備も完了してきた頃合いだろう。では解説はここまで。

 

 _______

 

「調子は?」

 

「……体が大きくなった気がします。痛くはないですが、不思議な気分です」

 

「大きくなった、ですか? 震電に繋ぎます。シュガ二尉。神経接合に何か身体上の違和感はありますか?」

 

 妙な感想に疑問を覚えたハインラインは震電に通信を繋ぐ。今震電に乗っているのはライデン・シュガ二尉。86隊の副隊長であり、結成当時からノウゼンを知る腐れ縁の隊員だ。

 

『あーハインライン一尉でしたっけ。別に体が痛いとかピリピリするとかは無いですよ。何なら一旦接合やりなおした方が分かりやすいんじゃないすか? 今だって腕動かして握ったり閉じたりしてますけど、滅茶苦茶滑らかっすよ』

 

「……再起動を。それで問題なければ動作テストに入ります」

 

『ハイ了解。どのくらいかかります?』

 

「30秒という所です。もう少し短くしたかったのですが時間の問題で。いずれアップデートで素早くするつもりです」

 

『んまぁ期待してますわ。機体の状態は見えてますよね? 一旦切りますんで』

 

 シュガ二尉との通信も切れ両機とも再接合に入る。が、繋ぎ直してもテストパイロットからの反応は同じ。分子イオンポンプと量子コンピュータ内の専用ルーチンを軽く見直しても異常はなし。ある意味正常な反応だろうとハインラインが一旦結論付けると、次の工程に入った。

 

「それでは、両機のケージロックを解除します。軽く歩いてみて下さい」

 

 滑走路上に設営された仮設ケージのケージロックを解除し、直立状態にさせる。パイロットが直立すると考えればその体の動きのイメージを機体に反映し、機体はこの上なく綺麗に直立する。この状態でも絵になる。今は手には何も装備していないが、この状態で片手に電磁突撃砲を構えた「左右で重量に差がある状態」にしても、機体は問題なく直立する。

 何度も言っているが、操縦者のイメージを機体の動作に反映させる事が出来る。空間騎兵の教練を受けているならば重量のある小銃を片手に持っていてもふら付く事はない。慣れてきたら戦術機で腰部スラスター抜きでバク転も可能だろう。真に重要なのは運動神経だ。体の動かし方を分かっていれば機体はそれに応えてくれる。

 

 

 

 軽く腕を動かし肩回しもする。バランスも崩さない滑らかな動きだ。無線からはシュガのご機嫌な声が聞こえるがハインラインは調子に乗らない。

 

 次に軽く歩いてみる。そして小走りに入る。滑走路で18mの人型兵器がシャトルランをするという「一部の人のトラウマを蘇らせる風景」になったがこれも問題無し。教練の中にあった格闘戦の構えをさせて一通りの型をさせても問題無し。

 

 が、ここからが問題だった。

 

 腰部スラスターを使って飛ぼうとしたが、これは上手くいかなかった。太陽炉では問題なかったが、コスモエンジンでは「下半身が前で上半身が引き摺られるような動き」になってしまい緊急停止。目を回したシュガ二尉は隊員の手でコクピットから引きずり出され長椅子で伸びる事となった。

 

「初めてでは飛べない事は想定していましたが、このような姿勢になる事は想定外でした」

 

「それもそうでしょう。この太陽炉を量産する事が出来れば、その心配はないと思いますが」

 

「コストが馬鹿にならないのでこの試作機のみになるかと。……皆さんは宇宙空間で飛んだりはしますか?」

 

「月面での戦闘時には。ですが微小重力下ですので飛び跳ねている感じです。一応、装甲服の機動戦装備にもスラスターが付いています。背中の辺りで小さな羽のような形状をしていますが」

 

「羽ですか?」

 

「羽と言ってもスラスターですが、空間騎兵はこれを無重力化と重力下で扱う訓練を受けていますが、これで大気圏内を高速飛行するような訓練は受けていません。そもそも出力が足りていません」

 

「……羽ですか。試作機であったことが幸いしました。腰部スラスターを背部フレキシブルスラスターとして再設計しますので、改良にしばらく時間を頂けますか?」

 

「構いません。太陽炉では分かりにくかったですが、反動推進を使うのであれば自分もいつもの装備に近い物だと助かります」

 

 

 

 ________

 

 

 という事で腰部スラスターを背部に移植して羽のようにした。それに伴い背部に装備予定だった兵装コンテナユニットをコンパクトにして腰部と左右大腿部に分けて移植し直した。

 

 

 1か月後、肝心の飛行試験の感想は

 

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 俺飛んでるぅぅぅぅぅ!!」

 

 

 大興奮である。標準装備の装甲服をわざわざ取り寄せて実際に着用して位置を確認したが、背部というよりも肩甲骨の辺りにスラスターがあった。装甲服の方は非使用時には折りたたみが出来るが、戦術機はスペースが無いから折り畳むというより機体と水平になるように稼働軸を使い調整する事になるだろう。つまり完全再現ではない。

 

 だが、可能な限り近づけた事で、震電での飛行試験は多くのパイロットが匍匐飛行から高高度飛行までの飛行試験を見事に成功させて、一部の隊員が調子に乗って時速700㎞近くまで加速させて限界を見極めようとする状況にもなった。

 

 ハインラインはこれを止めなかった。むしろ良い機会だと言い許可を出し自分もコスモシーガルを飛ばして追走したが、意外な事にテストパイロットの隊員は空力を理解して時速700㎞を超えた。

 

 

 流石に引き返す様にパイロットに伝えてUターンさせたが、空力次第ではコスモファルコンと並走できるかもしれないという事実にハインラインは更なる発展性を見つける事が出来たが、今はそれを盛り込む時間は無いと現実が呼びかける。

 

 

 

 と、考えるハインラインは今長椅子で伸びている。急加速急減速を身をもって体感した結果、酔ったのだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ええ……何とか嘔吐はせずに済みました。まさかあそこまでの高機動をされるとは想定外でしたので……うう。ですが、満足のいく結果が得られました」

 

 ノウゼンに説明したのはこうだ。

 

 誰でも操縦可能な操縦性と武装選択の汎用性を大きく評価された震電改は、平和維持軍宇宙海兵隊への制式配備がほぼ決まっている事。これを受け、宇宙海兵隊の中でも対G適性を持つ隊員に対し戦術機操縦訓練を受けさせる事が決まり、構築中であった運用体制の評価試験部隊としてノウゼン一尉率いる空間騎兵隊戦時編成スピアヘッドを新規隊員を引き入れ再編。第86独立機動打撃群と名を変え極東に駐留するとの事だ。

 

 

「しばらくはここに?」

 

「今後普及する戦術機の更なる改良を目的とした試験部隊と教導隊といった位置づけですね。先行量産型は一部を除きこちらに納入させて頂きます。まずは現在の隊員の分ですが……こちらが今の地球の生産能力を欲張る事にもいかないので隊員間での機体貸し借りは目をつぶってください。一先ず16機以上は必ず確保しますので」

 

「お願いします。皆、こいつに期待をしています。……少し昔話になりますが、自分は、あの月面で装甲宇宙服を着て戦ってましたけど、仲間は装甲宇宙服の事を『着る棺桶』と口々に言ってました。当たり前ですがガミラスのレーザー機銃は射抜いてきますし、動きはお世辞にもいいとは言えません。でもこいつなら、一方的にやられる自分達でも戦闘機や艦艇に対抗できるかもしれない。何も出来なかったただ生き残るだけで必死だった自分たちが戦えるなら、先に逝った仲間たちにいい土産話が出来ます」

 

 そこまで言うと、ノウゼンはハインラインに顔を向けた。

 

「ハインラインさん。震電は空間騎兵の剣で盾になれます」

 

「それを聞く事ができてうれしく思います。後はお任せください。火竜の量産も出来ればよかったのですが、震電がお気に召したのであれば生産ラインをそちらに割こうかと」

 

 ハインラインの顔色もやや落ち着いてきて、長椅子に身体を横にしながら滑走路を見る。震電改が電磁突撃砲を両手で構え、空中目標であるUAVに向かって銃口を向けていた。倉庫で埃を被っていたかなり旧世代のUAVだがそれなりの機動性を持つ。それを震電改は正確にロックオンし続け銃口を移動させ、射撃。命中。UAVは見事スクラップとなり滑走路に落下する。その元UAVのスクラップを火竜が器用に摘まみ上げ、コンテナに改修する。飛んだり格闘したり撃ったりだけじゃない。ちゃんとこういう器用な動きも出来るのだ。つまり復興作業用の作業機体としても使える。

 

 

「その内ですが、震電改を試験名目で復興支援地に送る事になるでしょう。不整地でも歩けば解決し、腕と手があるなら直接持って運搬可能。人型なら戦術機サイズの工具を持たせて作業させられる。なら実地試験してみないかとBRUSSELS2からもお話がありましてね。どうやら睦月夫妻の方からも口添えがあったらしいです」

 

「睦月夫妻って、あの?」

 

「睦月夫妻がユーロに訪れていたことがありましてね、その時に押しかけて火竜の説明をしたのです。結果、私は極東に渡り、今ここで自分の夢の成果を見ているんです」

 

 震電と火竜。本来ペーパープランの山の中に埋もれる筈だったこの機体は、空間騎兵の剣となり盾となり人類の力となろうとしている。その人類の力は今滑走路でシャドーボクシングの真似事をしているが、これがどうして人間臭い。勿論操縦者がいてそのように動かしているからそのように見えるだけだが、余りにも人間と同じように動くから造った本人も笑いを堪えられなかった。

 

 

 が、ハインラインは思い出した。もう一つ試験項目が残っている事に

 

 

火竜の飛行形態での加速試験(ハインライン同乗)

 

 

 この後、復活したハインラインはコクピットでまた顔を青くする事となったがテストは無事終了した。以降、第86独立機動打撃群には少しずつではあるが制式量産型となった震電が納入されてゆくこととなった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 AW3年(2202年)3月

 TOKYO3(軍事首都)

 地球連邦平和維持軍本庁舎

 

「本庁舎とTOKYO3、遂に完成ですね」

 

「まだ主要部分の完成だ。民間人の復員にはもう少し時間がかかるが、そこは我々とKREDITの活動次第だ。KREDIT用機体の供給はどうなっている?」

 

「では報告いたします。震電の簡易量産型のラチェットマンをハインライン一尉の方からまずは半ダース卸してもらいました。現場からは『もっと寄越せ』との報告が上がっていますが、生産ラインの一部をラチェットマンに割いて頂く事は可能でしょうか?」

 

「工面しよう。生産ラインの方はまだ余裕があるはずだ。ハインライン一尉、ラチェットマンの建造に必要な時間は?」

 

「時間断層なら10倍速での生産が可能な為、年500機程の生産でどうでしょうか? 要求量を満たした以降は生産を震電用に切り替えますが、予備部品の製造は続けます」

 

「分かりました。現場にはそう伝えます」

 

「ありがとうございます。それと、ナガトの進宙とその後の評価試験に、震電と火竜の無重力環境下試験を組み込みたいのですが、睦月夫妻主任、お願いできませんか?」

 

「震電を? そりゃあやりたいとは思うけど、どう宙に上げるの?」

 

「ナガト型で使える物資輸送用のオーバードウェポンがありますよね? それを簡易的な格納庫として使う事を提言します」

 

「簡単に言ってくれちゃって……。運べて整備出来れば良いんだよね? 準備する。そうじゃないかって思ったから準備はしてたのよ」

 

「ありがとうございます。何から何まで」

 

「こっちとしても空間騎兵が対艦戦闘が出来るようになる事は賛成です。さて、本題に入りましょう。加持さん?」

 

 リクがそう加持を呼ぶと、加持は資料をリク、ハルナ、真田、藤堂、ハインライン、月村、そしてラチェットマン関係でお忍び来日していたカナーバに渡していく。

 

「SEELE本拠地と思わしき場所は未だ不明。ですがある程度絞れはしました。ユーロか、北米です」

 

 加持がボールペンで示した位置は両方とも分散首都のある管区だ。だがここまではリクハルと真田も想定内。大して驚きもしないのを見た加持は次の内容に進む。

 

「SEELEの施設に入れたって訳じゃないから正確な位置は分かりませんが、奴らのマークからヒントは出ます。カナーバ統括、貴方はクリスチャンですか?」

 

「ええまぁ。でもそれがどうしたの?」

 

 頭上に? を浮かべるカナーバに加持はニヤリと笑うと、胸元のメモ帳に奇妙なイラストを描き始めた。

 

「これは奴らのマークなんですが、この目が7つの悪趣味ポイント何か見覚えありませんか? 動物とかで」

 

「目が7つの……もしかして、黙示録の仔羊?」

 

「その通りです」

 

 黙示録の子羊とは、『ヨハネの黙示録』に記されている羊である。その第5章の6節には「子羊には7つの角と、7つの目があった。この7つの目には、全地に遣わされている神の7つの霊である」とある。その七つ目と同じマークがSEELEのマークに加えられていて、ついでにリンゴと蛇も描かれている。これで関係ないというのも可笑しい話に思える。

 

「第5章第6節からSEELEの構成員……というか意思決定をしてる連中は恐らく7人くらいってとこです。月村さん、このマークマジでどうやって手に入れたんですか?」

 

「血の滲むような努力ですよ。それで、ユーロとアメリカの二か所に絞った理由は?」

 

「そこはここから説明します。じゃあ次は、こちらを」

 

 加持が壁掛けモニターを操作して自分の端末の情報を映し出す。世界地図の上に貼り付けられた網目のような模様が表示され、ハルリクは何の事だと首をかしげるが、真田はピンと来た。

 

「これは、通信網か?」

 

「ええ。現在の地球上を飛んでいる、もしくは地下都市のケーブルを通して彼方此方に飛んでいる情報です。余りにも細かすぎるのでこれでも太い道以外を省いてます。今の地球で大事な物の1つに上げられる情報通信。こうして復興が気持ち悪い速さで進んでいるのも情報通信が最優先で確保されたからです。それも物凄い速さで」

 

「それで、もしもSEELEの連中が政府の情報を取得して現状の把握をしてるならと思って、こっそり情報の流れを探してみたんです。結果、面白い流れがありました」

 

 加持が端末を操作すると壁掛けモニター上の通信網の栓が1つ1つ消えていき、いくつもの中継点を有する一つの通信経路のみが残った。

 

「巧妙に偽装されていましたが、NEWYORK1のオリジナルMAGIから世界中の管区のサーバを中継して何度も暗号化、大昔のTorと言うブラウザみたいな方法を使っている。受信地点は分かりませんでしたが、現在地球上に存在しているネット網から推察すると、ユーロ方面のサーバに向かった事までは判明しています」

 

 まぁ、新しく線を引いていたら外れますがと最後に付け加えると、加持はモニターの電源を落とした。

 

「そこまで進める事が出来たのか」

 

「月村会長とデイブレイクのエージェントのお陰です。そこの純愛夫妻の事もありますから、出来るなら、なるべく早めに済ませておきたいので」

 

 加持がそう思うには理由がある。もう聞いているのだ、2人の身の上話は。ガリラヤベースの事故、あるいは事件は加持の調査でも浮上していた。クルジスの生存者であるハルナとリク。親の代からSEELEから何らかの接触を受け、火星に逃れる事となり、2人が生まれ、そして死に瀕し、40年を超えてWunderに乗り、結ばれたかと思えば人を半分やめる事となり、今も徐々に人から外れ続けている。

 

 親の代から大変な人生だったこの身の上話は、加持のメンタルにダメージを入れて砂糖を軽く吐かせるには十分だった。

 

「あとそれと、藤堂長官には報告しましたが芹沢元軍務局長と取引を行い現在は政府側に回ってもらってます。WILLE蜂起時にはデイブレイクから機体を回して回収する手はずが整ってます。でもよかったんですか長官? イズモ計画派でWunder乗っ取りも画策した人ですが」

 

「道が違えどかれも地球の為を想って行動を起こしていた。芹沢君も同意の上だ。罪滅ぼしと言っていたが、そんな気持ちは持って欲しくはなかったがね」

 

「あともう一つ。芹沢元軍務局長の協力でNEWYORK1を発信元としたの通信の一部の傍受に成功していますが、政府情報とは思えないものが紛れ込んでいました」

 

 その紛れ込んでいた情報は量子データだった。内容は不明。推測しようにもMAGIが「回答拒否」と吐き出すばかりで、一切調査は進んでいない。それに量子データは、観測しようものならその時点で情報の変質が起こる。コピーも不可だ。

 

 

「さてと、後はこちらの報告です。ナガト、タカオ、ユキカゼ型の1番艦は完成。工廠では2番から7番艦の建造が進んでいます。ナガト型の建造所要時間は通常空間から見て18日ほど。ノンストップ建造は流石に厳しいですが、50日で有人3割遠隔7割で構成した防衛艦隊が編成可能です」

 

 因みに編成は

 戦艦:12隻

 巡洋艦:20隻

 駆逐艦:70隻

 となっている。火力と防御力は「お前のような巡洋艦と駆逐艦がいてたまるかこの野郎」クラスには上がっているので、戦艦の数が少なくても問題ない。

 

「それに加えオーバードウェポンの増産も進んでいます。今は構造が簡単なコンテナ類からですが、ダインスレイヴとローエングリンは急ぎで制作中です。ナガトの試験には間に合わせます。場所はアステロイドベルトを予定しています」

 

「うむ。各々順調なようだな。そして真田君、総旗艦ヤマトのほうはどうかな?」

 

「タカオ型に搭載予定の波動エンジンを改良し2基直列につないだツインドライヴを設計中です。艦体の方はリク君達が何とかしてくれますので、進宙までの問題は無いかと。問題は、直列型の起動試験を何処でやるかという事です。何が起こっても良いように外惑星系で行う手筈は整えていますが、そこまでの移動はケルビンインパルスのみとなりますのでそれなりの期間を頂くと思います」

 

 

「あ、それは問題ないかと。ナガト2隻のトランスワープを使えばヤマトを試験宙域に運べます。それとヤマト完成の頃には第2世代は有人無人問わず揃っていると思うので、トランスワープの練習用カリキュラムを各乗組員とFL乗組員の皆に配布して訓練してもらってます。沖田さん曰く、これも戦術として使えると言ってました」

 

 さて沖田はというと……当の昔に葛城ミサトとの接触を果たしていた。どうやらミサト自身も平和維持軍で進められている何か*1を感知していた。そこに歴戦の名将沖田の登場と来れば、その「何か」絡みだろうと誰でも考える。

 

 結果的にミサトの協力を得る事ができ、ハルリクの許可をもらった沖田はWunderとSEELEの真実を投下。さらにガリラヤベースの真実をミサトに伝えた。その結果は、まぁ……情報過多にしてしまったが時間をかけて飲み込んでもらう事となり、WILLEそのものの設立には概ね賛成との事だ。

 

「トランスワープか。概要は聞いていたが、その機能も盛り込むとは私は報告を受けていないが?」

 

「ちゃんと藤堂長官には通しましたから」

 

 平然と答えるリクだが、トランスワープの導入には手間取ったらしい。

 ここで確認しておきたい事が一つ。今の地球の技術レベルだが、Wunder進宙の頃よりも大幅に上がっている。VPSS・ATLHの導入。ショックカノンの発展型であるVSPSTの艦砲としての導入。第2世代艦艇用の小型化に成功した波動エンジンの導入。波動防壁の標準搭載。各種武装の選択可能化と機動性重視の設計。オーバードウェポンの実装。FL乗組員起用による情報処理能力と対応力の向上とシミュレーションを重ねた事による練度上昇。

 

 艦艇以外では、時間断層による生産力ブースト。戦術機による宇宙海兵隊の対艦対航空機能力の付与。KREDITへの工作艦供与とラチェットマン導入による復興加速。

 

 たった2年ほどでTOKYO3を完成させた事。

 

 この時点で、地球の技術は一足飛びに進んだ。それも軍事ばかりではなく復興にも使える技術として。

 そしてここで心配なのが……

 

 

「政府の反応は?」

 

「第2世代の完成には喜んでいる。一部の連中を除いてだが」

 

「まだ諦めていないんですか? 折角波動砲頼りにならなくてもいい艦艇造ったんですから諦めて下さい」

 

「諦めきれないのだろう。ガイデロールの設計図を取り寄せ、時間断層で復興用資源を掠め取るくらいだ。加持首席監察官。何か掴んではいないのか?」

 

「残念ながらガードが厚くて。手に入れる事が出来たのは、この1枚ですね。流石時間断層、もうここまで進められるとは驚いています」

 

 そう言い加持がデスクに置いたのは1枚の写真だ。灰色の船体に「ドレッドノート」と筆記体で書かれたその艦艇は、艦首に大きく口を開けた特徴的な形状をしていた。

 

「ドレッドノート……恐怖心が無いというか、恐れ知らずですね。艦首のそれはやはり」

 

「波動砲だろうとみているが、砲口に板のような物が取り付けられている。用途は不明でサッパリだ」

 

「加持監察官。これを預かってもいいだろうか? こちらで機能の推察をしてみようと思う」

 

「ええ。でもこれは1枚しかないので写真撮ってください。このオリジナルの方はデイブレイク金庫に放り込みますので」

 

「じゃあ一通りの話し合いも終わりましたから、ここからはもっとブラックなお話に。政府からの要請とかはありましたか?」

 

 思い当たる要請が山の様にある事に藤堂は眉間を抑えたが、何とか答える。

 

「Wunderのオリジナルレコーダの開示要求か。君達に関わる部分とAAAWunder絡みの部分を書き換えさせてもらったが、政府は真実かどうか怪しいと思ったようだ。考えていたよりも遅かった。今のところ最重要軍事機密として突っぱねているが、まぁ時間の問題だろう。さて、どちらの方法で来るか。強硬手段か、それとも」

 

「お行儀の悪い方で来てもらえたら独立しやすいんですけどね。第86部隊にはそれとなく伝えておきますよ。いざとなったら制圧してもらいましょう、撃墜とか人死には極力無しで」

 

「非殺傷兵器は生憎搭載していませんが、人員輸送用の運搬コンテナが用意されています。それで連隊の一部であれば直接投入可能です。腰部兵装担架に合わせて使えるので新規に用意は必要ないかと」

 

 準備の良さというか何というか「こんな事もあろうか」を立てつづけに展開されれば、「ああもう何とかなるだろう」と藤堂は思ってしまう。それでもこちらは仕掛ける側ではなく受け側なのだ。どれだけ備えていてもやり過ぎとは言えない。それに、政府が何もしなかったら「備え過ぎでしたね良かったね」で済んでくれるので、ハッキリ言ってマイナスな結果にはならない。

 

「引き続き政府とのやり取りは私が受け持とう。少しでも動向が変われば報告を挙げる。皆、忙しい中報告を御苦労。今日はゆっくり休んでくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その深夜、月村と加持、藤堂の間で密談が交わされた。

 

「南部重工?」

 

「SEELE絡み、ではないのですが。以前に行った再調査の結果の洗い直しでたまたま浮上しました。睦月君達にも黙ってグレーな手段ややり手のスパイを潜り込ませたりMAGIでこっそりハッキングして調べ直しましたら……これが。MAGIは空振り、ちゃんと紙で保存してました。持ち出しは出来なかったので写真で勘弁して下さい」

 

「南部重工が何故第1世代艦艇を生み出して大きくなれたのか。まぁ、火星艦を分解したのもあると思いますが、どうやら第1次と第2次の16年の間にある程度火星から地球への人の往来があったみたいです。たとえば、山本二尉と言った第3世代と、第2世代。メインは第2世代で、普通に生きていたら長官と同年代かもっと上の年齢でしょう。誰が来たのかは分かりませんが、技術系か政府関係についていたあたりでしょう」

 

「火星の人員がこちらに根を張って何かに備えているといったところですか。地球の要職についてその「何か」に備える為か、その「何か」を迎えるために」

 

「今はいい、迎える事準備すら出来ていないのだろう。設計局の南部重工の面々は白だ、何も知らされていない。南部会長とその周辺の重役、南部重工大公社との癒着がある政府高官か軍関係者を調べてもらいたい。決して悟られないように。いずれ南部重工にはその件から手を引いてもらう。ルクレティウス級建造には協力して頂くが、完成したら全てのシステムを別の物に入れ替えて「それ」を迎え撃つ準備をしなければならない。おおかた、「それ」を友軍判定する積もりなのだろうが、そうはいくまい。地球に害をなすのであれば、徹底的にやらせてもらう」

 

「この事は?」

 

「……いや、まだ話さないでおこう。怒られるのは私達だけで十分だ。それに、漸く一息つける時間が来たんだ。今はそっとしておこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「遂に地上暮らしか。こんないい部屋が貰えるなんて、色々頑張ってみるものだな」

 

「海の見れる部屋。局住みは相変わらずだけど、環境映像じゃない海が見れるのは嬉しいかも。分厚い対爆ガラスがじゃまだけど」

 

 もうほぼ寝る事が出来なくなったが、こうしてベットには入るようにしている。自分たちが呪縛モドキで徐々に眠れなくなる事は限られた人しか知らず、当然設計局のマッド一同は知らない。それでもこうしてベットに入るのは「只のマーズノイド」に見せる為でもあるが、2番目に大きな理由は「いちゃつきたいから」という理由だった。

 それでも2人の重要度は計り知れないほどの物となっていて、外が見れても対爆ガラス越しの景色となった。

 

 ベットに仰向けになったリクの上に、布団の様にハルナが覆い被さる。わざと緩めに着た寝間着越しに分かる柔らかな感触。絡み合う様に繋がれた片手。仕事中とは違い暖かく優しい目。ろうそくの火の様な優しい光で揺れる虹彩。ほんの僅かな距離でキスが出来てしまう程近い顔。真面目モードのバンダナもカモフラージュ用の眼鏡も今は身に着けてない。誰も知らない姿の妻を独り占め出来てる事に密かな独占欲が満たされるリクは、そっとハルナの頬に触れた。

 

「極めつけに妻がいて布団でゴロゴロ。……生きてて良かった」

 

「大げさだって。まだ人生は長いしやりたい事も多いから。それにさ……ちゃんと平和になったら、私ね、リクとの子供が欲しいんだ。ほら。名前考えたじゃん」

 

「アオくんとマツリちゃんか」

 

「今だって……そういう欲求、っていうのかな。ちゃんと抑えてる方だよ? お風呂一緒に入ったりしたけど、もし本当に何にもする事なかったら私……えっちなこととか……してると……思う」

 

 そう言い続けるハルナの顔は真っ赤になっていき、つられてリクの顔を真っ赤になる。というか、もう2人でお風呂に入っていたようだ。ちゃんとタオルを巻いて隠していたが、湯船に浸かろうとしたらハルナのタオルが取れかけたので湯気とは別の要因で顔が赤かったそうだ。

 

(ひゃっ!!)

 

(ご、ごめん!)

 

(えっと…ないしょ、だよ?)

 

 胸元が露になってしまった事は、その日の秘密となった。

 

 

「でっでもね! 多分来年くらいにはガトランティス来るし、その前にWILLE独立が待ってるから、もししちゃったら、私とリクの子供達に戦争を見せてしまうの。それだけは避けたいの」

 

「出来れば、戦争を知らない世代になって欲しい。ガトランティスを教科書でようやく知る世代になるくらいには。その為に、WILLE独立後に用意する無人迎撃機を提ムグッ」

 

「無人迎撃機」という単語が出た時点でその口を塞ぐように唇を押し付けられた。不意打ちに対処し切れないリクはその唇にいいようにやられてしまい、反撃する隙も無く負かされてしまった。生暖かく湿ったような感触に頭が脱力し、仕事の事は消しゴムで消した様に頭から消えていた。

 

「こーら。仕事の話は後にして。今は、ちゃんと休んで」

 

「ごめん」

 

 薄明りに浮かぶ膨れた顔を向けられると、リクはお返しと言わんばかりにキスをやり返した。

 

 

 ハルナが物理(意味深)で止めたが、一応本人からではなくここで軽く説明しておこうと思う。

 

 遠隔操作による無人迎撃を前提にした「WILLE所属超大型無人全翼航宙攻撃機」6機で構成される絶対防衛システム構築計画「EO-LOADプラン」。地球圏及び月軌道絶対防衛システム「アリアンロッド」を中心にした最終防衛ライン敷設計画であり、その核となる「ルクレティウス級超大型無人全翼航宙攻撃機」の建造計画だ。第2世代艦の完成と運用開始が建造の前提となるこの機体は、見た目は全幅800mでブーメランを向きを逆にして2枚重ねたのような形状*2をしている。

 

 これに、VSPSTと対空兵装、波動砲壁、VLS、そして砲撃系オーバードウェポンを搭載し、6基の第2世代波動エンジンと2軸4基と予備2基のケルビンインパルスで稼働させる。

 

 地球圏と月軌道を守り通す鋼の巨鳥。VPSS・ATLHで固められたその機体は地球と月を守り通すために月軌道に均等に配置される事となる。嘗てルクレティウスは「宇宙の果てから外に投げた槍がどこに届くか」と問いかけたが、ルクレティウス級は「自分の主砲が届く範囲が自分の認識できる範囲」として敵と命令された艦艇を徹底的に迎撃する。

 Wunderを除いてWILLE最大の戦力であり地球圏の守りの要だ。

 

 そんな説明をしていると、空が白み始めてきた。

 

「ねぇ、見える? もうすぐ夜が明ける」

 

「何徹目かの夜明けな。メンタルがおかしくならないのは不思議だけど」

 

 対爆ガラス越しに見える水平線の彼方から顔を出す太陽は、水平線の上に光の道を作る。たまたま日の出ピッタリに起きたりでもしなければ拝めないこの光景は、殆ど眠る事が出来なくなった2人からすれば毎日見る事が出来るのでひっそりラッキーを思っていたりもする。

 

 正直、そうでも考えないとそろそろやっていけないのだ。メンタルの不調が出ない事自体不思議な事だが同時に恐怖もある。その内もっと奇妙な変化が待っているかもしれないと考えると時々不安になる。ただでさえ殆ど眠れないのにさらに眠れなくなるのは気分的にもダメージが入るのだ。

 

 でもまぁ、この二人に限って言えば大丈夫だろう。

 

「おはよ」

 

「ああ、おはよう」

 

 日の出を浴びながら2人はそっと、そして互いを求めるようにキスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 某所

 

 薄暗くそして広々とした空間に1体の巨人と1人の男が立っていた。人間と同じように目が2つ、紫色の装甲板が胸部以外に取り付けられたその巨人は橙色の液体に肩まで漬かり、静かに直立している。その目に光はなく、まるで死んでいるようだ。

 

 その胸部には、赤い球体が埋め込まれていた。体組織らしきもので張り付けられたようなそれはまるでガラス玉のような光沢を見せていて、如何やら男の関心は巨人そのものというよりその球体に向いているようだ

 

 

「もうすぐ会えるな、ユイ」

*1
徹底的に隠されていた為何かとしか認識していない

*2
「《」と「》」を重ねたような形状




ルクレティウス級はバンシー級原子力空中空母とだいたいの形状は同じですが、発着口に2軸4基のケルビンインパルスと翼の付け根部分に波動エンジンが取り付けられています
戦闘力はVSPSTの速射でガミラス艦と2202年3月時点でのガトランティス艦を雑草の如く刈り取れるくらいです。
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