宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
AW3年(2202年)4月
北緯11度34分60 東経165度22分60
第2世代艦艇BBS-NG-001ナガト型航宙巡洋戦艦ナガト。ナガト型の長女であり最初の第2世代艦で、今日はそのテストだ。
その艦体は灰色一色。やや低めの艦橋と3連装VSPSTが目立ち、両舷にはオーバードウェポン用コネクタが搭載された特異な形状をしている。洋上戦艦の船体をベースにしたやや細身の形状をしていて、左舷艦首付近にはBBS-NG-001 EFPKF-CF1-NAGATOと所属組織と所属艦隊、艦名が表示されている。
(しかし、WILLE’sCF1-NAGATOと描き直す準備が出来ている。これは平和維持軍の上層部のみの秘密であり、名前つけてもいいよと言われたハルリクはノリノリだった)
「イリスリーア三尉。準備は?」
「問題ない、飽きが来るほど練習をさせられたからな。艦橋の皆も、よろしく頼む。この初航行を成功させて、もう自分で身を守れるという事を証明しよう」
ミリシャの呼びかけに操舵士、戦術長、通信長、機関長、副長、そして艦長である古代がうなずく。皆今日のこの日まで何度も練習を続けた。何度も何度も繰り返してきた手順だが今回は実際の艦艇を使い試験航海だ。失敗は許されない。
「全艦、発進準備! 錨上げ!」
「全艦発進準備了解。データ環展開」
そう言うと、ミリシャは席から立ち上がり腕を広げる。その動きに反応した義体のブレスレットとコンソールからホログラムが投射され、ミリシャを中心にして円状になるようにホログラムが展開される。
FL乗組員の高い情報処理能力を活かすための特別なコンソールとホログラムで、艦のコンディション、外部観測情報といった「ナガトの艦体を使って感知可能な情報」を取得し、場合によってはミリシャ自身が艦体を操作することも可能だ。
(どうやらマッド共の中にそういう描写のあるアニメを持っていた人がいたらしく、やけに張り切って作っていたと後にハルリクは語る)
同時に、各主砲と、攻撃型と防御型、索敵用オーバードウェポンの管制も可能だ。装備ごとに変わる操作方法は通常のコンソールを使用しての管制では追いつかず悩んだ結果、ホログラムで盾や弓矢等を再現し、それを持つ事で管制可能とした。厳密にはホログラムは実体が無く持てないがそこは義体。ブレスレットからのホログラムであれば義体の手で干渉可能になっているので「ホログラムを持てる」のだ。
(なお、火器管制起動時に「エンハンス・アーマメント」と一部のFL乗組員が言い始めたことで、いつしか起動用の音声コマンドとなってしまった。さらに、誰がふざけたのか円形ホロモニターも一緒に表示されて情報を表示する機能までつけられた。誰だふざけたマッドは)
古代の指示でナガトの艦首側面のロケットアンカーが巻き取られ、警笛が鳴らされる。
「補助エンジン始動」
「了解。補助エンジンスイッチオン。低速回転1600」
機関長の操作でケルビンインパルスエンジンに火が入り、ナガトとその心臓部の波動エンジンに電力を供給していく。永久機関に近い波動エンジンは無尽蔵のエネルギーを生み出す事が出来るが、その始動には膨大な電力が要求される。Wunder抜錨時には世界中の管区からマイクロ波送電を受ける事でやっと2基の起動に成功したのだ。
しかし今回は工廠のエネルギー源である波動エンジンからの供給を受け初回起動を果たしたエンジンとタウコアを使用している。その為Wunderのように全世界の協力を受けなくても済むのだ。
「微速前進、0.5」
補助エンジンのノズルに光が灯り、海上にその身を浮かべるナガトは本当にゆっくりと海上を滑るように進む。水上航行もある程度は意識したその構造は水の抵抗を丁寧に受け流し、白い波を引きながら進んでいく。最初はその感触を確かめるように一歩一歩小さく、やがて勇ましく歩を進め、駆け足となる。
そしてナガトが錨を降ろしていたのは、ビキニ環礁だ。嘗て第2次世界大戦後に行われたクロスロード作戦で、大日本帝国海軍の生き残りである戦艦長門が2度の核爆発に耐え、そして静かに沈んだ場所だ。
ここで沈んだ長門型戦艦長門は、ナガト型航宙巡洋戦艦ナガトとして産まれ直す。その意味も込めて、わざわざ洋上航海までしてここまで移動したのだ。
「波動エンジン内、エネルギーを注入開始します」
「補助エンジン、第2戦速から第3戦速へ。第1Sknotまで30秒」
補助エンジンは第2戦速まで上げられ、さらに第3戦速に上がる。旧来の核融合とは異なる火星由来のケルビンインパルスエンジンは、機嫌を悪くすることもなく波動エンジンにエネルギーの供給を続けていく。
「波動エンジン始動5分前。エンジン内圧力上昇、エネルギー注入80%。注入効率安定。83、89、95、100を突破します」
「補助エンジン、最大出力。フライホイール接続と同時に浮上する。操舵手、準備は?」
「シミュでも実艦でもお利口さんです。行けます」
古代の心配も必要ないようだ。洋上航行の段階で肩の力も抜いてリラックスしているなら、浮上しても問題ないだろう。
第2世代の操艦システムは、イスカンダル航海で何度も窮地を救った島の操艦技術を軸にして、機動力重視で完成させられたものだ。通常航行から戦闘機動までお手の物、内蔵スラスターやオーバードウェポンのスラスターも併用した高機動も対応可能だ。
「エンジン内、エネルギー注入120%。フライホイール始動」
第2世代波動エンジンの特徴である2重反転型量子フライホイールが回転を始める。重厚に見えるがその回転は滑らかに、重量のある音から航空機のタービンのような高音へと変わっていく。
「波動エンジン点火10秒前……5、4、3、2、1、フライホイール接続、点火! ナガト発進!」
波動エンジンが遂に始動しメインノズルから豪炎を吐き出す。波動エンジンが生み出す膨大なエネルギーはその巨体に宙を渡る力を与え、空間すらも飛び越える力も与える。その豪炎だけで艦首を浮き上がらせ、橙色の噴射光は海を割る。そのままナガトは浮上し、遂にナガトは空に上がった。
「上昇角40度全艦異常なし。大気圏内航行、主翼展開」
宇宙戦艦に主翼が必要か否か。その答えは、「大気圏内航行」という面で必要となった。第1世代艦の時点で艦艇を慣性制御で浮き上がらせる技術があった。が、ナガトは金剛型以上に巨大でありその分内部が詰まっている。
これは大雑把な計算になるが、金剛型の全長は205m。ナガト型は240m。その全長は1.17倍。それを3乗すれば体積は約1.6倍となる。
それが何だと思われるかもしれない。が、単純な体積増加はエンジンの高出力化で解決可能だがそれは技術発展の必要があり、現状では艦体の大型化を招く。これでもサイズは絞っている方だが、波動エンジンとケルビンインパルスのサイズアップでこれ以上大きくなるのは建造期間の増大と必要資源の増加を引き起こす。
そこで、古典的な揚力にも頼る事にした。
今も昔も航空機は翼から生まれる揚力を使い空を飛ぶ。現状最新鋭機のコスモファルコンもコスモゼロもコスモシーガルも、大気圏では揚力の恩恵を受けている。
だったら、その力を借りて少しでも効率よく空に上がってみようというのが、収納式の主翼だ。
推進力として波動エンジンとケルビンインパルスを使い、揚力サポート込みの慣性制御で浮き上がる。古い技術も捨てずに大事に使った1つの答えだ。
なおWunderにも長大な主翼はあるが、浮上には慣性制御とイスカンダルオリジナル波動エンジンのゴリ押しが使われているのであくまで予備程度に収まっている。何ならあの超戦艦は垂直に浮き上がる事も出来るので、常識を当てはめようとするのはあまり意味が無い。これはこういうものだと理解するしかないのだ。
「フェイズシフト展開」
「了解、補助エンジンからフェイズシフトに電力供給開始。フェイズシフト、展開」
ミリシャの操作で補助エンジンからの電力が全ての装甲板に満遍なく送り込まれ、艦首から艦尾にかけてまるで波が寄せるように鮮やかな青と白に変わっていく。
VPSS・ATLHは装甲に流れる電力で強度が変わり色も変わる。ミサイル等を始めとした実体兵器での攻撃を完全に無効化するこの装甲は、装甲表面の構造相転移を電力で発生させている。攻撃を受ければ相転移構造は崩れるが、それを電力で再相転移させる事で防御力を維持する事が出来る。波動エンジンから供給される莫大な電力は相転移の維持を容易なものとし実弾系に対してはほぼ無敵の防御力を誇る。
が、実はビームに対してもある程度の耐性も持っている事を忘れてはならない。
これは耐熱性に関する部分だ。ビームを拡散させて弾き逸らせるミゴウェザーコーティングのような技術があればいいが、そのまま使えばガミラス級の陽電子ビームで貫通を許してしまう。
陽電子ビームを装甲で受けて無傷ではいられない。しかし貫通を許さない事は出来る。装甲は攻撃から身を守る為の装備の1つであり、艦内の損傷に待ったをかける最後の防壁だ。そこでVPSS・ATLHだ。第1世代艦の対ビーム用増加装甲やWunderの装甲を上回るビーム耐性を持つと想定されるこの装甲は、相転移状態であれば陽電子ビームの貫通を許さない。実際にガミラス艦艇の330ミリを相手にした耐久性試験が行われた際、VPSS・ATLHは陽電子ビームに耐えきっているのだ。
「フェイズシフト展開終了。異常発熱、異常放電なし。消費電力2000kwで安定。補助エンジン出力40%。フェイズシフト完了」
ミリシャの報告に1つ頷くと古代は大気圏と地球重力圏からの離脱を指示する。ナガトは艦首を上げ高度を上げていき、1分もしないうちに大気圏を脱し、主翼を畳み重力圏からも離脱した。
「現在高度700km、全艦異常なし。まずは成功ですね」
「ああ。だが気を抜くな。本艦はこれより、砲撃試験実施のためアステロイド帯に向かう。両舷半速。進路そのまま!」
「了解。両舷半速、ヨーソロー」
________
「戦術長、落ち着け。狙えばそのとおりに当たる」
「はっ、はい! 捉敵誤差修正よし! 第1主砲3速いけます!」
「撃ち方はじめ!」
「撃て!」
ナガトの第1主砲、VSPSTが火を吹いた。弾速と加害範囲のバランスが取れた3速はWunderに搭載されていたショックカノンと性質は同じだ。これが1速なら速度は遅いが加害範囲は広く、5速なら相当な速度で撃ち込む事が出来るが陽電子がかなり収束されているので加害範囲は減る。浅く広くか深く狭くか。状況に応じて使い分ける事が大切だ。
放たれた陽電子の矢は目標の小惑星に向かって突き進み、見事に命中。陽電子衝撃砲の系譜に名を連ねたこの主砲はその威力を地球とガミラスの双方に見せつけた。
「イリスリーア三尉、次は君だ」
「了解した。エンハンス・アーマメント」
ミリシャが手の甲が側面を向くように左手を突き出し握ると、ホログラムの弓が、右手には同じくホログラムの矢が形成されていた。さらに幾つかの円形ホロモニターが形成され、射撃用所見と主砲身視点のリアルタイム映像、主砲の管制権限とエネルギー伝導を示すモニターと射撃目標を示すレーダーだ。
宇宙戦艦にこんな物必要なのかと言われれは判断に困りそうだが、1つ説明させて欲しい。
ミリシャを始めとしたアンダーワールド人は、どれだけ技術水準が上がっても旧時代の弓矢や剣と言った武器を忘れず、これらを武芸として昇華させていた。さらに整合機士の本部にあたる施設には旧時代の整合騎士が扱った武器「神具」の数々が遺産として保管されていて、ミリシャを始めとしたすべてのFL乗組員はその存在と実際の起動状態を目で見ているのだ。
その記憶の1つを基にしてホロ弓を再現して実際にシミュレーションで射撃して貰ったらあっと驚き。コンソール操作よりも早く、そして正確に撃ち込んだのだ。
これを受け、彼女らに合った方法をという事で、ホロ弓等を用いた火器管制が追加されたのだ。
さて説明が長くなってしまったホロモニターによると、ミリシャは第1第2主砲を制御下に置き2か所の目標に照準を合わせているようだ。
弦を思い切り引くとエンジンから主砲へと莫大なエネルギーが流入し、直ぐに射撃可能となった。
「撃ち方始め」
「撃て」
引き絞られた弦を離すとホロの矢は艦橋正面へと飛び去り霧散する。と同時に第1第2主砲から陽電子の束が放出され目標の小惑星に向かって突き進む。もう何度も反覆動作で熟した動きと思考は主砲の照準を寸分狂いないものとし、目標の小惑星に突き刺さる。そして爆散。
「目標の撃破を確認。破片の接近を確認」
「対空戦闘」
「了解。対空戦闘開始、手動管制」
ナガトの艦橋付近の両舷には対空火器が取り付けられている。対空火器一つ一つに独自のレーダーが内蔵されていて、自動射撃モードでは各機のレーダーが連携し目標を割り当てて全て狙い撃つことが出来る。それとは別に飽和攻撃の場合はとにかく広範囲に高密度に撒き散らす弾幕モード、手動での射撃管制モードもある。が、練度問題もあり手動管制はしばらく練習が必要で、自動射撃にお世話になることだろう。
その対空火器「75mm対空自動バルカン砲塔システム イーゲルシュテルン」は手動管制で目標をロックオンし小惑星の破片を的確に撃ち抜いていく。
「小惑星破片排除確認」
「これより小惑星帯を抜け、ワープに入る」
__________
「ワープ先座標設定。指定宙域の観測結果出ます。ワープアウト宙域は天王星軌道上、惑星からの重力の影響なし、障害物無し。安全な宙域です」
ワープテストは小惑星帯を超えた木星軌道上で行われる事となった。総員は船外服を着用し、安全ベルトも着用。ミリシャもデータ環を展開しながら席に着き、座標設定のダブルチェックに入っている。
「全艦ワープ準備。いいか? 万が一少しでも身体に不調を覚えたらすぐに報告してくれ。ワープ時にはワープ酔いという二日酔いに似た症状が出る場合がある。これは慣れで気にならなくなるが、症状の重さに個人差がある。十分に気を付けてくれ。機関長、波動エンジン最大出力」
「了解。スーパーチャージャー、スタンバイからノーマルへ。ワープ可能出力まで残り10」
機関長の操作でスーパーチャージャーが起動し、波動エンジンの出力を底上げする。メインノズルの噴射が橙から水色へと変わり、その勢いも穏やかな物から爆発的な噴射となる。
波動エンジンの出力を向上させるスーパーチャージャー。赤木博士を除く次元波動理論研究局一同に「訳が分からない」と言われた産物だが、後年に「波動共鳴導波装置」と呼称される装備となる。波動エンジンの出力向上から来る活性化を目的とし、ツインドライヴで見つけた波動共鳴の手がかりから波動共鳴波を発生する事が出来る。共鳴波の有効半径は100m以内と実に狭いが、エンジンに取り付けて運用する分には何ら問題ない。
そんなスーパーチャージャーは、タウコアで動く第2世代用波動エンジンの必須装備なのだ。
「ワープに失敗すると宇宙そのものを相転移させてしまう危険性がある。タイミングには十分気を付けてくれ」
「了解です……っ」
「まあそこまで気を張るな、タイミングは私も確認している。速度はまだ上げるぞ」
「了解、22Sknot。25Sknot、27、30、33Sknot到達!」
嘗てWunderで行われた人類史上初のワープ試験も、こんな緊張感だった。でも今回はWunderの時よりも進んだワープシステムが使用でき、ミリシャの電子的誘導がセットで付いて来る。ワームホールの生成と時空連続体の狭窄はナガトの観測機器である程度観測し、重力場と時空の歪みからその推移を確認する事が出来るため、間違って不十分なワームホールに飛び込んで異次元に放り出されるような事は余程のヒューマンエラーでも起こらない限り見られないだろう。
「カウント、t-5、4、3、2、1」
「ワープ!」
操縦桿を一気に押し込むとナガトは艦首をワームホールに突っ込む。240mの艦体をゆっくりとワームホールに押し込んでいくと、ワームホールと艦体の境目で大きく波打つ。
ナガトからの視点では只の円形の平面の穴に見えるが実際は「球体状の穴」の筈だ。そんな球体状の穴にナガトはどんどん艦体を沈めていき、艦尾のメインノズルまでワームホールの中に入り込むと大きな鐘のような音が重力波として漆黒の宇宙を揺らした。
________
天王星軌道上
共和政ガミラス国太陽系駐留艦隊 メルトリア級2隻
ガイペロン級中期型 ランベア
ドルシーラ(Fi-97型魚雷も装備)6機
ナガトのテストとして砲撃役の提供を要請されたバーガーは指定された戦力を冥王星から出し、想定ワープアウト宙域でナガトのワープアウトを待っていた。
「テロンの新型、か。情報は上がってきているか?」
「砲撃性能はWunderと同等と見てよろしいかと。1対1でやり合えば、こちらが負ける事は確実でしょう」
「1対5でもダメだろうな。あ、5はうちだからな」
「バーガー司令。これは、我々にやり返す為かもしれませんね」
「あ? ……やっぱそう考えるよな。ナガトとかの新型は全て平和維持軍の管轄下にある。基本的にテロンはどっかを侵略するつもりはないし、ただ自分の身を守りてぇだけの星だ。やり返しの話は俺らが下手に嫌がらせしなければいいだけだし、……夫妻が色々やるからまぁ心配ないだろうな」
幾ら終戦で安保を結び歩み寄り始めても、過去の戦争の傷は消えない。人類滅亡寸前まで追い込んだガミラス人は地球人の敵と誰もが認識していて、その認識は当分消えないだろう。
それはガミラス側でもはっきりと認識していて、「やり返し」の話は冥王星基地でも上がっていた。が、バーガーは今後の平和維持軍の流れを2人から聞かされていたので、「平和維持軍(WILLE)は防衛戦力で、何処かに攻める事はない」と一応認識している。
「前方の空間に重力震反応確認。未識別です」
「そうらおいでなさった。出てくるからな、しっかり見とけよ」
そう言った次の瞬間には、ワームホールが出現しナガトが飛び出してきた。艦体を覆う薄氷を撒き散らす様に剥ぎ取り、体勢を崩さずに通常空間に出現した落ち着いた動きは、熟練の操舵士でも乗っているのかと錯覚させるほどだ。
「兎も角、安定してますね。本当に熟練が操艦しているのでしょうか?」
「いや、補助輪付きだろうな。でも綺麗に動けているから十分だろ」
あの2人が主任になって造っているという事実だけで「これ位はもう当然だろう」と納得してしまうあたり、バーガーもいい感じに染まってきたようだ。バーガーはあらかじめ受け取っていた通信コードを使いナガトに通信を入れる
「ようコダイ。こりゃまたバケモノが生まれたな」
『バケモノって、それはないだろバーガー』
「いやバケモノだろ。んで話変わるけど、マジで撃って良いんだよな? 文句言わねぇよな?」
『ああ。波動防壁耐久試験の為だ。向けれる全武装で撃ってくれ』
「……へいへい。後で文句言っても知らねぇからな。んじゃ張ってくれ。……よし張ったな。全砲塔ナガトに向けろ、魚雷発射管開け。ドルシーラ隊も用意しろ。一斉攻撃まで3、2、1、撃て」
メルトリア級から放たれる330mm要電子カノンと全ての魚雷発射管から魚雷が飛び出しナガトに殺到。オマケに艦艇を一撃で葬るFi-97型魚雷がドルシーラから、1隻に向けるには過剰な火力で艦体を穿とうとする。が、それは水色の光の膜に遮られ、全ての攻撃はその膜に波紋を作るのみに終わった。
次元波動振幅防御壁。波動防壁と呼ばれ、Wunderの大航海を支えた非物理防壁だ。有効時間20分もしくは避弾経始圧が持つまで物理光学問わず攻撃を防ぎ切るその防壁機構は240mの艦体に収まるほどコンパクトとなり、Wunderの問題点であった「波動防壁の制御装置が外から見えるところにある」部分も解消し、制御装置を小型化して複数に分割し内蔵、さらに頑強な防壁となるような改良し、1つや2つ破壊されても防壁の維持が難なく可能な安心仕様となった。
「まぁ、防がれるよな。おかわりに魚雷どうだ?」
『やめてくれ。さっきの一斉攻撃で避弾経始圧がひどい所で4割減った』
「これで4割かよ。ふざけんなよ」
過剰火力を防いで4割。ガミラス艦やガトランティス艦なら、今の火力で6回は沈んでいるはずだ。VPSS・ATLHの試験に駆り出された時に分かったが、ナガトは素の装甲も硬い。一撃爆散が常だった戦場に舞い降りる予定のバケモノ第2世代にバーガーは笑うしか出来なかった。
________
「各部点検、異常ないな?」
「波動防壁出力、異常なし。各部制御機構にエラー表示なし」
「こちらでも確認した。先ほどの一斉攻撃を後4回は受けられる。流石にその気分にはならないが」
幾ら波動防壁を纏っていても艦体の至近で爆発を見る事となるのだ。たとえ試験でもそう何度も見たいものでもない。ここまで試験項目は消化してきたが、わざわざ地球からここまで来たのには理由がある。
「艦橋よりNovember1、準備は?」
『November1より艦橋へ。各部異常なし。出られます』
「政治的パフォーマンスとなってしまうが、そんな事は気にしなくてもいい。駐屯地には侵入しないように注意し存分に飛ばしてくれ。よろしいですね? ハインライン一尉」
「勿論です。このためにワープ酔いに耐えてここまで来ましたから。ノウゼン一尉。宇宙空間では空気抵抗もありませんので音速を超える事も可能です。ですが今回は抑えて下さい。航空機に追いつけない程度の速さでお願いします」
『November1、了解』
ナガト艦底部付近。第3格納庫のハッチが開き赤い戦術機が姿を現した。丁度ガミラス艦からも視認出来る位置からの発進。これは政府からの要望だ。
如何やら地球の力を見せつけたい政府はデモンストレーションで威嚇をする積もりらしい。制式に量産に上がり配備が始まった震電は情報を可能な限り隠しているが、火竜はオーバーテクノロジーの象徴でありその飛ぶ姿はまさに赤い彗星だ。今回は速度と機動性を抑えながら飛ぶ事となるので限界性能を知られるような事はないが、ガミラスにも存在しない人型機動兵器のデモンストレーションとしては十分効果的だろう。
「全く政府上層部は何を考えているのだ私の火竜をこんな宣伝用に使うとは。本来私は無重力環境下試験としてここに持ち込んだはずなのに満足に飛ばせないとはどういうことか頭の固い役人どもに説明して頂きたい所ですね」
「ハインライン一尉。いずれそう考える日は無くなりますから」
「……ええ。今回は耐えます。無重力環境下での限界性能試験はまた日を改め行います。その時はまたナガト型への積載をお願いします」
「了解です。November1発進。飛行形態で出力50%で飛行開始」
『November1了解』
ナガトから火竜が発進しすぐに飛行形態に変形する。所要時間はなんと1秒。
その変形を見ていこう。
まず腰が半回転し、脚部は膝部の二重関節で折りたたまれる。腕部は装甲のスライドで拳を隠し、肘関節で腕を折りたたむ。肩部装甲は肩部軸を使い腕部に密着する様に下げて粒子推進器を露出させる。
背部の主翼を機体に対し水平にし、機首ユニットを背部から持ち上げ被る。腰部太陽炉ユニットは機体に対し水平に位置変更し全てのスラスターを後ろに向ける。
飛行形態に見えるようにして、全ての推力を後方に向けるにはどうするべきか。その答えとして提出された機構は、所要時間1秒という高速変形による高負荷に耐え切る頑強さと電力や粒子供給路を邪魔しないシンプルな構造を両立して1機の流星を生み出したのだ。
変形した火竜は天王星重力圏に侵入しないように衛星を縫うように飛び、性能を抑えながら窮屈そうに飛んだ。本来はもっと速度を発揮できるのに、航空機が青ざめる機動性を発揮できるのに。ナガト艦橋で悔しそうにするハインラインは、火竜の試験を威嚇代わりのデモンストレーションにした政府を恨んだ。
そんな全力を出せない火竜でも時速500㎞を維持し橙色の粒子の尾を引きながら宙を飛ぶ。衛星チタニアをぐるりと回り、弧を描くような機動を描きながらメルトリア級の至近で急停止、人型に変形したかと思えばそのまま宙を泳ぐようにナガトに帰投する。
この「未知との遭遇」にバーガーはある種の興味を抱いた。
終戦から2年以上が経過し、技術力がめきめきと上がっている事はバーガーも「ナガト」という結果で確認した。が、この火竜はそれで片づけていい物ではない。Type-nullという「未知のコピー」に対しては理解を諦めたが、火竜という軍事的にあまりにも幅広く運用可能な機体はガミラスの軍事にも大きな波紋を生む事になるだろう。航空機にとって代わる事が出来る攻撃力と汎用力。攻撃機、格闘機、雷撃機と言ったように用途別に分けて開発しなくてもいい。もしも七色星団でこの機体が使えていたら、間違いなくWunderを撃沈出来ていたかもしれない。
そう思う程、バーガーの目に火竜は鮮やかに映ったのだ。
_________
『おいコダイ、あの空飛ぶ巨人何なんだよ』
「試験機の人型機だ。地球の新しい兵器とか言われているが、正直驚いてる」
『なんだお前もか。んで、これ見せてよかったのか? 俺ら向けの政治パフォーマンスってのは分かるが』
「その政治がらみだ。本当はもっと別の宙域でやる予定だったんだが、上から言われた以上断る事も出来なかった。バーガー、出来ればこの機体の事は……」
『こりゃ報告しない訳にもいかねぇよ。取り敢えず、大使館通してナガトとセットで報告は上げるが、どれも俺らに牙向くようなやつじゃないって事は添えとく。お前らとあの夫妻が良い感じにコントロールしてくれるなら、そいつと黄緑野郎狩りするのも悪くねぇだろ。そいつはまだ沢山いるのか?』
「すまない。まだ公開できないんだ」
『へいへいお楽しみって事か』
ダメ元だから気にするなと肩をすくめたバーガーは少し残念そうな笑顔をした。面倒な政府のお使いもこれで終了。あとは帰るだけだ。
「じゃあ俺達はこれで地球に返る。攻撃役ありがとう」
『今回の随伴3つはいろいろ貸しな。今度頭数揃ったら演習でもさせてくれ。クソ硬くてクソ強い艦艇はマジであった事ないからいい経験になるだろ』
「こっちとしても実戦に近い演習が出来るのは助かる。また頼む。今度は、お互い色々あったあとになるかもしれないけどな」
『まぁ気を付けろよ』
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地球 TOKYO3
地球連邦平和維持軍本庁舎 地下統合指令室
「月軌道外周付近に重力震、ワープアウトを確認。IFF応答あり。BBS-NG-001ナガトです」
地球から飛び立ち丸1日。地球から天王星までの往復試験を兼ねた武装試験は無事に終了し、特に大きなトラブルを出すことなくナガトは帰投した。かつての第1世代艦は、火星から冥王星までで大体3週間を要した。今回は地球から天王星までなので距離は異なるが、その航海日程を往復1日にしてしまう程の進化に、一同終始動揺していた。
地球人類史上初の光速突破艦であるWunderは、トラブルやメ2号作戦の損傷等もあり地球から冥王星までで4日を要した。ナガトはそれよりも早いのだ。
「うん。ちゃんと帰って来たね」
「次はプロクシマ・ケンタウリまでの光年単位でのワープですね。目指す恒星ケンタウリと言うくらいですから」
「銀河航路か。ケンタウリでは短すぎると言われそうだが、変えるべきかな?」
「そのままでいいと思いますよ。性能が上がったから歌を変えるのは聞いた事がないので」
銀河航路の歌詞にある「ケンタウリ」は、ケンタウルス座の方向に4.2光年ほど離れた宙域にある赤色矮星だ。11等級という構成の中でも暗い部類に入るので地球からの肉眼観測は出来ないが、第2世代艦がいるこの23世紀なら肉眼観測をしに行く事も出来るだろう。
「タカオとユキカゼの試験はどうか?」
「一足先に長距離航海試験に入りました。行き先はシリウス恒星系。ガミラス艦随伴で8.6光年先へのワープに入りました。顔が利くっていいですね、バーガー艦隊から随伴艦を提供してもらう事が出来ました」
「WILLE計画のガミラス側の貴重な協力者だ。内外の反応は兎も角、大事にしておくべきだ」
「民間人の方はどうですか?」
「芦ノ湖港とナガト帰還の一般公開に釘付けです。TOKYO3第1中学校からの見学も入りました」
「第1中学校って、次の仕事の場所ですね」
「ああ。例の情報によると、そこに該当人物がいるそうだ。優先度はかなり高い」
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「凄いッ! 凄すぎるッ!! 滅亡寸前だった地球を救った人類史上最大級の超戦艦の遺伝子を継いだ第2世代艦艇!! そのナガトの期間に民間人の身でありながら立ち会う事が出来るとはァァァ!!」
「幸せだ!! もう死んでもいい!!」
「ケンスケ早まるな! シンジからもなんか言ったってくれ! ケンスケ昇天してしまうわ!」
「え? うーん……ケンスケ、ここで満足しちゃいけないと思うんだけどな。ほら、次はケンスケが大好きなWunderの見学だよ」
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!!!! Wunder見れるとか今日ふざけてるだろ!! 全長2500mの最初の恒星間航行をしてイスカンダルへと向かい地球を救った奇跡の超戦艦!! ふざけてるだろマジで!!! 誰だこんな天国プラン作ったのは!? 軍か!? 軍だな!! ありがとう平和維持軍僕の平和も守れられた!!!」
「ケンスケェェェェェェェ!! 戻って来ぉぉぉぉぉい!!! いかんケンスケが嬉しすぎて気絶した!!」
TOKYO3第1中学校2年生一同は、政府と平和維持軍の共同で主催する第2世代一般公開に地元中学として招待された。丁度ナガト型が芦ノ湖に帰還する時と重なる様に開催されたそれは、一部のミリタリー大好き勢を昇天させて、一部の民間人を沸かせ、一部の政府役人が宣伝で満足し、一部の軍関係者は我慢した。
今回の一般公開は厳重な警戒態勢で行われる事となっており、特にWunder内の見学に至っては一切の持ち込み禁止、カメラも禁止。金属探知機ゲートで不審物持ち込みも防ぎ、艦内にはあらゆる周波数での妨害電波を流す。付け入る隙を徹底的に潰して臨む一般公開は2年A組のみとなり、工作員と言った大人の侵入を防ぐ。入れるのは生徒と教員数名と先導役の軍関係者、政府から依頼を受けた報道関係者だ。
「……はっ! 碇、何があったんだ?」
「えっと、Wunder見学するって言ったらケンスケが失神した。そんなに嬉しいの?」
「嬉しいよ!! 地球を救った超戦艦に入れるんだぞ?! 碇お前興味ないとか言わないよな!?」
「え? え~っと、興味は少しあるけど……でも、不思議なんだ。あと、ずっと誰かに見られてる感じがして、変な感じがするんだ」
「誰かに見られてるって? 碇、お前なんか変な事やっとらんよな?」
「やってないよ!」
______
「いた?」
「うん。生きてる、よかった」
精神空間でモニタリングをしていた綾波とハルナ、ハルナに中継してもらって参加したリクは、監視カメラの映像をAAAWunder側に引き込んでその少年の姿を確認していた。碇シンジ14歳。母親死亡、父親失踪。現在は冬月家でマリと生活する少年だ。
綾波が覚えているシンジと比べると多少明るく、学友とも良好な関係を築けているようだ。が、今大事なのはそこではない。
「この子が、碇ユイさんの息子さん。月面の初号機起動実験に立ち会い、命からがら帰還した数人の内の1人。冬月さんの話だと、碇ユイさんは月面タブハベースから脱出したのかも分からない。それなのに行方不明ではなく死亡となった。せめて初号機を手に入れる事が出来れば……」
「ここにも初号機があるの?」
「らしい。レイちゃんが見た初号機と見た目がほぼ一緒。違う点は、サイコマテリアルが使われていて操縦しやすくなってること位だ。EURO2に仕込まれていたアレが、既に使われていたんだ」
あのサイコマテリアルは人の意思を拾い、時に人を食う未知の素材。その危険性はハルナも十分理解していて、第2世代には欠片の1つもいれていない。それを導入している事に眉をひそめたが、
肝心の初号機の所在が分からないと来れば手出しができない。
「WILLEとして動き始めてからしかどうにもできない。軍事は増やすから、ラチェットマンを月に送ってタブハベースの確保と月面基地の再建だ。政府の手が入る前に急ごう」
「まぁその前に来ると思うけど。だからWunder見学は許可した。ちゃんと準備してもらって反乱起こしてもらって独立のキッカケを作ってもらいましょう」
リクとハルナの悪い顔は表情変化の乏しい綾波に苦笑いをさせるには十分だった。
しかし、それがまさかあんな事になるとはだれも予想していなかった。
__________
「じゃあこれから見学に入ります。艦内にもトイレはありますから行きたい時はちゃんと言ってください。えーっとじゃあ1班。碇君、鈴原、相田、私。あと、霧島さん」
「へいへい委員長。暴走相田押さえるの大変やからな?」
「それはまぁ。相田ってこういうの大好きだから。地球を救った超戦艦だったら尚更でしょう。キリシマ見学で大はしゃぎしてたから慣れてるよ。それに、まぁ、鈴原いるから止めるのは簡単そう」
「なーにが簡単だ。ミリタリーが関わるとケンスケ目の色変わるし、目ぇ離したら立ち入り禁止のトコにふら~って歩いてくし、いっその事リード付けとかんとアカンかもしれんなぁ」
「ちょっとまった! 俺犬とか猫みたいに自由に変なとこ行ったりしないって!!」
(無表情で相田を見つめる碇、鈴原、洞木)
「何だよその目! なぁ霧島、俺そんなんじゃないからな!?」
「あはは……ごめん、擁護できない」
そんな苦笑いしながら壁に手を突く赤毛の少女は霧島マナ。つい最近転校してきたクラスメイトで、キリシマ見学で相田の奇行を目にしてしまった哀れな1人だ。
「鈴原、碇さん。相田の両側で警戒してて。霧島さん、じゃあ行こっか」
「うん、ヒカリ」
そうついていく霧島の目は年相応の少女の目だ。その奥に、冷えたような目を隠していたのは、誰も気が付かなかった。
1か月後
地球連邦政府
NEWYORK1 ノナタワー
「まさか……こんな物を」
連邦政府中枢である全高600mに達する高いビル。NEWYORK1ではノナタワーと呼称されるその巨塔の一室で、芹沢は驚愕の顔を戻せずにいた。加持とデイブレイクの手助けがあったとはいえ、これは下手に扱っていい情報なのではない。下手をすれば地球とガミラスの双方が大きく揺れる。それほどの劇薬だ。
その資料をそっとスーツのポケットに仕舞った芹沢は、専用の端末で秘匿回線を繋いだ。
「私だ。そろそろかもしれない。回収の手配を」