宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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この話は、一部のシーンは飛ばしてもらっても構いません。
どうしても読むのが大変になったら、休んで下さい。
ですが、この戦いをちゃんと見届けて下さい。

unlasting、始まります


unlasting 1

 某所 

 

 地下深くに用意された空間。1人の老人がリクライニングチェアに座り、背もたれに背を預けていた。 バイザーで目が隠れ、うなじには人間では無い筈のケーブル。そしてその男の周囲には無数の円柱状の水槽が並び。その一つ一つから微細な泡が昇っている。

 

 

 カシャンという音がしてケーブルが外れ、その老人は両手を広げた。円柱状の水槽が怪しく光り、無数の情報が行き交い、計算され、結論を導き出す。

 

 

 

 

 

「始めようか」

 

 

 

 

 

 それは、200年以上に及ぶ願いへの、賭けだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 AW3年6月15日

 TOKYO3 地球連邦平和維持軍本庁舎

 睦月・暁国際設計局

 

「火星技研の調査?」

 

「例の超戦艦絡みの調査でして、政府ではなく平和維持軍が行うらしいです。ウチからも人員を出します」

 

 トニーが提出してきたタブレットには、火星技研調査計画と明示された資料が表示されていた。火星艦の生まれた地。アンノウンドライブことアダムス組織の解析を行った場所で、第2次内惑星戦争後の火星居住民の強制移住と共に閉鎖された。

 その保有技術等は国連側に回収されてしまったが、AAAWunderという特大規模の未解明産物が存在してしまった以上再調査を行わない訳にもいかず、第2世代艦艇の進宙と制式配備を迎えた今だからこそ調査計画が立てられたのだ。

 

「それでなんですが、練度の高いナガトとミョウコウ、ハグロ、ハツヅキ。ユキカゼ、シマカゼ、ハルカゼ以下数隻の駆逐艦を連れて、有人艦のみでの艦隊行動訓練も兼ねて行うそうです。それと、政府からも調査団が派遣されるにあたって、当時の火星技研メンバーの主任お2人にも参加のお願いが入ってます」

 

「確かに技研にはいましたけど40年以上昔の話です。あの頃とは大分違うはずだけどいいんですか?」

 

「もう地球に技研の内部構造を覚えている方が殆どいないのです。当時の人員はとても貴重なので。主任ってもう相当な要人なのでお断りしようかと思いましたが、押しが強くて……」

 

 どうやら断り切れなかったようだ。政府は何が何でも2人を第三新東京から引き離したいようで、それっぽく理由を付けているようだが筋は通っている。火星技研は2183年の閉鎖以降誰も立ち入っていないので当時を知る人の案内が欲しいのだろう

 

 おおかた、引き離しているうちにアタックでもかける腹積もりだろう。そう溜息を付いたリクは自室のハルナを引っ張り出す事にした。自室のハルナは大きめのぬいぐるみを抱えて資料の見直しをかれこれ30時間程続けていた。

 30時間ぶっ続け。もう一睡も出来なくなったのだ。だからこうしてエンドレスで作業する事も出来るが、そんな事を局でしていたら異常な状態に見えてしまうから仕方なく自室に資料を持ち込んでいるのだ。

 

 そんなハルナは半袖半ズボンで髪も降ろして眼鏡も無しの完全な夏用部屋着スタイル。ナチュラルにリクの半袖シャツを着ている事は特に言及しないでおく。サイズが少し大きくて胸元がギリギリ見えそうになってるが、事故とはいえ見られてしまってるのであまり気にしていなかった。

 

 

「あ、どうしたの?」

 

「火星技研の調査計画への参加要請が来た。窓口でパス出来なかったらしいからこっちに来てしまったらしい」

 

「政府?」

 

「からの要請だ。火星技研を知ってる人も少ないから来てほしいとの事だ。火星地表面には降りなくてもいいからってさ。おおかた地球から僕らを引き離してアタックってとこだ」

 

「……めんどくさい」

 

 政府からの話だと分かると途端に機嫌を悪くしたハルナはしかめっ面でその場で簡易軍服に着替えると局に出て、タブレットをトニーから受け取った。適当にバンダナで纏めただけでもスッと引き締まったが、不快感はなかなか拭えない。後で甘えようとハルナは心に決めた。

 

「で、断れなかったって?」

 

「すみません……藤堂長官も反対されたそうですが、万全の安全確保した上で行うと言われて押し切られてしまいました」

 

「悪いのは提案してきた方、トニーさんは悪くない。気に入らないけど、古代くんのナガトに乗れるなら我慢はするよ」

 

「本当にすみません。調査当日は私も同伴してお守りしますので……」

 

 


 

 

「政府のクソ野郎が動き出しました」

 

「口、口が悪いぞ」

 

 最高潮の不機嫌をかますハルナを長官室のソファで膝枕しながら、リクはハルナの言いたい事を代弁した。機嫌が悪くなると口が悪くなる事はいつもの事だからリクは慣れているが、怒った時のハルナを知っている真田と古代はいつも以上に冷や汗をかいている。

 

「済まない。押し切られてしまった」

 

「別に長官は悪くないので気にしないでください。出発はいつ頃ですか?」

 

「1か月後だ。準備の方は?」

 

「二週間後に政府調査団の面々が極東入りし、軍側の人員と顔合わせをする。素性は問題ない。何らかの特殊な訓練を受けているような記録、改ざん跡もない。その証拠というか何というか、護衛戦力として空間騎兵隊の参加要請も来ていた」

 

「非戦闘要員ですよって事を押し出してますね。こちらとしても拒否しない訳にはいかないってのは現状ですよ」

 

「こちらからは第1機甲師団から1個中隊出す。君達には専属の護衛をつける予定だ」

 

「専属って……」

 

「地球の軍事を一手に担った君達の立場は今や相当なものだ。政府もとてもじゃないがその存在を無視出来ないし、失うことも出来ないだろう」

 

「……分かりました」

 

 帰還から2年半が経過し激務に浸っていたら、いつの間にかとんでもない立場に立っていた。防弾仕様の護送車で運ばれたり護衛がついたりすれば嫌でも実感してしまう。

 

 

「2週間後に政府の調査団が第3新東京入りする。顔合わせもあるから、少しでいいから顔を出すように」

 

 


 

 AW3年(2202年)6月29日

 政府調査団との顔合わせ後

 睦月・暁国際設計局

 

 

「すぐに戻ってきて良かったかも」

 

「AT フィールドが変だった。人ではあり得ないような感触だったから、何かあるな」

 

 人にしては凪ぎ過ぎていて気持ち悪いほど動かないATフィールドに2人は警戒を示し、藤堂の言いつけ通りに「少し顔を出しただけで」戻ってきた。

 そのときコーヒーを出されたが何かを混ぜられたら困るので自分達は一切口をつけていない。

 

「ねぇ、あれだけフィールドが動いてないことってあるのかな?」

 

「知る限りではない。寝てるときだってある程度波があるくらいだし、もしそんなことが起こるなら洗脳か思考停止でもしないと起こらないだろ」

 

 つまりあの政府調査団は洗脳されているかもしれない。だが、洗脳した状態で高度な会話が出きるのだろうか? 否、普通の洗脳では出来ない。辛い食べ物を甘いと感じるような洗脳とは次元が違うのは流石に分かっていた。

 

 じゃあどのような手段を使ってる? それを考え始めるとキリがない。考えるより今は外部の人間から身を守らないといけない。

 

 

 そう考えていると、呼び鈴がなった。自室の入り口のドアにはインターホンが取り付けられているので、何かあってここに呼びに行くときは使うように周知させていたのだ。

 

「トニーさんどうしたの?」

 

『お休み中すみません。お時間よろしければ確認していただきたい事項がありまして』

 

 インターホンがのカメラに向けていたのはタブレットの画面で、どうやら代理で処理していい内容ではなかったようだ。

 

「分かった。少し待ってて」

 

 そう言うとインターホンを切り髪を纏めて眼鏡をかけて玄関を開けた。

 

「トニーさんどうした……」

 

 トニーの目は虚ろな意思の無い目で片手にタブレットを持ち、もう片手には、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拳銃が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……」

 

 たった1秒で全てを理解した。顔に至近距離で向けられた銃口は、そのまま撃てば脳幹を撃ち抜く。即ち即死。拳銃に気付いたリクが止めるために前に出ようとするが、それよりも早く撃たれてしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、平和だった設計局に数発の銃声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が歪む中で、まるで耳元で雷鳴が鳴り響くかのような音が轟く。目の奥から深い圧力が広がり、次の瞬間、側頭部を突き抜ける何かの熱が脳裏に響く。それは無情に進み、側頭部を貫通し、痛みとともに鮮烈な音と色を放ち抜けていった。

 

 血が勢いよく顔を伝い、地面に滴り落ちるのを感じる間もなく、視界が一瞬にして消え失せる。頭の中に広がる音の残響と、体の中で止めどなく流れ出す感覚だけが、残酷に現実を突きつけていた。

 

 その瞬間、視界が真っ白に変わり、脳が一時的に停止したような感覚に包まれる。全身の力が抜け、足元がふらつき、地面がぐんと迫るように感じる。次第に体が重力に引かれるままに、ゆっくりと、しかし確実に倒れ込んでいった。頭が硬い地面にぶつかる直前、わずかな間だけ全てが静止したように感じ、ただ無力に体が崩れていく音だけが、耳元で響き渡る。

 

 

 

 ハルナの右目がその瞬間に見たのは、自分から零れ落ちる赤い液体。そして、撃ち抜かれ膝を付くリクだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 同時刻

 平和維持軍本庁舎 

 地下 統合指令室

 

 統合司令室に飛び込んだ藤堂を待っていたのは、鳴りやまない警報と第3新東京が攻撃を受けているという事実だった。

 

(まさかこのタイミングで攻撃を仕掛けてくるとは、早すぎる!)

 

「藤堂長官上がられます!」

 

「作業そのまま。状況はある程度受け取っているが、今一度報告を頼む」

 

「MAGI2ndへの大規模なサイバー攻撃を検知。外部とのネット、情報回線が一方的に閉鎖されていきます!」

 

「侵入者はNEWYORK1のオリジナルMAGIか?」

 

「いえ、少なくとも3基です。オリジナルと、BRUSSELS2と豪州に設置したMAGI4号と5号からも攻撃が来ています。既に第1多層型並列防壁を抜かれました」

 

「カナーバ統括に繋げられるか?」

 

「外部との情報回線が封鎖された以上、通常の無線通信が一切効きません」

 

「藤堂長官。衛星軌道上のクロシオかアマツカゼを中継点にすれば通信可能かもしれません。本来は新型弾頭試験の為の軌道配置ですが、その手の中継も対策されていたら連絡手段は絶たれたも同じです」

 

 ハインラインが言うように、軌道上の艦艇を中継衛星代わりにしてレーザー通信を飛ばせばBRUSSELS2に届くかもしれない。それに遮断しているのは既存の施設を使った無線通信だけだ。最悪レーザー通信も使えなければコスモファルコンでも震電でも飛ばしてユーラシア上空を最高速度で飛ばして連絡すればいい。

 

「クロシオに通信。可能なら状況を説明しBRUSSELS2に通信を入れてもらう。2人の安否は?」

 

「この時間帯ですと局に戻られているはずですので……長官ッ!!」

 

 監視カメラの映像をコンソールに表示したオペレーターが見た物は、設計局で頭部から血を流しうつ伏せに倒れているハルナだった。その横にはこめかみに銃を当てて自殺しようとしている誰かが映っていた。

 

「ッ!? 大至急医療班を設計局に回せ!! リク君の安否は!?」

 

「こちらのカメラでは確認出来ません!!」

 

 ハルナが凶弾に倒れ、リクは安否不明。実行犯は犯行後すぐに自殺。今は2人を一刻も早く救い、この襲撃を止める事だ。

 

「医療班は2人を回収次第直ちに処置を! それと主データベースの閉鎖急げ!」

 

「主データベース閉鎖! ……ダメです閉鎖できません!」

 

(MAGIAchiralを加勢させて押し切るか? いや、Wunderが電子的に乗っ取られるリスクが高い。しかしMAGIの制圧は本部やWunderのそれと同義だ……)

 

「MAGIへのハッキング対策は?」

 

「先程、赤木博士がプロテクトの構築作業に入りました。完了まで残り15分との連絡が入っています」

 

「非番の空間騎兵に緊急招集をかけろ。震電も全機発進準備を整えろ。最悪の場合、都市上空で戦闘を行うこととなるかもしれないぞ。民間人の避難も急がせろ、旧地下都市に退避してもらう」

 

「了解。一般市民の避難誘導プログラムを開始、旧地下都市への通路を開放します!」

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛い……痛い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛い……痛い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛い……痛い……

 

 

 

 

 

 

 ……ッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おかしいな……撃たれたのは頭だけなのに……腕も痛い

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギリギリ銃口をずらして……なんとか脳幹だけは……回避したけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭の後ろが……濡れてる……銃弾が抜けたんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識があるってことは……まだ生きてる……のかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも……こんなに血……出てる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ……何か……聞こえる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 リク……沢山、血……出てるよ……腕……ボロボロだよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警報音が……鳴ってる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真田さん……藤堂長官……赤木博士……マリさん……レイちゃん……月村さん……古代くん……お願いね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音が遠くなる。頭がぼんやりとしたまま、意識の境界が薄れていく。現実が少しずつ遠く、遥か彼方のものに感じられて、何もかもがふわりと浮かんでいるような感覚になる。血の流れを感じる自分の体が、もう一つの世界のように遠くに思えて、視界が白く霞んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「×××××××××××××××××」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「マリ、マヤ。急ぐわよ」

 

「状況最悪、リっくんとハルナっちはもっとヤバいけど、マヤちゃんやり切るよ」

 

「はい赤木博士、マリ先輩!」

 

 

 統合司令室のMAGI2ndのメンテハッチを開放した赤木博士はマリと、新人の伊吹マヤを連れてプロテクト展開作業に入っていた。綾波の記憶から探し当てられた彼女は全てを知った上でWILLEに入る覚悟を決め、半年前より赤木博士の元でスパルタ指導を受けながら2番弟子として成長を続けていたのだ。

 

 プログラムに高い適性を見せる彼女は赤木博士のプログラミング速度に食らいつける程の才を持ち、博士の新たなる右腕と一部で言われる程だ。その彼女が加わる事で、MAGIタイプ3基からの攻撃を防ぎながら防壁展開準備を進められるだけの余裕を確保できている。

 

「全く同じ規格でもどうしても劣化版になってしまう以上、コピーはオリジナルには勝てないわ」

 

「ですが……! 先輩も博士もいます! 間に合いますよ!」

 

「前向き前向き良いね〜防御はキツイけどもうちょいだよ。赤木博士壁どうですか?」

 

「あと10分稼いで、とりあえず62時間は持つ強固な防壁だから時間かかるのよ。それが終われば次はWunderの方ね。真田くんが直接回ってくれてるから」

 

「アイマム」

 

(まさかリっくんとハルナっちが撃たれるなんて、政府はどうやった? と言うかそんな事より生きて、生きて欲しい。お姉さん信じるよ……)

 

 

「クロシオとの通信繋がりました!」

 

「直ちに状況を伝達。BRUSSELS2にMAGI4号機の緊急停止要請を出してくれ」

 

「クロシオより入電、太平洋上に未識別の艦艇確認、数10! さらに該当艦よりVTOL機の発艦を多数確認、こちらに向かって高速飛行中! 映像でます!」

 

 ホロスクリーンに映されたのは衛星軌道からのリアルタイム映像で、極東が丁度夜間の為映像の補正がされていた。クロシオからの映像にはナガト型に似た形状のやや角ばった形状の艦艇が海上にあった。その周辺を妙に角ばったVTOLが水上でホバリングをして、解像度をより上げるとミサイルポッドのような物が装備されていた。

 

「機体識別急げ、どこの機体だ?」

 

「近接航空支援用垂直離着陸対地攻撃機YAGR-3B、元国連地上軍で運用されていた機体です。所属は上空からの映像では判別不能です。IFFも応答ありません」

 

「艦艇の方は情報部で掴んでいる。政府が独自建造した波動砲艦のドレッドノート級だ。もう動かせたとは……」

 

 波が立っていない所を見ると、水上航行ではなく宇宙艦らしく浮いているようだ。しかしまだ未完成の部分があるようで砲塔は存在せず、ターレットリングにあたる部分を外付けパーツで塞いでゲルバデス級の様に艦橋正面を飛行甲板の様にしているようだ。

 その仮設飛行甲板上のYAGR-3Bが次々に発艦していき、その暴力的な推力を用い第3新東京に向かっていく。

 

「震電は?」

 

「既に搭乗完了しています。別命あるまで機内待機を維持するとの事です」

 

「空間騎兵の方はどうか?」

 

「非番招集にもう少々お時間いただきます。尚、現在動ける隊員で第三新東京の全ての道路を固め、地下通路も封鎖済みです。第6連隊も導入し芦ノ湖周辺を警戒、Wunderの警戒にあたらせます」

 

「頼むぞ」

 

 

『赤木から統合指令室へ。プロテクト作業完了しました』

 

 それと同時にMAGIへのサイバー攻撃は一斉にやんだ。統合指令室に展開されたホロモニターには、MAGIを大きく囲む多重防壁と「666」と大きく表示されている。

 第666プロテクト。MAGIの自律防御システムであり、メ2号作戦での攻撃を受けて下準備はされていたプロテクトであり、Bダナン型防壁群の核だ。

 

「Bダナン型防壁群の展開を確認。以後62時間の外部侵攻は不可能です」

 

「まずは凌げたか。次が来るぞ。奴らは本気だ。Wunderの接収でも我々の制圧でも何でもしてくる。地下都市の方はどうか?」

 

「残り40分で全市民の収容が完了します」

 

「可能な限り急いでくれ」

 

(しかし……奴らがこのタイミングで襲撃をかける理由が分からない。SEELEが介在している事を考えても奴らが襲撃をかける理由は……まさか、直下の黒き月か? 都市を管理下に置いて黒き月の接収か解析を再開する積もりだろう。だが、それを許せばSEELEに補完計画を進めさせることとなる。やはり私が戦闘指揮を執るしかないのか……)

 

 

 

「申し訳ありません。遅れました」

 

 自ら戦闘指揮を執るしかないと思ったその時、統合指令室に1人の将官が入ってきた。元空間防衛総隊司令長官である土方、その腕には水色のバンダナが平和維持軍のマークを隠すように巻かれていた。

 

「沖田に頼まれてきました。状況は聞いています」

 

「土方君。頼めるか?」

 

「同じ地球人類同士で戦うのはあれ以来起こって欲しくはなかったのですが、そうも言っていられません。迎撃戦終了後、速やかにWILLE計画の発動を」

 

「分かっている」

 

 土方はマイクを取ると全ての部隊に通信を入れるように指示を出し、険しい目に切り替えた。

 

「現時刻を持って全ての通常シフト、試験計画を停止。総員、第1種戦闘配置。現在第3新東京は、政府からの武力攻撃を受けている。我々は政府からの攻撃に対し迎撃行動を開始する。同じ人類同士で争うのはこれで最後にするべきだ。いいか、絶対に誰も死ぬな! 理不尽に抗うんだ! こんなくだらない戦いは、この1度で終わらせるぞ!」

 

(土方、儂の代わりに頼む)

 

(任せろ。次は俺だ)

 

 イスカンダル航海に比べればどこまでもくだらなくどこまでもちっぽけだが、それでも親友に頼むと言われれば、土方も気を引き締めざるを得ない。

 

「本土防空用に数機を残し震電各機発進させろ。タカオ型以上の稼働可能艦艇にエリナケウス、ヤタノカガミを装着させろ。完了次第順次緊急離水。大気圏内につきVSPSTの発砲は禁ずる。震電各機はエリナケウス搭載艦後方で滞空状態で待機。VTOLからの攻撃を確認次第攻撃を開始。ヤタノカガミ搭載艦は震電後方で流れ弾を防いでもらう。なお、最後通告に従わなかった場合、VTOLの撃墜を許可する」

 

 OWD-002 エリナケウス

 完全に防空戦に特化したオーバードウェポンであり、12.5センチ3連装、7.5センチ3連装といった速射高角光線砲塔が所狭しと並べられ、波動エンジンからの莫大なエネルギーを贅沢に使い「パルスレーザーで空が真っ赤に染まる程の」対空戦闘を展開できるオーバードウェポンだ。

 

 それを両舷に取り付け順次緊急発進。エリナケウス搭載型が前衛に、抜けてきた機体を震電で、都市に落ちそうなミサイルをヤタノカガミで受け止める。芦ノ湖に増設されたドックのクレーンがエリナケウスが大急ぎで運び込み、ラチェットマンが取り付ける。無重力空間での換装ではないため多少の時間はかかったものの発進準備を同時進行で進めた事でおおよそ15分で殆どの艦艇が離水する事が出来た。

 

「エリナケウス、及びヤタノカガミ搭載艦順次離水。迎撃ポイントへ移動開始」

 

「所定のポイントに到着次第、遠隔操作艦を順次展開。各艦迎撃行動に移れ。接近中の機体にミョウコウを通し警告を出せ。最後通告だ」

 

「最後通告……ッ、何故こんな事に……」

 

「それは後だ。今は身を守る事だけを考えろ」

 

 

 ________

 

 

 

 

 臨時編成対空防御艦隊

 CAS-NG-004 ミョウコウ

 

「遠隔操作艦の配置は?」

 

「エリナケウス搭載艦ミョウコウ1から6を現在扇状に展開中です」

 

「ヤタノカガミ搭載艦はミョウコウ7から10を展開中。波動エンジン出力全艦安定、各艦艇からの応答も良好。本艦はエリナケウスで対空に加わります」

 

 専属オペレーターとFL乗組員のナーシャ・セルルトの報告は上々。データ環とコンソールの扱いは慣れた物で、群体生物のように動く遠隔操作艦は人が乗っていると錯覚するほどだ。勿論誰も乗っていないのだが、2人の操演は見事なもの。まだ1人で動かせる艦数は少ないが、それは練度を上げればメキメキと伸びるだろう。

 ミョウコウの臨時艦長の北野誠也*1は艦長席の座り心地を気にする暇もなく次々に指示を飛ばしていく。

 

「レーダー、見えるか?」

 

「地上用レンジで確認しています。情報通りVTOL機を確認。数20」

 

「上からも命令があるように、こちらからはまだ撃つな」

 

「VTOL機近づく。残り10000」

 

「ミョウコウより接近中のVTOL機に告ぐ。直ちに、所属、飛行目的、針路を明らかにされたし。繰り返す。直ちに、所属、飛行目的、針路を明らかにされたし。これは再三の警告であり、従わない場合敵対勢力と見做し武力行使を行う」

 

 北野がVTOL機に直接通信波をぶつけて音声とモールスでも警告を発するが、VTOL機は一切その歩みを止めない。それどころか、レーダー照射を行い艦橋にロックオン警報が響く。

 

「敵VTOL機から射撃レーダーの照射を受けています。おそらく、やる気かと」

 

「攻撃来るぞ。対空監視怠るな」

 

「防空圏に入りました。まだ撃って来ませんがレーダー照射は続いています」

 

「睨み合いをしたいのか。どっちが先に我慢の限界になるか」

 

「接触まで、残り5000」

 

「まだか……」

 

「4000」

 

 

「3000」

 

 

「2000」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海中より発砲反応!!」

 

「ッ?! 総員衝撃に備え!」

 

 間髪入れず海面から実体弾が飛び出し、ミョウコウ3と4の艦底部に着弾する。が、VRSS・ATLHの鉄壁の防御の前では 只の爆炎となるしか道はなく、波動防壁がなくても無傷に終わった。が、その砲撃は1度ではなく複数のポイントの海面から実体弾が飛び出し、艦底部に絶えることの無い爆炎を産み出す。さらにその爆炎で姿勢が不安定になり堪らず上昇、対空迎撃に死角をこじ開けられてしまった。

 

「クッ……! 各艦重力アンカーで姿勢を固定し迎撃開始! 震電各機、構え!」

 

「ミョウコウ全艦迎撃開始。エリナケウス一斉射!」

 

 左舷のエリナケウスが一斉に発砲を開始し、パルスレーザーの豪雨に曝されたVTOL機10機が蜂の巣になる爆発と共に無数の破片となり落下した。が、海中からの砲撃から回避するために艦艇を上昇させたため、海面付近に隙が生じ複数のVTOL機に抜かれていく。

 

「左舷舷側多目的発射管に艦対艦ミサイル装填。発射1秒後にロケットモーターを切り海中に投下。爆雷として使用する」

 

「了解。艦対艦ミサイル装填。ロケットモーター噴射タイミングをマニュアルに変更。発射準備よし」

 

「撃て」

 

 左舷舷側多目的発射管から空対艦ミサイルが発射され、完全に発射管から射出されて1秒後にロケットモーターが切れ、海面に落下。そのまま自重で沈んでいき、残った慣性で発射点へとゆっくりと沈みながら進んでいく。

 

 宇宙艦艇を水中で運用するのは一本とられた。が、水中での光学兵器の使用はリスクの高い行為と言える。膨大なエネルギー量を抱えるショックカノン。ミサイル、航空機の装甲を軽く撃ち抜くパルスレーザー。これらを水中で発砲した場合莫大な熱量で周辺の水が一気に蒸発し、局所的な水蒸気爆発を起こす。いや、水蒸気爆発で済めばかわいい方だ。水分子がプラズマ化し周辺海域に電磁的な影響が発生し、局所的な電磁パルスだって発生するだろう。

 

 ドレッドノート級は海中にいる。海中にいる限り下手に対空迎撃も出来ない。成す術がないのだ。

 

 

 

 腹に響くような音が外部環境音として拾え、聴音をしていた通信長が報告する。

 

「海中より爆発音及び衝撃波を感知。起爆した物と思われます」

 

「宇宙艦を地上でも運用する以上、水中兵装の必要性は上層部に報告すべきだ。取り逃がしの方はどうか?」

 

「まもなく、震電隊にあたります!」

 

 _________________

 

 

「皆、初の実戦が人間相手になってしまった事は残念だと思う。でも、土方宙将は絶対に死ぬなとおっしゃられた。だから、死なないように戦おう」

 

『分かってるよ我らが死神。今日はお仕事なさそうだな』

 

『こーら。無駄口叩かない。レーダーに機影出てるよ。構えて』

 

「各機、小銃構え」

 

『ハイ各機小銃構え! 射線上にミョウコウ軍団が入らないように注意しろ! 間違ってミョウコウのケツを撃たないようにな!』

 

 シュガの復唱で待機していた震電が一斉に電磁汎用小銃を構え、射線上にVTOLを収めた。電磁投射砲と言っても、戦術機サイズにおさめる都合上重力下での射程は長くない。それでも初速はマッハ3。音を置き去りにする弾体は撃てば当たるを体現する。

 

「目標確認。各機射撃用意、安全装置解除。……撃て」

 

 ノウゼンの指示で震電20機が一斉に発砲し、発射とほぼ同じタイミングで爆発が観測された。一部オーバーキル気味だがもうそのような事を言っていられるような状況ではない。不規則な機動を描くVTOLを一斉射で全て落とす事は叶わず、マッハ3の金属の雨を避けた機体がミサイルポッドからミサイルを発射し撃ち落としにかかる。

 それを視認した震電各機はロックオンされた機体を援護する様にミサイルを狙い、フレアに惑わされて機動が鈍ったミサイルを電磁汎用小銃で落とす。

 その最中に距離を詰めてきたVTOLには超高振動式近接短刀で機体を切り裂く。コクピットを狙っていない事はせめてもの善意だろう。どの道墜落が待っているが、ブリッジブレイカーの異名を持つ近接短刀で体を二つにされるよりは遥かに良心的だ。

 

「どうだ?」

 

『まだ抜けてくるな。ミョウコウらが頑張ってるが海中からドカドカ撃たれればそれに対処もしないといかんからな』

 

「ああ。けど、この特攻じみた動きは逆に派手過ぎる。リッカ、上は何か言ってるか?」

 

『なーんも。んでも、こういうやり過ぎの裏には何か来てるんじゃないの? こいつら全員おとりだったりしてな』

 

『じゃ、半分本土に飛ばす? 本土で動ける奴がいた方がよくない?』

 

 この一連の突撃と砲撃は本命を隠すための陽動。そう見たのはノウゼン以外にもいる。如何やらおかしいと感じていたのは自分以外にもいたと把握したノウゼンはコクピットの通信機を操作し統合指令室を呼び出した。VTOLの迎撃を仲間に任せミョウコウに通信を飛ばす。

 

「……Tango1よりミョウコウ。一連の攻撃は無人機による陽動と見る。VTOL機に生命反応があるか走査を要請する」

 

 Tango1。Tokyo3に駐留する事となり与えられたコードだ。一番近い通信先のミョウコウに繋ぎ要求すると、直ぐに返答が来た。

 

『ミョウコウよりTango1。暫く待て、後方のミョウコウ8を使い走査を行う』

 

「Tango1了解。なるべく早く頼む」

 

 通信が切れたからVTOLの迎撃を続けるが、返信は思ったよりもずっと速かった。

 

「ミョウコウよりTango各機に一斉通信。敵VTOLに一切の生命反応を認めず。全て無人だ」

 

『やはり陽動。本土に機体を幾つか回す。上の命令は出ていないが急を要する』

 

 暫し間があったが、直ぐに返答が返る。

 

『こちらミョウコウ臨時艦長北野だ。私に君たちの指揮権限はない。だから許可を得る必要はない。ノウゼン一尉、君の采配で動かせ。抜けた分は我々で賄おう』

 

「了解、感謝する。Tango1アウト。皆傾注。ライデン、セオ、カイエの小隊は、ここに残ってVTOLを捌いてくれ。ダイヤ、クレナ、俺の小隊はTOKYO3に戻る」

 

 

 

 ___________

 

 

 

 同時刻

 芦ノ湖

 遣Tokyo3タカオ改装ワスカラン型全領域汎用整備艦

 極東配備型 アカシ

 

 

『全警備兵に通達。不審人物の捕縛、もしくは排除を目的とした発砲を許可する。なお、侵入者の銃殺を特例で許可する。繰り返す……』

 

 芦ノ湖周辺に設置された探照灯が一斉にWunderを照らし、警報音が鳴り響き、テーザー銃とアサルトライフルを装備した警備員が配置に着く。さらに整備中のWunderに通じる全ての搬入口が閉鎖され、一気に厳戒態勢に切り替わった。

 

「……素人の動きだ。数はいるが烏合の衆、後ろから仕留めればいい」

 

「了解」

 

 気配を殺し潜んでいた1名が後ろから忍び寄り締め、ナイフで首を搔き切った。一息に命を刈り取られた警備員は膝から崩れ落ちるように倒れるが、倒れる寸前に抱えられ、コンテナの影に寝かされた。

 

「クリア」

 

「いいぞ。ソフトの方はどうか?」

 

『硬すぎます。プロテクトで62時間は手も足も出ません』

 

「了解。内部を制圧し起動させる。その後こいつをネモ3に運び込む。いいな」

 

「「「コピー」」」

 

 特殊部隊その数10名。ガスによる制圧を考慮してガスマスクを装備しアサルトスーツを着用し、その上からタクティカルベストとボディアーマーを着込んでいる。他の監視員に見つかる前にアカシから芦ノ湖に静かに入水し、Wunderに向かい泳いでいく。

 

 

 その中には、明らかに小柄な女性の体格をした隊員がいた。

 

 

 ___________

 

 

 

 Tokyo3 平和維持軍総合庁舎

 地下 統合指令室

「BRUSSELS2から駆逐艦経由でレーザー通信!」

 

「出せ」

 

レーザー通信を開くと音声のみでカナーバの声が聞こえた。

 

『トウドウ長官、ご迷惑おかけして申し訳ございません。こちらのMAGIは何とか停止しました。ただ、豪州の5号機はこちらからの介入を全て拒否し続けてます』

 

「カナーバ統括。原因の方は?」

 

『ネット回線で仕込まれた形跡はなし。ですが、深夜シフト帯のMAGI区画の監視カメラに奇妙な人物が映っていました。虚ろな目をしてMAGIの外部ポートにメモリを差し込みすぐに抜く人物が記録されていました。誰だったのかは現在追加で調査中です』

 

「BRUSSELS2から豪州に機体を飛ばし、直接停止を行ってください」

 

『分かりました。こちらから出来るのはこれ位しかありませんが、直ちに』

 

カナーバが頷くと通信は切れ、藤堂は溜まっていたものを吐き出すように深呼吸をした。が、それを繰り返す余裕もなく新たに通信が入った。

 

 

『こちら芦ノ湖、ワスカラン型アカシです。警備員の遺体を確認。頸動脈を切られ一撃です。コイツはその辺の殺人とはワケが違います。特殊部隊といった辺りでしょう』

 

 警備員の遺体が発見されたと報告を受け通信を開きまさかと思ったが、Wunderに対し特殊部隊が投入された可能性を示唆する事となった。洋上での大騒ぎはこの潜入の為の陽動。エリナケウスで蜂の巣にされても向ってくる理由が分かった。

 

「アカシにカメラは?」

 

『コンテナの影でやられたんで腕くらいしか見えていません』

 

「太平洋側からのはこれを隠すための陽動か。Wunderの保護は?」

 

『昇降可能な全ハッチの閉鎖中です。第2世代と違い遠隔が効かないので、艦内からの操作になります。今、Wunder艦内でハッキング対策をされていた真田二佐に操作を行ってもらっています』

 

「分かった。普通の警備員で歯が立たない、空間騎兵第1機甲師団を送る。駐屯地に有線通信を」

 

「有線ですか……敷設しろと仰られた時には時代遅れだと思いましたが……藤堂長官、こういう時は有線助かります。あの時は失礼しました」

 

 Tokyo3には、遮断された情報回線と外部と繋がるネットとは別で旧世紀の光有線通信網が網目の様に敷かれている。これは無線通信の遮断等の不測の事態に備えるために用意された緊急用であり、「使う事の無いように」と願われた設備だ。備えあれば患いなし。Tokyo3周辺だけなら軍用に限り問題なくやり取り可能だ。

 

 オペレーターがコンソール脇の赤い受話器を取ると第1機甲師団駐屯地にコールを入れる。1回コールですぐに相手は応えたので、土方に受話器を手渡した。

 

『こちら第1機甲師団駐屯地。コイツを使ったという事は……』

 

 如何やら電話口に応えたのは中隊長の斉藤のようだ。

 

「情報回線と外部へのネットが全て遮断されている。知っての通り、Tokyo3が攻撃を受けているが、真の目的はWunderだ。すでに工作艦アカシの警備員が殺られた。第1機甲師団は直ちにWunder内部に突入し艦内の安全確保。侵入者を確認した場合拘束、制圧しろ」

 

『了解。親仁さん、相手は特殊部隊ですか?』

 

「恐らくだ。奴らはWunderを政府所有の時間断層工廠に持ち込むのだろう。解析でもされたら大変な事となる」

 

『大変な事、ですか。多くは聞きません、とにかく急ぎます』

 

 通話が切れ、土方は受話器をオペレーターに返す。そのまま藤堂の耳元で声を潜め話をする。

 

「Wunderには彼女が?」

 

「最悪の場合は、彼女が艦を掌握してくれる。万が一の場合Wunderの発進は阻止してくれるだろう。現にイスカンダルからの復路では、彼女と葛城初代艦長の操作は島一尉の操舵よりも優先された」

 

 そう、如何に特殊部隊が艦内を制圧し発進準備を整えても、現在の所「Wunderは発進しない」のだ。彼女の意思があらゆる操作以上に優先されるため、彼女が全面的に拒否をすればうんともすんとも言わない。

 

「が、もしドレッドノートで引き上げるなんて事になれば、抵抗できないかもしれない」

 

「ドレッドノートで?!」

 

「あくまで仮定の話です。が、現に実働可能状態である以上あってもおかしくありません」

 

 


 

 

「何故1か所だけ閉じなかったんだ……ッ」

 

 修復された航海艦橋で全ての昇降用ハッチの閉鎖を行っているが、何故か一か所だけ閉じなかったのだ。そこは第1中学校の見学の受け入れで使用されたハッチであり、そのハッチへのアクセスだけが何度も拒否されている。

 

(あの見学で学生が何かをしたのか? だが普通は開閉異常で動作エラーを吐く初だが、アクセス不能でエラーが出ないとはシステムに干渉されたのだろう。だとすると……)

 

 

「あの学生の中に協力者、もしくは侵入者の1人がいたのか?」

 

 

 そう辿り着くのは早かった。学生にも引率にも気づかれない程手際良く細工をし、その後の作業に入った整備員にも気づかれない程の丁寧な隠し方をすれば可能だ。本当にそんな事が可能な人間がいるか疑問に思うが、ともかく自分の中で結論は出た。

 

 ならばと思い、片っ端から隔壁を占める。波動エンジンに繋がる通路、航海艦橋に繋がる通路、MAGI格納区画に繋がる通路、中央電算室に繋がる通路。これらの重要拠点を抑えられる前に壁を作り、制圧を遅滞させる。

 

「君達政府はリク君とハルナ君を撃ったんだ。せめて邪魔はさせてもらう」

 

 こんなに怒ったのはいつぶりだろう。絶対零度に冷えた怒りを侵入者に向けながら、真田は隔壁の閉鎖に注力した。

 

 

 


 

 

 

 Wunder艦内に侵入した特殊部隊は、その任務の特殊性が故に一般公開がされていない。その部隊名は「戦略自衛隊」、略称は「SSDF」。旧国連時代より存在した国連統合軍直轄秘匿部隊であり、その実態は自衛隊なんて名称を付けるべきでない程の物だ。

 戦略自衛隊の正式保有兵器とは別に、国連地上軍を半ば隠れ蓑の様にした陸上、航空戦力の保有、施設潜入用の特殊工作部隊の保有、必要があれば暗殺も行う。携行武装としてハンドガン、アサルトライフル、対戦車砲に施設破壊用の爆薬、火炎放射器、数えてみればキリがない。

 さらにEMP兵器の保有も行っていた。

 

 その彼らが、Wunderを襲ったのだ。

 目的は、Wunderの強奪及び時間断層工廠への強制搬入。政府管轄下のままでいられた時間断層工廠は、政府の独断でWunderの改修を行う事も可能な大規模なドックが用意されている。そこでの回収を行う事でWunderを政府管轄下の戦闘艦とする事が、政府上層部の狙いだ。

 

 が、それは思わぬ難所にぶち当たっていた。

 

「隔壁の解除はどうなっている?」

 

「ダメです。システムが不自然な位受け付けません。いつの間にこんな対策を……」

 

 本来整備員しかいない筈のWunderに微振動が走り、隔壁が自動で降りたのだ。勿論ダメコン用のコンソールを用い操作を行えば隔壁閉鎖も可能だが、水中からの偵察班の報告にも挙がっているように航海艦橋に誰も人はいない。それでは遠隔操作はどうだろうか。否、セキュリティ面の問題で艦外からの全ての遠隔操作には対応していない。ちなみにハッキング中のタブレットにはシステム制圧までの時間が表示されているが、「残り999時間」と表示されている。

 

 ならば誰が操作しているのか。分からない。まるでWunderが意思を持って異物を追い出そうととしているが、常識的に考えてこれは妄想染みた仮説だ。だがこの仮説がとても正しい事を侵入者は知らない。

 

「爆薬用意」

 

「了解」

 

 システム面での攻撃はやはり無理と判断され、指向性爆薬が隔壁の上部と下部に一見過剰な程取り付けられ部隊はいったん退避する。Wunderの設計図は建造の際に世界中に撒かれているため隔壁の厚さも把握しているが、改修によりダメコンの観点からもっと分厚くなっているかもしれない。その為、粉々にするのかと勘違いされそうなほどの量の爆薬が取り付けられた。

 そして爆破。隔壁を歪ませるほどの爆発が起こり隔壁は大きく歪み、人一人が何とか通り抜けられる程の隙間が出来た。

 

「ちっ、まだあるのか」

 

 力任せな手段を使い何とか隔壁を突破したと思えばさらに隔壁が顔を出す。当時の設計図通りなら20m置きに隔壁が用意されている筈。制圧目標の航海艦橋までは10数個の隔壁を通り抜けなければならないが、その前に爆薬が底をつくかもしれない。

 

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 強襲に気付いた綾波の行動は速かった。Wunderの制御権を直ちに掌握し、補助エンジンを作動させる。誰もいない事を良い事に、強襲対策で新規に取り付けられた催眠ガスの放出装置の起動準備をする。

 

「真田さんに代わって、お仕置き。……あ」

 

 ダクトを匍匐移動した時の事を思い出話としてハルナから聞いていたので、ダクトからの侵入も考えてついでに催眠ガスを放出。中々にえげつない。

 表情には出にくいが、ちゃんと怒っているのだ。

 

(レイちゃん。リっくんとハルナっちが撃たれて大怪我で今ヤバいからWunderお願い! マジ頼むにゃ!)

 

「この恨み、晴らさで……忘れた」

 

 言いたくても言葉が出なかったが、胸の奥がふつふつと熱い。艦長服越しに触れてみると、粘り気のある熱い感情がある事が分かる。ああ、怒っているのか。そう理解した綾波は、一先ず艦内にいる真田と通信を取る事とした。

 

「真田さん、いる?」

 

『綾波君か。この一連の操作は君か?』

 

「真希波さんにお願いされた。リクさんとハルナさんが撃たれて……今、凄い怒ってると思う」

 

『大丈夫だ、怒っているのは君だけではない。私もだ。でも今は理性で押さえてくれ。侵入犯は可能なら捕まえて尋問する必要がある』

 

「閉じ込める?」

 

『眠らせた方が良いかもしれないが無理だろう。恐らく連中はWunderを動かして持ち去る積もりだ。まだ波動コアも量子フライホイールもそのままだ。つまり、システムさえどうにかしてしまえば直ぐに起動して発進できてしまうんだ』

 

「じゃあ、止めればいいの?」

 

『君の方でシステムをロック……あぁ、兎に角操作を拒否し続けて欲しい。どんな操作が来てもだ』

 

「分かった。でも、もしWunderを船で運ぼうとしたら? Wunderを動かすわけじゃないから、どうにもできないと思う」

 

『そうならないようにするが、もしそうなったら強引に振り払ってくれて構わない。ただ街に被害が出ると危険だ。出来れば海の上で頼む』

 

「……難しい。でも分かった」

 

 狙いは自分。というより、Wunderの艦体が欲しいのだろう。アダムス組織をその腹に抱える超戦艦はSEELEの欲しがりそうな代物だ。もしもそんなものが渡ってしまえば、元居た世界の再演だ。フォースインパクトからのアディショナルインパクトが再び起こり、復興途中の地球から人類が根こそぎ消え失せるだろう。

 

「碇君のいる世界は、貴方達に壊させない」

 

 

 粘り気のある怒りの感情が、一瞬膨らんだ気がした。

 

 

 


 

 

 

 

「艦内の方はどうか?」

 

「突入開始しました。第1機甲師団の進路に合わせて隔壁が展開されているようです。真田二佐の操作かと思われますが……」

 

「構わん。そのまま侵入犯の制圧と艦内の安全確保を続行。周辺状況に変わりないな?」

 

 

「現状に変わりなっ……! 旧千葉方面沖合より浮上する巨大物を検知、ドレッドノートです! 数10!」

 

「針路はやはりここか。第三新東京に入る前に撃沈する。回せる戦力は?」

 

「帰投して補給を受けている震電とミョウコウ7から10が向かえます。ですが、ミョウコウはヤタノカガミを分離する必要があり、三式での効果的な砲撃戦は厳しいかと。ドレッドノートに波動防壁が備わっていたら実体兵器での撃沈は難しいです」

 

「……ハインライン一尉。ただちに、ヤタノカガミのスペックの詳細を出してくれ。それを使い、艦艇を殴る事が出来るかシミュレーションを」

 

「艦艇で肉弾戦をするというのですか?」

 

「可能か不可能か知りたい。直ちにかかってくれ」

 

 土方の要請を受け、ハインラインはMAGI2ndに自分の端末を繋ぎシミュレーションに入った。ドレッドノートに波動防壁が備わっていたら、VSPSTを除く通常火力で撃沈させる事は困難だ。なら押し返すしかないと決断したら「腕を付けられる事を良いことに肉弾戦をしよう」と言うのだ。

 

 名将は奇策を生み出せるから強いのか? そう思ったハインラインはシミュレーションに取り掛かる。

 ドレッドノートとヤタノカガミ展開状態のタカオは、3DモデルとしてMAGI2nd内で出来上がっている。それを至近距離まで一気に近づけて、アームをドレッドノートの波動防壁にぶつける。

 ヤタノカガミをボクシンググローブの様に構えたアームは過負荷で軋みを上げるが、波動防壁を張ったドレッドノートを押し返した。重整備は必要だが、壊れるわけではなさそうだ。

 

「土方宙将いけます。ついでですが、ナガトなら艦首集中展開で代替可能です」

 

「よし。ミョウコウに中継通信。ミョウコウ7から10は直ちに旧千葉方面に移動。補給中の震電とコンゴウ、ヒエイ、ハルナ、キリシマII(セカンド)を上げてドレッドノートを迎撃する。それと、式波二尉に連絡を。電磁小銃で波動防壁を抜けない以上、あの機体に乗ってもらう」

 

ナガト型であれば艦首集中展開の波動防壁で押し切れる。ハインラインの咄嗟の検証でそう確定した為すぐさま命令が下され、有人仕様ナガト型が4隻一気に離水した。嘗てガミラス戦争で沈んだ金剛型宇宙戦艦の生まれ変わり、そして生き残ったキリシマの名を継いだキリシマII。4隻は力強く空に昇り、ドレッドノート(何物も恐れない者)の迎撃に向かった。

*1
北野哲也の兄




LiSAさんのunlastingをタイトル名に使わせて頂きました
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