宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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未来への羅針盤を求めて/総旗艦ヤマト

 AW3年(2202年)7月

 Tokyo3 沖田家

 

 

「事の次第は報告書で受け取っている。ありがとう、土方」

 

「何処までもくだらない争いだったがな。連邦政府の殆どは、今回の武力衝突には関わっていない。ドレッドノートの開発元はあくまで武装の提供、戦略自衛隊は大統領命令で動かされていただけ。そしてその大統領が、操り人形だっただけだ」

 

 容体の快方に向かった事で通院に切り替えた沖田の元に土方と佐渡は訪れていた。海が見える一軒家。佐渡の自宅に近くすぐに駆け付けられるという事で選んだこの家は、軍からの給金をまともに使わなかった沖田が周囲の面々に勧められ悩んだ末に買った家だ。

 

「ハルナ君とリク君の容体は?」

 

「正直奇跡としか言いようがないんです。リク君が生命維持出来んかったら、ハルナ君は死んでます。脳幹を回避して左目だけで済んだのは……こう言うのも悪いですが、不幸中の幸いです」

 

 

 

 宇宙防衛大学附属病院に緊急搬送されて3週間。ハルナは左目を、リクは左手を失っていた。佐渡の言う通り、左目を貫通したレーザーはそのまま側頭部に抜けていた為、脳幹の損傷はなし。とっさに銃口をずらしたことが生死を分ける事となった。

 現在の所、2人に対して再生治療を行う話は上がっていない。これは意思云々の問題ではなく、呪縛に絡んだ懸念があるからだ。身体的な変化をもたらし続ける呪縛は2人から睡眠を奪ったが、身体的精神的問題はほぼ無に等しい。現代医学では説明のつかない異常事態であり、綾波の話によると「不老」すら起こる可能性がある。流石に「不死」の可能性はあがらなかったが、どう変化するか分からない肉体に細心の注意を払う必要があった。

 

 そしてあの日、左腕がボロボロになるまで撃たれたリクは気力だけで意識を何とか保った。そして大量出血の危険があったハルナに対し、生存本能であるリヒドーにATフィールドで干渉しギリギリで生命維持をしていた。人間の範疇を超えた使用に、佐渡と真田は通常の医学的処置に任せて止めるように訴えたが、「止めれば死んでしまう」と本能で理解したリクは自身のケガも後回しにして、無理をして生命維持を続け緊急手術中も保たせた。

 

 結果、ハルナは何とか死ななかった。しかしATフィールドの長時間運用と怪我による失血がたたってリクが倒れ、生死の境を彷徨う事となった。つい数日前に容体は安定したが、今は原因不明の意識不明状態に陥っている。

 

「拡散波動砲の方はどうかね?」

 

「芹沢副長官の指示で、BRUSSELS2から工作艦を回して太平洋で着底するドレッドノートの引き上げをした。案の定、波動砲の改良品が取り付けられていた。真田が分解解析に入っているが、十中八九拡散波動砲だろう。ガミラスへの提案通り、拡散なら元に戻す」

 

「頼む」

 

「お前は休んでいろ……といっても、動いている事は気付いている」

 

「……誤魔化せなかったか」

 

「この家で出来る範囲で、俺から何か言うような事でもなかっただけだ」

 

 この家に移ってから沖田は1人だった。元乗員が遊びに来て近況報告をしてくれることがよくあるが、それ以外は基本1人。そういう時間を使い沖田は宇宙防衛大学の臨時講師をしていた。体力の衰えを感じる為穏やかに過ごすつもりだったが、老い先短いかもしれない自分の経験を伝えられるならと言う事で防大からの依頼に二つ返事で承諾した。ただ人気過ぎて、沖田が講師をする時は生徒は何が何でも必ず出席するらしい。

 

「まぁ経過も良好。根治はまだ先じゃが、やはりアンタは不死身じゃな」

 

「銀河一の名医がいるからだよ。だからハルナ君も救えた」

 

「あれはリク君が身を削って繋いでくれたからじゃ。じゃが……今度ばかりはいつ目を覚ますか……」

 

 

 ____________

 

 

 

 共和制ガミラス

 首都 バレラス

 

 拡散波動砲搭載艦艇の存在と極東事変のあらまし。そしてWILLEとKREDITとの条約再締結。バレル大使の報告と芹沢の提案は衝撃をもたらし、共和制ガミラス首脳部は復興支援に関わる企業を議会に緊急招集。緊急議会が開催されていた。

 特に問題視されたのはアリア条約第3条の「発展型波動砲」に該当する拡散波動砲だ。立派な戦略兵器でもあり、その牙がガミラスに向く事も十分にあり得る。そして肝心の持ち主だ。平和維持軍ではなく政府がドレッドノートを所有しているのだ。

 

 特に企業群の代表たちからの反応は予想通り苛立ちと焦燥に満ちていた。

 

「全て無駄になったと言われたら、我々の立場がどうなると思っているんだ!」

 

「それを避けるために、WILLEとの再交渉案が提示されているのだろう?」

 

「だが、テロン政府を直接的に敵に回すことになるぞ! 属国への示しもつかなくなる」

 

「テロン政府は解体され後継組織が民主統治を引き継ぐ。彼らの政治体制が大きく変わる事はない。彼らは彼らで何とかする!」

 

 その中で、一人の冷静な声が場を静めた。

 

「諸君。私たちの優先事項は何だ? 地球の復興支援の正当性を守ることか、それとも地球圏全体の安定か?」

 

 議長席で静かに腕を組み声を発したのは、現共和制ガミラスの首相を務める「レドフ・ヒス」だった。第2バレラス633工区落下未遂では総統府からの総員退避の指揮を最後まで執り続けた功績もあり、デスラー無き今のガミラスを纏める為の民主化推進派の1人として共和制ガミラスの首相に抜擢されていた。

 決めるべきタイミングでビシッと決め、本質を見失わない。文官として恥ずかしくない手腕を発揮するようになった。さらに帝政時代からの官僚に加え新規に民間より人材を登用。2年間の奮闘の末何とか安定軌道に乗せる事に成功したのだ。

 

 

「ドレッドノートの存在を無視すれば、いずれそれが私たちの脅威となる日が来る。一方で、WILLEとの協力は、リスクを最小限に抑えながら地球の復興を促進できる。内外への示しも付く。ここで取るべき選択肢は、明らかではないのか?」

 

 彼女の言葉に、会議室は再び沈黙に包まれる。やがて、ヒスが重々しく発言した。

 

「彼らは我々に筋を通そうとしている。拡散波動砲の回収と連邦政府の解体、後継にあたる統治機構の準備、そして再締結の準備。緊急の事だが対処の手順は丁寧だ。そして彼らは君達の利益も考えているんだ。テロンはそれを武器にして上手く提案をしたようだが、双方ともに損を抑えられる」

 

 そこまで言い切ると、ヒスは秘書官にこう伝えた。

 

「バレル大使に返答を。ヴィレ、クレーディト、コンパスとの交渉を前提に動き出す、と」

 

 

 


 

 

 

 AW3年(2202年)8月15日

 

 23世紀を迎えたこの時代でも、この日がどんな意味を持っているのかは多くの人が知っている。旧時代の大戦争。第2次世界大戦で日本が無条件降伏した日だ。そんな日に、平和維持軍とBRUSSELS2が合同で、ポイントネモ2とNEWYORK1ノナタワーに対し制圧作戦を行った。

 

 

 

 

 ポイントネモ2付近 海中

 WILLE’sCF-1stDF-[Y]SHIMAKAZE

 同 ISOKAZE

 同 HAMAKAZE

 

 

「無線封鎖維持。全艦、次元エナーシャルキャンセラー用意」

 

「了解。次元エナーシャルキャンセラー作動。偽装解除。境界水壁を突破します」

 

 海中に発生した時間断層空間は、例外なく境界水壁を持つ。通常空間と断層空間の境目として存在するこの海水の壁は、作戦説明時の話によると「水が海面へと上っている様に見える」らしい。残念な事に断層内でしか確認できない現象である為その異様な光景を拝む事は出来なかったが、シマカゼ、イソカゼ、ハマカゼは境界水壁を突破し、断層工廠の第1層に顔を出した。

 

「断層空間に入りました。次元エナーシャルキャンセラーは正常に稼働中」

 

「よし。引き続きチェックを頼む。それが止まれば我々は10分と持たないからな」

 

 平和維持軍とBRUSSELS2は、この作戦前に時間断層工場の存在を組織内でのみの公開に踏み切った。民間人への公開はまだ時期尚早として、第一段階として組織内で公開したが反応は様々だった。密かな疑問に納得がついた者、内緒にされていた事に不満を漏らす者、むしろ黙っておいた事は正しいと判断する者。

 

 そして、平和維持軍所有の断層工場は復興メインで使われていた事に安堵する者。

 

 生産速度10倍の工場は、下手な全自動工場よりも生産力はずっと高い。そもそもの時間の流れから違うからだ。それを製造ではなく技術開発なんかに使えばどうなるか。その答えの1つが、ドレッドノートの拡散波動砲だ。波動エネルギー流が散らばり、ロックオンした目標を射抜く。それも分散した波動エネルギー流にはホーミング機能があるときた。明らかに波動エネルギーに対する理解が進んでいる事に、真田を始めとした拡散波動砲解析班は危機感を覚えた。

 

 別に技術競争をしているからではない。ただ、軍国主義のトリガーが顔を覗かせたからだ。

 

「第2層通過。第3層に入ります。情報通りであれば、そろそろ造船区画です」

 

「ガミロイド部隊の用意は?」

 

「スタンバイ完了。断層制御艦への突入準備完了しています」

 

 断層空間内では人間は生存できない。スケールシリンダーを通過し強化防護服で身を包んでいても、せいぜい1時間程度だ。おまけに動きにくい。旧世紀の宇宙開発で使われていた宇宙服並みのサイズがあり、アシストがあっても特殊部隊の様に機敏に動けるわけがないのだ。

 そこで、人間以外の戦力だ。ガミラスからの供与品である機械化兵は断層工場でも使用しているが、実は警備用としても運用されている。空間騎兵の動きがインプットされている為地球式の教練にも投入可能であり、既に合同訓練も行われている。

 

 という事で、人間が無事でいられない空間での制圧作戦に駆り出されたのだ。

 

 

 

「時間断層制御艦プロメテウス及びエピメテウスを視認」

 

「了解。ハッチ解放、突入開始」

 

 イソカゼとハマカゼの格納庫からガミロイドが飛び出す。艦載機格納庫の駐機パネルを足場にして待機していたガミロイドは全機が非殺傷銃と降下装備で固められている。懸垂降下で流れる様に順次降下。ワイヤーを切り離し背負い式のスラスターで逆噴射をかけて着地。そのまま間を挟むこと無くプロメテウスの甲板を低い姿勢で駆ける。

 

「宇宙戦艦で最も警戒すべき攻撃は雷撃でも砲撃でも艦載機でもない、白兵戦による制圧だ」と、当時のWunder乗員は語る。どれだけ撃たれても沈まなかったWunderだが、亜空間回廊内で白兵戦に持ち込まれた時は数の力で押し込まれて制圧の危機にあった。だから第2世代はその教訓を反映し艦内での白兵戦対策の設備が導入されている。が、それは平和維持軍側でのみだ。白兵戦対策が十分になされていないプロメテウス、エピメテウスはエアロックを破壊され、ガミロイド部隊のなだれ込みを抑え込めない。

 

「部隊の方はどうか?」

 

「第1班が突入、機関室に向かいます。第2班は艦橋、第3班は断層工廠管制室です」

 

「まさか、あの亜空間制圧未遂を我々が真似する事になるとはな」

 

「分からないものです。しかも彼らと同じようにガミロイドを使う事になるとは、思いもしませんでした」

 

 ガミロイドの制御装置を操作しながら士官は応える。地球仕様に改造された操作盤にはハッキングで取得したプロメテウスとエピメテウスの艦内図が表示されている。侵入と同時に手近なコンソールに侵入して盗み取ったのだ。それは即座に全機体に共有されて、各班に分かれて制圧に向かった。

 

 

 

 _______

 

 

 午後10時

 NEWYORK1 ノナタワー

 大統領執務室

 

「大統領! 平和維持軍が!!」

 

「もっと正確に報告しろ。何があった」

 

「……NEWYORK1への侵攻を開始したとの報告が上がりました」

 

 臨時大統領は感じた事の無い程の衝撃を受けた。クリストファーの処理で疲弊していた彼に追い打ちをかけるようにやってきた報告は彼をふら付かせ、その足で危機管理センターに向かった。

 

 状況はこうだ。

 NEWYORK1沖合10kmの地点に突如艦艇が浮上。平和維持軍所属のナガト型プトレマイオス装備から多数の戦術機が発艦した。目標はNEWYORK1。震電で構成された戦術機2個中隊合計24機は、NEWYORK1の迎撃設備を全て回避して都市部に侵入を果たしたとの事だ。その際迎撃設備は一切破壊されていなく、NEWYORK1の破壊を狙ったものではないとの事だ。

 機体の腰部にはコンテナらしきものが取り付けられていて、そこから橙色の粒子が散布されているが、その意図は不明だ。

 

「ここが目標か」

 

「確認された震電は武装しています。何時発砲されるか分かりません」

 

「分かっている。沖合のナガト型の映像を」

 

 危機管理センターのモニターに映されたナガト型アドミラル装備は、平和維持軍の紋章が別の紋章に変えられていた。筆で荒々しく描かれたかのような独特な紋章の下にはアルファベットの5文字が添えられていた。「WILLE」と言う5文字に続き、所属艦隊と艦名を示す文字列が左舷艦首付近にフェイズシフトで

 

 WILLE’sCF-1stDF-[N]HIEI-AMD[Ptolemy]

(WILLE宇宙海軍第1防衛艦隊所属ナガト型航宙巡洋戦艦ヒエイ プトレマイオス装備型)

 

 と示されている。

 

「……もう平和維持軍は、我々の範疇の外にいるのか。睦月夫妻が生み出した世界の技術的特異点。クリストファーはあの武力衝突で彼らにとっての虎の尾を踏んだのだ。踏んでヤツは抜け殻を置いてどこかへ消えた」

 

 虎の尾、と言うのはハルナとリクだ。第2世代艦艇設計と建造を指揮した地球復興と防衛力の要を担った2人の殺害未遂は、2人の関係者全員をこれでもかと怒らせだろう。それが今回のクーデターを引き起こしたのであれば、方法は何であれある意味しょうがないかもしれないのだろう。

 

 

 副大統領は全てを悟ったように溜息を付いた。そして、上から何かが舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

「上空に巨大飛行物体を確認!!」

 

 ノナタワー頭上に突如出現した巨大な機影はVPSS・ATLHを操作して空に溶け込んでいたが、レーダーにも映らなかった。知りようもない事だが、戦術機はレーダーや通信を妨害する為に新2号機から放出される粒子を外装コンデンサから散布していた。だから、巨大な機体が大気圏外からレーダーにバレないように一気に降下する事が出来たのだ。

 

 

 ルクレティウス級超大型無人全翼航宙攻撃機

 EOLOAD-X01f ルクレティウス

 

 

 VPSS・ATLHの迷彩としての運用。装甲に流す電力量を変化させる都合上装甲強度が常時変化し続けるという欠点はあるものの、色さえわかればカメレオンの様に風景に溶け込める。フェイズシフトで装甲表面に文字を出せるくらいの精密さなので、視覚的欺瞞能力は高い。日中では隠しようもない影も、夜襲の為気にしなくてもいい。それにプラスして粒子散布によるレーダーと通信の欺瞞。巨大機の隠蔽にこれ程手の込んだ準備をされては感知しようとしてもできない。

 

 政府も把握できていなかった全幅800mを誇る超大型機は、その巨体でも地球重力を意に介せず圧倒的存在感を放ちながら浮遊していた。用途外の使用の為砲撃系オーバードウェポンを降ろし、大型の人員輸送用コンテナを多数装着。さらに1隻のタカオ型を重力アンカーで接続し管制艦としてルクレティウス級を直接操作している。

 

「不明機より、降下部隊を確認!」

 

 仮設コンテナが解放され、多数の空間騎兵隊員が躊躇なく飛び降りていく。地上軍に由来する空挺降下を敢行した彼らはノナタワーのガラスを叩き割りそのまま強行突入。迅速かつ正確にフロア内を制圧していく。粒子散布環境下であるため各班極短距離無線で互いに連携を取りながら、重要施設を次々に占拠していた。

 

「侵入者は33階に到達、反撃部隊は到着まであと10分!」

 

 ノナタワー防衛チームの指揮官が焦燥感を滲ませて叫ぶ。だが、敵の動きは予想以上に早かった。

 

「敵の装甲、通常の対人火器じゃ貫通できません!」

 

「上層部の要人を非難させろ! まだ動ける時間がある!」

 

 ノナタワー内部の各部隊は必死に迎撃準備を整えるが、混乱は深まるばかりだった。

 

 

 

 

 ノナタワー46階

 サーバルーム

 

 

 侵入してきた空間騎兵隊が、フロアの制圧を終えようとしていた。その中に、一人の男が現れる。彼はヘルメットを脱ぎ、落ち着いた態度で部隊の指揮を執る。

 

「ここが目標地点だ。間違いないな」

 

 

 男の名前は巌峪浩二。WILLE'sCM-FarEastArmoredDivision*1の師団長であり、今回の強襲作戦の指揮官だ。

 

 部下たちが整然と彼に従う中、彼の視線は室内の監視カメラを捉えた。カメラ越しに危機管理センターにいる者たちの緊張を感じ取った彼は、静かに語りかける。

 

「こちらは空間騎兵第1機甲師団、いや、WILLE宇宙海兵隊極東機甲師団師団長巌峪浩二だ。大統領、お聞きだろうか」

 

 その声は、タワー内の通信ネットワークを通じて危機管理センターに直接届けられた。

 

 

 

 地下10階

 危機管理センター

 

 巌峪の声が響くと、室内に緊迫した沈黙が走る。大統領はモニター越しに彼の姿を見つめた。

 

「君たちは……何をやっているのか分かっているのか?」

 

『分かっています。だが、目を覚ましてもらうためにはこうするしかなかったのも事実です』

 

 どうやらタワー内の音声は全て拾われているようだ。副大統領の問いかけに巖峪が応える中、部屋の片隅で一人の男が姿を現す。

 

「ええ、その通りだ」

 

 冷静かつ軽薄な口調でそう言ったのは、加持リョウジだった。彼はFEAD第2中隊……斉藤中隊の護衛の下、地下10階危機管理センターに侵入したのだ。

 

「お久しぶりです、大統領。加持首席監察官、という肩書きも今や形無しですがね」

 

「加持……君は向こう側だったのか?」

 

「向こう側になった、です」

 

 副大統領の目が細まり、彼を問い詰める。加持は言葉を強調しながら続けた。

 

「政府、平和維持軍、そしてSEELE──いろいろと掛け持ちでスパイしてましたが、今の雇い主が俺の知りたい事諸々全部教えてくれましたからね。それに……」

 

「雇い主が殺されかけてしまったので、仕事しないという選択肢はないんです」

 

 その言葉に、大統領の表情が強張る。

 

「こんな荒っぽい訪問ですみません。ですがクリストファーの件も含め、貴方方の目を覚まさせる必要がありましたので。真実をお伝えします」

 

 

 その10分後、ノナタワーは完全に制圧された。

 

 

 

 

 

 ノナタワー制圧を完了した空間騎兵は政府職員を監視下に置いた。危機管理センターを介してタワー全体に放送を流して「一切の敵意は無く、SEELEから政府を解放するために行った」旨を説明した。と同時に、藤堂長官もノナタワー制圧作戦に関する声明を一般向けに発表し、「政権の奪取を狙った物でも何でもない、極東事変の黒幕が政府を動かしていた為討ち入りに入った」旨をメディアを通して拡散させた。

 

 副大統領はクリストファーとSEELEの関連性を加持から伝えられた。にわかには信じがたい。が、義体とコードソケットという事実が、加持の話を嫌でも現実味を帯びさせる。本当に操り人形であったのであれば、極東事変の後どの様に逃げおおせたのかの想像も付く。

 義体を捨て、ネットワークを介して意識データだけで逃げた。以前に加持が芹沢の協力で入手した量子データの正体は恐らくこれ、SEELEは意識の量子データ化に成功し、義体と本体の間を行き来していたのだろう。

 

 副大統領は現状を把握、タワー全体に「WILLEは敵ではない」旨を伝えて彼らに協力する事を決断した。

 

 

 ________

 

 

 

 ポイントネモ2

 ユキカゼ型航宙高速駆逐艦 

 WILLE’sCF-1stDF-[Y]SHIMAKAZE

 

「ガミロイド第3班より報告。《工廠管制室よりデータの取得に成功、送信する》。以上です」

 

「了解した。……終わったら、どう労えばいいんだ?」

 

「彼らはロボットですよ? まぁ労うのであれば……フルメンテでしょうか。断層内では10倍で劣化しますので。我々でいうところの、歳を取るような物です。あ、データ来ました」

 

「中身は?」

 

「艦艇の設計図の様です。開発コードは……AAAです。メインパネルに出します」

 

 士官がコンソールを操作して頭上のメインパネルに表示した物は、設計データの一部だった。ドレッドノートの様な直線的フォルム。全長444mの巨体。VSPSTらしき主砲塔。そして、2連装の波動砲。ドレッドノートの拡大発展型と伺えるその戦艦には、この名前が与えられていた。

 

 

前衛武装宇宙艦 AAA-01 Leben1

 

 

「Leben1……今建造中か?」

 

「はい。第3層の専用建造用ドックで最終艤装中です。それ以外に、2番、3番艦がフレーム状態ですが確認されています」

 

「システムに介入。止めさせろ」

 

 ガミロイドは掌部を使い電子機器にハッキングを仕掛ける事が出来る。亜空間制圧未遂の時にWunderが受けた電子攻撃だが、それはもう対策済み。だがドレッドノートは違うので、多少の時間がかかったものの工廠管理権限を奪取する事が出来た。そしてそのまま全ラインの停止をかけた。

 

「全ラインの停止を確認。プロメテウス、及びエピメテウスの制圧を完了しました」

 

「どうやら攻めて来るって事を全く想定していなかったな。さて、後は現物だ。ノナタワー組も上手くやってる事だろうな?」

 

「そこは後のお楽しみ、ですね」

 

 

 _______________

 

 

 

 

 

 加持を主導にした「WILLE情報部カチコミ隊」によって数々の資料が開示され、「本当に何も知らなかった」職員に対しての詳細説明が行われ混乱は完全に鎮静化したが、開示された資料やデータが原因で今度はカチコミ部隊が混乱する事になった。

 ドレッドノート、その発展型であるLebenの建造計画。時間断層工廠で最終艤装中の1番艦のLeben1の存在。火星技研の調査により回収された「脊椎結合ユニット」の存在。出るわ出るわの大騒ぎで一旦休憩となったカチコミ部隊は、情報の精査を開始した。

 

 

 ポイントネモ2で建造中の前衛武装宇宙艦。Lebenとその姉妹艦についての情報。どうやら1から3番艦はネモ2で建造中の様だが、計画では5番艦まで存在している。残りの2隻は果たしてどこに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで判明したのは、時間断層工場は3つではないという事だ。

 平和維持軍のポイントネモ1、政府のポイントネモ2、BRUSSELS2のポイントネモ3。それとは別に設置された工廠が存在して、そこで組み立てられているとの事だ。

 

 低軌道観測衛星でナンバリングされた時間断層の地点は凡そ20弱。複合ステーションが設置されているのは最大サイズの断層である3つだ。もしも、それ以下のサイズの断層に小型の複合ステーションが設置されていたとしたら。艦艇の1隻や2隻くらいなら余裕で作れるだろう。

 

 しかし場所が分からない。時間断層は「人類が住んでいた記録が少ない地域にある」と推測されているが、断層が海上でも陸上でもない場所に存在する可能性もあるからだ。ポイントネモ1はウーメラ砂漠に、ネモ2は到達不能極にあることから、衛星軌道から自分で写真を撮って探す事も実は出来てしまう。それでも時間断層の件は秘匿されているため、断層の竪穴はホログラムで隠される事となる。

 

 これがもし地中なんかだとどうにもならない。そもそも見えないからだ

 

 

 次に、何故ドレッドノートとLebenをSEELEが建造したのか。

 人類補完を目指すSEELEにとって、波動砲搭載戦艦など補完に何ら関係の無いように見える。それなのに建造したのにはちゃんとした理由がある。そうに欄が加持が一先ず出した推測はこうだ。

 

 

 

 

「補完計画上に何らかの輸送艦……彼らなりに言うなら『方舟』を用意する必要があり、その非武装艦に護衛を付ける必要があったから」

 

 

 

 

 補完計画をノアの大洪水になぞらえるのであれば、地球上の生物は大洪水らしき現象で綺麗に一掃される。補完計画の対象は人間のみの筈だが、その補完の過程で何ら関係のない動植物が巻き添えを食らう事は許容できなかったのだろう。

 そこでWunderだ。2500mクラスの超戦艦を巨大な方舟に改装。Bußeとしての役割に立ち戻らせて、あらゆる動植物の種子や遺伝子を限界まで乗せて大宇宙に放つ。何時か誰かの元に渡り復元されるようにと願いを込める積もりだったのだろう。

 

 そして、この23世紀版ノアの方舟の護衛役として、拡散波動砲搭載艦であるドレッドノート、そしてLebenを付ける積もりだったのだろう。

 

 

 それとは別に、分からない事もある。

 火星技研から既に回収されていた「脊椎結合ユニット」は、Wunderの建造時から欠けていた部分にはまる最後のパーツだった。アダムス組織の背骨に当たる部分、脊椎部分に通る神経系と推測されたが、どうやらこの世界に漂着した時にかなりの数が損失し、SEELEでも回収できたのは僅か数ユニット分だそうだ。残念ながら現物はSEELEの本拠地にでも移送したようで現物の確認は出来なかった。

 

 しかし、これを組み込んでどうなるのかと言う事だ。一緒に発見されたという事はエヴァンゲリオン絡みの物品だろうという事は分かるが、これを組み込んで何をするのかは見当もつかなかった。

 

 

 


 

 

 

「君達は、何時から気付いていた?」

 

「かなり前から。SEELE調査の開始は大体80年前から。WILLEの発足は2年以上前ですね。あいつらが何処にいるのかは分かりませんが、23世紀の時点でSEELEはほぼ丸裸になってます」

 

「WILLEは、このための組織なのか?」

 

「と言う訳でもないんです。いずれまたやって来る外宇宙からの脅威に備えた防衛組織ってとこです。現に睦月夫妻はガトランティスの襲来に備えてました。SEELE退治は国内の治安維持目的ってとこですね。BRUSSELS2も、復興専門組織としてKREDITと言う名前で既に活動中です。そして、貴方方にも道はあります」

 

 

 

「政府管轄下の拡散波動砲艦をあるだけ全部引き渡し、その技術情報を三組織間で封印。徹底的に大掃除をしてから民主主義統治を専門にした政府に代わる組織として再誕する。名前はKOMPASS。良き羅針盤になる覚悟がおありなら、手を取ってください」

 

 

 

 副大統領は思案した。加持の言っている事は、政府の解体だ。現在の地球は統一政体で、政府を解体してしまえば無政府状態となり一気に混乱を引き起こす事となる。非常にリスキーだ。しかし、現在の政府はどこにSEELEの手が入ったのかが分からない。加持の言う徹底的な大掃除も必要だと分かる。

 が、何故政府を解体しKOMPASSに再編する必要があるのかが分からなかった。

 

「副大統領。拡散波動砲の件はガミラスに待ってもらってます。アリア条約違反がバレている現状は変わりませんが、支援打ち切りで多額の支援が無駄になるガミラス政府の財政問題も纏めて解決する方法を大使館を通して提案し、現在向こうの議会で調整してもらってます。それと、本来はWILLEとKREDITでの条約再締結でしたが、政府も名と姿を変えて大体生き残れるように芹沢さんが調整して下さったお陰で、三組織とガミラス間での条約再締結となってます。まぁ卑怯な手なんですが、道1本しかないんです」

 

 

「卑怯だね、君達は」

 

「我々軍部が政治をするわけにもいかないので、出来る人が必要なんです。人的資源不足の地球で、首を切る事だけは出来ないので」

 

 

 副大統領は大きく溜息を付くと、観念した顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やられたよ。君達の要求を吞もう」

 

 

 


 

 

 

 この制圧はガミラス側に「正式に」通達され、事前通告があったとはいえガミラス側をまた騒がせた。が、ここはヒスが腕を見せる。地球側で発足したWILLE、KREDIT、そして設立準備中のKOMPASSとの条約再締結を打ち出したのだ。連邦政府の一部で進められていた拡散波動砲艦の極秘建造を止め、政府の解体と後継組織の準備を急ピッチで進めている地球の動きを伝え、地球の誠意を喧伝。民主主義らしく国民投票で再締結の可否を問い、多少の反対票はあったものの再締結は可決された。

 

 そして、事情を知った連邦市民の同意と共に副大統領(臨時大統領)の権限で政府は解体。大掃除後の人員と部署等をそのままにして再構成された地球圏民主主義統治機構KOMPASSが正式に発足した。

 

 

 その3週間後。ガミラス政府からの発表が連邦政府に届けられ、異例の速度でWILLE、KREDIT、KOMPASSの地球側とガミラス政府との再締結が行われた。

 

 

 

 共和制ガミラス政府とWILLLE、KREDIT。そしてKOMPASSの誕生。

 組み替えられ進み始めた歯車は、2人の思惑通りに進み始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「防大附属病院?」

 

 藤堂の個人端末に入った着信は、2人が入院する防大附属病院からだった。会議中ではあるが何よりも優先度の高い着信であった為、藤堂は一言断りをいれて会議場から一時退室。少し離れたところまで移動し防大附属病院にかけ直した。

 

「私だ」

 

『藤堂長官、佐渡です。落ち着いて聞いてください。_________』

 

「____」

 

『____』

 

「____」

 

『____』

 

「そうか……分かった。何とかしよう」

 

 佐渡からの連絡を切ると両手を壁につき、複雑な表情で俯いた。今後の動きは決まったが、やはり重い。人前で脱力することも厳しい立場である以上、息つぎを部下に見られることは避けたい。

 

(次はヤマトと2番機だ。詳細はリク君達が残してくれた、何としてでも……)

 

 息つぎをすると、藤堂は会議場に戻っていった。

 

 

 


 

 

 

 2か月後

 AW3年(2202年)10月

 極東管区旧広島 南部造船呉ドック

 

 

「第2世代の血を引くという事が、これでもかと分かりますね」

 

 南部重工大公社会長の南部康造は、乾ドックで最終艤装を受けるヤマトを藤堂と芹沢と並び眺めていた。今回は視察として出向いていたのだが、WILLE総旗艦として就役予定のヤマトを一目見たいという事で時間を割いてこのドックに足を運んだのだ。

 

「リク君とハルナ君が残した、大仕事の1つです。彼らも張り切っています」

 

「彼ら、とは?」

 

「艦体は何とかなった! あとは内装! 主任がいなくても頑張るぞぉぉぉぉおおおおっ!!」

 

「「「ウォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオッ!!!」」」

 

 藤堂が顔を向けた方向には、由緒正しき安全ヘルメットを被り、拳を天に突き上げ雄叫びを上げる謎の一団がいた。主任無き国際設計局のマッド共、その中でも宇宙戦艦ヤマト建造計画に関わる筋金入りのマッドがこの呉の地に集まっていた。

 

「(絶句)」

 

「睦月君達がいなくなってからこの有様です。でも仕事は前と変わらず熟してくれていますので、こちらからは特に何も言っていません。相田主任代行からも定期的に報告は受けています」

 

「2年を費やしたこの計画の集大成。私としても、成功してもらわなければ困ります。WILLE側に着いた結果、南部重工グループは創設以来類を見ない技術革新を受けています。このヤマトにも、第2世代艦艇として技術革新が詰め込まれ、イスカンダル航海を単艦で成し遂げたWunderと同じ旅が可能だと言われています」

 

「総旗艦であるヤマトは、地球ガミラス間を無補給で往還出来る高い居住性と強靭なエンジンを搭載しています」

 

 

「それが、直列型ツインドライヴです」

 

 安全ヘルメットを被った真田が言葉を引き継ぎ3人に敬礼をする。

 

「Wunderで発動されたツインドライヴは、空間を引き裂く程の出力を発揮しました。ですがそれは宇宙崩壊を引き起こすパンドラの箱。例えタウコアでも、もしかしたら同じ事が起こるかもしれません。その問題点を解決することはできませんでしたが、一定以下の出力であれば問題なく稼働するように改良することに成功しました」

 

 ツインドライヴ……と言うより、そもそも波動エンジンとは何なのかから説明する。

 まず、波動エンジンは折り畳まれた余剰次元を元の大きさに戻した際に発生するマイクロブラックホールの蒸発時のホーキング輻射エネルギーを波動コアを通して各種エネルギーに変換している。これはイスカンダル航海とその後の第2世代エンジンの開発で分かった事だ。

 この通常運用の場合で展開されるのは6次元空間のみであり、6次元空間の膜面が振動する事でマイクロブラックホールが発生する。あとは説明の通りだ。

 

 じゃあツインドライヴは一体何なのか、と言う部分に踏み込んでいく。

 ツインドライヴは6次元を展開する波動エンジンを超えた運用方法であり、「波動コアの真の力」として11次元空間までの展開を実現する。それもエンジン内だけではなく艦外でもだ。余剰次元の展開により膜面は振動するのは、通常の波動エンジンと変わらない。が、7から11次元空間の場合は6次元よりも展開時の重力が急激に強まる為、ほんの小規模での展開だとしてもマイクロブラックホールの発生確率はグンと上がる。そして蒸発し、そのエネルギーが波動コアから発せられる特殊共鳴波で波動エネルギー含め各種エネルギーに変換するのだが、この時点で「エネルギーを撒き散らしている状態」となる。

 

 そして最悪の場合は空間の数学的安定性を壊してしまい、並行世界線との壁すら破壊する。つまり次元崩壊だ。

 

「そうならない為に、我々は出力でオリジナルに一歩劣るタウコアを用い、安全装置を取り付けています」

 

「安全装置?」

 

「ツインドライヴの理論的限界出力は299%。それを維持し続けた場合、Wunderが引き起こした現象が発生してしまいます。ですので250%以上には上昇しないように設計し、展開できる余剰次元は8次元までとなっています。オリジナルコアでは困難な調整ですが、タウコアであれば我々も熟知していますので可能でした」

 

 その調整の為ヤマトのタウコアは、研究用のビーメラコアを参考にして独自調整を受けたツインドライヴ用タウコアとなっている。それ故少し大きい。片手で持てるサイズから両手で抱えるレベルになってしまったが、333mの船体に搭載するエンジンはそれを収めても問題ないレベルで大きいので問題無しだ。

 

 いうなれば疑似ツインドライヴ。オリジナルの壁は越えられないが、ある意味越えてはいけない境目として制限をかけたのだ。

 

「それで、どれだけの出力が期待できる?」

 

「直列型であればナガトの3倍です。短時間での連続ワープを可能とする出力の発揮、波動砲発射直後でのワープへの移行も可能です」

 

「そこまで……これは、本当に必要な出力なのですか?」

 

「それは……」

 

「詳しい事はまだお伝え出来ませんが、旗艦装備を取り付けるうえでどうしても必要、と言わせてもらいます」

 

「旗艦装備、ですか」

 

 総旗艦ヤマトに外接可能なオーバードウェポン。その要求エネルギー量は桁違いで第2世代の単発エンジンでは到底賄いきれないため、直列型ツインドライヴ搭載艦である総旗艦用の装備とされている。南部重工の件もあり、藤堂は真田が説明しようとしたのを遮って説明を簡素に済ませた。

 

「我々は意図せず、イスカンダルの本気の力を獲得してしまいました。幸いな事に、世界中の科学者の協力もあり安全な取り扱い方法を確立する事が出来ましたが、メギドの火の次は、パンドラの箱を抱える事となりました」

 

「これがSEELEに渡る前に政府の解体とKOMPASSの用意が出来てよかった。KOMPASS人員も、問題なかった人員をそのままの部署で再雇用する事で用意する事が出来た。ガミラスとの再締結も滞りなく進んだ。あの武力衝突で芹沢君が大きく出てくれたから叶った事だ」

 

 政府解体と組織内の掃除を迅速に進めた結果、KOMPASSはかなりのスピードで設立する事が出来た。設立までの間は一時的にBRUSSELS2が内政を担当したが、それでも1か月もかかってない。

 

 現在芹沢はWILLEとしてではなく、KOMPASS側として活動を続けている。軍務局長での失敗は彼にとって非常に重い過去となり、藤堂がWILLE副長官の席に推薦しても彼は固辞した。今は現役復帰したアイリス長官の元で副長官兼三組織との橋渡し役として奔走している。今後の復興活動と政務活動が贖罪と考えているのだろう。

 

「それと長官。よろしいでしょうか? KOMPASSから、北米のノーフォークを宇宙港にしてみてはとの提案が挙がっています。第2世代艦に降着装置が存在しない事も考えると、水上艦と同じ停泊方法となりますので」

 

「内陸側の五大湖の使用も可能かと聞いてくれ。それと、KREDITにも五大湖の使用を打診してみて欲しい。北米復興の為の物資集積拠点としても使えるかもしれない。地中海の集積基地と同様に」

 

「分かりました。カナーバ統括に提案してみましょう。港を建設すると言ってもKOMPASSの力だけでは足りません。どの道、KREDITの力が必要となりますが、彼らは……こうなる事を想定していたのでしょうか?」

 

「どう言う事かね?」

 

「現在の地球は、統一政体の代わりとなるKOMPASSと復興の要であるKREDIT。そして宇宙と地球の治安維持を担うWILLE。この三組織が手を取りバランスを取り合う事で成り立っています。五大湖の使用をKREDITにも提案しようという考え方がそれです」

 

「君がKOMPASS創設のキッカケを造った事は想定していないはずだ。だが、KREDITに限って言えば、そうかもしれない。彼らは政府の事を随分悪く言っているようだが、政府が解体された未来の事は想定していないはず。……拡散波動砲を知らなかったからだ」

 

 不機嫌になると容姿に似合わず口が悪くなる。藤堂も真田もよく知っているが、立場とマーズノイドである事を除けば本当にどこにでもいてもおかしくない人間だ。彼らがここまで強力な艦艇を作った理由を正確につかめている人は少ないが、それなりに付き合いの長い真田は「子供の為なのだろう」と思っている。

 

 平和な時代を迎えるためにはどうすればいいのか。平和を唱え続ける事か? いや、「絶対にここに攻め込んだらヤバイ」と思わせる事か、「そもそも防御が厚くて攻め込めない」と思わせる事だと2人は結論付けた。だから、数十年先の技術をたった2年で用意して「子供の為」として第2世代を配備した。このヤマトも、後に生まれて来る我が子に戦争を見せない為の防衛力として生み出されたのだ。

 

 

「して、主任は今どこに」

 

 藤堂は複雑な顔をし、芹沢に耳打ちをした。

 

「__________________」

 

「……そうですか」

 

 芹沢も複雑な顔をする。

 それでも、眼前のヤマトは起動の時を待ち続けている。WILLE宇宙海軍総旗艦は、前世と異なり守護神となり得るか、それはまだ分からないままだった。

*1
WILLE宇宙海兵隊極東機甲師団

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