宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
サレザー恒星系第4惑星イスカンダル
王都 イスク・サン・アリア
クリスタルパレス
「……そうですか。彼らはその道を選んだと」
「条約違反を平和維持軍____いえ、ヴィレとクレーディトがガミラス政府に報告。その上で、政府内部の拡散波動砲搭載艦の設計者と配備に関わった者どもを処罰。拡散波動砲の解体を始めたと報告が挙がっています」
スターシャは、イスカンダル駐在武官となったメルダから条約違反とそれに対した地球の動き、ガミラス政府の対応の報告を受け取った。第2バレラス崩壊が原因で第101部隊は活動休止を受け、部隊員はそれぞれの所属元に一旦戻る事となりメルダも第707航空団に戻る筈だったが、ユリーシャの要望と言う事もあり今の席に落ち着いたのだ。
「人の心は流され移ろいゆく。約束は忘れられ、相手を慮らず、調和に異を唱える物も出るでしょう。だからこそ、彼らがコスモリバースで故郷を取り戻した時、改めてその誠意が問われる。私は、彼らにコスモリバースを譲渡した時、そう思いました。波動砲の再装備、約束の不履行。私は彼らと言う存在を理解しながら、それでも止められないという未来を見ていましたが、世界の仕組みを変えて愚行の再現を止めた」
(あれがどんな物かは、我々なりに理解しています。だから私達はあの兵器を縛る事に決め、その縛りの範疇に力を留めています)
あの謁見でリクが発した言葉は、スターシャもよく覚えている。ただ引っかかったのは、波動砲を「恐ろしい物」と表現しなかった事だ。
「あの日、ムツキ夫妻は波動砲を『恐ろしい物』と口にしませんでした。そして誠意を見せ、その行動で自らを『波動砲の番人たり得る存在』と私に証明した。あの2人のような人物がいる事は、今の地球にとってとても大切な事です」
「あれは破壊兵器であり、同時にその枠をも超える物です。それでも、ヴンダーの航海で決して船に向けて使わなかった。大量破壊兵器でも人を助けられる。だから、恐ろしい物と言わなかったのでしょう」
「彼らは試されています。ここから数年、数十年。ムツキ夫妻がいなくなったその後もずっと。試されていきます」
AW3年11月
WILLE統合庁舎 次元波動理論研究局
WILLEが運用する観測衛星が異様な物体を捉えたとの事で、真田は先に艦橋メンバーを呼び出した。古代、島、南部、相原、新見、太田、徳川は、真田にとある観測結果を見せられていた。
「彗星?」
「未知のクエーサーだが、白色彗星と今は呼称しよう。超空間観測結果に空間補正をかけ、可能な限り見やすくしてある。限りなく光速で進み続けているが、地球圏に到達するのは何万年も先の事になるだろう。が、問題はこの彗星の大きさだ」
ホログラムで映された白色彗星は地球から数万光年先に位置している。一見するとただのクエーサーに見えるが、真田はコンソールを操作して土星を表示させた。
「デカい……ッ!」
「この通り、サイズは土星規模だ。これ程巨大で移動もするクエーサーが存在する事は信じがたいが、現に存在してしまっている。私は、これを現時点で人工物とみている」
「これほど大きな人工物を生み出せる文明なんて……そんな文明がいるんですか?」
「存在していた、だろう。君達も知っているはずだ」
「……まさか、アケーリアス?」
真田の問いかけに先に気付いたのは古代だった。真田は頷くと1枚の画像を表示させた。
「星巡る方舟、恒星間播種船シャンブロウ。Wunderを遥かに凌ぐ巨体とワープ性能をもつメガストラクチャの一種だ。これ以外にも亜空間ゲートもアケーリアス由来だ。彼らがこの世界に多くの遺跡を残しているならば、攻勢兵器としての遺跡を残していても私はおかしくないと思う。アケーリアスが知的生命体を試したいなら、タイプΩ文明の超兵器を与えて戦争を起こさせる事も、創造者の視点から見れば別に間違った選択じゃない」
タイプΩ文明。カルダシェフ・スケール上で多元宇宙の進出から宇宙の創造へ至る段階に到達した文明が区分するが、ツインドライヴ事故未遂で並行宇宙の観測をする天文台に引き込まれた時点でアケーリアスがタイプΩだと判定できる。
その彼らが残した攻勢兵器の可能性。技術革新で約数十年先まで成長した地球でも普通に戦えば太刀打ちは出来ないだろう。
「さて、私がこの仮説を唱えた時点で、これがワープする可能性も浮上する」
「「ッ!?」」
「アケーリアスだ。全長20㎞以上のシャンブロウをワープさせた事もある以上、ワープしないとは言い切れない」
「……その場合、どうすれば地球は身を守れるんですか?」
島が恐る恐る聞くが、真田は腕を組み考えるそぶりを見せる。既に答えは出ていたが確実な物でもないからだ。
「白旗を上げるわけにもいかない以上白色彗星を、と言うより彗星を使う文明に対しての攻撃しかないだろう。もしもやって来たら、の話だが。今、アケーリアス文明とその関連遺跡に関する資料の提供をKOMPASSとの連名でガミラス政府に要請している。悔しいが星間文明としては向こうが上だ。何か知っている事があるかもしれない」
「……分かりました。それまで、練度の向上と合同訓練を続けます」
「そうしてくれ。島、君の方は?」
「Wunderを出す、なんて事は無い方がいいですけど。取り敢えずカンは取り戻しておきます。アイツを動かせるのは、自分と太田、式波二尉くらいしかいないので」
「その式波二尉と同じ操艦も身に着けて欲しい」
「真田さんあれは戦闘機の類です。やれない事は無いと思いますが……何とかします」
「そうしてくれ。設計局の方でも『宿題』と言う事でWunder専用のオーバードウェポンが開発されているから戦力は大丈夫だろう。沖田艦長も、万が一の際は復帰される」
「復帰は嬉しい事じゃが、あの人をまた戦場に引っ張り出すのはなぁ……」
「この事は沖田艦長も同意されている。私は藤堂長官の許可を得て外部の天文学者を招き、彗星のさらなる解析を行う。各自、出来る事を続けて欲しい。以上だ」
解散し各々の部署に戻る中、古代と雪はその足で庁舎内のカフェテリアに向かい休息を取った。
「この彗星が、地球に来るかもしれない」
「針路を変えなければ本当に来てしまう。復興途中に来てしまえば、かなり厄介だ。折角郊外の復興が進み始めたって言うのに」
「そうね。……古代くん、時間断層の件、どう思った?」
「黙って進めてた事に腹は立ったよ。でも、安心はした。下手に軍拡を進めるんじゃなくて、ちゃんと復興第1で考えてくれていた。そんな睦月さん達は、今は……」
「……良くなると、いいね」
少し暗い顔になった古代の手を包み、元気づけようとする。古代にとって貴重な年上で、イスカンダル航海で何度も元気づけてもらえた。時に背中を押し、時に諭し、時に命さえも繋いだ。でも、極東事変で自分は何も出来なかった。
「何も手に入らなくても、今出来ることをする。復興もそうやって進めてきたじゃない。だから、回復を信じてやる事やり切ろうよ。ね?」
「……ああ、そうだ。そうだな」
古代は立ち上がると両頬を手のひらで軽く叩いた。気持ちの切り替えは大事。起こってしまったことで落ち込んでも意味は無い。雪にも励まされてクヨクヨし続けるのは自分らしくないと切り替えた古代は、
「よしっ!」
と声を張りいつもの古代に戻った。
「いつもの古代くんに戻ったね。じゃあ私司令部のシフトだから行くね。古代くんは?」
「ナガト艦橋組でシミュレーションだ。イリスリーア三尉が開発中のオーバードウェポンを試したいと言ってたから。有用な物だという事は分かるけど、試しも無しに実戦で使うのは不安だから。じゃあ、行ってくる」
________
同時刻
真田の私室
軽く休息を取っていた真田の元に私用のアドレス宛のメールが送られた。起き上がり端末のメールボックスを確認すると、差出人不明のメールだった。不審なメールは本来消すべきだが、本文を見ると大きく目を見開いた。
| FROM | 不明 |
| TO | 真田志郎 |
| TITLE | 急ですみません |
| 本文 | お話をしたいので、娘の病室に来てください。 |
差出人不明。しかし、「娘の病室」と書かれていただけで、誰が差出人かが分かった。真田は部屋から飛び出すと庁舎から出て防大付属病院に走った。
(まさかそんな……ッ!? どうやってこのメールを打った!?)
既に死んでいるのに、「この人が打った」としか思えないのだ。何十年も前に死んた筈の人が形は何であれ生きていて、その彼女がこちらにコンタクトを取って来たのだ。真田は何とか平静を装い防大病院に入った。病院に着くと、看護師に案内され、彼は指定された病室の前に立った。深呼吸をして扉を開けると、そこには一人の女性がいた。
「あの子を守ろうとしてくれてありがとう、リク君。まだ目を覚まさないけど、生きているよ」
ベッドで眠るリクに優しく語りかけるその女性は、一見するとハルナそのものだった。だが、左目を覆う大きなガーゼや頭に巻かれた包帯、そして彼女を包む雰囲気が、それが別人であることを物語っていた。
故に真田は、その人物にこう声をかけた。
「暁薫さん、ですね」
女性はわずかに微笑み、真田を見つめた。
「急に来てもらってすみません。今頼れそうな人が、貴方くらいでしたので。藤堂長官と佐渡先生は、私が目覚めた事をお伝えして極秘にしてもらってます」
「いえ……その、どのようにして……」
「生きていたか。ですね」
自由にATフィールドを行使する薫は、大抵の事はお見通しの様だ。
「私がイズモの子である事はご存じですね? 私が死んだ時、まだ赤ん坊のハルナを抱えていたんです。だから、自分の魂をATフィールドでハルナに移しました。回収されたのは体だけ。それ以降、私はハルナをコッソリと見続けていました。ですが……こうなってしまっても見ているだけしか出来ない私が許せなくて、こうしてあなたとお話しする事としました。零士さんは知らないですが、こうするしかなかったんです。私の魂が真の意味で消えた時に会えたなら、零士さんに事情を説明して謝る積もりです」
「あの子の意識はまだ戻っていませんが、私が貴方と話したという事は目覚めた時に伝えてあげて下さい。リク君には私が伝えますから」
薫の言葉に、真田は少し戸惑いながらも、意を決して尋ねた。
「……話というのは?」
薫はわずかに目を伏せ、言葉を絞り出した。
「……私は、あの子から奪ってしまったんです」
真田はその言葉に眉をひそめた。
「あの子から左目を奪ってしまった。何度も悲しい思いをさせてしまった。あの子は思い出せませんが、私はあの子の目の前で死んでいるんです。その上私は、魂だけになった後にその時の記憶に封印をかけてしまった。思い出して悲しんで欲しくなかったからと言っても、あの子から悲しむ為の記憶を奪ってしまった」
「ごめんなさい……本来は貴方にこんな話をするべきではないのは分かっています。でも、あの子を知っている人に、私が消える前に私のしてしまった事を伝えてもらいたいんです。リク君とあの子を起こして私は消え、貴方が私の話を伝える。本当に、その為にお呼びしたようなものなんです」
真田は彼女の言葉に耳を傾けながら、意を決して伝える事にした。
「暁薫さん。なら何故、貴方はハルナくんに力を添えたのですか?」
「……」
「ハルナ君から聞きました。意識不明のリク君を取り戻す為に力を添えたのは、貴方だったと。ハルナ君は、貴方に記憶を封じられても、貴方の事を母親だと認識したんです。母親らしいことを何もしてあげられなかったと言っても、貴方は母親として、ハルナ君の背中を押したんです。純粋に自分の子の願いを叶える為に。リク君を愛したいと願うハルナ君の為に」
真田の目はまっすぐで、目を伏せたままだった薫に正面を向かせた。
「それでも、私はあの子から……」
「記憶なんて返せばいいと思います。私は、ハルナ君の心が如何に人間らしく脆く、強いかを知っています。真実を受け入れても、リク君が死にかけても、人から半分外れたとしても、どこかで潰れるなんて事にはならず自分の力や他人を頼って決して潰れない。4年たってようやく分かりました。あの子は心が傷つかない訳ではない。その傷と、自分と他人の気持ちを最大限の糧に出来るだけなんです。たとえ折れて砕けて粉々になっても、私の知っているハルナ君は、立ち上がります」
「……あの子をそう言ってくれるのは、嬉しいです。ですが、あの子から奪ってしまった物は、大きくて、多すぎます。やはり、私は……」
「逃げないでください」
真田は、薫がこのまま逝ってしまうのを止めたかった。彼女が抱える罪悪感はあまりにも大きく、その重圧に押しつぶされるようにして、自らの存在を消そうとしているのが痛いほど伝わってきた。憔悴しきった彼女が、それでも自分の思いを託すためにメッセンジャーとして真田を呼び寄せたことに、彼はかすかな希望を感じていた。
(逃げてはいけない──ハルナ君をあそこまで育てた貴方が、最後の最後でそれを選んではならない)
真田は視線をまっすぐに薫へ向けると、慎重に言葉を渡した。
「それがどんなに大きな後悔で、貴方が消えることを選んでも、まだ逃げないでください。そして最後に、2人きりで母親らしいことをしてあげてください」
彼の声には、静かだが揺るぎない決意が込められていた。薫はその言葉に少しだけ目を見開いたが、すぐに視線を落とした。その横顔は、悲しみと迷いに覆われていた。
薫の視線がリクの眠るベッドに向かう。その表情には、消えることを選びながらも捨てきれない母としての未練が滲んでいるようだった。真田はその様子を見て、さらに言葉を続けた。
「ハルナ君とリク君は、地球に帰って来てからも戦っています。第2世代艦を作り、SEELEを探し、呪縛で人から外れながらも、今も戦っています」
彼の言葉は薫の心に深く刺さった。彼女の目にわずかな涙が浮かぶ。
「貴方がいなくても、彼らは進んでいくでしょう。でも、それをただ見ているだけでいいのですか?」
真田はわずかに身を乗り出し、薫の目を正面から見据えた。
「薫さん。生き続けることも1つの戦いです。ハルナ君とリク君と並び、戦ってください」
その言葉は静かだったが、確かな力が宿っていた。薫は長い沈黙の後、ゆっくりと顔を上げた。その表情には、真田の言葉によって少しだけ救われたような、微かな安堵の色が浮かんでいた。
「……真面目過ぎたのが、よくなかったかもしれませんね」
彼女の口元に浮かんだのは、弱々しいながらも柔らかな笑みだった。それは、彼女がほんの少しだけでも前を向こうとしている証のように見えた。
_______
その後、一言二言言葉を交わし、真田は帰路についた。病室のベットに腰かけたままの薫は、左目のガーゼに手を当てた。何もない空洞となってしまったそれは悲しみを増幅させてしまうが、まだ逃げてはいけないと思い振り払う。
(いい友人を持ったね、この子は)
「入るぞ」
一言断りを入れて入って来たのは、佐渡だった。
「真田君が来とったそうじゃな。あんた、大丈夫か?」
「大丈夫だと、思います。……逃げられなさそうです、私は」
「……ハルナ君の状態、分かるか?」
「……途方もなく長い走馬灯を見ている、としか。リク君は只意識が戻らないだけです。ATフィールドの使い過ぎで底が見える程疲弊したからでしょう」
どうにもならないと暗に言われた佐渡は溜息を付く。今は薫がハルナとして体を動かせているが、近いうちに体を返さないといけない。
「リク君。やっぱり、貴方が必要かも」
我が子の伴侶の手を握り、薫は祈った。
AW3年(2202年)12月
火星軌道上
KREDIT's4thEU-ASAHI-AMD[Horus]
(KREDIT第4工作部隊タカオ改装ワスカラン型全領域汎用整備艦 アサヒ ホルス装備型)
「重力場の乱れを検知。識別パターンを確認。時間どおりです」
「よし、全員配置に付いて。大仕事始めるよ」
「了解。ワープアウトまで、3、2、1、来ます」
空間の揺らぎから飛び出したのは、総旗艦ヤマトとナガト型アリゾナ、ニュージャージー、ユキカゼ型ペリー、ローレンスだった。ヤマトを挟み込むようにしてトランスワープを行ったアリゾナとニュージャージーは、重力アンカーを解除せずにそのまま航行。アサヒから600mほど離れた位置で停止した。
さらにタカオ型メンフィス、シャーロット、コロンビアも続いてワープアウト。アリゾナの真横に綺麗に停止させた。
「2ndDF-[N]
「アリゾナより入電」
「出して」
点状のメインパネルに移されたのは、隻眼の豪快そうな艦長だった。
『第2防衛艦隊所属アリゾナ、艦長のジョゼフ・ドナルド・マカウスキだ。鋼鉄の我儘お嬢様をエスコートしてきてやったぜ』
「感謝します、マカウスキ艦長」
『なぁに、トランスワープの実艦試験がてらだ。あと俺達も手伝えって上から言われてるから、ついででどんなもんか見せてもらうぜ』
今回の作業にあたりWILLE第2防衛艦隊はナガト型2隻、タカオ型3隻、ユキカゼ型2隻を派遣し、移動電源かつ試験宙域までの移動と護衛役を買って出た。ヤマトのツインドライヴは初回起動すらしていない。つまり、Wunderの時と同じように外部から大量のエネルギー供給が必要となる。
そこで合計7隻からのエネルギー供給でツインドライヴに火を入れ同調させて、始動させるのだ。Wunderの時は地球全土のエネルギーで起動に成功したが、今回は半永久稼働機関である波動エンジンが7基もあるのだ。国複数個の電力を与えておつりが返ってくるほどのエネルギー量を生み出す波動エンジンであれば、十分すぎるほどだ。
「それはもう驚きますよ。タウコアとはいえ、Wunderと同じツインドライヴですから」
『ムツキ・アカツキとサナダ主任が作り出したトンデモ戦艦だろ? それが極東の名前をもらって現代に再誕だって? ビックリだな』
「私もとても信じられません。ですが、200周年式典で海底に沈めた大和が宇宙に出るとは……」
『ああ、俺の乗るアリゾナもそうだ。2度と戦争起こすなよで沈んだ戦艦が宇宙で軍備増強の手伝いしてんだ。またでっかい戦争が起こるかもしれねぇな。んでもな、今度は地球でドンパチやる為じゃねぇ。地球を守る為にドンパチするんだ。こいつら一丸になってな』
「……ええ、そうです。みんな守る為に生まれたんです。我々KREDITも全力でサポートさせて頂きます」
『んじゃ頼むぜ。通信終了』
アリゾナからの通信が切断され、アサヒ環境は慌ただしく通信が飛び交い始める
「アサヒよりヤマト機関室へ。ツインドライヴ1番2番の起動前最終点検を開始してください。点検終了後、この回線を使い点検結果を提出して下さい」
「アリゾナ、ニュージャージー、ペリー、ローレンスに通達。所定位置への移動を開始。アサヒ工作隊を受け入れ次第、電力供給作業に入ってください」
「工作班はラチェットマンに搭乗。2ndDF艦艇とヤマトを超大電力供給ケーブルで接続して下さい」
「これより、総旗艦ヤマトツインドライヴ第7回起動試験を開始します」
___________
直列型ツインドライヴは、あまりにも異質な存在だ。Wunderのツインドライヴは左右の第2船体に1基ずつ搭載したオリジナル波動エンジンで、航海中に開発され急遽実践投入された。この時なぜ成功したのか、それは「イスカンダル波動コアをだったから出来たのだろう」と真田は言う。
アケーリアスの天文台でその女性は、「地球の暦で9000年前にイスカンダル波動砲艦はツインドライヴを使い、それで波動砲を撃った」旨を口にした。イスカンダルはもう既にツインドライヴを実現し使ったという事は、Wunderのイスカンダル波動コアはあの時点でツインドライヴにも最適化されていたかもしれないのだ。
その反面、タウコアはイスカンダル波動コアの量産品である以上性能で劣る。第2世代がスーパーチャージャーを搭載している事が1番の証拠だ。それでもドレッドノートを押し返せるが、ツインドライヴとして使うには技術的に厳しい。
故に、今まで行われた6回の試験は失敗している。1回目はエネルギー不足、2回目は演算不足。3回目は余剰次元展開効率問題、4回目はツインドライヴ用タウコアの調整不足。5、6回目は原因不明。
そして7回目。幾ら始動してもツインドライヴにならなければ、総旗艦計画はいったん見直ししなければならなくなる。
「演算の方は?」
「WILLE管轄下の全ての量子コンピュータを並列に繋げましたが、それでもリアルタイム制御は厳しいです。なので、KOMPASS主導で地球中に声かけてもらいました。KOMPASS、KREDIT、WILLEのMAGIシステムからギリギリまでリソースを抽出。さらに、2ndDFの艦載量子コンピュータも繋ぎ、通信用に改造したオーバードウェポンで特設回線も用意しました。これで出来なければ終わりです」
「ここまで準備したんだ。どうにか上手くいってももらわないと困る。ホルスアイの改造も設計局にお願いしたんだ」
OWS-001ホルスアイは、今回の為に超空間通信の遅延を限界まで減らしている。ガミラスの超空間通信を参考にして組み直した超低遅延仕様に入れ替えた事で要求水準の性能をなんとか獲得した。そのお陰で、地球上のMAGIの支援を受ける事が出来る様になった。それをWILLEから借り受け装備したアサヒは地球圏からドローンを等間隔に一直線で配置して、中継地点を形成。特殊な超空間通信回線を敷設したのだ。
「ホルス達の様子は?」
「か、各ユニット応答正常。いつでも、繋げられます!」
そう答えたのは、WILLE から派遣されてきた伊吹だ。総旗艦ヤマトへの乗艦が内定しているなら、男性恐怖症は直しなさいと言う事で赤木博士に放り込まれたのだ。急にこんな所に放り込まれて恨み半分で仕事をしているが、アサヒの乗員の人は温厚そうな人たちで礼儀もちゃんとしている人だったので何とかやっている。
「了解。何か少しでも異変があったらすぐに知らせて下さい。あと、肩の力抜いた方がいいですよ? ここに来てからずっと張りっぱなしです」
「え、その……はい」
「我々は軍艦の改装型を使ってますが、ここは軍隊じゃありません。従って、最低限の礼儀だけしかないので、落ち着いてやって下さい」
「は、はあ……分かりました」
(放り込まれて最悪だったけど、帰るまでは何とかなりそう……)
「では、給電を開始する。2ndDF各艦に連絡、全力運転開始だ」
「了解。2ndDF艦、全艦全力運転」
アサヒから2ndDF艦艇に一斉に命令が伝わり、7隻の波動エンジンが甲高い音を上げながら全力で稼働し始める。スーパーチャージャーも噛ませた莫大な出力は戦闘の為でもワープの為でもない。丸太が可愛く見える程の直径を誇る巨大ケーブルを通してヤマトに送電するためだ。
『こちらヤマト機関室。電力量4億6000万
「了解。ツインドライヴ1番2番、火入れて」
『フライホイール始動、室圧上昇中88、99、100、エネルギー充填120%。1番2番、点火』
ヤマトのメインノズルから豪炎が噴出し、正常稼働を示した。ここまでは問題無しだ。3回目以降のテストでも「普通の始動」までは出来たのだ。問題はここからだ。
「第1関門突破、ですね」
「ええ。あとはツインドライヴにするだけです。アルゴリズムの方はどうか?」
「修正版を既にヤマト機関室に送りました。バックアップのMAGI軍団もスタンバイOKです」
「よし、演算支援開始。ツインドライヴ起動」
「了解。ヤマト、スーパーチャージャー接続」
技官がツインドライヴ始動用コマンドを打ち込み、ヤマトの2基の波動エンジンが唸りを上げる。地球からの演算支援もあり出力は140%を超え、ツインドライヴ化の兆候も確認された。波動コア出力グラフが全く同じ線を描く。それがイスカンダル波動コア版とタウコア版での共通条件だ。しかしここからが違う。イスカンダル波動コアは当時かなりのスピードで出力を上げていた。しかし、真田が言うには、タウコア版の始動時は慎重に出力を上げて、「全て」の振る舞いに耳をかたむけなければならないとの事。よって、ツインドライヴ始動時の全ての振る舞いは超低遅延超空間通信で地球に送信され、MAGIシステム軍団の演算で状況把握を行い、10%ずつ慎重に出力を上げて反応を確認しなければならないのだ。
「現在出力150%。波動コア出力、高位へ推移」
「余剰次元展開効率の上昇を確認。ツインドライヴ時の展開効率まで残り100」
「前回の試験では残り10が上がらなかった。今回はそうはいかんぞ」
「出力160%。展開効率さらに上昇」
「波動炉心内、余剰次元展開に変化あり。計測情報より、7次元空間の展開だと推測」
「よし、あとは……」
「繋げるだけですね。出力このまま上げます。設計上では225%でツインドライヴ化します」
「よし、170%だ」
「170%、イレギュラー無し」
「180%、イレギュラー無し」
「190%、イレギュラー無し。リング発生、反発を確認!」
艦尾機関部から展開されるリングはイスカンダルコア使用時と異なり、青白い色に金の差し色が入っている。5回目と6回目でも確認された特異現象で、色が異なる正確な理由は不明だ。だが、一説にはイスカンダルコア並みの波動エネルギーの生成が出来ないからだろうとの事。量産型コアである以上仕方がないとの事だ。
そのリング画面同士で接触しようとするが、反発し合い中々接触しない。
「200%、イレギュラー無し! リング接触!」
「200超えた、超えたぞ!」
「まだだ! ツインドライヴにならないと打ち止めだぞ?!」
第6回目の起動試験では200%までしか上がらなかった。その壁を突破したことを受けアサヒ艦橋では驚声が上がる。が、それを制する声も上がる。その通り、このテストが失敗したら総旗艦計画は一旦見直しになってしまうのだ。
「210!」
「行けぇ! 行けぇ!!」
「220%!!」
「もうちょいだ! もう少しだ!! 行けぇ!!」
「ダメです! 221で止まりました!」
1番聞きたくなかった報告だ。225まであと一歩。そのあと1歩が見えない壁に阻まれ、コンソールにエラーが躍る。
「クッソォォォォォォォォッ!! あと4%だろ!! 4%!!」
「……ッ! 現状を維持しながら可能な限りデータを収集! この場で原因見つけるぞ! 地球にも状況送れ!」
「「「了解ッ!!」」」
このまま帰りたくない、人類の新たなる希望の総旗艦をここで目覚めさせないといけないと奔走するKREDITスタッフの顔は必死の形相だ。6回も失敗している以上いい加減目覚めてもらわないとここまでの頑張りが水泡に帰してしまう。
「WILLE本部より通信!」
「……やめろって?」
「いえ、それが……打開策らしいです」
「タウコア完全開放機構……確かに把握していますが、それを使うんですか?」
『本来エンジン始動には使いません。かかりにくいエンジンにニトロを入れて強制的に回すような事です。下手をすれば自爆です』
「ですが、そんな危険すぎる運用を誰が!?」
『1人だけ、出来るかもしれない人がいます。ツインドライヴの面倒を見たことがある人です。そちらに向かわせます』
_____________
ツインドライヴを起動させられる可能性のある機関員として自分の名前が挙がっていると聞くと、徳川はある男も連れてユキカゼ型JPJ*1に乗り込み火星軌道にやって来た。多数のケーブルにつながれたヤマトに乗り込み機関室に足を踏み入れると、徳川は回り続けるフライホイールの音に耳を立てる。
「ここかね?」
「はい。完全開放時の運用試験を行った事がある人が少なくて……すみません。本来退役されている筈なのにお呼びしてしまって」
「構わんよ、沖田さんと同じで若いのに繋げる為に残っておるんじゃ。睦月君達、かね?」
「いえ、真田二佐、赤木博士、真希波さんの推薦です。初めて波動エンジンを扱った機関員として、可能性のあるのが貴方くらいです」
「なるほど。じゃあ、尚更やらんわけにはいかんな。あああと、乗艦内定の彼も連れて来てしまったんじゃが、構わんかね?」
「勿論です」
「初めまして、高雄コウジです」
スキンヘッドと口髭が特徴的な中年の男性が徳川に付いてきていた。宇宙戦艦ヤマト機関長に内定している彼が、徳川が言う所の「
「高雄。さんざ言ってきたんじゃが、計器ばかりに頼るな。機関の回転音を聞き、自分だけで何とかしようとするな。儂だって
「心得ています。その為に、ここまで学んできました」
「ならやってみるぞ。高雄、外せ」
「外します。タウコア完全開放、ツインドライヴ試験再開!」
船外服の対閃光バイザーを下げ、高雄が専用コマンドを打ち込み最終安全装置を解除した。その瞬間、波動コアコンジットベイにおさめられたツインドライヴ用タウコアが伸長し、眩い光が放たれた。それはエンジンから機関室に漏れ出し、バイザー無しでは目が眩む程の光に包まれる。
同時に、完全開放に伴いエネルギー量が増大し、ヤマト各部の波動エネルギー伝導管が青く輝く。まるで血管のように浮かび上がったその光は艦全体を包み込み、ヤマトは青白い光に包まれた。
「……上がり始めました! 222!」
「慎重に上げるぞ。1歩間違えれば大爆発じゃ」
徳川の額には汗が浮かび、全ての感覚を目と耳、調整用レバーを握る手に集中する。波動エンジンに初めて触れた3年前は、分厚いマニュアル片手に必死に操作していた。ワープも波動砲も「分からないけどとにかくやればできる」と何とかやって来た。その結果、地球帰還時の頃にはマニュアルが無くても自由に操作する事が出来る程となり、帰還後は波動エンジンを扱った最初の人物として若い機関員たちの教官的存在となった。
その徳川が険しい顔をして集中する程の代物。高雄はその顔をチラリとみて、さらに気を引き締める。
「223!」
「スーパーチャージャーを全開」
「了解!」
スーパーチャージャーの稼働率を全開にし、波動共鳴波を最大にする。これでツインドライヴをさらに促す。これで残り2%を押す。
「224%!」
「……今じゃ閉じろ!」
徳川が一気にレバーを上げ、高雄が最終安全装置をかけ直しツインドライヴ用タウコアを正常に戻した。師弟間の息の合った呼吸で同時に操作され、それに応えた波動エンジンはエンジン全体から
青白い光を放った。
青白く輝くヤマトはアサヒと2ndDF艦艇からも観測されていて、総旗艦の異様な状態をまじまじと見つめていた。本来装甲の内側に張り巡らされている波動エネルギー伝導管が、装甲越しに見えるほど輝き、それが艦体全体に広がったのだ。
「何なんだよアレ……伊吹さん。データ、取ってますか?」
「と、取ってはいます。ですが、ここでは解析不能です。本当に、何なんですか? 第2世代艦って」
「こちらも分かりません。ワープして波動砲撃って次元崩壊まで引き起こしたバケモノがいたくらいですから。ただ単に、第2世代の親となった第x世代がおかしいだけです」
「第x世代……聞いた事はありますが、あまりよく知らなくて……」
「金剛型や村雨型と言った内惑星戦争時代から使われてきたのが第1世代。そして、ナガトやタカオ、ユキカゼの波動エンジン搭載型艦艇が第2世代。そして、どうしても世代の説明がつかなかったWunderが、第x世代と言われています。波動エンジン単体だけでは実現し得ない現象を起こして最初のツインドライヴを発生させた艦艇。全長2500mの巨体。技術系譜も複雑で突然出現したかのような戦略級艦艇だと上は判断したようで、第x世代になったそうです」
そこまで一気に言い切ると、一息入れて続けた。
「第x世代型超広域強襲制圧型航宙戦闘母艦 Wunder。長いので、今は超戦艦Wunderと言われています。一種の戦略兵器戦艦、恒星間航行決戦兵器、大艦隊殲滅戦艦なんて呼ばれてますが」
「その第x世代の血を継いたのだ第2世代。ヤマトは第x世代をより濃く受け継いだ、と言う事ですね?」
「そうでs、どうした!?」
「大規模な波動エネルギー反応を確認!」
会話を遮る警報音に飛び起きたように反応を返すと、返って来たのは「大規模な波動エネルギー」を検出したという報告だ。
「光学!」
「はっはい!! って、凄い……綺麗です」
「……あ、ああ。綺麗だ」
光学映像で映されたのは、青白い輝きを抑えながら莫大な波動エネルギー流を放出しているヤマトだ。黄金の粒子を纏いながらホーキング輻射を絶えず行い、青白い波動エネルギー流を放出している。その流れの中に電子回路のような模様が浮き上がり、人工的な印象を与えてくる。
さらにヤマトを中心とした半径1000mに渡って波動エネルギーが展開され、「波動共鳴波領域」とも呼ぶべきドーム状の領域が出現した。幸いにも加害性は無かったが、波動共鳴波領域内である為アサヒと2ndDF艦に波動エンジンの活性化が確認された。それは各艦の機関室より報告として上がり、各々の顔が喜色に染まる。
「ヤマト機関室より通信!」
「繋いでくれ!」
メインモニターに船外服姿の徳川と高雄が映された。ツインドライヴの光で表情は見にくいが、2人とも厳しい表情を崩していない。
『ふぅ……何とか動いてくれた様じゃ。じゃが気を抜かんように。コイツはまだ誰かが面倒見続けてやらんといかん。まだ想定しとる運用にはキツイじゃろう』
「止める事は?」
『また大掛かりな起動をする事になる。止めずに改良してもらうしかないじゃろう。じゃが、これで次に進めるんじゃな』
「はい、本当に、ありがとうございます!」
『儂はこのままヤマトで罐を見る。このままの状態を維持して地球圏に戻っていった方がいい』
そう言うと通信が切れ、アサヒ艦橋内で歓声があがった。
「遂に、遂に動きましたよ!!」
「ああ……! ああ! そうだな!!」
歓喜に包まれる艦橋の中でツインドライヴのデータが次々に入ってくる。Wunderのツインドライヴとはまた違う反応に皆興味津々。それは地球でのサポートを行った真田、赤木博士、マリも同じだ。
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地球
WILLE統合庁舎
次元波動理論研究局
「何とか、いきましたね」
「ええ、今回は危なかったね……ここであのデータの送信が無かったら打ち止めだった。感謝しないとね」
赤木博士が見ているメールには、「これを使ってください」の本文と莫大なシミュレーションデータ、それに対応したプログラムファイルが添付されていた。送信元は「時間断層制御艦改ナガト型クロノス」だ。プログラムの癖から誰が打ったかを推測しようとしたが、分からなかった。
「リク君とハルナ君かと思ったけど、違うのよね。あの子達拡張性あるように書いてるけど、これは違う」
「それも意識不明で入院中。どうやって書くって感じですにゃ」
「薫さんが書いた、と言う訳でもないだろう。ハルナ君の記憶を参照できるとはいえ、それを使って何かするならそうもいかない。ある程度の才能が必要だ。それが出来るとは聞いていない」
「誰なんですかね」
誰なのかは別に後でいい。今はツインドライヴの安定化に心力を尽くすべきだと切り替えると、突然内線電話が鳴った。
「はい研究局です。主任ですか? いらっしゃいますが……真田さん電話!」
「誰から?」
「それが……ッ……ぅ……うぅ……ッリっぐんどぉ……ハルナっぢが……ぅ……ッ」
ミュート中の受話器を差し出したマリは目から大粒の涙をボロボロと流していて、真田はひったくるようにして受話器を取った。
「真田です」
受話器から聞こえた言葉に、真田は大きく目を見開いた。
皆さん良いお年を