宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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World's End Resist -AW4年2月11日-

 2203年8月

 

 

「これだけは____これだけは避けなければならない」

 

 バンダナで強引に止血したその男性は一心不乱にキーボードをたたく。艦内は燃え盛り、今この時もすぐそばに死体が転がっている。火の手はこちらにも広がってくることだろう。時間はない。

 

 システムはスタンバイしている。奇跡的に設備と電力はある。あとは起動させるだけだ。

 

 

 

 

 

「地球を……人類を……頼むぞ」

 

 その人物はエンターキーを押し、艦は業火に飲まれた。

 爆発的に広がる同心円は宇宙全域へと広がり、全ての生物が消えていく。

 

 それでも、このメッセージは確かに届いた。

 

(頼んだぞ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリステラ?」

 

「我がガミラスが保有する小マゼランの1つの恒星系です。白色彗星がそこに侵攻し第4惑星を襲撃、重要監視対象であったオブジェクトを強奪していきました。恐らく、NHG由来かと」

 

 続けて、バレルは1枚の画像を表示した。細い光の糸で聖杯のような物体が吊り上げられていて、

 

「アダム、と呼称される生命体ごと持っていかれました。何の為かは分かりませんが、その際に使用されたのがWunderの同型艦。恐らくコピー品かと思われますが、以前のお話によるところの、失われた姉妹艦由来かと」

 

「バレル大使。これはガミラス政府の重要機密事項の筈では? それを何故我々に?」

 

「……NHG級。2番宇宙と呼ばれる世界線から落ち込んだAAAWunderを持つ地球だからです。既に2番宇宙で起こった事はオリジナルレコードの公開で把握しています。NHGか使徒に関する有識者側がガミラスにいない事が残念ですが、地球ならばと言う事です」

 

「その点は把握しました。ですがNHGを復元した方はおりますが詳しい方など……そういう事ですか。耳がいいですね。どなたからの情報かは分かりませんが」

 

 アイリスは溜息を付いた。ガミラスがどのようにしてその人物の存在を知ったかはさておき、断るわけにもいかない。見た限りでは、バレルは何かを探ろうと考えて話をしているわけでもない。純粋に頼みに来ている。

 

「バレル大使。貴方がその人物の事をどのように知ったかは分かりませんが、くれぐれも口外しないようにお願いします。彼女はこの世に存在しない事になっています。もし露呈しようものなら、我々は地球で一番怒らせていけない人物を怒らせる事になります」

 

 芹沢はバレルに強く念押しをした。今の地球の軍備を整えた人物は、芹沢の言う「その人物」を保護して養子にしてしまっているからだ。子供を欲しがっていたというのは藤堂から聞いていたのでその邪魔をしようものなら何が起こるか分かったものじゃない。

 

 

「心得ています」

 

 

 

 

「……セリザワさん。WILLEとKREDITに緊急会談の準備を。出来れば、あの人からも意見を聞きたいです」

 

「了解しました。直ちに調整いたします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球から凡そ200万キロ

 通称「アリアンロッド公転軌道」以遠

 

 

「ワープアウト。現在、アリアンロッド絶対防宙圏外です。アウレリウスよりレーダー照射を受けています」

 

「慣れないな……友軍信号を送ってくれ」

 

 EOLOAD-X02Fアウレリウス。ルクレティウス級の2番機であるこの機体は、ルクレティウスと同じように地球周回軌道よりも外側を回る超大型の無人機だ。アリアンロッド絶対防宙圏を死守するルクレティウス級はその役目故に「近づく物()()を警戒し、防宙圏内に無許可で侵入した者を撃沈する」ように出来ている。従って、特殊な友軍信号を送らなければ味方だと認識されない。

 

 まさに番犬。あるいは猛獣の類だ。

 現に光学映像に映るアウレリウスは、見かけでは分からないがレーダー照射を続けながら光学観測を行っている。見た目は第2世代艦艇だと認識しているが、用心深いシステムなので「敵かどうかはまだ不明」と判断している。

 

 が、その警戒を解いた。友軍信号の確認が終了し、友軍判定が出たからだ。

 

「アウレリウスより伝文です。『貴艦隊の帰還を歓迎する。先に帰還した艦隊は呉ドックで現在修復中』、以上です」

 

「通信障害に関する情報は?」

 

「ありません」

 

 アウレリウスはレーダー照射を止め第1防衛艦隊を照準から外した。本来アリアンロッドを構成する機体は月軌道に均等配置される計画であったが、計画が変更され月軌道外周部に設けた「アリアンロッド公転軌道」を周回する事になったのだ。

 

 敵が現れようものならその火力を全て開放して1隻残さず消し飛ばす。WILLE最大最強の戦力として周回を続けるこの超大型無人機は、2203年中に5機にまで増やす計画が挙がっている。丁度今3号機であるエピクテトスの最終調整が進んでいるが、古代率いる第1防衛艦隊からは地球に隠れてしまい観測できない位置にいる。

 

「よぉーし帰って来たぞぉ。何する?」

 

「飯。奮発して本物食材の飯食いに行くわ」

 

「お前贅沢だな全く。取り敢えず俺は墓参りだ。艦長はどうされるんですか?」

 

「俺か? 俺は……」

 

「統合指令室勤務の~森三佐と~デ~ト~?」

 

「間違ってはいないが言うな! そ、そうだ! 三尉はどうするんだ?」

 

「ご飯を食べに行く。着いて行っても構わないだろうか?」

 

「おし行こうぜ! 給金あるんだから使わねぇと勿体ないからな!」

 

「皆程々にしろよ。まだ自然の食材は高いからな」

 

 いつも通りのテンションを古代は宥める。地球復興が進み地方都市も順調に再建が進んできたとはいえ、まだ自然の食材は高い。オムシス製や代替品が地球の食事事情を支えているうちに、KREDITにより野菜類の再栽培と家畜類の繁殖が急ピッチで進められている。復興専門組織であるKREDITは建設をしているイメージが強いが、食卓の復興と言う事でこちらにも力を入れている。

 

 が、KREDITが全力を出したとしてもまだまだ時間は必要だ。KOMPASSの食品流通部門により漸く「まともな値段」で流通するようになってきたが、それでも高い。オムシス製を1とするなら自然の食材は10だ。

 

「ほら降りるぞ! 管制塔に連絡!」

 

「了解です。1stDFより横須賀コントロール。こちらは、WILLE宇宙海軍第1防衛艦隊旗艦ナガト。降下シーケンスを開始する。許可を求む」

 

『横須賀コントロールより旗艦ナガト。艦隊識別コードを送信せよ』

 

「識別コード、WILLE'SCF-1stDF。降下ルートの指示を求む」

 

『了解。貴艦隊の進路上に他艦隊は……いや待て、良いものが見れるな。横須賀からエンケラドゥスに向かうアントノフ型がその付近を通る。向こうにも通告するが気を付けて見てってくれ』

 

「アントノフ?」

 

『KREDITの超大型輸送艦で最近就役したやつだ。全長400mのデカブツで、普段は地中海の集積基地にいるやつだがラッキーだったな。降下ルートは27番。艦首角度5度から10度で両舷半速を維持し降下してくれ。重力圏内に入り次第岸壁かドックへ誘導する。装甲やられてる艦艇が多いと聞いているから、半分くらいはドックで診てもらった方が良いな』

 

「ラッキーかはともかく、了解した。これより降下開始する」

 

 通信が終了し、第1防衛艦隊はゆっくりと大気圏に進入し両舷半速を維持して降下を続ける。今日は雲も少なく視界は良好。先に帰還した艦艇を除いた62隻の艦隊はゆっくりと横須賀へと向かう。大気圏内航行で主翼を展開し装甲

をディアクティブ状態に切り替える。通電が行われなくなったことで装甲が灰色になる。

 その前方に白と橙色のずんぐりとした艦艇が大気圏外に向けて航行していた。

 

「2時方向、KREDITのアントノフ型です」

 

「あれが……多分、設計局製だろう」

 

 アントノフ型超大型航宙輸送艦。現在KREDITに2隻しか配備されていない超大型艦で、旧世代の超大型輸送機の名前を継承している。1番艦はムリーヤ()、2番艦はナディーヤ(希望)と命名され、今は各地の小惑星や衛星の鉱山を回って資材を回収し地球に運ぶ任務に就いている。

 

 そんな珍しい艦艇とすれ違い、艦体は横須賀沖に着水した。主翼を畳み洋上艦として航行しそのまま岸壁やドックに向かっていく。幸いにも古代の乗艦であるナガトはダメージが少なかった為岸壁に向かいKREDITの艦船整備部門によって簡易整備を行うとの事だ。本格的な整備は整備対象の艦艇が終わってドックに空きが出来たらになるだろう。

 

「第22岸壁に接舷。錨降ろせ、エンジン停止」

 

「了解。量子フライホイールに多元運動量を保存。パワーキャパシタの充電良し。エンジン停止、以降の電力供給をバッテリーと外部電源に切り替えます」

 

 ナガトから錨が降ろされ岸壁から生えてきたケーブルがナガトの電力ポートに接続する。こうする事で長門は停泊中のエンジン停止時でも艦内電力を維持できるのだ。

 

「各部点検開始。エンジンと火器、生命維持区画は特に念入りにな」

 

「了解。各部署に通達。降艦前点検を開始。各自点検結果を科長に報告せよ。点検完了後、各科長は第1会議室へ集合せよ」

 

 

 

 


 

 

 

 

 第三新東京市

 沖田家

 

「さて、始めようか」

 

「と言うか沖田くん。君の自宅で良かったのかね?」

 

「非公式な物なのでしょう。それに、庁舎で行うよりもここでやる方が、人の目を引きにくい」

 

「我々としては助かりますが……これは?」

 

「茶菓子の一種で、漸く流通し始めた物になります。再生はKREDITで何とかしましたが、流通の方はKOMPASSにお願いしました。アイリス長官、ありがとうございました」

 

「いえ。私は特には何も手を出していません。バレル大使もまずはご賞味ください。紅茶文化にどら焼きが合うかは分かりませんが、ガミラス人も地球人も味覚は同じですから大丈夫かと思います」

 

 ガミラス大使と駐在武官、WILLE、KREDIT、KOMPASS、デイブレイクのそれぞれの代表が集まるこの場に場違いな茶菓子はかなりの存在感を放っていた。極東では馴染みのあるどら焼きだ。流石にあんこはオムシスに頼らざるを得なかったが、生地は最優先で栽培が始まった遺伝子改良小麦粉を使い作られた。まだまだ高級品だが一般市民でも一応手が届く程度の値段で販売されている。

 

 バレルは断りを入れて一口齧る。生地とあんこの優しい甘みが舌から口全体に広がる。傍に控えていたキーマンも食べると、緑茶をすする。どうやら2人とも「例の一件」以来地球の食文化が好きになったみたいでこういう嗜みを持つようになったらしい。

 

「お口に合ったようで何よりです」

 

「お待たせしました」

 

「おお真田君。それと、君達だね」

 

「バレル大使? パフェの次はどら焼きが好きになったのですか?」

 

「あ、いや、これは……ゴホン」

 

「ハルナ、敬礼」

 

「あ、失礼しました。睦月・暁国際設計局の主任、睦月・ハルナ・暁です。階級は三佐、そちらだと少佐です。片目に問題があるので、このままで失礼します」

 

「同じく主任、睦月・リク・暁です。三佐です。レイちゃん、偉い人がいるから一応顔見せて欲しい」

 

 そういうと、リクの背中からそっと顔を出した。水色のショートカットヘアに赤い目。色白の肌に細い体。赤い艦長服と前にずり落ちた艦長帽の少女が顔を出した。自己紹介をしようと口を開いたが帽子をかぶったままなのは失礼かと思い、艦長帽を取り挨拶をした。

 

 

「AAAWunderの管理人……暫定艦長、綾波レイ」

 

 

 

 

 

 __________

 

 

 

 

 

「……美味しい」

 

 さらに場違いな人が来たように見えるが、バレルと首脳部が求めていたのはまさしくこの「どら焼きを口いっぱいに頬張ってむしゃむしゃと食べている綾波」だ。そして沖田は知らなかったが、あの綾波レイが肉体を持ってここにいるのだ。99年時点では魂だけの存在と聞かされていたがそれが何故か体を持っているのだ。

 

「……真田君? 一体何があったんだ?」

 

「SEELE艦艇を鹵獲した際に彼女の肉体が見つかったんです。そこに魂を移し替える事で、今こうして彼女は現実の存在になったという事です。届はありませんが、今は睦月夫妻の娘と言う事になってます」

 

 驚きが顔に出た沖田は真田に恐る恐る聞いた。モンタージュ写真からのイメージと大分違うのか、次に沖田は綾波に声をかけた。

 

「君が?」

 

「んぐ……うん、そう。私は2番宇宙? から来ている筈だから、貴方の分からない事ももしかしたら分かるかも。お父さん、まだ食べていい?」

 

「食べていいけど程々にな。早速なので始めましょうか」

 

「リク=お父さん」についてこの場の一同が真田に無言で真意を問うが、「諦めてますので聞かないで下さい」真田は無言で答える。

 綾波が2つ目のどら焼きに手を伸ばした事で会議は始まった。テーブルの上に置かれたホロディスプレイを操作すると1枚の画像が表示された。バレルはテーブルの上にホロディスプレイを置き1枚の画像を表示させた。

 

「22日前、小マゼラン星雲アリステラ星系に白色彗星が出現。同恒星系の第4惑星アリステラ4が甚大な被害を受けました。その際に我が軍の残存艦隊が捉えた画像が、こちらです」

 

 アリステラ4の地表面から掘り起こされた巨大な聖杯上のオブジェクトが、NHG級に似た艦艇によって引き上げられていた。それを見た綾波は驚きの余りどら焼きを喉に詰まらせかけてしまい、目を白黒させた。

 慌ててハルナが緑茶を差し出すと綾波はすぐにそれを流し込み一息ついた。

 

「黒き月じゃない……お父さん、黒き月はどこ?」

 

「この真下だ。第三新東京は黒き月に蓋をするように建設されている。だいたい同じ感じか?」

 

「同じ。中に何かある?」

 

「リリスと呼ばれる準完全生命体です。死海文書にもそう記載がありました」

 

 そう月村が答えると、綾波やどら焼きを口に運ぶ手を止めた。美味しい物に夢中な顔がサッと消え、敵を見るような目でホロ画像を見た。

 

「この彗星に、人が住んでいるの?」

 

「奴らが住んでいるかは分からないが、少なくとも拠点にはなっているようだ。ガトランティスと呼ばれる野蛮人で詳細はまだ分からない。我がガミラスの領土に度々侵攻してくる野蛮人の類だが、戦力としては侮る事は出来ない」

 

「ですが、分からない部分があります。ガトランティスが何故アリステラ4からアレを引き上げて持ち去ったのか。技術の収奪であれば珍しくないのですが、私は、それ以外の用途で持ち去ったと考えています。その点を、アヤナミレイさんに伺いたい」

 

「……もしかしたら、槍の材料かも」

 

「槍?」

 

 バレルの問いに、綾波は思い当たる部分があった。旧アディショナルインパクトで、黒き月は槍の材料とされた。持ち去られたのは黒き月ではないが、使徒関連のオブジェクトであればもしかしたら同じ事が出来るかもしれない。それに、NHGが4隻もいる。複製かどうかは置いておいて、既にアディショナルインパクトが興せるピースが揃って来ている事が、綾波の頭の中に警鐘を鳴らす。

 

「彼らはインパクトを起こすかもしれない。いろんな世界を使って、今いる世界を書き換える儀式。でも、彼らがどうしたいのかは分からない。使うものはだんだん揃っているけど、あとは場所。あの時は南極だったけど、南極はどうなってる?」

 

「南極だと?」

 

 藤堂が疑問に思う。南極はガミラス戦争まで白い雪に氷に覆われた大陸だった。コスモリバースによって戦争前よりはるか昔の環境に戻ったが、何かあるとしてもコスモリバースによって書き換えられているので確認しようも無かった。

 

「……言い方変える。ガミラスと戦うまでの間に、使徒と戦った? 大きなバケモノで、普通の兵器では倒せないような敵」

 

「いや、そのような敵性生物との戦闘は無い」

 

「なら、南極には何もいない、何も起こってない。あのインパクトを起こすなら、マイナス宇宙への扉の『地獄の門』を潜らないといけない。ある? ない?」

 

「それなのかどうかは分からないけど、近いと思う場所なら私知ってるよ」

 

「どこ?」

 

 食い気味にレイがハルナに聞くと、ハルナは自分の端末でとある観測画像を出した。火星のフォボスからの観測映像で、火星の北極圏あたりに真っ赤な同心円が広がっている。

 

「フォボス・キャンプからのガリラヤベース跡地の写真だよ。変な結界、力場みたいなものが張られていて、近づいた生物は軒並み橙色の液体になって死ぬ。似てる?」

 

「……うん。でもどうしてこうなったの? 何故地球じゃなくて、火星?」

 

「えっとね……ガリラヤ巨人が原因だと思うけどSEELEのクソ共があーだこーだしてブッ飛ばした。で、火星のユートピア海から、AAAWunderのアダムス組織が発見されたの。レイちゃん、インパクトが向こうで成功してしまってたなら、AAAWunderと一緒に何か流れ着いてると思うの、何かない?」

 

「……多分、Mark9の作り直した方。アダムスの器だから、普通のエヴァじゃない。使徒に近い方だから、事故が起きたのも分かると思う。もしかしたら、マイナス宇宙に繋がってるかも。えっと、藤堂長官?」

 

「何かな?」

 

「動かせる戦艦を全部使って守った方がいい。火星のそれがマイナス宇宙への扉なら、ガトランティスがそこでインパクトを起こせるかもしれない。マイナス宇宙へはエヴァ第13号機を使わないと行けない。入られたら、手が出せない」

 

「しかしだな。マイナス宇宙への扉がそこにしかないと言い切れるのかね? 私としては、他の星系にもある可能性を考えるべきかと思う。それに、火星のグラウンドゼロがバレなければ問題は無いはずだ」

 

「ガトランティスがどうやってこっちを知るかが分からない。備えて」

 

「KOMPASSとしては根拠が欲しい。艦隊を動かすにもあらゆる面で連絡が必要になる」

 

 

「根拠は兎も角、『こうなるから急げ』と言うメッセージならありますよ」

 

「メッセージだと?」

 

 

 

「まず1つ。こちらです」

 

 


 

 

 

「任務、お疲れ様です」

 

「雪。そうか、確か……」

 

「今日は非番よ。お疲れ様」

 

 横須賀宇宙港の正面入り口で立っていたのは雪だ。無人バスやエアカーが並ぶ駐車場に車を止めてわざわざ正面入り口で待っていたのだ。

 

「では楽しんでくださいね~艦長~」

 

「あぁ……ははは。わざわざありがとう」

 

「いいのよ。それに、直接伝えたいニュースもあるんだから」

 

「?」

 

 

 _________

 

 

 

 古代と森を乗せたエアカーは幹線道路を滑るように走っていく。車輪が無いので揺れる事もない。つい最近まで車輪のある車に慣れていた地球人にとっては違和感が大きい物だが、人間の慣れと言うのはすごいものだ。実際このタイプの車両が既に町中にチラホラ見られるが、古代と森にはあまり関心のない事だ。

 

 古代は適当にラジオのチャンネルを変えてニュースを聞く。復興地域の情報や第1防衛艦隊の帰還情報、イベントと言った情報が流れるが、古代が聞きたいのはそれではなかった。

 

【続いてのニュースです。4日前に発生した地球全域での大規模通信障害は、大規模な宇宙線による物だとKOMPASS本部は公式に発表しました。現在地球全域での通信は復旧しており、生活及び復興支援等に問題は発生しないとの事です。続いてのニュースです】

 

「大規模な宇宙線……か」

 

「司令部の方でも障害があったけど、今は大丈夫になったわよ。それでなんだけど、司令部に誰がいたと思う?」

 

「誰って、雪、桐生君、長官、土方宙将……誰なんだ?」

 

「睦月さん達よ」

 

「え"え"ッ!?」

 

 驚きの余り古代は雪の方に顔を向けたが、今は運転中だとすぐに顔を前に向けた。それでも驚いたままで視線だけ雪に向けた。

 

「そうか、退院してたんだ。……よかった」

 

「ビックリしたわよ本当に。だって長官の真横で正面モニター見てるんだから」

 

 そのままエアカーは横須賀市街地を抜けて建設中の市街地を眺め第三新東京市に入る。芦ノ湖に隣接する形で建設され、付近の二子山、駒ヶ岳、長尾峠にはVLSやレールガン等が設置され、その付近には空間騎兵等の訓練施設が建設されている。

 これらが火を吹く時は地球大気圏にまで攻め込まれているという最悪の状況だが、無いよりは全然いいという理由で配備されている。

 

 その軍事都市の住宅街。集合住宅の団地とは別に一軒家が並ぶこの区画はある意味高級住宅街の扱いを受けている。復興活動の一環で一軒家の建築費用がかなり下げられているが、避難生活時の集合住宅暮らしが体に馴染んでしまった人が多く一軒家の建築依頼は余りない。それでも一部の家族や個人で一軒家をオーダーする人がいるので、ちょっとした住宅街が出来ている。

 

 そんな1つの家の近くに、古代はエアカーを止めた。事前に自分が行く事を沖田に連絡していたのだ。手土産はないが、自分の話と無事の帰還が手土産と考えて、呼び鈴を押す。

 

(熱反応は?)

 

(オールグリーン。端末タグも取れたよ。ちゃんと古代くん)

 

「何か聞いたような声が……」

 

「はいはーい。古代くん待ってたよー久しぶりだね」

 

 左目のバンダナを少しずらしたハルナが玄関に立っていて、古代の思考に一瞬のタイムラグが生じた。さっきまで車内の話題になっていた人物が沖田の家にいるなんて考えておらずポカンとしてしまったが、取り敢えず挨拶はするべきと思い我に返った。

 

「お久しぶりです。ハルナさん、リクさん。元気そうでよかったです」

 

「まぁ色々あったけどね。この通りちゃんと生きてるから心配ご無用。目もこの通り」

 

「そんな見せる物じゃないだろ。僕のやつは嫌でも目立つけど」

 

 そういうと、リクはパーカーの袖をまくり左手を見せた。鈍い金属の光沢が硬い印象を与えるが、その動きはとても滑らかで繊細な動きも出来る事を示している。義手や義足をほとんど見た事の無い古代が見ても明らかに普通の物じゃないと分かる。

 

「とにかく入って。古代くんと森さんにも会議聞いてもらいたいから」

 

「会議?」

 

「大使館からも人来てるから」

 

「その、お邪魔でしたら、また別の日にしますよ」

 

「いいのいいの。ガトランティスと戦った人の意見も欲しいから。それに、古代くんも会っておいた方がいい子がいるから」

 

 そういわれ玄関からリビングにまで引っ張られると、沖田を始めとした地球の首脳陣とバレルとキーマン、そして3つ目のどら焼きに手を伸ばす綾波がいた。ハルナとリクの次は上官がいたので古代と森は反射的に背筋を伸ばし敬礼をした。

 

「古代。まぁ楽にしてくれ。この場は非公式な場だ。肩の力は抜いてくれ」

 

「はぁ、そのWILLEとKREDITとKOMPASSとガミラス大使館の方が揃って、一体何をお話されていたのですか?」

 

「ちょっと面倒臭い事。ガトランティスが絡んだとんでもない厄介ごとのお話。一応あらすじを説明するから聞いてほしい」

 

 リクは古代に会議の内容を説明した。『アリステラ星系の第4惑星に白色彗星が出現して黒き月モドキを奪取。オマケにNHGのような艦艇を4隻持っていて、もしかしたらインパクトを起こすかもしれない。起こったらある意味何もかも終わり』

 

「だったら防がないといけないじゃないですか!」

 

「その理由が必要なんだよ。と言う事で会議を再開する。艦隊のほぼ全てを投入した方がいい理由の1つ目が、これです」

 

 真田がタブレットを操作して動画ファイルを選択した。

 

「大規模通信障害の際にWunderのレコーダーに送られてきた情報だ。送信位置はここから。意図は、まぁ見た方が早いな。古代、君が見た幻も、これの筈だ」

 

 タブレットで再生される動画は画質が荒いが、確かに青い星と何かに願う女神が映っていた。白色彗星とガトランティス艦隊が確かに映っている。映像自体はほんの10秒弱だが、古代が見た物とほとんど同じだった。

 

 

「自分が見た幻影と、同じです」

 

「うん。実は幻影を見たのは君だけではない。既にKOMPASS側で幻影を見た人の調査を行っているが、今の所元Wunder乗員のみだ。地球人全体ではなく元Wunder乗員に狙い撃ちされているなら、少なくともこのメッセージは意図的なものだろう。そしてもう1つ。こっちは、見るのを覚悟してほしい」

 

 

 

 そうして再生されたのは、何かの端末で撮った動画だ。第2世代艦が容赦なく撃沈されていき、火星ガリラヤベース跡地に向かう4隻のNHG級が映る。そこに運び込まれる黒き月のような物。それは奇怪な変形の末2本の真っ白な槍となり火星の北極に吸い込まれる。その瞬間赤黒い同心円が宇宙全域へと広がり、生き残っていた艦艇からエンジンの噴射光が消えていく。

 

 映像は、そこでノイズ塗れになり途切れた。真っ暗になった画面からなかなか目を離せなかった古代はそのままの状態で聞いた。

 

「これは……いつ撮られた物ですか」

 

「分からない。だが、少なくともこの先の時間で___2203年中に撮られた物だろう」

 

「待って下さい真田さん! 過去に映像を送るなんて、出来るんですか?!」

 

 森が驚きながら真田に問う。現状の23世紀の技術をもってしても、過去の時間に向かってデータを送る事は出来ない。超空間通信で距離の壁を取り払えても時間の壁は越えられない事は、古代も森もよく分かっている。

 

「だから、送り主は特殊な方法と特殊な送信場所を選んだのだろう。これを受信したのは火星北極の観測衛星だ。数十秒の動画データをバイナリで16進数にして、重力震で正確に刻んだのだろう。あそこなら高次元空間が常時展開されていて、もしも5次元空間が展開されていたら可能性に干渉して重力場としてメッセージを届ける事も可能かもしれない。そして現状これが出来るかもしれない艦はこの地球に1隻だけだ」




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