イナズマイレブン外伝――New Generation――(再構想版)   作:slimy

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第4話 修應中サッカー部、初日

 切れかけの白熱灯が、修應中サッカー部の面々を照らす。

 弓川は、過去を思い起こしていた。忘れようと何度も試みた苦い過去。この先もしがみついて離れないだろう。それならば、どこまでも引き連れていく。受け入れ、乗り越えていくのだ。

 眉宇に、決意と覚悟が漲る。

 ふと、若園が視界に入った。なぜ顔がひきつっているのか、分からなかった。

 

「どうした?」

 

「え! あ、ああ。その、何か不満でもあるのかと思って……。ご、ごめん!」

 

 謝る若園に、弓川はきょとんとした。

 

「お前、すげー顔してたぞ」

 

 と、隣の犬巻。

 そうなのか、と一応の納得をして、弓川は謝った。

 

「そ、それじゃあ、二人にはまず自己紹介をしてもらおう」

 

 応、と言って弓川は一歩前に出た。

 

「弓川一矢! ポジションはFW、MF。しばらく運動もしていませんが全力で戦います。よろしくお願いします!」

 

 続いて、犬巻が歩み出る。

 

「1年、犬巻力です! もともと野球やってたんで、サッカーは未経験です! あ、でもルールは覚えました。ゲームで!」

 

 弓川はずっこけ、他のメンバーからは、一部を除いて唖然とされた。

 

「お、お前なあ」

 

「大丈夫だって。手で触っていいのはGKだけ、だろ?」

 

「ま、まあ……遊びながら覚えられるなら良いんじゃないかな」

 

 若園は笑って取り繕う。

 

「じゃあ、改めて……若園翔(ワカゾノショウ)だ。キャプテンと部長を兼任してる。ポジションはMF。うちに来てくれてありがとう。二人とも、よろしく」

 

 そう言って、それぞれ握手を交わした。

 笑ってはいるが、眉は苦労と自信の無さを表すように垂れ下がったままだった。

 

「次アタシな!」

 

 元気よく出てきたのは、部活紹介で若園の背中にビンタを食らわせた、あの少女――姉久保だ。

 

「アタシは3年の姉久保胡蝶(アネクボコチョウ)。ポジションはFWだ。ソンケーをこめて、胡蝶先輩って呼ぶんだぞー!」

 

 姉久保は、弓川と犬巻の肩に腕を回し、いたずらっぽく笑う。

 その後は顔見知りのDF岐山、同じくDFの桐葉と続き、強風で転がされた少女が3年生の挨拶を締めくくる。

 彼女が桐葉の隣に並ぶと、サイズの差がより顕著で、親と子にしか見えなかった。

 

「あーしはにぇ、わちゃぐ、わたぎゅ……えありらよ! よろしくにぇー」

 

 犬巻がぽかんと口を開ける。

 

「え、ええと、彼女は綿雲えあり。MFとDFを務めてる」

 

 若園が翻訳して伝えた。

 犬巻は弓川と顔を見合せ、肩をすくめる。

 続いて2年生。こちらにも、ひときわ威勢の良い少年がいた。

 

「おう! 俺様は、2年の鹿乃村壮馬(カノムラソウマ)だ! 中盤を任されてる。中盤はチームの要――だよな、キャプテン?」

 

 若園は頷いた。

 すると鹿乃村は、弓川と額がくっつきそうなほど顔を近づけ、低く唸った。弓川はそれに動じず、鹿乃村の鋭い目をまっすぐに見つめ返した。

 

「……は! いい度胸じゃねぇか」

 

「どうも」

 

「だがいいか!? ここでは俺様が先輩で、おめーは後輩。そこんところ忘れるなよ!」

 

 ふんぞり返る鹿乃村に、弓川は呆れた。奥に居る青い髪の少女も、腕を組んで細いため息をついている。

 

「ちなみにな、コイツがサッカー始めたのは去年からだぜ」

 

 姉久保は、弓川に耳打ちするような仕草をとったが、わざと聞こえる声量で言った。

 

「あんただって中学に入ってから始めたじゃねーかッ!」

 

 鹿乃村が目を三角にして飛び掛かろうとしたところを、桐葉が羽交い締めで制す。

 じたばた暴れる鹿乃村を尻目に、くせ毛の少年が微笑を浮かべながら、ゆらりと出てきた。

 

「どうも。2年の生天目秋真(ナバタメシュウマ)です。FWですがMFもやりますです。よろしく」

 

 弓川は差し出された手を握り返す。ふと、生天目の顔をそれとなく分析してみた。

 唇の端を引っ張り上げてはいるものの、目に表情が無かった。口元だけ別の人間から切り取って貼り付けたような、ちぐはぐな印象を受けた。細い目が、胡散臭さに拍車をかけている。

 弓川は、童話に出てくるようなずる賢い狐を思い浮かべ、生天目に重ね合わせていた。

 

「まさか、神嶋ユナイテッドジュニアの元キャプテンに出会えるなんて。こんな光栄なことはありませんですよ。ええ、本当に」

 

 抑揚のない声に加え、無理矢理に丁寧な言葉を使う。弓川は胡乱な目を向けた。

 

「……あ。胡散臭いと思っているですね? あはは、別に構わないですよ。ともあれ、今後ともお願いしますです」

 

 生天目は一礼すると、違和感満載の笑みを絶やすことなく犬巻にも挨拶をした。

 

「荒木ちゃーん。次、あんたの番だよ」

 

 奈落馬は錆びたパイプ椅子に背を預け、顎をしゃくった。荒木ちゃん、と呼ばれた青い髪の少女は、むっとした表情で奈落馬に振り返った。

 

「なんで」

 

「別に後でも構わないでしょー」

 

「私が先に名乗る義務だって無い」

 

 弓川は、二人の間に火花が散る音が聞こえた――気がした。

 そこへ若園が仲裁に入り、なんとか荒木の説得をする。彼女は面白くなさそうにため息をつくと、弓川と犬巻に向き直った。

 碧眼が二人を見上げる。つり目がちの顔立ちで、口の端からは鋭い歯が覗いていた。彼女には、頑として人を寄せ付けようとしない雰囲気があった。

 

「……2年、荒木薫(アラキカオル)よ。ポジションはMF」

 

 それだけ言って、荒木はさっさと引っ込んでいく。

 早々に出番が回ってきた奈落馬は、椅子から立ち上がることもなく、頭の後ろで手を組んだ。

 

奈落馬阿鶴(ナラクバオツル)ねー。見れば分かるだろーけど、いちおうGKやってるよー。よろしく」

 

 すると奈落馬は、自身の背後を見やった。

 

「ほら。最後だよ、千博」

 

 長い黒髪の少女が、ロッカーの陰からおずおずと出てきた。見ている側が窮屈に感じるぐらい、肩は縮こまっていた。目元まで伸びた前髪が、表情の認識を困難にしている。

 

「ちわす」

 

 弓川が挨拶すると、少女の肩が跳び上がった。早口で何かを言ってぺこぺこと頭を下げたが、弓川には聞き取れなかった。

 見かねた奈落馬が少女の肩を抱くと、少し安心したようだった。

 

「こんにちは……。2年生の奥枝千博(オクエダチヒロ)です……。ま、マネージャーをやってます」

 

 すると奥枝は、俯いたままゆっくりと弓川に近付き、口を開いた。

 

「神嶋ユナイテッドFCジュニアの弓川一矢選手ですよね初出場の試合は陽立(ヒタチ)SC戦でベンチスタートでしたよね現地で見たので覚えてます小学生離れしたキック力とFWながら泥臭く献身的な守備が印象的でしたどこまでも激しくボールを追いかけ強烈なシュートを叩き込む闘争心の塊のようなプレーは観る人全てを惹き付けました」

 

 先ほどと打って変わり、雨あられのようにまくし立てる奥枝の豹変ぶりに、弓川は面食らった。その後も、奥枝は息継ぎすることなく続ける。

 

「ベンチスタートが続いていましたが決して腐らずに成績を残したのはまさにプロそのものでしたサッカー選手いえアスリートたるもの斯くあるべきという姿勢を」

 

「はい、そこまで」

 

 奈落馬が手を叩くと奥枝は、はっとしたのち顔を真っ赤に染め、奈落馬の陰に収まった。

 

「あの、奥枝先輩はいったい……」

 

 と、犬巻。

 

「この子ね、超がつくぐらいのサッカーオタクなの。サッカーの話するときはビビるくらい喋るけど、そのうち慣れるよ」

 

 奈落馬は奥枝の頭に手を置く。奥枝がこそばゆそうに体を揺らした。

 

「ま、悪い子じゃないからさ、仲良くしてやってね」

 

 はあ、と犬巻は気の抜けた返事をした。

 

「じゃあ、自己紹介も終わったことだし、そろそろ練習しようか。着替えたらアップして、シュート練からだ」

 

 若園が一声かけると、女子たちは部室の一角にある更衣室へ消えていった。

 残った弓川たちも制服を脱ぎ、ジャージに着替える。

 手早く終えた弓川はシューズを履く前に、右脚にサポーターを巻いた。不安を取り去るように、しっかりと巻きつけた。

 

 

 外に出たイレブンは準備体操を行ってから、ひとかたまりになってピッチの外周を走る「ランニング」に入った。

 弓川は、神嶋ユナイテッドでも練習前にこうして走っていたことを思い出した。

 体が温まってきたところでランニングは切り上げられ、束の間の休憩を挟む。

 ふと、古びたバスケットからボールを取り上げた弓川は、まじまじと眺めた。

 

(へえ……)

 

 これから使うのが勿体無いほど、ボールは手入れされていた。他のものも気になって見てみたが、いずれも同じだった。

 

「ど、どうした弓川? また気に食わないことでもあるのか?」

 

 若園が声を掛けてきた。弓川は微笑みを返し、頭を振った。

 

「いや、なんでもない」

 

 休憩を終えると、ボールタッチの練習を行うため二人一組に分かれることとなった。

 

「犬巻、俺と――」

 

「おい犬巻! 俺様が組んでやるよ!」

 

 犬巻と組もうとした弓川は、強引に割り込んできた鹿乃村に権利を奪われた。当の犬巻も、弓川に対して申し訳なさそうな表情を送った。

 弓川は諦めて他の相手を探したが、若園は姉久保と、岐山は桐葉と、綿雲は生天目と組み、奈落馬は奥枝に手伝ってもらっていた。

 必然的に残った荒木のもとへ、弓川は向かった。

 

「荒木先輩、お願いします」

 

 ぷい、と背かれる。青い髪が揺れると、花のような柔らかい匂いが弓川の鼻腔をくすぐった。

 

「あの……」

 

「なによ」

 

「なによ、じゃなくて。やりましょう」

 

 荒木は振り向かない。

 これほどつんけんな態度をとられる覚えは、弓川には無かった。怒りが込み上げてきて、眉間が熱くなる。しかし荒木を怒鳴りつけるわけにはいかず、ましてボールに八つ当たりするなど弓川にとっては言語道断。仕方なく弓川は、荒木の足元にボールを転がし、新しいものを持ってきて一人でタッチの練習に取り掛かった。荒木もまた、ひとり黙々と取り組んだ。

 その様子を横目に捉えた若園は、ため息をついていた。

 やがてチームはシュート練習に移行した。

 順番が回ってくると、弓川は少しの不安と緊張を背負いつつ位置についた。

 合図を送り、若園とのワンツーからターン。蹴りやすい位置にボールをコントロール。踏み込み、右足を鞭のように振り抜く。芯を捉えたシュートはゴール右隅に深々と突き刺さった。それまで全てのシュートをストップしていた奈落馬だが、飛び付くことができなかった。

 右足に残る感触に、弓川の胸が懐かしさで満たされる。

 

「おー、こわ。案外錆び付いてないみたいじゃん」

 

 奈落馬は口元に薄笑いを見せた。

 

「頼むぞ弓川ー!」

 

 列の最後は犬巻。

 合図をもらった弓川はボールを受けてリターンパス。犬巻は身を翻し、勢い良く左足を振った――が、盛大に空振りした。

 その瞬間、弓川の背中に冷たいものが走り、総毛立った。バランスを崩して背中から倒れた犬巻に急いで駆け寄る。

 

「大丈夫か!?」

 

「え? 大丈夫だけど……」

 

 けろりとした顔の犬巻に、弓川は胸を撫で下ろす。

 全国大会決勝戦前、最後の練習でのことだ。グラウンダーのクロスにダイレクトで合わせようとしたが目測を誤り、空振りしてしまった。その瞬間、右脚が千切れるような激痛が迸ったのを弓川は覚えている。連日の酷暑に加え、強豪のキャプテンであること、そして大会10連覇という重圧が弓川を蝕んでいたのだった。

 たった今、その状況がフラッシュバックしたのだ。

 

「ちゃんとボールを見てミートさせろ」

 

「おう。わるいわるい」

 

 犬巻はけらけらと笑った。

 

 

 陽が傾き、肌を撫でる風が冷たくなってきた。若園が練習終了の号令をかけると、修應サッカー部は用具を片付け始めた。

 カラーコーンを持って倉庫に向かった弓川は、裏手に人の気配を感じ取った。幽霊や怪奇現象の類は一切信じない彼だが、薄暗い倉庫という状況が気味の悪さを醸していた。

 そんなことを気にしていても片付けは進まないので、弓川は大股で入っていった。

 

「……はああ」

 

 ため息。

 

「なんで私って……うぅ……」

 

(荒木先輩……?)

 

 弓川が思い浮かべた彼女は、無愛想で、口を開けば悪態をつく――という人物だった。ところが、トタン越しにかすかに聞こえてくる声とイメージが一致しなかった。

 

「今年こそはって思ってたのに……悪化してるじゃないのよぉ……」

 

 弓川はなんのことだろうと思いつつも、泣きそうな声を聞くうちにいたたまれなくなってきた。意を決して、声をかけてみる。

 

「あの……荒木先輩?」

 

「ひゃ!?」

 

 幽霊にでも話しかけられたような反応が返ってきた。

 

「大丈夫すか? 誰か呼んできましょうか」

 

「べ、別に。余計なお世話よ」

 

 平静を装おうとしているが、声の調子は明らかに動揺していた。

 

「そうすか。すみませんでした」

 

 弓川も詮索はしなかった。カラーコーンを所定の位置に片付け、倉庫を後にした。やがて片付けが済むと、荒木も戻ってきて、修應中サッカー部は部室で挨拶をして解散となった。

 あの夏からおよそ9ヶ月ぶりの練習。弓川は、なんともいえない高揚を感じていた。

 

「意外と難しいもんだな、サッカーって」

 

 着替えていると、犬巻がひとりごとのように言った。

 

「大丈夫だ犬巻! 俺様がしっかりみっちりサッカーを教えてやるからな!」

 

 鹿乃村は犬巻の肩を叩き、豪快に笑った。

 

「若園。地区予選はいつやるんだ?」

 

 その傍らで、弓川は若園に問うた。

 

「ええと……1ヶ月後だよ」

 

 1ヶ月。あっという間に過ぎていく時間。地区予選と県大会を制し、全国の強者たちを退けて頂点に立つためには、1秒とて無駄には出来ない。

 厳しい戦いが待ち受けていることは、明白だった。

 と、その時。弓川のスマートフォンが着信を知らせた。画面には火村の名前があった。弓川はブレザーを羽織り、外へ出てから応じた。

 

「急に電話してすまねえ。話したいことがあってさ」

 

「大丈夫だ。こっちはさっき終わったところだ」

 

「あ、そうか。なら良かったぜ」

 

「で? 話したいことって?」

 

「このまえ聞き忘れたんだけどよ、なんて学校に入ったんだ?」

 

「修應中ってとこだけど……」

 

 弓川が言うと、火村は喫驚の声を上げた。

 

「そこってサッカー部無いんじゃなかったか!?」

 

「あるんだよ、それが」

 

「マジか……。と、とりあえずそれなら問題ない」

 

「どういうことだよ」

 

「近いうちに――そっちと練習試合をしようと思うんだ」




更新が遅れてすみません。実生活でいろいろ立て込んでしまい、このような結果となりました。エタるつもりは毛頭ないので、今後もあたたかくお付き合いいただけると幸いです。誤字脱字等あればご報告ください。

6月19日追記

一部修正。
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