やっとマレニアをソロで倒せたお。
「おい・・・朝だぞ」
「わ・・・わかってるわよ」
「先週さぼったろ」
「しょうがないでしょ?考察動画見て回ってたら、面白そうなRTAやってる人がいたんだから」
「だからって、朝からようつべ見てるなよ」
「倫也だって見てたでしょ」
「まぁな!」
「そこ、威張って言えることじゃないから」
眠い。
気が付けばまた日曜だ。日曜のひとときまであと6時間ほどしかない。先週は英梨々がさぼったので、恵がネチネチと文句いいながらも原稿を埋めてくれた。
「で、どーすんだよ・・・」
「どーするもこうするもないわよ」
英梨々が眠そうな目をこすりながら立ち上がって、俺のベッドにバタンと倒れ込んだ。
俺はそれを呆然と見下ろす。
「おい・・・まさか」
「ちょっと寝るから」
「・・・」
だめだ。こいつ。
俺の枕を抱きかかえると、英梨々は布団中にもぐっていった。やれやれ・・・いつもの英梨々だ。寝ていたって小人さんは物語をつくってくれないんだぞ?
寝ている英梨々にちょっかいでもしようかと思ったが、亀のようになっていて手が出せない。しょうがないので布団をしいて、俺も仮眠をとることにする。起きることができず原稿を飛ばしたらそれまでだ。
徹夜明けで眠いのに、脳は妙に冴えていてなかなか寝付けない。風呂にはいるなり、ホットミルクでも飲んでオフにできれば眠れるのだろうけど・・・目を閉じて何も考えないように考える。
※ ※ ※
「あのさぁ、安芸くん」
「・・・はい」
「こんなんでいいと思っているのかなぁ」
「返す言葉もないな」
「もう、やめてもいいんじゃないの?無理してもいいことないと思うけど」
「おっしゃる通りで」
「英梨々にもやる気ないみたいだし」
「そんなことないと思うぞ・・・」
「ほんとにそう思う?」
「・・・思うってことにしといてください」
「安芸くん?」
「ほら、一応彼氏だからねぇ!?」
「・・・今、何か言った?」
※ ※ ※
何か夢を見た気がする。が、気にしない。時刻は午前11時。起き上がってベッドを見ると英梨々はいなかった。部屋を出てリビングに降りると、英梨々がキッチンにいた。
「おはよ。倫也」
「おはよう」
「カップ麺、そろそろできるわよ」
「朝から不健康だな!」
「徹夜明けの上、寝不足の言うと説得力あるわね」
「まったくだ」
2人並んでカップ焼きそばを食べる。何の変哲もないただのカップ焼きそば。こだわりはない。麺が固い時もあれば、柔らかい時もあり。時間も適当、お湯切りも適当。恵がまかないで作ってくれるような野菜が追加されていることなんてない。俺と英梨々は栄養を補給するというよりは、ただ飢えを満たすためだけに食事を摂った。
「ごちそうさま」手を合わせる。
「お粗末様でした」
「そうでねぇよ。起きたら食事ができてるなんて幸せなこった」
「そう?」
英梨々がフフッと少し疲れた表情で笑った。俺もだいぶ早く起きたらしい。すでにツインテールが結ってあるし、服も着替えていた。ということはシャワーをすでに浴びているのだろう。俺もシャワー浴びにバスルームに向かった。
※ ※ ※
ここ数日、天気が崩れている。今日も東京の空は雨が降り、どんよりとした厚い雲が覆っている。
油絵はだいぶ完成に近づいていて、英梨々は屋敷のアトリエでコツコツと細部を描いていた。あとは生き生きとした桜を描くため、桜が満開になるのを待っていた。
英梨々は窓の外を眺めてはため息をつき、雨で桜が散らないか心配していた。
「倫也。あの公園ってあずまやがあったわよね」
「あったな」
「なら、行きましょうか」
「雨なのに?」
「別に、倫也が行きたくないならいいわよ。一人でいくから」
「いや、そうじゃなくて。雨で油絵って描けるの?」
「そりゃあ描けるでしょ」
「へぇ・・・」
「で、いくのかしら?」
「モデルいなきゃ困るだろ?」
「あんたのとこはもう完成しているわよ」
「・・・そこはもう少し俺をたてようよ」
「何をたてるのよ?」
「・・・」
「・・・」
俺は荷物持ち係として同行する。
外は少し肌寒い。こんな天気の悪い日は家でゲームしているか、勉強するほうが妥当な気がするが・・・
公園に着くと、人はほとんどいなかった。傘を差しながら大型犬を散歩している人がいるだけだった。
英梨々は誰もいないあずまやでイーゼルを組み立てて、絵を描く準備を始めた。
桜は満開に咲き誇っている。花びらが地面に少し散っていた。天気さえよければ英梨々の理想的な状況だったかもしれない。
使い込まれた木製のパレットに、基本色の絵の具を出していく。桜の花びらを描くはずだが、ピンク系統以外も使うらしい。俺には見えない色が英梨々には見えているのだろう。少し大きな箱にはいろんな色の絵の具が入っていて、どれも周りが絵具で汚れていてラベルが読み取りにくそうだが、英梨々にはだいたいわかるらしい。
英梨々が絵を描き始めたので、俺はベンチに座って英梨々の後ろ姿を眺める。雨粒はとても小さかった。池の水面に弱い波紋が広がるが、雨粒の当たる音はしなかった。
とても静かな時間が流れる。
座っているだけだと体が冷えてくる。もってきた荷物からブランケットを取り出して、英梨々の膝にそっとかけた。
「もう、邪魔しないでくれるかしら」
英梨々がツンと言った。
「悪かったな」
そのあと、小さく「ありがと」と言っていた。
キャンパスを見ると、桜の花びらが舞い始めていた。
(了)