さっき書き終わりました。
もう、いつものやつなんで・・・orz
春休みが終わった。桜も散った。気が付けば時が過ぎ去り、高校三年生の受験生である。
倫也と英梨々はカレンダーを切り取り、4月になっていたことを改めて確認した。英梨々は真剣な顔で腕組みをしてカレンダーをじぃーと睨んでいる。別にカレンダーは何も悪いことをしていない。カレンダーには数字が印刷され、それをどう認識するかは人間側の問題だ。少なくとも紙のカレンダーに罪はない。
「どうしよ・・・」
「しょうがないよな」
「そんなこと・・・ありえるかしら?」
「まぁ、実際に起きたことなんだからしょうがないよなっ」
「そういう問題?」
納得していない英梨々に説得する気も起きない。過ぎたことだ。今は4月。それだけが事実だった。倫也は英梨々の肩をポンと叩いて、「学校行くか」と誘った。英梨々は少し涙目になっていたが小さく頷いた。
新学年になりクラス替えがあった。俺と英梨々は同じクラスの3年B組。なにしろ英梨々が「同じクラスじゃないなら学校行かない」と駄々をこねたものだから、原作とは設定が変わるのはやむを得ない。なにしろ英梨々を甘やかして進める小説なのだ。
・・・そして、もう一人のヒロインも同じクラスである。
加藤恵。桜の似合う柔らかな印象の彼女は、新学年に合わせて髪を切った。少し短めのボブカットの髪を左耳が見えるようにピンで留めている。
「そんな、嫌そうな顔しないでくれないかな?」
「そうじゃねぇよ・・・」
「じゃあ、何?」
「少し不安なだけで・・・」
「それ、わたしに直接いうことじゃないよね」
「髪切ったんだなっ!似合ってよ」
「そんなんで誤魔化せると思ってる?」
「ああ、もちろん。加藤だからなっ。誤魔化せれてくれると思ってるよ」
加藤があきれた顔で倫也を見つめている。目がじっと合うと倫也は顔を少し赤らめて目線をそらした。
「恵も同じクラスなのね」
「別にわたしは原作通りなだけなんだけど?」
「ふーん。そう」
英梨々がプイッと窓の方を向いた。英梨々の席は一番後ろの左側の窓辺だ。その隣が倫也で、その右隣りが加藤。
「お・・・おまえら仲良くな?」
「はいはい。別にあたしと恵は仲悪くないわよ。ねっ、恵」
「そうだねぇ・・・仲悪く見えるなら、きっと安芸くんに何かやましいことがあるんじゃないかな?」
「・・・」
倫也はこの一年間、自分の胃が持つか心配だ。キリキリと痛む。詩羽が卒業し学年一の美少女となった英梨々が彼女になってから、男子生徒からの嫉妬がひどい。さらに「正妻」と周りから言われていた加藤と結ばれなかったことで、一部の女子からは『サイテー』の烙印をおされ、非常に扱いが悪い。
倫也としては、「俺、何か悪い事したっけ・・・」という感じなのだが、反論も自己弁護もする気は起きなかった。それでもかろうじて学校に通えているのは、英梨々と加藤が表面的には仲良くしてくれているからだろう。
かくして英梨々という希望を失った男子は、その失恋を引きづっているか、新たなアイドルを探すかで別れた。そして、多くの男子生徒は逞しくも後者を選んだ。
新入生の女子生徒を物色する男子。まったくあさましいものであるが、これはモテない男子生徒の醍醐味でもある。勝手に女子生徒に点数をつけているバカもちらほらいる。
どの男子からも高い好感度と期待を得た新入生が一人だけいた。
その女子生徒は、英梨々の金髪ツインテール程でないにしても、教室から登校してくる生徒を眺めていてもすぐに発見できる。多くの生徒が茶色から黒のモブのヘアスタイルに対して、赤みがかった茶色い髪を短めのツインテールにしていた。付けているヘアアクセは幼い印象を与え、英梨々のシックなリボンの印象とは対極的である。本人は明るい笑顔を振りまいていたので、入学式からまだ3日目なのに人気が鰻のぼり。すでに英梨々のポジションせまっている。新・二大美女と言われる日も近いかもしれない。
おまけに、胸もでかい。
波島出海。一応、冴えカノ5大ヒロインの一人であり、人気アニメになったことからフィギュア化もされている。とはいえ、映画化された時にほとんど出番がなく、加藤を挑発する役目を担っていて印象はあまりよくない。絵の方で英梨々のライバルキャラ的な立場だったが、ただの英梨々の穴埋めで終わった。倫也のサークルからの英梨々離脱は既定路線だったから仕方ないが、影の薄さは美智留と双璧であろう。
本作品群では、前に出たがりでメインヒロインになることに憧れていることも付け加えておきたい。
また、英梨々が何度も高校2年をやり直して作品を作ることで、受験生の期間が長く、本人的にはうんざりしているようだ。
※ ※ ※
ランチタイムが終わり、学生たちのささやかな自由時間。英梨々は相変わらず機嫌を損ねて拗ねていた。倫也と加藤はレポートに目を通しながら、最近流行している作品ついて検討している。別に英梨々は2人の仲が良いから拗ねているわけではない。
「そろそろ来るかな?」
「・・・そうだな」
「で、安芸くん。どうするの?」
「どうもこうも・・・俺、英梨々の彼氏だからねっ!?」
「それ、わたしと会うたびに言わなくてもいいと思うんだけど」
「・・・ごめん」
「謝られても困る」
「・・・」
そこに、元気な声で、「倫也せんぱーい!」と声をかけて出海が入ってきた。
「きたよ」と加藤がボソリッと呟いて、机の上のレポートを片付け始めた。
「あっ、出海ちゃん」と、倫也はわざと驚いた風に答える。
出海はキョロキョロと教室を見渡す。生徒の数は少ない。机に突っ伏して腕を前に伸ばしている英梨々。それから出海の方を見ている倫也。目線を合わせようともしない加藤がいた。
「・・・澤村先輩の調子悪いんですか?」
「そこは、スルーしてあげてくれる」
「・・・はぁ」
「安芸くん。英梨々には甘いよね」と、隣で加藤が呟く。
倫也はそれをスルーして、出海に「出海ちゃんどうしたの?」と聞いた。
出海は怪訝そうに英梨々の方を見てから、首をかしげていた。
「倫也先輩。今年はサークル活動しないんですか?」
「ああ・・・それね・・・」
倫也は返答に窮した。横目で隣の英梨々を見下ろす。メインヒロインがこの低落・・・
「ゲーム作りはとりあえず横に置いといてだな・・・まずは、俺たちの物語をちゃんと綴れるようになろうかと」
「はぁ」出海が生返事をする。
「ほら、面白いものを作るよりも、まずはちゃんと作品を仕上げないとダメだろ?」
「そうですね」
「だから、そういうことがちゃんとできるようになってからだな・・・」
「でも、倫也先輩。このまま澤村先輩をメインヒロインで続けていくんですか?」
「うん。彼女だからね!」
ここは倫也もあえて強調して答える。隣にいる加藤の顔は怖くて見えない。一瞬、凍えるような冷気が体を貫いた気がするが・・・これも気にしない。
「まぁ、それはいいですけど・・・」
出海が改めて、窓際でうなだれている英梨々を見つめている。
「・・・で、澤村先輩は何をいじけているんです?」
英梨々は顔を出海の方へ向けた。それから何も言わずにまた顔をそむけた。
「実はさ・・・英梨々が・・・」
倫也の神妙な雰囲気に、出海がゴクリとツバを飲み込んだ。
「英梨々が・・・この作品のメインヒロインである英梨々がだよ。・・・自分の誕生日イベント忘れたんだ」
「はい!?」
「澤村・スペンサー・英梨々。誕生日は3月20日らしいよ」加藤がたんたんと説明した。
「それはまた、なんていうか・・・澤村先輩も盛大にポンコツスキルを発動しましたね!」
「だな」
「ポンコツっていうか、もう致命的に自覚が足らないじゃないかなぁ」
加藤がネチネチと追い打ちをかけていく。
「そこは以前からだから」
「せっかくリアルタイムに合わせて作品作っているのに、普通誕生日イベント忘れるかな」
あくまでも英梨々からメインヒロインの座をおろしたい加藤の執念を感じる追撃。
「もう、そっとしておいてあげてください・・・加藤さん」
倫也がフォローをいれる。
「ねぇ倫也。もしかして誕生日を過ごさなかったから、あたしって16歳のままでいられんじゃない?」
「英梨々!?頭大丈夫か!?」
「倫也。普通、付き合いたての彼女の誕生日忘れる?」
「・・・俺のせい!?」
「あたし・・・期待して待ってたのに・・・」
「絶対嘘だよねぇ!?」
「でも、あたしが自分で誕生日会を企画するのは変よねぇ?」
「・・・そうだな」
「じゃあ、別にあたしは悪くないわよね」
「というか、お二人はなんで大切な誕生日を忘れていたんです?」
「えっと・・・ゲームしてて」
「そそ。出海にはわかんないでしょうけど、夢中でゲームしてたのよ」
「そこで変なマウントとらないでください。ゲームぐらいしますけど」
「それに、桜の開花のこととか・・・」
「安芸くん。要するに、英梨々の誕生日の優先順位が低かったってこと?」
「いや・・・そうじゃなくってだな」
「あたしと倫也は、二人で楽しく春休みを過ごしていたってだけなの」
加藤の目つきが険しくなってきた。
「わたしは倫也くんと英梨々が仲良くしていることに文句を言っているわけじゃなくって」
「ちょっと恵。『倫也くん』じゃなくって、『安芸くん』でしょ?」
「・・・帰る!」
「加藤!?」
「・・・加藤じゃない」
鞄をもって教室からでていく加藤。追いかけるか迷う倫也。
「ほら、学校イベントなんてするから、こんな風になるのよ」
「・・・それ、おまえが言う!?」
「早く追いかけてあげなさいよ」
「・・・英梨々」
「なによ」
「『冴えカノ』やっていることに無理があるんだと思う」
「そんなの、ずっと前からわかっているじゃない」
英梨々が机の中からレポートの束を出して、倫也に渡した。表題には『英梨々とイチャイチャ過ごす夏休み(仮)』と書かれていた。
「これ・・・」
「恵が作ってくれたの。そろそろ企画を動かして構成を練らないと間に合わないんだって」
「そうだろうな・・・あいつらしいよ」
「でも、倫也。あたしは・・・こういうの嫌だ。あたしは倫也と2人でのんびりゲームしたり、アニメや漫画の話をして過ごしたら十分だし、読者に毎日のぞかれながら過ごしたくない」
「・・・そう・・・だな」
倫也が企画書をパラパラとめくっていく。構成にこだわったイベントは行き当たりばったりなようで、細かく考えられている。いかにも恵らしい企画書だ。そして、表題こそ『英梨々』になっているが、内容は完全に恵のものであることが倫也にはわかった。
「それ・・・あたしじゃ無理だから。作るなら恵と作りなさいよ」
英梨々は恵のようにフラットな顔をしようとしたが、それはぜんぜんできなくて、瞳は涙があふれそうだった。
倫也は企画書を英梨々に返す。
「いや、これはやらないよ英梨々。ましてや加藤とは過ごさない」
「・・・なんでよ」
「なんでもなにもないだろ・・・俺はお前の彼氏なわけだし」
「・・・倫也」
「ちょっとまってください!」
なんか、いい感じになりかけたが、ここで出海がストップをかけた。
「今、なんて言いました?」
「何が?」
「倫也先輩。英梨々の彼氏だって」
「ああ、うん。付き合ってるけど・・・」
「はい!?正気ですか!私、聞いてませんけど?」
「いわなかったっけ・・・」
「あのですね、倫也先輩・・・どこに彼女が最初からいるラブコメがあるんですか」
「あるぞ?」
「あるわよね」
「あるんですか!?・・・コホン。とにかくですね・・・私も恵先輩と一緒で納得できませんから!」
「納得とかそういうのじゃなくってだな・・・」
「私と恵先輩をサブヒロインとして登場させるとか、それもう・・・パワハラじゃないですか?」
「ちょっとまって出海ちゃん・・・」
「やっと・・・幾度もの受験を乗り越えてヒロインとして参加できると思っていたのに・・・」
「それだと、浪人繰り返しているみたいよ。出海」
「・・・」
「落ち着いて出海ちゃん。まずは英梨々を・・・メインヒロインに育てないと・・・」
「私も帰ります」
出海も怒った様子で教室から出ていく、出ていくときに振り返って舌を出していた。
「なぁ・・・英梨々」
「相変わらずよね」
「まったく」
「でもだいぶ進歩したわよね」
「そうか?」
「別に世界が溶けていないし、変なファンタジーになってるわけでもないし」
「・・・そうかもな」
英梨々がおかしそうに笑っている。
「もうすぐ投稿時間ね」
「いつも締め切りギリギリなんだけど・・・誤字脱字ぐらいなんとかしろよ」
「そうね。とりあえず来週の予告だけはしておくわ」
「予告?」
「次回!『忘れていたお誕生日会』をするわよ!」
「たぶんな」
「・・・たぶん」
こんなポンコツですが、新年度もよろしくお願いします。