ため息をつきつつ、あたしは学生服をベッドの上に脱ぎすて、下着姿のままベッドに座った。
明日からゴールデンウイークが始まる。倫也と一緒に何かをしようと思いつつも、結局は何も決められないまま今日にいたる。
GWもいつものように、倫也と部屋でダラダラと過ごしてもいい。夏コミの準備も始めたいからこの部屋に倫也を呼んでマンガ制作をしてもいいかもしれない。
・・・けれど、一番したいことは、いちゃいちゃすることだ。何度も挑戦している。一歩一歩(この表現はまずいかしら・・・)、着実に倫也との仲は進展している・・・気がする。が、未だ成就していない。理由は自分に魅力がないからではないと断じて信じたい。倫也がヘタレなのだ。いや、恵に気を使っていることをわかっている。
そういう物語だったのだから。
「欲求不満かしらね・・・」
あたしはベッドから立ち上がって、クリーニングに出すために紙袋に脱いだ制服をいれた。それからクローゼットを開けて、これから倫也の家に行くのに何を着ていくか悩む。思わず買ってしまったナラカミーチェのシャツを合わせてみる。肩が少し出るデザインで鎖骨がはっきりと見える。だからといって胸元を強調するわけでなく品がいい。それに大きめのスカーフを合わせてみるが、いささか畏まった感じになったのではずす。どうせ倫也はわからない。デニムのスカートをはいてカジュアルに仕上げる。
通いなれた倫也の家への道。それでもまだ緊張している自分がいる。初夏といっていいぐらい今日は天気が良かった。新緑が眩しい。こんなに気持ちいい日に部屋に閉じこもっているのはやはりもったいないかもしれない。GWはどこかにでかけようかしら・・・
チャイムを鳴らさずに玄関のドアを開ける。靴は確認する。どうせ倫也以外に誰もいない。一応、天井にトラップがないか確認もする。いや、あるはずはないのだけど。
洗面所に行って手を洗い、うがいをする。鏡を見てもう一度服装を確認した。大丈夫、今日もあたしは可愛い。ツインテールを揺らしてみる。
階段を上がり、倫也の部屋のドアをノックする。これは最低限の礼儀。
「あたし」
「ああ」
気のない返事。別にあたしが来たからといって倫也は喜んだり、ソワソワしたりしない。それが少し癪だった。
倫也はデスクの上でプラモを組み立ていた。相変わらず受験生とは思えない体たらくだ。
「ねぇ、倫也」
あたしは腰に手を当てて、さりげないポーズをとる。まぁ新しいシャツに気付くはずはないのだけど、ちょっとだけセクシーなこのシャツに、戸惑いの表情を浮かべないか観察をする。
「ん?どうした?」
机の上には気の抜けてそうなコーラが置いてあった。
「ゴールデンウィークについてなんだけど」
「明日からだな」
ほら、まったく気が付かない。信じられない。露出の高い服を着ているのに。あたしは倫也にグイッと顔を近づけた。倫也の目線があたしの胸元に落ちた。たいした膨らみがあるわけでないし、ましてや谷間なんてない。それでも倫也の顔が少し赤くなって目線をそらした。
「せっかくの連休だし、受験の息抜きで少しでかけない?」
「それは別にいいけど、どこに?」
倫也が作りかけのプラモをデスクの上に置いて立ち上がった。
「この季節だと潮干狩り・・・とか?」
「し・お・ひ・が・り?」
「なによ、その言い方」
「いや、およそ英梨々らしくない場所だなと思って」
「いやならいいわよ」
「いや、嫌じゃない。ふむ・・・」
「気になる場所を見つけたのよ」
あたしはクッションに座って、テーブルの上でノートPCを開いた。倫也が隣に座る。ちょっと腕が当たるぐらいには近い。倫也の匂いがする。そのままあたしを押し倒してくれればいいのに。このヘタレ。
ノートPCが起動するまで沈黙して待った。自分の耳が赤くなっているのがわかる。倫也の方をそっと見る。倫也はあたしの新しい服の肩の部分を不思議そうに見ている。変わったデザインで一般的というよりはアニメ的に少し浮いている。肩の上の部分に空白ができる作りになっているのが、倫也は気になるのだろう。
「ここなんだけど」
「・・・えっ。ここ入れるの?」
「違法らしいんだけど、すごく貝がとれるんですって」
「違法はダメだろ」
「でも、秘密の人気スポットらしいのよね」
「秘密なのに人気なのかよ」
「行ってみたいのよね。ちょっと清々する場所みたいだし、穴場の魅力もあるじゃない」
「でも違法なんだろ?」
「細かいわね」
「うーん。ちょっと待っててな」
倫也がスマホをいじり始めた。あたしはその間に潮干狩りの準備について調べる。量は取れなくてもいい、海に行って砂を掘る。それだけでもいい。
「なるほど」
「どう?」
「良さそうだな」
「誰に相談したのよ」
「伊織。ほら、あいつは顔が広いし、いろんな分野に詳しいから」
「それで?」
「出海ちゃんが案内してくれるってさ」
「なんで、波島出海が来るのよ」
「そこ、危険地帯だから、運動音痴の俺たち二人だけならやめた方がいいんだと」
「・・・そうなの」
「ちゃんと行政がアサリを撒いてくれているような場所なら安全らしいけど」
「知ってるわよ。でも混んでるし、あんまりとれないのよね」
「どうすっかな」
「ちょっと考えるけど、少し買い物しにいかない?」
「何を?」
「潮干狩りグッズに決まってんでしょ」
「あ~、あの鉤爪みたいなやつか?」
「熊手っていうらしいわよ」
「ほー、探せば物置にありそうだけどな」
「じゃあ、探しにいきましょうよ」
「・・・とりあえずさ、プラモ完成させていい?」
「いいわよ別に。あたしが見て来るわよ。屋根裏の方かしら?」
「いや、あるなら外の物置じゃないか」
「そ、じゃ見てくるわよ」
あたしは立ち上がった。立ち上がると倫也の目の前がデニムのスカートになる。今日は短いソックスしか履いてないので、ほぼ生足だ。倫也が少しの間、あたしの足を凝視していたがすぐに目線をノートPCに戻していた。このヘタレ。この童貞。
階段を降りて外に出る。物置の中に長靴と潮干狩りセットらしきものがあった。3人分あるのでちょうどいい。倫也の長靴はあるので、あとは自分の長靴だけ用意しておけば大丈夫そう。これなら何も買わなくて平気だった。
物置から必要そうなものを取り出して玄関に運んでおく。それからケータイでスケジュールを確認し、お抱え運転手の予約をいれた。潮干狩りスポットが辺鄙すぎて最寄りの駅からでもかなりあり、もちろんバスなども運行していない。タクシーが拾えそうな場所でもないので、ここは家の車を利用させてもらうことにした。
手を洗って、冷蔵庫から麦茶を出してグラスに2人分注ぐ。それをもって倫也の部屋に戻った。倫也はデスクに座って、相変わらずプラモを組み立てている。あたしはグラスを置いて、道具があったことを伝えた。
「そういうわけで、明日はうちの自家用車でいくから」
「ふむ」
「波島出海には、朝に来るように伝えておいてよね」
「何時頃だ?」
「潮の引く時間に合わせるらしいわよ」
「ほう・・・」
倫也が潮見表を調べはじめた。こういう真面目なところが物語をややこしくするのだと思う。
「明日の昼になるにつれて干潮になることにするから、調べなくていいわよ」
「そこはリアルタイムじゃないの?」
「細かい事はいいのよ。朝の7時集合。わかった?」
「やる気十分だなっ!」
とりあえずGWの予定が1つできた。あと美智留のライブ観戦もしておこうかしら。
あたしは倫也のベッドに寝そべって、片足を立てながらラノベの続きを読んだ。倫也が振り返れば棚越しにあたしの下着ぐらいが見えるはずだけど・・・あいつはヘタレだから、今日も平和に何事もなく日常が過ぎていくのよね。
(了)
次回は潮干狩りで死にかけた話。