英梨々を甘やかして作る物語   作:きりぼー

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日曜のひととき、いかがお過ごしでしょうか?

R18も未完。このポンコツヒロインに愛の手を。




英梨々のいない世界で ①

 英梨々が気が付くと電車に揺られていた。どこかのローカル線だろうか、電車の速度は遅かった。窓の外は青々とした田園風景が延々と広がっている。

乗客はいなかった。英梨々が誰かいないかと探しながら通路を歩いていると声をかけられた。

 

「あら、ポンコツさんじゃないの」

「あっ!霞ヶ丘詩羽~」

「ひさしぶりね」

「ちょっと、ここはどこなのよ?」

「そんなに慌てないで、どうせ急ぐ旅でもないし座ったらどうかしら?」

 

ボックス席の空いている席を英梨々は眺めて、「窓側がいいんだけど」と言った。

「私だって窓側がいいのよ。向かいに座ったらいいじゃない?」

「いやよ。後ろ向きだと酔うの」

「しょうがないわね」

詩羽が立ち上がって向かい側に座った。英梨々が空いた場所に座る。

 

「詩羽こんなところで何しているのよ?」

「ほんと、何しているのかしら。きっと澤村さんに会いに来たのね」

「どこよここ。ずいぶんと長閑なところだけど」

「さぁ。あなたの心象風景まで私は関知できないわよ。でも、いいところよね。こういう何もないところでゆっくり暮らしたいと思いつつも、実際に暮らすと退屈でしかたないのよ」

「そうかしら?」

「澤村さんみたいにインドア派だと別に問題ないのかもしれないわね。ネットさえつながっていれば退屈しなそうだし、案外創作活動もはかどるかもしれないし」

「あたしがインドア派なら、あんたはなんなのよ。引きこもりかしら?」

「小説家なんてそんなもんでしょう」

 

 電車が小刻みに揺れている。風景が変わる気配はない。反対側の窓からは海が見える。天気は晴れていて、雲一つなかった。時々、田園に点在する民家では大きな鯉のぼりが泳いでいた。

 

「それで、詩羽がここにいるってことは、何か大事な話があるのね?」

「そうね。大事というよりは忠告。あるいは反省。それともおせっかいと言うべきかしらね」

「そう。何かしら?」

「まずはコーヒーでも飲みたいわね」

「のんきね」

 

 売り子の女性が弁当やお菓子の入ったカートをおしながら歩いてくる。詩羽がコーヒーを2杯とボンタンアメを買った。

それを2人は冷ましながらブラックで飲んだ。

 

「ほんとうに、どういうべきなのかしら?私たちは失望しているのよ」

「・・・」

「わかるわよね?」

「・・・わからないわ」

「そう・・・あなたを甘やかす物語は、内容を甘やかせるつもりだったのだけど、澤村さんは締め切りすら守らずに原稿を落とすなんて。そういう甘え方をされるとは思わなかったのよ」

「・・・しょうがないでしょ。雨になったり、晴れになったりで潮干狩りもいけなかったし・・・」

「別に怒っているわけじゃないのよ。ただ、このままだと問題があるの」

「恵のことでしょ?」

「・・・そう」

 

詩羽がコーヒーをゆっくりと飲む。そろそろ『夏イチャ』を制作しないと間に合わない。主役を加藤恵にするか、このまま英梨々でするか、決めかねていた。

 

「加藤さんってまじめなのよね。融通がきかないというか、あなたみたいにチャランポランじゃないというか」

「それで」

「加藤さんを主役にするなら、そろそろプロットを作り始めるのだけど、このまま澤村さんを主役にするには不安なのよ。ゴールデンウイークの短期間すら完走できないあなたではね」

「悪かったわね」

「で、再度問うわ。澤村さん・・・あなたはどうしたいの?『夏イチャ』はあなたがやりたいのかしら?」

「・・・それは・・・それは倫也が決めることでしょ?」

 

英梨々は自信なさげに言った。

倫也と二人で過ごしていると、仕事に手が付かなくなる。夏コミに向けて準備を進めることすらせず、ただゲームをやったり、アニメを観たりしていた。部屋の中で過ごす2人の時間は英梨々には幸せだったが、それが物語に向いているわけではなかった。

倫也と二人の夏を過ごしたくても、40日もの間、変化のある日常を英梨々は思い描けなかった。

 

「なら、倫理君が加藤さんを選んだなら・・・加藤さんを主役でもいいのね?」

「・・・」

「それがあなたの決めたことなのよね?」

「・・・ないもん・・・選ばないもん。倫也は恵を選ばない!あたしを選んでくれるに決まってるんだから・・・」

「そうかしら?」

 

詩羽はボンタンアメのセロファンの剥がすところを探していた。指先でひっかいでなんとか見つける。

 

「だって、あなたったら、締め切りは守らないでいつも直前でグダグダだし、計画性はないし、おまけに掟破りのR18原稿引っ張ってくるし、しかも未完成でしょう?」

「それ・・・作者が悪いんじゃないかしら?」

「本当にそうなのかしら?加藤さんが主役でも同じことが起こると思うの?去年のように加藤さんなら内容はともかく、しっかりと完走すると思うわよ」

「・・・」

「あのね、澤村さん。もうこの物語は冴えカノとはあんまり関係ないのよ。あなたが物語を投げ出すたびに読者はあきれて逃げてしまうの。それでも辛抱強く我慢してくれる読者は、あなたが庭先で花火をしたり、展覧会デートしたりするときに、感想や評価をくれるんだわ」

「あたしが恵に劣ってないってことかしら?」

「方向性よ。あなたは物語の中に没頭して、しっかりとあなた自身が楽しめばいいの。そうすることで倫理君が楽しんで、読者にその楽しさが伝わって、カタルシスが起こるのよ。わかるかしら?」

「・・・うん」

 

 詩羽がボンタンアメを英梨々に1つ渡した。英梨々はそれを口に放り込む。ボンタンアメに個別包装がないのでゴミはでなかった。

 

「気負う必要もないし、読者を意識しなくてもいい時期になってきているのよ」

「そうかしら?でも、それだとさっきも言ったけれど、あたしは倫也と2人で過ごしてしまうわよね?」

「そこで、やっぱり加藤さんの力を借りるのが良いのでしょうね」

「恵のプロットにそって行動しろってことでしょ・・・嫌よ、あたし」

「ふふふっ」

「何よ」

「じゃあ、加藤さんに『夏イチャ』をやってもらうしかないじゃないの」

「それも嫌っ」

「選ぶのは倫理君なのよね」

「・・・」

「じゃあ、見てみましょうか」

「何を?」

「英梨々の存在世界の加藤恵と倫理君を」

「どういうことよっ!」

 

 詩羽はもう何も答えず、窓の外を見ていた。

 

英梨々は不安そうに下を向いて、涙をぐっとこらえる。

 

(了)




責任をすべて作中人物に押し付けるスタイル(反省
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