英梨々を甘やかして作る物語   作:きりぼー

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日曜のひとときいかがお過ごしでしょうか。

去年の夏イチャはこれぐらいの時期から制作していた。

この話もそうだけど、倫也&恵だと会話がサクサク続く・・・


英梨々のいない世界で ②

 金髪のツインテールが目の前でキラキラと揺れている。

 

「ごめん。倫也」

「どうした?」

「負けたの」

 

※※※

 

 天井には電気が付いたままの電灯が揺れていた。

夢を見ていた。最近はずっと似たような夢ばかりを見る。バイトのし過ぎで疲れているのだろうか・・・目が覚めると内容は忘れてしまう。くだらない夢なのだろう。

 

 俺は時計を確認すると、もう学校が始まりそうな時間だった。遅刻は確定で、あとは仮病でずる休みをするか、遅刻してでも学校へ行くかだ。ベッドから降りて気だるい体を動かす。洗面所で顔を洗い、歯を磨き、寝ぐせを直す。冷蔵庫の牛乳をコップにいれて飲み干した。それから制服に着替える。だるくても学校に行く。授業も学校もどうでもいいが、会いたい奴がいて、そいつに渡したいものがある。

 

 俺は安芸倫也(あきともや)16歳。高2。どこにでもいるオタクの高校生だ。バイトを掛け持ちし、オタクグッズを買い集めるのが趣味。将来はゲームクリエイターになりたいと思っていたが、才能のない。そろそろ真面目に進路を考えようかと悩んでいた。

 

 電車に乗りながら、プリントアウトした原稿を読み返す。テンプレ的なツンデレ金髪ツインテールの幼馴染。絶対に存在しないような美少女がオタクの主人公に想いをよせているという設定は、ラノベ的には鉄板だ。これに詳細な設定をつけて、個性に差をつけるものの、もはやオタク業界には溢れている1キャラにしか過ぎない。それでも俺はその魅力を伝えたいと思っている。

 

 一時間目の授業が終わるのを待ってから、俺は教室へと入った。

 

「よぉ。どうした?」

「寝坊」

「大丈夫かよ」

「ああ。問題ない」

俺はメガネをクイッとあげて、大袈裟な演技をして答える。話しかけてきたのは1年の時にオタクに仕込んだ上川という男友達だ。なかなかオタクの才能があるやつで仲がいい。

 

「それにしても、この学校って美人がいないよなー」

「進学校なんてそんなもんだろ」

「冷めてるなお前」

「三次元は俺には無縁だからな!」

「ラノベだったら、ここで天才美少女先輩とか、健気な後輩とかがいるはずなんだろ?」

「もちろん。それに幼馴染ヒロインと、同級生も忘れるなよ」

「どれも、妄想の産物だな。現実なんて・・・」

上川がクラスを見回してため息をつく。

「仮に美少女がいたって、俺らには無縁だろ」

「だな」

 

 どうやら上川はまだ加藤の可愛さに気が付いていないらしい。加藤はあまり目立たないタイプで、気配も薄いからしょうがないのかもしれない。

 俺は持ってきた教科書とノートを机にしまい、それからクリアファイルに入れた原稿を手に持って立ち上がった。加藤は廊下がの席で静かに過ごしている。最近、こいつとは仲がいい。どういえばいいのか、オタクの・・・腐女子の才能が加藤にはある気がする。

 

「加藤。これなんだが放課後までに読んでおいてくれるか?」

「あっ安芸くん。おはよう」

「おはよう」

「で、これは?」

「こないだ話したろ。幼馴染ヒロインだよ。軽くまとめてエピソードも考えてきたからさ」

「これを、わたしに読めと?」

「ああ、そうだが」

「このキモイ安芸くんの妄想を?」

「ふふふっ、キモがってくれるなら半分成功なんだけどな」

「よくわかんないけど。安芸くんさ。わたし、オタクと勘違いされるの嫌なんだけど」

「あっ、そうっすか・・・」

 

とかいいながら、加藤はクリアファイルをしっかり受け取ってくれる。そしてなんだかんだ読んでくれる優しいやつだ。このためだけに登校している。あとは授業中に寝るだけだ。

 

「お前・・・最近あいつと仲いいな。なんだっけ加藤?」

「そうだよ」

「へぇ・・・お前がねぇ・・・」

「なんだよ。ほっとけ」

 

上川がじっと加藤の方を見て値踏みをしている。見るな。気付くな。加藤はあのまま目立たないままでいい。

 

「まっ、お前には無理だな」

「何のことだよ?俺は二次元にしか興味ないからな?」

「へいへいっと」

 

扉が開いて先生が入ってきた。老年期に差しかった古文の先生で、授業中にラリホーを唱えているんじゃないか?っていうぐらいみんなが寝る。もちろん俺もねる。

 

※※※

 

「・・・あきくん・・・あきくんってば」

「んにゃ・・・」

「よだれたれてるよ」

「はっ・・・!」

 なんだか甘い香りがする。・・・加藤の匂いだ。

「もうお昼だよ」

「・・・そんな時間か、じゃ、おやすみ!」

「なんで、また寝るのかな?」

「・・・金ない」

「お弁当は?」

「ない」

「お昼ぬくの?」

「結果的にそうなる」

「体によくないよ?」

「金ない」

 

 俺は机に伏したまま目線だけを上にあげると、加藤が前に座ってこちらを見ている。いつものように無表情だけど目はあきれているように俺を見下ろしていた。

 

「もう、しょうがないなぁ」

 

 加藤が席を立って教室から出ていった。俺は再び寝る。ぐぅ・・・とお腹がなった。水でも飲むか。校庭ではつかの間のお昼休みを走り回って遊んでいる連中がいる。元気なことで。

 

 しばらくすると加藤が戻ってきた。

 

「はい」

「おう、サンキューな」

「お礼は?」

「今、サンキューっていったよねぇ!?」

「お礼は?」

「・・・お恵みいただきありがとうございます。加藤様!」

 

 俺は加藤からパンを受け取った。

 

「なぁ・・・加藤」

「なに?」

「これ、カニパンじゃん」

「そうだけど?」

「こういう時はメロンパンだろ?」

「なんで?」

「いいか加藤。学園ハーレムラブコメに置いて、メロンパンは鉄板アイテムだ。美少女のランチタイムといえばメロンパン。これを「はむっ」と猫口にしてもぐもぐ食べるまでが様式美だ」

「頭大丈夫?いらないなら、返して」

「いえ、いただきます・・・」

 

 俺は袋を取り出してカニパンを食べる。カニの形になっている味のついていないパンだ。食パンよりは少し甘いかもしれない。

 

「もぐもぐっ、でだな。ここはやっぱり愛妻弁当を用意するべきじゃないか?」

「誰が誰に?」

「加藤が俺に」

「安芸くん、熱があるなら帰って寝た方がいいよ?」

「いや、素面なんだが」

「それに、どうしてわたしが安芸くんに作ると思うわけ?」

「言ってみただけだから」

「だいたいさ、毎日オタク原稿を送ってくる男子は、通報の対象であっても、恋愛の対象じゃないって自覚ある?」

「・・・あります」

「そう。よかった」

 

 眉ひとつ動かさない。少しは笑えば冗談に聞こえるのに。

 

「やっぱ、好きな相手じゃないとお弁当なんて作らないもん?」

「それ、質問するようなことかな?」

「ですよねぇ~」

 

 俺は誤魔化すためにカニパンを口に詰め込んだ。

 

「んぐっ・・・」

「もう、そんな慌てて食べるから」

「んぐぐぅ・・・」

 

 そんなことより、何か飲物をくれ。冷静に俺を見るな。

 

「何か飲む?」

 俺は懸命に頭を縦に振ってうなずく。加藤が鞄から飲みかけのペットボトルのウーロン茶を取り出し、キャップをゆっくりと外した。そして俺に渡した。それを受け取って、飲み口を少し眺める。それから加藤の顔を見ると頬が少しだけ赤くなっているような・・・気がした。

 

「ゴクゴクゴク・・・ぷはぁ・・・死ぬかと思った」

「そのまま死ねばいいのに」

「なんと!?」

「ちょっと毒舌すぎたかな?」

「今の・・・冗談?」

「なんか、アニメでそんな感じのセリフなかったっけ?」

「まぁ、あるにはあるな。言い方がとか、間が大事だとは思うけど」

 

 俺はもうひと口ほどウーロン茶を飲んで、加藤にペットボトルを渡そうとした。

 

「安芸くん?」

「ん?どうした?」

「いらない」

「そうか・・・?ならもらっていい?」

「ちゃんと返してね。パンとお茶」

「せこいな!」

「そういうのは、けじめっていうんだよ。安芸くん」

「そっか・・・さーせん」

「ちゃんと謝るときは謝った方がいいんじゃないかなぁ」

「ごめん。加藤様」

 

 俺は大げさにおでこを机にこすりつけた。

 

 クスッ

 

 加藤が手を口元に少し当てて笑った。あんまり加藤は笑わないから珍しい。笑うとキュートで、世界が一瞬だけ止まったように思えた。開いている窓から5月らしい爽やかな風が入ってきて、加藤のボブカットの髪を揺らした。

 俺は思わず、そんな加藤を見惚れてしまう。こいつだったらなんとかならないかな?オタクの俺には無理と分かっていても妄想してしまう。

 

「ほんとにお前らって・・・いい感じなんだな」

「うおっ!?」

 

 いつの間にか上川が教室に戻ってきていた。俺は慌てて「そんなんじゃねーよ!」と否定しつつ、加藤の顔色を伺った。加藤は無表情で無言のまま立ち上がって、自分の席に戻っていった。

 

「・・・」

「わりぃ、邪魔したか」

「いや、別に・・・」

 

 放課後に少し話せる。それで十分だ。教室にみんなが戻ってきている時だと恥ずかしいのはわからなくもない。俺がオタクをやめるわけにはいかないから、何が何でも加藤をこっちの世界にひっぱりこむしかない。もう少し一般生徒のようにふるまえればいいのだろうけど・・・

 

 俺は横目で加藤を盗み見る。持ち込んだ雑誌を広げながらクラスメイトと談笑している。別に生真面目な生徒ってわけでもないんだよな。ただ、オタクの俺のことを、他の女子生徒のようにバカにしないだけで・・・

 

加藤がこっちを見るようなことはなく、目が合うこともなかった。

 

※※※

 

 放課後。お陰でゆっくりと眠ることができた。これでまたバイトを頑張れる。

 教室には生徒がそんなに残っていない。部活をしたり、早々と帰ったり、人それぞれだ。教室に残っているやつはよほどの暇人か、楽しく友達をだべっているやつらだ。

 加藤は一人でポツンと雑誌を読んでいた。周りに友達もいない。

 

・・・しょうがないので一言かけてやろう。それに、俺の書いたシナリオの感想も聞きたいし。俺は立ち上がって加藤の隣にさりげなく座った。

 

 よし、一般人のような話題を展開しよう。雑談力はねぇけど、ただのオタクじゃないところもみせないとな。

 

「加藤、何読んでいるんだ?」まずは相手のしていることに関心を示す。

 

「これ?えっと、アウトレットモールの特集だけど」

「あうとれっともーる??」なんの話題かわからなかった。雑誌を覗き見るとお店がたくさん並んでいる。

「わかる?」

「商業施設みたいなもんだろ?」・・・たぶん。

「商業施設みたいなものというか、商業施設そのものだよ」

「正解だな」

「常識だと思うけど」

「こっちはオタクだからな。アキバはわかってもそんなしゃれたところはわからん」

「安芸くんだし、しょうがないよ」

「なんか、今さりげなくバカにしたよね!?」

「さりげなくしたつもりはないけど」

 

 やれやれ、こいつは顔の可愛さと違ってけっこう毒舌。口数少ないし誤解を招くタイプなんじゃないだろうか。

 

「それで、加藤はそこに買い物にでもいくのか?」

「うん。今度、連れてってもらう」

「へぇ・・・誰に?」

「そんなに尋問されたくないんだけど」

「あっ、ごめん」

 

 どうやら聞きすぎたようだ。話題を広げるって難しいな。

 

「別にいいけど。従兄弟がいてね、車もってるから出してくれるって」

「ほぅ・・・いとこね・・・男?」

「男?どういう意味で?」

「性別」

「なら、男だよ。3つ上の大学生」

「学生なのに車もってるとか、金持ちかよ」

「うん。医大生だし、詳しくはわからないけどそうじゃないかな」

「・・・リア充だな」

「それは知らないけど」

「俺はイトコとか兄妹がいないからあまりよくわらかないな」

「そっか」

「そっか?」

「ううん。なんでもない。こっちの話」

「?」

 

 加藤が天井を見ながら考え事をしている。なんだろう?

 

「さてっと、そろそろ帰るね」

「あっ、うん・・・あのさ、加藤」

「何?」

 

 俺が代わりにそんな場所に誘えるわけもなく、従兄弟なら問題ないだろう。そもそも加藤はただのクラスメイトだ。ちょっと仲がいいだけの女子生徒。

 

「えっと・・・どうだった?」

「どうって?」

「読んでくれた?」

「ああ、その話か。うん。読んだよ」

「ありがと。で、どう?」

「どうもなにも、女子に見せるような内容じゃないよね」

「だよな」

「自覚あるなら、やめた方がいいとおもうけど。あれじゃセクハラなんじゃないかな」

「すまん」

 

 加藤が鞄を持って立ち上がった。俺も席に戻って鞄を手にする。教室を出た加藤の背中を追いかけて・・・

 

(一緒に帰らないか?)の一言が出ない。

あるいは隣を歩いて、会話してれば流れで一緒に下校できるだろうか・・・

 

 加藤の後ろをついて階段を降りて下駄箱まできた。ここで上履きからローファーに履き替える。加藤の所作は静かで女の子らしい。片足のつま先をトントンと地面に当てて靴を履いている。スカートの下に伸びる足は形がとても良かった。あんまりじっとみていると不審者になってしまうので、俺もそそくさと靴を履き替えて、加藤の隣に並んで話しかけた。

 

「こないだ薦めたアニメみた?」

「えっと、カグヤ様だっけ?」

「そそ。無難なところで人気作を選んでみたのだけど」

「うん、でもあのアニメって3期だったよ?」

 

 そう。加藤はこんなアニメの話題でも嫌な顔を1つしない。

 

「ネットで1期も2期も見れるだろ?」

「ネット放送とは契約していないから、無料では見れないよね?」

「違法サイトなら・・・」

「そこまでしては、別にいいかなって感じ」

「あっ」

「どうしたの?」

「うちに録画してあるぞ」

「それで?」

「それで・・・うちでなら・・・観れるけど・・・」

 

 いや、何を言っているんだ俺は。

女子生徒がアニメを見に俺の家まで来るわけがない。DVDにでも焼いてやればいいか。加藤がノートパソコンを持っているなら外付けハードディスクごと貸してやれるんだが。

 

「安芸くんの家で観ることができても・・・」

「だよな。加藤ってノートパソコンもってる?」

「もってない」

 

 学校の敷地からでる。帰宅部以外はまだ下校していない。部活やサークルで青春を送っているやつが羨ましい。俺の青春はきっとバイトで終わる。稼いだ金でオタクグッズを集めて・・・俺、なんでこんなにムキになってオタクやっているのだろう?

 

「加藤。ノートパソコン貸すからさ、少し使ってみたら?」

「パソコン使ったことないけど、何ができるの?」

「できるっていうか、アニメが見れる」

「違法の?」

「もちろん違法サイトのも見れるけど、ダウンロードしたものや録画したものも見れる」

「ふーん」

「それでカグヤ様の一期と二期を見ればいいんじゃないか?」

「うん。まぁ・・・そうだよね」

「どうした?」

「えっと、そういう時は『俺の家に観にこない?』って誘う方がスマートかなって」

「えっ」

 

 初夏らしい風が吹いて新緑が揺れる。加藤は左手で髪を少しかきあげ、こちらをじっと見た後、また前を向いて歩きだした。加藤の匂いがする。シャンプーの香りだろうか。

 

「それって・・・誘ったら・・・うちに来るのか?」

「さぁ?そんなの誘われてないとわからないよ」

「そっか、そうだよな」

 

 焦った。

 加藤が何を考えているのかよくわからない。誘えばいいのだろうか?少し無言のまま駅に向かって歩いた。人通りは少ない。俺らの横を部活の団体が走って抜けて行った。

 

「なぁ加藤」

「なに?」

「カグヤ様・・・観たい?」

「・・・別に」

「だよな」

 

 喉が渇く。そういうえばお腹も減っている。それにしてもどっちなんだ?誘って欲しいなら『観たい』と言うはずだ。表情はフラットで俺にはよくわからなかった。

 

 珍しく鯉のぼりを掲げている家があった。ベランダの二階に小さな鯉のぼりが三匹泳いでいた。

 

「ねぇ安芸くん。パソコンって他に何ができるの?」

「ゲームとか、インターネットとか」

「ふーん」

「あとは、音楽聞いたり、文章を書いたり・・・」

「遊びばかりだね」

「まぁな・・・」

 

考えてみれば、初めてノートパソコンを買った時はそれでゲームを作る予定だった。スクリプトも勉強しミニゲームも作ったが、挿絵に困ってやめてしまった。その後は遊びにしか使っていない。家庭用ゲーム機の何倍もの値段がするのに・・・

 

「パソコンのできる人って、なんかこうやってカチャカチャとプログラムを組んでいるイメージがあるけど」

 

加藤は目の前で右手の指を動かした。キーボードを打っているつもりなのだろう。

 

「ああ、もちろん。プログラムもできるよ。スクリプトなら簡単だし・・・」

「スクリプト?」

「人間が読み書きしやすいプログラミング言語のことでさ、扱いやすいんだよ。本格的なソースコードよりもワンクッション置いてるんだ」

「よくわからないんだけど」

「プログラムするためのソフトって言ったらいいんだろうか」

「へぇ・・・それでも大変そう」

「それぐらいなら、覚えれば簡単だよ。アドベンチャーゲームぐらいなら組めるし」

「アドベンチャーゲームって?」

「アドベンチャーゲームって、ほら、ギャルゲーみたいな・・・紙芝居ゲーム」

「ごめん。ぜんぜんわかんない。ギャルゲーしないし」

「・・・だよな」

 

 加藤がよくしゃべる。以前はずっと無口だった気がするけど・・・

 両脇の街路樹にはハナミズキの白い花が咲いている。喫茶店でも入って、詳しく説明してやりたいがあいにく今日も金がない。

 

「安芸くん。そこはやっぱり、『加藤。お前ギャルゲーも知らないのか?今からうちに来い、教えてやる』って痛く誘うところじゃないの?」

「もう、それ痛いって言っちゃってるよねぇ!?」

「安芸くんらしいと思ったけど」

「お前の中の俺はいったいどんなんですか・・・」

「痛いオタク?かな」

「間違ってないけどなっ!」

 

ふぅ、疲れた。やれやれ。どうやら加藤は誘ってもらいたいらしい。二度も話を振ってきたのだ。仮に俺の勘違いでも今なら冗談で誤魔化せそうだ。致命傷は避けられるだろう。

 

さりげなく、さりげなくだ。「加藤。これからさ・・・うちにこにゃいか?」

 

「かんだ」

「ああ、噛みましたよ。かみまみたさ。それがどうした?人間だろ?噛むこともあるだろ?」

「何もそんなに逆ギレしなくてもいいよ」さらっという。

「・・・はい。で、どう?うちにこない?」

「何しに?」

「アニメ観たり、ギャルーゲーを勉強したり」

「ギャルゲーは勉強するものなの?」

「勉強不足のお前にはそうなるだろう?」

「それ、解答になってないよ?」

「ふむ」

「どうしようかな・・・」

「あ~~!」

「何、突然でかい声だして」

「今日、バイトだった」

「・・・」

 

 加藤の瞳から一瞬ハイライトが消えた気がする。

 

「・・・また、今度誘ってよ」

 

 加藤の声が小さくてもにょもにょ呟いた。頬と耳がだいぶ赤くなっている。表情はフラットでも他のところは感情が隠してきれていないようだった。

 

※ ※ ※

 

 俺は家に戻って、手を洗いとうがいを済ませる。

 

「腹減ったなぁ~」

 

 高校生男子である。ランチにカニパン一つでは腹がもたない。バイト先のレストランでまかない飯が出るものの、それまではまだかなり時間があった。何かないかと冷蔵庫を開けても、ろくなものが入っていない。

 棚を確認するとカップ焼きそばが複数しまってあった。

 

「なんで、こんなに各社のレパートリーがそろってんだ?」

 

 俺はその中からオーソドックスな焼きそばを選んで、お湯を注ぎ入れた。出来上がるまでの時間、二階の自分の部屋へ戻り制服を脱いだ。

 自分でいうのもなんだけど、部屋はけっこう片付いている。棚にはフィギュアやラノベが綺麗に並んでいる。壁のポスターは限定品のおまけで希少性がある。

 

「ふぅ・・・」ベッドに腰を掛けた。

 

 ぐるる・・・と腹がなった。ポスターの横の壁が少し変色している。日焼けしている後がある。壁には一本の画鋲が刺さっていたので、それを抜いて眺めた。

 

 綺麗な黄色い透明の画鋲だった。中にキラキラしたものが入っている。

 

「こんなのあったっけ・・・?」

 

 思い出せない。

 

 キッチンの方でタイマーが鳴っている。焼きそばが茹で上がった。

 何かを忘れている気がする。上手く思い出せない。

 さっきまで見ていた夢を思い出せないように、俺にはそれがなんだかわからなかった。

 

(了)

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