英梨々を甘やかして作る物語   作:きりぼー

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日曜のひとときいかがお過ごしでしょうか。

えっ?もう六月・・・嘘やろぉ・・・


英梨々のいない世界で ④

 食堂車に移動した英梨々と詩羽は、おすすめランチを食べながら会話をしている。

 

「あら、けっこうイケるわね。これ」

「そうね。駅弁よりはだいぶマシね」

 

 英梨々がナイフとフォークで白身魚のムニエルを口に運ぶ。味は悪くないが、だからといって感動するほどおいしいわけではない。

 

「それにしても、倫理君と加藤さんの仲は相変わらずよね」

「・・・」

「心配かしら?」

「別に心配なんてしてないわよ。すぐにデレデレしているのが頭にくるだけ」

「ふふっ。恋人らしいセリフね」

「それにしても、どうしてまたこんな変な世界に迷い込んでいるのよ?」

「関係性の問題でしょう」

「また、そういうややこしい言葉を使うんだから」

「あなたと倫理君と加藤さん。この三角関係に苦心してきたのよね」

「・・・うん」

 

 英梨々としては、自分と倫也が結ばれたいけれど、友達の加藤が不幸になるのは嫌だった。せめて2人の仲を認めてもらいたいと思うが、R18原稿のように倫也と英梨々の仲が深まってくると、英梨々と恵は戦争状態に突入する。しかも勝てない。

 

「そこで、このパラレルワールド解釈の拡大ね。倫理君と加藤さんが小説の仲の『倫也と英梨々』を作成するという入れ子構造にすることで、どちらも幸せになると考えたの」

「なるほど・・・って、なんであたしが作中人物になっているのよ」

「だって、それは『事実』じゃないの?」

「あ~!もう、またややこしい話にするんだから」

「あら、澤村さんが望んだことじゃないかしら?」

「・・・」

「せっかくのR18だって、3000文字や設定にこだわって、もたもたするから負けたのよね」

「・・・あれは違うのよ」

「あなたの言い分はどうあれ、それが事実じゃないの」

「でも・・・『R18的英梨々その⑥』を見てもらえればわかる」

「なんていうのかしら。そういう問題じゃないのよ。澤村さんがちゃんと倫理君と・・・」

「ううん。そういう問題なの・・・」

「じゃあ、やっぱり『その⑥』も投稿するしかないわね」

「・・・もう」

 

 英梨々はコンソメスープをスプーンですくって飲んだ。食器もカトラリーも良いものを使っているが、見栄えばかりで肝心のスープはインスタントにアレンジを加えたものなのがわかる。本物ではない。

 

「それにしても加藤さんも流石よね。ちゃんと気持ちを切り替えて、澤村さんの物語を作ろうとするんだから」

「あたし、恵の作った物語は嫌っ」

「じゃあ、どんな『夏いちゃ』にするのかしら。何か案でもあるの?」

「あっ・・・あるにはあるわよ」

「へー」

「へーって、詩羽?ちょっとあたしのことバカにしているわね」

「ちょっとじゃないわよ?」

「・・・と・・・とにかくあるにはあるから」

「説明してごらんなさいよ」

「全部40話よね?」

「だいたいそれくらいの予定じゃないかしら」

 

 詩羽はコンソメスープを残して、ウエイターに下げてもらって、デザートの注文をした。英梨々はアイスティーを注文する。

 

「澤村さんはデザートは食べないのね?」

「あまり期待がもてそうにないじゃない。あたしはあの冷凍生クリームの解凍したものが苦手なのよ」

「そんなの食べてみないとわからないじゃない」

「そっ。だから詩羽が頼んだものを見てから考えるわ」

「まぁいいわ。それで、どんな話にするのかしら?」

「レトロゲーから、最新のゲームまでの名作を毎日一つずつ進めていくというのはどうかしら?」

「はい?」

「インベーダーからファミコン。スーファミ、PCエンジン・・・プレステシリーズ」

「あの、澤村さん・・・」

「なによ。いい案でしょ?」

「あなた、ほんと何もわかってないわね」

「なんでよ。名作ゲームなら魅力的じゃないの」

「ゲームの魅力を伝えてどうするのかしら。ほんと嫌だわ。どうしてこうポンコツな思考回路なのかしら」

「なによ。いったい何がいけないのよ」

「だって、読者に伝えたいのは『英梨々の魅力』であって、『ゲームの魅力』じゃないのよ?あなたと過ごす楽しい時間を描けなかったら意味ないのよ」

「詩羽はあたしのやりたいようにやればいいって言ってなかったかしら」

「それはそうよね。確かにあなたが倫理君と毎日ゲームするのは、あなたにとって幸せかもしれないわね」

「ならいいじゃない」

「ボツ」

「・・・他にもあるわよ」

 

 デザートが運ばれてきた。本日のケーキはフルーツタルトだった。見栄えはいい。

 

「おいしそうじゃない?澤村さんも頼んだら?」

「ちょっと食べてみなさいよ」

詩羽がフォークでタルトを一口食べる。

「・・・まぁ、それなりね」

「でしょ。すみませーんウエイターさーん。フルーツ盛り合わせ一つ追加で」

「なんかずるいわね」

「出されたものは残したくないのよ。口に合わなくても」

「そう。育ちがいいのね」

 

 詩羽はケーキを半分ほど食べたところでフォークを置いた。もう十分だった。ホットコーヒーをブラックで飲み、口に残った生クリームを流し込む。

 

「それで他の案はどんなのかしら?」

「毎日美術館巡りをして、作家について紹介していくの」

「ボツ」

「もう少し、話をきてくれもいいでしょ!」

「だって、途中でダレるだろうし、だいたい40人もの作者について調べるだけでも大変じゃないの」

「やっぱり、そうかしら?」

 

 英梨々はフルーツ盛りのメロンにフォークで刺して口に運んだ。なかなか上質な果物でおいしい。

 

「結局ね、加藤さんに任せるのが無難なのよ」

「恵は一週間をルーティンで進めるっていってたわよね。なんで、そんなことになってるのよ?夏休みなら曜日なんて関係ないじゃない」

「そうでもないんでしょう。去年の経験を生かさないと」

「ほんと、どうしてこう恵は真面目なのかしらね」

「あなたがポンコツだから、バランスをとっているんじゃないかしら?」

「霞ヶ丘詩羽~!」

「ふふふっ」

 

 詩羽は食事を終え、また思索の時間に沈んでいく。この友人である英梨々をなんとか幸せなハッピーエンドにしてあげたいと思う。紆余曲折を経て、過去の失敗や迷走からも何かを学びとって成長する。

目の前の英梨々も笑っている。真面目にやれば大丈夫なはずだ。周りでサポートして、本人が最後までやり遂げればだが・・・

 

「とりあえず、次回は『その⑥』ね」

「もう、好きにしなさいよ・・・」

 

 英梨々が頬を少し染めて、窓の外の代わり映えのない田園風景をみつめていた。

 

(了)

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