投稿予約日時間違えてました。
梅雨が長い。
外はジメジメと雨が降って、校庭の脇に咲いたアジサイの葉を揺らしている。
「ああ、今日はランチがちゃんとあるんだね」
「ふふふっ」
「何、その気持ちの悪い笑い方」
「そんなストレートに言わないでくれる!?傷つくからね?」
「そう?じゃ。ごめん」
「軽いな」
「安芸くんほどじゃないよ」
「まぁいい。今の俺は寛容だからなっ」
俺は机の上に、ホットケモットのノリ弁を置いた。このボリュームでなんと290円。
「お金があったんだ?」
「まぁな。バイト代が入ったんだ」
「なんで高校生が自腹でランチ食べているの?」
「・・・月初めにランチ代をまとめてもらうだろ?すると次の週末には消えてなくなり、俺の部屋のフュギュアが・・・」
「ああ、もうけっこうです。だいたいわかった。もう少し計画的に生きたほうがいいんじゃないないかな」
そういいながら、加藤は机の上にランチBOXを置いた。一度お弁当を作ってきてくれたが、その後は流石に作ってきてはくれなかった。頼めば作ってくれるかもしれないが、そんな義理でもない。俺が毎日、パン一つで我慢しているのを、加藤はあきれてみているだけだった。
加藤がボックスを開けると、彩りの華やかなサンドイッチが並んでラップに包まれていた。
「いいな・・・」
「安芸くんには自慢のお弁当があるんでしょ?」
「まぁな。加藤は食ったことある?この磯部揚げがさ、上手いんだよ」
「うん。おいしいよね。時々揚げるよ」
「磯部揚げって家で作れるのかよ・・・」
「作れるも何も、ちくわのテンプラだよね?青のりがはいっているけど」
「へぇー」
「へぇーって、なんだと思ってたの?」
「いや、深くは考えてないけど・・・家のテンプラで出てきたことないな」
「お母さんに頼んでみたら?」
「そうだな。でも、うちの親はあんまり飯を作らないからさ。つか、家にあんまりいない」
「そうなんだ?複雑な家庭事情?」
「共働き。それよりもさ、加藤。俺のこの・・・お新香とそのサンドイッチをトレードしないか?」
俺はまだ手を付けていない箸でピンク色にそまった大根?らしきお新香をつまんだ。
「あのさ・・・寝言は寝て言った方がいいよ?」
「そんなに怒るの!?」
「だって、いくらなんでもバカにされている気分だよ。ブロッコリーと交換してあげようか?」
「いや、けっこう」
「野菜も食べたほうがいいんじゃないかな」
「だから、このピンクの大根をだな・・・加藤に食べてもらおうと」
「はいはい」
加藤はそういってラップから取り出したサンドイッチを食べ始めた。口を開けた瞬間の加藤に魅入ってしまう。なんか、すごく・・・いやらしい・・・いや、セクシーな印象を受ける。
いかんな、なんでランチ中に俺は発情し始めてんだ。欲求不満かもしれないな。
「けどさ。いくらなんでも、この磯部揚げ、もしくはこのメインディッシュの白身魚のフライをトレードにはだせないぞ?」
「他にも方法があると思うけど?」
「えっ、何?ノリ弁からノリを奪うの?」
「ううん」
「?」
「磯部揚げと魚フライの両方と交換」
「重税だなっ!」
ツッコミに納得いってないようだったが、加藤がサンドイッチを1つくれた。
「野菜はたべないと・・・ね」
それはトマトとキュウリのなんの変哲もない普通のおいしいサンドイッチだった。
※ ※ ※
昼休み窓辺で、加藤とランチタイムを過ごすのが恒例になり、なんだかリア充の気分を俺は味わっている。上川や他の生徒も気を使ってか、あまり教室にはすぐには戻ってこない。
いつも俺は5時間目にアクビをかみ殺して戦っていたが、6時間目になる頃には睡魔に完敗をしていた。こうして今日も無駄な学校生活を終える。
放課後。どの部活にも所属していない由緒正しき帰宅部の俺と加藤は、なんだかんだ一緒に帰るようになった。どちらともなんとなく歩調を合わせて下駄箱に向かう。
降りしきる雨を見上げてから、加藤は手元の赤い傘を見つめている。俺は隣で黒い傘をバッと開いて、左手でもった。
「どうした・・・?」
「ううん。なんでもない」
加藤は何か言いたげだったけど、赤い傘を開いて雨の中に歩いていった。
「そうだ、安芸くん。夏休みの短編集についてなんだけど」
「うん」
雨のせいで、加藤の声が遠い。近寄ると傘が少しぶつかってしまった。
「プロットをちゃんと作ったらいいんじゃないかな?」
「それは基本だよな」
「うん。それでね、ちょっと考えてみたんだけど。1週間の繰り返しって話したよね?」
「月曜が休みで週末におでかけイベントだっけ」
「うん。火曜日は創作活動。水曜日はくだらない事。木曜日はアルバイトでどうかな?」
「バイトはしているけどさ」
傘にぶつかる雨の音がうるさい。
加藤はそれが気になるのか、なんどか俺の傘を見ている。それから、立ち止まった。
「・・・加藤・・・?」
「あのさ、恋人・・・えっと、幼馴染の英梨々って子のことを書くんだよね?」
「うん。加藤にさ、幼馴染の大事さを知ってもらいたいしな」
「その動機もよくわからないけど・・・」
そう言いながら加藤は赤い傘を閉じ、俺の傘の中に入ってきた。
「・・・えっ」俺はドギマギとしてしまう。
「・・・取材だよっ・・・」
加藤が小さな声でつぶやいた。取材?取材ってなんだ?どういうことだ?なんで加藤が俺の傘にはいってきた?なんで、相合傘になっているんだ?
「ほら、安芸くんは相合傘の体験なんて絶対してないだろうし」
「確信をもっていってくれるが、あるぞ?」
「どうせ、お母さんでしょ?」
「・・・うん。・・・心、読まないでくれる?」
隣にいる加藤が少し離れている。俺は傘を加藤の方に傾けて濡れないようにした。俺の右側の肩と鞄に雨がかかるがこれはもうしょうがない。
「あまり、役立たないかな・・・」
「そんなことない。そんなことねぇよ」
「そう?」
加藤の足元のローファが水滴を弾いている。雨の匂い。それから加藤の揺れる髪から甘い香りがする。加藤が隣に歩いてくれるだけで、こんなにもドキドキする。
そして、心が痛むんだ。
でも、俺はそれを悟られないようにする。なぜ、心が痛むのか自分でもよくわからなかった。
俺たちは沈黙したまま、傘に当たる雨粒の音を2人で聞いていた。さっきまであんなにうるさかったのに、今は気にならない。
角の道を曲がり、このまままっすぐ行けば駅に着く。時間だけが静かに過ぎていった。
駅に着くと、加藤が傘からゆっくりと出ていった。赤い傘を一度開いて水を弾いてから、クルクルと回して閉じ、ボタンで留めている。
駅のホームは空いていて、イスに座れたけれど、濡れてもいないに雨の日は座る気がしない。並んでたったまま電車が来るのを待った。加藤は途中でラックの中からバイト情報誌を一部を手にとった。
「それでね。例えば木曜日のアルバイトの話なんだけど。それだけを集めたプロットを作ったら方がいいと思う」
「どういうこと?」
そうだ。プロットの話を加藤としていた。相合傘の話じゃない。俺の相合傘の経験は何か役に立つかな?とぼんやりと考えながら、加藤の話に耳を傾ける。
「初日から順番に日時を追って制作するよりも、バイトならバイトの話だけをまとめて作った方がいいと思うの。だいたい40日だと5日間ぐらいはバイトの話になるよね?」
「ふむ。それで」
「バイトに関連した、全5話の話で作った方が、まとまりが出るんじゃないかな」
「なるほど・・・」
ホームにいる人が傘をトントンと、さっきから仕切りに地面に叩いて水を落としている。そこに小さな水溜まりができて線路の方へ流れていった。
「バラバラの話でなくて?」
「バラバラでもいいと思うけど。えっと・・・」
「もう少し具体的な例が欲しいな」
「じゃあ、えっと、バイトで成功するとどうなると思う?」
「時給が上がる!」
「・・・そっか。うん。そうだよね。それでいいんじゃないかな」
「えっ、なんか間違ってた?」
「ううん。ただ、それが話のクライマックスっておかしくない?」
「そういうことか・・・うーん。急に言われてもな」
「起承転結が大事なんだよね?」
「うん」
ホームに電車がくるアナウンスが流れた。マイクの音量が大きいせいか、音が割れて聞き取りづらかった。ローカル線の緑の電車がホームに到着し、静かにドアが開いた。
俺と恵は並んで座った。座ると恵は鞄からレポート用紙を取り出して俺に見せた。
「構成はこんな感じでどうかな?」
「・・・なるほど。曜日別のエピソードを作ってから、日付順に並べ替えるわけだな」
「うん」
「それなら、バイトの話だと・・・①バイトの日常 ②バイトの日常伏線 ③バイトの日常・・・」
「さっきから、バイトの日常しかいってないよ?」
「④で転があって、⑤で解決篇だから・・・」
「・・・」
「えっ、ダメ?」
「うん。ダメ」
「えっ、どうしたらいいの?」
「あのね、安芸くん。バイトは舞台であって、主題ではないよね?」
「舞台?主題?」
「うん。あくまでも大事なのは、バイトをすることでなく、バイトを通して主人公と幼馴染ヒロインの距離が縮まることだよね。この英梨々って子が可愛いのが主題であって、バイトの日常を描いてもしょうがないんじゃないかな?」
「ああ、じゃあ、効率よく新聞配達するためのテクニック紹介とか、雨の日だとすごく大変とか、そういう話ではないと?」
「もちろん、そういうリアリティーは大事だと思うけど」
加藤はそう言いながら、分厚いレポート用紙をペラペラとめくっていた。あちこちに伏せんがある。
電車は駅で停まって、乗客が乗り降りして、また動き出す。
「英梨々を絡めたバイトの話ってことだよな?」
「そうじゃないと意味がないよね」
「例えば、①では、バイト先に遊びに来る英梨々だな」
「うん」
「②はちょっとしたアクシデントから、バイト先に絡んでくるような話か」
「そうだよね。安芸くんレストランでバイトしているんだっけ?」
「おう。旨いぞ?今度来るか?」
「それ!」
「どれ?」
「それが第一話的って話」
「ああ、・・・うん。そうだな。第二話では足らなくなった食材を常連の英梨々が買いにくような話か」
「うんうん」
「で、第三話では忙しくて店を手伝うみたいな」
「そうだねぇ・・・」
「英梨々は絵も上手だから、メニュー表をデザインしたりして・・・」
「そうそう・・・」
「どうした・・・?」
「・・・それ、もう過去に安芸くん作ったよね」
「なんのことだ?」
ちょっと加藤の行っていることがわからない。
加藤はレポートをめくって、俺に渡した。そこには俺がバイトしていて英梨々と絡む話がのっている。途中で英梨々が投げ出した話だった。
「よく覚えているな・・・」
「多少わね。でね、安芸くん。二番煎じと言われても舞台が変われば許されるかもしれないし」
「ん?」
「バイト先、変えてみようか」
「はいっ!?」
「背に腹はかえらないよ。安芸くん」
「いや、お前なにを・・・」
「だからね。探しておいてくれるかな?英梨々と一緒にバイトできそうなところ」
そういって、加藤はさっき駅で手に入れたバイト情報誌を俺に渡した。
「・・・準備がいいな」
「安芸くんと英梨々が準備不足過ぎるだけじゃないかな?」
「・・・ごめん」
やれやれシナリオ作りのために現実を犠牲にするなんて・・・今のレストラン、けっこう気に入ってるのだけど。
「それが決まったら、5話分のプロットを持ってきてくれる?」
「・・・はい」
「スケジュールつまっているから」
「おう・・・」
いつの間にか加藤にスケジュール管理をされていた。杜撰な俺にはできない。シナリオなんてシナリオライターを見つけて、丸投げするのが社会人じゃないかと思うけど。シナリオが書けそうな知り合いが誰もいないので、自分でやるしかなかった。
「これで、絵を描くやつがいれば・・・ゲームを組めるんだけどな」
「安芸くん」
「はい」
「それは、まともなシナリオができてからの話だよね?だよね?」
「・・・二度繰り返さなくていいからね・・・」
なんか恵の目が怒っている気がした。心あたりがあるような、ないような。
電車が加藤の最寄り駅に停まった。加藤は立ち上がって、傘を手に持って降りた。俺はその後ろ姿を見送った。制服のスカートから加藤の生足が見える。黒いソックスとローファーもとてもよく似合っている。
「俺・・・やっぱり欲求不満だな」
独り言を言った。ドアが閉まり電車が動いていく。加藤と過ごす時間はすぐに過ぎ去っていった。
(了)
夏いちゃを倫也と作りたい加藤の執念を感じる・・・