英梨々を甘やかして作る物語   作:きりぼー

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日曜のひとときいかがお過ごしでしょうか

『告知』

夏イチャですが、表に投稿予定です。12時05分で固定するか、バラバラにするか迷います。
英梨々としては目標二桁読者獲得です。
出来栄えとしては、去年の『夏いちゃ』よりは進歩していると思います。


英梨々のいない世界で ⑧

 加藤がキッチンで卵を泡立てている。

 

学校の夏服にピンクのシンプルなエプロンは良くに似合っていて、その後ろ姿に見惚れていると、ついムラムラとした衝動を感じずにはいられなかった。

欲求不満かな・・・心当たりがあるような・・・ないような・・・

 

「ねぇ、安芸くん。バカなこと考えるところで申し訳ないんだけど、生クリームを買ってきてくれるかな?」

「心の中は丸見えですかー、そうですかー、かしこまりましたー」

「うん。お願い」

 

 加藤に勝てる気がしない。結婚したら尻に敷かれるんだろうな。そんなことを考えつつ、俺は買い物に出かけた。

 

 スーパーには生クリームが複数ある。動物性と植物性。箱にはいったすでにホイップされているものもある。どれがいいのかよくわからない。加藤のことだから、きっと泡立てて作るだろうから、一番高い動物性のものを選んでカゴにいれる。それと、缶スプレータイプのホイップクリームがいったいどんなのか気になる。値段は張るがこれもカゴに入れた。

 お菓子コーナーに移動して、メイプルシロップも購入する。家にハチミツがあった気がするが、腐るものでもないし、その内使うだろう。それから、チョコシロップも気になる。生クリームとチョコの相性はバツグンだしな。これも買っておこう。

チョコシロップも買ったら、やっぱりバナナぐらいは買っておくかと、青果売り場に移動してバナナをカゴにいれ、ちょっと見栄を張って、大粒の苺もカゴにいれる。

 飲料コーナーでドクペを買って、レジに並んだ。会計が3000円を超えている。おかしい、生クリームを買いに来ただけなのに。

現金をそんなに持ち合わせていなかった。しょうがないのでスマホ決済で会計をする。

俺がスマホで会計できることは、加藤には内緒だ。学校で些細な小銭のやり取りの楽しみがなくなる。

 

※※※

 

「ただいま」

「おかえり」と、加藤はキッチンから顔を出して迎えてくれた。

 

髪が揺れている。エプロン姿が似合っていて可愛い。こんな嫁さんがいたら幸せだろうなと思いつつ、買ってきたものをキッチンに並べる。あたりはホットケーキの焼ける甘い匂いに包まれていた。

 

「ずいぶんと買ってきたね」

「うん、まぁ・・・使えたらと思って」

「うん。もうできるから、座っててね」

「飲物は?」

「まだだけど」

「コーヒー淹れようか?」

「うん」

 

 コーヒーメーカーを出して、モカブレンドをコーヒーフィルターにいれてセットする。しばらくたつと、ポツポツと音がなって、水滴が落ち始めた。

 加藤はバナナと苺をカットして、焼きあがったホットケーキの横に盛り付けると、缶スプレーのホイップクリームの説明を読んでいる。

 

「それ、初めてか?」

「使うのは初めて。これってハワイアンカフェで使われているのと同じかな?」

「ハワイアンカフェってなんですか・・・」

「モアナキッチンとか。薄いパンケーキに、これでもかってぐらい生クリームの山の盛り付けを見たことない?」

「あ~、あるような、ないような・・・」

 

 加藤が缶を上下に振っている。その仕草が妙にエロい。もしかして俺って、欲求(ry

 

「・・・あのね安芸くん?」

「ココロノナカハ ヨマナイデネ」

「ふざけてもダメだから、自業自得だと思うよ?」

「そう?」

 

 心当たりがない。欲求不満の自業自得とはこれいかに。

 加藤が重ねたパンケーキに生クリームでデコレートしていった。ソフトクリームのような盛り付けで、初めてにしては上手だった。どこにあったか、アーモンドスライスをかけている。

 

 俺は出来上がったコーヒーを、来客用のカップ&ソーサーで用意する。ケーキが甘そうなので砂糖はいらないだろう。テーブルに運ぶ。加藤もテーブルにパンケーキを置いた。洒落た店で出てくるような出来栄えだった。盛り付けがとても上手で加藤のセンスの良さがわかる。

 

「メイプルとハチミツとチョコシロップがあるけど、どれか使うか?」

「ううん。用意してきたから」

 

 加藤がテーブルの上に瓶を置いた。ラベルは何も貼ってない。

 

「これ、自家製のラムレーズン」

「ラムレーズン・・・あのアイスクリームのやつか?」

「その元になるのかな。かけていいかな?」

「頼む」

 加藤がビンを開けて、コーヒースプーンでレーズンシロップを生クリームの上からかけた。彩りとしてはシンプルだ。ラム酒の香りが漂っている。

 

「これぐらいかな。量がよくわからないから、足らなかったら、たしてかけてくれる?」

「わかった。いただきます!」

「どうぞ」

 

 ナイフとフォークでパンケーキをカットして、生クリームをたっぷりつけて口に入れた。ラムの香りで大人っぽい味がする。甘さは十分にあった。チョコシロップのような重さもなく、けっこうあっさりと食べることができた。

 

「どう?」

「うまいよ。これ、自家製ってどういうこと?」

「レーズンと砂糖とラム酒で簡単に作れるみたいだったから、挑戦してみたの。うん。ちゃんと美味しい」

 

 加藤も食べてみて、満足しているようだった。フルーツにもよく合う。

 

「で、本題に入ろうか。安芸くん」

「おう」

「一応、マンガ喫茶でのイベントは出来上がったみたいだし、次は月曜日のアニメ鑑賞会かな。カレンダーを見ると6回くるから、6つアニメを選んでくれる?」

「俺が?」

「他に誰がいるの?」

「ふむ・・・。そうだな。まずは英梨々が好きそうなジャンルで集めてみようか」

「好きなジャンルって?」

「幼馴染が勝つラブコメ」

「あーそう」

「古くはタッチィなんかもそうなんだけどな。あれ、アニメだと100話ぐらいあるからさ、ちょっと全部見るにはしんどいんだ」

「それで?候補はあるんでしょう?」

「過去に観ていて、見直さなくても何とかなりそうなのが、『ハガレン』と『四月は君の嘘』だな」

「名作アニメだっけ?ハガレンは聞いたことあるような気がするけど」

「ああ、そうだな。加藤はどっちも観たことないのか?」

「うん、アニメはあんまりみないし」

「よし、なら見るか」

「それは後でいいとして、あと4つは?」

「そうだな・・・映画で『アイの歌声を聴かせて』が一応幼馴染ものだったな」

「それは新作だよね?」

「そうだな。出来栄えはまずまずだけど、はずれではないと思う」

「別にここで感想はいわなくていいんじゃないかな」

「・・・そうか。『True tears』や『この中に一人妹がいる』なんかがあるから、それにしようかと」

「それは聞いたことないけど?」

「幼馴染ヒロインが勝つアニメで検索したら出てきた」

「妹なのに?」

「詳しくはわからないけど・・・観てみないとな。つまらないならつまらないで、それも作品だし」

「ふーん。最後の1つは?」

「それなんだがな・・・」

 

 俺は口の中にパンケーキを詰め込み、コーヒーで流し込んだ。苦いコーヒーがちょうどいい。加藤はマイペースにパンケーキを小さくカットしながら上品に食べている。

 

「『惑星のさみだれ』が夏アニメで始まるんだよ。原作ファンとしてはそれがけっこう気になっているから、それにしようかと・・・」

「それはいいけど、幼馴染は関係あるの?」

「いや、でも構成が騎士物語だから、英梨々は好きなはずだ」

「騎士物語って?」

「ほら、ボーイミーツガールの王道だよ。困ったお姫様を助ける騎士の話。有名なのだとラピュタとか」

「ああ、なるほどね。いいんじゃないかな。でも、それだと放送分の1話だけになるよね?」

「それで別に問題はないと思うけど。なにか問題ありそうか?」

「わたしにはわかんないよ・・・」

 

 加藤の顔がほんのりと赤い。いったいどうしたんだろう?

 

「じゃあ、それでいいとして・・・次は火曜日ね。火曜日は創作活動をしてもらおうと思っているけど、夏らしくって、英梨々にできそうなのってあるかな?」

「簡単なのだと、風鈴の絵付けだろ。それから、夏コミ用のポスター。団扇に絵を描くのもできそうだな」

「それで三つだよね。確かにわたしでもできそう」

「できると思うぞ?100均とかでも売っているしな」

「へぇー。そう。でも、わたしじゃなくて、英梨々と作るんでしょ?」

「・・・シナリオの話だからね!?」

「わかってるけどさぁー」

 

 加藤のしゃべり方が少しゆっくりになっている。それから頬が赤い。パンケーキはほとんど食べ終わっていた。コーヒーを飲み、物憂げに器をみている。

 

「挑戦としては、浴衣の染色とかどうかと思ってるんだが」

「染色?」

「ああ。染色教室に行って、浴衣用の生地を染めてだな。自家製の浴衣を作ってもらおうかと・・・」

「安芸くんさー」

「はい」

「楽しそうでいいねー」

「楽しいシナリオにしたいだろ?」

「そうだよねー」

「それとな、創作ではないけれど・・・」

「もうどうでもいいんじゃないかな?」

「あの・・・加藤?」

「加藤じゃない」

「えっ」

 

 あっ。わかった。ラム酒だ。ごく少量のラム酒で加藤が少し酔っているようだ。ラブコメヒロインらしく、酔いやすい。

 加藤の俺を見る目が座っている。ハイライトはないが瞳が潤んでいるように見える。泣いているわけではないのだろうけど。

 

 フォークでつまらなそうに、実につまらなそうにバナナを刺して、それからカットしたイチゴを重ねて刺した。

 

「わたしね。安芸くん」

「はい・・・」

「安芸くんのことが・・・好き」

 

 その声はいつもように澄んでいた。

俺は慌てて窓の方をみる。・・・いや、何も起きるはずがない。加藤はもう・・・メインヒロインとして呪われていないのだから。

 

 加藤が俺の口の方に、果物の刺さったフォークを向けた。これをパクリと食べれば実に恋人らしいと思う。

けれど、俺は加藤の恋人ではないし・・・

 

「きっと、酔っているんだ」

 俺はそういって、加藤がもっているフォークを受け取り、くるりと反転させて、加藤の口に向けた。

 

「いらない」

「・・・そうか」

 

 皿の上にフォークを置く。コーヒーはもう残っていなかった。器の底が茶色く染まっていた。

 

「つまんない」

 

 つまんないというセリフをつまらなそうに加藤は言った。

そして、目がとろんとしてきて、テーブルの上に伏した。

 

「恵・・・・」

 

 加藤は顔を伏せたまま、首を小さく振った。

 

「次、水曜日・・・」

 

と寝言のようにむにゃむにゃと口ごもって、そして、そのまま眠ってしまった。

 

(了)




加藤・・・すまん。

次回は7月22日金曜日の投稿で、ラストになります。

よく、23日土曜日から表で『夏いちゃ』はじまります。
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