『告知』
夏イチャですが、表に投稿予定です。12時05分で固定するか、バラバラにするか迷います。
英梨々としては目標二桁読者獲得です。
出来栄えとしては、去年の『夏いちゃ』よりは進歩していると思います。
加藤がキッチンで卵を泡立てている。
学校の夏服にピンクのシンプルなエプロンは良くに似合っていて、その後ろ姿に見惚れていると、ついムラムラとした衝動を感じずにはいられなかった。
欲求不満かな・・・心当たりがあるような・・・ないような・・・
「ねぇ、安芸くん。バカなこと考えるところで申し訳ないんだけど、生クリームを買ってきてくれるかな?」
「心の中は丸見えですかー、そうですかー、かしこまりましたー」
「うん。お願い」
加藤に勝てる気がしない。結婚したら尻に敷かれるんだろうな。そんなことを考えつつ、俺は買い物に出かけた。
スーパーには生クリームが複数ある。動物性と植物性。箱にはいったすでにホイップされているものもある。どれがいいのかよくわからない。加藤のことだから、きっと泡立てて作るだろうから、一番高い動物性のものを選んでカゴにいれる。それと、缶スプレータイプのホイップクリームがいったいどんなのか気になる。値段は張るがこれもカゴに入れた。
お菓子コーナーに移動して、メイプルシロップも購入する。家にハチミツがあった気がするが、腐るものでもないし、その内使うだろう。それから、チョコシロップも気になる。生クリームとチョコの相性はバツグンだしな。これも買っておこう。
チョコシロップも買ったら、やっぱりバナナぐらいは買っておくかと、青果売り場に移動してバナナをカゴにいれ、ちょっと見栄を張って、大粒の苺もカゴにいれる。
飲料コーナーでドクペを買って、レジに並んだ。会計が3000円を超えている。おかしい、生クリームを買いに来ただけなのに。
現金をそんなに持ち合わせていなかった。しょうがないのでスマホ決済で会計をする。
俺がスマホで会計できることは、加藤には内緒だ。学校で些細な小銭のやり取りの楽しみがなくなる。
※※※
「ただいま」
「おかえり」と、加藤はキッチンから顔を出して迎えてくれた。
髪が揺れている。エプロン姿が似合っていて可愛い。こんな嫁さんがいたら幸せだろうなと思いつつ、買ってきたものをキッチンに並べる。あたりはホットケーキの焼ける甘い匂いに包まれていた。
「ずいぶんと買ってきたね」
「うん、まぁ・・・使えたらと思って」
「うん。もうできるから、座っててね」
「飲物は?」
「まだだけど」
「コーヒー淹れようか?」
「うん」
コーヒーメーカーを出して、モカブレンドをコーヒーフィルターにいれてセットする。しばらくたつと、ポツポツと音がなって、水滴が落ち始めた。
加藤はバナナと苺をカットして、焼きあがったホットケーキの横に盛り付けると、缶スプレーのホイップクリームの説明を読んでいる。
「それ、初めてか?」
「使うのは初めて。これってハワイアンカフェで使われているのと同じかな?」
「ハワイアンカフェってなんですか・・・」
「モアナキッチンとか。薄いパンケーキに、これでもかってぐらい生クリームの山の盛り付けを見たことない?」
「あ~、あるような、ないような・・・」
加藤が缶を上下に振っている。その仕草が妙にエロい。もしかして俺って、欲求(ry
「・・・あのね安芸くん?」
「ココロノナカハ ヨマナイデネ」
「ふざけてもダメだから、自業自得だと思うよ?」
「そう?」
心当たりがない。欲求不満の自業自得とはこれいかに。
加藤が重ねたパンケーキに生クリームでデコレートしていった。ソフトクリームのような盛り付けで、初めてにしては上手だった。どこにあったか、アーモンドスライスをかけている。
俺は出来上がったコーヒーを、来客用のカップ&ソーサーで用意する。ケーキが甘そうなので砂糖はいらないだろう。テーブルに運ぶ。加藤もテーブルにパンケーキを置いた。洒落た店で出てくるような出来栄えだった。盛り付けがとても上手で加藤のセンスの良さがわかる。
「メイプルとハチミツとチョコシロップがあるけど、どれか使うか?」
「ううん。用意してきたから」
加藤がテーブルの上に瓶を置いた。ラベルは何も貼ってない。
「これ、自家製のラムレーズン」
「ラムレーズン・・・あのアイスクリームのやつか?」
「その元になるのかな。かけていいかな?」
「頼む」
加藤がビンを開けて、コーヒースプーンでレーズンシロップを生クリームの上からかけた。彩りとしてはシンプルだ。ラム酒の香りが漂っている。
「これぐらいかな。量がよくわからないから、足らなかったら、たしてかけてくれる?」
「わかった。いただきます!」
「どうぞ」
ナイフとフォークでパンケーキをカットして、生クリームをたっぷりつけて口に入れた。ラムの香りで大人っぽい味がする。甘さは十分にあった。チョコシロップのような重さもなく、けっこうあっさりと食べることができた。
「どう?」
「うまいよ。これ、自家製ってどういうこと?」
「レーズンと砂糖とラム酒で簡単に作れるみたいだったから、挑戦してみたの。うん。ちゃんと美味しい」
加藤も食べてみて、満足しているようだった。フルーツにもよく合う。
「で、本題に入ろうか。安芸くん」
「おう」
「一応、マンガ喫茶でのイベントは出来上がったみたいだし、次は月曜日のアニメ鑑賞会かな。カレンダーを見ると6回くるから、6つアニメを選んでくれる?」
「俺が?」
「他に誰がいるの?」
「ふむ・・・。そうだな。まずは英梨々が好きそうなジャンルで集めてみようか」
「好きなジャンルって?」
「幼馴染が勝つラブコメ」
「あーそう」
「古くはタッチィなんかもそうなんだけどな。あれ、アニメだと100話ぐらいあるからさ、ちょっと全部見るにはしんどいんだ」
「それで?候補はあるんでしょう?」
「過去に観ていて、見直さなくても何とかなりそうなのが、『ハガレン』と『四月は君の嘘』だな」
「名作アニメだっけ?ハガレンは聞いたことあるような気がするけど」
「ああ、そうだな。加藤はどっちも観たことないのか?」
「うん、アニメはあんまりみないし」
「よし、なら見るか」
「それは後でいいとして、あと4つは?」
「そうだな・・・映画で『アイの歌声を聴かせて』が一応幼馴染ものだったな」
「それは新作だよね?」
「そうだな。出来栄えはまずまずだけど、はずれではないと思う」
「別にここで感想はいわなくていいんじゃないかな」
「・・・そうか。『True tears』や『この中に一人妹がいる』なんかがあるから、それにしようかと」
「それは聞いたことないけど?」
「幼馴染ヒロインが勝つアニメで検索したら出てきた」
「妹なのに?」
「詳しくはわからないけど・・・観てみないとな。つまらないならつまらないで、それも作品だし」
「ふーん。最後の1つは?」
「それなんだがな・・・」
俺は口の中にパンケーキを詰め込み、コーヒーで流し込んだ。苦いコーヒーがちょうどいい。加藤はマイペースにパンケーキを小さくカットしながら上品に食べている。
「『惑星のさみだれ』が夏アニメで始まるんだよ。原作ファンとしてはそれがけっこう気になっているから、それにしようかと・・・」
「それはいいけど、幼馴染は関係あるの?」
「いや、でも構成が騎士物語だから、英梨々は好きなはずだ」
「騎士物語って?」
「ほら、ボーイミーツガールの王道だよ。困ったお姫様を助ける騎士の話。有名なのだとラピュタとか」
「ああ、なるほどね。いいんじゃないかな。でも、それだと放送分の1話だけになるよね?」
「それで別に問題はないと思うけど。なにか問題ありそうか?」
「わたしにはわかんないよ・・・」
加藤の顔がほんのりと赤い。いったいどうしたんだろう?
「じゃあ、それでいいとして・・・次は火曜日ね。火曜日は創作活動をしてもらおうと思っているけど、夏らしくって、英梨々にできそうなのってあるかな?」
「簡単なのだと、風鈴の絵付けだろ。それから、夏コミ用のポスター。団扇に絵を描くのもできそうだな」
「それで三つだよね。確かにわたしでもできそう」
「できると思うぞ?100均とかでも売っているしな」
「へぇー。そう。でも、わたしじゃなくて、英梨々と作るんでしょ?」
「・・・シナリオの話だからね!?」
「わかってるけどさぁー」
加藤のしゃべり方が少しゆっくりになっている。それから頬が赤い。パンケーキはほとんど食べ終わっていた。コーヒーを飲み、物憂げに器をみている。
「挑戦としては、浴衣の染色とかどうかと思ってるんだが」
「染色?」
「ああ。染色教室に行って、浴衣用の生地を染めてだな。自家製の浴衣を作ってもらおうかと・・・」
「安芸くんさー」
「はい」
「楽しそうでいいねー」
「楽しいシナリオにしたいだろ?」
「そうだよねー」
「それとな、創作ではないけれど・・・」
「もうどうでもいいんじゃないかな?」
「あの・・・加藤?」
「加藤じゃない」
「えっ」
あっ。わかった。ラム酒だ。ごく少量のラム酒で加藤が少し酔っているようだ。ラブコメヒロインらしく、酔いやすい。
加藤の俺を見る目が座っている。ハイライトはないが瞳が潤んでいるように見える。泣いているわけではないのだろうけど。
フォークでつまらなそうに、実につまらなそうにバナナを刺して、それからカットしたイチゴを重ねて刺した。
「わたしね。安芸くん」
「はい・・・」
「安芸くんのことが・・・好き」
その声はいつもように澄んでいた。
俺は慌てて窓の方をみる。・・・いや、何も起きるはずがない。加藤はもう・・・メインヒロインとして呪われていないのだから。
加藤が俺の口の方に、果物の刺さったフォークを向けた。これをパクリと食べれば実に恋人らしいと思う。
けれど、俺は加藤の恋人ではないし・・・
「きっと、酔っているんだ」
俺はそういって、加藤がもっているフォークを受け取り、くるりと反転させて、加藤の口に向けた。
「いらない」
「・・・そうか」
皿の上にフォークを置く。コーヒーはもう残っていなかった。器の底が茶色く染まっていた。
「つまんない」
つまんないというセリフをつまらなそうに加藤は言った。
そして、目がとろんとしてきて、テーブルの上に伏した。
「恵・・・・」
加藤は顔を伏せたまま、首を小さく振った。
「次、水曜日・・・」
と寝言のようにむにゃむにゃと口ごもって、そして、そのまま眠ってしまった。
(了)
加藤・・・すまん。
次回は7月22日金曜日の投稿で、ラストになります。
よく、23日土曜日から表で『夏いちゃ』はじまります。