チラ裏での政策裏舞台は今回で一段落です。
英梨々は寝台車のベッドに仰向けに寝転がり、足を組んでレポートを読んでいる。だらしなく帯で留めていたので、浴衣がずれて足が露わになっていた。おまけに白い下着までチラリと見えてしまっている。
詩羽はベッドに腰を掛けて文庫本を読み、何かを閃いたらメモをとっていた。
窓の外はもう真っ暗だった。部屋の電気を消したら、夜空に星が浮かぶのが見えるだろう。
「詩羽ぁ。この水曜日のくだらないことって、どんなイベントのこと?」
「一言でいうなら、小学生みたいなことよ」
「子供っぽいってことよね。どうしてかしら?」
「あなたが幼馴染ヒロインだからよ。以前、夏休みに自宅のビニールプールで、スーパーボール掬いをして遊んでいたでしょう?あのイメージね」
「ふーん・・・そういう需要があるわけ?」
「需要なんてどうでもいいわよ。そもそも需要で考えたら、澤村さんを主役にする必要なんてないわよね」
「霞ヶ丘詩羽~!って、まぁいいわよ。じゃあなんでかしら?」
「それは澤村さんでしかできないことだからよ。加藤さんが幼いことをしても、おかしいでしょう」
「それ、あたしが幼いってことよね?」
「そうね。あなたが持つ特徴よね。幼馴染の特権とも言えるわね」
「じゃあ・・・メンコでもしようかしら」
「・・・」
「冗談よ。冗談」
「どうしてこう加齢臭くさいのかしら」
「ベーゴマもダメよね」
「聞くまでもないわね」
「でも、新しいことっていうと、最近の小学生だとニンテンドー3DSとかになるのよね?」
「それも古いわよ。今だとSWITCHかしら。でもそういうのじゃダメよ」
「駄菓子屋」
「一つはそれでいいと思うわよ。毎回駄菓子だと、『だがしかし』みたいになってしまうけど、一回ぐらいはいれておきたいわね」
「なら、たまにはスモモでも食べようかしら。スモモって普段は食べないし」
「赤い酢漬けの?」
「そう。あれも、おいしい時と不味い時あるのよ」
「もう記憶にないわね。ストロー刺すのが難しくって、服を汚したことならあった気がするけれど」
「詩羽が?」
「悪いかしら。私にだって幼少期はあるのよ」
「なんか小賢しそうなイメージね」
「ただのおとなしい昼寝好きの少女よ」
「今と変わらないじゃない」
英梨々がレポートを枕元において、足をまっすぐ伸ばした。はだけた浴衣を少し直す。
「あとは、プールでスイカたべていればいいのよね?」
「それはやったから、せめて梨にしなさい」
「別に変わらないじゃない」
「同じのはダメよ。あなただと丸々コピペしそうだもの」
「そんなに信用ない?」
「ないわね。締め切りを守らない人に人権なんてないわよ?」
「わかったわよ。あとは、プールで桃を食べるわ」
「ボツ」
「じゃあ、何かアイデアを詩羽も出しなさいよ」
詩羽がメモ用紙を手にとって、眺めるがロクなものがない。
「『ラムネ瓶のビー玉をとる』とか、『秘密基地を作る』とか、あとはトウモロコシを焼きたいのよね。子供は火遊びして怒られるような体験するでしょう?」
「あら、いいじゃない。それでいいわ。これでだいたい完成したのかしら?」
「あとは週末イベントを考えないとよね」
「それなら、海に行く。山に行く。別荘に行く。夏コミに行く。あとは・・・クルージングでもしようかしら?」
「別荘が山の中にあるでしょう?」
「そうね・・・じゃあ、花火大会旅行でもいくわよ」
「そう」
詩羽がエクセルでスケジュールを書き込んで空白を埋めていった。これで骨子は出来上がった。
「あとは話の構成だけど、起承転結に忠実にしてもらって、あまりオチは気にしなくていいわよ」
「トンチ落ちじゃなくていいのかしら?」
「オチなんていろんな形があるのでしょうけど、40話もある話の一つ一つにオチをつけて、駄作の量産になるだけなのよ。だからそうね・・・あなたが笑って過ごすオチでいいのよ。昔はそうだったでしょ?」
「うん」
「あとは、あまり加藤さんのことを思い出さない」
「うん」
「話を脱線させない。劇中劇をしない」
「うん」
「素直ね」
「そう?」
この子大丈夫かしら?と詩羽は思いながらも、やってみるしかない。40話を倫也と過ごしてもて、誤字脱字の修正ぐらいしか、フォローのしようがなかった。
「ねぇ詩羽。それで、どうやって元の世界に戻るのよ?」
「毎度、夢オチじゃ味気ないわよね。たまにはそれらしい伏線回収をする練習でもしてみようかしら?」
「そんなのあったかしら?」
詩羽は窓の近くに立って顔を近づけた。のぞき込むように空を見上げるといくつかの星が見えた。
※※※
場面変わって、倫也の部屋。
倫也はベッドに腰をかけて、真っ白に燃え尽きたかのような恰好をしている。
隣にいる加藤が背中を向けブラのホックを後ろ手で器用に留め、それから制服を頭からかぶって着ようとしていた。
加藤の綺麗な肌や肩甲骨のくぼみも、今の倫也には円周率の果てしない数字の羅列を眺めているような感慨しかない。何しろ、賢者タイムどころか、大賢者タイムなのだから。
ふぅ・・・やれやれ。ただのオセロをしただけなのに、ずいぶんとハッスルしてしまったようだ。
加藤は服を着終わってから立ち上がった。壁の空白をしげしげと眺め、そこに刺さっていた黄色い透明のピンを壁から抜くとゴミ箱に投げ捨てた。目にハイライトはなく、けだるそうだ。
「ねぇ安芸くん。去年・・・夏休みは旅行して過ごすって言ったよねぇ?」
「なんのこと・・・だっけ」
「・・・R18で毎日いろんなことして過ごそうと思ってたのに」
「そうなのぉ!?」
「じゃ。帰る」
ドアがバタンとしまった。追うべきか、追わざるべきか。腰がちょっと痛い。
そういうわけで(どういうわけで?)、倫也は加藤にマーキングされたような気分になったが、それはそれ。
とにかく夏休みの過ごし方を決めないことには、どうにも進まない。頭を抱える。
ベッドの上に食べ残したキャラメルが二つ粒あったので、それを箱にしまった。元は6つ入りのキャラメルで、1日に4つは食べすぎだろう。
元の場所に戻そうとデスクのところへ向かってイスに座る。一番上の鍵のある引き出しを開け、そこにキャラメルをしまった。
「あっ、この封筒・・・」
薄汚れて古びた白の封筒。手にとって裏返してみると、「えりり」とクレヨンの赤い色で描いてあった。
倫也はそれを開けるべきか、それとも気が付かないふりをして加藤を追うべきか迷った。今なら間に合う。この夏を加藤と過ごそう・・・
大きくため息をつき、封筒を思い切って開けた。中には手紙が一通入っていた。緑色のクレヨンで枠が書いてあって、「さわむら えりり」とサインがしてある。反対側には「あき ともや」とサインしてあった。倫也はそれをみて思い出す・・・。枠の上には、「けっこんとどけ」と書いてあった。
「婚姻届けだろ・・・」
思わず一人でツッコミをいれて、ひどく懐かしい気持ちなる。幼稚園の頃のくだらない思い出を、今でも大切に保管していた。
これはきっと妄想で、澤村英梨々はどこにもいないし、金髪ツインテールのツンデレヒロインは想像の産物でしかないはずだ。加藤の気を引くためのシナリオの登場人物で、わがままで、ノーテンキで、投げやりで、怠惰で、でも一生懸命で、それでもやっぱりポンコツで・・・
「だぁ~~!!」
倫也は結論がでなくて、頭を抱えた。現実に生きるべきか、妄想に生きるべきか。
両者を並行して幸せにすることは難しく、決断を迫られる。
「・・・とにかく会ってから決めるか」
倫也はクローゼットの扉を開けた。中は雑然としている。ハンガーにかけられた服、下の方は箱に入ったままのフィギュアやいくつかの積みゲー。ダンボールにはアルバムや記念品などがはいっている。
倫也が適当に荷物を引っ張りだし、中をスマホのライトで照らした。一番奥にはいかにも怪しい御札がなぜか貼ってあった。赤い紙に蛇の這ったような黒い文字。何が書いてあるのかは見当もつかなかった。
俺はそれをペリペリと剥がした・・・。
ボフンッ。という効果音とともに煙が広がった。ガシャンと重ねてあったものが崩れ落ちる。
何かが倫也の上に覆いかぶさって、仰向けに体勢を崩してしまった。あたりの荷物に埋もれてしまう。足のあたりに妙に柔らかい感触を感じた。
スマホのライトで照らすと、金髪の女の子が顔をもじもじ赤らめて目をそらしていた。長い金色の髪が鼻先に落ちて甘い香りがする。またがった状態で倫也の足を挟んでいるらしく、下着が太ももに密接していた。
「・・・何か言えよ・・・」
「きゅぅ・・・」
何か小動物でも鳴くかの声を女の子はもらした。
「とりあえず、出るから・・・どいてくれるか?」
「いやっ」
小さな声での拒絶と共に、はだけた浴衣からペタンコの胸の白いブラが見えた。
倫也は適当な言葉が見つからない。どうもシリアスになりがちで照れていた。
「おいおい、ここは『なんであたしが妖怪扱いで封印されなきゃならいのよっ!』と怒るところだろ?」
「別に怒ってない」
「あっそ・・・」
女の子は名前を名乗らない。そもそも、ここは突然現れた女の子に驚くべき場面なはずだが、二人とももうそんなくだらないことはどうでもよかった。
「一応、倫也。プロット完成したから」
「・・・ほう」
倫也は「なんで俺の名前を知っているんだ?」などとはもう聞く気にもなれない。
女の子は・・・もとい、英梨々は・・・折り曲げてあった一枚の紙を開いて倫也に見せた。倫也はこの体勢から抜け出したい。太もものところの感触が気になって仕方ない。
「とりあえず、ここから出ようぜ」
「いやっ」
英梨々は馬乗りになったまま、倫也に抱き着いた。ペタンコの胸が押し当てられている。
スマホのライトで文字を読むと、一枚とはいえ、文字数は多くぎっしりと書いてあった。
「一日目。夏休み前日。荷物がいっぱい。二日目。流し素麺。三日目。アニメ鑑賞はtrue tearsか・・・」
「悪くないでしょ?」
「これじゃ、予定表だな・・・」
「プロットなんて予定と変わらないじゃない」
「いや・・・もう少し内容の・・・起承転結をだな・・・」
「だって倫也・・・」
「そうだな・・・」
もうタイムリミットだった。せっかく加藤が稼いでくれた時間だが、英梨々はやっとの思いでこの程度のプロットを完成させることしかできなかった。
「明日から、もう夏休みなのよ」
「・・・おおぅ」
倫也は声にならない声を上げた。予定も何もあったもんじゃない。行き当たりばったりなのはいつものことで、週一で話を作る事すらままならない。GWの連休は過去の原稿を引っ張り出して加藤に怒られている。
さてさて・・・どうしたもんだか。倫也は思案にくれている。
英梨々を抱えたまま、倫也はクローゼットから出てきた。広いスペースになれば、倫也はよいしょと英梨々を持ち上げてどかした。英梨々が不服そうに頬を膨らませて抗議している。
「とにかくだな・・・やらなきゃしょうがないわけだよな」
「べ・・・べつに倫也がやりたくないなら、やらなくてもいいんだからねっ」
と、耳まで真っ赤にしながら英梨々は横を向いた。浴衣は完全にはだけていて、両肩が丸見えになっていた。英梨々の細い首や鎖骨のくぼみが少し汗ばんでいるのか、白い肌は少し輝いていた。模様のないシンプルな白いブラはペタンコの胸にフィットしていて、まるで小学生の下着みたいだった。
倫也は少しだけドキッとしたが、この裸手前の英梨々を見ても冷静だった。
何しろ賢者タイム中。もとい、大賢者タイム。キャラメル4つ効果だ。
「わかったよ・・・英梨々。ただし約束してくれ」
「何をかしら?」
「脱線しない。投げ出さない。劇中劇をしない」
「それ、あたしのせいかしら?」
「約束できるか?」
「しない」
「はいぃ!?お前、バカなの?」
「倫也、わかってない。倫也が恵と作りたいならそうすればいいじゃない」
「なっ・・・」
英梨々は立ち上がって、帯を解き浴衣を脱ぎ捨てた。下着はセクシーな形ではないが、目には毒だった。後ろを向いてクローゼットから倫也のTシャツを適当に選んで着た。下も倫也のジーンズを履く。服はでかくだぶついていた。
「で、倫也はどっちを選ぶのよ」
英梨々が両手を腰に当てて、ポーズをとって立っている。倫也を見下ろす瞳が潤んでいる。
「わかったよ。俺が悪かった。英梨々でやるから・・・」
「そっ?じゃあ、しょうがないわね」
ほっとした表情の英梨々の顔がにやける。顔は赤いままだ。アーニャのプリントされたTシャツが妙に似合っていた。
「とりあえず、まぁ座れよ。」
「うん」
英梨々がクッションに座った。倫也はさっき受け取った夏休みのプロットにもう一度目を落とした。
「ずいぶんと・・・なんていうか・・・豪華だな」
「そうかしら?お金なんて使わないと増えるだけじゃない」
「普通は減る一方なんだけどなぁ」
「ただ、いくつか決まらないところがあって・・・」
「どこらへん?」
「この、夜の蛍鑑賞とか、あと最後の週末もいまいちなのよね」
「クルーザー旅行って・・・お前な、高校生だからねっ?」
「だって、マンガだってなんだかんだクルーザーに乗ったりするわよね」
「商店街のクジか」
「理由はなんでもいいけど。週末が5回もあるのよ。5回も旅行に行くのは大変だと思うけど、詩羽が出かけたほうがいいっていうし」
「そうだな・・・別に無理することないと思うが・・・」
「そうよね。あとで相談してみるわ」
「蛍鑑賞は何が問題なんだ?」
「あたし、虫が苦手なのよ。蛍って光っていて綺麗かもしれないけど、結局光るゴッキーが飛んでるのと同じよね」
「全然違うと思うぞ。あんなにカサカサ速く動く虫じゃないし、もっとノンビリしている」
「ふーん。見たことないからわからないけど」
「だから、観に行けばいいんじゃねーの?」
「・・・そっか」
「それにしても、ずいぶんと詰め込んだ予定だな」
「でしょう?夏休みなんて家でゴロゴロするからいいんじゃないね」
「そうだが・・・・」
こうして、倫也と英梨々は2人で予定を練り直した。予定を立てている時は2人とも楽しかった。戻ってきた時に緊張していた英梨々は、やっといつものしまりのない、緩みきったような笑顔を倫也に見せた。
(了)
加藤とオセロを四回戦した後に、英梨々を選ぶとか、ゲスの極みだな・・・
と思わなくもないが、出来レースなのでしょうがない。
というわけで、明日から表で『夏イチャ』の進化バージョン。
『英梨々とラブラブ過ごす夏休み』がはじまるよー。
よろしくです。