子供の卒業式でした。
学生の頃は校長の話なんて何一つ聞いていませんでしたが、大人になったからって真剣に拝聴できるわけじゃないんですね。馬耳東風でした。
さて今回は、原稿を落とさないために即興で作った倫也と加藤のお話です。
いつの間にか冬が終わって、外には桜が咲いている。気が付けば3学期も終わり卒業式を終えた親子が街を歩いていた。
今日の東京は冬が戻ってきたように寒く、外はシトシトと雨が振っている。
俺の部屋の扉をそっーと開け中を覗きこむ。加藤がノートをPCに向かって作業を黙々と続けている。
加藤はいつだって真面目だ。
「安芸くん、おかえり」
「・・・ただいま」
「元気ない?」
「いや、そういうわけでもないけど。加藤は何作ってるんだ?」
「夏休みのプロット」
その言葉に俺はごくりと唾を飲み込んだ。加藤は無表情で、視線はPCのモニターから離していない。
夏休みのプロット作りがすでに始まっている・・・俺の手元にある『英梨々に毎日プロポーズする夏休み』を相談する隙すら与えてくれないのだろうか。
「あれ?英梨々はどうした?春休みの中二病のプロットはもうできたのか?」
「あのさ安芸くん。あの英梨々が1人でそんなの作れると思う?」
「でも、去年の夏休みは作ってたよな」
「あれは、霞ヶ丘先輩がいたからじゃないかな」
「そうだったっけ・・・」
俺が部屋を見渡すとデスクの上にメモ用紙が置いてあって。俺はそれをつまみ上げて読み上げた。
『中二病は医学書に乗っていません。探さないでください。英梨々』
「なんだこれ?」
「英梨々、逃げたみたい」
「なんだと!?どういうこと?」
「安芸くん。今日何日?」
「えっと・・・3月18日だっけ・・・」
「もう、春休みなんだけど」
「いや、そうだけど、あれ?もしかして、ぜんぜんできていない?」
「・・・うん」
えっ、ちょっと待て。落ち着け俺。春休みはもう始まっている。ただ今回は全12話の予定だ・・・まだ慌てるような時間じゃない・・・のか。
「延期できるよな・・・」
「別に仕事じゃないし、投稿しなくてもいいんじゃないかな」
「いや、それはそうだけど・・・あと1週間は伸ばしてくれ」
加藤は返事もせずに、カタカタとキーボードを打ち込んでいる。とてもじゃないが、夏休みの企画書を出す雰囲気でもない。
「春休みの事は片付いたら夏休みのプロットつめるから」
「はい・・・」
もうどっちが立場が上なんだかよくわからない。
とりあえず、夏休みよりも先に春休みだ。英梨々を探し出さなくては。俺の部屋にいるとしたら物置きなのだが・・・
ガチャッと開けて中を覗く。スマホのライトを照らすが奥にお札が見えるだけで特におかしい様子はない。
となると、やっぱり英梨々の自宅だろうか。
「ちと、英梨々の家まで行って来る」
「行けたらね」
「えっ?」
俺はドアノブを掴んだがピクリとも動かなかった。振り返りと加藤が無言でPCをカタカタと操作している。やっぱり怒っているのだろうか。
「あの・・・加藤。何か怒ってないか?」
「安芸くんの心当たりは?」
ありすぎて困る。だいたい締め切りを守らないと加藤は怒る。進行表通りに進まないと機嫌がだんだん悪くなる。おまけに英梨々のことをかまうと危険な雰囲気になる。さらにさらに俺の手元には夏のプロポーズの企画書があるのだ・・・
いったい加藤が何を怒っているのか考えたくもない。
「安芸くん。ちょっとそこ座ってくれる?」
「あっ、はい」
「正座」
「いや、あの?」
「正座」
「はい・・・」
・・・俺、悪い事しているかなぁ・・・
そもそも中二病のテーマでこんなに手こずるとは思わなかった。もっと簡単にテーマがたくさん見つかって、適当に作れるものだとばかり思っていた。
英梨々が投げ出したからには、なんとかしないといけないが、今は目の前の加藤のご機嫌が大事だ。
さもないとまた世界が消える。
「その手に持っているもの。出してくれるかな?」
「これは・・・その・・・ほら」
「あまり同じことを二度言いたくはないのだけど」
とてもじゃないが言い逃れできる状況ではない。
俺は夏の企画書を加藤に渡した。40日間のプロポーズ作戦はハネムーンのような海外旅行の行程表でもある。
そして、その旅行計画の原案は、元々は加藤が俺と旅行するために一昨年に作ったものだ。
加藤が企画書をペラペラとめくっていく。真剣なまなざしは職人のようでもある。だいたい妥協がない。
俺としては、このままノラクラと英梨々ルートを完成させてしまいたいのだが・・・
「うん。これ、霞ヶ丘先輩はなんて言ってた?」
「えっと、断るオチがあまり良くないんじゃないかって」
「うーん」
あれ、意外と怒ってない?もう少しネチネチと文句を言われると思ったけれど、企画自体には反対じゃないんだろうか。
「それは回答をノーじゃなくて、イエスにすればいいだけだと思うけど」
「えっ?どういうこと?」
「だから、英梨々が安芸くんにプロポーズされたら断るわけないんだから、受ければいいんじゃないかな」
「それだと毎日プロポーズできないから、企画自体がおかしくならないか?」
「別に毎日プロポーズすればいいと思うけど」
「そういうもん?」
「そういうもん」
「おかしくね?」
「おかしいのは、原作の嫁にプロポーズの相談を始める安芸くんだと思うけど」
「ぐはっ」
このあとめちゃめちゃネチネチ言われた。
で、その後仲直りのオセロした。
(了)