『中二病』をテーマに作品作りをしていた英梨々は、ネタがまったく思い浮かばずに逃亡してしまった。
そういうわけで、今回は英梨々を捕まえに行くお話になります。
ところで、中二病ってなんなんですかね・・・
英梨々が逃亡して一週間。予定通りに投稿ができず、加藤の機嫌がすこぶる悪い・・・
英梨々は実家にも、別荘にもいない。完全に隠れてしまった。ケータイを鳴らしても出ないし、SNSに既読も付かない。
トボトボと、英梨々を見つけられないまま、俺は部屋へと戻った。
「安芸くん。英梨々見つかった?」
「いや、どこにもいない。まるで消えてしまったかのように」
「逃げても無駄なのに」
座ってグラスのお茶を一口飲む。英梨々がいない以上は春休みの作品は中止だろうか。このまま夏休みの制作ができるかというと、そういうものでもないから困る。やっぱり主人公を加藤で・・・いやいや。
「そういえば安芸くん。変な動物みたいの捕まえたんだけど」
恵がカバンから、子猫ぐらいの動物を取り出した。
「ああ、これは・・・」
「わかる?なんか普通の動物には見えないけど」
「マスコットキャラだな」
「何それ?」
その小動物は、猫にうさぎのような大きな耳がついていて、毛並は茶色だ。目は赤い。これだけの特徴なら探せば哺乳類でもいそうだが、決定的に違うところが一か所ある。
「ほら、ここの額に青いひし形の宝石みたいのが埋まっているだろ」
「うん」
「こういうのは、ファンタジーものとか、魔法少女ものなんかで、物語の舞台設定とか、ルールなんかを説明する役割があって」
「しゃべるの」
「たぶん」
加藤がその小動物の耳をひっぱっている。
「あんまりいじめてやんなよ。困った顔しているだろ」
「で、こんな動物がどうしてここにいるのかな」
「うーん」
この手の異世界の動物がこちらに来るときは、助けに求めてくることが多い。しかし、この動汚物はしゃべらないようだ。迷い込んだのだろうか。
「おそらくだが・・・英梨々は異世界に逃げ込んだんじゃないか?」
「異世界?」
「そう。だいたいは中世を舞台にしたファンタジー世界とか、あとは地獄とか・・・そういう物語の世界」
加藤が頬杖ついて考えている。考えても無駄だ。感じろ。
「ようするに、英梨々は異世界にいるのね?」
「おそらく」
「で、どうするの?」
「しょうがないから異世界まで迎えにいってくるよ」
「どうやって?」
「見通しの悪い交差点にいくだろ、すると子犬とか子供が倒れていて、そこにダンプカーが走ってくる」
「それで?」
「轢かれる」
「・・・」
「すると、神様の手違いということで手続きが行われて異世界転生するのが様式美だな」
「よくわからないけど、めんどくさいから。ごめん安芸くん」
加藤の手元が、キランッと光った。すると俺の目線は天井、そして坂さになった壁を捉えていた・・・
今日の加藤は機嫌が悪い。
※ ※ ※
ここは天国、雲の上。
ふわふわした場所で俺は目が覚めた。見ると行列ができていて、その先には玉座に座った女神らしき人がいる。中々の美人、ありえない露出度、ピンク色の髪と、実にファンタジーである。
俺はおとなしく行列に並んで順番を待った。やがて自分の番になる。さっきいた小動物が俺に寄り添っている。
「ふぅ・・・」と女神が大きくため息をついた。
「お疲れ様です」
「なんで、みんな異世界に憧れるのかしらね」
「さぁ・・・現実が辛いからじゃないですか」
「そういうあなたもかしら?」
「いや、俺は探し人がこちらに迷い込んだようなので」
「どんな特徴かしら?」
俺は英梨々の特徴を詳しく伝えた。何しろどの異世界にも金髪ツインテールは定番のように実在している。
「この方かしら?」と女神が画面を空中に表示した。そこには道具屋らしきところで買い物している英梨々が映っている。衣装も少しレトロな白いワンピースだ。
「ええ。こいつ。こいつのとこに転送してください」
「それはかまわないけれど・・・転生するときはスキルを一つ選べるわ」
これもお約束だろう。何しろ異世界に転生して無双するのが流行りだ。それも飽きられて昨今では異世界でさまざまな生活をしているようだが・・・
「どんなのが選べます?」
貰えるものは貰っておきたい。異世界で役立つスキルはいろいろだ。個人的には経験値ボーナスを付けて効率よくレベルをあげるか、レベルキャップを外してもらいたところだ。
「あら、あなたはすでに珍しいスキルを持っているわね。外すこともできないようよ」
「それはどんな・・・」
「あなたの生まれ持ったスキルは・・・『ラノベ主人公体質症候群』ね」
ああ、それな。知ってる。
特にモテ要素もないのに、やたらと美少女と出会って囲まれるやつだ。まさか、生れもらったスキルとは思わなかったが・・・
ちなみに占い師業界では、『女難の相』という。
※ ※ ※
道具屋前に転送された。文字が読めないがなんとなくわかる。店の中を覗くと金髪ツインテールが買い物をしている。
人違いだと困るので、俺は棚の影から英梨々かどうかを確認する。ふむ。間違いなく英梨々だ。
異世界の道具屋で色鉛筆らしきものを見ている。こっちの世界でも絵を描くなら、現実で絵を描けよと思わなくもない。
「英梨々」
名前を読んだら、英梨々がこちらを振り向いて、目を見開いて驚いている。
「なによ倫也。こんなところまで」
「あのな・・・今日が締め切りだぞ」
「はぁ?あんたバカなの?死ぬの?」
「ああ、死んだよ!」
「ほんと・・・で、あたしにどうしろって言うのよ」
「どうもこうもないだろ。戻るぞ」
「だが、断る」
英梨々が何事もなかったかのように、また買い物を続けている。英梨々が画材を物色している時はそっと見守るのがルールだ。
あんまりやかましく急がせても、いいことは何もない。機嫌が悪くなっていくだけだ。
しょうがないので俺は店の外に出た。幸い木製のボロいベンチがあったのでそこに座った。
あたりには特に何もない。森があって、舗装されてない道が正面に見える。いきなりここに転送されたので、どんな世界観のどんな街なのかさっぱりわからない。
空は青く、白い大きな雲がゆったりと流れている。天気も良く過ごしやすい。こんなところなら異世界生活も悪くない・・・そう思えてくる魅力があった。
俺は春休みの中二病について考えながら、英梨々が買い物を終えるのを待っていた。
※ ※ ※
「おまたせ」
「よし、帰るぞ」
「あんたね。せっかく死んでまで異世界に来たんだから、もう少し人生を楽しもうとかそういうのはないわけ?」
「ないな。締め切りを守ってこそクリエイターだろ」
「趣味の場合はその限りじゃないわよね?」
やれやれ、言い合ってもしょうがないし、焦ったっていいこともない。アイデアが浮かばなければ物語の作りようもない。
別にここで英梨々と異世界探索しても構わないが、せっかく現実的なラブコメに立ち戻りつつあったのだ。できればあまり脱線はしたくない。
「それで、何を買ったんだ?」
「みてみて、この色鉛筆」
「俺には普通の色鉛筆にしか見えないがな」
「倫也はロマンがないわね。男のくせに」
「はい?なんで色鉛筆とロマンが関係あるんだよ」
「まぁ、みてなさいよ」
英梨々が俺の隣に座って、スケッチブックを広げた。そして先ほど買った色鉛筆で絵を描き始めた。
「ゴーレムってこんな感じでいいかしら?」
「ずいぶんこじんまりとしているな」
なんだかロッグマンみたいにみえる。3頭身ぐらいのキャラクターだ。頭の形はネジのようにもみえる。
「あんまりゴツイのは嫌いなのよ」
「それ、昔のボツデザインだな・・・」
「そうよ。何事も再利用が大事。時代はリユースなんだから」
「ほう・・・」
ベリベリっと、英梨々がスケッチブックから出来上がった自称ゴーレムらしき絵を一枚はがした。
立ちあがて杖を持つと、地面に魔法陣を描き上げていく。さすがのデザイン力だ。そしてゴーレムの絵を中心に置いた。
「もしかして、召喚か・・・」
「そうよ。みてなさいよ」
英梨々がしゃがんで片足を付けて、魔法陣に右手を触れた。何やらオーラがでてツインテールが逆立ってきている。
「アーデルハイト! 猛き大地の精霊よ 古より血の盟約の元 輝ける鋼・蛮勇の勇者・神を拒絶せしキュプロスの末裔を宿し給え!」
魔法陣が赤い光で輝きだした。
「上手くなってるな・・・」
「でしょ?」
すると、身長50センチぐらいの、ミニゴーレムが顕現した。まるで幼児だ。だが体躯は頑丈そうで、金属が虹色に輝いている。
英梨々の顔はご満悦である。
「もしかしてお前・・・中二病を患いすぎて現実と区別がつかなくなったんじゃ・・・」
「ほっ・・・ほっときなさいよ!」
図星か。
やっていることはいかにも中二病なんだが・・・これでラブコメ作れといわれても無理がある。
『大変楽しそうなところ申し訳ないんだけど』
空から天の声が聴こえる。というか加藤の透き通った声だ。
『もう、ほんとに時間ないから、その後の茶番はボツでいいかな?かな?』
「ほら、英梨々。加藤がけっこうマジで怒っているからさ・・・」
「これからいいところなのに・・・」
「また、今度な」
「そういって、ボツ原稿の山ばかり増やしていくんでしょ」
『早くしてくれるかな』
「加藤・・・で、どうやって戻ればいいんだ?」
「そうよ、恵。こういうのはね、ちゃんと魔王を・・・きゃっ」
天からでっかい手が伸びてきて、俺と英梨々を鷲掴みにした。
※ ※ ※
ボテッ、ゴロゴロ・・・
俺と英梨々が投げ捨てられ、俺の部屋の壁にぶつかった。
「ちょっと恵。乱暴よ!」
「あのさ、英梨々。やるの?やらないの?」
「倫也はどうするのよ」
「俺に話をふらないでくれ・・・」
「はぁ?あんたがどーしてもやりた・・・」
ガンッ! 机を激しく叩く音がした。
「安芸くん。茶番はもういいから」
「あっ、はい」
だいたい、加藤は頭が固いんだな。真面目というか、手を抜かないというか。
「でも、加藤。プロットすらできてないんだぞ・・・」
「それ、いつものことだよね?」
「とりあえず、中二病で検索すると出てくる、『右手に宿った邪神』とか、『邪眼』あたりでなんとかしてくれるかな?」
「・・・おう」
こうして、俺と英梨々はまた表の世界で真面目に物語を紡いでいくのであった。
(了)
というわけで、明日の月曜日から全12話で中二の中二病をお送りします。
題名はまだ考えてないです。