英梨々を甘やかして作る物語   作:きりぼー

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ちとテーマは小難しいが、何気に冴えカノっぽいのかもしれない。


(ボツ2/5) 恵編

 夏休み中でも任意の参加で講義が受けられるのは、進学校の良いところだろう。受験生の俺は今日も遊ばずに学校へ通うことになる。

 

 本来なら高校生らしくもっと遊びたいし、ゲーム作りなどの趣味にも没頭したい。しかし、将来のことを考えれば受験をして、少しでも良い大学に進路を取る選択はまちがっていないと思っている。

 

「なぁ加藤。ランチ一緒に喰わね?」

「あいにくとお金がなくって」

「気にするな、俺が奢ってやろう」

「『奢ってやろう?』」

「あっ、いや、どう?大したもんは奢れないけど」

「う~ん」

 

 加藤は参考書を片付けながら、返事に迷っていた。

 

「勉強で聞きたいこともあるし、何か午後に用事あるのか?」

「そういうわけじゃないけど・・・まぁそういうことなら」

 

 加藤とは高校2年頃から仲良くなっている。オタクに対する偏見もなく、本人はオタクではないがオタク話を嫌がらない。その上、地味で目立たないわりにとても可愛い。

 

 友達以上、恋人未満。そんな表現をしてみたいが本人はいたってポーカーフェイスで表情に乏しい。感情の起伏もないので何を考えているかいまいちわからないところがあるが、少なくとも嫌われてはないはずだ。

 

「学校の帰り道にな、安くてうまい喫茶店があってだな」

「いつものとこでしょ」

「いつものとこだ」

 

 荷物をもって教室を一緒に出る。夏の制服が爽やかだ。夏休みに入ってから髪を切ったらしく、綺麗な卵型のショートボブが真面目な加藤にはとても似合っていた。

 髪を切ったことは気が付いたが、それを褒めるような勇気は俺にはない。なんて褒めていいかよくわからない。

 

 高い空の下では蝉が盛んに鳴いている。外に出ると加藤は白い日傘をさした。こういう女性らしいところに俺は惹かれてしまう。バックについた小さなクマのストラップが揺れていた。

 

「ほんと助かる。俺1人だと中々勉強がはかどらなくてさ」

「うん。わかるよ」

「加藤もそうなの?」

「調べものをしていたら、ついついネットサーフィンすることはもちろんあるけど」

「あるよなー」

「でも、安芸くんみたいにラノベ読んだり、アニメを見始めたりはしないかな」

「なぜ、それを知っている!?」

 

 加藤は真面目に勉強をしているので、俺も同じ空間にいると勉強をすることができる。俺が加藤と一緒にいる理由の一つだ。

 それに加藤は国語が得意で読解などに優れていた。俺は逆に数学が得意なので持ちつ持たれつだ。志望校も同じところ目指している。

 

※ ※ ※

 

 いつもの喫茶店。一番奥の窓側が好きで今日もその席に座った。

 

「好きなものを頼んでくれ」

「じゃあ、お言葉に甘えてっと、ケーキ全種類と小倉トーストと・・・」

「訂正する。好きなランチを選んでくれ」

 

 加藤が冗談を言っているのか、口調からは判別できない。ただ時々おかしなところがあり、突っ走ることもあるので本当に全部頼みかねない。

 

「ホットサンドセット。カフェオレで」

「俺はドリアセット、コーラで」

 

 注文を済ませる。ドリンクは先に持ってきてもらう。

 

「そういえば加藤。『奢ってやる』で何か引っかかってたな。気になる言い方だった?」

「うん。ネットで話題になっていたし、ちょうどフェミニズムについて勉強していたところだから」

「あー、フェミニズムなぁ・・・」

「安芸くんは、男性なら女性に奢って当然って思う?」

「思わん。だいたいそんなにいつも金ない」

「そういう問題かな」

「ない袖は振れないからなぁ」

「それなら、お金ない時に奢ってもらうのは?」

「ぜんぜんありだろう」

 

 あれ、金持ちの金髪ツインテールが脳裏によぎった。あいつと一緒に行動して全部自腹とか無理だ。

 

「少しはプライドを持ったほうがいいよ?」

「加藤。プライドはある。だがそれは何もそんな些細なことにこだわる必要もないだろう。

人間社会、男女平等が理想なわけだし、持ちつ持たれつの関係があってもいいと思うが」

「ものはいいようだね」

「加藤はやっぱり男性が女性に奢るものだと思っているのか?」

「まさかー」

「それでフェミニズムと関係があったりして?」

「さっきの『奢ってやる』っていう上目線の言い方って、男子だから女子よりも上って価値観があるような気がして。女子が逆に男子に対して『奢ってやる』っていったらおかしいんじゃないかな」

「ん・・・それはおかしいだろ」

「でね、フェミニズムって女性の権利の尊重だよね。男女平等を目指すという視点からいったら、女子が『奢ってやる』というのはおかしいっていうのはおかしいってなるよね」

「んがっ」

 

 俺は加藤のややこしい主張がわからなくなってきた。国語力の問題なのだろうか。

 少しの時間考えをまとめる。

 

 男性だからとか、女性だからとか、そのような文化的な背景には男尊女卑の思想があるのかもしれない。もちろん逆もあるだろう。

 昨今のジェンダーレスの「男らしさ」「女らしさ」などの問題にも発展しそうだ。

 

 ホットサンドとドリアがきた。

 

「いただきます」と2人して手を合わせる。

 

 俺は最初に一口コーラを飲んだ。加藤はホットサンドのパセリを脇に寄せた。

 

「だからね安芸くん。この『男女平等』の間違ったフェミニズムの部分がひとり歩きしてしまって、『女性でも重いものを持つべきだ』とかいう、男性側から性差についてのクレームがあるよね。『女性はいいとこ取りしてずるい!』みたいな意見」

「あるよな・・・あつぅ」

 

 ドリアが熱いので、少し冷めるまで待つ。加藤はホットサンドをつまみ、形の良い口元に運び、もぐもぐと音を立てずに食べる。

 食べている間はしゃべったりしない。とても上品だ。

 

「性差があるのは事実なのだし、女性にしても『女性らしく生きたい』って人は大勢いて、すべての女性が男女平等の社会を歓迎しているわけじゃないないよね。結婚して家庭にはいって子育てをして・・・それの何が悪いの?って考える人がいる。一方で、それは女性の権利が侵害されていて、男性が家庭に押し込めているからだ。という人もいる」

「おおっ、ややこしいな」

「安芸くん、わたしのいいたいことわかるかな?」

 

 正直、ぜんぜんわからん。加藤はさっきから何を小難しい話をしているんだ?

 

「ごめん。よくわからない」

「安芸くんだもんね」

「いや・・・そんな唐突にディスらなくても・・・で、加藤は何を言いたいんだ?」

「ん~」

 

 フォークでプチトマトを刺すか、あるいは掬うかで迷っているようだ。俺もようやくドリアを口にいれた。ここのドリアがなかなか美味い。

 

「性差があるから、あまり平等を声高に叫んでもおかしいってことか?」

「そう・・・なのかな」

「どうした・・・?」

「安芸くんの好きなアニメキャラクターって、いろんな女の子が登場するよね。みんなそれぞれ特徴的で個性があって・・・」

「そうだな。個性がなければモブになってしまうからな」

「ああ、だからあんなに変なキャラが多いんだ?」

「キャラクターとは個性のことだからな。テンプレ的かもしれないが、お嬢様キャラ、白黒はっきりした男っぽいキャラ、不思議ちゃんなどがいるのはしょうがないだろ」

「ツンデレは?」

「ツンデレももちろん大事だ」

 

 フェミニズムや男女同権となるとややこしい話になるが、アニメのキャラクターなら分かりやすい。でも、なんかつながっていないような?

 

 加藤は諦めてプチトマトを手でつまんで放り込んでいる。こういう仕草がカワイイと思う。

 

「フェミニズムって、女性の権利の向上のために、女性が男子に媚びるようなことを反対しがちだけど、女性らしさを追及することって、そんなに悪いことかな?」

「いや、女性が女性らしくあるのは大事なことだと思うぞ。それにフェミニズムだって女性が女性らしくあることは歓迎しているだろ」

「そうかな。ミスコンみたいなものが否定されたり、昨今では水着審査もなくなってきているよね。綺麗なプロポーションを保つ事や、それを披露するのも立派な女性らしさだと思うけど・・・」

「そこらへんはなぁ・・・」

 

 性の問題になるとさらにややこしい。AV新法問題など説明してもどっち側も相手の主張が理解できていない。論点や問題意識が違うのだ。

 

「だからね、わたしは女の子らしくありたいと思うし、安芸くんが作る女の子のキャラも好き・・・だよ」

「そりゃどうも」

 

 受験の傍ら、こっそり小説や小話を書いている。ゲーム制作まではできないけれど、それを加藤は楽しみに読んでくれている。俺としてはその点で加藤はとても大事な存在だ。

 

 このあと加藤とは、二次元のキャラについて意見を交換した。そして、キャラの個性と矛盾する感情とのバランスが大事だということに気が付いた。

 キャラが深く掘り下げられるほど、矛盾を抱え、結果的に人間らしくなっていく。しかい一方でテンプレ的な個性は失われていく。

 

 その矛盾を加藤は言いたかったようだ。フェミニズムと女性の生きやすい社会が必ずしも同じ方向を向いていないのに似ていると思ったのだろう。

 

※ ※ ※

 

 食事を終えランチデザートの『本日のミニケーキ』がきた。フルーツの飾られたこの華やかさが女性客を魅了していて、店はいつも混んでいる。

 

 俺は食事が一段落したので、鞄から書きかけの小説を渡した。

 加藤に読んでもらうのは恥ずかしい気持ちもある。よほど匿名で小説サイトに投稿した方が楽だ。

 

 加藤はヘアピンで短い横髪を止めて、左の耳を片側だけだした。それから、真剣にレポート用紙をめくっていく。

 

 真剣に没頭していく感じは、どこか英梨々にも似ているように思う。ただ、加藤の場合は右手に赤ペンを持って気になっているところ添削していく。また解釈にわからないところは俺に質問もしてくる。

 俺はそれで説明不足に気が付いたり、感情の表現方法をなど改めてフィードバックさせたりすることができた。

 

 英梨々なら・・・俺の作品に感想は述べても訂正したりはしない。気が向いたらさらさらと挿絵になるイラストを描くだけだ。

 俺も英梨々もお互いを受け入れてしまって、どこをどう修正すればいいか分からなくなってきている。

 

 その点で加藤は新鮮だった。俺を少しだけ上に引き上げてくれる気がしていた。

 

「ねぇ安芸くん、ケーキ追加していい?」

「あっ、どぞ」

 

 真剣な表情で作業をしながらも、ちょっと甘えたところもある。それが加藤の魅力だろう。嬉しい時に口元が少しだけ笑顔になるのは本人は気が付いていないかもしれない。

 

 なぜか加藤は無表情でクールなイメージをわざと作っているようなのだ。

 

(了)




加藤の主張は要するに、男性ユーザーからは高い支持を得たが、同時に女性からは『あざとい女』でばっさり切られている。それに対する不満だ。

それを踏まえて、『英梨々像』にフィードバックされている。
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