年々原作を忘れていくのだが、加藤を煽るだけ煽って変な靴下履いていた印象しかない。
あんまり倫也に媚びを売るような感じで懐いていたわけでもないし、立ち位置が微妙だった。
この作品では倫也に懐く・憧れる後輩像を追求しようかと考えていた。
一方で倫也童貞争奪戦どころか、キスも難しい距離感である。
片想いは幻想の方が美しいのだろう。
読み返してみると加藤と英梨々の影が強くて、その点は原作っぽくて少し微笑ましい。
午前中の夏期講習が終わった後、俺は加藤とは帰らずに視聴覚室へと向かった。そこは旧PC部の活動場所である。
「おはよう」
「倫也先輩、おはようございます!」
出海ちゃんから元気な挨拶が返ってきた。昼過ぎでも「おはようございます」と挨拶するあたりが、業界人みたいで気に入っている。
長椅子に座り、朝に買っておいたパンと野菜ジュースを鞄から出してテーブルにおく。
「どう?進捗状況は」
「だいぶ遅れています・・・」
俺はパンの袋を開けながらノートPCの画面をのぞいた。そこには制作中のデジタルマンガが描いてある。フルカラーでイラスト集に近い仕上がりだ。1ページにとても手がかかっている。
出海ちゃんが制作しているのはデジタルアート作品に近い。この夏休みにコミュケに仲間と出店するらしく、そのための作品作りをしていた。
今日は来ていないが部員は他に4名いて、出海ちゃんと同じ2年生が2人と、1年生が2人だ。
「業者さんに発注するのに期限が金曜日までで・・・」
「それで、あと5枚?」
「はい・・・」
「厳しいなっ!」
「はい・・・」
「あさってだよね?」
「はい・・・」
「間に合う?」
「・・・倫也先輩っ!」
いや、頼られても俺は絵が描けない。かといって、俺にも元部長としての責任がないわけでもない。受験生なのですでに引退しているものの・・・ここに誘ったは俺だ。
出海ちゃんの兄の伊織は中学生時代の同級生だ。波島家は名古屋に転校して2年、去年また東京に戻ってきていた。
出海ちゃんが小学生の頃に勉強をみてあげたので、とても懐いてくれている。あの頃に一緒に制作した『リトラブ』の同人誌作りがきっかけでオタク活動も続いている仲だ。
出海ちゃんは最初からPC部に所属したわけではない。中学の時のように美術部に所属し、そこの先輩がみんな出海ちゃんよりもずっと絵が下手で、部活動もぜんぜん活発でなかったために先輩とそりが合わず退部してしまった。
その後イラスト部に入ったが、こちらも口ばかりうるさい先輩と合わず退部。
最後に頼みの綱のマンガ研究部・・・通称マン研に入ったものの、あまりのレベルの低さに退部してしまった。
進学校のオタク活動なんてそんなもんだ。とはいえ、出海ちゃんがこんなに先輩方と喧嘩ばかりするとは思わなかった。
「だって、澤村先輩みたいなすごい人が誰もいないんですよ?」
という退部理由が正統な理由になるのかどうかは考え物だが、中学の時におとなしく美術部で活動していたのは英梨々がいたからなのかもしれない。画力=尊敬という構図はわかりやすい。
「というわけで、倫也先輩。私もここに入部希望します」と、視聴覚室のドアが開かれたのは去年の夏休み前ぐらいだったろうか。
俺の所属しているPC部は、幽霊部員を覗けば俺一人でほぼ活動していた。もっとも所属はしていないが加藤がよく視聴覚室で時間をつぶしていたが。
俺は黙々とプログラムを組んでゲーム作りをしていたが、プログラムには出海ちゃんは興味はないらしい。
しょうがないので、デジタルアートができるように中古のペンタブを英梨々から借り受け(もらい受けのほうが適切か・・・)、ノートPCに接続して使っている。
「倫也先輩って、デジタル作品作らないのに、どうしてアプリの使い方がわかるんですか?」
「初歩的なことしかわからないよ。使っているうちに直ぐに出海ちゃんの方が詳しくなるさ」
「そういうもんですか?」
「そういうもんだと思うよ」
実際、すぐにそうなった。
俺がある程度知っている理由は、英梨々がデジタル化するのを俺が手伝ったからだ。その後も作品作りに関わったり、あるいはぼんやりと英梨々が描くのを眺めていたからである。
去年の文化祭で出海ちゃんんの制作したデジタルイラスを発表した。それがかなり好評だった。作品に憧れて入部希望者がいたようだが、みんな美術部かイラスト部のものだと思ったらしい。何しろ存在の薄いPC部だ。認識されていないのもしょうがない。
そこで部活の名前を『デジタルアート部』にしたところ、入部希望者が増え、現在にいたる。
「やっぱり無理があったでしょうか・・・」
「いや、何事もチャレンジしないとな。それに締め切りが迫ってから本領を発揮するのがアーティストだ」
嘘です。俺の知っているもっとも身近なアーティストの英梨々が締め切りがないと何もしないポンコツなだけです。
ちなみに俺も、加藤の定める締め切りがないと何もできない。
「まずは簡略化してでも作品を完成されることが大事だ。コマ割りも、下書きもできているから、とりあえず塗ってしまおう」
「でも、みんなとの分業があって」
「工程表をみせてくれる?」
「はい・・・」
元々、新しくできた部で活動内容は手探りだった。夏休みのコミュケ出品は良い目標だと思ったが、考えてみれば制作期間は一学期しかない。
工程表を加藤が作ってくれたものの、戦力になるのは出海ちゃんぐらいで、後の4名はデジタルアート未経験者。しかも美術部やイラスト部に偏見をもった変わり者で、基礎的な画力は俺以下といったところだ。
出海ちゃん1人ならむしろ完成していたと思う。誰かの作業が止まると、他の作業にも遅れをもたらした。
しかも、肝心の出海ちゃんが教えることに労力を取られて制作活動をできなかったこともここにきて響いていた。むしろよくここまでがんばったものだ。
「やっぱり加藤先輩に手伝ってもらった方がいいでしょうか」
「それはない」
「ずいんぶときっぱり断言しますね?」
「出海ちゃんは加藤を誤解している。あいつは確かに優しい先輩に見えるだろう。真面目だし・・・戦力になるのは間違いない。しかしだな・・・」
「しかし・・・なんですか?」
「完璧主義者なんだよ。まず進捗の遅れを許さない。後輩にも厳しく指導するのは目にみえている。しかもだ、セリフ回しや表情など、小さなこだわりが大きく、リテイクは覚悟しないといけない。今から全部作り直す覚悟がないなら、加藤に頼るのは・・・危険だ」
「そんな人なんですか!?」
「ああ、悪いことはいわない。加藤には受験勉強に専念してもらおう」
そう、去年は複数人の美少女が登場するアドベンチャータイプのゲームを作った。ヒロイン4名+隠しキャラ1名。中学の時にも作った簡単な分岐フラグの予定だったが、加藤のこだわりにより個別攻略が簡単ではなくなった。
徹底したフラグ管理の攻略チャートは複雑化の一途をたどり、立てフラグと折れフラグがゲーム進行を左右する。
俺としては加藤の作ったチャート通りにプログラムを組むだけだったが、俺と加藤による徹底したデバックによってバグは発見されなかったものの、英梨々が1周間後にようやく一つを発見した。おそらくはまだあるだろう。
本来はもう少しキャラを掘り下げる方向に労力を注ぎたかったが、加藤にスクリプトやゲーム分岐を教えながら作った結果、そのようになってしまった。
この視聴覚室で一緒に過ごしながらも、出海ちゃんが加藤のことを良く知らないのは、出海ちゃんは絵を描くことに夢中で、俺がこっそりゲームを作っていることまで気が回らなかったことと、加藤が片隅で気配を消して作業をしていたからだろう。
加藤が本領を発揮するのは家に帰ってからで、俺とネットで意見交換しながら作業は明け方になるまで続くこともあった。
「なんか私の中では加藤先輩は優しい方なのですが・・・」
「加藤は優しいよ。ただ妥協がないだけだ」
「そうなんですか、ぜんぜんそんな風にみえなったですけど」
「ネコかぶっているからな・・・いや、悪口じゃないからねっ!?」
「誰に言い訳してるんですか?」
「・・・いや、気にしないでくれ。そういうわけだから・・・」
とはいえ、出海ちゃんの締め切りもなんとかしてあげないといけない。この場合の選択肢は一つだ。足を引っ張る新入部員を省く。しかしそれでは角が立ってしまうだろう。
「いいか。出海ちゃん。物事には優先順序がある。最優先すべきは締め切りだ」
「そりゃそうですよね」
「だから、まずは締め切りを伸ばそう」
「どうやってですか・・・」
「ふむ。伊織はそういう業者との交渉が得意だ。だから締め切りの延長は伊織に投げてしまえ。たぶん出版社の状況から1週間は伸びるはずだ。部数だってそんなにないし」
「そういうもんですか」
「経験上そうだ。次に残りは出海ちゃんが完成させる。ただ他の部員には参加している気分にさせることは大事だ。進捗状況を共有しつつ意見を貰う。その一方で意見を無視して作りこんでいこう」
「なんかひどいですね」
「いや、1年の後輩はどちらかといえば、出海ちゃんの作品に憧れて入部している。それで問題ないはずだ。残りの2年も熱量は高くないし、出海ちゃんの足を引っ張っている自覚もあるだろ?内心ではすごく重圧を感じている可能性もある」
「なるほど・・・」
「俺が調整役をするから、出海ちゃんは作品作りに集中してくれればいいよ」
「わかりましたっ!」
こうして俺はまた出海ちゃんから何やら尊敬のまなざしを受取りつつ、余計な仕事に首をつっこむのであった。
(了)
追記として。
このボツの世界戦では英梨々は倫也と同じ学校には通っていない。
のちに英梨々辺でも触れるし、中三の進路も中二病編の続きとして書こうか迷っている。
理由としては、小学生の時の喧嘩が解決し、仲のいい中学時代を倫也と英梨々が過ごしていた場合、英梨々は倫也を追いかけて進学校に進路をとる必要はなくなる。
美術系の高校に進路をとる方が自然だろう。
それでもこっそり加藤と出会ってゲームを作っているあたりが、こっそり示唆されている。
英梨々のために中一、中二はすでに書いたが、そのまま中三、高一、高ニなどを書いて英梨々を育てようと考えていた。