英梨々を甘やかして作る物語   作:きりぼー

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そういわけで、とりあえず順番にヒロインの第一を書いた詩羽編ですが、どうにもこうにも、最初からやる気が感じられない。

この辺で・・・あっ無理だボツにしようって早々と挫折した。


(ボツ4/5) 詩羽編

「詩羽先輩!?どうしたらこんな部屋になるんですか・・・」

「だってしょうがないじゃないの。私って仕事意外は無能なんですもの」

「自覚はあるんですね・・・」

 

 謙虚に言ってそうで、『仕事はできる』ということを隠さないあたりが実に彼女らしいプライドだと思う。

 

 霞ヶ丘詩羽。人気ラノベ作家だ。女子高生時代にデビューして4年目を迎えている。ヒット作品は『恋するメトロノーム』で、これは詩羽先輩が中学生時代にネット投稿していた作品の改定版のような内容になっている。

 

 黒上ロングのややグラマラスな体型、授業中は寝ているのに成績は常にトップ、寡黙なためにミステリアスな『學校一の美少女』として有名だったが、実は重度のコミュ障なだけだ。

 なぜ勉強できるのか謎なのだが、本人曰く「そういう設定なのよ」ということで、まったく謎のままだ。

 

 そんな彼女とは無名の素人小説家時代から知り合いで、商業デビューしたのをきっかけに英梨々と二人でサイン会に参加した時から交流が続いている。

 英梨々は無名時代から彼女のファンで無償で挿絵を投稿していた。今も2人の間では交流が続いているらしいが、俺はあまり関知していない。

 

 小説を書くこと意外は無能というのは間違っていない。

 

 現に大学生になってから1人暮らしを始めた詩羽先輩は・・・掃除がまったくできていない。炊事もする気がないらしい。

 そして、4月から4カ月たってみると、見事な『汚部屋』へと変貌していた。たぶん原因は彼女が掃除しないことや、ゴミを片づけないことではなくて、資料の名の元にうんざりするぐらいの本が積み重なっているせいである。

 

「と、いうわけでなのよ。倫理君」

「どういうわけかわかりませんが、要するに部屋を片づけて欲しいと?」

「結果的にそうなるのかもしれないけれど、私が望むのはリアルな『密室』なのよ」

 

 どこまで本当なのかはわからない。今書いている作品にサスペンス要素があるらしく、密室を再現したいらしい。

 

『ドアが閉まらない程に物が溢れて困っている』それが彼女からの依頼だった。

 

 俺には正直理解しがたい。

 

「そう邪険にするものじゃないわ。ちゃんと報酬は払うわよ。倫理君が望むなら金銭みたいなつまらないものじゃなくて、私の体でもいいけど?」

「遠慮しておきます」

 

 冗談だか本気だかわからないが、コミュ障の詩羽先輩の誘い方は直接的だ。これがこんな汚い部屋でなければ、もう少しドキドキできるのかもしれないが、今のところ無理だ。

 

 詩羽先輩は長い髪に白色のカチューシャをつけ、黒いワンピースをゆったりと着ている。美しさは昔と変わらないが少し妖艶になった気もする。これだけ美しければいくらでも彼氏ができそうなものだが、ほぼプレイベートの時間は引き篭もって小説を書いている以上は出会いもないに違いない。

 

 俺はゴミ袋を広げて、とりあえずゴミらしきものを分別しながら片付けていく。

本は重ねて脇にどけていく。印刷されたレポートは重要なのかゴミなのかわからないので、とりあえずはまとめる。

 脱ぎ捨ててある服は洗濯機に放り込み、ある程度まで溜まったら洗濯機を回しておく。散乱している下着が気になるが、これもとりあえずは洗濯籠に放りこんでおく。

 

「そういう下着ってかぶってみたくならないのかしら?」

「あいにくとそういう趣味はないんで」

「あら、つまらないわね。そういう変質者の行動を生で見る事で作品に厚みがでるのに」

「普通は恥ずかしがるものですよ?」

「あら、そうね・・・『キャー、はずかしいー』こうでいいかしら?」

「無理に棒読みしないでくださいよ・・・」

「それに倫理君。『普通は』って言うほど、人は床に落ちている下着を片付けることはないんじゃないかしら?」

「・・・そうですね」

 

 詩羽先輩は俺を茶化しつつ、くるくる回る椅子に座り長い足を組んでいる。スカートの丈は長いので見えることはないが、靴下を履いていない生足はなかなかエロい。足の爪が小さかった。

 

 ・・・こうして見ると、頼めば本当にヤらしてくれそうな先輩というのは困る。

 

 とはいえ、今日中にベッド上まで片づけられるとは思えない。この人がどこでどのように寝ていたのか不明ではあるが、ベッドの上でエッチできるような状況でないのは確かだ。ベッドがあるであろう場所はわかっても、そこには荷物が積み重なっているのだから。

 

「それで、倫理君は澤村さんとの関係は少しは進展したのかしら?」

 

 俺と英梨々の関係を問われても困る。昔からずっと仲のいい幼馴染だ。付き合っているわけでないから恋人ではない。

 

「進展もなにも、何もありませんよ」

「それってやっぱり、倫理君が頑なに童貞を守っているせいじゃないかしら?」

「あのですね・・・」

 

 いつからこんなに直球的に下ネタをぶちこんでくるようになったのか。だいたい、童貞を守っているつもりはない・・・チャンスがないだけだ。

 それは恋人のいない高校生なら普通のことだろう。

 

 詩羽先輩の戯言を聞き流しつつ、玄関から書斎までの通路をなんとか片づけた。

 

「洗濯物を干したいんで、あの洗濯ばさみがジャラジャラあるやつどこにありますか?」

「あらやだ、『ピンチハンガー』のことかしら?」

「名称はよくわかりませんけど、たぶんそれです」

「私はピンチハンガーの知識はあっても、ピンチハンガーが家のどこに隠させたのかまでは知らないのよ。倫理君ならわかるんじゃないかしら?」

「わかりません」

 

 聞いた俺がバカだった。だいたいはお風呂場付近にあるだろう。洗濯機の周りは衣類だらけだ。

 

 お風呂場を開けて、俺は後悔し、そっと扉を閉めた。そこの掃除は後回しだ。

 

 あとは棚の中に閉まってある可能性があるが、棚を開けるには床に溢れたものをどかさないと行けない。

 上の棚をあけると、そこにも本が無数に入っていて崩れ落ちてきた。

 

 もはや、ホラーだ。

 

「詩羽先輩・・・どうしてお風呂場に本があるんですか!?」

「そうね、私が推理するにお風呂場付近で本を読んだからじゃないかしら?」

「・・・記憶にないんですか」

 

 もしかしたらこの散らかし具合はわざとなのだろうか・・・とてもじゃないが生活が可能な空間に見えない。いやいや、それは邪推しすぎだろう。

 

 ピンチハンガーとやら見つからない以上、まもなく脱水の終わる洗濯物をどうするか考えないと行けない。ベランダには物干し竿があるものの・・・あっ、あった。

 

「詩羽先輩、ピンチハンガー見つけましたよ。ほら」

「あら、ほんとね」

 

 物干し竿にぶらぶらと風に揺れていた。窓から外をみると中々景色がいい。地上7階の部屋なのだから当然かもしれないが、一軒家の俺にはだいぶ高くみえた。

 

「あれ・・・ドアが開かない」

「そうよね」

「このマンションはドアが開かないんですか?」

「そんなことないわよ。開かないのはこの部屋だけね」

「どういうこと?」

「だから、最初に言ったじゃない。密室の体験がしたいって」

「はぁ?」

 

 何を言っているのかよくわからない。バカと天才は紙一重だという。この人がそうなのかもしれない。

 

「倫理君。もう出られないのよ」

「何がです・・・」

「この部屋はもう密室になったの。嘘だと思うなら試してみたらどうかしら?」

 

 俺は他の窓を開けようとしたがどれも開ける事はできなかった。そして玄関の扉も・・・開ける事はできなかった。

 

「詩羽先輩、何やってるんですか・・・」

「だから密室に興味があって、密室をつくってみたのよ。その扉も逆オートロックにしてもらったわ」

「意味わからんなっ!」

「いいじゃない。こうして無事に2人になれたのだから、ゆっくり楽しみましょうよ」

「ぜんぜん無事じゃないですよね!?」

 

 慌てる俺の後ろから、詩羽先輩が抱き着いてきた。

 

「あの・・・胸が当たってます・・・」

「当てているのよ、当然じゃない」

 

 むぎゅーと押し付けてくるバストの弾力が背中でもわかる。

 

「いったい何をしようとしているんですか?」

「ナニをしようとしているのよ」

「下ネタ!?」

「ふふふっ、童貞を捨てるまでは出られないわよ」

「どんな仕組みですか・・・」

 

 詩羽先輩は何か香水をつけているらしく、甘い香りがする。それで俺はようやく気が付いた。この汚部屋にはゴミが多いが一切生ごみがなかったこと。そしてつんざくような腐敗臭などはせず、埃もそんなにひどくなかったことを・・・

 

「もしかして、この汚部屋はわざと作りました?」

「半分ぐらいはそうね」

「半分は自己責任なんですね・・・」

「さて、倫理君。諦めて私で筆おろしをしちゃいなさいよ。小説家の私は筆の扱いもうまいわよ?」

「微妙な下ネタやめてください」

 

 やれやれ、歪んだ性癖なのだろうか。もういっその事、詩羽先輩で童貞を卒業するのも悪くないかもしれない。こんな綺麗な先輩なら文句もない。が、もちろんあいつが泣くようなことはしたくない。

 

「ところで、俺が童貞を卒業するとどうして扉が開くんですか?」

「それは・・・」

「どこかにリモコンでもあるんですかね?」

「ないわよ・・・」

 

 詩羽先輩の目が泳いでいる。およそ天才の考えることはよくわからないが、こと実戦レベルのものになれば、凡人とはそうかわらない。

 

 オートロックのマンションはカードキーで開く。カードがなくても登録したアプリを照合すれば扉は開くケースが多い。今は鍵を持ち歩いたりせず、ケータイがその機能を果たす時代だ。

 

 逆に言えば、部屋の内部にいてデジタルロックを掛けることもできる。詩羽先輩の作った密室のからくりはその程度だろうと推測する。

 

「とりあえず先輩・・・離れましょうか」

「いやよ」

 

 ふむ。さっきから引っ付いているが、エロいというよりは何かネタみたいな印象も受ける。ちょっとした愉快な妖怪?

 

 俺は詩羽先輩の使っていたノートPCをいじり始める。いっそ書いている途中の小説を盾にすれば開けてくれそうだが、じゃあ俺が小説を消してしまえるかといえば、できないことぐらい見抜かれる。下手な駆け引きをすれば詩羽先輩もムキになってくるかもしれない。

ここはさらりと冗談で終わらせたい。

 

 マンション内のセキュリティーアプリを発見する。立ち上げると案の定、内側からデジタルロックを掛けていた。問題は解除方法だ。所有者のセキュリティーコードの入力が不可欠だった。

 

「詩羽先輩、パスワード教えてください」

「忘れたわ」

「思い出してください」

「あーなんだったかしらねー 棒読み~」

「・・・パスワード教えてくれないと、この小説を削除しますよ?」

「いいわよ。そしたらそこの窓から飛び降りるから」

「リアルな脅迫やめてください・・・」

「そうだ、思い出したよ。確か、倫理君とえっちすると思い出せるのよ」

「なんですか、その取ってつけたような設定は。もうちょいマシな嘘をついてください」

「そうね。なら口付けでいいわよ?今後の小説の参考になるし」

「キスですか?」

「ええ」

「それ、強制わいせつ罪の対象ですよ?セクハラですよ?」

 

 やれやれ・・・詩羽先輩のコミュ障もいよいよ重篤化しているようだ。まともな恋愛をしよとすら思っていないのかもしれない。

 

「倫理君って・・・意外と根に持つタイプよね」

「何がですか?」

 

 詩羽先輩はため息をひとつついて、パスワードを入力した。

 

 

 そりゃ、ファーストキスが不本意なものなら、転生したって忘れないに違いない。

 

 

(了)




そういうわけで、とりあえず4人終わって、英梨々編を書いてから終えようとおもったので、次までは書いてみた。
来週投稿予定。

各ヒロインの個性は書き分けられていないかもしれないが、成長具合はわかると思う。

そう、他を圧倒するヒロイン性が育っているなら、コンセプト的には正しいことになるはずだ。
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