夏の暑さも一段落。
「ちっ・・・」という舌打ちをする加藤はノートPCに向かってポーカーをしながらイライラしている・・・
「今日はずっと何やってんだ?」
「ネットギャンブル」
「はい!?」
「なんか無駄に10億中東マネーもあるとろくなことしないから、使い切っちゃおうと思って」
「で、ネットギャンブルと・・・?」
「そう。でもね・・・安芸くん・・・ほら」
俺が画面を覗きこむと恐ろしい桁数のチップがある。そしてその数字は12億中東マネーを示してた。
「おっ?増えてるな?」
「うん・・・なんかぜんぜん減らないんだけど」
「すげぇ才能だな・・・もう一生分稼いだじゃん」
「こういう泡銭は人生をダメにするからなくしたいんだけど」
「なら、全額寄付すればいいだろ」
「ああ、その手があったね」
加藤がクリックして某国際基金のHPにアクセスしている。それから英文を自動翻訳しつつ、惜しげもなく全額一括でどどんと寄付した。
「あのなぁ・・・」
「ふぅ・・・すっきりした」
「・・・」
やれやれ、今年の夏にリリースしたゲームは大いにコケた。クソゲアワードにノミネートすらせず忘れ去られている。大量の赤字こそ泡銭で補填したものの、我がブレッシングソフトは預金残高0円。振りだしに戻っている。
「資金はあった方がいいだろ・・・」
「そういう甘えが良い作品から遠ざかっていくんじゃないかな」
「次は冬マーケットか・・・でも、何かアイデアあるのか?」
「ううん。倒産でいいよ」
モチベーションもだいぶ下がっているらしい。それはまぁ仕方なかろう。俺も一緒に溜息をついていると、トントントンと軽快な足音で階段を昇ってくる音がする。
この足音は英梨々だ。
バタンッ
勢いよくドアが開いた。派手に登場しないといけない病気にでもかかっているのだろうか?
今日の英梨々は金髪ツインテールに白いリボン。フリルのついた白いワンピースでいつもよりだいぶフェミニンよりのデザインだ。夏らしい爽やかさと品の良さが両立している。
「倫也、いい物件みつかったわよ」
「ほう?」
「モルディブの島でね、昔はリゾートホテルがあったらしいのだけど、今は売却に出てて、海岸整備もされているし・・・」
「いくらだ?」
「5億円!お買い得でしょ」
「そうだな・・・さっきまでなら」
「これで式の会場は確保できたわね」
「英梨々。すまんが言わなければならないことがある」
「何よ?あんたまさか5億円ケチろうとしてないわよね?」
「なくなった」
「何が?」
「10億中東マネー」
「はぁ?あんたバカなの?何言ってるの?」
「すまんが連日のネットギャンブルに興じてしまってな・・・倍にするつもりだっただが」
「冗談よね」
「冗談だ」
「もう、ほんとやめてよ。ホテルの改装費の見積もりと、日本からチャーター便の見積もりも出しておいたから」
「用意がいいな」
「大変なのはこれからでしょ」
・・・英梨々は結婚式をあげるつもりのようだ。
別の話なんだけどな。おかしいな。
「あのね、英梨々。ちょっと大事な話しがあるんだけど」
「あら、恵もいたのね」
「うん。ずっと安芸くんの隣に座ってるよね」
「そう、今のうちに座っておきなさいよ」
「ちょっと2人ともここでケンカしないでね!?」
「誰のせいかな?」
「誰のせいよ」
「あっ・・・穏便にどうぞ」
「世界中にはたくさんの不幸な子供がいるの。餓死しそうな子、疫病の予防接種が打てない子、勉強がさせてもらえない子・・・」
「そんなの当たり前じゃない。何もないところでポカスカ子供産めばそうなるわよ。何よ恵、貧困ビジネスにでも目覚めたのかしら?」
「・・・そうじゃないけど。そう思って寄付しておいたから」
「そう。裕福な国に生れた人間はそうやって憐れみを与えて満足得る特権があるわよね。あたしは寄付を募る団体なんて信用しないけど」
「・・・」
「興味があるならスペンサー家でも活動しているから紹介するわよ?」
「ううん。もう気が済んだからいい」
「そう。でね、倫也。次にやっぱり料理にはこだわりたいと思って・・・」
「ちょっと待て英梨々。加藤の話は最期まで聞いてやってくれ」
「何よ?恵はまだ話があるわけ?」
ああ、胃が痛い。俺はこっそりドアを空けて部屋を出ようとした。
「安芸くん。ちょっとそこ正座してくれる」
「あっ、はい・・・」
「だからね。英梨々。もうないから」
「何が?」
「10億中東マネー。寄付しておいたから」
「・・・そう」
英梨々がツンと立ったま恵を見下ろしている。
ゴゴゴゴゴゴッ
石のオノマトペが英梨々の後ろでエフェクトされている。このデザイン洗練されているな。
「そうって、あんまり驚いてねぇな!?」
「で、恵の話はそれでおしまいかしら?」
「・・・うん。まぁ一応」
「じゃ倫也、続きなんだけど、ホテルに行ってみないとわからないけど、食器なんかがそのまま残っていれば流用してもいいと思っているのよね。でもイメージに合わないならヘレンドに発注するか、手作りで作ろうと思っているんだけど」
「ちょっとまて英梨々。予算はどこにある?」
「倫也のアメリカの口座にあるわよね?」
「ああー!」
「何よ大声だして、驚くでしょーが」
「えっ、安芸くん。聞いてないんだけど?」
「言ってないからな・・・」
「秘密はよくないんじゃないかなー。そうー?経済は全部任せるからブレッシングソフトで働いてくれって、わたしの人生に大きく関与しながら嘘ついたんだ?」
「いや、嘘というか・・・ちょっと報告がごにょにょ・・・」
「安芸くん」
「はい」
「アカウントとパスワード」
「いや、あの・・・」
「アカウントとパスワード」
「ちょっと恵。その口座もなくなったら結婚式なくなるでしょ」
「うん?英梨々。結婚は中止っていわなかったけ?」
「言ってないし聞いてないし、あたしは認めないから」
バチバチバチッ
2人の目線の間でスパークしている。2人ともずいぶん器用になったもんだな。
「ね?安芸くん」
「え?俺?」
「どういうことよ?倫也?」
「あのいや・・・」
加藤がノートPCにアカウントとパスワードを入力している。ああ、俺の隠し財産が・・・
「倫也、止めないのかしら?」
「ちょっと加藤・・・ストップスト~プ」
「そんな蚊の鳴くような声で止まるわけないじゃない」
加藤が容赦なく20億ドルを某自然保護活動サイトに寄付をした。
地球にほんの少しだけ優しくなれたのだろうか・・・?
「そう・・・そうなのね倫也・・・」
英梨々が部屋から出て行こうとした。俺は正座した足が痺れて立ち上がろうとして転んだ。
「英梨々。ちょっとまってくれるかな?かな?」
「何よ?あたしの結婚を祝えない友人だなんて思わなかったわ」
「別にそんなつもりはこれっぽっちもないのだけど。そんなことよりも・・・」
ドーーーン!!
加藤がゆびを大きく英梨々に突き出した。
英梨々はぐるぐると回って空間の中に消えてしまった。
「加藤!?」
「安芸くん・・・失敗は失敗として認めて、次に進もうか」
「何が!?」
ドーーーーン!!
そして俺もどこかの世界へとまた吹き飛ばされた。薄れゆく意識の中で加藤が囁く。
『総ボツだよ』・・・と。
それは少し甲高くて耳に心地いい声だった。
(了)
というわけで、甘やかしすぎたので、次回からは新スレになります。