英梨々を甘やかして作る物語   作:きりぼー

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日曜のひとときいかがお過ごしでしょうか。

暗い話を明るくする英梨々の物語です。


英梨にゃん

 3月になり、ぽかぽかと暖かい。日光浴をしながら座布団の上で丸くなっている猫は、「こんなに天気がいいのに、ご主人様はどうしてそんなきつそうなものを首に巻いてでかけるのですか?」と言いたげに眺めていた。それでもボクはややこしいこの世界に生まれ落ち、そのルールに従い家を出なければならない。猫はやれやれと言った感じで座布団から降りてきて、ボクの足元に頬をこすりつけてくる。ボクはコーヒーを胃に流し込み、玄関で靴を履く。猫は心配そうに階段の踊り場まで見送りにきていた。何年前の話だろう?

 

 心が辛い。たぶん生きていることに不向きなのだと思う。

 

※※※

 

 倫也は目が覚めると、自分の部屋のベッドの上にいた。制服を着たままだから、学校から帰ってきてそのまま横になり寝てしまったのだろう。窓の外が暗くなっていたので、ぼんやりとした顔がガラスに映っていた。テーブルのスタンドが点灯していて、英梨々が静かに本を読んでいた。

 

「・・・英梨々」

「あら、倫也。起きたのね」

「ごめん。寝てたみたい」

「疲れていたのね。もう平気?」

 

倫也はこめかみのあたりを指で抑える。片頭痛がしていたような気がする。英梨々は制服を着ていて、白いハイニーソを履いた足をペタンと広げて座っている。そして少し心配そうに倫也を見ていた。

 

「夢を見ていた気がする」

「どんな?」

「・・・ネコ」

「ネコ?」

「うん。ネコが気持ち良さそうに昼寝をしていて・・・でも、俺のことを心配そうに見ているんだ。今の英梨々みたいに・・・」

「倫也。・・・泣いてる」

「えっ?」

 

 倫也が自分の顔をぬぐった。目から涙が流れていた。自分の感情がよくわからない。ベッドの上にあぐらをかいたまま倫也は途方に暮れている。英梨々は読んでいるラノベをそっと閉じて立ち上がった。今日の話はボツになりそうだなって思いながらも小説の中で英梨々は今を生きる。

 

「こんなことは・・・あたしの役割じゃないし、恵がすべきなんだろうけど」

 

 英梨々がベッドの上に座って、倫也を抱きしめた。その控えめな胸に倫也のおでこが当たる。倫也は英梨々のクラクラとするような甘い匂いで包まれた。倫也は英梨々の胸で静かに震えている。

 

「混濁しているのね。でも、それが倫也の役目ならあたしはそんな倫也を慰めることしかできない」

 

 英梨々は泣いている倫也の頭をなでつけた。倫也の髪質が子供の時よりもだいぶ硬くなっている。昔はもっとほわほわしていた。男になったんだなぁっと妙な感想を英梨々はいだいた。

 そのまま倫也が落ち着くまで待つ。

 

「ありがと・・・英梨々。もう平気」

「落ち着いた?」

「ああ」

 

 倫也は英梨々から離れた。それから向かいあって座る。まだ心配そうに見ている蒼い瞳に吸い込まれそうだった。倫也は右手を伸ばしてツインテールに触れる。金属のような金色の光沢があるのに、英梨々の髪はとても柔らかく滑らかだった。優しい英梨々に相応しい髪だと思う。

 

「ついでにキスしとくかしら?」

「なんだそれ!?」

「だってぇ・・・」

 

 英梨々が八重歯を見せて、ニカッと笑い、「あんまりメランコリックなスタートだし、どうしていいかわからないわよ」と言った。

 

「顔、洗ってくる」

「あっ、ついでにコーラでもいれてきてよ」

「あいよ」

 

 倫也がベッドから降りて部屋から出ていった。英梨々が倫也の後ろ姿を見送って大きく息を吐きだした。小説の中の世界は自由でいいはずだ。いや、そうじゃない。英梨々は自分達の世界を現実から守るべきだと考えた。どうすればいいんだろう?

 

 そういえば以前の話で、恵が鞄から『どこでもドア』を取り出していた気がする。恵にできてあたしにできないわけがないと英梨々は鞄の中をのぞき込む。文房具とスケッチブックと飴ちゃんと、飴ちゃんを食べたあとの包装のゴミがいくつか入っていた。

 

「・・・まぁそうよね」

 

 仕方がないので、ケータイを使って恵に電話をする。トゥルルル・・・トゥルルル・・・三回目のコールの後に恵が電話に出た。

 

「英梨々?どうしたの」

「恵、ちょっと今いいかしら」

「うん?」

「ネコ耳カチューシャが欲しいんだけど」

「はい?」

「えっ、だからネコ耳カチューシャよ。知らない?」

「ごめん英梨々。何言ってるかわからない」

「あのね、倫也が夢を見てたのよ。ネコの夢らしんだけど」

「うん。ますますわからないけど、で?」

「だから、ネコ耳カチューシャが必要でしょ?」

「えっとね・・・英梨々?何言っているかよくわらないけど、猫耳カチューシャっていいことはわかった」

「ちがうわよ!倫也がネコの夢を見て泣いたのよ」

「うん。それで?」

「だから・・・ネコ耳」

「それはいいから、その間の思考がつながらないのだけど」

「そうかしら?で、あるの?」

「うーん。どんなネコ耳?」

「そんなのあたしが知るわけないじゃないの」

「・・・えっと、倫也くんは猫を昔飼っていたことがあるのかな」

「ないと思うけど」

「じゃあ、あまり立ち入らない方がいいんじゃないかなぁ・・・」

「なんで、そんな意味深なのよ」

「・・・とにかく猫耳が必要なのね?」

「うん」

「そしたら、クローゼットの中にあるから」

「そんなのあったっけ?」

「クローゼットの壁に御札が貼ってあるでしょ?それを一枚剥がせば大丈夫」

「はい!?言っている意味がわからないんだけど」

「英梨々ほどじゃないと思うけどなぁ。それに、ああいう伏線はあまり立てたままにしない方がいいんじゃないかな」

「・・・気味が悪いわね」

「英梨々ならきっと平気・・・だよ」

「・・・」

 

 恵が電話を切った。英梨々はケータイをテーブルの上に置いて、白い扉のクローゼットを眺める。先日、中に閉じ込められる悪戯を倫也にされた。しかし、恵が御札のことを言及した以上は何か仕掛けがあるのかもしれない。演出担当の考えていることは英梨々にはよくわからなかった。なんというか、英梨々は恵ほど物事にこだわりがない。

 

 英梨々はクローゼットの扉を開ける。物がきちんと整理されていて、取り出さなくても中には入れそうだった。そのまま箱を乗り越え、ハンガーにかかっている服の下を通って奥へと体を滑り込ませる。

 

バタンッ!

 

 音がして、扉が後ろでしまった。

 

「ちょっと倫也!」

返事がない。

「やめてよ・・・」

さっきまで倫也は部屋にいなかった。上ってきたら音でわかるはずだ。なんで扉がしまったかわからない。英梨々は中で向きをかえようとしたが、狭くて無理だった。後ろ脚で扉を蹴るがびくともしないどころか、蹴った音がしなかった。

 

 仕方がないので奥の隙間に入り込む。確かこの辺に御札があったはずだと、壁を手探りで触ると、紙にふれた感触があった。これがたぶん御札だ。こんなわけのわからない状況で正しい行動なんてできるわけがない。恵に指示された通り、御札を一枚剥がした。

 

ボフッ!という音と妙に煙たい感じがした。

 

「いったい何の音にゃ!?」

英梨々は狭いスペースで向きを変えて、扉の方へと向かった。

「ともにゃ~」

「ん?英梨々、どこにいるんだ?」

「クローゼットのにゃか」

「なんで!?」

「いいから開けにゃさいよ!」

「別に閉めてねぇよ・・・」

 

 倫也がクローゼットのドアを開けた。中から這って英梨々が出てくる。

 

「英梨々なんだその恰好!?」

「えっ、にゃにが?」

 

英梨々が手を見ると、大きな猫の手をしている。白猫の手で肉球がピンク色で大きい。右手も左手も猫の手になっていた。もしや・・・と思って、頭を触ると猫耳がついている。カチューシャでないのは、触った時のくすぐったい感触が伝わったことでもわかる。これは自分の猫耳だった。

 

「・・・ともにゃー」

「・・・ぷっ」

 

 英梨々が立ち上がって、窓に移った自分を見ると白猫のコスプレだった。胴体部分はもふもふとした白い毛のワンピースになっていて、白ニーソはそのままだった。

 

「にゃんにゃのよ!」

「俺に言われてもわかんねーよ。はははっ」

「もう・・・」

「でもまぁ、カワイイよ」

「そ・・・そうかにゃ」

 

英梨々が顔の前で猫の手を合わせてポーズを適当にとる。とりあえず倫也が笑ったし、結果オーライ。よくわからない小説なのは始まった時からだった。今更文句をいってもしょうがない。

 

「で、なんでそんなんなってんだ?」倫也が笑いを抑えられない。

「えっと、ともにゃが猫の夢をみて・・・にゃいていたから・・・」

「いや、意味がわからん」

「もういいでしょ。ほっときにゃさいよ!」

 

英梨々が猫の手で倫也を叩くと、ポニュン~♪と変な効果音が鳴る。

 

「・・・」

「ぷはははっ」

「にゃにこれ・・・」

 

ポニュン~♪

ポニュン~♪

 

英梨々が確かめるように肉球を押して音を鳴らす。

 

「あたし・・・恵のことがよくわからにゃいわ」

「はははっ、妙なところに細かくこだわるのが加藤だからな」

「・・・とりあえず、明るく終わったから、これでいいにゃ?」

「せっかくだし、英梨々も笑っとけ」

 

 英梨々が笑顔を作ると、八重歯というよりは犬歯だったし、なによりも上唇が猫の様に『ω』になっていたので、倫也はさらに笑っていた。

 

(*’ω’*)

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